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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1167322
審判番号 不服2005-1808  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-03 
確定日 2007-11-08 
事件の表示 特願2004-132839「柱状パターン付キャリヤ金属箔」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月19日出願公開、特開2004-235667〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年1月31日に出願した特願平6-9671号の一部を平成16年4月28日に新たな出願としたものであって、平成16年12月17日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年2月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成17年3月2日付で手続補正がなされたものである。そして、本願の請求項1?3に係る発明は、平成17年3月2日付の手続補正書の請求項1?3に記載されるとおりであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】キャリヤ金属箔と、厚さが前記キャリヤ金属箔よりも大である金属箔と、前記キャリヤ金属箔と前記金属箔との間に配置された前記金属箔とはエッチング条件の異なる金属薄層とを備えた3層金属箔の、前記金属箔をエッチングすることにより層間接続を行う柱状パターンを形成してなり、該柱状パターンの表面が防錆処理された柱状パターン付きキャリヤ金属箔。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願原出願前に頒布された刊行物である特開平5-299816号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

〔1〕引用例(特開平5-299816号公報)
〔1a〕「【請求項1】(1A)第一の金属によるキャリヤ金属箔の片面に第一の金属とエッチング条件が異なる第二の金属による薄層を形成し、
(1B)第二の金属による薄層の面に第二の金属とエッチング条件が異なる第三の金属による所定の配線パターンを形成し、かつこの第三の金属による所定の配線パターンの形成と同時に、第一の金属によるキャリヤ金属箔の第二の金属による薄層が形成されている面の反対面に、後工程で第一の金属によるキャリヤ金属箔の所望の部分をエッチング除去する際の基準となる位置合わせ用パターンを形成し、
(1C)所定の配線パターンが形成されたキャリヤ金属箔を配線パターン面が内側になるようにして絶縁基材と重ね合わせ配線パターンを絶縁基材内に埋め込み、
(1D)第一の金属によるキャリヤ金属箔及び第二の金属による薄層の所望の部分をエッチング除去する、
ことを特徴とする配線板の製造法。」

〔1b〕「【0005】本発明は、高密度、高精度の配線パタ-ンの形成が可能であるとともに、配線導体が基板に埋め込まれ表面が平滑な配線板を生産性よく製造する方法を提供するものである。」

