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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04D
管理番号 1167225
審判番号 不服2005-25316  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-28 
確定日 2007-11-05 
事件の表示 特願2001- 90727「屋根構造及び屋根葺き材の施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 9日出願公開、特開2002-294941〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年3月27日の出願であって、平成17年11月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年12月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年1月27日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成18年1月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
(1)補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである。
「野地板と、前記野地板の上に順に敷設された屋根下葺き材および屋根上葺き材とを具える建築物の屋根構造であって、
前記屋根下葺き材は、野地板との滑り摩擦抵抗値0.3以上、およびつづら針保持強さ49.0N(5.0kgf)以上を有し、
前記屋根下葺き材は野地板上に、屋根の軒先から棟に向かう方向に複数枚敷設され、屋根の軒先から棟に向かう方向に平行である各屋根下葺き材の横手方向の端部が、軒先側の屋根下葺き材を下層にするように所定の幅で部分的に互いに重なり合い、この重なり合い部分のみがつづら針によって野地板に固定され、重なり部分の下層は、200mm以下の間隔でつづら針によって野地板に対して固定されていることを特徴とする屋根構造。」

前記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である野地板に対する屋根下葺き材の固定に関して、「重なり合い部分のみがつづら針によって野地板に固定され」との限定を付加したものであって、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-280623号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「屋根下地材」に関して、図1及び図2とともに以下の記載がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリオレフィン樹脂を使用したフラッシュ紡糸法による不織布と、該不織布の少なくとも片面に樹脂を塗布することによって、それぞれが独立し、点在するように形成された複数の凸部とから構成されることを特徴とする屋根下地材。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築材料としての屋根下地材に関し、防水性、透湿性、釘穴での止水性(釘穴止水性)、物理的強度及び施工時の滑り防止性を有する屋根下地材に関する。
【0002】
【従来の技術】一般の家屋等の勾配屋根は、瓦、スレート、金属板等の上ぶき材でふき上げられている。これらの上ぶき材を野地板の上面に施工する場合、上ぶき材の施工に先立って野地板表面に防水機能を主たる目的とした下ぶき材と呼ばれる、例えば現在主流であるアスファルトルーフィングまたは合成高分子系シートを下ぶき材として敷設することが一般的に行われている。」

(ウ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記の防水性・透湿性に優れたシートは、一般的に表面がフラットであり、作業者が下ぶき材の上面を歩行する屋根下地材として勾配屋根の下ぶき施工時、また上ぶき材の施工時、屋根下地材表面が滑り易いという問題点があった。高所の勾配面での作業であることを考えれば、この屋根下地材表面が滑り易いと、作業者の転落事故及び施工用具の落下による事故などを発生させる可能性が極めて高いことが理解できる。
【0006】本発明者は、上記課題について種々検討した結果、上記屋根下地材シートの少なくとも片面に防滑加工を施すことにより、その下地材の優れた防水性、物理強度、釘穴止水性、透湿性を損なうことなく、優れた防滑性を与えることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。……」

(エ)「【0008】……フラッシュ紡糸法による不織布の少なくとも一表面に例えばコーティング技術を利用して、樹脂からなる独立したスポット状の凸部を複数個点在して形成することにより屋根下地材として、施工時の滑り防止性(防滑性)、防水性、透湿性、釘穴止水性、及び物理的強度を具備し、軽量のままで施工時の取扱いが著しく容易となる。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の屋根下地材に用いられるシート基材は、ポリオレフィン樹脂を使用したフラッシュ紡糸法による不織布(例えば旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ株式会社から市販されている「ルクサー(商標)」「タイペック(商標)」である必要がある。この不織布は、透湿性、防水性に優れるだけではなく、釘穴止水性についても優れている。特に特開平8-209867号公報に開示されている釘穴止水性の高い不織布を使用することが好ましい。
【0010】この不織布の物性としては、……、引張強度5kg/5cm巾以上、好ましくは8kg/5cm巾、更に好ましくは15kg/5cm巾以上を有することが必要である。」

(オ)「【0022】……。裏面の防滑加工は、屋根下地材と野地板との滑りを抑制するもので、施工時に人が滑りにくくするだけでなく、屋根下地材を固定しているタッカ及び釘部分での破けを抑制する。」

