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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680169 審決 特許
無効200680138 審決 特許
無効200680259 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  C09J
管理番号 1167890
審判番号 無効2006-80217  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-26 
確定日 2007-10-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3773861号発明「クロロプレンゴム系接着剤組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3773861号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1. 本件特許の手続
・特許出願 :平成14年2月4日(特願2002-26831号)
・特許権の設定登録日:平成18年2月24日
特許番号 :特許第3773861号
発明の名称:「クロロプレンゴム系接着剤組成物」
特許権者 :アイカ工業株式会社

2. 本件審判の手続
・審判請求 :平成18年10月26日
併せて甲第1?9号証、検甲第1号証提出
請求人 :コニシ株式会社
請求の趣旨:「第3773861号の特許を無効とする、
審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」
・答弁書提出・訂正請求:平成19年1月15日
併せて乙第1?4号証提出
・弁駁書提出:平成19年4月12日 併せて甲第10?18号証提出
・検証申出書提出:平成19年6月6日 併せて検証物指示説明書提出
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出:平成19年6月29日。
併せて甲第19号証提出
・上申書(請求人)提出:平成19年6月29日
併せて甲第20?26号証提出
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出:平成19年6月29日
併せて乙第5?22号証提出
・口頭審理 :平成19年6月29日
・第二上申書(請求人)提出:平成19年7月13日
併せて甲第27?35号証提出
・上申書(被請求人):平成19年7月13日付け(差出日同月17日)
併せて乙第23、25?30号証提出
・上申書(第2)(被請求人)提出:平成19年7月20日
併せて乙第24号証提出
・結審通知起案日:平成19年8月1日
・第三上申書(請求人)提出:平成19年8月2日
(本書面は、結審通知起案日後に提出されたものである。本合議体は、本書面の記載内容を検討し、審理再開の必要はないと判断した。)

第2 平成19年1月15日付け訂正請求について
1. 平成19年1月15日付けの訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)について下記(a)?(d)の訂正(以下、それぞれの訂正を「訂正(a)」、「訂正(b)」などという。)をするものである。
(a) 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1について、「・・・粘着付与樹脂・・・」を「・・・クロロプレンゴム100重量部に対して10?150重量部の粘着付与樹脂・・・」と訂正する。
(a’) 本件特許明細書の段落【0005】「上記課題の解決のため鋭意検討した結果、請求項1に記載の発明は、クロロプレンゴムと、粘着付与樹脂・・・」を「上記課題の解決のため鋭意検討した結果、請求項1に記載の発明は、クロロプレンゴムと、クロロプレンゴム100重量部に対して10?150重量部の粘着付与樹脂・・・」と訂正する。
(b) 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1について、「・・・メチルシクロへキサンを含み、トルエンを含まない有機溶剤・・・」を「・・・メチルシクロへキサン5?50%を含み、トルエンを含まない有機溶剤・・・」と訂正する。
(b’) 本件特許明細書の段落【0005】「・・・メチルシクロへキサンを含み、トルエンを含まない有機溶剤・・・」を「・・・メチルシクロへキサン5?50%を含み、トルエンを含まない有機溶剤・・・」と訂正する。
(c) 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(c’) 本件特許明細書の段落【0005】「請求項2に記載の発明は、有機溶剤にメチルシクロへキサンを5?50%使用した請求項1に記載のクロロプレンゴム系接着剤組成物である。」を削除する。
(d) 本件特許明細書の段落【0008】「・・・もしくは複数の組合わせから選ばれたのもである。そして、その添加料は、・・・」を「・・・もしくは複数の組合わせから選ばれたものである。そして、その添加量は、・・・」と訂正する。

2. 訂正(a)?(d)の訂正要件について
(1) 特許請求の範囲についての訂正(訂正(a)、(b)及び(c))について
ア. 訂正(a)は、請求項1の「粘着付与樹脂」のクロロプレンゴムに対する配合割合を、訂正(b)は、請求項1の「メチルシクロへキサン」の有機溶剤における配合割合を限定するものであり、訂正(c)は、請求項2を削除するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ. 訂正(a)及び訂正(b)について、訂正前の明細書(本件特許明細書)には、以下の記載がある。
「【0008】
本発明に用いる粘着付与樹脂とは、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系炭化水素樹脂、クマロン・インデン樹脂及びスチレン樹脂の少なくとも一種、もしくは複数の組合わせから選ばれたのもである。そして、その添加料は、全クロロプレンゴム100重量部に対して、一般には10?150重量部である。粘着付与樹脂の量がこの範囲より少なくなると十分な接着強度が発揮できず、多くなると接着強度は向上するが脆くなる可能性があるからである。
【0009】
本発明で用いるメチルシクロへキサンを含み、トルエンを含まない有機溶剤とは、メチルシクロヘキサンに、アセトンやMEK(メチルエチルケトン)などのケトン系、酢酸エチルや酢酸ブチルなどエステル系、n-ヘキサンやシクロヘキサンなどの炭化水素系、メタノールやエタノールなどのアルコール系などのトルエンを含まない溶剤を混合したものである。これらの組み合わせ並びに配合割合は適宜目的に応じて調整し、クロロプレンゴムや粘着付与剤の溶解性、乾燥性、タックの発現等を調整する。そして、この有機溶剤はメチルシクロへキサンを5?50%使用したものである。メチルシクロヘキサンの量がこの範囲より少なくなると十分な接着強度、安定性が得られにくく、多くなると接着剤の乾燥時間が長くなる傾向があるからである。」
以上によれば、訂正(a)に係る事項については、本件特許明細書段落【0008】に、訂正(b)に係る事項については、同段落【0009】に記載されていると認められるから、これらの訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ. 請求人は、訂正(a)及び訂正(b)の結果、訂正後の発明が「何らかの技術的意義を有し、訂正発明に特有の効果を奏すると、被請求人が主張するのであれば、この訂正は認められない」(弁駁書3頁8?13行)、「本件明細書に何ら技術的意義があるものとして記載されていない訂正・・・更にこれらの組合せを持ち出し、それが技術的意義のあるものと主張して進歩性を獲得しようとすることは、設定登録時の本件発明を実質的に変更するものである」(弁駁書5頁21?24行)などと主張する。