〔1c〕「【0006】【課題を解決するための手段】図1により本発明の一実施例を説明する。キャリヤ金属箔1の片面にキャリヤ金属箔1とエッチング条件が異なる金属薄層2を設ける(図1(a))。キャリヤ金属箔1としては銅箔が一般的であるが、ステンレス板(箔)上に電気めっきで形成した銅箔なども適用できる。また、金属薄層2としてはニッケルや半田などが一般的であるが特に限定されるものではなく、成膜手段も電気めっきや無電解めっき及び真空成膜法などの適用が可能である。次に、金属薄層2上に金属薄層2とエッチング条件が異なる金属層3を設け3層箔を形成する(図1(b))。この場合、3層箔(金属箔1/金属薄層2/金属層3)の組合せとしては、例えば、銅箔/ニッケル薄層/銅層が挙げられる。なお、3層箔の各層厚さについては、特に限定はされないが、金属薄層2については、キャリヤ金属層1と金属層3に対するエッチング時のバリヤー効果が要求されるため、1?3μm程度の膜厚が必要である。
【0007】次に、3層箔の金属層3面に所定の配線パターン形成用のレジストパターン4とキャリヤ金属箔1面に所定の位置合わせ用パターン形成用のレジストパターン5をそれぞれ形成し(図1(c))、化学エッチングにより所定の配線パターン6及び位置合わせ用パターン7を形成後(図1(d))、レジストパターン4、5を剥離する(図1(e))。この場合、キャリア金属箔1/金属薄層2からなる2層箔の両面にレジストパターンを形成した後、めっきによって所望する配線パターンと位置合わせ用パターンを形成することも可能である。・・・・・。
【0008】次に、配線パターン6及び位置合わせ用パターン7が形成されたキャリヤ金属箔1を配線パターン6を内側にして絶縁基材8と重ね合わせて配線パターン6を絶縁基板8内に埋め込む(図1(f))。配線パターン6はプレス等熱圧着によって容易に絶縁基板8の樹脂内に埋め込むことができる。次に、キャリヤ金属箔1の露出面9を機械的に研磨し、レジスト層を形成後、位置合わせ用パターン7を基準にフォトマスクを使用して所望する領域のレジスト層を感光させ、現像により所定のレジストパターン10を形成した(図1(g))。続いて、化学エッチング法により所望する部分のキャリヤ金属箔及び金属薄層を除去して所定のパターン11を形成した(図1(h))。この場合、キャリヤ金属箔及び金属薄層をエッチング加工してなるパターン11はそのまま表面配線(配線パタ-ン)として利用できる他、例えば、更に多層化が必要な場合は、配線パターン6と上部配線層との接続部としても利用可能である。このようにして、配線パターン6を形成したキャリヤ金属箔面の反対面にフォトリソグラフ法を適用して形成した位置合わせパターン7を使用することにより、製造工程の短縮に加えて加工精度の向上を図ることができる。
・・・
【0012】次に、キャリア基板12を除去し(図2(f))、配線パターン15の絶縁保護のためにカバー材17をラミネートし、所望するフレキシブルプリント配線板(図2(g))を得る。こうして得られた配線板は、配線パターン15が絶縁フィルム基材16内に埋め込まれ平滑なパターンになることから、微細パターンへのはんだ接続時のブリッジ不良を発生しにくくすることができ、なおかつローラー圧延された金属箔配線パターンであることから繰り返し屈曲するような用途にも適用可能である。」

〔1d〕「【0014】図3は、本発明の更に他の一実施例を説明するものである。第一の金属によるキャリヤ金属箔18としての35μm厚みの銅箔(図3(a))の一方の表面に、第一の金属とエッチング条件が異なる第二の金属による薄層19としてニッケルを電気めっきで1μm厚み形成した(図3(b))後、感光性レジスト膜20を形成し、露光、現像することで深さ25μmの所定の配線パタ-ンの溝を形成した(図3(c))。その後、銅箔に給電する方法で、配線パタ-ンの溝底部に露出しているニッケル上に銅を20μm厚さ形成し、第二の金属とエッチング条件が異なる第三の金属による所定の配線パターン21とした。・・・・・」

〔1e〕「【0016】第一の金属によるキャリヤ金属箔18としては、銅箔の他ステンレス、アルミニムウ等任意の金属箔が使用でき、厚さは20?100μmが好ましい。第二の金属による薄層19の金属はニッケルの他アルミニウム、銅、チタン等任意の金属が使用でき、厚さは0.1?10μmが好ましく、形成法は電気めっき法、無電解めっき法、真空成膜法(真空蒸着法、スッパタリング法等)等任意のものが使用される。第三の金属による所定の配線パタ-ン21の金属としては銅が好ましい。第一の金属、第二の金属、第三の金属は、エッチングの条件が少なくとも第一の金属と第二の金属及び第二の金属と第三の金属で異なるものであれば良い。」