(カ)「【0024】本発明の屋根下地材は図1のように施工していくことが望ましい。図1において一般の家屋等の勾配屋根の野地板1の上面に、本発明に従う屋根下地材2(a)、2(b)をその一部が重なり部3を有するように敷設する。その屋根下地材2(a)、2(b)の表面に前記スポット状の凸部4が形成されている。図1の重なり部3における前記屋根下地材2(a)、2(b)の敷設状態を説明するための模式図である図2において、施工された時に上部に位置する屋根下地材2(b)の裏面において、その端部に線条の凸部5が複数条形成され、屋根下地材2(b)に対して野地板側に位置する屋根下地材2(a)の端部であって、屋根下地材2(b)の重なり部3に対応する部分に線条の凸部5が複数条形成されている。尚、本発明の屋根下地材においては、用いられる不織布シート材の端部にほぼ平行に線条の凸部を複数条設けることが好ましい。
【0025】前述の通り、本発明に従う屋根下地材を下ぶき材として使用し、複数枚をそれぞれの端部が部分的に互いに重なり合うように敷設するものであり、……」

(キ)「【0028】
【実施例】以下に示す実施例によって本発明における屋根下地材について具体的に説明する。尚、実施例における各物性は次の方法により測定した。
(1) 引張強力
JIS-L-1096引張強さ及び伸び率試験方法に準じ、巾3cm、長さ20cmのサンプルを定速伸張形テンシロン引張試験機を用いて、つかみ間隔10cm、引張速度20cm/minの条件で測定する。縦横各々n=5で測定し、平均値を得、両者の平均(kgf/3cm)で表す。」

(ク)「【0030】(4) 滑り性
一般家屋等の勾配屋根を想定して、縦182cm、横91cm、厚み12mmの耐水合板を45°の勾配に設置し、各試験サンプルの施工テストを行った。各サンプルは、タッカー及びスパイラル形状のスレート釘を用いて固定した。その後、3人の試験者がサンプル上に登り、歩行して滑りについて評価した。また、水をかけ、表面を湿潤状態にした際の滑りについても評価した。判定は、シート上で釘打ち作業が可能であるかどうかによって行った。判定結果は、以下の通りである。
釘打ち作業可能・・・・・・○
釘打ち作業不可能・・・・×」

(ケ)「【0032】(6) 引裂強力
JIS-P-8117の引裂強力試験(エレメンドルフ式)に基づき、縦横各n=5で測定し、その平均(kgf)で表す。
……
【0033】(実施例1)図1に示した屋根下地材2のシート基材として旭・デュッポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社から市販されている不織布「ルクサー(登録商標)H4080ZZ(目付:105g/m2、厚さ:0.31mm)を使用し、下記に示すようにホットメルト樹脂を用いたグラビアロールによって複数の独立した凸部3を所定のパターン及び高さ、また、端部から平行に巾3mm、高さ1mmの連続的に連結した線条の凸部を設け、裏面の滑止め加工としては、平均粒子経100ミクロンのシリカ粉体とバインダーとしてエマルジョン系アクリル-スチレン樹脂を混合した後、スプレー法によりほぼ均一に散布し、30g/m2(シリカ:約20g/m2、バインダー:約10g/m2)を付着、乾燥して、本発明の屋根下地材を得た。」

(コ)「【0035】(実施例2)図1に示した屋根下地材2のシート基材として、旭・デュッポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社の不織布「ルクサー(登録商標)H 4080ZZ(目付:105g/m2、厚さ:0.31mm)を用いて黄緑色をドット状(円状、面積率15%)にフレキソ印刷で着色した後、下記に示すようにホットメルト樹脂をノードソン株式会社のホットメルトガン及びホットメルトアプリケーター(MX4000series)を用いて、複数の独立した凸部3を所定のパターン及び高さに、また、同時に端部から平行に巾5mm、高さ1.5mmの連続的に連結した線条の凸部4を設けて、裏面に水溶性加熱型発泡インキ(AQフォーム:エチレン-酢酸ビニル共重合、樹脂系エマルジョン)をグラビア印刷機で点状(面積率約10%、固型分付着量:10g/m2)に散布し、本発明の屋根下地材を得た。」

