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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1166986
審判番号 不服2005-343  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-06 
確定日 2007-11-02 
事件の表示 特願2000-149327「積層型セラミック電子部品およびその製造方法ならびに電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月30日出願公開、特開2001-332859〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年5月22日の出願であって、その請求項1?5に係る発明は、特許法第17条の2の規定に基づき平成16年7月9日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】第1のセラミック層および前記第1のセラミック層より厚みの薄い第2のセラミック層を含む複数の積層されたセラミック層をもって構成される積層体を備え、前記セラミック層の特定のものに関連して配線導体が設けられ、前記配線導体は、特定の前記セラミック層を貫通する貫通孔への導電性ペーストの充填によって形成されるビアホール導体と前記セラミック層の主面に沿って延びる導体膜とを備える、積層型セラミック電子部品であって、
前記ビアホール導体は、断面寸法が互いに異なる第1および第2のビアホール導体を含み、
前記第1のビアホール導体は、前記第1のセラミック層を貫通するように延び、前記第2のビアホール導体は、前記第2のセラミック層を貫通するように延び、かつ、前記第1のビアホール導体の断面寸法は、前記第2のビアホール導体の断面寸法より大きく、
すべての前記ビアホール導体について、厚みのより厚い前記セラミック層を貫通するように延びる前記ビアホール導体の断面寸法は、厚みのより薄い前記セラミック層を貫通するように延びる前記ビアホール導体の断面寸法より大きく、
同じ前記セラミック層を貫通するように延びる複数の前記ビアホール導体は、互いに同じ断面寸法を有し、
前記ビアホール導体の高さ方向寸法をH、同じく径方向寸法をDとしたとき、H/Dで表わされるアスペクト比が、0.1?3.0となるように選ばれる、積層型セラミック電子部品。」

[2]引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平2-148889号公報(以下、「引用刊行物1」という。)、同じく刊行物である特開平6-268369号公報(以下、「引用刊行物2」という。)、同じく刊行物である特開平8-23168号公報(以下、「引用刊行物3」という。)、には、それぞれ下記の事項が記載されている。

(1)引用刊行物1:特開平2-148889号公報
(1a)「(2)回路を形成する導電層とセラミックス層とが交互に積層され、前記セラミックス層に設けられたスルーホールを介して前記各導電層同士が電気的に接続されているセラミックス多層基板において、前記スルーホールが、前記各セラミックス層ごとにそれぞれ統一された径寸法を有することを特徴とするセラミックス多層基板。」(特許請求の範囲第2項)、
(1b)(発明が解決しようとする課題)として、「電気抵抗値の調整をスルーホールのホールサイズを変化させることによって行っていたが、スルーホールへの導体ペーストの充填においてホールサイズと印刷回数は無関係でなく、同じ印刷回数ではホールサイズによって導体ペーストの充填状態が均一にならず、大きなスルーホールでは導体ペーストの不足による陥没が生じ、小さなスルーホールでは過剰の導体ペーストがスルーホールから流出し突起状の変形をひきおこしていた。」(第2頁左下欄1?10行)、
(1c)(作用)として、「本発明のセラミックス多層基板は、各セラミックス層におけるスルーホールのホールサイズが統一されているため、導体ペーストの充填を均一に行うことができる。」(第3頁左上欄6?9行)が記載されている。

(2)引用刊行物2:特開平6-268369号公報
(2a)「【請求項1】セラミック基板もしくはグリーンシートのビアホールへの導体ペーストの充填方法であって、配線パターンを形成する面と反対の面からビアホールに導体ペーストを充填することを特徴とするビアホールの充填方法。」(【特許請求の範囲】)、
(2b)【発明の効果】として、「【0015】・・アスペクト比(ビアホール径とグリーンシートの厚みの比)が大きくなるにつれて、ビアホールの充填方法が困難になってくるが、この充填方法を用いるとアスベクト比で2.5まで可能であり、従来よりもビアホールの充填が容易となる」(段落【0015】)が記載されている。