〔1f〕「【0022】【実施例】実施例1
外形350mm角、厚さ50μmの電解箔(日本電解(株)製、商品名SMR)の粗化処理面に厚さ1μmのニッケル及び厚さ25μmの銅をそれぞれ連続的に電気めっきで形成し、銅箔/ニッケル層/銅層からなる3層箔を形成した。ニッケルメッキは、ワット浴を使用し、電流密度2A/dm2で行った。銅めっきは、硫酸銅浴を使用し、4A/dm2で行った。次に、ヂュポン社製ドライフィルムレジスト(商品名、リストンT-1215)を両面にラミネートし、両面合わせマスクを使って露光後、現像により配線パターンに対応するレジストパターンを銅層面に、また、位置合わせ用パターンに対応するレジストパターンを銅箔側にそれぞれ形成した。この場合、位置合わせパターンとしては、4個のトンボマーク(直径5mm)を使用した。3層箔の前加熱条件は、80℃で15分とし、ラミネート条件は、圧力20psi、ロール温度104℃、送り速度0.5m/分で行った。露光量は、120mJ/cm2とし、トリクロロエタンで現像した。次に、カメリヤ(株)製両面エッチング装置を用いて、アルカリエッチング液(メルテックス(株)社製Aプロセス、液温度は40±3℃)により銅層と銅箔の所望する部分を両面同時にエッチング除去した。この場合、銅層及び銅箔エッチング時のスプレー圧力をそれぞれ4kg/cm2、1kg/cm2とすることにより、配線幅/配線間隔が150/150μmで配線厚さが35μmの配線パターンと深さ10μmのトンボマークをそれぞれ銅箔の表裏に同時に形成した。次に、塩化メチレンでレジストパターンを剥離後、配線パターンに黒色酸化処理を施し、プレスによって配線パターンが内側になるようにガラスエポキシ基材と加熱圧着した。プレス条件は、170℃、40kg/cm2で120分である。プレス後、キャリヤ銅箔面を機械研磨し、前述のトンボマークを基準点として再び所定のレジストパターンを形成した。レジストパターン形成条件は、前記の条件と同じである。更に、前述のアルカリエッチャントを用いてキャリヤ銅箔の所定の部分をエッチングした後、塩化メチレンでレジストパターンを剥離して所望する表面配線を得た。こうして得られた表面配線と既に形成されていた配線パターンとの位置精度は良好であた。以上は、キャリヤ銅箔を表面配線として使用する例であるが、多層板の層間接続部として使用することも可能である。その場合には、例えばキャリヤー銅箔をピラー状に加工し、更に絶縁樹脂層を設け、ピラー頭頂部を露出させた後、上部配線を形成する方法などが使用できる。」

3.当審の判断
3-1.引用例記載の発明
上記摘記〔1a〕によれば、引用例には、
(1A)第一の金属によるキャリヤ金属箔の片面に第一の金属とエッチング条件が異なる第二の金属による薄層を形成し、
(1B)第二の金属による薄層の面に第二の金属とエッチング条件が異なる第三の金属による所定の配線パターンを形成し、
(1C)所定の配線パターンが形成されたキャリヤ金属箔を配線パターン面が内側になるようにして絶縁基材と重ね合わせ配線パターンを絶縁基材内に埋め込み、
(1D)第一の金属によるキャリヤ金属箔及び第二の金属による薄層の所望の部分をエッチング除去する配線板の製造法が記載されている。
また、この製造法によって製造された配線板の全体、のみならず部分構造も記載されているといえる。このことは、本願発明が、多層配線板の製造法の発明が記載された原出願の明細書及び図面から、その部分構造としての本願発明を分割出願したことと軌を一にしている。
そして、摘記〔1c〕によれば、上記「(1C)所定の配線パターンが形成されたキャリヤ金属箔」には、「キャリヤ金属箔1の片面にキャリヤ金属箔1とエッチング条件が異なる金属薄層2を設け・・・次に、金属薄層2上に金属薄層2とエッチング条件が異なる金属層3を設け3層箔を形成する(図1(b))・・・次に、3層箔の金属層3面に所定の配線パターン形成用のレジストパターン4・・・を・・・形成し(図1(c))、化学エッチングにより所定の配線パターン6・・・を形成後(図1(d))、レジストパターン4・・を剥離」した3層箔が含まれている。
また同じく、摘記〔1c〕によれば、上記「(1D)第一の金属によるキャリヤ金属箔及び第二の金属による薄層の所望の部分をエッチング除去する」とは、「化学エッチング法により所望する部分のキャリヤ金属箔及び金属薄層を除去して所定のパターン11を形成」することを意味しており、該「パターン11」には、「更に多層化が必要な場合は、配線パターン6と上部配線層との接続部としても利用可能」(摘記〔1c〕【0008】)なパターンとし、更に「多層板の層間接続部として使用することも可能である。その場合には、例えばキャリヤー銅箔をピラー状に加工し」(摘記〔1f〕【0022】)としているから「ピラー状」なパターン、即ち層間接続用ピラー状パターンも含まれている。
そして、上記3層箔のキャリヤ金属箔及び薄層の所望の部分を化学エッチングにより層間接続用ピラー状パターンとし、且つ上記3層箔の金属層を化学エッチングにより所定の配線パターンとし、該配線パターン面を絶縁基材と重ね合わせ、該配線パターンを絶縁基材内に埋め込んだものは上記の配線板に該当するので、該絶縁基材内に埋め込まれ、上記層間接続用ピラー状パターンを担持した配線パターンは、該配線板の部分構造であるといえる。