(サ)「【0037】(比較例1)市販されている22kgアスファルトルーフィングを使用した。
(比較例2)旭・デュッポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社から市販されているフラッシュ紡糸不織布「タイペック(登録商標)1060B」を使用するが、本発明の防滑加工を施さないものを比較例2とし、これら実施例1、2及び比較例1、2についての評価結果を表1に示す。表1からわかるように従来品(比較例1)と比べて、目付が軽く、施工性がよく、引裂強力の点でも優れていることから、タッカ及び釘打ち部分の破れも生じにくいことがわかる。また、通常ハウスラップに用いられているフラッシュ紡糸不織布に本発明の防滑加工を施さないで屋根下地材として使用した場合(比較例2)と比較すると、透湿度の低下を最小限にとどめ、釘穴止水性及び滑り性を向上させていることがわかる。」

(シ)「【0038】
【表1】


【0039】次に実施例2の屋根下地材を用いて図2の示す重なり部3を有するように敷設した状態で傾き約30°の勾配屋根を想定して以下の条件で施工し試験を行なった。
- 屋根下地材はタッカー針約40ケ所/m2で厚み12mmの耐水合板に固定し、重なり部3の長さを15cmとした。
- タッカー針はJIS-S6036規定の3号つづり針を用いた。
- この屋根モデル(瓦なし)にシャワーテストを行った。
降水量:30mm/m2/hr
テスト時間:1hr
風:上り傾斜にそって、風速20m/s
シャワーテスト後、タッカー部の水漏れ及び重なり部からの浸入水で耐水合板が濡れているかを目視で判定したところ、耐水合板の濡れは見られなかった。この結果、本発明の屋根下地材は、タッカ針の止水性にも優れており、重なり部からの浸入水に対しても有効であることがわかる。
【0040】
【発明の効果】本発明の屋根下地材は、フラッシュ紡糸法ポリオレフィン系不織布シートからなる屋根下地材の少なくとも片面に防滑加工を施しながら、その下地材の優れた防水性、物理強度、釘穴止水性、透湿性を損なうことなく、優れた防滑性を与えることが可能となる。このように、フラッシュ防止法による不織布の表面にそれぞれが独立し、点在する複数の凸部を形成することにより屋根下地材として、施工時の滑り防止性(防滑性)を著しく改善させるために、勾配屋根の下ぶき施工時、また上ぶき材の施工時に作業者の転落事故及び施工用具の落下による事故を防ぐ効果が大きいと同時に、軽量のままで施工時の取扱いが著しく容易となる。……」

(ス)【図面の簡単な説明】において「本発明の屋根下地材を用いた下ぶき材施工を説明するための模式図である」とされている図1を、段落【0024】の「図1において一般の家屋等の勾配屋根の野地板1の上面に、本発明に従う屋根下地材2(a)、2(b)をその一部が重なり部3を有するように敷設する。」という記載とともに見ると、図面における下側(軒先側)から上側(棟側)に向かって上り勾配の勾配屋根の野地板1において、野地板1の上面のうち軒先側に屋根下地材2(a)を、野地板1の上面のうち棟側に屋根下地材2(b)を敷設し、屋根下地材2(a)の棟側の端部と、屋根下地材2(b)の軒先側の端部とが重なり部3を構成している態様が示されている。
また、【図面の簡単な説明】において「本発明に従う屋根下地材を用いて下ぶき材敷設の施工をした場合、その屋根下地材の重なり部の状態を説明するための模状図である」とされている図2を、段落【0024】の「図1の重なり部3における前記屋根下地材2(a)、2(b)の敷設状態を説明するための模式図である図2において、施工された時に上部に位置する屋根下地材2(b)の裏面において、その端部に線条の凸部5が複数条形成され、屋根下地材2(b)に対して野地板側に位置する屋根下地材2(a)の端部であって、屋根下地材2(b)の重なり部3に対応する部分に線条の凸部5が複数条形成されている。」という記載とともに見ると、図面における下側(軒先側)から上側(棟側)に向かって上り勾配の野地板1及びその上に敷設される屋根下地材2(a)、2(b)が示されているとともに、重なり部3において、軒先側に位置する屋根下地材2(a)の棟側の端部が下層に、棟側に位置する屋根下地材2(b)の軒先側の端部が上層になるように重なり合っている態様が示されている。

