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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服20056282 | 審決 | 特許 |
不服200627219 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1166649 |
審判番号 | 不服2005-5728 |
総通号数 | 96 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-04-04 |
確定日 | 2007-10-23 |
事件の表示 | 平成4年特許願第308726号「トロンビンのウイルス不含濃縮物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成5年8月3日出願公開、特開平5-194261〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.本願発明 本願は、平成4年11月18日(パリ条約による優先権主張1991年11月19日、独国)を出願日とする出願であって、その請求項1?10に係る発明は、平成19年2月22日付け手続補正書により補正された明細書の請求項1?10に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりものである。(以下、「本願発明」という。) 「陰イオン交換体で精製されウイルス失活に付されたプロトロンビン複合体の溶液に、カルシウムと難溶性塩または可溶性コンプレックスを形成する陰イオンを有する可溶性塩を少なくとも0.5モル/リットルの濃度で添加し、そしてその溶液を0単位/mlよりは高く200単位/mlまでの濃度のトロンビンで処理することより成る精製されそしてウイルス不含のトロンビンの調製物の製造方法。」 2.刊行物の記載事項 これに対して、当審における、平成18年8月17日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。 引用例A;Am. J. Physiol., 1962, Vol.203, No.3, pp.397-400 (A-1) 「実験1.25%クエン酸ナトリウム溶液内のプロトロンビン活性。 プロトロンビン産物を25%クエン酸ナトリウム溶液に溶解した(図1)。濃度は・・・15,000U/mlであった。濃度が600 U/mlになるように、レジントロンビンをその溶液に入れた。・・・興味深いのはオートプロトロンビンC活性がトロンビンと同率で発生したことである。・・・オートプロトロンビンCに対するトロンビン単位は常に同じであった。つまり1:20周辺であった。」(398頁右欄2行?15行) (A-2) プロトロンビンが25%クエン酸ナトリウムに溶解され、ゼロ時にレジントロンビンが濃度600 U/mlで加えられ、28℃で活性化した場合、16時間後に約8,000U/mlのトロンビンが生成することが記載されている。(398頁左欄図1) (A-3) 「材料と方法・・・ウシプロトロンビンは(18)に記述されるように精製された。」(398頁左欄下から14行?下から9行) (A-4) 「二つの酵素トロンビンとオートトロンビンCは25%クエン酸ナトリウム溶液の自己触媒活性により精製プロトロンビンから得られる。」 (397頁左欄3行?5行) 「トロンビン、それ自体はこれまでに得られた最も精製された形態でもクエン酸ナトリウム溶液で触媒として機能し(5)、オートプロトロンビンIIの産生に関与した(10)。」(397頁右欄27行?30行) 「オートプロトロンビンCの機能は自己触媒である。これはまたトロンビンの機能でもある。二つのトロンビンはプロトロンビンから同時に得られる。」(397頁右欄下から3行?末行) 「適当な条件では、トロンビンもしくはオートプロトロンビンCは酵素として働き、プロトロンビン自体から得られ、これは自己触媒と見なすことができる。」(400頁左欄1行?4行) 3.対比・判断 引用例Aには、精製したプロトロンビンを25%クエン酸ナトリウム溶液に溶解(濃度:15,000単位/ml)し、レジントロンビンを600単位/mlとなるように加えることでトロンビンが生成することが記載され(摘記事項(A-1)、(A-2))、25%クエン酸ナトリウム溶液は0.97モル/リットルに当たるから(クエン酸ナトリウムの分子量を258とし、水1リットル中に250gのクエン酸ナトリウムが溶解しているとしてモル/リットルに換算した。)、同引用例には、精製したプロトロンビンの溶液に、クエン酸ナトリウムを0.97モル/リットルの濃度で添加し、そしてその溶液を600単位/mlとなるようトロンビンで処理することにより成るトロンビン調製物の製造方法が記載されているということができる。 そこで、本願発明(前者)とこの引用例Aに記載された発明(後者)を対比すると、後者では、「プロトロンビン」として「ウシプロトロンビン」が用いられ(摘記事項(A-3))、これは動物血漿から得られたものであるから、本願明細書の請求項4の記載からすると、前者の「プロトロンビン複合体」に相当する。 また、後者の「クエン酸ナトリウム」は、本願明細書中で「カルシウムと難溶性塩または可溶性コンプレックスを形成する陰イオンを有する可溶性塩」として示唆され(本願明細書の段落【0012】)、実施例で採用されている塩であるから(本願明細書の段落【0015】、【0017】、【0019】?【0022】)、前者の「カルシウムと難溶性塩または可溶性コンプレックスを形成する陰イオンを有する可溶性塩」に相当する。 