次に、引用例に記載された3層箔の厚みについて検討する。
A:引用例の摘記〔1c〕によれば、3層箔の各層厚さについては、特に限定はされないが、金属薄層2については、1?3μm程度の膜厚が必要であること、
B:引用例の摘記〔1d〕によれば、第一の金属によるキャリヤ金属箔18として35μm厚みの銅箔の表面に、第二の金属による薄層19としてニッケルを電気めっきで1μm厚み形成した後、銅箔に給電する方法で、配線パタ-ンの溝底部に露出しているニッケル上に銅を20μm厚さ形成したこと、
C:引用例の摘記〔1e〕によれば、第一の金属によるキャリヤ金属箔18としては、厚さは20?100μmが好ましいこと、第二の金属による薄層19の金属はニッケルの他・・任意の金属が使用でき、厚さは0.1?10μmが好ましいこと、
D:引用例の摘記〔1f〕によれば、厚さ50μmの電解箔の粗化処理面に厚さ1μmのニッケル及び厚さ25μmの銅をそれぞれ連続的に電気めっきで形成し、銅箔/ニッケル層/銅層からなる3層箔を形成したこと、が記載されている。
ここで、上記A?Dによれば、3層箔の各層厚さについては、特に限定はされないものの、3層金属箔の各厚みとして、B:キャリヤ金属箔として35μm厚みの銅箔表面に、薄層としてニッケルを電気めっきで1μm厚み形成した後、ニッケル上に銅を20μm厚さ形成したこと、D:厚さ50μmの電解箔面に、厚さ1μmのニッケル、及び厚さ25μmの銅をそれぞれ連続的に電気めっきで形成した、銅箔/ニッケル層/銅層からなる3層箔も記載されているといえるから、第一の金属によるキャリヤ金属箔の厚さよりも小である第三の金属による銅層(金属層)を備えた3層箔が理解できる。