しかし、訂正後の発明が、訂正により訂正前の発明を新たな特定事項により減縮されたことに基づき、訂正前の発明の効果がさらに特定の効果を奏するものに限定されるという意味で「訂正発明に特有の効果」を奏するものとなることは当然のことである。そして、その「訂正発明に特有の効果」が訂正前の発明の具体的目的の範囲内における効果であれば、その「訂正発明に特有の効果」を奏することをもって、訂正(a)及び訂正(b)が実質上特許請求の範囲を変更するものということはできないと解される。
この点につき、検討すると、訂正(a)及び訂正(b)ついて、訂正前の明細書(本件特許明細書)の段落【0008】、【0009】には、上記のとおりの記載がある。
すると、訂正(a)で「粘着付与樹脂」を「クロロプレンゴム100重量部に対して10?150重量部の粘着付与樹脂」と訂正した結果、訂正前の発明は、その範囲外の「粘着付与樹脂の量がこの範囲より少なくなると十分な接着強度が発揮できず、多くなると接着強度は向上するが脆くなる可能性」が回避されるものとなり、訂正事項(b)で「メチルシクロへキサンを含み、トルエンを含まない有機溶剤」を「メチルシクロへキサン5?50%を含み、トルエンを含まない有機溶剤」と訂正した結果、訂正前の発明は、その範囲外の「この範囲より少なくなると十分な接着強度、安定性が得られにくく、多くなると接着剤の乾燥時間が長くなる傾向」が回避された接着剤となるという「訂正発明に特有の効果」を奏するものとなる。
そして、訂正前の発明の具体的目的は、「従来のクロロプレンゴム系接着剤が持つ課題、即ちトルエン使用に伴う室内環境汚染をなくし、なおかつ、溶剤の乾燥が速くなり過ぎ使用途中での結露の発生によるタック低減が無く、保存性、乾燥性並びに接着性能を確保する」(【0004】)ものであって、上記「訂正発明に特有の効果」は、「接着性能を確保する」などの訂正前の発明の具体的目的の範囲内における効果ということができる。
したがって、訂正(a)及び訂正(b)は、実質上特許請求の範囲を変更するものということはできない。
なお、請求人の主張の根拠とする、判決例(平成17年(行ケ)第10189号判決)は、訂正前に数値の臨界的意義が開示されていないとき、発明を臨界的意義を有する発明とする訂正についていうものであり、本件とは事案が異なるものである。
エ. よって、訂正(a)、(b)及び(c)は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。
(2) 発明の詳細な説明についての訂正(訂正(a’)、(b’)、(c’)及び(d))について
訂正(a’)、(b’)及び(c’)は、上記特許請求の範囲についての訂正(a)、(b)及び(c)に発明の詳細な説明の記載を整合させる訂正であって、不明りょうな記載の釈明を目的とするものに該当し、さらに、訂正(d)は、誤記の訂正を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
そして、訂正(a’)、(b’)、(c’)及び(d)は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正(a’)、(b’)、(c’)及び(d)は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

3. 小括
以上のとおり、訂正(a)?(d)は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。よって、本件訂正を認める。

第3 本件特許に係る発明
上記のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許に係る発明は、平成19年1月15日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「クロロプレンゴムと、クロロプレンゴム100重量部に対して10?150重量部の粘着付与樹脂と、メチルシクロへキサンを5?50%含み、トルエンを含まない有機溶剤と、を必須成分として含有することを特徴とするクロロプレンゴム系接着剤組成物。」(以下、「訂正発明」という。)

第4 特許を無効とすべき理由の要点
請求人が提出した審判請求書、弁駁書、検証申出書・検証物指示説明書、口頭審理陳述要領書、上申書、第二上申書、第三上申書、検甲第1号証、甲第1?35号証、その他によれば、請求人は、概ね、
(1) 訂正発明は、その出願前製造販売された検甲第1号証の缶に販売時に収容された接着剤であるから、公然知られた又は公然実施された発明である。
(2) 訂正発明は、甲第4号証及び甲第5?9号証(参考資料1を含む)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、訂正発明に係る特許は、特許法第29条第1項1号、同項2号及び同条第2項の規定に違反してされたものであって、同法123条1項2号の規定により無効とすべきものである、と主張すると認められる。
以下、それぞれ「無効理由(1)」、「無効理由(2)」という。
なお、平成19年6月29日付け口頭審理陳述要領書の「第3 無効理由1と無効理由2との関係」及び「第5 無効理由3の追加について」における無効理由の補正を許可しないことは、口頭審理において、確認したとおりである。

第5 被請求人の反論の要点
被請求人が提出した答弁書、口頭審理陳述要領書、上申書、上申書(第2)、乙第1?30号証、その他によれば、被請求人は、審判請求人の上記無効理由(1)、(2)は理由がなく、訂正発明に係る特許は、特許法第29条第1項1号、同項2号及び同条第2項のいずれの規定に違反して特許されたものではないから、同法123条1項2号の規定により無効とすべきものではない、と主張すると認められる。

第6 無効理由(1)について
1. 請求人の主張
訂正発明は、以下の理由により、その出願前製造販売された検甲第1号証(検甲1)の缶に販売時に収容された接着剤であるといえるから、その出願前公然知られた又は公然実施された発明である、と主張する。
(1) 検甲1の缶に販売時に収容された内容物の成分及び配合割合について
検甲1の缶に販売時に収容された内容物は、その缶胴の記載によれば、「コニシ株式会社」の「ボンド G10」であり、「ボンド G10」はクロロプレン系接着剤である(以下、検甲1の缶に販売時に収容された内容物の接着剤を「検甲1接着剤」という。)。
検甲1接着剤は、甲第11号証に記載される「G10(改良H)」という製品であるから、その成分及び配合割合は、「G10(改良H)」の成分及び配合割合と同じである。
「G10(改良H)」の成分及び配合割合は、訂正発明の接着剤の成分及び配合割合に包含されるものである。
よって、訂正発明は、検甲1接着剤を包含するものである。
(2) 検甲1接着剤が公然知られた又は公然実施されたものであることについて
ア. 検甲1の缶胴の「コニシ株式会社」の大阪及び東京の住所は、それぞれ、平成元年2月13日及び昭和62年1月1日の住所表示変更前のものである。そして、これらの表示はこのような変更が有れば直ちに変更される性格のものであるから、検甲1接着剤はこれらの住居表示以前、すなわち、本件特許の出願前に製造販売されたものであることが明らかである。
イ. 検甲1の缶蓋に付された文字はロット表示を示すものであり、そのロット表示によれば検甲1接着剤は昭和54年に製造されたものであることが示されるから、検甲1接着剤は、本件特許の出願前に製造販売されたものであることが明らかである。
ウ. 検甲1の錆び具合や退色の具合によっても、検甲1接着剤は、本件特許の出願前に販売されたものであることは明らかである。
