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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200480231 審決 特許
無効200680197 審決 特許
無効200680029 審決 特許
無効200680172 審決 特許
無効2007800010 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B60K
管理番号 1167894
審判番号 無効2006-80012  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-02-02 
確定日 2007-10-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2894760号「歯車装置による連続変速型変速装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2894760号の請求項1?16に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.本件特許に係る手続の経緯

(1)本件特許第2894760号の請求項1?16に係る発明についての出願は、1989年5月12日(パリ条約による優先権主張1988年5月16日、仏国、1988年12月21日、仏国)を国際出願日とする出願であって、平成3年8月29日、平成6年6月22日、平成8年9月19日、平成9年8月25日付けで手続補正がなされ、平成10年6月12日付けで拒絶査定がなされた。
そして、平成10年10月5日付けで拒絶査定不服の審判請求がなされ、同年11月4日付けで手続補正(前置補正)がなされ、平成11年3月5日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。

(2)これに対し、請求人は、平成18年2月2日付けで請求項1?16に係る発明の特許について無効審判を請求した。

(3)被請求人は、平成18年6月20日付けで答弁書及び訂正請求書を提出し、請求人は、同年8月2日付けで弁駁書を提出し、また、被請求人は、同年11月6日付けで答弁書を提出した。

(4)請求人及び被請求人は、平成19年3月15日付けでそれぞれ口頭審理陳述要領書を提出し、同日、特許庁第1審判廷において、口頭審理が行われ、調書が作成された。

2.当事者の主張

2.1 請求人の主張
2.1.1 審判請求書
請求人は、「特許第2894760号の請求項1ないし請求項16の発明に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」(審判請求書第2ページ)として、証拠方法として、次の甲第1?11号証を挙げ、以下の無効理由1,2を主張している。

(証拠方法)
甲第1号証 特開昭50-30223号公報
甲第2号証 フランス特許第7210769号公報(FR7210769)
甲第3号証 ドイツ特許公開第3140492号公報(DE3140492A1)
甲第4号証 特開昭57-107462号公報
甲第5号証 特公昭47-31773号公報
甲第6号証 特開昭59-48234号公報
甲第7号証 米国特許第4191070号明細書
甲第8号証 米国特許第2666492号明細書
甲第9号証 特開昭61-215123号公報
甲第10号証 特表平3-505316号公報(本件公表公報)
甲第11号証 本件平成8年9月19日付手続補正書

(無効理由1)
本件請求項1?16の発明は、前記甲第1号証、甲第3号証又は甲第7号証に記載された発明と実質的に同一、或いは、甲第1号証、甲第3号証又は甲第7号証に記載された発明及び公知技術ないし周知技術(甲第2号証?甲第9号証等参照)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、或いは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件請求項1?16の発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(無効理由2:予備的主張)
また、本件特許出願は平成5年改正前特許法第40条の規定により、手続補正書が提出された平成8年9月19日に出願されたものとみなされる結果、本件請求項1?16の発明は、本件出願の公表公報である特表平3-505316号公報(甲第10号証)に記載された発明と実質的に同一発明であり、少なくとも、その発明から容易に想到することができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当し、或いは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件請求項1?16の発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

2.1.2 弁駁書
また、請求人は、平成18年8月2日付けの弁駁書で、「本件訂正は、新規事項を含むものであり、特許法第134条の2第5項の規定において準用する特許法第126条第3項の規定に違反しているので、本件訂正は認められない。
したがって、特許された本件発明1?16に係る特許は、無効審判請求書の無効理由1及び2により無効とされるべきである。
仮に訂正が認められたとしても、訂正後の本件発明1?16は、下記の無効理由(3?5)がある。」(弁駁書第25ページ)と主張している。

(本件訂正が認められない理由(新規事項違反))
「(1)訂正後の本件請求項1の発明(以下、本件発明1という)において、新たに追加された「所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けること」は、本件の願書に添付された明細書又は図面に記載されておらず、特許法第134条の2第5項の規定において準用する特許法第126条第3項の規定に違反しているので、本件訂正は認められない。
訂正請求書においては、「(ウ)入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比に関して、「所定の車両速度において、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受ける」という構成要件を付加して限定を加えた。付加された構成要件は、特許公報、第8欄、第16?32行に記載されている。」とされている。
しかし、そのような文言は該当箇所をみても見当たらない。実際に記載されているのであれば、具体的にその記載箇所を示すべきである。実際の訂正語句である、「所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けること」に相当する記載もどこにも記載されていない。特に、「所定の車両速度」、「必要出力」なる用語は明細書中には存在せず、そのように新たな語句を用いた構成要件は新規事項であるといえる。」(弁駁書第3,4ページ)

(無効理由3)
本件訂正後の明細書は平成2年改正前特許法第36条第3項、第4項に規定する要件を満たしていないので、訂正後の本件発明1?16に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

「訂正明細書の本件発明1における「所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けること」の記載は、明細書中に明確な説明がなく、特に、「所定の車両速度」、「必要出力」なる用語は明細書中には存在せず、その技術的意味が明確ではないので、旧特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、詳細な説明の項には、「所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けること」を説明する直接的な記載はなく、また、各実施例の説明においても、それらの作用を実現するための具体的な記載はなく、容易に実施できる程度に記載されていないので、本件訂正後の明細書は旧特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。
訂正後の本件発明2?14も、前記本件発明1を引用する発明であるので、前記本件発明1と同様に、旧特許法第36条第3項、第4項に規定する要件を満たしていない。」(弁駁書第6,7ページ)

(無効理由4)
訂正後の本件発明1?16は、甲第6号証に記載された周知技術を参照することにより、前記甲第1号証、甲第3号証、甲第6号証又は甲第7号証に記載された発明と実質的に同一、或いは、甲第1号証、甲第3号証、甲第6号証又は甲第7号証に記載された発明及び公知技術ないし周知技術(甲第2号証?甲第9号証等参照)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、或いは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、訂正後の本件発明1?16に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(無効理由5)
訂正後の特許出願は、平成5年改正前特許法第40条の規定により、手続補正書が提出された平成8年9月19日に出願されたものとみなされる結果、訂正後の本件発明1?16は、本件出願の公表公報である特表平3-505316号公報(甲第10号証)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

2.2 被請求人の主張
2.2.1 答弁書(1回目)
被請求人は、平成18年6月20日付けで答弁書(1回目)を提出し、同日付で訂正請求書を提出した。以下に、無効理由1,2に理由がないとする主な主張を示す。

(無効理由1について)
「(1-3) M-Eモードの検討
次に、甲第1号証に記載されたM-Eモードに関して、さらに詳細に検討を行なう。
(ア) 内燃機関10により発生した一定の出力は、遊星歯車機構50を介して直接出力軸2を駆動する機械的な出力伝達経路と、遊星歯車機構50を介して発電機20を駆動して蓄電池40に給電する電気的な出力伝達経路とに分配される。
(イ) また、内燃機関10の出力を一定に保ったまま、電動機30へ送る電流値を変化させることによって、出力軸2の回転数を変化させることができる。
(ウ) つまり、回転数が一定の発電機20によって、一定の電流が蓄電池40へ送られ、一方、蓄電池40から電動機30へは、変動する電流が送られる。よって、蓄電池40はバッファーの機能を果たしており、このシステムにおける最も重要な構成要素の1つである。
(エ) したがって、甲第1号証に記載されたM-Eモードでは、例えば、より大きな出力を得るために、運転者がアクセルペダルを踏み込んだとき(例えば、車両を加速させる場合、または、車両が上り坂を上るときに車両の速度を維持する場合)、電動機30の出力のみが増加する。一方、内燃機関10の出力は一定であり、内燃機関10の回転速度も一定である。
(オ) つまり、出力軸2へ伝達されるトルクは、内燃機関10により伝達される一定部分に加えて、電動機30によって発生する変動部分が加わって構成されている。
(カ) したがって、リング歯車54にかかる負荷は、車両にかかる抵抗負荷とは関連しない。内燃機関10のトルクは変動せず、遊星歯車機構50のトルク比は変動しないので、リング歯車54にかかる負荷は一定である。
(キ) そして、車両が加速するとき、リング歯車54は出力軸2に連結されているので、リング歯車54も加速する。この場合、内燃機関10のトルクは変動せず、遊星歯車機構50のトルク比は変動しないので、その抵抗トルクが-定にもかかわらず、太陽歯車52に連結された発電機20の回転速度は減少する。
(ク) つまり、この場合においては、太陽歯車52に連結された発電機20の抵抗トルクは、速度にも加速度にも関連していない。
(ケ)以上のように、出力軸2の要求トルクが変動したときでも、電動機30によるトルクの変動により対応し、内燃機関10は一定の回転速度を保つので、遊星歯車機構50による変速比は、車両の速度にのみ依存し、加速度とは独立している。」(答弁書第6,7ページ)

「次に、本件発明1と甲第1号証に記載の発明との相違点を検討する。
(ア)本件発明1の第1の特徴部分について
<1> 本件発明1の第1の特徴部分では、平衡化サブアセンブリによって伝達される機械的な抵抗負荷が、速度および加速度の関数として増加することであり、歯車列において、第1の抵抗エレメントの抵抗負荷と第2の抵抗エレメントの抵抗負荷とがバランスするように、入力軸と出力軸の変速比が自動的に定められる。
<2> 一方、甲第1号証では、M-Eモードで車両を加速させる場合であっても、内燃機関の出力は一定のままであり、発電機は、トルク一定のまま回転速度が減少する。
<3> したがって、平衡化サブアセンブリに相当する発電機の抵抗負荷は、速度にも加速度にも関連していない。
(イ) 本件発明1の第2の特徴部分について
<1> 本件発明1の第2の特徴部分は、機関の出力がアクセル開度によって影響を受け、入力軸と出力軸との間の変速比が、このアクセル開度に応じた所要出力によって影響を受けることである。
<2> 例えば、出力軸の必要出力を得るため、運転者が、アクセルペダルをより深く踏んだとき、機関の出力は増加し、結果として、平衡化サブアセンブリを加速させる。増加した機関のトルクにバランスする抵抗負荷が生じるように平衡化サブアセンブリが回転数を増加させ、新たな平衡ポイントを見出して、新たな入力軸と出力軸との間の変速比が定まる。
<3> 一方、甲第1号証では、M-Eモードにおいて、出力軸の要求出力が変動したときでも、電動機による出力の変動により対応し、内燃機関は一定の回転速度を保つので、遊星歯車機構による変速比は、車両の速度にのみ依存し、加速度とは独立している。」(答弁書第12ページ)(ただし、<1>等の<>付き数字は、原文では丸囲み数字である。)

「(2)本件発明15と引用文献との相違点
(ア)ここで、甲第9号証は、自動車エンジンの補機として過給器が備えられていることを例示する文献であるが、本件発明15は、第9号証に記載の過給器を含む従来の過給器の欠点を克服することができる。従来の過給器の欠点としては、下記のものが挙げられるが、これらの欠点は過給器が機関のクランクシャフトに直結されることに起因する。
- 過給が必要でない場合においても、機関が速く回転すると、これに伴って過給器が速く回転するため、多くのエネルギを消費すること。
- 例えば、機関の回転数が低い状態から加速するときのように、多くの過給を要するときに、充分な過給を行なうことができない場合があること。」(答弁書第17,18ページ)

「(1-2)本件発明16と甲第1号証との相違点
(ア)甲第1号証には、太陽歯車の軸と発電機とが、歯車を介して連結されているが、本件発明16の特徴部分である発電機の太陽歯車の軸に対する回転数が増幅されることは一切記載されていない。
(イ)また、甲第1号証に記載の発明では、車両を駆動するための大きな電動機に充分な電流を供給するための大容量の蓄電池を有し、発電機は、大容量の蓄電池に給電を行なう必要があるので、本件発明16が有する「出力軸の負荷に対して非常に小さな負荷を発生させる発電機」には該当しない。」(答弁書第18ページ)

(無効理由2について)
「7-3.無効理由2に対する反論
下記に示すように、訂正前の本件請求項1の構成要件EおよびFは、出願当初の明細書に記載された事項であり、無効理由2は全く根拠のない主張である。
構成要件Eの「平衡化サブアセンブリによる機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加する」ことは、本件明細書(特許公報の第5欄の第50行?第6欄の第16行、および第7欄の第20?30行参照。)に明確に記載されている。
構成要件Fの「車両の駆動輪と出力源との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」ことは、本件明細書(特許公報の第5欄の第41行?第6欄の第22行、および第7欄の第14?30行参照。)に明確に記載されている。」(答弁書第20ページ)

2.2.2 答弁書(2回目)
被請求人は、平成18年11月6日付けで答弁書(2回目)を提出した。以下に、無効理由1?5に理由がないとする主な主張を示す。

(訂正請求について)
「(8)以上のように、停止状態から、低速域、中速域、および高速域の全ての速度領域における所定の車両速度において、入力軸と出力軸との間の変速比が、アクセルの開度に応じた必要出力に応じて影響を受けていることが記載されている。
従って、構成要件Gは、明らかに本件明細書の「発明の詳細な説明」に記載された事項である。
(9)以上のように、本訂正は、第134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」に該当するものであり、かつ特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項ないし第5項の規定に違反しないことは明白である。」(答弁書第4ページ)

