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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1166952
審判番号 不服2005-8269  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-06 
確定日 2007-11-01 
事件の表示 特願2003- 70497「超音波流量計および流量の計測方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日出願公開、特開2004- 28994〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年3月14日(優先権主張平成14年4月30日)の出願であって、平成17年3月31日付け(発送日:同年4月5日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の請求項1ないし17に係る発明は、平成16年4月8日付け手続補正書、平成16年10月14日付け手続補正書及び平成17年1月6日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項12に係る発明は、以下のとおりである。(以下、「本願発明」という。)
「一対の超音波振動子を送信器および受信器として用いて流体の流路中に超音波の伝播経路を形成し、前記一対の超音波振動子の一方を直列共振周波数にて駆動するための送信部と、前記送信部の出力インピーダンスより小さい入力インピーダンスを有し、前記一対の超音波振動子の他方に到達した超音波を受信する受信部と、前記送信部と前記第1および第2の超音波振動子のいずれかとを選択的に接続する第1の切り替え部および前記受信部と前記第1および第2の超音波振動子のいずれかとを選択的に接続する第2の切り替え部とを用いて前記伝播経路に沿って双方向に超音波を伝播させて双方向の伝播時間差を検出することにより流体の流量を計測する方法。」

2.引用例記載の発明・事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、実願平1-102934号(実開平3-42524号公報)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
(1)「[従来の技術]
第4図は例えば従来の超音波流量計のブロック図であり、1は流量計作動の指令信号を発生する制御部、2は超音波発生のため付勢信号を供給する送信回路、5はケーブル、6は圧電振動子を用いた第1送受波器、7は圧電振動子を用いた第2送受波器、8は測定される流体が流れる管路、9は流量信号への変換ならびに計測値の表示を行う計測表示部、15は管路8内伝搬信号を受信する受信回路、16は送信回路2出力に設けられた出力抵抗器、17は受信回路15入力に設けられた入力抵抗器である。
従来の超音波流量計は上記のように構成され、制御部1からの指令信号に応答する送信回路2出力は、直列に接続された出力抵抗器17ならびに上記指令信号にて応動する切換器4を経て、管路8へ装着された第1送受波器6を付勢し管路8内へ超音波を放射する。管路8には流体の流れ方向に沿って第1送受波器6と対向する位置に第2送受波器7が装着され、流体内を伝搬した超音波を受波して切換器4を経て受信回路15へ伝達する。制御部1からの指令信号と受信回路15からの受信信号とにより計測表示部9は流体の流れ方向の超音波伝搬時間を得る。次に制御部1からの指令信号により上記切換器4が応動して、送信回路2ならびに受信回路15の送受波器への接続が切換えられ、第2送受波器7が付勢されて流体内を伝搬した超音波は第1送受波器6にて受波され、計測表示部9は流体の流れと逆方向の超音波伝搬時間を得る。上記超音波伝搬時間の差に基づいて管路8内流体の流量が測定される。」(明細書第2頁8行?第3頁20行)
(2)「第1図はこの考案の一実施例を示すブロック図であり、図において、1、2、4、5、6、7、8、9は上記従来流量計と同一であり、3は低入力インピーダンスを呈する受信回路、10は演算増幅器、11は帰還キャパシタ、12は帰還抵抗器を示している。」(明細書第8頁1?7行)
・上記記載(1)、(2)及び第1図、第4図から、