エ. 陳述書(甲第1号証及び甲第32号証)によれば、平成19年7月8日から18年以上前に陳述者の父によって購入されたものであるから、検甲1接着剤は、本件特許の出願前に販売されたことは明らかである。
オ. よって、検甲1接着剤は、本件特許の出願前に販売されたものである。
(3) 以上によれば、訂正発明は、その出願前に公然知られた又は公然実施された発明である。

2. 被告の反論
(1) 検甲1接着剤の成分及び配合割合について
ア. 「G10」なる品名を持つ商品の配合割合は変動している可能性がある。
検甲1の缶の内容物は、「G10」なる品名を持つ商品としても、検甲1接着剤の成分及び配合割合が、甲第2号証、甲第3号証、甲第11号証などに記載されている「G10」なる品名のものの成分及び配合割合と同じであるとはいえない。
よって、検甲1接着剤の成分及び配合割合は、特定することはできないから、訂正発明と同じであるということはできない。
イ. 検甲1の缶胴の「成分」の記載において、「粘着付与樹脂」が記載されておらず、メチルシクロヘキサンの配合割合も記載されていない。「粘着付与樹脂」が記載されていないのであるから、検甲1接着剤には「粘着付与樹脂」が含まれないものである。さらに、メチルシクロヘキサンの配合割合も不明である。
よって、検甲1接着剤の成分及び配合割合は、訂正発明と同じであるということはできない。
(2) 検甲1接着剤が公然知られた又は公然実施されたものであることについて
ア. 会社の住居表示の変更があったとしても、缶の住居表示は直ちに変更されるものではなく、旧表示のままのこともあるから、検甲1接着剤がこれらの住居表示以前に製造販売されたということはできない。
よって、検甲1接着剤は、本件特許の出願前に製造販売されたものであるということはできない。
イ. 検甲1の缶蓋の記載が何を意味する記号か不明であってロット表示であるか否かは不明である。仮にロット表示であるとしても、請求人が主張する読み方が正しいとする根拠はないから、検甲1接着剤が請求人が主張する時期に製造販売されたということはできない。
よって、検甲1接着剤は、本件特許の出願前に製造販売されたものであるということはできない。
ウ. 甲第1号証の陳述書の記載からは、誰が何時購入したかは不明であるから、検甲1接着剤が本件特許の出願前に販売されたということはできない。そもそも上記陳述書は請求人であるコニシ株式会社の利害関係人が作成したものであるから信用できない。
よって、検甲1接着剤は、その出願前に販売されたということはできない。
(3) したがって、訂正発明は、その出願前に公然知られた又は公然実施された発明であるとはいえない。

3. 当審の判断
検甲1の缶に販売時に収容された内容物(検甲1接着剤)の成分及び配合割合並びに検甲1接着剤が本件特許の出願前に公然知られた又は公然実施されたものであるか否かについて争いがあるから、以下、この順に検討する。
(1) 検甲1接着剤の成分及び配合割合について
ア. 証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア-1) 検甲第1号証について
検甲第1号証の物件(検甲1)は、缶であり、検証によれば、以下のとおりのものである。
(ア-1-a) 缶蓋に「U」のようにみえるもの、及びこれに続けて、「791151」
なる記号が存在する。
(ア-1-b) 背面左やや下部の「家庭用品品質表示法に基づく表示」の表の上に
「コニシ株式会社〔U〕
●本社
大阪市東区道修町2-6
●東京
東京都中央区日本橋室町4-5(近三ビル)
●営業所
札幌/仙台/静岡/名古屋
金沢/高松/広島/福岡」
の縦書き印刷がある。
(ア-1-c) 正面上部に
「速乾
ボンド
化粧板用強力接着剤
G10」
正面下部に
「コニシ株式会社」
の横書き印刷がある。
(ア-1-d) 背面左やや下部の表に
「家庭用品品質表示法に基づく表示」
「品名:合成ゴム系接着剤」
「成分:合成ゴム(23%) クロロプレンゴム
有機溶剤(77%) シクロヘキサン・ヘプタン・MEK・ メチルシクロヘキサン」
「毒性:毒性あり」
「用途: ◎ゴム・皮・布・コンクリート用
接着力 ○木材・硬質プラスチック用
(注、◎○の記号は接着力の程度を示す。)」
「正味量:500g」
「取扱上の注意
●幼児の手の届かない所に保存し、いたずらをしないよう注意すること。
●接着以外には使用しないこと。
●火気のあるところでは使用しないこと。
●多量に使用するとき、および多量に使用したあとしばらくの間は換気をよくすること。
●有機溶剤が含まれているので、吸うと有害でくせになり、健康を害することがあるので故意に吸わないこと。」
の横書き印刷がある。
(ア-1-e) 正面右側やや下部の枠内に
「乱用防止対策品」
その左隣接枠に
「トルエン・酢酸エチル・メタノールを含みません。」
の縦書き印刷がある。
(ア-1-f) 蓋縁、缶上部縁と蓋縁との間隙、缶上端及び下端金属部分の縁に錆がみられる。
正面側地色が黄色地で、背面側地色が橙色地である。
正面右側部の缶上部縁と蓋縁との間隙に白色がかった固体が充填している。
固体が充填している位置に対応する缶胴上部に缶縁に沿って帯状褐色汚染部、その汚染部から垂れた跡のような褐色の汚染部、垂れ跡の中間から左斜め下に線状の褐色の汚染部がある。
(ア-1-g) 背面右側に
「建材・木工用合成接着剤
速乾 ボンド G10 ●よく攪拌して御使用下さい
速乾 ボンド G10は合成ゴム系の溶剤型接着剤です。乾燥が特に早く、しかも初期粘着力がかなり強いので、両面に塗布後貼合わせるまでの時間が短くてすみ、その上、長時間圧締する必要はありません。
〈用途〉
化粧合板、メラミン化粧板、硬質プラスチックス、スレート及び金属板などを木材に接着する時、木材同士の接着で圧締しにくい時。
〈使用法〉
一、接着面の処理-接着面は汚れがなく、平滑で、乾燥した状態でな ければなりません。木材面の凹凸はサンドペーパー等で平滑にし、金属面の錆もサンドブラスト、サンドペーパー等で研磨して落します。油やグリス等は、シンナーや溶剤を含ませた清潔な布で、よく拭き取ります。
二、塗布及び接着方法-刷毛、ヘラ、スプレダーを用い、一平方米当 り二○○?三○○gずつ両面に塗布して下さい。吸収しやすい木材面などにはやゝ多めの方が適します。すぐ貼合わさず、少なくとも五分、できれば一○分?二○分乾燥してから正しい位置に貼合わせ、ハンドローラーまたは木槌等で叩いてよく圧着して下さい。
両面に塗布したものを赤外線にあてれば、一?二分で乾燥し、直ちにローラープレスで接着すると、接着作業が半連続的にできます。
〈注意事項〉
一、火気厳禁(煙草、マッチ、ストーブ、溶接の火花、電気のスパーク、静電気など。)
二、溶剤を長時間吸込まぬよう換気の良い所で使用して下さい。
三、皮膚に付着した場合は溶剤(シンナー)で拭き取り石鹸で水洗いして下さい。
四、よく攪拌して使用して下さい。
五、刷毛などの洗浄にはトルエン、アセトン、ラッカーシンナー、Gシンナー等を用いて下さい。
六、使用後は容器の蓋をしっかり締めて下さい。」
の縦書き印刷がある。
(ア-1-h) 正面右側上の枠に
「本品はベンゾールを含有せず」
その下の枠に
「合成ゴム系接着剤」
正面右側下の枠に
「火気厳禁」
その下隣接枠に
「第四類第一石油類」
その下に
「NET.500g」
の横書き印刷がある。
(ア-2) 「ボンド G10」の成分及び配合割合に関する証拠について
(ア-2-1) 商品名「速乾ボンドG10」の「製品情報データシート」(記入日:1993年9月1日)(甲第2号証)には以下の記載がある。
(ア-2-1-a) 「*1.商品名」の項に「(速乾)ボンドG10」
(ア-2-1-b) 「*2.成分・組成」の項に
「1kg以上の製品
主成分 50%
クロロプレンゴム
フェノール樹脂
有機溶剤 50%
トルエン 25-35%
n-ヘキサン 5-15%
酢酸エチル 5-15%」
「0.5kg以下の製品
主成分 23%
クロロプレンゴム
フェノール樹脂