(無効理由1について)
「(1)無効理由1について
本弁駁書において、本件発明1の構成要件EおよびFに関する内容、作用効果、またはそれらを示唆する内容が、甲第1?9号証の何れかに記載されていることは一切述べられておらず、本件発明1の構成要件EおよびFに関する内容、作用効果、ならびにそれらを示唆する内容が、甲第1?9号証には一切記載されていないことを、請求人は実質的に認めていると考えられる。
従って、甲第1?9号証は、歯車機構に、原動機、発電機、電動機が接続された周知技術の機械的構造を示すことのみに用いられており、本件発明1の第1の特徴部分に係る構成要件EおよびFの内容について、詳細な検討をすることなく、本件発明1が、周知技術に基づいて当業者が容易に発明できると結論付けている。
従って、本弁駁書に記載の主張は、説得力に欠く根拠のないものである。」(答弁書第5ページ)

(無効理由2,3について)
「審査時の手続き補正に関する無効理由2については、平成18年6月20日付で提出された答弁書に記載したとおり、極めて蓋然性の低い事項なので、さらに詳細な説明は省略する。」(答弁書第5ページ)

「無効理由3は、実質的に、本件訂正請求を認めない主張と同一なので、詳細な説明を省略する。」(答弁書第5ページ)

(無効理由4について)
「無効理由4においては、甲第6号証を引用文献に取り上げて主張がなされているが、本件発明1の第1の特徴部分に係る構成要件Eについては、「甲第6号証には明確に記載されていませんが、他の構成(機械的構成の意味?)が同じであるので、当然そのような現象は生じているものであるといえる」という主張がなされている。つまり、第1の特徴部分を示す文献、または第1の特徴部分を示唆する文献を挙げることもなく、機械的構成が周知の構成と同じだから、周知の構成でも同じ現象は生じるであろうという自己に有利な推測をしているに過ぎない。無効理由1と同様に、具体的な理由を説明せずに、周知技術に基づいて当業者が容易に発明できると結論付けている。
さらに、本件発明1の第2の特徴部分に係る構成要件Gについても、「特に重要な構成であるとは思われないので、その他の構成が同一であるので、甲第6号証の発明においても、同様のものがいえると推定される」という主張がなされている。つまり、第2の特徴部分を示す文献、または第2の特徴部分を示唆する文献を挙げることもなく、機械的構成が周知の構成と同じだから、周知の構成においても同じ現象は生じるであろうという自己に有利な推測をしているに過ぎない。無効理由1と同様に、具体的な理由を説明せずに、周知技術に基づいて当業者が容易に発明できると結論付けている。
よって、無効理由4においても、甲第1?9号証は、歯車機構に、原動機、発電機、電動機が接続された周知技術の機械的構造を示すことのみに用いられており、本件発明1の第1および第2の特徴部分について詳細な検討をすることなく、本件発明1が、周知技術に基づいて当業者が容易に発明できると結論付けている。従って、本弁駁書に記載の主張は、説得力に欠く根拠のないものである。」(答弁書第6ページ)

(無効理由5について)
「(5)無効理由5について
無効理由2と同様に、審査時の手続き補正に関する無効理由2については、平成18年6月20日付で提出された答弁書に記載したとおり、極めて蓋然性の低い事項なので、さらに詳細な説明は省略する。」(答弁書第7ページ)

2.3 口頭審理(調書)

平成19年3月15日、特許庁第1審判廷において、口頭審理が行われ、陳述の要領が記載された調書が作成された。以下に陳述の要領を示す。

「 陳述の要領
請求人

1 審判長の審尋に対する被請求人の回答(下記2参照)については、異議はない。

被請求人

1 甲第2号証、甲第3号証、甲第7号証及び甲第8号証の各翻訳文の是非については、争わない。

2 審判長の審尋に対し、次のとおり回答する。
(1)訂正明細書の請求項1の「有効エネルギー」は、「車両の機能に活用されるエネルギー」のことである。
(2)訂正明細書の請求項1の「機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け」(特に、「影響を受け」)は、「アクセルペダルの踏み込みに応じて、アクセル開度が変化し、それに応じて機関の出力が変化する」ことである。
(3)訂正明細書の請求項1の「少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力」だけの負荷である。
(4)訂正明細書の請求項1の「抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加」について、「速度」、「加速度」は、「平衡化サブアセンブリの回転速度、回転加速度」である。また、「関数として増加」は、平衡化サブアセンブリの抵抗力が「速度と加速度の関数として表されるように増加する」ことである。
(5)訂正明細書の請求項1の「所定の車両速度」は、車両速度を特定せず、「ある車両速度」のことである。
(6)訂正明細書の請求項1の「アクセル開度に応じた必要出力」は、「アクセル開度に応じた機関の出力」のことである。
(7)訂正明細書の請求項1の「変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受ける」(特に、「影響を受ける」)は、「変速比は、アクセル開度に応じた機関の出力によって変化する」ことである。
(8)訂正明細書の請求項1の「出力源」は、「機関」のことである。
(9)訂正明細書の請求項1の「変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」について、「負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力、出力軸の回転に対する抵抗力」の2つの力のことであり、「速度」は、「平衡化サブアセンブリの回転速度、出力軸の回転速度」の2つの速度のことであり、上記「変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」は、「変速比を、抵抗負荷及び速度の変化に応じて変える」ことである。
(10)訂正明細書の請求項15の用語について、対応する実施例の部材は、以下の部材番号のものを示し、そして、対応する図面は2図である。
「入力要素」→6,7
「出力要素」→22
「第3の要素」→11,23,24
「過給機」→29
「連結手段」→19,26
「少なくとも1つの歯車」→7
「増幅手段」→24,26
(11)訂正明細書の請求項15の請求項1と同様の表現部分については、請求項1の回答事項と同様である。
(12)訂正明細書の請求項16の用語について、対応する実施例の部材は、以下の部材番号のものを示し、そして、対応する図面は2図である。
「平衡化サブアセンブリ」→16
「入力要素」→6,7
「出力要素」→22
「平衡化要素」→11,23,24
「少なくとも1つの歯車」→7
「増幅手段」→24,26
「平衡化要素を平衡化サブアセンブリに連結するための手段」→19,26
「平衡化サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段」→27,28,29
(13)訂正明細書の請求項16の請求項1と同様の表現部分については、請求項1の回答事項と同様である。
(14)訂正明細書の請求項10の符号「(7a,7b)」は、「(7c,7d)」の誤記である。」

3.訂正の適否
平成18年6月20日の訂正請求は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1,15,16を訂正しようとするものである。以下、その適否について検討する。

3.1 訂正の要旨
・訂正事項1
請求項1について、
「【請求項1】入力軸(1)と出力軸(14)とを相互連結する歯車列(7,8,11;7a,7b,8a,8b,11a;7c,7d;34,36)を含み、
該出力軸(14)は、車両の駆動輪と連結することができ、
該歯車列には、出力軸(14)の速度とは通常異なる速度で回転する平衡化サブアセンブリ(16)と該出力軸(14)との間に力を分配するために取着される少なくとも1つの歯車が含まれ、
平衡化サブアセンブリ(16)から有効エネルギーを取り出すために、前記少なくとも1つの歯車以外の手段(18;27,28,29;44)が設けられ、
平衡化サブアセンブリによって前記少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加することを特徴とする、特に車両における駆動輪と出力源との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変えるための自動変速装置。」
とあるのを、
「【請求項1】入力軸(1)と出力軸(14)とを相互連結する歯車列(7,8,11;7a,7b,8a,8b,11a;7c,7d;34,36)を含み、該入力軸(1)は、車両の機関(3)と連結することができ、該出力軸(14)は、車両の駆動輪と連結することができ、該歯車列には、出力軸(14)の速度とは通常異なる速度で回転する平衡化サブアセンブリ(16)と該出力軸(14)との間に力を分配するために取着される少なくとも1つの歯車が含まれ、平衡化サブアセンブリ(16)から有効エネルギーを取り出すために、前記少なくとも1つの歯車以外の手段(18;27,28,29;44)が設けられ、機関(3)の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、平衡化サブアセンブリによって前記少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加し、所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けることを特徴とする、特に車両における駆動輪と出力源との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変えるための自動変速装置。」
と訂正する。

・訂正事項2
請求項15について、
「【請求項15】車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、
車両の少なくとも1つの駆動輪に駆動可能に連結される出力軸と、
該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、第3の要素、とを有する差動歯車列と、
該第3の要素を車両の過給機に連結するための連結手段、
とを含んで成り、
前記差動歯車列の入力要素は、機関から供給される力を出力要素及び第3の要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車を回動可能に支持し、
前記連結手段は、第3の要素の速度に対する過給機の回転速度を増幅する増幅手段を含むことを特徴とする自動変速装置。」
とあるのを、
「【請求項15】車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、車両の少なくとも1つの駆動輪に駆動可能に連結される出力軸と、該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、第3の要素、とを有する差動歯車列と、該第3の要素を車両の過給機に連結するための連結手段、とを含んで成り、前記差動歯車列の入力要素は、機関から供給される力を出力要素及び第3の要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車を回動可能に支持し、前記連結手段は、第3の要素の速度に対する過給機の回転速度を増幅する増幅手段を含み、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、過給機によって第3の要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加することを特徴とする自動変速装置。」
と訂正する。

・訂正事項3
請求項16について、
「【請求項16】車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、
車両の少なくとも1つの駆動輪の駆動可能に連結される出力軸と、
平衡化サブアセンブリと、
該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、平衡化要素と、機関から供給される力を出力要素及び平衡化要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車、とを有する歯車列と、
平衡化要素の回転速度に対する平衡化サブアセンブリの回転速度を増幅する増幅手段を含み、平衡化要素を平衡化サブアセンブリに連結するための手段と、
平衡化サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段、
とを含むことを特徴とする自動変速装置。」
とあるのを、
「【請求項16】車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、車両の少なくとも1つの駆動輪の駆動可能に連結される出力軸と、平衡化サブアセンブリと、該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、平衡化要素と、機関から供給される力を出力要素及び平衡化要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車、とを有する歯車列と、平衡化要素の回転速度に対する平衡化サブアセンブリの回転速度を増幅する増幅手段を含み、平衡化要素を平衡化サブアセンブリに連結するための手段と、平衡化サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段、とを含み、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、平衡化サブアセンブリによって平衡化要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加することを特徴とする自動変速装置。」
と訂正する。