これらの記載事項及び図面を参照すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
(引用発明)
「野地板1と、瓦、スレート、金属板等の上ぶき材、及び上ぶき材の施工に先立って野地板1表面に敷設される下ぶき材としての屋根下地材2、とを具える一般の家屋等の勾配屋根であって、
屋根下地材2は、裏面に野地板との滑りを抑制するための防滑加工が施され、
屋根下地材2の複数枚は、それぞれの端部が部分的に互いに重なり合うように野地板1上に敷設され、軒先側に位置する屋根下地材2(a)の棟側の端部が下層に、棟側に位置する屋根下地材2(b)の軒先側の端部が上層になるように重なり合っており、屋根下地材2はタッカー針約40ケ所/m2で野地板1に固定されている勾配屋根。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「瓦、スレート、金属板等の上ぶき材、及び上ぶき材の施工に先立って野地板1表面に敷設される下ぶき材としての屋根下地材2」は、下ぶき材、上ぶき材が、野地板1表面に下ぶき材、上ぶき材の順で敷設されることが明らかであるから、本願補正発明の「野地板の上に順に敷設された屋根下葺き材および屋根上葺き材」に相当し、引用発明の「一般の家屋」は、本願補正発明の「建築物」に相当し、引用発明の「勾配屋根」は、本願補正発明の「屋根構造」に相当し、引用発明の「屋根下地材2の複数枚は、それぞれの端部が部分的に互いに重なり合うように野地板1上に敷設され、軒先側に位置する屋根下地材2(a)の棟側の端部が下層に、棟側に位置する屋根下地材2(b)の軒先側の端部が上層になるように重なり合っており」は、本願補正発明の「屋根下葺き材は野地板上に、屋根の軒先から棟に向かう方向に複数枚敷設され、屋根の軒先から棟に向かう方向に平行である各屋根下葺き材の横手方向の端部が、軒先側の屋根下葺き材を下層にするように所定の幅で部分的に互いに重なり合い」に相当し、引用発明の「タッカー針」は、本願補正発明の「つづら針」に相当する。(なお、前記「つづら針」は、JIS S 6036の規格名称が「ステープラ用つづり針」であること等からみて、正しくは「つづり針」であると認められるので、以下、本願明細書からの摘記箇所以外は、「つづり針」と表記する。)

以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、
「野地板と、前記野地板の上に順に敷設された屋根下葺き材および屋根上葺き材とを具える建築物の屋根構造であって、
前記屋根下葺き材は野地板上に、屋根の軒先から棟に向かう方向に複数枚敷設され、屋根の軒先から棟に向かう方向に平行である各屋根下葺き材の横手方向の端部が、軒先側の屋根下葺き材を下層にするように所定の幅で部分的に互いに重なり合い、屋根下葺き材はつづり針によって野地板に対して固定されている屋根構造。」で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本願補正発明では、屋根下葺き材が野地板との滑り摩擦抵抗値0.3以上を有したものであるのに対して、引用発明では、屋根下葺き材の裏面に防滑加工が施され、野地板との滑りが防止されているものの、屋根下葺き材の滑り摩擦抵抗値が不明である点。

〔相違点2〕
本願補正発明では、屋根下葺き材がつづり針保持強さ49.0N(5.0kgf)以上を有したものであるのに対して、引用発明では、屋根下葺き材のつづり針保持強さの数値が不明である点。

〔相違点3〕
屋根下葺き材がつづり針によって野地板に固定される際に、本願補正発明では、屋根下葺き材どうしの重なり合い部分のみが固定されるとともに、重なり部分の下層は200mm以下の間隔でつづり針によって固定されるのに対して、引用発明では、屋根下地材2(屋根下葺き材)はタッカー針(つづり針)約40ケ所/m2で野地板1に固定されると特定されているものの、屋根下葺き材のどの部分がつづり針によって固定されるのかが特定されておらず、また、つづら針の間隔が不明な点。