有機溶剤 77%
シクロヘキサン
n-ヘプタン
メチルシクロヘキサン 酢酸イソプロピル <5%
メチルエチルケトン10-20% 酢酸ブチル <5%」
(ア-2-1-c) 「4.性状・外観について」の項に
「剤形:溶剤形」
「色:淡黄褐色」
「臭い:トルエン臭(1kg以上)」
「包装単位:1kg、1.5kg、3kg、15kg
0.5kg、170ml」
「容器の形、特徴等:金属缶入
チューブ(170ml)」
「pH(原液及び使用濃度):中性」
(ア-2-2) 「コニシ株式会社」の「製品安全データシート K01-309」(訂正・2001年1月)(甲第3号証)には以下の記載がある。
(ア-2-2-a) 「製品名(化学名、商品名等)商品名:ボンドG10(チューブ)」
(ア-2-2-b) 「物質の特定 ・・・成分及び含有量:」として
「 成 分 質 量 %
クロロプレンゴム ┐
フェノール樹脂 │ 20?30
金属酸化物 ┘
有機溶剤 70?80
シクロヘキサン 25?35
メチルエチルケトン 10?20
メチルシクロヘキサン 5?15
ノルマルヘプタン 5?15
アセトン 1?5
酢酸イソプロピル 1?5
酢酸ブチル 1?5
合計 100」
(ア-2-3) 「コニシ株式会社」の「新製品届」(昭和52年11月11日)(甲第11号証)以下の記載がある。
・「新製品届(その1)」(第1頁)に
(ア-2-3-a) 「コニシ株式会社 新製品届(その1) 昭和52年11月11日」
(ア-2-3-b) 「分類 ゴム G10系
品名 G10 (改良H)」
(ア-2-3-c) 「(開発事業所) 浦和研究部」
(ア-2-3-d) 「成分 ポリクロロプレン、
フェノール樹脂」
(ア-2-3-e) 「規格 ・・・
固形分 22?24%」
(ア-2-3-f) 「特徴 G10低毒性タイプで乱用防止対策品」
(ア-2-3-g) 「包装容器 0.5kg×24缶詰ダンボールケース」
・「新製品届(その2)」(第2頁)に
(ア-2-3-h) 「G10 (改良H)」
(ア-2-3-i) 「(配合表)」の原料名及び配合比の欄に
「1 ネオプレン■ 30
2 ネオプレン■ 20
3 酸化マグネシウム■ 7
4 活性亜鉛華■ 2
5 電化クロロプレン■ 50
6 BHTスワノックス 2
7 酢酸ブチル 15
8 酢酸イソプロピル 15
9 MEK 110
10 N ヘプタン 50
11 混合シクロヘキサン 228
12 スミライトレジンPR555 20
13 CKM■ 10
14 フェノールレジンpp4357 10
15 メチルシクロヘキサン 85
16 酸化マグネシウム■ 4
17 水 0.8
合計 658.8」
(ア-2-3-j) (製造工程)の「製造法」の欄に「溶剤比(%) MEK 16.63 メチルシクロヘキサン 12.9 混合シクロ 34.60 N ヘプタン 7.58 酢酸ブチル 2.27 酢酸イソプロピル 2.27」
(ア-2-3-k) (製造工程)の「検査項目」の欄に「外観」が「淡黄色粘稠液」、「粘度」が「3500?5000cps(25℃)」、「不揮発分」「22?24%(理論値23.22%)」、「比重」が「0.855」
(ア-2-4) 「製造作業標準」「G10系」(コニシ株式会社 鳥栖工場 平成5年2月4日作成)(甲第35号証)には以下の記載がある。
(ア-2-4-a) 「製品名」が「G10H」
(ア-2-4-b) 「基準年月日:昭和53年1月7日」及び「基準倍率:基準×4」
「外観」が「黄色高粘度液」、「粘度(mPa 3)」が「3、500?5、000 ロータNo.3、12r/min」、「不揮発分(%)」が「22.0?24.0」
(ア-2-4-c) 「工程」「原料名」「仕込量(kg)」「製造操作の手順」の見出しの表に
工程1の原料名及び仕込量(kg)がそれぞれ
「メチルシクロヘキサン 340|00
ノルマルヘプタン 200|00
シクロヘキサン 912|00
スミライトレジンPR555 80|00
ショウノールCKM■ 40|00
レヂトップPS2657 40|00
キョーワマグ■ 16|00
水 3|20」
工程2の原料名及び仕込量(kg)がそれぞれ
「酢酸ブチル 60|00
酢酸イソプロピル 60|00
MEK 440|00
スミライザーBHT(#10) 8|00」
工程3の原料名及び仕込量(kg)がそれぞれ
「クロロプレン■ 200|00
ネオプレン■ 120|00
ネオプレン■ 80|00
キョーワマグ■ 28|00
アゾ亜鉛華■ 8|00」
工程4の原料名及び仕込量(kg)がそれぞれ
「メチルシクロヘキサン
シクロヘキサン
ノルマルヘプタン
MEK」
「仕込量(kg)」の「合計」が「2、635|20」
「調整溶剤比」が「メチルシクロヘキサン 15
シクロヘキサン 45
ノルマルヘプタン 10
MEK 30」
(ア-2-5) 「コニシ株式会社」の「BOND TECHNICAL REPORT」「速乾 ボンドG10」であって最終頁右下の記載が「58.2」のもの(甲第13号証)、同「87.1」のもの(甲第14号証)、同「90.10」のもの(甲第15号証)にはそれぞれ以下の記載がある。
(ア-2-5-a) 「■性状」の表に
「外観 淡黄褐色粘稠液
主成分 クロロプレンゴム・フェノール樹脂
主溶剤 ※トルエン、ノルマルヘキサン
蒸発残分 22?24%
粘度 3500?5000cps/25℃
比重 0.87/20℃
指触乾燥時間 約5分
粘着保持時間 約60分/20℃」
(ア-2-5-b) 「■性状」の表下欄外に
「※0.5kg入りは乱用対策済み」
(ア-2-5-c) 「■容量」の項に
「0.5kg、1kg、1.5kg、3kg、15kg缶入り」
(ア-2-6) 「コニシ株式会社」の「ボンド製品一覧表」の最終頁右下の記載が「56.5」のもの(甲第16号証、乙第1号証)、同「61.4」(乙第2号証)、同「88.1」(乙第3号証)には、「クロロプレン系合成ゴム溶剤型」の項があり、そこにおける「品名」に「G2」、「G10」、「G11」、「G12」・・・などが列挙されている。その「G10」について、それぞれ以下の記載がある。
(ア-2-6-1) 「56.5」のもの(甲16、乙1)には、「蒸発残分%」が「22?24」、「粘度(CPS/25℃)」が「3、500?5、000」、「主溶剤」が「同上」(審決注・上の記載は「トルエン」)、「包装容量」が「0.5kg、1kg、1.5kg、3kg、15kg缶」と記載されている。
(ア-2-6-2)「61.4」のもの(乙2)には、「不揮発分%」が「22?24」、「粘度(CPS/25℃)」が「3、500?5、000」、「主溶剤」が「同上」(審決注・上の記載は「トルエン」)、「包装容量」が「0.5kg、1kg、1.5kg、3kg、15kg缶」と記載されている。
(ア-2-6-3)「88.1」のもの(乙3)には、「不揮発分%」が「23.0±1.0」、「粘度(CPS/25℃)」が「4250±750」、「主溶剤」が「同上」(審決注・上の記載は「トルエン」)、「包装容量」が「0.5kg、1kg、1.5kg、3kg、15kg缶」と記載されている。
イ. 以上によれば、検甲1の缶胴の「速乾 ボンド 化粧板用強力接着剤 G10」(摘記ア-1-c)、「品名:合成ゴム系接着剤」(摘記ア-1-d)、「コニシ株式会社」(摘記ア-1-b、c) の各表示から、検甲1の缶は、コニシ株式会社が製造した「G10」という品名の接着剤が収納されたものであることが認められ、この缶はその接着剤を家庭などに販売するためのもの(このことは、例えば、その缶胴の「家庭用品品質表示法に基づく表示」の欄(摘記ア-1-d)等参照)であることは明らかである。
すると、検甲1の缶に製造販売時に収容された内容物(検甲1接着剤)は、コニシ株式会社が製造した「G10」という品名の接着剤であるということができる。