(3)引用刊行物3:特開平8-23168号公報
(3a)「【請求項1】スルーホールを有するグリーンシートからなる多層配線セラミック基板であって、前記グリーンシート表面における前記スルーホールのパターンで形成された第1のスクリーンと前記グリーンシート裏面における前記スルーホールのパターンで形成された第2のスクリーンとによって前記グリーンシートの両面から導体ペーストが充填されたことを特徴とする多層配線セラミック基板。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)、
(3b)【実施例】として、「【0026】グリーンシートにスルーホールを形成した後に、それらスルーホール全てに対して厚膜印刷法で導体ペーストの埋め込みを行う。この工程において、シートの厚みとスルーホール径との比、すなわちアスペクト比が大きくなると、十分な量の導体ペーストの埋め込みが困難になる。通常の厚膜印刷方法では各種条件によって異なるが、アスペクト比が2?3以上になると、十分な量のペースト埋め込みは特に難しい。」(段落【0026】)、
「【0028】・・・これによって、アスペクト比が4?5のスルーホールにも十分な量のペースト埋め込みを行うことができる。」(段落【0028】)が記載されている。

[3]当審の判断
(1)引用刊行物1に記載された発明
摘記(1a)によれば、引用刊行物1には、回路を形成する導電層とセラミックス層とが交互に積層され、前記セラミックス層に設けられた導体ペーストを充填したスルーホールを介して前記各導電層同士が電気的に接続されているセラミックス多層基板において、前記スルーホールが、前記各セラミックス層ごとにそれぞれ統一された径寸法を有する、セラミックス多層基板が記載されている。そして、摘記(1b)の「電気抵抗値の調整をスルーホールのホールサイズを変化させることによって行っていたが、スルーホールへの導体ペーストの充填において・・・ホールサイズによって導体ペーストの充填状態が均一にならず」、及び摘記(1c)の「本発明のセラミックス多層基板は、各セラミックス層におけるスルーホールのホールサイズが統一されているため、導体ペーストの充填を均一に行うことができる。」との記載によれば、上記セラミックス多層基板におけるスルーホールは、異なる径寸法のものが混在しているものの、各セラミックス層ごとにそれぞれ統一された径寸法を有しているといえる。
これらの事項を総合すると、引用刊行物1には、「回路を形成する導電層とセラミックス層とが交互に積層され、前記セラミックス層に設けられた導体ペーストを充填したスルーホールを介して前記各導電層同士が電気的に接続されているセラミックス多層基板において、前記スルーホールは、異なる径寸法のものが混在するものの、前記各セラミックス層ごとにそれぞれ統一された径寸法を有する、セラミックス多層基板」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2)本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「セラミックス多層基板」を構成するいずれかのセラミックス層、及び他のいずれかのセラミックス層は、それぞれ本願発明1における「積層型セラミック電子部品」を構成する「第1のセラミック層」、及び「第2のセラミック層」に相当する。
また、引用発明における「セラミックス層に設けられた導体ペーストを充填したスルーホール」は、本願発明1における「セラミック層を貫通する貫通孔への導電性ペーストの充填によって形成されるビアホール導体」に相当し、引用発明における上記「いずれかのセラミックス層」に設けられた「スルーホール」、及び上記「他のいずれかのセラミックス層」に設けられた「スルーホール」は、それぞれ本願発明1における「第1のビアホール導体」、及び「第2のビアホール導体」に相当する。
また、引用発明における「導電層」は、本願発明1における「セラミック層の主面に沿って延びる導体膜」に相当し、同「導電層」は更に、引用発明における「スルーホール」と共に、本願発明1における「配線導体」にも相当する。
また、引用発明における「前記スルーホールは、異なる径寸法のものが混在するものの、前記各セラミックス層ごとにそれぞれ統一された径寸法を有する」とは、上記「いずれかのセラミックス層」に設けられた「スルーホール」の径寸法が、上記「他のいずれかのセラミックス層」に設けられた「スルーホール」の径寸法より大きい態様において、本願発明1における「前記ビアホール導体は、断面寸法が互いに異なる第1および第2のビアホール導体を含み、・・・前記第1のビアホール導体の断面寸法は、前記第2のビアホール導体の断面寸法より大きく、・・・同じ前記セラミック層を貫通するように延びる複数の前記ビアホール導体は、互いに同じ断面寸法を有し」に相当する。