3.2 訂正の適否についての判断
3.2.1 訂正事項1について
(1)「入力軸(1)は、車両の機関(3)と連結することができ」について、この訂正は、入力軸(1)の連結態様を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の請求項15,16の「車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸」、また、願書に添付した明細書の第5ページ第6行?第7行目(特許公報第3ページ6欄第41行目?第43行目)の「変速装置2の入力軸1は、同時に、標準的には内燃機関である3という番号で概略的に示されたエンジンの出力軸を構成する。」との記載から、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものである。
そして、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)「機関(3)の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け」について、この訂正は、機関(3)の出力とはどのようなものであるか限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の第7ページ第23行?第8ページ第13行目(特許公報第4ページ第8欄第16行目?第32行目)に「ひとたび車が動くと、動きを維持するのに必要なトルクひいては遊星歯車列により導かれるエンジンの出力は、より一層変速装置2の出力軸14の方へと伝達される。フライホイール17の回転速度は減少し、保存されたその運動エネルギーの一部分は出力軸14に放出される。その結果、変速装置は、入力軸1と出力軸14の間の変速比を自動的にかつ連続的に変える。この比には最大値も最小値も無い。
この比は、運転者の制御下でエンジン3により提供される出力及びトルク、ならびに車両の移動に対する抵抗に同時に従って、あらゆる時点で変化しうる。抵抗トルクが例えば勾配で又は加速時において高い場合、補償用サブアセンブリ16の回転速度は出力軸14上の抵抗トルクを平衡変すべく高くなり、その結果、シャフト14の回転速度は入力軸1の速度との関係において低下する。車両に対して制動力を加える場合又は単に車両のアクセルペダルをゆるめただけの場合でも、同様のことが言える。」と記載されており、ひとたび車が動けば、エンジンの出力の変化に応じて変速比が自動的かつ連続的に変わり、この変速比は、運転者の制御下でエンジンにより提供される出力及びトルク、ならびに車両の移動に対する抵抗に同時に従って、あらゆる時点で変化し、エンジンの出力は変化するものであって、また、エンジンの出力は、アクセルペダルの踏み込み度合いによるアクセル開度により変化するので、このことは、すなわち、口頭審理において確認したように(調書参照。)、「機関(3)の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け」ることを意味している。
よって、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものである。
また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)「所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けること」について、この訂正は、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比がどのようなものであるか限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記3.2.1(2)で検討したように、入力軸1と出力軸14との間の変速比は、アクセル開度に応じたエンジンの出力によって影響を受け、また、影響を受けるのは、様々な車両速度においてであり、口頭審理において確認したように(調書参照。)、「所定の車両速度」とは、車両速度を特定しない「ある車両速度」を意味し、「アクセル開度に応じた必要出力」は、「アクセル開度に応じた機関の出力」を意味するので、「所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けること」は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものである。
また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)以上であるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.2.2 訂正事項2について
(1)「機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け」について、この訂正は、機関の出力とはどのようなものであるか限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記3.2.1(2)で検討したように、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものである。
また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(2)「過給機によって第3の要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加する」について、この訂正は、過給機と第3の要素との連結による作用を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
願書に添付した明細書第3ページ第17行?第4ページ第11行目(特許公報第3ページ第5欄第50行目?第6欄第22行目)に、「本発明の有利な実施態様に従うと、補償用サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段には、エネルギーを消費する負荷、特に過給機、ファン、冷却水ポンプ、発電装置などといった補助機構が含まれている。
このような補助機構はほとんどの場合、その回転速度の2乗に正比例する抵抗を提供する。前進中の車両に対する空気抵抗についても同様である。従って、変速装置及び補助機構のパラメータを適切に選択することにより、車両のあらゆる進行速度について、エネルギー消費負荷自体が理に適った一定の回転速度を有するような永続的状態で変速装置が機能するようにすることが可能である。
好ましくは、補償用サブアセンブリは、慣性負荷を有するか又は駆動している。車両により構成されるこの負荷はそれ自体慣性成分を有するため、2つの慣性成分は、車両の加速に際して変速装置内で互いに平衡化する。
従って、車両のあらゆる機能状態(速度の値と加速値の組合せ)について、車両により提供される抵抗と補償用サブアセンブリにより提供される抵抗の間ではバランスが保たれ、変速装置はそれ自体、補償用サブアセンブリが決して過度な回転速度で駆動されないような機能状態を見い出す。」と記載されており、また、願書に添付した明細書第5ページ24行目?第6ページ第16行目(特許公報第4ページ第7欄第11行目?同第30行目)に「従って、各々の衛星歯車7は、変速装置の出力軸14と補償用サブアセンブリ6の間で出力を分布するように載置されている。
換言すると、各々の衛星歯車7はその周囲において、衛星歯車の軸を中心にして反対方向のモーメントをもつ2つの力、すなわち補償機構16の回転に対する抵抗力及び出力軸14の回転に対する抵抗力を受けている。衛星歯車7の自軸を中心とする回転速度は、これらの力が等しい場合に安定する。
車両のあらゆる機能状態(各瞬間における速度と加速度の組合せ)について、車両は、前進に対する一定の抵抗(一般に速度の2乗に正比例する)ならびに加速度が正である場合には慣性力を抵抗させる。補償用サブアセンブリ16はそれ自体、プーリー18により駆動される補助機構によって自らの回転速度の2乗に正比例するものでありうる抵抗をならびにフライホイールによって加速度に対する抵抗を抵抗させる。従って、各瞬間において、変速装置は、入力軸1と出力軸14の間に、各衛星歯車の周囲上に加わる2つの力の平衡に相当する速比を打ち立てる傾向をもつ。」と記載されており、各々の衛星歯車7は、補償機構16や補助機構の回転に対する抵抗力及び出力軸14の回転に対する抵抗力を受けている。そして、補償機構16や補助機構の回転に対する抵抗力は、プーリー18により駆動される補助機構によって自らの回転速度の2乗に正比例する抵抗力、フライホイールによる加速度に対する抵抗力であるので、速度及び加速度の関数である。また、出力軸14の回転に対する抵抗力は、前進に対する一定の抵抗力(一般に速度の2乗に正比例する)、加速度が正である場合には慣性力であるので、速度及び加速度の関数である。
すなわち、これらの抵抗力は速度及び加速度の関数として増加するものである。
そして、口頭審理において確認したように(調書参照。)、本件請求項1の「少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力」だけの負荷であり、出力軸の回転に対する抵抗力は含まない。
そうすると、補償機構16、すなわち平衡化サブアセンブリによって、衛星歯車7に伝達される機械的な抵抗負荷は、上述のように速度及び加速度の関数として増加する。

そして、他の実施態様である第2図においても同様のことが言え、願書に添付した明細書第10ページ第3行?第11ページ第3行目(特許公報第5ページ第9欄第27行目?第10欄第4行目)に、「しかしながら、第2図に表わされているように、逆を行なうこと、すなわち入力軸1と同軸であり従来の差動機21の入力軸を構成する出力軸14と内歯車9を直接連結することが好ましい。ベル22が、内歯車9をシャフト14にしっかりと連結している。衛星歯車ホルダー6は、このベル22と遊星歯車11の間に配置されており、この遊星歯車11は入力軸をとり囲む管23により、補償用サブアセンブリ16のシャフト19と一体化された比較的小さい直径のピニオン26とかみ合う比較的大きな直径の歯車に連結されている。従ってフライホイール17は、このとき入力軸1との関係において偏心されている。スタータとして役立つことのできる発電装置27のシャフト16の自由端には、ファン28及び機械式過給機29を表わし、遊星歯車11が一定の速度で回転する場合でさえこの歯車の回転に対する抵抗を抵抗させるエネルギー消費負荷としてこれら3つの付属備品のいずれか1つ又は2つをシャフト16に連結することができるということを示した。
歯車24とピニオン26は、遊星歯車11の回転速度との関係における補償用サブアセンブリ16の回転速度の増速装置を構成していることがわかる。換言すると、遊星歯車11の抵抗トルクはシャフト19の抵抗トルクとの関係において増倍される。こうして有利なことに、遊星歯車11により遊星歯車7に対し伝達された周辺力が増大する。従って、前述の例において、トルク及び出力が比較的小さい補償負荷が遊星歯車11の周囲で、シャフト14によって遊星歯車列の内歯車9の内歯8に伝達された力を平衡化できる反力を生成できるようにすることがさらに容易になる。」と記載されており、機械式過給機29は、補償用サブアセンブリ16と一体化されたピニオン26を介して、遊星歯車11,管23,歯車24に連結されているので、機械式過給機29によって、遊星歯車11,管23,歯車24に伝達される機械的な抵抗負荷は、上述のように速度及び加速度の関数として増加する。更に、口頭審理において確認したように(調書参照。)、請求項15の対応図面は第2図であり、遊星歯車11,管23,歯車24が「第3の要素」に対応していることから、「過給機によって第3の要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加する」ものである。

よって、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものである。
また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)以上であるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.2.3 訂正事項3について
(1)「機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け」について、この訂正は、機関の出力とはどのようなものであるか限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記3.2.1(2)で検討したように、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものである。
また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)「平衡化サブアセンブリによって平衡化要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加する」について、この訂正は、平衡化サブアセンブリと平衡化要素との連結による作用を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記3.2.2(2)で検討した事項から、補償用サブアセンブリ16によって、遊星歯車11,管23,歯車24に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加する。更に、口頭審理において確認したように(調書参照。)、請求項16の対応図面は第2図であり、また、遊星歯車11,管23,歯車24が「平衡化要素」に対応していることから、「平衡化サブアセンブリによって平衡化要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加する」ものである。

よって、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものである。
また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)以上であるから、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.本件特許発明
上記3.のとおり、本件訂正請求に係る訂正を認めたので、本件特許の請求項1?16に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明16」という。)は、訂正後の本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】入力軸(1)と出力軸(14)とを相互連結する歯車列(7,8,11;7a,7b,8a,8b,11a;7c,7d;34,36)を含み、該入力軸(1)は、車両の機関(3)と連結することができ、該出力軸(14)は、車両の駆動輪と連結することができ、該歯車列には、出力軸(14)の速度とは通常異なる速度で回転する平衡化サブアセンブリ(16)と該出力軸(14)との間に力を分配するために取着される少なくとも1つの歯車が含まれ、平衡化サブアセンブリ(16)から有効エネルギーを取り出すために、前記少なくとも1つの歯車以外の手段(18;27,28,29;44)が設けられ、機関(3)の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、平衡化サブアセンブリによって前記少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加し、所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けることを特徴とする、特に車両における駆動輪と出力源との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変えるための自動変速装置。
【請求項2】上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、エネルギー消費負荷(18;27,28,29;44)、特に、過給機(29)、ファン(28)、冷却水ポンプ、発電装置(27,44)といった補助機構を含むことを特徴とする請求項1に記載の自動変速装置。
【請求項3】上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、自動変速装置が連結される機関の過給機(29)を含むことを特徴とする請求項1に記載の自動変速装置。
【請求項4】上記平衡化サブアセンブリ(16)は、慣性負荷(17)を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項5】上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、平衡化サブアセンブリ(16)から出力軸(14)にエネルギーを伝達するための手段(44,40)を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項6】上記エネルギーを伝達するための手段は、平衡化サブアセンブリ(16)によって駆動される発電装置(44)を含むことを特徴とする請求項5に記載の自動変速装置。
【請求項7】上記入力軸(1)及び出力軸(14)の間の変速比を変更するために、平衡化サブアセンブリ(16)から取り出されるエネルギーの量を調節するための手段(51,54)が設けられることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項8】上記平衡化サブアセンブリ(16)は、平衡化サブアセンブリの回転速度の増幅手段(24,26)を介して歯車(7)に連結されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項9】上記歯車列は、遊星タイプであって、入力軸(1)に連結された衛星歯車ホルダー(6)と、出力軸に連結された内歯車(9)と、平衡化サブアセンブリ(16)に連結された太陽歯車(11)、とを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項10】上記衛星歯車ホルダー(6)は、2個の遊星歯車(7a,7b)を支持し、その各々は、内歯車(9)に噛み合う比較的小さい直径のピニオン(7c)と、該ピニオン(7c)に回転連結された太陽歯車(11)に噛み合う比較的大きい直径のピニオン(7d)、とを含むことを特徴とする請求項9に記載の自動変速装置。
【請求項11】上記遊星タイプの歯車列は、直列に配設された2つの遊星歯車列(31a,31b)を含むことを特徴とする請求項9に記載の自動変速装置。
【請求項12】上記歯車列は、円筒形の差動タイプであって、入力軸(1)に連結された入力太陽歯車(34)と、平衡化サブアセンブリ(16)に連結された出力太陽車(36)と、出力軸(14)に連結された衛星歯車ホルダー(37)、とを含み、衛星歯車ホルダーは、各々が太陽歯車(34,36)の一方に係合する、少なくとも一対の相互係合する遊星歯車(7a,7b)を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項13】上記平衡化サブアセンブリ(16)には、スタータ(27,44)が連結されることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項14】上記スタータ(27,44)は、機械的エネルギーが自動変速装置の入力軸(1)に受容されるときに、平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す発電装置として機能し得る可逆機関であることを特徴とする請求項13に記載の自動変速装置。
【請求項15】車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、車両の少なくとも1つの駆動輪に駆動可能に連結される出力軸と、該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、第3の要素、とを有する差動歯車列と、該第3の要素を車両の過給機に連結するための連結手段、とを含んで成り、前記差動歯車列の入力要素は、機関から供給される力を出力要素及び第3の要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車を回動可能に支持し、前記連結手段は、第3の要素の速度に対する過給機の回転速度を増幅する増幅手段を含み、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、過給機によって第3の要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加することを特徴とする自動変速装置。
【請求項16】車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、車両の少なくとも1つの駆動輪の駆動可能に連結される出力軸と、平衡化サブアセンブリと、該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、平衡化要素と、機関から供給される力を出力要素及び平衡化要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車、とを有する歯車列と、平衡化要素の回転速度に対する平衡化サブアセンブリの回転速度を増幅する増幅手段を含み、平衡化要素を平衡化サブアセンブリに連結するための手段と、平衡化サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段、とを含み、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、平衡化サブアセンブリによって平衡化要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加することを特徴とする自動変速装置。」

5.各甲号証の記載内容
5.1 甲第1号証の記載事項
甲第1号証である特開昭50-30223号公報には、図面と共に、次の(イ-1)?(イ-5)の事項が記載されている。

(イ-1)「本発明は複合電気自動車の歯車伝動装置に関するものである。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンによる自動車の排気ガスは大気汚染の一原因であるとしてマスキ-法案にみられる如く排気ガス規制が厳しくなりつつある。そこで排気ガスを出さずに走行できる電気自動車が内外で注目されてきているが、一充電走行距離が短いとか重量が大きくなる等の欠点によりまだ従来の内燃機関にとってかわるまでに至っていない。そこで内燃機関と蓄電池を併用してあるときは蓄電池で電動機を駆動し(以後Mモードと呼ぶ)、あるときは内燃機関、電動機双方で駆動しそのとき内燃機関の動力の一部を発電機で電気工ネルギーに変換して蓄電池を充電し(以後M-Eモードと呼ぶ)、またあるときには内燃機関のみで駆動(以後Eモードと呼ぶ)して走行できる複合電気自動車が注目を集めてきている。すなわちこのM,M-E,Eの各モードを都市内、郊外等で使い分けることによって排気ガスが特に問題となる場所ではそれを低減しようというものである。」(第1ページ右下欄第1行目?同右下欄第20行目)

