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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服200624601 審決 特許
不服200625545 審決 特許
不服200611061 審決 特許
不服200721854 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1166572
審判番号 不服2005-1624  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-31 
確定日 2007-10-24 
事件の表示 平成 8年特許願第 43625号「鏡像異性体ヒドロキシル化キサンチン化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月 8日出願公開、特開平 8-259565〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯、本願発明
本願は、平成5年3月1日(パリ条約による優先権主張 1992年3月4日、米国)に出願した特願平5-516036号の一部を平成8年2月29日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成12年2月29日付け、平成13年8月6日付け、平成15年8月5日付けの手続補正で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 患者への経口投与、非経口投与、ex vivo投与又は局所投与用に処方された、以下の一般式
【化1】

[式中、
R1はω-1第二アルコールで置換されたアルキル(C5-8)の実質的に他の鏡像異性体を含まない分離されたR鏡像異性体であり;そして
R2およびR3は独立に、所望により炭素原子の代わりに1つ、又は隣接しない2つの酸素原子を含んでいてもよい、アルキル(C1-12)である]
で示される置換キサンチン化合物、および薬剤学的に受容される助剤とを含む薬剤組成物であって、敗血症症状を治療または予防するための組成物。」

II.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本願優先権主張日前の刊行物である、INFECTION AND IMMUNITY,1988年,Vol.56,No.7,第1722?1729頁(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の技術事項(英文であるため訳文を示す)が記載されている。なお、下線は当審で加筆した。

(1-i)「インターロイキン-1や腫瘍壊死因子などの炎症性サイトカインは単球およびマクロファージが微生物や内毒素などの微生物生産物に反応することによって産生される。サイトカインは好中球の付着、脱顆粒、スーパーオキシド産生を促進するが、好中球遊走は阻害する。我々はペントキシフィリンとその主要代謝物によるサイトカイン誘導好中球活性の調節を調査した。炎症性サイトカイン、精製ヒトインターロイキン-1または組み替えヒト腫瘍壊死因子を含むリポ多糖(LPS)刺激単核白血球培地は、ナイロン線維に対する好中球付着を増加し、好中球に対してN-formyl-L-methionyl-L-leucy1-L-phenyla1anine(FMLP)に反応してスーパーオキシド産生を増加させ、FMLPに刺激された好中球リゾチーム放出を増加し、FMLPに対する好中球の有向遊走を減らした。治療上達成できるレベルまたはそれに近いレベルのペントキシフィリンとその主要代謝産物はこれらを打ち消すことができた。ペントキシフィリンはFMLPに刺激された多形核白血球内における自由細胞内カルシウムの増加を阻害し、37℃でFMLPと好中球の結合を増加したが、4℃では増加しなかった。インターロイキン-1および腫瘍壊死因子が好中球に与える炎症作用をブロックすることによって、ペントキシフィリンは、敗血症性ショック、成人呼吸窮迫症候群、心肺バイパス肺損傷、心筋再かん流傷害などのような状況における好中球による組織損傷を緩和するだろう。」(第1722頁のアブストラクトの項参照)、
(1-ii)「サイトカインが多形核白血球(PMN)に与える影響を阻止することは敗血症性ショック、成人呼吸窮迫症候群などの多数の炎症性疾患にとって有益である。」(第1722頁左欄25?28行参照)、
(1-iii)「材料
ペントキシフィリン、代謝産物I[1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン]、代謝産物IV[1-(4-カルボキシブチル)-3,7-ジメチルキサンチン]および代謝産物V[1-(3-カルボキシプロピル)-3,7-ジメチルキサンチン]は、Hoechst-Rousse1 Pharmaceuticals,Inc.,Somerville,N.Jから調達した。」(第1722頁右欄4?8行参照)、
(1-iv)「ペントキシフィリンとその代謝産物は、治療で得られるレベルまたはその近辺(S.K.Puri,H.B.Lassman,I.Ho,and R. Sabo, C1in.Pharmacol.Ther.41:204,1987)で単核白血球産生炎症性サイトカインが変化させたPMN付着、スーパーオキシド産生、脱顆粒、移動を調節する。事前活性化していないPMNの機能にはほとんど効果はない。活性化PMNは広範囲の炎症性疾患のメディエーターなので、ペントキシフィリンを評価して、敗血症性ショックや成人呼吸窮迫症候群などの臨床状況での炎症損傷をペントキシフィリンが防止できるか決定すべきである。」(第1728頁右欄24?34行参照)。