そうすると、両者は、「プロトロンビン複合体の溶液に、クエン酸ナトリウムを0.97モル/リットルの濃度で添加し、そしてその溶液をトロンビンで処理することより成るトロンビンの調製物の製造方法」である点で一致し、前者が、プロトロンビン複合体として、「陰イオン交換体で精製されウイルス失活に付された」ものを用い、生成するトロンビンについても「精製されそしてウイルス不含」のものと規定しているのに対し、後者では、プロトロンビンの精製手段が具体的に記載されておらず、生成するトロンビンが精製されたものか否か、更にウイルスを含むものか否かについて明記されていない点(相違点1)、及び前者が「0単位/mlよりは高く200単位/mlまでの濃度」のトロンビンを用いているのに対し、後者が「600単位/ml」の濃度となるようトロンビンを用いている点(相違点2)で両者は相違している。 (相違点1について) 一般に、血液由来の成分を医療製剤にして、人体に適用する場合、肝炎ウイルス等のウイルスによる汚染を防ぐ目的で、通常の精製処理に加え、成分中に含まれるウイルスを失活させる必要があることは、当該技術分野における自明の技術課題である。 そして、プロトロンビン(血液凝固因子II)の精製において、DEAE系のイオン交換体等の陰イオン交換体を用いる手法は常套手段であり(例えば、特開平2-19400号公報の2頁右下欄末3行?3頁右上欄3行、特開昭58-52226号公報の4頁右上欄第1行?5行を参照)、またプロトロンビン(血液凝固因子II)に加熱等を施しウイルスを失活させることも当業者に広く知られた事項である(例えば、特開昭55-145615号公報の4頁左下欄15行?5頁左上欄7行、特表昭58-500548号公報の請求項1、5、7頁左上欄第22行?右下欄第11行を参照)。 そうすると、引用例Aに記載される精製プロトロンビンとして、陰イオン交換体で精製され、ウイルス失活に付したものを用いることは当業者が容易に想到し得ることであり、かかるプロトロンビンから生成されるトロンビンを「精製されそしてウイルス不含」のものと規定することも当業者であれば格別創意を要するものということはできない。 (相違点2について) 引用例Aに記載の方法では、「600単位/ml」のトロンビンが使用されているが、この濃度条件は、「15,000単位/ml」のプロトロンビンからトロンビンが生成する反応条件の一つとして示されていることは明らかであり、引用例Aを子細に見ても、トロンビンの使用濃度として、「600単位/ml」以外の条件の採用を否定する記載は見当たらない。 よって、引用例Aでは、「25%クエン酸ナトリウム溶液に添加されるトロンビンの濃度は少なくとも600U/mlが要求される」或いは「かかるコファクターを併用しないときは600単位/mlの濃度のトロンビンが要求される」との請求人の主張は失当というべきである。 一方、化学反応において、目的生成物の収量が向上するように、反応に関与する試薬の使用量(濃度)や反応温度等の反応条件を最適化することは当業者が極普通に行うことであるから、プロトロンビン、クエン酸ナトリウムの濃度条件等を勘案して、生成物たるトロンビンの収量が良好となるように、反応初期のトロンビン濃度を調整することは当業者が容易になし得ることである。 そして、複数の試薬を使用する反応において、ある試薬の初期濃度を低くする場合、他の試薬の初期濃度も合わせて低くすることは当業者が通常試みることであるから、「15,000単位/ml」より低い濃度条件でプロトロンビンを用いた場合に「600単位/ml」より低い濃度のトロンビンとすることは当業者が容易に想起することであり、「0単位/mlよりは高く200単位/mlまでの濃度」という本願発明の構成に至ることも当業者に格別困難性を伴うものとみることはできない。 また、本願明細書をみても、上記相違点1、2として挙げた構成要件を本願発明が具備することにより、当業者の予測を超える効果を奏したとは認められない。 なお、請求人は、参考資料1、2を提出して「引用例Aにおけるプロトロンビンの32.9単位が、本願におけるプロトロンビンの1単位に相当する」とし、また引用例Aの399頁左欄、397頁右欄の記載を指摘のうえ「引用例Aの条件下では・・・トロンビンは触媒ではないことを明示している」としたうえで、「当業者は引用例Aに接しても本願発明を想到することは有り得ない」と主張している。 しかし、参考資料1には、単に「II因子の1単位は正常血漿1mlからの II因子活性に対応する。」と記載され、参考資料2では、「乾燥重量1mg当たり1400Uの活性を持つ生成物が、蓚酸処理ウシ血清の1cc当たり32.9±30Uを与えること」が記載されているに過ぎないから、「プロトロンビンの32.9単位が、本願におけるプロトロンビンの1単位に相当する」ことを証する記載は参考資料1、2に何等存在しない。 また、引用例Aには、トロンビンがオートプロトロンビンCと同様に自己触媒としての機能を持つことが随所に記載されているから(摘記事項(A-4))、引用例Aの条件下でトロンビンが触媒でないともいえない。 したがって、上記請求人の主張は理由がなく、これを採用することはできない。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-04-24 |
結審通知日 | 2007-05-08 |
審決日 | 2007-06-01 |
出願番号 | 特願平4-308726 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松波 由美子、安川 聡 |
特許庁審判長 |
塚中 哲雄 |
特許庁審判官 |
弘實 謙二 福井 悟 |
発明の名称 | トロンビンのウイルス不含濃縮物の製造方法 |
代理人 | 高木 千嘉 |
代理人 | 西村 公佑 |