(イ-2)「本発明に係る歯車伝動装置を用いれば電動機は常に電動機として、発電機は常に発電機として作動するのでコントローラの負担が少く、また完全な無段変速が可能であり時に応じM,M-E,E各モードをそれぞれの運動態様に従って使いわけられる利益がある。そして動力伝達効率を上昇させるためにオーバドライブさせることも可能であり、走行速度が上昇するほど動力伝達効率は上昇ししかもEモードにしたときが最高の動力伝達効率となるので安定高速走行が可能である。・・・まず第1図を参照されたい。内燃機関10のクランク軸に連結した歯車伝動装置の入力軸1があり、これは第1モード切替クラッチ60を介して中間軸4に連結される。この入力軸1には歯車ポンプ等の油圧供給源3があり、内燃機関10の動力の一部で油圧を発生させてクラッチ等の係合を為す動力源となる。内燃機関10の動力によらないで別の小型電動機により走行中常に一定油圧を得る方法もあり、この場合には内燃機関10が停止していても常に油圧を発生できる利点がある。
中間軸4は遊星歯車機構50の遊星歯車53を回転自在に軸支するキャリア51に一体的に結合されており、遊星歯車53と噛合う太陽歯車52は中空回転軸の後端に一体的に取付けられている。そしてこの中空回転軸の前端は多板式変速用ブレーキを構成する第2モード切替クラッチ70の回転可能な摩擦板72に結合され、一方クラッチ70の固定摩擦板71はケースに固着されている。従って油圧によって第2モード切替クラッチ70が係合されると中空回転軸5はケース73に対し固定状態となる。この中空回転軸5にはスプライン嵌合された歯車23があり、この歯車23に噛合う歯車22の回転軸21は発電機20の軸となっている。遊星歯車機構50のリング歯車54は出力軸2上に取付けられ、この出力軸2上には歯車33がスプライン嵌合し、これに噛合う歯車32を介して電動機30と連結している。一方において、電動機30と発電機20とはそれぞれ蓄電池40を介して電気的に関係づけられる。すなわち配線43,46は励磁側に接続されており、コントローラ41,42は励磁電流を制御する。一方配線44 ,45は蓄電池40、発電機20、電動機30間の電力の受け渡しをする。」(第2ページ左上欄第14行目?同右下欄第2行目)

(イ-3)「次に第2図の実施例について説明する。なお、第1図の実施例と同一の部品に関しては同じ参照番号を用いている。(以下第6図まで同様である。)第1図と異なる点は遊星歯車機構が2列で構成されていることである。すなわち前列遊星歯車機構150のリング歯車154は後列遊星歯車機構の遊星歯車157を軸支するキャリヤ155と一体になっており、しかもこれは出力軸102と連結している。また後列遊星歯車機構180のリング歯車158は常にケース171に固着されている。そしてその太陽歯車156と一体に結合した歯車133に噛合う歯車132の軸は電動機130と一体的に結合している。」(第2ページ右下欄第3行目?同右下欄第15行目)

(イ-4)「再び第1図を参照されたい。ここまで説明したMモードでは第1モード切替クラッチ60,第2モード切替クラッチ70共に解放状態であったが次に内燃機関10を回転させておいてクラッチ60のみ係合させクラッチ70を解放状態に保つ。このときには内燃機関10と出力軸2は遊星歯車機構50を介して連結されしかも電動機30の動力も出力軸2に加わるから、全体として内燃機関と電動機の動力は複合伝達される。この状態はM-Eモードであり、このM-Eモードでは内燃機関10の動力の一部が遊星歯車機構50の太陽歯車52から分流して歯車23,22を介して発電機20を駆動する。すなわち発電機20により電気的エネルギに変換されコントローラ41で制御され蓄電池を充電する。電動機50は蓄電池の電気エネルギによってコントローラ42で励磁電流を制御することによって駆動される。一方キャブレータ絞り弁の開量を一定化することにより内燃機関10の出力を一定に保持しておいて、電動機30の回転速度のみの制御によって出力軸2の回転速度を変化させることが可能である。」(第4ページ左上欄第20行目?同右上欄第20行目)

(イ-5)「これまで本発明の歯車伝動装置についてその構成、作動態様を説明したが次に実際の走行中でのM,M-E,E各モードの使用、切替の態様を説明する。
Mモ-ドは低速域すなわち車両のスタート時からある程度の車速になるまでに用いる。また内燃機関は完全に停止しており、排気ガスは全く発生しないから、都市内走行など低速で充分でしかも排気ガスの規制が厳しい場所で継続的に用いるのにも適している。また電動機の回転方向をコントローラで逆回転させれば後進可能になる。
都市内でMモードで走行し郊外に出てM-Eモードに切替えるときにはまず内燃機関を始動させる。内燃機関10の動力によって入力軸1が回転し、ポンプ3は油圧を発生する。この油圧によって第1モード切替クラッチを係合させる。このとき予め設定した内燃機関の回転速度まで一気に上昇させる。このモード切替時点を設定した速度比とするなら、その時の内燃機関の回転速度は一意的に決るから、そこまで上昇させるように制御系で制御する。これによって電動機に回転速度変化を与えることなく連続的にM-Eモードに移ることができる。一度M-Eモードに入ってしまったら、相当低速まではMモードに戻らないようにする制御系は実用上設ける必要がある。
M-Eモードでは、発電機はコントローラ41で制御されつつ発電作用を為すが、Mモードにおいても蓄電池を使用するのであるから発電機の性能は適切なものを選ぶ必要がある。また公害対策上内燃機関は最も排気ガスの少い回転速度で一定にしておくという方法は極めて有効である。」(第5ページ左下欄第7行目?同右下欄第17行目)

これら(イ-1)?(イ-5)の記載及び図面の記載からすると、以下のように解釈できる。
中間軸4と出力軸2とは、遊星歯車機構50を介して連結されている。
入力軸1は、内燃機関10と連結されている。
出力軸2の出力により車両を駆動しているので、出力軸が車両の駆動輪と連結することができるのは自明である。
中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21は、遊星歯車機構50を介して出力軸2と連結されており、出力軸2の回転速度とは通常異なる回転速度で回転するものである。
遊星歯車53の回転が、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21を介して発電機20に伝達されることにより、有効なエネルギーが発電機20に伝わる。

したがって、甲第1号証には、
「入力軸1,中間軸4と、出力軸2とを相互連結する遊星歯車機構50を含み、該入力軸1,中間軸4は、車両の内燃機関10と連結することができ、該出力軸2は、車両の駆動輪と連結することができ、該遊星歯車機構50には、出力軸2の速度とは通常異なる速度で回転する中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21と該出力軸2との間に力を分配するために取着される遊星歯車53が含まれ、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21から有効エネルギーを取り出すために、発電機20が設けられ、M-Eモード(内燃機関と蓄電池を併用し、内燃機関、電動機双方で駆動し、そのとき内燃機関の動力の一部を発電機で電気工ネルギーに変換して蓄電池を充電するモード)において、内燃機関10と出力軸2は遊星歯車機構50を介して連結され、電動機30の動力も出力軸2に加わるから、全体として内燃機関と電動機の動力は複合伝達され、内燃機関10の動力の一部が遊星歯車機構50の太陽歯車52から分流して歯車23,22を介して発電機20を駆動し、発電機20により電気的エネルギに変換されコントローラ41で制御され蓄電池を充電し、また、電動機30は蓄電池の電気エネルギによってコントローラ42で励磁電流を制御することによって駆動され、また、一方キャブレータ絞り弁の開量を一定化することにより内燃機関10の出力を一定に保持しておいて、電動機30の回転速度のみの制御によって出力軸2の回転速度を変化させることが可能である、車両における駆動輪と内燃機関10との間の変速比を変えるための歯車伝動装置。」(以下、「甲第1号証に記載された発明1」という。)

また、
「車両の内燃機関10からの力を伝達可能に連結される入力軸1,中間軸4と、車両の少なくとも1つの駆動輪に駆動可能に連結される出力軸2と、該中間軸4に連結したキャリア51と、該出力軸2に連結したリング歯車54と、太陽歯車52、とを有する遊星歯車機構50と、該太陽歯車52を車両の発電機20に連結するための中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21、とを含んで成り、前記遊星歯車機構50のキャリア51は、内燃機関10から供給される力をリング歯車54及び太陽歯車52の間で分配するように構成した少なくとも1つの遊星歯車53を回動可能に支持し、M-Eモード(内燃機関と蓄電池を併用し、内燃機関、電動機双方で駆動し、そのとき内燃機関の動力の一部を発電機で電気工ネルギーに変換して蓄電池を充電するモード)において、内燃機関10と出力軸2は遊星歯車機構50を介して連結され、電動機30の動力も出力軸2に加わるから、全体として内燃機関と電動機の動力は複合伝達され、内燃機関10の動力の一部が遊星歯車機構50の太陽歯車52から分流して歯車23,22を介して発電機20を駆動し、発電機20により電気的エネルギに変換されコントローラ41で制御され蓄電池を充電し、また、電動機30は蓄電池の電気エネルギによってコントローラ42で励磁電流を制御することによって駆動され、また、一方キャブレータ絞り弁の開量を一定化することにより内燃機関10の出力を一定に保持しておいて、電動機30の回転速度のみの制御によって出力軸2の回転速度を変化させることが可能である、歯車伝動装置。」(以下、「甲第1号証に記載された発明2」という。)

また、
「車両の内燃機関10からの力を伝達可能に連結される入力軸1,中間軸4と、車両の少なくとも1つの駆動輪の駆動可能に連結される出力軸2と、歯車22,回転軸21と、該中間軸4に連結したキャリア51,遊星歯車53と、該出力軸2に連結したリング歯車54と、太陽歯車52と、内燃機関10から供給される力をリング歯車54及び太陽歯車52の間で分配するように構成した少なくとも1つの遊星歯車53、とを有する遊星歯車機構50と、太陽歯車52を回転軸21に連結するための中空回転軸5,歯車22,23と、歯車22,回転軸21からエネルギーを取り出すための発電機20、とを含み、M-Eモード(内燃機関と蓄電池を併用し、内燃機関、電動機双方で駆動し、そのとき内燃機関の動力の一部を発電機で電気工ネルギーに変換して蓄電池を充電するモード)において、内燃機関10と出力軸2は遊星歯車機構50を介して連結され、電動機30の動力も出力軸2に加わるから、全体として内燃機関と電動機の動力は複合伝達され、内燃機関10の動力の一部が遊星歯車機構50の太陽歯車52から分流して歯車23,22を介して発電機20を駆動し、発電機20により電気的エネルギに変換されコントローラ41で制御され蓄電池を充電し、また、電動機30は蓄電池の電気エネルギによってコントローラ42で励磁電流を制御することによって駆動され、また、一方キャブレータ絞り弁の開量を一定化することにより内燃機関10の出力を一定に保持しておいて、電動機30の回転速度のみの制御によって出力軸2の回転速度を変化させることが可能である、歯車伝動装置。」(以下、「甲第1号証に記載された発明3」という。)

の発明が記載されていると認められる。

5.2 甲第2号証の記載事項
甲第2号証であるフランス特許第7210769号公報(FR7210769)には、図面と共に、翻訳文によれば、次の(ロ-1)?(ロ-3)の事項が記載されている。

(ロ-1)「入力手段と出力手段の間の速度比を変化させるためにサイリスター22、24を用いて調節することができる電気機械13」(翻訳文第4ページ第1行目?同第2行目)

(ロ-2)「結合機械13の励起度合を調節することにより中間速度を得ることができ、シャフト19上で得られる出力速度を0の値から最大値までの間で連続的に調節なることができる。
結合機械13は、加速時間中、発電機として作動し、場合によっては、一次駆動装置(モーター)の出力エネルギーを補強するためにモーターとして作動する直流機械となることができる。」(翻訳文第4ページ第22行目?同第25行目)

(ロ-3)「出力シャフト19の回転速度を変えるにはサイリスター22および24のグリッドに変速信号を印加する。これにより、機械13は歯車9と18の間で可変速度比結合ができるようになり、機械13から損失したエネルギーは全てバッテリー25に送り返されることにより回収される。」(翻訳文第5ページ第20行目?同第25行目)

5.3 甲第3号証の記載事項
甲第3号証であるドイツ特許公開第3140492号公報(DE3140492A1)には、図面と共に、翻訳文によれば、次の(ハ)の事項が記載されている。

(ハ)「電動機(E)は内燃機関(B)のスタータとして利用される。」(翻訳文第1ページ第22行目?同第23行目)

5.4 甲第4号証の記載事項
甲第4号証である特開昭57-107462号公報には、図面と共に、次の(ニ)の事項が記載されている。

(ニ)「この場合、発電機兼用モータ8をモータモードで動作させ、それをスタータとしてバッテリ20から供給きれる電力により駆動し、エンジン1に起動のための回転を与える。」(第2ページ右下欄第14行目?同第17行目)

5.5 甲第5号証の記載事項
甲第5号証である特公昭47-31773号公報には、図面と共に、次の(ホ)の事項が記載されている。

(ホ)「低速の時はエンジンを用いなくてもモーターだけで充分に走行出来る。もしエンジンのスターターモーターが利かないか、無い時にはモーター走行を行なってその後に発電機に電流を流してエンジンを始動することも出来る。」(第3ページ第6欄第4行目?同第8行目)