III.対比、判断
引用例1には、上記摘示の記載からみて、そしてペントキシフィリンの主要代謝産物である代謝産物Iが「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」(摘示(1-iii)参照)であることに鑑み、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン化合物を用いた治療薬。」

そこで、本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」は、本願発明の【化1】の置換キサンチン化合物において、基R1が「5-ヒドロキシヘキシル」(ω-1第二アルコールで置換されたアルキル(C5-8)のC6に相当)であり、基R2が-CH3であり、基R3が-CH3であるものに相当する。

してみると、両発明は、「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチンで示される置換キサンチン化合物を含む薬剤組成物。」で一致する。
他方、本願発明が次の(A)?(C)の点を必須構成としているのに対し、引用例1発明ではこのように規定していないことで相違する。
(A)「患者への経口投与、非経口投与、ex vivo投与又は局所投与用に処方された、」及び「薬剤学的に受容される助剤とを含む」
(B)「敗血症症状を治療または予防するため」
(C)「実質的に他の鏡像異性体を含まない分離されたR鏡像異性体であり」

そこで、これらの相違点について検討する。
(A)の点について
薬剤の患者への投与の形態として、経口投与、非経口投与、ex vivo投与又は局所投与用に処方すること、及び、薬剤学的に受容される助剤とを含むことは、通常の使用形態であり適宜といえる。

(B)と(C)の点について
引用例1には、「ペントキシフィリンは、敗血症性ショック、・・・などのような状況における好中球による組織損傷を緩和するだろう。」(摘示(1-i)参照)、「サイトカインが多形核白血球(PMN)に与える影響を阻止することは敗血症性ショック、・・・の炎症性疾患にとって有益である。」(摘示(1-ii)参照)、「ペントキシフィリンとその代謝産物は、治療で得られるレベルまたはその近辺・・・で単核白血球産生炎症性サイトカインが変化させたPMN付着、スーパーオキシド産生、脱顆粒、移動を調節する。・・・PMNは広範囲の炎症性疾患のメディエーターなので、ペントキシフィリンを評価して、敗血症性ショック・・などの臨床状況での炎症損傷をペントキシフィリンが防止できるか決定すべきである。」(摘示(1-iv)参照)と記載されており、ここで、ペントキシフィリンが主要代謝産物を含めて言及していることは、この論文がペントオキシフィリンとその主要代謝産物についての研究であることを勘案すれば明らかである。
してみると、ペントキシフィリンの主要代謝産物である「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」(摘示(1-iii)参照)について、治療対象として、「敗血症性ショック」などの状況での組織損傷の緩和が期待されているのであるから、「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」を「敗血症症状を治療または予防するため」に用いることは、当業者であれば容易に想い到る程度のことであって、その作用の程度を確認することに格別の創意工夫が必要とは認められない。
次に、「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」に関し、引用例1には鏡像異性体について言及されていないけれども、「5-ヒドロキシヘキシル」の水酸基(-OH)が結合する炭素原子が、不斉炭素であることはその構造式から明白であるから、R体などの鏡像異性体の存在は明らかといえる。
ところで、ある化合物のラセミ体が薬理作用効果を示す場合、それを構成する光学異性体間で薬理作用が異なること、更に薬理作用効果が主として光学異性体の一方に起因している場合があること、他方に好ましくない作用を示す場合があることは周知である(例えば、社団法人日本化学会編「季刊 化学総説 No.6 光学異性体の分離」、1989年10月10日初版、学会出版センター発行、第2?3頁、第16?29頁、第212?225頁や、「ファルマシア」Vol.5,No.4(1989),第333?336頁、「月刊薬事」Vol.29,No.10(1987),第23?26頁など参照)から、ラセミ体であることが明らかである医薬有効成分について、より薬理作用の優れた方の光学異性体を医薬として採用することは、容易に想到し得ることといえる。
してみると、不斉炭素原子を本質的に1つ有し、一対の鏡像異性体が存在することが明らかである「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」について、RまたはS鏡像異性体のいずれか薬理作用の強い方を選択し、実質的に他の鏡像異性体を含まない分離されたその鏡像異性体を含有する敗血症ショックの治療剤とすることは、当業者が容易に為し得る程度のことというべきであり、その際に格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

よって、本願発明は、引用例1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

IV.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-23 
結審通知日 2007-05-29 
審決日 2007-06-11 
出願番号 特願平8-43625
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中木 亜希  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 弘實 謙二
塚中 哲雄
発明の名称 鏡像異性体ヒドロキシル化キサンチン化合物  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 西山 雅也  
代理人 古賀 哲次  

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