そうすると、引用例の摘記〔1a〕?〔1f〕をまとめると、引用例には、「第一の金属によるキャリヤ金属箔の片面に該キャリヤ金属箔とエッチング条件が異なる第二の金属による薄層を設け、
該箔層上に該薄層とエッチング条件が異なり、該キャリヤ金属箔の厚さよりも小である第三の金属による金属層を備えた3層箔の、該金属層面に所定の配線パターン形成用のレジストパターンを形成し、化学エッチングにより所定の配線パターン6を形成後、該レジストパターンを剥離した3層箔を、該配線パターン6面が内側になるようにして絶縁基材と重ね合わせ、該配線パターン6を該絶縁基材内に埋め込み、上記キャリヤ金属箔及び上記薄層の所望の部分をエッチング除去して該配線パターン6と上部配線層との層間接続用ピラー状パターン11を形成することにより、上記絶縁基材内に埋め込まれ、上記層間接続用ピラー状パターン11を担持した配線パターン」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3-2.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明においては、「第一の金属によるキャリヤ金属箔」の所望の部分をエッチング除去して該配線パターン6と上部配線層との層間接続用ピラー状パターン11を形成しており、厚みに関しても、引用発明の「第一の金属によるキャリヤ金属箔」は、第三の金属による金属層の厚さより大であるといえるから、引用発明の「第一の金属によるキャリヤ金属箔」は、本願発明の「金属箔」に相当するといえる。
又引用発明の「第二の金属による薄層」は、本願発明の「金属薄層」に相当し、引用発明の「キャリヤ金属箔の厚さよりも小である第三の金属による金属層」は、所望の部分をエッチング除去した層間接続用ピラー状パターン11を担持した配線パターンとなっているから、本願発明の「キャリヤ金属箔」に相当している。
ここで、引用例の摘記〔1c〕【0008】によれば、化学エッチングにより位置合わせ用パターン7を形成したものも「キャリヤ金属箔」としており、又【0012】によれば、「配線パターン15」を「金属箔配線パターン」としているから、引用発明の第三の金属による金属層面に、化学エッチングにより所定の配線パターンを形成したものも3層箔の一部分であって、当該配線パターン6は、配線パターンの形状とした金属箔であるともいえる。このことは、本願明細書には「金属箔」を定義する記載はなく、該「金属箔」がエッチングによって特定の形状としたものを含まないとする合理的な理由もなく、以下(本願発明と引用発明との態様について)で示すとおり本願発明と引用発明とは同じ態様を含んでいるから、そのように解釈できる。
更に、引用発明の「エッチング除去して該配線パターン6と上部配線層との層間接続用ピラー状パターン11を形成する」の「ピラー状パターン」は層間接続するものであって、その形状からしても、次に示すとおり周知である層間接続するための「柱状パターン」に相当することも自明である。

(「柱状パターン」について)
配線板において、層間接続を行う部材を柱状とすることはスルーホール導体、並びにめっき法による柱状パターン(必要ならば、特開昭63-244793号公報:特許請求の範囲1「・・(B)電気めっき法により該レジストホール部に柱状パターンを形成する・・」、特開昭58-184794号公報:「・・第2層回路との接続を行うために第1層回路12に部分的に銅メツキを施し、これによつて導電性の柱13を形成する。」(2頁左下欄末行?右下欄3行)参照)にみられるように通常行われていることであって、又特に上下配線層間の接続部をエッチングにより柱状に形成することは、次の周知例1、2にも記載されているように、本願の原出願前周知の事項であると認められる。

周知例1:特開平5-152764号公報
(周1a)「・・(1C)層間接続予定部にキャリヤ金属箔による層間接続用柱が残るようにキャリヤ金属箔をエッチングし・・」(【特許請求の範囲】【請求項1】)、
(周1b)「【0014】【実施例】実施例1・・・層間接続予定部分を円形パターンとして残るように露光・現像し、続いてアンモニウムアルカリ系のエッチング液にて銅箔のみをエッチング除去した。これによって、基板上は層間接続用の60μm径、18μm高円柱を除くと平坦化した。」(段落【0014】)と記載されており、
(周1c)【図1】には、層間接続用柱14が図示されている。

周知例2:特開平5-291744号公報
(周2a)「・・(2B)多層金属層の上層の金属層を、後の工程で層間接続用金属柱となる部分を残してそれ以外の部分を、下層の金属層とのエッチング条件の違いを利用して除去し・・」(【特許請求の範囲】【請求項2】)と記載されており、
(周2b)【図2】には、層間接続用金属柱25が図示されている。

そうすると、両者は、
「キャリヤ金属箔と、厚さが前記キャリヤ金属箔よりも大である金属箔と、前記キャリヤ金属箔と前記金属箔との間に配置された前記金属箔とはエッチング条件の異なる金属薄層とを備えた3層金属箔の、前記金属箔をエッチングすることにより層間接続を行う柱状パターンを形成してなり、柱状パターン付きキャリヤ金属箔。」で一致し、次の点で相違する。