(4)判断
前記相違点について以下検討する。
〔相違点1について〕
本願補正発明の「屋根下葺き材は、野地板との滑り摩擦抵抗値0.3以上」という数値限定の技術的意義について本願明細書を参照すると、段落【0029】には、「本発明に使用される下葺き材と野地板との滑り摩擦抵抗値は、作業者の体重により生じる力で動かないことを規定した。これは、つづり針の固定箇所に力がかからないことおよび野地板と下葺き材が滑ると歩行時に不安感が生じることを防ぐ効果がある。」、段落【0030】には、「3寸勾配と仮定すると、下葺き材が動かないためには摩擦抵抗値(摩擦係数)>Tanθ=0.3となり、本発明の滑り摩擦抵抗値は0.3以上、好ましい範囲としては6寸勾配でも動かない0.6以上である。」という記載がある。
一方、引用文献1には、屋根下地材の裏面の防滑加工について、段落【0022】に、「裏面の防滑加工は、屋根下地材と野地板との滑りを抑制するもので、施工時に人が滑りにくくするだけでなく、屋根下地材を固定しているタッカ及び釘部分での破けを抑制する。」という記載がある(前記2.(2)(オ)参照)。
また、引用文献1には、屋根下地材2の裏面に滑止め加工を施した実施例1(段落【0033】参照)、及び実施例2(段落【0035】参照)について、一般家屋等の勾配屋根を想定して45°の勾配で耐水合板を設置することにより滑り性試験を行ない(段落【0030】参照)、段落【0038】の【表1】の試験結果に示されているとおり、ドライ状態、湿潤状態のいずれについても、シート上で釘打ち作業が可能であったことが記載されている(前記2.(2)(ク)(ケ)(コ)(シ)参照)。
以上のことからみて、引用発明の屋根下地材は、裏面の防滑加工によって、本願補正発明と同様に「作業者の体重により生じる力で動かない」ようにするものであり、また、滑りにくさを滑り摩擦抵抗値で特定することは普通に行われることであるから、引用発明において、滑りにくさを滑り摩擦抵抗値で特定し、その値を「0.3以上」と設定することは、当業者が適宜なしうるものである。
そして、本願補正発明において、「屋根下葺き材は、野地板との滑り摩擦抵抗値0.3以上」としている点について、本願明細書の段落【0029】、【0030】を参照すると、「本発明に使用される下葺き材と野地板との滑り摩擦抵抗値は、作業者の体重により生じる力で動かないことを規定した。これは、つづら針の固定箇所に力がかからないことおよび野地板と下葺き材が滑ると歩行時に不安感が生じることを防ぐ効果がある。」、「3寸勾配と仮定すると、下葺き材が動かないためには摩擦抵抗値(摩擦係数)>Tanθ=0.3となり、本発明の滑り摩擦抵抗値は0.3以上、好ましい範囲としては6寸勾配でも動かない0.6以上である。」といった記載がなされるにとどまっており、特に「野地板との滑り摩擦抵抗値0.3以上」としている点について顕著な効果も認められない。

〔相違点2について〕
本願補正発明の「屋根下葺き材は、つづら針保持強さ49.0N(5.0kgf)以上」という数値限定の技術的意義について本願明細書を参照すると、段落【0027】には、「下葺き材と野地板の摩擦抵抗が無いと想定した場合、3寸勾配に関しては作業者の体重を100kgとすると、1m当たり約245N(約25kgf)のつづら針保持強さが必要となる。したがって、少なくとも1カ所当たり49.0N(5kgf)のつづら針保持強さが必要であり、好ましくは68.6N(7kgf)以上である。」という記載がある。
この記載からみて、「つづら針保持強さ49.0N(5.0kgf)以上」という数値限定は、3寸勾配の屋根において、屋根下葺き材と野地板の摩擦抵抗が無く、作業者の体重100kgとし、1m当たり245÷49.0=5本のつづり針で屋根下葺き材を固定する、という条件において、屋根下葺き材上の作業者を支えることができるようなつづり針保持強さを規定したものであると認められる。
一方、引用文献1には、段落【0038】の【表1】に、実施例1、2の屋根下地材の引裂強力が縦2.4kgf、横2.8kgfであり、比較例1、2よりも大きい数値であることが記載されているとともに、段落【0037】に、実施例1、2の屋根下地材は「引裂強力の点でも優れていることから、タッカ及び釘打ち部分の破れも生じにくい」ことが記載されている(前記2.(2)(サ)(シ)参照)。また、屋根下地材の引張強力については、段落【0038】の【表1】に、実施例1、2の屋根下地材の引張強力が縦25.0kgf、横22.0kgfであることが記載されているとともに、段落【0010】に「引張強度5kg/5cm巾以上、好ましくは8kg/5cm巾、更に好ましくは15kg/5cm巾以上を有することが必要である」と記載されている(前記2.(2)(エ)(シ)参照)。
ここで、前記引裂強力及び引張強力の数値をつづり針保持強さに換算することは困難であるが、引用文献1には、屋根下地材の引裂強力及び引張強力の数値が大きい方が物理的強度についての評価が高いこと、及び「引裂強力の点で優れ」る、すなわち引裂強力が大きいほど、「タッカ及び釘打ち部分の破れが生じにくい」ことが開示されているから、引用発明において、つづり針保持強さをできるだけ大きい数値に設定すること、及び具体的に「49.0N(5.0kgf)以上」と設定することは、当業者が適宜なしうるものである。
そして、本願補正発明において、「屋根下葺き材は、つづら針保持強さ49.0N(5.0kgf)以上」としている点は、上記のとおり、屋根下葺き材上の作業者を支えることができるようなつづり針保持強さを本願明細書の段落【0027】にあるような前提条件の下に設定した値であって、そのような数値範囲に限定することによる顕著な効果も認められない。