そして、コニシ株式会社が製造した「G10」という品名の接着剤について、検甲1の缶胴の「家庭用品品質表示法に基づく表示」(摘記ア-1-d)の欄に「成分」として、「合成ゴム(23%) クロロプレンゴム」、「有機溶剤(77%) シクロヘキサン・ヘプタン・MEK・メチルシクロヘキサン」と、「正味量」として「500g」と、それぞれ表示され、また、検甲1の缶胴に「乱用防止対策品」、「トルエン・酢酸エチル・メタノールを含みません。」(摘記ア-1-e)、「合成ゴム系接着剤」(摘記ア-1-h)とそれぞれ表示されている。
以上の検甲1の缶胴の表示によれば、検甲1接着剤は、コニシ株式会社の「G10」という品名の合成ゴム系接着剤であって、「乱用防止対策品」であり、有機溶剤にメチルシクロヘキサンを含み、トルエンを含まないもので、検甲1に正味量で500g収容されたことが認められる。
しかし、検甲1の成分表示には、少なくとも溶剤の配合割合は記載されていないから、検甲1接着剤の成分及び配合割合の詳細は、検甲1の表示のみからは、明らかではない。
ウ. そこで、コニシ株式会社の「G10」という品名の接着剤について検討する。
コニシ株式会社の「G10」という品名の接着剤は、昭和56年5月(甲16、乙1)、昭和61年4月、昭和63年1月にそれぞれ印刷されたと認められる「ボンド製品一覧表」(甲16、乙1?3)に、コニシ株式会社の「ボンド製品」の一つとして記載されていることが認められる。これらの一覧表には多種類の「ボンド製品」について、それぞれの品名ごとに「主用途」、「蒸発残分%」、「粘度(CPS/25℃)」、「主溶剤」などが記載されていることが認められる。そして、「G10」という品名の接着剤の「主溶剤」は「トルエン」と記載され、「包装容量」は「0.5kg、1kg、1.5kg、3kg、15kg缶」(摘記ア-2-6)と記載されていることが認められる。
また、昭和58年2月(甲13)、昭和62年1月(甲14)、平成2年10月(甲15)にそれぞれ印刷されたと認められる「BOND TECHNICAL REPORT」「速乾 ボンドG10」(甲13?15)は、コニシ株式会社の「G10」という品名の製品について、「ボンド製品一覧表」(甲16、乙1?3)より詳細に記載するものであることが認められる。
これらによれば、コニシ株式会社の「G10」という品名の製品には少なくとも昭和58年2月ころから平成2年10月ころをとおして、「主溶剤」が「トルエン」などで1kg、1.5kg、3kg、15kg缶入りの製品の他に、「主溶剤」が「乱用対策済み」(摘記ア-2-5-b)である0.5kg缶入りの製品があることが認められる。なお、この「乱用対策済み」における「乱用」とは、「接着剤中の溶剤」であるトルエン等を吸入する、いわゆる「シンナー遊び」(甲第17号証)であるから、「乱用対策済み」とは、トルエン等を吸入するいわゆる「シンナー遊び」防止対策をとった製品であると認められる。
さらに、1993年(平成5年)9月1日に記入されたことが認められる「製品情報データシート」(甲2)によれば、「G10」という品名の製品には「1kg以上の製品」と「0.5kg以下の製品」の2種の成分及び配合割合のものがあることが認められ、前者の有機溶剤にトルエンが含まれること、後者の有機溶剤の配合割合は77%であり有機溶剤にメチルシクロヘキサンが含まれトルエンが含まれないこと(摘記ア-2-1-b)が認められる。
以上、甲2、13?16、乙1?3によれば、コニシ株式会社の「G10」という品名の製品は少なくとも昭和56年5月ころから平成5年9月ころまでの間をとおして製造販売された合成ゴム系接着剤であって、その有機溶剤の主溶剤がトルエンのもののほか、有機溶剤にメチルシクロヘキサンが含まれトルエンが含まれない0.5kg缶入りの製品が存在したことが認められる。そして、後者は、甲13?15でいう「乱用対策済み」の製品であると認められる。
エ. コニシ株式会社の「G10」の製品のうちの「乱用対策済み」の製品の成分及び配合割合について
(エ-1) コニシ株式会社の「G10」の製品のうちの「乱用対策済み」の製品である甲2の「0.5kg以下の製品」(以下「甲2製品」という。)の成分及び配合割合は、摘記ア-2-1-bに記載されるものであるが、この記載では有機溶媒の配合割合の詳細は不明である。
(エ-2) コニシ株式会社の「G10」の製品について記載するものとして「新製品届」(甲第11号証)がある。
この「新製品届」(甲11)によれば、「G10(改良H)」という接着剤について「コニシ株式会社」(摘記ア-2-3-a)において昭和52年11月11日付けで「新製品届」(摘記ア-2-3)がされたこと、その新製品「G10(改良H)」は「ゴム G10系」(摘記ア-2-3-b)に分類されるもので「(配合表)」(摘記ア-2-3-i)とおりの成分及び配合割合のクロロプレン系接着剤組成物であること、その有機溶剤はメチルシクロへキサンを含みトルエンを含まないものであること、がそれぞれ認められる。
そして、その「改良」とは、「低毒性タイプで乱用防止対策」(摘記ア-2-3-f)をしたことであると認められ、その包装容器は0.5kg缶(摘記ア-2-3-g)であることが認められる。
すると、「G10(改良H)」は、コニシ株式会社の「G10」の製品のうちの「乱用対策済み」の製品であるということができる。
(エ-3) 甲2製品の成分及び配合割合と「G10(改良H)」の成分及び配合割合の対比
コニシ株式会社の「G10」の製品のうちの「乱用対策済み」の製品であると認められる甲2製品の成分及び配合割合と「G10(改良H)」の成分及び配合割合を対比すると、有機溶剤とその余の成分(クロロプレンゴム、アルキルフェノール樹脂及び金属酸化物などの不揮発分)の割合は、甲2製品は23%で「G10(改良H)」は23%(摘記ア-2-3-k)であることが認められる(なお、甲2には「金属酸化物」の明示の記載がないが、これは、その文書が「中毒」の恐れがある成分を記載する性格のものであるところ、そのような成分ではない「金属酸化物」の記載が省略されたと認められる。また、これらの%の単位は、当業界に慣用される重量であると認められる。)すると、有機溶剤とその他(クロロプレンゴム、アルキルフェノール樹脂及び金属酸化物等の不揮発分)の割合は両者で一致する。
また、甲2製品の主成分はクロロプレンゴムとフェノール樹脂と記載されているところ、「G10(改良H)」はクロロプレンゴムと、フェノール樹脂であるから、両者で符号する。
さらに、甲2製品の有機溶媒のシクロヘキサン、n-ヘプタン、メチルシクロヘキサン、メチルエチルケトン(10?20%)、酢酸イソプロピル(<5%)、酢酸ブチル(<5%)は、各々「G10(改良H)」の(混合)シクロヘキサン、N-ヘプタン、メチルシクロヘキサン、MEK(約13%(摘記ア-2-3-j))、酢酸イソプロピル(約2%(摘記ア-2-3-j))、酢酸ブチル(約2%(摘記ア-2-3-j))と一致する。
以上のとおり、甲2製品の成分及び配合割合は、「G10(改良H)」の成分及び配合割合と、符号する。
(エ-4) すると、「G10(改良H)」はコニシ株式会社の「G10」という品名の製品のうちの「乱用対策済み」の製品であって、甲11はその「乱用対策済み」の製品の「新製品届」と認めることができる。
そして、コニシ株式会社の「G10」という品名の製品のうちの「乱用対策済み」の製品は、昭和52年11月ころに新製品届が出されてから、少なくとも平成5年ころまで、「G10(改良H)」の成分及び配合割合を(微調整はあるとしても)大きく変えることなく製造販売されていたことを認めることができる。
このことは、コニシ株式会社の「G10」という品名の製品のうちの「乱用対策済み」の製品と認められる平成5年2月4日に作成されたコニシ株式会社の「G10系」の「G10H」という製品の「製造作業標準」(甲35)に記載されている成分及び配合割合(摘記ア-2-4-b)が、「G10(改良H)」の成分及び配合割合と実質的に同じであることからも明らかである。
オ. 検甲1接着剤の成分及び配合割合