相違点(イ):本願発明は、柱状パターンの表面が防錆処理されているのに対し、引用発明は、この点が記載されていない点。

(本願発明と引用発明との態様について)
本願発明は、上記特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、一貫して多層配線板の製造方法に関して記載されている。
即ち「【技術分野】【0001】本発明は多層配線板の製造方法に関する。」とし、
【課題を解決するための手段】として「【0005】本願の第一の発明は、(A1)キャリヤー金属箔の片面に後工程で層間接続部となる柱状パターンを形成し、(B1)柱状パターンを内側にして第一の絶縁基材と重ね合わせて柱状パターンを第一の絶縁基材内に埋め込み、(C1)キャリヤー金属箔を所望する第一の配線パターンに加工し、(D1)第一の配線パターン面を内側にして第二の絶縁基材と重ね合わせて第二の絶縁基材内に埋め込むとともに第一及び第二の絶縁基材を一体化させ、・・・・を形成する工程を含むことを特徴とするものである。
【0006】本願の第二の発明は、(A2)可とう性を有するフィルム基材上に金属薄膜を形成し、(B2)金属薄膜上に後工程で層間接続部となる柱状パターンを形成し、(C2)柱状パターンを内側にして第一の絶縁基材と重ね合わせて柱状パターンを第一の絶縁基材内に埋め込み、・・・・形成する工程を含むことを特徴とする多層配線板の製造法。」としている。
更に、唯一記載されている実施例1、2とも、層間接続用の柱状パターンの形成をめっきによることしか記載されていないから、本願発明の実施例とはいえないものである。そうすると、本願発明についての技術思想を裏付ける実施例の記載はもとより、明示すらなく、多層配線板の製造方法のその一部として理解できるに過ぎない。

その本願の明細書及び図面のなかで、本願発明の「キャリヤー金属箔」に関しては、【発明を実施するための最良の形態】中に「【0008】図1により本願の第一の発明を具体的に説明する。キャリヤー金属箔1の片面にレジスト膜を形成し、・・・次に電気めっきにより後工程で層間接続部となる柱状パターン2を形成後、レジストパターンを剥離する。・・・柱状パターン付きキャリヤー金属箔の製造方法としては、所定の厚さ(柱状パターン厚さ+キャリヤー金属箔厚さ)を有する金属箔上に所望する形状のレジストパターンを形成し、レジストパターン面から所定の深さまで化学的にエッチングする方法もある。・・・次に、柱状パターン2が形成されたキャリヤー金属箔1を柱状パターン面を内側にして第一の絶縁基材3と重ね合わせて柱状パターンを絶縁基材3内に埋め込む。」、
「【0009】次に、キャリヤー金属箔の柱状パターンを形成した面の反対面上にレジスト膜を形成し、・・・化学的エッチング法により第一の配線パターン4を形成する。・・・第一の配線パターンを内側にして第二の絶縁基材5と重ね合わせて第一の配線パターン4を第二の絶縁基材5内に埋め込むとともに、第一と第二の絶縁基材を一体化する(図1(d))。」と記載されている。
この【0008】【0009】によれば、キャリヤー金属箔の柱状パターンを形成した面の反対面上にレジスト膜を形成し、化学的エッチング法により第一の配線パターン4を形成するのであるから、キャリヤー金属箔はエッチング法により第一の配線パターン4を形成し、第一の配線パターンを内側にして第二の絶縁基材5と重ね合わせて第一の配線パターン4を第二の絶縁基材5内に埋め込むことが理解できる。

以上のとおり、本願発明においては、3層金属箔の「厚さがキャリア金属箔よりも大である金属箔」はエッチングされパターンとし、更に樹脂に埋め込まれることを前提とし、キャリア金属箔もエッチングされ第一の配線パターンを形成し、該第一の配線パターンを内側にして第二の絶縁基材内に埋め込まれる態様が記載されている。そして、引用発明においても、第三の金属による金属層がエッチングにより所定の配線パターンを形成し、絶縁基材に埋め込まれ、第一の金属によるキャリア金属箔もエッチングされ層間接続用パターンを形成し、絶縁基材に埋め込まれることになるから、両者は同じ態様を含んでいる。