「圧電振動子を用いた第1送受波器6、圧電振動子を用いた第2送受波器7により管路8内の流路中に超音波の伝播経路を形成し、第1又は第2の送受波器を付勢し超音波を管路内に放射する送信回路2と、流体内を伝播し、第2又は第1送受波器で受波された超音波を受信する低入力インピーダンスである受信回路3と、送信回路2と第1及び第2送受波器のいずれかとを選択的に接続するとともに受信回路3と第2及び第1送受波器のいずれかとを選択的に接続する切換器4と、を用いて前記伝播経路に沿って流体の流れ方向とその逆方向とに超音波を伝播させて、それぞれの超音波伝播時間を得て、その差に基づいて流体の流量を計測するようにした方法。」が読み取れる。
(3)「・・・送受波器に用いられる圧電振動子の直列共振インピーダンスより小さい出力インピーダンスを呈し一方の上記送受波器を付勢する送信回路と、上記送信回路の出力インピーダンスにほぼ等しい入力インピーダンスを呈し他方の上記送受波器からの信号を受信する受信回路とを具備し各送受波器は直列共振状態近傍にて作動することを特徴とする超音波流量計。」(実用新案登録請求の範囲の請求項1)
(4)「[課題を解決するための手段]
この考案に係る超音波流量計は、送受波器に用いられる圧電振動子の直列共振インピーダンスより小さい出力インピーダンスを呈し一方の送受波器を付勢する送信回路と、送信回路出力インピーダンスとほぼ等しい入力インピーダンスを呈し他方の送受波器からの信号を受信する受信回路とを設けたものである。」(明細書第6頁9?16行)
(5)「送信回路2は制御部1からの指令信号に応答して送受波器を付勢するパルス信号を発生するため高速スイッチ回路などが用いられる。例えばMOS FETを用いた高速スイッチ回路は、入力電圧範囲が広く、高速にて作動し、そのオン抵抗は送受波器のインピーダンスに比較して小さい。また受信回路3には例えば、演算増幅器10に帰還キャパシタ11(CF)と帰還抵抗器12(RF)が共に負帰還をなすように接続された電荷検出器(チャージアンプ)を用いたとき、その入力インピーダンス(Zi)は入力電流と同極性の電流を帰還するので、Zi?RF/1+A Aは演算増幅器10の増幅度
となり、帰還抵抗器12の調節により送受波器の直列共振インピーダンスより低いインピーダンスに調節できる。
上記の通り第1送受波器6へ接続される送信回路2ならびに第2送受波器7へ接続される受信回路3は共に低インピーダンスにできるので、各送受波器は互いに周波数が接近した直列共振状態近傍にて作動できる。」(明細書第8頁13行?第9頁16行)
(6)「送受波器に用いられる圧電振動子の周波数特性、温度特性ならびにバッキング材の構造などにより特性が相違し、送信回路2ならびに受信回路3への第1送受波器6と第2送受波器7の切換器4による接続の切換えが行われても、送受波器は共に直列共振状態近傍にて作動するので、超音波の伝搬方向切換えによる伝搬時間差に基づく流速ゼロならびに低流速時におけるオフセット量が小さくなる。送受波器が直列共振状態近傍にあると送信回路2と受信回路3は共に低インピーダンス作動となるので干渉雑音の影響が軽減され信号対雑音比が改善できる。従って受信回路2には安定したレベルの信号が得られる。」(明細書第10頁3?15行)
・上記記載(3)?(6)から、
「受信回路の入力インピーダンスを送信回路の出力インピーダンスとほぼ等しく、圧電振動子の直列共振インピーダンスよりも低くすることで、送信回路及び受信回路は共に低インピーダンスにできるから、切換器4による接続の切換が行われても各送受波器は共に直列共振状態近傍にて作動され、ひいては送受波器の特性が相違してもオフセット量を小さくできる。」ことが読み取れる。
以上を勘案すると、引用例には次の発明が記載されていると認められる。
(引用例に記載された発明)
「圧電振動子を用いた第1送受波器6、圧電振動子を用いた第2送受波器7により管路8内の流路中に超音波の伝播経路を形成し、第1又は第2の送受波器6、7を直列共振状態近傍にて作動するように付勢し超音波を管路内に放射する送信回路2と、送信回路2の出力インピーダンスとほぼ等しい入力インピーダンスを有し、流体内を伝播し、第2又は第1送受波器7、6で受波された超音波を受信する受信回路3と、送信回路2と第1及び第2送受波器6、7のいずれかとを選択的に接続するとともに受信回路3と第2及び第1送受波器7、6のいずれかとを選択的に接続する切換器4と、を用いて伝播経路に沿って流体の流れ方向とその逆方向とに超音波を伝播させて、それぞれの超音波伝播時間を得て、その差に基づいて流体の流量を計測するようにした方法。」(以下、「引用例記載の発明」という。)