(オ-1) 検甲1接着剤は、上記イ.のとおり、検甲1の表示によればコニシ株式会社の「G10」という品名の合成ゴム系接着剤であって、「乱用防止対策品」であり、有機溶剤にメチルシクロヘキサンを含み、トルエンを含まないもので、500gの缶に収容されたものと認められるから、コニシ株式会社の「G10」という品名の製品のうちの「乱用対策済み」の製品であると認められる。
そして、後記(2)で認定するとおり、検甲1が販売された時期は遅くとも平成5年までであると認められるから、検甲1接着剤の成分及び配合割合は、「G10(改良H)」と実質的に同じであると認められる。
(オ-2) 「G10(改良H)」の成分及び配合割合をみると、その「(配合表)」の「1」の「ネオプレン■」、「2」の「ネオプレン■」、「5」の「電化クロロプレン■」はいずれもクロロプレンゴムであると認められ、これらの合計量は100重量部である。また、その「(配合表)」の「12」の「スミライトレジンPR555」は「レゾール型パラターシャリブチルフェノールホルムアルデヒド縮合物」(甲第27号証)であり、また、「13」の「CKM■」は「フェノール・ホルムアルデヒド共縮合物」(甲第28号証)であり、「14」の「フェノールレジンpp4357」は、「アルキルフェノール樹脂」(甲第29号証)であって、いずれもゴム系接着剤における粘着付与樹脂であると認められ、これらの合計量は40重量部である。
すると、「G10(改良H)」は、クロロプレンゴム100重量部に対して40重量部の粘着付与樹脂が配合されたものということができる。
さらに、その「(配合表)」の「7」の「酢酸ブチル」、「8」の「酢酸イソプロピル」、「9」の「MEK」、「10」の「N ヘプタン」、「11」の「混合シクロヘキサン」及び「15」の「メチルシクロヘキサン」はそれぞれ有機溶剤であると認められ、これらの合計量は503重量部である。そして、メチルシクロヘキサンの配合量は85重量部であるから、この有機溶剤は、メチルシクロへキサン17重量%を含む有機溶剤であるといえる。そして、この有機溶剤はトルエンを含まないことが認められる。
すると、「G10(改良H)」は、クロロプレンゴムと、クロロプレンゴム100重量部に対して40重量部の粘着付与樹脂と、メチルシクロへキサン17重量%を含み、トルエンを含まない有機溶剤と、を含有するクロロプレンゴム系接着剤組成物ということができる。
(オ-3) そうすると、検甲1接着剤は、「G10(改良H)」と実質的に同じ成分及び配合割合なのであるから、
「クロロプレンゴムと、クロロプレンゴム100重量部に対して40重量部の粘着付与樹脂と、メチルシクロへキサン17重量%を含み、トルエンを含まない有機溶剤と、を含有するクロロプレンゴム系接着剤組成物」
ということができる。
カ. 訂正発明と検甲1接着剤との対比
訂正発明は「クロロプレンゴムと、クロロプレンゴム100重量部に対して10?150重量部の粘着付与樹脂と、メチルシクロへキサン5?50%を含み、トルエンを含まない有機溶剤と、を必須成分として含有することを特徴とするクロロプレンゴム系接着剤組成物」であるところ、上記認定した検甲1接着剤の成分及び配合割合と対比すると、後者は、前者に包含されるものであることは明らかである。
キ. 小括
以上によれば、訂正発明の接着剤は、検甲1接着剤を包含する成分及び配合割合のものであると認められる。
ク. 被請求人は、以下のとおり主張する。すなわち、
(ク-1) 「G10」なる品名を持つ製品の配合割合は変動している可能性がある。
検甲1の缶の内容物は、「G10」なる品名を持つ製品としても、検甲1接着剤の成分及び配合割合が、甲第2号証又は甲第3号証(さらに甲第11号証)などに記載されている「G10」なる品名のものの成分及び配合割合と同じであるとはいえない。よって、検甲1接着剤の成分及び配合割合は、特定することはできない、と主張する。
しかし、検甲1接着剤の成分及び配合割合は、「G10(改良H)」と実質的に同じであると認められることは、上記認定のとおりである。
(ク-2) 検甲1の缶胴の「家庭用品品質表示法に基づく表示」における「成分」には、「粘着付与樹脂」が記載されていないから、検甲1接着剤の成分及び配合割合は、訂正発明と同じであるということはできない、と主張する。
しかし、そもそも、検甲1接着剤の組成は、検甲1の缶胴の「家庭用品品質表示法に基づく表示」における「成分」の表示に基づき認定したものではないから、被請求人の主張は、上記認定を左右するものではない。
そして、「家庭用品品質表示法に基づく表示」の「成分」の欄においては、接着剤の成分について、全ての成分を詳細に記載するとされるものではないことが認められ(「家庭用品品質表示法法令規定集」(甲第22号証)など)、「粘着付与樹脂」は「家庭用品品質表示法に基づく表示」で記載を義務づけられていないものであるから記載がされていないと認められる。
すると、「家庭用品品質表示法に基づく表示」の「成分」の欄において「粘着付与樹脂」記載されていないからといって、検甲1接着剤に「粘着付与樹脂」が含まれていないと直ちにいうことはできない。
よって、検甲1の「成分」の表示は、上記認定と矛盾するものではない。
(ク-3) 以上のとおり、被告の主張は、いずれも、上記の認定判断を左右するものではない。
(2) 検甲1接着剤が公然知られた又は公然実施された事実について
ア. 証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア) 検甲1の缶胴の「コニシ株式会社」の「本社」の所在地を表示したものと認められる「大阪市東区道修町2-6」(摘記ア-1-b)は平成元年2月13日の住居表示実施によりその表示が「大阪市中央区道修町1丁目6番10号」となった(甲第20号証)ことが認められる。また、検甲1の缶胴の「コニシ株式会社」の「東京」支店の所在地を表示したものと認められる(甲第21号証の「支店欄2丁」の記載)「東京都中央区日本橋室町4-5(近三ビル)」(摘記ア-1-b)は、昭和62年1月1日の住居表示の実施により「東京都中央区日本橋室町4丁目1番21号 近三ビルディング2階」となった(甲第22号証)ことが認められる。
(イ) ボンドテクニカルレポート「速乾 ボンドG10」(58.2:甲第13号証)には「コニシ株式会社」の「ボンド G10」の「貯蔵安定性」が「6ヶ月」であることが記載されている。
また、住友デュレズ株式会社宛の購買仕様書(昭和57年4月1日制定:甲第27号証)には品名「PR-555」「レゾール型パラターシャリブチルフェノールホルムアルデヒド縮合物」の「保証(有効)期間は納入後10ヶ月(室内の冷暗所保管の場合)以内とする。」と、昭和高分子株式会社宛の購買仕様書(昭和57年4月1日制定:甲第28号証)には品名「ショウノール CKM■」「フェノールホルムアルデヒド共縮合物」の「保証(有効)期間は納入後6ヶ月以内とする。」と記載されている。
さらに、「ボンド G17」の納入仕様書(1997年12月25日制定:甲第31号証)には「コニシ株式会社」の「ボンド G17」は主成分が「クロロプレンゴム フェノール樹脂」であり、「品質保証期間」が「製造後6ヶ月とする。但し、屋内冷暗所(5℃?40℃)で未開封とする。」と記載されている。
(ウ) 桜田守氏の陳述書(甲第1号証)等の記載
(ウ-1) 桜田守氏の平成18年9月29日付け陳述書(甲第1号証)
「秋(審決注・原文のまま)の父は、17年前に亡くなりましたが、存命中秋田市太平中関で工務店を営んでいました。
父は、仕事柄、コニシの「速乾ボンドG10」をよく購入し、使用しておりました。
このたび、コニシから、「古い「ボンドG10」を持っていないか」との問い合わせがありましたので、一部使用した後、現在まで倉庫内に放置してありました「速乾ボンドG10」をお渡ししました。」、「秋田県秋田市太平中関字本宿2」との記載及び「桜田守」の署名及び押印がある。
(ウ-2) 桜田守氏の平成19年7月8日付け陳述書(甲第32号証)