3-3.相違点の検討
次に、上記相違点(イ)について検討する。
配線板において、導体パターンの表面を防錆処理することは、例えば次の周知例3、4にも記載されているように、本願の原出願前周知の事項であると認められる。

周知例3:特開平5-55750号公報
(周3a)「【0006】・・従来例による多層プリント配線板はその最外層の配線回路導体層4は通常、金属銅によって構成されたものであるが、金属銅は一般に酸化され易い金属であるため、最終仕上げ工程でその表面に耐熱性を有するプリフラックスやはんだレベラー等の防錆処理を施し、はんだ付けを良好に保つ方策がとられている。・・」
(周3b)「【0014】このような金属パラジウム層8を介してその表面に絶縁樹脂層を構成することにより、絶縁樹脂層9と内層の配線回路導体層7の密着性が著しく改善される理由としては、無電解めっき法によって析出した金属パラジウム層8の表面が極めて微細に粗面化された表面状態を呈し、且つパラジウム金属は耐腐食性に優れた金属であるため、層間の絶縁樹脂中に含まれるナトリウムやカリウム等のアルカリ金属類等により内層の回路を構成する銅金属の腐食を防止する効果によって・・」
(周3c)「【0018】・・・金属パラジウムの薄膜層8を最外層の配線回路導体層10の表面にも被覆したことである。
【0019】これによって、最外層の配線回路導体層10の防錆効果がより一層向上し、・・・」

周知例4:特開平5-37094号公報
(周4a)「【0016】防錆処理又は無電解金メッキを導体部分に施した後、ソルダーレジストを塗布する。最後に、接続部分を切り離して図2(d)に示す個別のプリント配線板34を製造することができる。」
(周4b)「【0017】プリント配線板の外形端面全周に導体を形成する場合には、ルータによる外形加工の際に個別基板に完全に切り離してから、・・・パネルメッキを実施する。次いで、図2(c)と同様な回路形成を行った後、防錆処理を行い、ソルダーレジストを形成してプリント配線板が完成する。」

してみると、引用発明においても層間接続用のパターンが錆びないように考慮しなければならないことは自明のことであるから、上記周知の事項である導体パターンの表面を防錆処理することを適用して上記相違点(イ)なる構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。

そして、本願発明の奏する効果も、引用例、及び周知例1?4の記載事項から予測することができる程度のものであって、格別顕著であるとは認められない。

なお、審判請求人は、審判請求書の平成17年4月6日付補正書で「つまり、本願発明は、近年要求されている極小径でかつ接続信頼性に優れた層間接続用導体を有する多層配線板を提供することを目的とするものであり、これを解決するために層間接続用導体となる柱状パターンをエッチング条件の異なる3層金属箔のエッチングにより形成した柱状パターン付きキャリヤ金属箔を提供することとし、これを用いることで微細配線形成性および層間接続信頼性に優れた多層配線板を提供することが可能となります。」(2頁5?10行)と主張する。
しかし、上記極小径でかつ接続信頼性に優れた層間接続用導体、及び微細配線形成性および層間接続信頼性に優れた多層配線板も、本願明細書によれば、具体的な実施例に基づく作用効果の記載がなく裏付けがないのであるから、格別顕著であるとは認められない。そして、本願明細書【0007】に記載された効果は、上記したとおり引用例、及び周知例1、2の記載から予測することができる程度のことであって、格別顕著であるとは認められないから、上記審判請求人の主張は採用することはできない。

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明、周知例1?4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-22 
結審通知日 2007-08-28 
審決日 2007-09-25 
出願番号 特願2004-132839(P2004-132839)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 正山 旭
市川 裕司
発明の名称 柱状パターン付キャリヤ金属箔  
代理人 三好 秀和  

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