してみると、両者は、「第1のセラミック層および第2のセラミック層を含む複数の積層されたセラミック層をもって構成される積層体を備え、前記セラミック層の特定のものに関連して配線導体が設けられ、前記配線導体は、特定の前記セラミック層を貫通する貫通孔への導電性ペーストの充填によって形成されるビアホール導体と前記セラミック層の主面に沿って延びる導体膜とを備える、積層型セラミック電子部品であって、
前記ビアホール導体は、断面寸法が互いに異なる第1および第2のビアホール導体を含み、
前記第1のビアホール導体は、前記第1のセラミック層を貫通するように延び、前記第2のビアホール導体は、前記第2のセラミック層を貫通するように延び、かつ、前記第1のビアホール導体の断面寸法は、前記第2のビアホール導体の断面寸法より大きく、
同じ前記セラミック層を貫通するように延びる複数の前記ビアホール導体は、互いに同じ断面寸法を有する、積層型セラミック電子部品。」の点で一致し、次の点で相違する。

(イ)本願発明1では、第1のセラミック層より第2のセラミック層の厚みを薄くし、すべてのビアホール導体について、厚みのより厚いセラミック層を貫通するように延びるビアホール導体の断面寸法は、厚みのより薄いセラミック層を貫通するように延びるビアホール導体の断面寸法より大きいのに対し、引用発明では、そのように記載されていない点。
(ロ)本願発明1では、ビアホール導体の高さ方向寸法をH、同じく径方向寸法をDとしたとき、H/Dで表わされるアスペクト比が、0.1?3.0となるように選ばれるのに対し、引用発明では、そのように記載されていない点。

(3)相違点の検討
相違点(イ)(ロ)について以下検討する。
相違点(イ)について
出願人も、本願明細書において、「【0009】このような背景の下、前述のように、受動素子を積層体の内部に内臓しようとするとき、受動素子の種類に応じて、セラミック層の厚みを異ならせることが行われている。」と述べているように、また原審の審査官も、原査定の拒絶の理由において、セラミック層の層厚が増すほど、ホール断面寸法が大きくなるようにする技術が周知であるとして、セラミック層のホール断面寸法が他のセラミック層と異なるのであれば、層厚も相応に異なっているとしているように、また更に、下記の周知例1、2にも、セラミック基板の複数層のセラミック層の厚みを層によって異ならせることがそれぞれ記載されているように、積層型セラミック電子部品に含まれる複数層のセラミック層の厚みを層によって異ならせることは、本願出願前周知の技術であると認められる。

周知例1:特開平8-186379号公報
「【0027】・・・セラミック層1a?1eが複数の厚みで形成されている。例えば、セラミック層1cは、容量電極パターン23a、23b間に挟持されており、この間で比較的に大きな容量成分を得るために、その厚みは例えば20μmと薄く、セラミック層1a、1bは、配線導体22間または配線導体22と表面配線パターン4との間の絶縁特性を充分に得るために、その厚みは例えば100μmとセラミック層1cに比較して厚く、また、セラミック層1dは、マイクロストリップ線路導体膜24とアース導体膜25との間で所定共振特性を得るために、その厚みは例えば350μmとセラミック層1a、1bに比較して厚く設定されている。」(段落【0027】)と記載されるとともに、【図1】が示されている。

周知例2:特開平4-93096号公報
「1.ビアを有する多層セラミック基板において、前記ビアを複数層を貫通して設けると共に、導体回路に接続する表面層のビア径よりも内層のビア径を大径に形成したことを特徴とする多層セラミック基板。」(特許請求の範囲)、
「最下層の基板14aと最上層の基板14cは薄く、中間層の基板14bは厚く設定するのがよい。」(第2頁左下欄4?6行)と記載されている。