3.対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
引用例記載の発明における、
「圧電振動子を用いた第1送受波器6、圧電振動子を用いた第2送受波器7」、「送信回路2」、「受信回路3」は、
本願発明における、
「一対の超音波振動子を送信器および受信器として用い(ること)」、「送信部」、「受信部」にそれぞれ相当する。
また、引用例記載の発明における「切換器4」は、送信回路2と第1及び第2送受波器のいずれかとを選択的に接続する機能と、受信回路3と第2及び第1送受波器のいずれかとを選択的に接続する機能とを合わせ持つものであるから、本願発明の「第1の切り替え部、第2の切り替え部」に相当する。
してみると、両者は
(一致点)
「一対の超音波振動子を送信器および受信器として用いて流体の流路中に超音波の伝播経路を形成し、前記一対の超音波振動子の一方を駆動するための送信部と、前記一対の超音波振動子の他方に到達した超音波を受信する受信部と、前記送信部と前記第1および第2の超音波振動子のいずれかとを選択的に接続する第1の切り替え部および前記受信部と前記第1および第2の超音波振動子のいずれかとを選択的に接続する第2の切り替え部とを用いて前記伝播経路に沿って双方向に超音波を伝播させて双方向の伝播時間差を検出することにより流体の流量を計測する方法。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点)
相違点1:超音波振動子を送信部が駆動する際の駆動周波数に関して、
本願発明では直列共振周波数にて駆動するとしているのに対し、引用例記載の発明では、駆動周波数自体についての記載がない点。
相違点2:送信部の出力インピーダンスと受信部の入力インピーダンスとの大小関係について、
本願発明では受信部の入力インピーダンスは送信部の入力インピーダンスより小さい、としているのに対し、引用例記載の発明では、両者はほぼ等しいとしている点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について、
引用例記載の発明において、送信回路(送信部)は、送受波器(超音波振動子)が直列共振状態近傍にて作動するように送受波器(超音波振動子)を付勢、すなわち駆動しているから、その駆動周波数は直列共振周波数の近傍の周波数であることは技術常識から明らかであり、直列共振状態を実現するために駆動周波数を共振周波数に設定することは周知な技術である。
したがって、引用例記載の発明において、超音波振動子を直列共振周波数にて駆動することは、当業者ならば容易に想到し得たことである。
(2)相違点2について、
本願発明において、受信部の入力インピーダンスを送信部の出力インピーダンスより小さくしたことの技術的意義について検討する。
本願明細書にはこの点に関して次の記載がある(特に、下線部の記載に留意のこと)。
「一般に、送信素子を送信部で駆動する場合、送信部の出力インピーダンスは低いほうが、送信素子に高い電圧が印加できるため好ましい。一方、受信素子で受信した信号を受信部で増幅する場合、受信素子で受信する信号の大きさにかかわらず安定して受信信号を検知、増幅するためには受信部の入力インピーダンスは大きい方が好ましい。このような理由により、従来の超音波流量計においては、受信部の入力インピーダンスは送信部の出力インピーダンスはよりも大きくなっていた。具体的には、受信部の入力インピーダンスは数十KΩから数百KΩに設定され、送信部の出力インピーダンスは、数十Ωから数百Ωに設定されていた。 これに対して、上述の条件では、受信部の入力インピーダンスを従来の値の1/1000以下にする。超音波流量計の計測に用いられる典型的な特性(共振周波数および共振周波数におけるインピーダンス)を備えた超音波振動子を第1の超音波振動子1および第2の超音波振動子2として用いる場合には、受信部の入力インピーダンスは、送信部の出力インピーダンスとおおよそ等しいかまたは送信部の出力インピーダンスよりも小さくなる。受信部の入力インピーダンスが送信部の出力インピーダンスとおおよそ等しい場合、受信部の入力インピーダンスは従来の値の1/1000程度にまで小さくなる。したがって、従来の超音波流量計に比べて十分受信部の入力インピーダンスは小さくなり、超音波振動子1および第2の超音波振動子2の特性の違いによる受信波の差異を小さくすることができる。そして、受信部の入力インピーダンスが送信部の出力インピーダンスより小さく、ゼロに近い値をとるほど、超音波振動子1および第2の超音波振動子2の特性の違いによる受信波の差異をより小さくすることができる。」(段落【0074】?段落【0075】)
上記記載から、本願発明は、従来の超音波流量計の受信部の入力インピーダンスは一般に数十KΩから数百KΩと高い値に設定されていたところ、これを送信部の出力インピーダンス程度に、或いはそれ以下にして、従来の受信部の入力インピーダンスの1/1000程度以下の十分に小さな値のものとすることで、超音波振動子の特性の違いによる計測誤差をなくする流量測定を行うことにその技術的な意義があるとするのが相当である。
この検討を踏まえ、引用例記載の発明についてみると、引用例記載の発明では、受信回路(受信部)の入力インピーダンスを送信回路(送信部)の出力インピーダンスとほぼ等しいものとしており、また、引用例記載の発明においても送信回路(送信部)の出力インピーダンスは当然に小さい値のものとされているから、引用例記載の発明は、受信回路(受信部)の入力インピーダンスが十分に小さな値となっている点で、本願発明と共通しているということができる。
そして、引用例には受信回路(受信部)の入力インピーダンスが送信回路の出力インピーダンスと「ほぼ等しい」と記載されていることからみて、引用例記載の発明において、受信回路(受信部)の入力インピーダンスを送信回路(送信部)の出力インピーダンスよりも小さくすることを阻害する技術的な理由は見いだせない。
そして、上記本願発明の技術的意義を考慮すれば、受信回路(受信部)の入力インピーダンスを送信回路(送信部)の出力インピーダンスとほぼ等しくした場合と、受信回路(受信部)の入力インピーダンスを送信回路(送信部)の出力インピーダンスよりも小さくした場合との間に、受信回路(受信部)の奏する作用効果の点で格別顕著な差異があるともいえない。
したがって、受信部の入力インピーダンスを送信部の出力インピーダンスより小さくした点は、当業者ならば容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の作用効果は、引用例記載の発明から当業者が予測可能なものであって、格別なものではない。

なお、審判請求人は請求の理由において、引用文献1(引用例)に開示された「引用文献1の従来の形態」も、「引用文献1における他の形態」も「第1の整合部」を開示していない点で本発明と異なる旨主張しているが、本願発明(請求項12に係る発明)は、「第1の整合部」を発明特定事項として含んでいないから、この主張は妥当でない。

5. むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-29 
結審通知日 2007-09-04 
審決日 2007-09-18 
出願番号 特願2003-70497(P2003-70497)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 正治  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 小川 浩史
上原 徹
発明の名称 超音波流量計および流量の計測方法  
代理人 奥田 誠司  

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