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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1166734
審判番号 不服2005-8936  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-12 
確定日 2007-10-25 
事件の表示 特願2001-228038「精神分裂病により発現量が変化する遺伝子を規定する核酸を解析する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月12日出願公開、特開2003- 38198〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年7月27日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年6月9日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、以下のとおりのものである。

「被験者において精神分裂病により発現量が変化する遺伝子を規定する核酸の発現量が、統計学的に健常人の発現量の範囲内にあるかどうかを解析する方法であって、
被験者から採取した試料において、リソゾーム結合膜糖蛋白質2前駆体(GenBank No.J04183 )の遺伝子を規定する核酸(その断片及びその核酸と相補的な核酸を含む)及び/又は前記遺伝子を規定する核酸がコードするタンパク質(その断片を含む)の発現量を測定して定量値を求める工程、及び前記定量値が正常群の範囲内であるかを統計学的に解析する工程を含む、上記方法。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物であるProc.Natl.Acad.Sci.USA. 2001(April 10), Vol.98, No.8, p.4746-4751(以下、「引用例」という。)には、
要約の項に「神経病理学と脳イメージング研究は、精神分裂病が神経発達の欠陥に起因するかもしれないことを示唆している。細胞構造の研究は特に背外側面の前頭皮質中で、精神分裂病のニューロンの接続中の混乱を暗示する細胞の異常を示す。しかし、これらの発見の基礎となる分子のメカニズムは不明瞭なままである。精神分裂病に関連した分子の基質を識別するために、DNAマイクロアレイ分析は精神分裂病とコントロール患者の死後の背外側面の前頭皮質中の遺伝子発現レベルを分析するために使用された。コントロールに比較して精神分裂病の発現レベルが変更されたと決定された遺伝子は、シナプス可塑性、ニューロンの発達、神経伝達および情報伝達を含む多くの生物学のプロセスに関係する。とても顕著なのは、精神分裂病で乏枝神経膠細胞中の機能の混乱を示唆する、髄鞘形成に関連する遺伝子の異なった発現であった。」と記載され、
マイクロアレイ手順の項に、「cRNAはフラグメント化され、遺伝子チップ発現分析技術マニュアル(アフィメトリックス)の標準実施要綱の概略に記載されているように、アフィメトリックス(サンタクララ、CA)HuGeneFLチップ(6,000以上のヒトの遺伝子に対するプローブを含む)に加えた。」(4747頁左欄6-10行)と記載され、
表1として、慢性精神分裂病における異なった発現する遺伝子が遺伝子のアクセッション番号とP値とともに89種示されている。

3.対比
引用例においては、表1に示される89種の遺伝子の精神分裂病とコントロールの患者の遺伝子の発現される核酸のレベルを解析しているものであり、この89種の遺伝子は、精神分裂病により発現量が変化する遺伝子であることがP値をもって示されていることから、引用例には、被験者から採取した試料において精神分裂病により発現量が変化する遺伝子を規定する核酸の発現量を測定して定量値を求め、統計学的に健常人の発現量の範囲内にあるかどうかを解析する方法の発明が記載されているといえる。
そこで、本願発明と引用例に記載された発明を対比すると、両者は、「被験者において精神分裂病により発現量が変化する遺伝子を規定する核酸の発現量が、統計学的に健常人の発現量の範囲内にあるかどうかを解析する方法であって、被験者から採取した試料において、遺伝子を規定する核酸の発現量を測定して定量値を求める工程、及び前記定量値が正常群の範囲内であるかを統計学的に解析する工程を含む方法」である点で一致しているが、以下の点で相違している。

相違点:
本願発明においては、リソゾーム結合膜糖蛋白質2前駆体(GenBank No.J04183 )の遺伝子について、それを規定する核酸の発現量を測定して定量値を求める工程、及び前記定量値が正常群の範囲内であるかを統計学的に解析する工程を含むのに対し、引用例においては表1に示される89種の遺伝子しか記載されていない点。