「過日、コニシより依頼があり、倉庫内に放置していた「速乾ボンドG10」をお渡ししましたが、この「速乾ボンドG10」は18年前に亡くなった父が購入したものです。父は、工務店を営んでいたため、この「速乾ボンドG10」を使用していたのです。私は、工務店を営んでいないため、この「速乾ボンドG10」を使用することなく、そのまま倉庫内に放置しておいたのです。」及び「秋田県秋田市太平中関字本宿2」との記載及び「桜田守」の署名及び押印がある。
イ. 上記(ア)によれば、検甲1の缶胴のコニシ株式会社の本社及び東京支店の所在地がそれぞれ平成元年の住居表示の実施前及び昭和62年の住居表示の実施前の記載であることが認められる。これらは消費者に商品の製造販売会社の所在地を示すものであるから、住居表示の変更があれば、商品が製造販売される時において正確な表示とすべく通常速やかに変更されたものが表示されるものであって、何年間も旧表示のままとすることはないと認められる。
すると、検甲1の缶胴に昭和62年の住居表示の実施前の記載があることからすれば、表示変更が多少遅れることがあったとしても、その製造販売時は平成年代初期までであると認められる。
そして、上記(イ)によればコニシ株式会社の「G10」という品名の製品の「貯蔵安定性」は6ヶ月とされている。また、この接着剤の成分とされる認められる樹脂の「保証(有効)期間」も、納入後10ヶ月(室内の冷暗所保管の場合)以内、納入後6ヶ月以内と記載され、その他、同社の「クロロプレンゴム系合成ゴム溶剤型」接着剤の製品と認められる(甲16、乙1?3)「G17」という品名の製品も、その「品質保証期間」が製造後6ヶ月(但し、屋内冷暗所(5℃?40℃)で未開封)とされている。
以上の品質保証期間からみて、コニシ株式会社の「G10」という品名の製品が製造され商品として販売される期間は、せいぜい製造時より1年以内と認められる。
してみると、検甲1は、遅くとも平成年代初期ころ、さらに遅くとも平成5年までには販売されていた、すなわち、本件特許の出願前に販売されていた、と認めるのが相当であり、この認定は、他の証拠や、弁論の全趣旨からみても格別不自然な点はない。
例えば、検甲1は、上記(ウ)によれば、秋田県在住の桜田守氏の工務店を営んでいた父(甲第1号証の陳述日平成18年9月29日から17年前に死亡)が購入し一部使用した後倉庫内に放置してあったものである旨陳述されている。これらの陳述内容によれば、検甲1は遅くとも平成5年までには購入されたと認められる。したがって、上記認定はこれら陳述書内容と符号する。
また、例えば、請求人は缶の蓋の表示(缶蓋の検証事項(摘記ア-1-a)の「「U」のようにみえるもの、及びこれに続けて、「791151」なる記号」)から「1979年1月15日」がその内容物の製造日と主張した。上記認定はこの主張とも齟齬するものではない。
ウ. 小括
以上によれば、検甲1接着剤は、遅くとも平成5年までには販売されていたのであり、検甲1接着剤の成分は分析により容易に知得可能なことは明らかであるから、検甲1接着剤は、本件特許の出願前に公然実施されたものということができる。
エ. 被請求人の主張
被請求人は、以下のとおり主張する。すなわち、
(エ-1) 会社の住居表示の変更があったとしても、缶の住居表示は直ちに変更されるものではなく、旧表示のままのこともあるから、検甲1接着剤がこれらの住居表示以前に製造販売されたということはできない、と主張する。
しかし、上記イ.のとおり、商品におけるその記載の性格から、住居表示は通常速やかに変更されたものが表示されるものであると認められ、いつまでも旧表示のままにされるものではないと認められる。それにもかかわらず、検甲1において旧表示のままとした事情等を示す証拠はない。
被請求人の主張は、根拠がないものであり、採用することはできない。
(エ-2) 検甲1の缶蓋の記載が何を意味する記号か不明であってロット表示であるか否かは不明である。仮にロット表示であるとしても、請求人が主張する読み方が正しいとする根拠はないから、検甲1接着剤が請求人が主張する時に製造販売されたということはできない、と主張する。
しかし、上記イ.のとおり、検甲1接着剤の製造販売の時期は、検甲1の缶蓋の記載に基づくものではない。よって、被請求人の主張は、上記認定を左右するものではない。
(エ-3) 甲第1号証の陳述書の記載からは、誰が何時購入したかは不明であるから、検甲1接着剤が本件特許の出願前に販売されたということはできない。そもそも上記陳述書は請求人のコニシ株式会社の利害関係人が作成したものであるから信用できない、と主張する。
しかし、上記イ.のとおり、検甲1接着剤の製造販売の時期は、検甲1の缶蓋の記載に基づくものではない。よって、被請求人の主張は、上記認定を左右するものではない。
なお、被請求人は甲第1号証の陳述書の成立を不知とするが、何らの理由を明示するものではない。甲第1号証(及び甲第32号証)の陳述書は、私文書であって本人の署名及び押印があり、真正に成立したものでないとする理由もないから、特許法第151条で準用する民事訴訟法第228条第4項の規定により真正に成立したものと推定されるものである。
オ. まとめ
以上のとおりであるから、訂正発明は、遅くとも平成5年、すなわち、本件特許の出願前に販売されたと認められる検甲1接着剤と同一の発明であると認めるのが相当である。

4.小括
してみると、訂正発明は、その出願前に公然実施された発明であるから特許法第29条第1項第2号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、訂正発明に係る特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反して特許されたものであるから、その余の理由を検討するまでもなく、同法123条第1項第2号の規定に該当し、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
クロロプレンゴム系接着剤組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンゴムと、クロロプレンゴム100重量部に対して10?150重量部の粘着付与樹脂と、メチルシクロヘキサンを5?50%含み、トルエンを含まない有機溶剤と、を必須成分として含有することを特徴とするクロロプレンゴム系接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は家具、木工、車両その他分野において使用される接着剤組成物、詳しくは室内汚染物質として指定されている溶剤のトルエンおよびキシレンを使用しないクロロプレンゴム系接着剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、クロロプレンゴム系接着剤は各種、各様の被着剤に対する接着性能が優れるため、家具、木工、車両などの分野において広く使用されてきた。これらクロロプレンゴム系接着剤は原料ゴムのクロロプレンゴム、粘着付与剤、老化防止剤、並びに金属酸化物などをトルエン、アセトン、酢酸エチルなどの混合溶剤に溶解させたのもが採用されている。
【0003】
しかし、近年シックハウス症候群の室内汚染物質としてもホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等の優先取り組み物質が定められた。また、厚生労働省より、それらの指針値も公表された。また、PRTR法(環境への排出量の把握及び管理の改善の促進)の第一種指定化学物質にホルムアルデヒド,トルエン,キシレン,塩化メチレンなどが指定された。このような背景の中、トルエンを含有しない溶剤型クロロプレンゴム系接着剤の開発が市場より望まれるようになった。