〔相違点3について〕
本願補正発明のつづり針による固定間隔が「200mm以下」という数値限定の技術的意義について本願明細書を参照すると、段落【0026】には、「下葺き材の上部(重なり部分の下層)に使用するつづら針の間隔Iについては、下葺き材のつづら針保持強さ、下葺き材と野地板との摩擦抵抗値および勾配屋根部の傾斜角度により、作業者の体重を支える力が決定する。本発明者らのテストによると、つづら針の間隔Iが200mmより大きくなると、作業者の体重を支える力が分散されず、つづら針部分が破けやすく好ましくない。好ましい範囲としては50?150mm間隔である。」という記載がある。この記載からみて、つづり針の間隔は、「作業者の体重を支える力」の観点で設定されるものであり、200mmという数値は、「つづら針の間隔Iが200mmより大きくなると、作業者の体重を支える力が分散されず、つづら針部分が破けやすく好ましくない」ことから設定されたものであると解される。
ところで、建築物に設置する防水シートにおいて、隣り合う防水シートどうしが重なり合い、この重なり部分の下層のみで防水シートが釘又はネジ等で固定されるものは、例えば、特開平4-209239号公報(第2図)、実願平5-8445号(実開平6-62054号)のCD-ROM(図1?6)、特公平6-60522号公報(第1図)に記載されているように従来より周知の技術である。
そして、引用発明の屋根下葺き材は、防水性を有するものであり、一種の防水シートであるといえるから、引用発明に、前記防水シートに関する上記のような周知技術を適用することにより、屋根下葺き材どうしの重なり合い部分のみが固定されるとともに、重なり部分の下層はつづり針によって固定されるという構成とすることは当業者が容易に想到しうるものである。この際、固定用のつづり針の本数を増やして間隔を狭めれば、つづり針による「作業者の体重を支える力」が大きくなることは自明であるが、反面、施工の効率が低下することも明らかであるから、つづり針による固定間隔を「200mm以下」と設定することは、「作業者の体重を支える力」や「施工の効率」等を考慮して、当業者が適宜なしうることにすぎない。
そして、本願補正発明において、つづり針による固定間隔を「200mm以下」としている点は、上記のとおり、作業者の体重を支える力を分散し、つづり針部分が破れないように、つづり針による固定間隔の上限値を設定したものであって、そのような数値範囲に限定することによる顕著な効果も認められない。

本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものということができない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成18年1月27日付けの手続補正は前記のとおり却下されることとなるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年10月7日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「野地板と、前記野地板の上に順に敷設された屋根下葺き材および屋根上葺き材とを具える建築物の屋根構造であって、
前記屋根下葺き材は、野地板との滑り摩擦抵抗値0.3以上、およびつづら針保持強さ49.0N(5.0kgf)以上を有し、
前記屋根下葺き材は野地板上に、屋根の軒先から棟に向かう方向に複数枚敷設され、屋根の軒先から棟に向かう方向に平行である各屋根下葺き材の横手方向の端部が、軒先側の屋根下葺き材を下層にするように所定の幅で部分的に互いに重なり合い、重なり部分の下層は、200mm以下の間隔でつづら針によって野地板に対して固定されていることを特徴とする屋根構造。」

(1)引用文献
引用文献1の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から野地板に対する屋根下葺き材の固定に関して、「重なり合い部分のみがつづら針によって野地板に固定され」との限定を省略したものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含むものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-04 
結審通知日 2007-09-07 
審決日 2007-09-19 
出願番号 特願2001-90727(P2001-90727)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04D)
P 1 8・ 121- Z (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 3L案件管理書架D油原 博小島 寛史  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 宮川 哲伸
砂川 充
発明の名称 屋根構造及び屋根葺き材の施工方法  
代理人 阿部 和夫  
代理人 谷 義一  
代理人 阿部 和夫  
代理人 谷 義一  
復代理人 小林 武彦  
復代理人 小林 武彦  

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