また、厚みのより厚いセラミック層を貫通するように延びるビアホール導体の断面寸法を、厚みのより薄いセラミック層を貫通するように延びるビアホール導体の断面寸法より大きく形成することも、前掲の周知例2に記載されている他、下記の周知例3にも記載されているように、本願出願前周知の技術であると認められる。

周知例3:特開平6-305814号公報
「【0078】本発明のセラミックス・グリーンシートの厚みは通常、10?500μmの範囲であり、好ましくは30?200μmである。500μmを越えると紫外線の露光に対して十分透過せず、光硬化の効果が薄れる。また、10μm未満であるとグリーンシートの取り扱いが難しくなる。より好ましいシートの厚みは0.01?0.05mmである。この範囲にあると径0.01?0.02mmを有するヴィアホールを上下の孔径差がつかずに形成できる利点がある。またヴィアホールの解像度はグリーンシートの厚みによって異なるが、アスペクト比(シートの厚み/ヴィアホール径)は1以下であるのが紫外線の透過が十分行われるので好ましい。40μm厚の場合は40μmのヴィアホールの形成が好ましい。
【0079】・・・厚みが100μmを越え、アスペクト比が0.2?1の場合は、両面露光すると上下の孔径差のないヴィアホールが形成できるので好ましい。」(段落【0078】【0079】)との記載により、厚みの薄い(厚み0.01?0.05mm)セラミック層を貫通するように延びるビアホール導体の断面寸法(径0.01?0.02mm、アスペクト比1以下、40μm厚の場合40μm)に比し、厚みが100μmを越えるセラミック層を貫通するように延びるビアホール導体の断面寸法を、アスペクト比0.2?1で上記断面寸法(径0.01?0.02mm、アスペクト比1以下、40μm厚の場合40μm)より大きく形成する旨述べられている。

そうすると、引用発明のセラミックス多層基板において、複数のセラミックス層(本願発明1の「第1のセラミック層」、「第2のセラミック層」を含む複数の「セラミック層」に相当する)の厚みを層によって異ならせ、すべてのスルーホール(本願発明1の「ビアホール導体」に相当する)について、厚みのより厚いセラミックス層を貫通するように延びるスルーホールの径寸法(本願発明1の「断面寸法」に相当する)を、厚みのより薄いセラミックス層を貫通するように延びるスルーホールの径寸法より大きくすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

相違点(ロ)について
引用刊行物2には、グリーンシートのビアホールへの導体ペースト充填のため、該ビアホールのアスペクト比を2.5までとすることが記載されており(摘記(2b)参照)、また、引用刊行物3には、グリーンシートのスルーホールへの通常の導体ペースト充填のための、該スルーホールのアスペクト比が2?3までであることが記載されており(摘記(3b)参照)、更に前掲の周知例3にも、グリーンシートのヴィアホールのアスペクト比を0.2?1とすることが記載されているように、グリーンシートのスルーホールのアスペクト比として0.1?3.0は普通のものであるから、引用発明におけるスルーホールの高さ方向寸法をH、同じく径方向寸法をDとしたとき、H/Dで表わされるアスペクト比を、0.1?3.0となるように選ぶことは、当業者が適宜に行えたものと認められる。

また、相違点(イ)(ロ)に係る本願発明1の特定事項によってもたらされる効果も、引用刊行物1?3の記載、及び上記周知技術から当業者が普通に予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願発明1は、引用刊行物1?3に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[4]むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用刊行物1?3に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、上記のとおり本願発明1が特許を受けることができないため、本願の請求項2?5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-22 
結審通知日 2007-08-28 
審決日 2007-09-11 
出願番号 特願2000-149327(P2000-149327)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 前田 仁志
市川 裕司
発明の名称 積層型セラミック電子部品およびその製造方法ならびに電子装置  
代理人 小柴 雅昭  

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