5.6 甲第6号証の記載事項
甲第6号証である特開昭59-48234号公報には、図面と共に、次の(ヘ-1)?(ヘ-5)の事項が記載されている。

(ヘ-1)「速度の変動を吸収するためにフライホイールを提供し、それによってエンジンのトルク出力を一様にすることは旧く且つ周知のことである。重いフライホイールはスロットルが開かれたとき、回転速度が急激に増大するのを防止するので、加速性を増大するにはフライホイールの寸法及び重量を減少せしめることによって達成可能であるが、これは低速域における円滑な運転を犠牲とせざるを得ない。」(第2ページ左上欄第10行目?同第18行目)

(ヘ-2)「エネルギをフライホイールに蓄積し、フライホイールは単独で又は原動機と協働して自動車の発進及び/又は加速に利用し得るようにした動力駆動装置を提供することである。」(第2ページ左下欄第20行目?右下欄第4行目)

(ヘ-3)「第1図には総括して10で示される動力駆動装置を備えた自動車が図示される。該装置は、エンジンシャフト14がディファレンシャル(差動機)16に連結されている原動機12を具備する。差動機16はかさ歯車装置型式、遊星歯車装置型式又は他の機械式トランスミッション(変速機)とすることができる。」(第3ページ左上欄第10行目?同第16行目)

(ヘ-4)「装置10は、出力軸24の速度がエンジンシャフト14及びフライホイール連結歯車28の各速度の合計の半分となるようにした簡単なかさ歯車差動機16を使用する。従って、出力軸24の速度は通常の自動車の場合のように原動機の速度を変えることによって制御することができる。」(第3ページ右上欄第12行目?同第17行目)

(ヘ-5)「かさ歯車84はかさ歯車86に噛合する。歯車86は自動変速機に連結された軸に取付けられる。該自動変速機は流体トルクコンバータ継手88を具備し、又該継手の出力はフライホイールに連結される。フライホイール90はベルト92によって例えばパワーステアリング装置用ポンプ94のような付属装置を駆動する。」(第4ページ左下欄第11行目?同第17行目)

5.7 甲第8号証の記載事項
甲第8号証である米国特許第2666492号明細書には、図面と共に、翻訳文によれば、次の(ト-1)?(ト-3)の事項が記載されている。

(ト-1)「全体として23で表された励磁機によって磁界巻線60の励磁を制御することによって交流発電機の出力は制御され、整流された交流発電機の出力がモータ26へ送られる。」(翻訳文第3ページ第21行目?同第23行目)

(ト-2)「これから説明する遊星システムの駆動ハブ部分124の後端部は広くなっており、”L.G.S.”クラッチ手段も収容するケーシング138と一体的に形成された区画136に収容されているが、ハブ124のためのジャーナル軸受手段として機能する摩擦防止軸受アセンブリ142も支持する隔壁140によって該区画から分離された遊星歯車システムの支承部18との駆動接続を設けるための、134で表された外側キー溝を備える。ハブアセンブリ124,134の後端部は、同じように内側にキー溝が形成された遊星歯車支承部18のハブ部分135へ嵌着されている。支承部は、一対の遊星歯車小歯車146,148が各々に設けられた長手方向に延在する複数の遊星歯車小歯車シャフト145を支持し、各対の二つの小歯車は、内側にキー溝が形成されるか他の方法で固定されてユニットとして回転する。この小歯車対とそのシャフト145との間には、軸受手段150が設けられている。それぞれ、前方小歯車146は後方小歯車148よりも小さい。小型の前方小歯車146は、遊星歯車システムの駆動部分を形成するようにエンジン駆動シャフト126の後端部によってしっかりと支承された中空の太陽歯車またはサイドギヤ152と係合する。遊星歯車小歯車148は、遊星歯車システムの出力部分を形成してメイントランスミッションシャフト155へ締結されるか他の方法で固着された太陽歯車またはサイドギヤ154と係合し、シャフトの前方端部は、軸受手段156などによって前方太陽歯車152のハブに案内されている。後方太陽歯車154のハブの前方突出延出部158は、前方太陽歯車152の中空内部に収容されたローラタイプのオーバーランニングクラッチの内側カム要素を形成するのに対して、太陽歯車152の内面はこのようなオーバーランニングクラッチの他のくさび要素を形成するような輪郭を持ち、ローラ160は、通常の方法で間に設けられてケージ162により位置調整される。上述したオーバーランニングクラッチは、前方太陽歯車152が後方太陽歯車154よりも高速で前方へ回転できるように構成されているが、後方太陽歯車が前方太陽歯車よりも高速で前方回転しようとすると、この太陽歯車はローラ160のくさび作用により一緒にロックされる。
後端部において遊星歯車支承部18は、シャフト155と同軸であるとともに交流発電機と励磁機のそれぞれのロータ20,21をしっかりと支承する管形シャフト165に締結されている。中空シャフト165は、遊星歯車システムの一出力部分であり、中空シャフトの端部の付近に設けられた軸受手段166,168によってシャフト155にジャーナル軸受されている。」(翻訳文第6ページ第14行目?同第40行目)

(ト-3)「したがって遊星小歯車シャフトおよびケージ18は、駆動シャフト126の速度を超える速度で前方に回転し、ケージのこのような回転により交流発電機および励磁機のロータ20、21がそれぞれ回転する。上述したように電気駆動装置での加速のためスイッチSW2の接点aが閉じると、ケージ18の回転を阻止または部分的に阻止すると、前方太陽歯車152の前方回転を受けて遊星小歯車146,148が自身の軸を中心に後方へ回転して、遊星小歯車148の後方回転が歯車154へ前方回転を伝達するという事実によって、交流発電機を駆動するのに必要な電力がケージ18に抗力を与え、この抗力の反作用が太陽歯車154とこれに接続されたシャフト155とテールシャフト10とを前方へ回転させる。交流発電機の速度が上昇して、モータ26へ送られるその出力によりモータが車両を加速」(翻訳文第8ページ第28行目?同第36行目)

5.8 甲第9号証の記載事項
甲第9号証である特開昭61-215123号公報には、図面と共に、次の(チ-1)?(チ-5)の事項が記載されている。

(チ-1)「エンジンのクランク軸と車輪駆動系のミッションとの間に、両端支持構造の動力取出部を設け、この動力取出部により補機を駆動すべくしたことを特徴とする自動車エンジンの補機駆動装置。」(特許請求の範囲)

(チ-2)「第2,3図は本発明の実施例による補機駆動装置を設けた自動車のエンジン搭載部分を示す。この第2,3図において、1はクランク軸が横方向に延長するように横置きされたエンジンである。このエンジン1の後方側の側部には吸気マニホルド2が設けられ、前方側の側部に排気マニホルド3が設けられている。吸気マニホルド2に接続した吸気管4には過給機5が接続され、さらに吸気管6を介して空気清浄器7が取りつけられている。
エンジン1の出力側には、詳細を後述する構成のクラッチ14を介してミッション8が接続され、前輪9に動力を変速伝達するようになっている。また、このミッション8の接続側とは反対側にプーリ10が取りつけられ、このプーリ10に巻回したVベルト11を介して、オルタネータ12およびエアコン用ポンプ13が駆動されるようになっている。一方、上記過給機5は、詳細を後述するようにクラッチ14の部分を動力取出部とし、そこからVベルト26を介して駆動されるようになっている。」(第1ページ右下欄第14行目?第2ページ左上欄第14行目)

(チ-3)「クラッチ14のフライホイール15の外周には、補機用の動力取出部としてプーリ25が設けられている。このプーリ25からVベルト26を介して前述した過給機5の入力用Vプーリ27が駆動されるようになっている。
上記Vプーリ25は、必要によりケース21側に設けてもよい。また、動力伝達手段としては、Vベルトのほか、歯付ベルト,チェン,歯車などの他の手段であってもよい。」(第2ページ左下欄第8行目?同第16行目)

(チ-4)「なお、上述した実施例では、Vプーリ25の動力取出部により駆動される補機を、過給機5としたが、オルタネータ,エアコン用ポンプ,パワーステアリング用ポンプなどの他のものであってもよい。」(第2ページ右下欄第6行?同第10行目)

(チ-5)「また、実施例ではクランク軸1aの前端側でも、オルタネータ12とエアコン用ポンプ13などの補機を駆動しているが、これらのうちの一つまたは前部を、上記Vプーリ25側に移して駆動するようにしてもよい。」(第2ページ右下欄第11行?同第15行目)

6.無効理由5についての当審の判断(審査時での手続補正の要旨変更について)

請求人は平成18年8月2日付けの弁駁書において、請求の理由を補正し、新たに無効理由3?5を主張したが、この新たな無効理由3?5は、いずれも、被請求人の平成18年6月20日付けの訂正の請求により、請求の理由を補正する必要が生じたものであって、特許法第131条の2第2項第1号に該当し、審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであるから、平成18年8月24日付けで決定をもって、当該補正を許可した。

ここで、無効理由5における、平成8年9月19日付けの手続補正で補正された本件請求項1の「平衡化サブアセンブリによって前記少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加」(以下、「構成要件E」という。)、「特に車両における駆動輪と出力源との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」(以下、「構成要件F」という。)について、上記補正が要旨変更に当たるかどうか検討する。

6.1 構成要件Eについて
出願当初明細書(平成3年8月29日付けの手続補正書によって浄書された明細書の翻訳文)の第3頁第17行?第4頁第11行目(公開公報第2頁右下欄第17行目?第3頁左上欄第11行目)に、「本発明の有利な実施態様に従うと、補償用サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段には、エネルギーを消費する負荷、特に過給機、ファン、冷却水ポンプ、発電装置などといった補助機構が含まれている。
このような補助機構はほとんどの場合、その回転速度の2乗に正比例する抵抗を提供する。前進中の車両に対する空気抵抗についても同様である。従って、変速装置及び補助機構のパラメータを適切に選択することにより、車両のあらゆる進行速度について、エネルギー消費負荷自体が理に適った一定の回転速度を有するような永続的状態で変速装置が機能するようにすることが可能である。
好ましくは、補償用サブアセンブリは、慣性負荷を有するか又は駆動している。車両により構成されるこの負荷はそれ自体慣性成分を有するため、2つの慣性成分は、車両の加速に際して変速装置内で互いに平衡化する。
従って、車両のあらゆる機能状態(速度の値と加速値の組合せ)について、車両により提供される抵抗と補償用サブアセンブリにより提供される抵抗の間ではバランスが保たれ、変速装置はそれ自体、補償用サブアセンブリが決して過度な回転速度で駆動されないような機能状態を見い出す。」、また、出願当初明細書の第6頁第2行?第16行目(公開公報第3頁左下欄第2行目?同第16行目)に「換言すると、各々の衛星歯車7はその周囲において、衛星歯車の軸を中心にして反対方向のモーメントをもつ2つの力、すなわち補償機構16の回転に対する抵抗力及び出力軸14の回転に対する抵抗力を受けている。衛星歯車7の自軸を中心とする回転速度は、これらの力が等しい場合に安定する。
車両のあらゆる機能状態(各瞬間における速度と加速度の組合せ)について、車両は、前進に対する一定の抵抗(一般に速度の2乗に正比例する)ならびに加速度が正である場合には慣性力を対抗させる。補償用サブアセンブリ16はそれ自体、プーリー18により駆動される補助機構によって自らの回転速度の2乗に正比例するものでありうる抵抗をならびにフライホイールによって加速度に対する抵抗を対抗させる。従って、各瞬間において、変速装置は、入力軸1と出力軸14の間に、各衛星歯車の周囲上に加わる2つの力の平衡に相当する速比を打ち立てる傾向をもつ。」と記載されており、各々の衛星歯車7は、補償機構16や補助機構の回転に対する抵抗力及び出力軸14の回転に対する抵抗力を受けている。そして、補償機構16や補助機構の回転に対する抵抗力は、プーリー18により駆動される補助機構によって自らの回転速度の2乗に正比例する抵抗力、フライホイールによる加速度に対する抵抗力であるので、速度及び加速度の関数である。また、出力軸14の回転に対する抵抗力は、前進に対する一定の抵抗力(一般に速度の2乗に正比例する)、加速度が正である場合には慣性力であるので、速度及び加速度の関数である。
すなわち、これらの抵抗力は速度及び加速度の関数として増加するものである。
そして、口頭審理において確認したように(調書参照。)、構成要件Eの「少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力」だけの負荷であり、出力軸の回転に対する抵抗力の負荷は含まない。
そうすると、補償機構16、すなわち平衡化サブアセンブリによって、衛星歯車7に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加する。
よって、「平衡化サブアセンブリによって前記少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加」する。

6.2 構成要件Fについて
上記6.1の検討事項、及び上記6.1の指摘事項のうち特に、「従って、車両のあらゆる機能状態(速度の値と加速値の組合せ)について、車両により提供される抵抗と補償用サブアセンブリにより提供される抵抗の間ではバランスが保たれ、変速装置はそれ自体、補償用サブアセンブリが決して過度な回転速度で駆動されないような機能状態を見い出す。」(公開公報第3頁左上欄第7行目?同第11行目)、また、「従って、各瞬間において、変速装置は、入力軸1と出力軸14の間に、各衛星歯車の周囲上に加わる2つの力の平衡に相当する速比を打ち立てる傾向をもつ。」(公開公報第3頁左下欄第13行目?同第16行目)、から、変速比は、上記2つの力である抵抗負荷及び速度の変化に応じて変わるものであり、抵抗負荷は、速度の関数(上記6.1参照。)である。
そして、口頭審理において確認したように(調書参照。)、抵抗負荷は、平衡化サブアセンブリの回転と出力軸の回転による2つの負荷である。また、変速比を、抵抗負荷及び速度の変化に応じて変えることは、「変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」ことである。
よって、「特に車両における駆動輪と出力源との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」ものである。