4.判断
上記相違点について検討する。

引用例において、知られているすべての遺伝子について、精神分裂病により発現量が変化する遺伝子かどうか調べたわけではないので、当業者であれば、引用例において調べられていない遺伝子についても、精神分裂病により発現量が変化するかどうか調べることに、当然に興味を抱くものである。そして、引用例において用いられているアフィメトリックス社のHuGeneFLチップに換えて、同様に本願出願前に市販され、慣用されている周知のCLONETECH社のアレイ、Atlas Human 1.2 Array IIを用いることにより、当業者であれば、精神分裂病で異なる発現を示すものとして、リソゾーム結合膜糖蛋白質2前駆体(GenBank No.J04183 )の遺伝子を容易に見出すことができるものである。すなわち、本願発明は、当業者であれば、慣用の手法を用いることにより当然得られた結果に基づいてされたものに過ぎない。
そして、リソゾーム結合膜糖蛋白質2前駆体(GenBank No.J04183 )の遺伝子を対象として解析することにより、引用例に記載される89種の遺伝子と比較して、格別顕著な効果が奏されるとも認められない。

なお、請求人は、1.CLONETECH社のDNAアレイを採用していること、2.解析サンプルとして線条体を使用していること、3.遺伝子が実際の判定に有用であることが実証されていること、4.解析に必要なサンプルを入手することは非常に困難であったこと、及び、5.本願発明はスクリーニングの結果得られたものに関するものであることにより、本願発明は容易に行われたものでなく、進歩性を有する旨主張しているが、
1.の点につき、高感度のCLONETECH社のDNAアレイを用いたから本願発明が達成できたからといって、それは、CLONETECH社のDNAアレイが技術的に優れたものであるとしても、本願発明において市販のアレイを用いたにすぎず、技術的困難を克服するなどしたものではないのであるから、この点で進歩性を認めようもないことであるし、CLONETECH社のDNAマクロアレイにより死後の脳のサンプルの発現プロファイルを調べることも、例えばMolecular Brain Research,88(2001)p.74-82などにより知られたことにすぎないものであり、
2.の点につき、線条体と精神分裂病が関連あることがよく知られていたのであるから、線条体を使用したことに何の困難も認められないものであり、また、例えば、「日本生物学的精神医学会プログラム・講演抄録」23rd(2001)p.270(抄録番号D-56)により、精神分裂病の遺伝子発現プロファイルを尾状核のサンプルでDNAマクロアレイを用いて調べることも知られているのであるし、
3.の点につき、本願明細書の記載をみても、精神分裂病とリソゾーム結合膜糖蛋白質2前駆体(GenBank No.J04183 )の遺伝子の発現の変化との関連を生理学的な面から明らかにはしていないし、他の脳の疾病や精神分裂病の薬剤の副作用などで、リソゾーム結合膜糖蛋白質2前駆体(GenBank No.J04183 )の遺伝子の発現の変化が起きないことを示していないのであるから、精神分裂病の実際の判定に有用である可能性を示すに過ぎないものであるし、また、引用例においても、発現の差があることがP値をもって統計学的に示されているのであり、引用例の89種の遺伝子のなかにはP値が0.0023や0.0024のものもあるのにもかかわらず、リソゾーム結合膜糖蛋白質2前駆体(GenBank No.J04183 )の遺伝子と比較して、実際の判定における有用性に差異があることを請求人は何ら根拠をもって具体的に示していな

ので、このことで、本願発明に格別顕著な効果があるものと認められないし、
4.の点につき、発明者等と同じ立場にあるものは、同様に解析に必要なサンプルを入手できるものであり、この点で特許性のある発明に値するような技術的困難があったものとは認めようもなく、
5.の点につき、スクリーニングの結果得られたものであっても、それが容易に得られるものである以上、そのものに予測ができないような格別の性質があったり、その性質が格別に顕著なものであれば、その性質に基づく新たな用途に関する発明は特許性があるものとすべきであろうが、疾病により発現量に変動する遺伝子があることはよく知られたことであり、精神分裂病において、リソゾーム結合膜糖蛋白質2前駆体(GenBank No.J04183 )の遺伝子の発現が変化したからといって、それが格別の性質というものではないし、引用例に記載された89種の遺伝子と比較しての格別に顕著な発現量の変化であることも示されていないのであるから、請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく、本出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-22 
結審通知日 2007-08-28 
審決日 2007-09-10 
出願番号 特願2001-228038(P2001-228038)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐久 敬  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 鵜飼 健
高堀 栄二
発明の名称 精神分裂病により発現量が変化する遺伝子を規定する核酸を解析する方法  
代理人 冨田 和幸  
代理人 来間 清志  
代理人 杉村 憲司  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 杉村 興作  
代理人 岩佐 義幸  
代理人 徳永 博  

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