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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P
管理番号 1166636
審判番号 不服2001-14343  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-13 
確定日 2007-10-23 
事件の表示 平成4年特許願第222336号「XIII因子の精製法、XIIIA因子に対するモノクローナル抗体、その製造及び使用」拒絶査定不服審判事件〔平成5年10月19日出願公開、特開平5-268990〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本件発明

本件出願は、平成4年8月21日(パリ条約による優先権主張1991年8月22日、ドイツ国)の特許出願であって、その請求項1乃至2に係る発明は、平成15年12月3日受付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項1】イムノアフィニティクロマトグラフィーによる凝固XIII又はXIIIA因子の精製法であって、支持材料(アフィニティ材料)に結合されているXIIIAに対するIgGクラスのモノクローナル抗体とXIII又はXIIIA因子を含有する溶液を接触させ、アフィニティ材料と液体とを互に分離し、そしてアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩0.5?3モル/リットルおよびpH5.5?8.5の溶離条件下にてアフィニティ材料から生物活性形態でXIII又はXIIIA因子を溶離することを特徴とする方法。」

2.引用刊行物記載事項

これに対して、当審における平成18年9月12日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である(1)ケミカルエンジニアリング 第33巻第6号451-455頁(1988年)(以下、「引用例1」という。)には、モノクローナル抗体を用いたアフィニティクロマトグラフによる組換体酵素の精製について記載され、(a)「汎用性をもたせるために、親和定数の低いモノクローナル抗体を選択したり、ポリクローナル抗体において温和なpHでも溶出してくるような抗体画分を選択する方法などが検討されている。」(455頁右欄3?7行)ことが記載され、同じく、(2)The Journal of Biological Chemistry Vol.265,No.29 pp.17738-17745(1990)(以下、「引用例2」という。)には、(b)「牛血清から触媒的に活性なGPI-PLDを精製するために親和性の低いモノクローナル抗体を選択した・・・」(17738頁左欄12?17行)と、(c)「弱い親和性抗体を使用したとき、結合したGPI-PLDを約60%の回収率で、3MのMgCl2で溶出することができた・・・強い親和力のある抗体を使用したときには、3MのMgCl2ではGPI-PLDはほとんど溶出されない。0.1Mグリシン緩衝液(pH2.8)で残りの結合している蛋白質の大部分は溶出されるが、酵素活性は失われていた・・・」(17739頁左欄下から2行目?右欄8行)と、(d)「緩衝液C:・・・、pH7.5、・・・」(17743頁サプリメンタリーマテリアルズ項の左欄11行)と、(e)「・・・モノクローナル抗体216.1をセファロース・・・にカップリングさせ、・・・GPI-PLDを3MのMgCl2を含む緩衝液Cで溶出・・・」(17743頁サプリメンタリーマテリアルズ項の右欄4?9行)と記載され、同じく、(3)Fed Proc Vol.44 pp.1070 (1985)の3857欄(以下、「引用例3」という。)には、(f)「活性部位を含むAサブユニットが血小板、胎盤と前立腺に存在している。」(9行?10行)こと、(g)「モノクローナル抗体を産生するためにBサブユニットを精製し、・・・、5つのモノクローナルセルラインを取得した。」(19?25行)こと、(h)「モノクローナル抗体を使用するイムノアフィニテイカラムをヒト血清からXIII因子を精製するために適用した。」(25行目から27行目)ことが記載され、同じく、(4)日本消化器病学会雑誌 第88巻 臨時増刊号(1991年2月)192頁208欄(以下、「引用例4」という。)には、(i)「・・・F13に関する検討は、これまでF13に対する単クローン抗体(mAb)がないため、市販の抗血清を用いて測定がなされてきた。・・・マウス抗ヒト抗F13抗体を作製した。得られたmAb5cloneのisotypeはIgG1で、このうち2C3抗体はヒト血漿およびF13濃縮製剤のwestern blot法にて分子量約80Kの蛋白を認識した。また中和抗体法によるF13活性を抑制した。この結果からわれわれが得たものは初めての抗F13mAbであるといえる。・・・」(9?19行)と記載され、同じく、(5)Thrombosis and Haemostasis Vol. 54 (1985) pp.274 の01627欄(以下、「引用例5」という。)には、(j)「・・・A蛋白質で6回の免疫化によりIgMモノクローナル抗体のみが得られた。・・・」(13?14行)と記載され、同じく、(6)Proceeding National Academy of Science USA vol.83 pp.8024-8028 (1986)(以下、「引用例6」という。)には、(k)「血液血小板と巨核球由来のFXIII分子と胎盤組織由来のそれとはいくつかのクライテリアから区別することができなかった。そして、それらは、モノマーで分子量約80000であるaサブユニット2つからなるそれぞれの2量体である(a2)。一方血漿中のFXIIIは・・・4量体(a2b2)である。それは2つの触媒活性を示すaサブユニットと、2つの触媒活性のないbサブユニットを含んでおり・・・」(8024頁左欄下から26?18行)と記載されている。