6.3 まとめ
以上のことから、構成要件E及びFは、出願当初明細書又は図面に記載された、発明の構成に関する技術的事項の範囲内であり、構成要件E及びFに係る当該補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものではない。

よって、平成8年9月19日付けの手続補正は、適法になされたものであり、平成5年改正前特許法第40条の規定に該当するものではない。

7.無効理由4についての当審の判断

無効理由4のうち、甲第1号証を主引用例とした無効理由について、以下に検討していく。

7.1 本件特許発明1について
7.1.1対比
本件特許発明1は、訂正後の本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるが、当該請求項1の記載には、必ずしも明瞭とは言えない事項があるため、明細書の発明の詳細な説明の記載及び口頭審理調書に記載された被請求人の陳述内容を参酌すると、「有効エネルギー」は、「車両の機能に活用されるエネルギー」の意味に解釈される。以下同様に、「機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け」は、「アクセルペダルの踏み込みに応じて、アクセル開度が変化し、それに応じて機関の出力が変化する」の意味に、「少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力」だけの負荷の意味に、「抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加」について、「速度」、「加速度」は、「平衡化サブアセンブリの回転速度、回転加速度」であり、「関数として増加」は、平衡化サブアセンブリの抵抗力が「速度と加速度の関数として表されるように増加する」の意味に、「所定の車両速度」は、車両速度を特定せず、「ある車両速度」の意味に、「アクセル開度に応じた必要出力」は、「アクセル開度に応じた機関の出力」の意味に、「変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受ける」は、「変速比は、アクセル開度に応じた機関の出力によって変化する」の意味に、「出力源」は、「機関」の意味に、「変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」について、「負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力、出力軸の回転に対する抵抗力」の2つの力のことであり、「速度」は、「平衡化サブアセンブリの回転速度、出力軸の回転速度」の2つの速度のことであり、上記「変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」は、「変速比を、抵抗負荷及び速度の変化に応じて変える」の意味に解釈される。以下、この解釈を前提に検討していく。
さらに請求項1の記載を検討していくと、「平衡化サブアセンブリ(16)」とは、「出力軸(14)」の速度とは通常異なる速度で回転するものである。そして、「平衡化サブアセンブリ(16)」と「出力軸(14)」との間に、力を分配する「少なくとも1つの歯車」があり、「少なくとも1つの歯車」は「歯車列(7,8,11;7a,7b,8a,8b,11a;7c,7d;34,36)」に含まる。すなわち、「平衡化サブアセンブリ(16)」は、「少なくとも1つの歯車」により分配された力を受けるものである。更に、「少なくとも1つの歯車以外の手段(18;27,28,29;44)」とは、「平衡化サブアセンブリ(16)」から有効エネルギーを取り出すものである。(なお、発明の詳細な説明においては、平衡化サブアセンブリとして、フライホイールが用いられており、車両の前進により発生する抵抗を、フライホイールの慣性により、衛星歯車の周りで平衡化している。)

ここで、上記(イ-2)、(イ-4)、第1図の記載から、甲第1号証に記載された発明1における「遊星歯車53」は、遊星歯車機構50に含まれるものであって、リング歯車54を介して出力軸2へ、また、太陽歯車52、中空回転軸5、歯車22,23、回転軸21を介して発電機20へ力を分配するものである。それゆえ、「中空回転軸5」、「歯車22,23」、「回転軸21」と「出力軸2」との間に力を分配する「遊星歯車53」がある。
そして、「発電機20」は、内燃機関10からのエネルギーを、キャリア51、遊星歯車53、太陽歯車52、中空回転軸5、歯車22,23、回転軸21を介して取り出すものである。すなわち、「発電機20」は、「中空回転軸5」、「歯車22,23」、「回転軸21」から、内燃機関10からの有効エネルギーを取り出している。
以上のことから、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明1とを対比すれば、甲第1号証に記載された発明1の「入力軸1」と「中間軸4」は、「内燃機関10」からの出力を「遊星歯車機構50」に伝えており、本件特許発明1の「入力軸」に相当し、以下同様に、「出力軸2」は「出力軸」に、「内燃機関10」は「機関」に、それぞれ相当し、また、上記「入力軸1」は、本件特許発明1と同様に車両の「機関」である「内燃機関10」と連結されている。
また、甲第1号証に記載された発明1の「キャリア51」、「太陽歯車52」、「遊星歯車53」、「リング歯車54」からなる「遊星歯車機構50」は、「中間軸4」と「出力軸2」とを相互連結する歯車列を形成しており、本件特許発明1の「歯車列」に相当する。
更に、甲第1号証に記載された発明1の「中空回転軸5」、「歯車22,23」、「回転軸21」は、「遊星歯車53」によって、「出力軸2」と力を分配しており、また、「出力軸2」とは「通常異なる速度で回転する」ものであって、「発電機20」の影響により、「平衡化」させる力を伝達はするが、「中空回転軸5」、「歯車22,23」、「回転軸21」自体は、「平衡化」であるとまでは必ずしも言えないものの、少なくとも、本件特許発明1の「サブアセンブリ」には相当している。
更に、甲第1号証に記載された発明1の「遊星歯車53」は、本件特許発明1の「サブアセンブリ」に相当する「中空回転軸5」、「歯車22,23」、「回転軸21」と「出力軸2」との間で力を分配しているので、本件特許発明1の「少なくとも1つの歯車」に相当し、また同様に、「発電機20」は、本件特許発明1の「サブアセンブリ」に相当する「中空回転軸5」、「歯車22,23」、「回転軸21」から有効エネルギーを取り出しており、「少なくとも1つの歯車以外の手段」に相当する。
そして、甲第1号証に記載された発明1の「歯車伝動装置」は、上記(イ-1)?(イ-5)から明らかなように、本件特許発明1と同様な「自動変速装置」と言えるものである。
よって、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明1とは、

「入力軸と出力軸とを相互連結する歯車列を含み、該入力軸は、車両の機関と連結することができ、該出力軸は、車両の駆動輪と連結することができ、該歯車列には、出力軸の速度とは通常異なる速度で回転するサブアセンブリと該出力軸との間に力を分配するために取着される少なくとも1つの歯車が含まれ、サブアセンブリから有効エネルギーを取り出すために、前記少なくとも1つの歯車以外の手段が設けられ、車両における駆動輪と出力源との間の変速比を変えるための自動変速装置」

で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1
本件特許発明1では、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受けるのに対し、甲第1号証に記載された発明1では、M-Eモードにおいて、内燃機関10の出力を一定に保持しているので、必ずしも内燃機関10の出力は、アクセル開度の影響を受けるわけではない点。

相違点1-2
本件特許発明1では、平衡化サブアセンブリによって少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加するのに対し、甲第1号証に記載された発明1では、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21はサブアセンブリではあるが、平衡化サブアセンブリとまでは必ずしも言えず、また、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21によって遊星歯車53に伝達される機械的な抵抗負荷は、関数の関係にあるかどうか明らかでない点。

相違点1-3
本件特許発明1では、所定の車両速度において、入力軸と出力軸との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けるのに対し、甲第1号証に記載された発明1では、M-Eモードにおいて、内燃機関10の出力を一定に保持しているため、中間軸4と出力軸2との間の変速比は、必ずしもアクセル開度に応じた出力の影響を受けるわけではない点。

相違点1-4
本件特許発明1では、車両における駆動輪と出力源との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変えるのに対し、甲第1号証に記載された発明1では、M-Eモードにおいて、内燃機関10の出力を一定に保持しているため、駆動輪と内燃機関10との中間軸4との間の変速比は、必ずしも負荷及び速度の条件に応じて変えているわけではない点。

7.1.2 判断
相違点1-1について
甲第1号証に記載された発明1は、M-Eモードにおいて、内燃機関10の出力を一定に保持しているが、これは、「電動機30の回転速度のみの制御によって出力軸2の回転速度を変化させることが可能である。」(イ-4)、「公害対策上内燃機関は最も排気ガスの少い回転速度で一定にしておくという方法は極めて有効である。」(イ-5)とあるように、内燃機関10の出力を一定以外にすることを妨げるわけではなく、「このときには内燃機関10と出力軸2は遊星歯車機構50を介して連結されしかも電動機30の動力も出力軸2に加わるから、全体として内燃機関と電動機の動力は複合伝達される。この状態はM-Eモ-ドであり、このM-Eモードでは内燃機関10の動力の一部が遊星歯車機構50の太陽歯車52から分流して歯車23,22を介して発電機20を駆動する。」(イ-4)や第1図から分かるように、内燃機関10の出力を変化させると出力軸2の出力も変化し得るものである。さらに、内燃機関の一定ではない出力と電動機の出力とを複合させて出力することは本件出願前に周知技術(例えば、実願昭56-140715号(実開昭58-46202号)のマイクロフィルム(第7?9ページ、第3,4図)、特開昭50-85019号公報(第4ページ右下欄)参照。)であることも考慮すると、内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにすることに格別の困難性はなく、特段の阻害要因も見あたらない。

相違点1-2について
甲第1号証に記載された発明1では、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21はサブアセンブリではあるが、平衡化サブアセンブリとまでは言えず、また、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21によって遊星歯車53に伝達される機械的な抵抗負荷は、関数の関係にあるかどうか明らかでない。しかし、訂正後の本件特許明細書第4ページ第15行目?同第26行目(特許公報第4ページ第7欄第13行目?同第30行目)に記載されているように、衛星歯車7に伝達される機械的な抵抗負荷は、補償機構16の回転に対する抵抗力及び出力軸14の回転に対する抵抗力であって、これら抵抗力は、出力軸の回転の速度や加速度、補助機構の回転速度、慣性負荷であるフライホイールの加速度と比例関係(例えば、補助機構の回転速度の2乗に正比例するような抵抗、出力軸の回転速度の2乗に正比例するような抵抗。)にあり、速度及び加速度の関数である。(なお、口頭審理により(調書参照。)、「少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力」だけの負荷を示し、出力軸の回転に対する抵抗力は含まない。)
してみると、甲第1号証に記載された発明1の内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにしたものにおいて、発電機20は、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21を介して遊星歯車53に結合されており、それ自体、回転する部材を含んでいるので回転速度を生じることは明らかであり、また、発電機のような車両の補機(例えば、パワーステアリング装置用ポンプ)を駆動する回転軸に、フライホイールを設けることが本件出願前に周知技術(例えば、甲第6号証:特開昭59-48234号公報参照。上記5.6参照。)であって、甲第1号証に記載された発明1にフライホイールを設けたものでは、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21は平衡化サブアセンブリとなり、遊星歯車53は、機械構造上、発電機20や周知技術であるフライホイールの回転による抵抗力を受け、そしてこの抵抗力は、上記本件特許明細書の記載と同様に速度や加速度と比例関係にあることは明らかであり、速度及び加速度の関数である。なお、車両が走行するものである以上、駆動輪に接続される出力軸2にリング歯車54を介して連結された遊星歯車53は、出力軸の回転の速度や加速度の関数である抵抗力を受けることは自明である。
よって、周知技術であるフライホイールを設けることにより、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21を平衡化サブアセンブリとし、中空回転軸5,歯車22,23によって遊星歯車53に伝達される機械的な抵抗負荷が速度及び加速度の関数として増加することは、発電機のような車両補機やフライホイールといった装置が存在すれば機械構造上、必然的に発生する事項に過ぎない。

相違点1-3について
上記相違点1-1で検討したように、甲第1号証に記載された発明1において、内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにすることに格別の困難性はなく、この場合、ある車両速度、すなわち所定の車両速度において、アクセル開度の変化によって変速比は変化するので、中間軸4と出力軸2との間の変速比は、口頭審理において確認したように(調書参照。)、アクセル開度に応じた内燃機関10の出力である必要出力によって影響を受けることは明らかである。
それゆえ、甲第1号証に記載された発明1の内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにしたものにおいて、所定の車両速度において、中間軸4と出力軸2との間の変速比が、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けることは自明な事項に過ぎない。

相違点1-4について
上記相違点1-1?3で検討したように、甲第1号証に記載された発明1において、内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにすることや、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21を平衡化サブアセンブリとし、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21によって遊星歯車53に伝達される機械的な抵抗負荷は速度及び加速度の関数として増加することや、また、車両が走行するものである以上、駆動輪に接続される出力軸2にリング歯車54を介して連結された遊星歯車53は、出力軸2の回転の速度や加速度の関数である抵抗力を受けることは自明であることや、所定の車両速度において、中間軸4と出力軸2との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けるようにすることは自明な事項であることから、これらの事項を総合すると、遊星歯車機構50による変速比は、発電機20や周知技術であるフライホイールの回転による抵抗力及び、出力軸の回転の速度や加速度による抵抗力である抵抗負荷によって変わるものであって、この抵抗負荷は速度の関数である。すなわち、駆動輪と内燃機関10との間の変速比を負荷抵抗及び速度の変化に応じて変えることになる。
そして、口頭審理において確認したように(調書参照。)、「変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」について、「負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力、出力軸の回転に対する抵抗力」の2つの力のことであり、「速度」は、「平衡化サブアセンブリの回転速度、出力軸の回転速度」の2つの速度のことであり、上記「変速比を負荷及び速度の条件に応じて変える」は、「変速比を、抵抗負荷及び速度の変化に応じて変える」ことである。
それゆえ、駆動輪と内燃機関10との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変えることに格別の困難性はない。