【本発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のクロロプレンゴム系接着剤が持つ課題、即ちトルエン使用に伴う室内環境汚染をなくし、なおかつ、溶剤の乾燥が速くなり過ぎ使用途中での結露の発生によるタック低減が無く、保存性、乾燥性並びに接着性能を確保することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決のため鋭意検討した結果、請求項1に記載の発明は、クロロプレンゴムと、クロロプレンゴム100重量部に対して10?150重量部の粘着付与樹脂と、メチルシクロヘキサンを5?50%含み、トルエンを含まない有機溶剤と、を必須成分として含有することを特徴とするクロロプレンゴム系接着剤組成物である。
【0006】
このクロロプレンゴム系接着剤組成物は、前記の室内汚染物質であるトルエンを含まず、安定性、乾燥性、タック強さ、結露防止、接着性能などを実現したものである。
【0007】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるクロロプレンゴムとは、クロロプレンモノマーを重合することにより得られたポリクロロプレンである。一般的に重合は乳化重合により行われ、得られたポリクロロプレンラテックスをさらに凝固・水洗・乾燥させチップ状にしたものを用いる。また、分子中にカルボキシル基を有したもの、好ましくは1分子中に2個以上のカルボキシル基を有するポリクロロプレンを使用しても良い。
【0008】
本発明に用いる粘着付与樹脂とは、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系炭化水素樹脂、クマロン・インデン樹脂及びスチレン樹脂の少なくとも一種、もしくは複数の組合わせから選ばれたものである。そして、その添加量は、全クロロプレンゴム100重量部に対して、一般には10?150重量部である。粘着付与樹脂の量がこの範囲より少なくなると十分な接着強度が発揮できず、多くなると接着強度は向上するが脆くなる可能性があるからである。
【0009】
本発明で用いるメチルシクロヘキサンを含み、トルエンを含まない有機溶剤とは、メチルシクロヘキサンに、アセトンやMEK(メチルエチルケトン)などのケトン系、酢酸エチルや酢酸ブチルなどエステル系、n-ヘキサンやシクロヘキサンなどの炭化水素系、メタノールやエタノールなどのアルコール系などのトルエンを含まない溶剤を混合したものである。これらの組み合わせ並びに配合割合は適宜目的に応じて調整し、クロロプレンゴムや粘着付与剤の溶解性、乾燥性、タックの発現等を調整する。そして、この有機溶剤はメチルシクロヘキサンを5?50%使用したものである。メチルシクロヘキサンの量がこの範囲より少なくなると十分な接着強度、安定性が得られにくく、多くなると接着剤の乾燥時間が長くなる傾向があるからである。
【0010】
本発明のクロロプレンゴム系接着剤組成物には前記成分の他に、一般に用いられる金属酸化物、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、老化防止剤、安定剤、補強剤、架橋剤などを適量含ませることができる。
【0011】
【実施例】
以下、実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0012】
実施例及び比較例
表1の配合により、実施例、比較例の接着剤を調製し、試験に供した。
クロロプレンゴム(電気化学(株)製、A90)、酸化マグネシウム(マグネシア)及び酸化亜鉛(亜鉛華)を9インチロールにて20分間混練りする。その練りゴム、フェノール樹脂(昭和高分子(株)製、CKM-1634)及び老化防止剤(ジフェニルアミン系)を各種混合溶剤で溶解する。溶解はディスパーを使用し1000rpmで10時間行った。
【表1】

【0013】
以下の実施例、比較例において得られたクロロプレンゴム系接着剤組成物の初期粘度、相分離安定性、低温安定性、乾燥時間、結露性、タックタイム、接着性能の測定は以下の方法で測定、評価した。
【0014】
調製した各接着剤組成物の初期粘度、相分離安定性、低温安定性、乾燥時間、結露性、タックタイム、接着性能を表2に示した。表2の結果より、メチルシクロヘキサンを使用したノントルエンタイプ実施例1、2は、安定性、乾燥時間、結露性、タックタイム、接着性能についてトルエン含有タイプとほぼ同等であるのに対し、メチルシクロヘキサンを使用しないノントルエンタイプは安定性やタックタイム、結露性、接着性能について劣る結果となり、本発明のクロロプレンゴム系接着剤が有用であることがわかる。
【表2】

【0015】
<初期粘度>
初期粘度はブルックフィールド回転型粘度計によりBM型、No.3、12rpmの条件で測定した。
【0016】
<相分離安定性>
接着剤を40℃中で2ヶ月間保存し、粘度変化及び外観上の変化をチェックする。粘度はブルックフィールド回転型粘度計により測定する。
【0017】
<低温安定性>
接着剤を-5℃中で10日間保存後、-5℃での粘度及び外観上の変化をチェックする。
【0018】
<乾燥時間>
接着剤をバーコーターにてクラフト紙上に120g/m2塗布する。20℃中で保存し、手に接着剤が転写しなくなった時点を乾燥時間とする。
【0019】
<結露性>
接着剤をバーコーターにてクラフト紙上に120g/m2塗布する。その後、クラフト紙を50mm幅に切り出し、20℃中、90%RHで養生、接着剤が乾燥する間の結露を目視にて評価する。
<評価基準>○:従来品と比較して結露無し、又は同等。
×:従来品と比較して結露多い。
【0020】
<タックタイム(接着可能時間)>
接着剤をバーコーターにてクラフト紙上に120g/m2塗布する。その後、クラフト紙を50mm幅に切り出し、20℃中で5分ごとに貼り合わせていく。その時の圧縮は5kgのローラーを転がすことにより行う。クラフト紙が材破している間をタックタイムとする。
【0021】
<接着性能>
接着条件・試験項目は下記の通り。
▲1▼接着条件・…合板×メラミン化粧板
・…片面につき120?150g/m2
・乾燥…10分/10℃
・圧締…ハンドローラー
試験項目・引張剪断強度:CHS(クロスヘッドスピード)=5mm/分,接着面積;25×25mm2
・初期:接着直後に23℃中で測定
・常態:養生3日後、23℃中で測定
・耐熱:養生3日後、60℃中で30分間放置後そのままの温度で測定
【0022】
【発明の効果】
以上に示したように、本発明により得られたクロロプレンゴム系接着剤組成物は、PRTR法の第一種指定化学物質に指定されるトルエンを含まず、低温時の安定性が良好であり、引張り剪断強度では初期剪断、常態剪断、耐熱剪断ともに優れており、家具、木工、建材用としてなど広範囲の材料の接着剤として好適である。しかも、n-ヘキサン、アセトン、酢酸エチルのみで構成される一般的溶剤では乾燥が速くなり過ぎ使用途中で結露しやすくなるなどの問題がなく安心して使用できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-08-01 
結審通知日 2007-08-06 
審決日 2007-08-22 
出願番号 特願2002-26831(P2002-26831)
審決分類 P 1 113・ 112- ZA (C09J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小柳 正之中村 浩  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
原 健司
登録日 2006-02-24 
登録番号 特許第3773861号(P3773861)
発明の名称 クロロプレンゴム系接着剤組成物  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 足立 勉  
代理人 足立 勉  

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