3.対比・判断

本件発明1は、支持材料に結合したIgGクラスの抗凝固XIIIAモノクローナル抗体を用い、そしてアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩0.5?3モル/リットルおよびpH5.5?8.5の溶離条件下にて固相から所望の凝固XIIIまたはXIIIA因子を溶出することにより、変性・失活することなく、生理活性を有する凝固XIII又はXIIIA因子を精製し得るものである。
これに対して、そもそも、目的とする生理活性蛋白質に対して適当な親和力を示すモノクローナル抗体を選択して、生理活性蛋白質を結合せしめ、その後温和な条件下で溶出させ、生理活性蛋白質を精製する所謂アフィニテイクロマトクロマトグラフィー自体は、本件優先日前に当業者において周知の技術であった(上記記載事項(a))。
そして、血液成分蛋白質についても、引用例2には、牛血清から活性なGPI-PLDを精製するために親和性の低いモノクローナル抗体を選択し(上記記載事項(b))、モノクローナル抗体をセファロースにカップリングさせる(上記記載事項(e))ことが記載されており、GPI-PLD溶出条件についても、3MのMgCl2を含む緩衝液Cで溶出し(上記記載事項(e))、緩衝液CはpH7.5である((上記記載事項(d))ように、温和な条件下でGPI-PLDを溶出しているところ、引用例2には、アフィニティ材料に結合されたGPI-PLDに対する親和性の弱いモノクローナルIgG抗体を血清と接触させ、その後3MのMgCl2を含むpH7.5の緩衝液により血清からGPI-PLD溶離して、血清からGPI-PLDをイムノアフィニティクロマトグラフィーにより精製することが記載されているといえる。(以下、「引用発明」という。)
本件発明1と引用発明とを対比すると、凝固XIIIまたはXIIIA因子もGPI-PLDも共に血液成分蛋白質であるから、両者は、イムノアフィニティクロマトグラフィーによる血液成分蛋白質の精製法であって、支持材料(アフィニティ材料)に結合されている当該蛋白質に対するモノクローナル抗体と、血液成分蛋白質を含有する溶液を接触させ、アフィニティ材料と液体とを互に分離し、そしてアルカリ土類金属塩3モル/リットルおよびpH7.5の溶離条件下にてアフィニティ材料から生物活性形態である血液成分蛋白質を溶離する方法である点で一致し、
相違する点は、前者が、IgGクラスの凝固第XIIIA因子に対するモノクローナル抗体を使用して凝固XIII又はXIIIA因子を精製しているのに対して、後者が、GPI-PLDに対するモノクローナル抗体を使用してGPI-PLDを精製している点のみである。
そこで、上記相違点について検討する。
引用例6にも記載されているように、凝固XIII因子は分子量約80KのAサブユニット2分子と、Bサブユニット2分子からなり、A2B2構造を形成していること、そして、活性部位はAサブユニットであること、また、血小板、胎盤、前立腺などではA2(Aのみのダイマー)のみで存在することは周知のことである。(上記記載事項(f)及び(k))
ここで、引用例3に、凝固XIIIB因子ではあるが、血清から凝固XIII因子をモノクローナル抗体を使用するアフィニテイカラムを利用して精製することが示されている(上記記載事項(f)?(h))ように、血清から凝固XIII因子をイムノアフィニティクロマトグラフィーにより精製することは当業者にとって周知の課題である。
そうすると、同じく血液成分蛋白である引用発明のGPI-PLDのイムノアフィニティクロマトグラフィーによる精製法を、同じく血液成分蛋白である引用例3に記載された凝固XIIIB因子と複合体を形成するという密接な関係を有しており、しかも凝固XIII因子の活性部位である凝固XIIIA因子の精製に適用することは当業者が自然に想起するところであり、その際に、イムノアフィニティクロマトグラフィーによる精製に適当な凝固第XIII因子Aに対するモノクローナル抗体の抗原に対する結合力は、当業者が簡単な実験により適宜決定しうるものである。
そして、引用例4および5に記載されたとおり、既に、周知のモノクローナル抗体作製手法により凝固第XIII因子Aに対するIgGクラスモノクローナル抗体及びIgMモノクローナル抗体を作成することが知られている。(上記記載事項(i)?(j))
ここで、審判請求人も、平成15年12月3日付け意見書において、「モノクローナル抗体には、抗原に対する結合力が強いものも弱いものもあるが、どの程度の結合力が要求されるかが解明されておれば、当業者であれば適切なモノクローナル抗体を得ることは容易に実施し得ることであり、本件発明によって、生物活性を有したXIII因子XIIIA因子を分離できるイムノアフィニティークロマトグラフィーに用いられるモノクローナル抗体が得られることが解明され、そのイムノアフィニティークロマトグラフィーに適したモノクローナル抗体の適性を試験する方法が〔0017〕に明記してある以上、当業者であれば本件発明において使用されるモノクローナル抗体を作成することは容易である。」と述べているとおり、モノクローナル抗体の親和性の程度は、当業者が周知のモノクローナル抗体作製手法により得られたものの中から、適宜選抜できるものであり、本件発明1においても、モノクローナル抗体の親和性が特別のものであるわけでもない。
してみると、適度な親和性を有するIgGクラスの凝固第XIIIA因子に対するモノクローナル抗体を常套手段により製造する程度のことは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず、何等困難性が見出せない。
そして、本件発明1の明細書記載の効果も上記引用例1乃至6から当業者が予期し得る程度のものであり、格別のものとすることはできない。