そして、本件特許発明1の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.2 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用しており、本件特許発明1において、「上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、エネルギー消費負荷(18;27,28,29;44)、特に、過給機(29)、ファン(28)、冷却水ポンプ、発電装置(27,44)といった補助機構を含むこと」としたものである。

甲第1号証に記載の「発電機20」は、「発電装置」であって、中空回転軸5,歯車22,23からエネルギーを取り出す「エネルギー消費負荷」であり、「補助機構」であるので、本件特許発明2の「サブアセンブリからエネルギーを取り出す手段」に相当する。
してみれば、甲第1号証には、更に「中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21からエネルギーを取り出す手段は、エネルギー消費負荷である発電機20といった補助機構であること」が記載されている(この事項を甲第1号証に記載された発明1に備えたものを「甲第1号証に記載された発明1-2」という。)。
そして、上記甲第1号証の記載事項は、本件特許発明2の「サブアセンブリからエネルギーを取り出す手段は、エネルギー消費負荷、特に、発電装置といった補助機構を含むこと」に相当する。
なお、過給機、ファン、冷却水ポンプは、補助機構の例示に過ぎず、周知の装置である。

そして、本件特許発明2の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1-2及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明1-2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.3 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1を引用しており、本件特許発明1において、「上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、自動変速装置が連結される機関の過給機(29)を含むこと」としたものである。

7.3.1 対比
甲第1号証に記載の「発電機20」は、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21からエネルギーを取り出す「エネルギー消費負荷」であり、「補助機構」であるので、本件特許発明3の「サブアセンブリからエネルギーを取り出す手段」に相当する。
してみれば、甲第1号証には、更に「中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21からエネルギーを取り出す手段は、歯車伝動装置が連結される発電機20であること」が記載されている(この事項を甲第1号証に記載された発明1に備えたものを「甲第1号証に記載された発明1-3」という。)。

そこで、本件特許発明3と、甲第1号証に記載された発明1-3とを対比すれば、次の相違点3でも相違する。

相違点3
本件特許発明3では、平衡化サブアセンブリからエネルギーを取り出す手段は、自動変速装置が連結される機関の過給機を含むのに対し、甲第1号証に記載された発明1-3では、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21からエネルギーを取り出す手段は、歯車伝動装置が連結される発電機20である点。

7.3.2 判断
相違点3について検討する。
甲第9号証には、エンジン1からの出力をフライホイール15外周に設けられた動力取出部であるプーリ25、Vベルト26、Vプーリ27を介し、補機である過給機5を駆動することが記載されている。すなわち、エンジン1から部分的に取り出した出力によって車両の補機である過給機5を駆動している(チ-3)。
また、過給機5とは別に、エンジン1から部分的に取り出した出力によって、車両の補機であるオルタネータ12及びエアコン用ポンプ13も駆動している(チ-2)。
また、過給機とオルタネータ(発電機)との、補機としての等価性が示唆されている(チ-4)。
また、オルタネータ12やエアコン用ポンプ13を過給機5と同じ側で駆動してもよいことが記載されている(チ-5)。
以上のことから、甲第9号証には、過給機、オルタネータ(発電機)、エアコン用ポンプなどの車両の複数の補機を同じ側で、エンジンから部分的に取り出した出力により駆動することが記載されている。

また、甲第1号証に記載された発明1-3における車両の補機である発電機20は、M-Eモードにおいて、内燃機関10から部分的に取り出した出力によって駆動されるものである。
それゆえ、甲第1号証に記載された発明1-3において、甲第9号証に記載された事項を参酌して、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21からエネルギーを取り出す手段は、歯車伝動装置が連結される内燃機関10の過給機を含むようにすることに格別の困難性はない。

そして、本件特許発明3の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1-3及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明1-3及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.4 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1?3のいずれか1つを引用しており、本件特許発明1?3のいずれか1つにおいて、「上記平衡化サブアセンブリ(16)は、慣性負荷(17)を有すること」としたものである。

7.4.1 対比
本件特許発明4と、甲第1号証に記載された発明1とを対比すれば、次の相違点4でも相違する。

相違点4
本件特許発明4では、平衡化サブアセンブリは、慣性負荷を有するのに対し、甲第1号証に記載された発明1では、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21は、慣性負荷を有さない点。

7.4.2 判断
相違点4の慣性負荷を有する点については、上記7.1.2の「相違点1-2について」(慣性負荷であるフライホイール)で判断したとおりである。

そして、本件特許発明4の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.5 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1?4のいずれか1つを引用しており、本件特許発明1?4のいずれか1つにおいて、「上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、平衡化サブアセンブリ(16)から出力軸(14)にエネルギーを伝達するための手段(44,40)を有すること」としたものである。

甲第1号証に記載された発明1における発電機20は、蓄電池40を介して電動機30に電気的に接続され、電動機30は、歯車32,33を介して出力軸2に連結されている(イ-2)。それゆえ、「発電機20」は、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21から出力軸2に、蓄電池40,電動機30,歯車32,33を介してエネルギーを伝達しており、本件特許発明5の「エネルギーを伝達するための手段(発電装置)」に相当する。
してみれば、甲第1号証には、更に「中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21からエネルギーを取り出す手段は、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21から出力軸2にエネルギーを伝達するための手段である発電機20を有すること」が記載されている(この事項を甲第1号証に記載された発明1に備えたものを「甲第1号証に記載にされた発明1-5」という。)。

そして、甲第1号証の上記記載事項は、本件特許発明5の「サブアセンブリからエネルギーを取り出す手段は、サブアセンブリから出力軸にエネルギーを伝達するための手段を有すること」に相当する。

そして、本件特許発明5の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1-5及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明1-5及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.6 本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明5を引用しており、本件特許発明5おいて、「上記エネルギーを伝達するための手段は、平衡化サブアセンブリ(16)によって駆動される発電装置(44)を含むこと」としたものである。

本件特許発明6の「エネルギーを伝達するための手段」は、「平衡化サブアセンブリによって駆動される発電装置」を含むが、上記7.5において検討したように、甲第1号証における「発電機20」は、本件特許発明6の「発電装置」に相当する。
してみれば、甲第1号証には、更に「エネルギーを伝達するための手段は、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21によって駆動される発電機20を含むこと」が記載されている(この事項を甲第1号証に記載された発明1に備えたものを「甲第1号証に記載にされた発明1-6」という。)。

そして、上記甲第1号証の記載事項は、本件特許発明6の「エネルギーを伝達するための手段は、サブアセンブリによって駆動される発電装置を含むこと」に相当する。

そして、本件特許発明6の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1-6及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明1-6及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.7 本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明1?6のいずれか1つを引用しており、本件特許発明1?6のいずれか1つにおいて、「上記入力軸(1)及び出力軸(14)の間の変速比を変更するために、平衡化サブアセンブリ(16)から取り出されるエネルギーの量を調節するための手段(51,54)が設けられること」としたものである。

7.7.1 対比
甲第1号証の「電動機30と発電機20とはそれぞれ蓄電池40を介して電気的に関係づけられる。すなわち配線43,46は励磁側に接続されており、コントローラ41,42は励磁電流を制御する。」(イ-2)、「M-Eモードでは内燃機関10の動力の一部が遊星歯車機構50の太陽歯車52から分流して歯車23,22を介して発電機20を駆動する。すなわち発電機20により電気的エネルギに変換されコントローラ41で制御され蓄電池を充電する。」(イ-4)との記載から分かるように、「コントローラ41」は、中空回転軸5、歯車22,23,回転軸21から取り出されるエネルギー量を調整するものであり、「エネルギーの量を調節するための手段」に相当する。
してみれば、甲第1号証には、更に「中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21から取り出されるエネルギーの量を調節するための手段であるコントローラ41が設けられること」が記載されている(この事項を甲第1号証に記載された発明1に備えたものを「甲第1号証に記載された発明1-7」という。)。

そして、甲第1号証の上記記載事項は、本件特許発明7の「サブアセンブリから取り出されるエネルギーの量を調節するための手段が設けられること」に相当する。

本件特許発明7と、甲第1号証に記載された発明1-7とを対比すれば、次の相違点7でも相違する。

相違点7
本件特許発明7では、入力軸及び出力軸の間の変速比を変更するために、平衡化サブアセンブリから取り出されるエネルギーの量を調節するための手段が設けられているのに対し、甲第1号証に記載された発明1-7では、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21から取り出されるエネルギーの量を調節するための手段であるコントローラ41が設けられているものの、入力軸及び出力軸の間の変速比を変更するためものではない点。

7.7.2 判断
相違点7について検討する。
入出力軸の間の変速比を変更するために、発電装置を制御することは周知技術として従来行われている(例えば、甲第2号証:フランス特許第7210769号公報のサイリスター22,24。上記5.2参照。)ことである。
してみれば、甲第1号証に記載された発明1-7において、上記7.1.2で判断したように、内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにすることに格別の困難性がない以上、M-Eモードにおいて内燃機関10の出力を変化させる場合に、コントローラ41により発電機20は制御され得るものであるので、コントローラ41により励磁電流を制御すれば、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21から取り出されるエネルギー量は変化し、結果として、中間軸4及び出力軸2の間の変速比を変化させることができるので、コントローラ41を上記周知技術のように変速比の変更のために用いることに格別の困難性はない。

そして、本件特許発明7の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1-7及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明1-7及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.8 本件特許発明8について
本件特許発明8は、本件特許発明1?7のいずれか1つを引用しており、本件特許発明1?7のいずれか1つにおいて、「上記平衡化サブアセンブリ(16)は、平衡化サブアセンブリの回転速度の増幅手段(24,26)を介して歯車(7)に連結されること」としたものである。

7.8.1 対比
甲第1号証に記載された発明1における「遊星歯車53」は、歯車22,23を介して回転軸21に連結されているので、本件特許発明8の「歯車」に対応する。
また、甲第1号証の、「中間軸4は遊星歯車機構50の遊星歯車53を回転自在に軸支するキャリア51に一体的に結合されており、遊星歯車53と噛合う太陽歯車52は中空回転軸の後端に一体的に取付けられている。そしてこの中空回転軸の前端は多板式変速用ブレーキを構成する第2モード切替クラッチ70の回転可能な摩擦板72に結合され、一方クラッチ70の固定摩擦板71はケースに固着されている。従って油圧によって第2モード切替クラッチ70が係合されると中空回転軸5はケース73に対し固定状態となる。この中空回転軸5にはスプライン嵌合された歯車23があり、この歯車23に噛合う歯車22の回転軸21は発電機20の軸となっている。」(イ-2)との記載、及び第1図からは、歯車23の方が歯車22より径が大きく、また、噛合う歯車の径の大きと歯数は比例するのが通常であるから、歯車23から歯車22にかけて回転速度が増幅されているように見えるが、明確な記載はなされていない。

本件特許発明8と、甲第1号証に記載された発明1とを対比すれば、次の相違点8でも相違する。

相違点8
本件特許発明8では、平衡化サブアセンブリは、平衡化サブアセンブリの回転速度の増幅手段を介して歯車に連結されるのに対し、甲第1号証に記載された発明1では、回転軸21は、歯車22,23を介して遊星歯車53に連結されており、歯車22,23が第1図から回転速度の増幅手段であるように見えるものの、回転速度の増幅手段であることの明確な記載がなされていない点。

7.8.2 判断
相違点8について検討する。
甲第9号証の過給機5は、エンジン1からの出力を部分的に取り出すことにより駆動される車両の補機であって、フライホイール15外周のプーリ25、Vベルト26、Vプーリ27を介して駆動されるものであるが(チ-3)、プーリ25とVプーリ27とは第1図から分かるように、径の大きさが明らかに違うために、Vプーリ27は増速されて駆動されるものである。更に、Vベルトと歯車の等価性が記載されており(チ-3)、また、過給機とオルタネータ(発電機)との等価性が記載されていることから(チ-4)、甲第9号証には、補機の回転速度を増幅させることが記載されている。
よって、甲第9号証に補機の回転速度を増幅させることが記載されており、どのような回転速度とするかは設計的事項であることから、甲第1号証に記載された発明1において、回転軸21は、補機である発電機20に結合されているので、歯車22,23を回転速度の増幅手段として、回転軸21を遊星歯車53に連結することに格別の困難性はない。

そして、本件特許発明8の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1、甲第9号証の記載事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明8は、甲第1号証に記載された発明1、甲第9号証の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.9 本件特許発明9について
本件特許発明9は、本件特許発明1?8のいずれか1つを引用しており、本件特許発明1?8のいずれか1つにおいて、「上記歯車列は、遊星タイプであって、入力軸(1)に連結された衛星歯車ホルダー(6)と、出力軸に連結された内歯車(9)と、平衡化サブアセンブリ(16)に連結された太陽歯車(11)、とを含むこと」としたものである。