審判請求人は、平成19年3月12日付け意見書において、「(1)引用例2が開示した方法は、精製GPI-PLDを得るためにはさらに2段階の精製工程を必要としていることが記載されており、本願発明のイムノアフィニテイクロマトグラフィーを用いた一工程での精製方法については、なんら参考にはならない。(2)引用例4には、この2C3抗体が本願の抗体と同様のIgGクラスのXIIIA因子を認識する抗体であるかどうかについての確かな記載はない。」旨主張しているので検討する。
主張(1)について
引用発明は、血清からGPI-PLDを精製しているのに対して、本件実施例2においては、不純物の多い血清からではなく、胎盤XIII因子の凍結乾燥濃縮物(RFibrogammin, Behringwerke AG)からXIIIA因子精製しているだけであるから、これを以て、 本件発明1の精製法が引用発明よりも優れたものとは到底いえず、請求人の主張は採用できない。
主張(2)について
凝固XIIIB因子に対するモノクローナル抗体が知られている(上記記載事項(g))にも拘わらず、引用例4には、「これまでF13に対する単クローン抗体(mAb)がない、・・・われわれが得たものは初めての抗F13mAbであるといえる。」(上記記載事項(i))と記載されていることから、また、引用例4には、「中和抗体法によるF13活性を抑制した。」と記載されているが、触媒活性を有するのは凝固XIIIA因子である(上記記載事項(k))ことから、引用例4で得られたモノクローナル抗体は凝固XIIIB因子に対するモノクローナル抗体ではなく、凝固XIIIA因子に対するモノクローナル抗体であると解するのが自然であり、請求人の主張は採用できない。
なお、本件優先日後に刊行されたものではあるが、日消誌 89(1)28-35,1992には、引用例4で得られたモノクローナル抗体は凝固XIIIA因子に対するモノクローナル抗体であることが明記されている。

したがって、本件発明1は、上記引用例1乃至6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4. むすび

以上のとおり、本件請求項1に係る発明は、当審で通知した上記拒絶理由通知に引用したその出願前に頒布された上記刊行物1乃至6に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その他の請求項については判断するまでもなく、本件出願は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-16 
結審通知日 2007-05-22 
審決日 2007-06-04 
出願番号 特願平4-222336
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本間 夏子山村 祥子  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 種村 慈樹
鵜飼 健
発明の名称 XIII因子の精製法、XIIIA因子に対するモノクローナル抗体、その製造及び使用  
代理人 高木 千嘉  
代理人 西村 公佑  

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