甲第1号証の「中間軸4は遊星歯車機構50の遊星歯車53を回転自在に軸支するキャリア51に一体的に結合されており、遊星歯車53と噛合う太陽歯車52は中空回転軸の後端に一体的に取付けられている。そしてこの中空回転軸の前端は多板式変速用ブレーキを構成する第2モード切替クラッチ70の回転可能な摩擦板72に結合され、一方クラッチ70の固定摩擦板71はケースに固着されている。従って油圧によって第2モード切替クラッチ70が係合されると中空回転軸5はケース73に対し固定状態となる。この中空回転軸5にはスプライン嵌合された歯車23があり、この歯車23に噛合う歯車22の回転軸21は発電機20の軸となっている。遊星歯車機構50のリング歯車54は出力軸2上に取付けられ、この出力軸2上には歯車33がスプライン嵌合し、これに噛合う歯車32を介して電動機30と連結している。」(イ-2)との記載、及び第1図から、歯車列である遊星歯車機構50は、「遊星タイプ」であって、「キャリア51」は中間軸4に連結されており、本件特許発明9の「衛星歯車ホルダー」に相当し、「リング歯車54」は出力軸2に連結されており、「内歯車」に相当し、「太陽歯車52」は中空回転軸5に連結されており、「太陽歯車」にそれぞれ相当する。
してみれば、甲第1号証には、更に「歯車列は、遊星タイプであって、中間軸4に連結されたキャリア51と、出力軸2に連結されたリング歯車54と、中空回転軸5に連結された太陽歯車52、とを含むこと」が記載されている(この事項を甲第1号証に記載された発明1に備えたものを「甲第1号証に記載された発明1-9」という。)。

そして、甲第1号証の上記記載事項は、本件特許発明9の「歯車列は、遊星タイプであって、入力軸に連結された衛星歯車ホルダーと、出力軸に連結された内歯車と、サブアセンブリに連結された太陽歯車、とを含むこと」に相当する。

そして、本件特許発明9の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1-9及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明1-9及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.10 本件特許発明10について
本件特許発明10は、本件特許発明9を引用しており、本件特許発明9において、「上記衛星歯車ホルダー(6)は、2個の遊星歯車(7a,7b)を支持し、その各々は、内歯車(9)に噛み合う比較的小さい直径のピニオン(7c)と、該ピニオン(7c)に回転連結された太陽歯車(11)に噛み合う比較的大きい直径のピニオン(7d)、とを含むこと」としたものである。なお、(7a,7b)は、(7c,7d)の誤記である(調書参照。)。

7.10.1 対比
甲第1号証の第1図から、遊星歯車53は、少なくとも2個あることが分かる。そして、甲第1号証の「遊星歯車53」は、本件特許発明10の「ピニオン」に相当する。
してみれば、甲第1号証には、更に「キャリア51は、2個の遊星歯車53を支持し、その各々は、リング歯車54に噛み合うピニオンと、太陽歯車52に噛み合うピニオン、とを含むこと」が記載されている(この事項を甲第1号証に記載された発明1に備えたものを「甲第1号証に記載された発明1-10」という。)。

そして、甲第1号証の上記記載事項は、本件特許発明10の「衛星歯車ホルダーは、2個の遊星歯車を支持し、その各々は、内歯車に噛み合うピニオンと、太陽歯車に噛み合うピニオン、とを含むこと」に相当する。

本件特許発明10と、甲第1号証に記載された発明1-10とを対比すれば、次の相違点10でも相違する。

相違点10
本件特許発明10では、衛星歯車ホルダーは、2個の遊星歯車を支持し、その各々は、内歯車に噛み合う比較的小さい直径のピニオンと、該ピニオンに回転連結された太陽歯車に噛み合う比較的大きい直径のピニオン、とを含むのに対し、甲第1号証に記載された発明1-10では、キャリア51は、2個の遊星歯車53を支持しているものの、回転連結しておらず、遊星歯車53は大小直径の違うピニオンを含むわけではない点。

7.10.2 判断
相違点10について検討する。
一般に、必要な減速比を得るために径の異なる遊星歯車を並べて配置することは通常行われている慣用手段(例えば、甲第8号証:米国特許第2666492号明細書(遊星歯車小歯車146,148,Fig.2A)参照。上記5.7参照。)であって、回転連結した大小異なる径の遊星歯車によって変速装置を構成することは、どのようにトルクを伝達させるかによる単なる設計的事項であるから、甲第1号証に記載された発明1-10において、遊星歯車機構50を設計するに当たり、衛星歯車ホルダーは、2個の遊星歯車を支持し、その各々は、内歯車に噛み合う比較的小さい直径のピニオンと、該ピニオンに回転連結された太陽歯車に噛み合う比較的大きい直径のピニオン、とを含むようにすることに格別の困難性はない。

そして、本件特許発明10の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1-10及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明10は、甲第1号証に記載された発明1-10及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.11 本件特許発明11について
本件特許発明11は、本件特許発明9を引用しており、本件特許発明9おいて、「上記遊星タイプの歯車列は、直列に配設された2つの遊星歯車列(31a,31b)を含むこと」としたものである。

甲第1号証の「第1図と異なる点は遊星歯車機構が2列で構成されていることである。すなわち前列遊星歯車機構150のリング歯車154は後列遊星歯車機構の遊星歯車157を軸支するキャリヤ155と一体になっており、しかもこれは出力軸102と連結している。また後列遊星歯車機構180のリング歯車158は常にケース171に固着されている。そしてその太陽歯車156と一体に結合した歯車133に噛合う歯車132の軸は電動機130と一体的に結合している。」(イ-3)との記載、第2図から、前列遊星歯車機構150及び後列遊星歯車機構180によって、「直列に配設された2つの遊星歯車列」を形成している。

してみれば、甲第1号証には、更に「遊星タイプの歯車列は、直列に配設された2つの遊星歯車列である前列遊星歯車機構150及び後列遊星歯車機構180を含むこと」が記載されている(この事項を甲第1号証に記載された発明1に備えたものを「甲第1号証に記載された発明1-11」という。)。

そして、上記甲第1号証の記載事項は、本件特許発明11の「遊星タイプの歯車列は、直列に配設された2つの遊星歯車列を含むこと」に相当する。

そして、本件特許発明11の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1-11及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明11は、甲第1号証に記載された発明1-11及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.12 本件特許発明12について
本件特許発明12は、本件特許発明1?8のいずれか1つを引用しており、本件特許発明1?8のいずれか1つにおいて、「上記歯車列は、円筒形の差動タイプであって、入力軸(1)に連結された入力太陽歯車(34)と、平衡化サブアセンブリ(16)に連結された出力太陽車(36)と、出力軸(14)に連結された衛星歯車ホルダー(37)、とを含み、衛星歯車ホルダーは、各々が太陽歯車(34,36)の一方に係合する、少なくとも一対の相互係合する遊星歯車(7a,7b)を有すること」としたものである。

7.12.1 対比
本件特許発明12と、甲第1号証に記載された発明1とを対比すれば、次の相違点12でも相違する。

相違点12
本件特許発明12では、歯車列は、円筒形の差動タイプであって、入力軸に連結された入力太陽歯車と、平衡化サブアセンブリに連結された出力太陽車と、出力軸に連結された衛星歯車ホルダー、とを含み、衛星歯車ホルダーは、各々が太陽歯車の一方に係合する、少なくとも一対の相互係合する遊星歯車を有するのに対し、甲第1号証に記載された発明では、歯車列は円筒形の差動タイプではなく、各歯車の形式・配置が異なっている点。

7.12.2 判断
動力伝達装置において、円筒形の差動タイプである入力太陽歯車、出力太陽歯車を有し、衛星歯車ホルダーは、各々が太陽歯車の一方に係合する、少なくとも一対の相互係合する遊星歯車を有することは、本件出願前に周知(例えば、甲第8号証:米国特許第2666492号明細書(遊星歯車支承部18(衛星歯車ホルダー),前方太陽歯車152(入力太陽歯車),後方太陽歯車154(出力太陽歯車),遊星歯車小歯車146,148(遊星歯車),Fig.2A)参照。上記5.7参照。)であり、また、甲第1号証に記載された発明1における歯車列において、遊星歯車53をリング歯車54の内外どちらに配置するかによって変速し、トルク伝達させるかは設計的事項であるので、上記周知技術を考慮し、歯車列を、遊星歯車をリング歯車の外側に配置するような円筒形の差動タイプであって、入力軸に連結された入力太陽歯車と、平衡化サブアセンブリに連結された出力太陽車と、出力軸に連結された衛星歯車ホルダー、とを含み、衛星歯車ホルダーは、各々が太陽歯車の一方に係合する、少なくとも一対の相互係合する遊星歯車を有するものとすることに格別の困難性はない。

そして、本件特許発明12の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明12は、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.13 本件特許発明13について
本件特許発明13は、本件特許発明1?12のいずれか1つを引用しており、本件特許発明1?12のいずれか1つにおいて、「上記平衡化サブアセンブリ(16)には、スタータ(27,44)が連結されること」としたものである。

7.13.1 対比
本件特許発明13と、甲第1号証に記載された発明1とを対比すれば、次の相違点13でも相違する。

相違点13
本件特許発明13では、平衡化サブアセンブリには、スタータが連結されるのに対し、甲第1号証に記載された発明1では、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21には、発電機20が連結されている点。

7.13.2 判断
自動車の動力装置において、発電装置をスタータとして用いることは、周知技術(例えば、甲第3号証:ドイツ特許公開第3140492号公報(電動機E)(上記5.3)、甲第4号証:特開昭57-107462号公報(発電機兼用モータ8)(上記5.4)、甲第5号証:特公昭47-31773号公報(発電機)(上記5.5)参照。)であるので、甲第1号証の発電機20をスタータとして用いることに格別の困難性はない。

そして、本件特許発明13の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明13は、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.14 本件特許発明14について
本件特許発明14は、本件特許発明13を引用しており、本件特許発明13おいて、「スタータ(27,44)は、機械的エネルギーが自動変速装置の入力軸(1)に受容されるときに、平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す発電装置として機能し得る可逆機関であること」としたものである。

上記7.13.2で検討したように、甲第1号証の発電機20をスタータとして用いることに格別の困難性はなく、このことはすなわち、発電機20は、スタータとして機能する可逆機関であることを示している。

そして、本件特許発明14の作用効果も、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明14は、甲第1号証に記載された発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.15 本件特許発明15について
7.15.1対比
本件特許発明15は、訂正後の本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項15に記載されたとおりのものであるが、当該請求項15の記載には、必ずしも明瞭とは言えない事項があるため、明細書の発明の詳細な説明の記載及び口頭審理調書に記載された被請求人の陳述内容を参酌すると、「機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け」は、「アクセルペダルの踏み込みに応じて、アクセル開度が変化し、それに応じて機関の出力が変化する」の意味に解釈される。以下同様に、「第3の要素に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「過給機の回転に対する抵抗力」だけの負荷の意味に、「抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加」について、「速度」、「加速度」は、「過給機の回転速度、回転加速度」であり、「関数として増加」は、過給機の抵抗力が「速度と加速度の関数として表されるように増加する」の意味に解釈される。以下、この解釈を前提に検討していく。
さらに請求項15の記載を検討していくと、「入力要素」は「入力軸」に連結され、「出力要素」は「出力軸」に連結され、「入力要素」、「出力要素」、「第3の要素」により「差動歯車列」が形成されれる。そして、「第3の要素」とは、「過給機」を「増幅手段」を含んだ「連結手段」を介して連結するためのものであって、「少なくとも1つの歯車」から分配された力を受けるものである。そして、「少なくとも1つの歯車」は、機関から供給される力を「出力要素」と「第3の要素」との間で分配しており、「入力要素」に支持されるものである。

ここで、上記(イ-2)、(イ-4)、第1図の記載から、甲第1号証に記載された発明2における「キャリア51」は中間軸4に連結されており、「リング歯車54」は、出力軸2に連結されている。また、「キャリア51」、「太陽歯車52」、「遊星歯車53」、「リング歯車54」は、「遊星歯車機構50」を形成している。そして、「太陽歯車52」は、「中空回転軸5」、「歯車22,23」、「回転軸21」を介して「発電機20」と連結されており、「遊星歯車53」から分配された力を受けている。そして、「遊星歯車53」は、「リング歯車54」と「太陽歯車52」との間で、内燃機関10からの力を分配しており、また、「キャリア51」により支持されている。

以上のことから、本件特許発明15と甲第1号証に記載された発明2とを対比すれば、甲第1号証に記載された発明2の「内燃機関10」は、本件特許発明15の「機関」に相当し、以下同様に、「入力軸1」,「中間軸4」は「入力軸」に、「出力軸2」は「出力軸」に、「キャリア51」は、中間軸2に連結されており、「入力要素」に、「リング歯車54」は、出力軸2に連結されており、「出力要素」に相当する。また、甲第1号証に記載された発明2の「太陽歯車52」は、中空回転軸5、歯車22,23、回転軸21を介して発電機20と連結され、遊星歯車53から分配された力を受けているので、本件特許発明15の「第3の要素」に相当し、同様に、キャリア51、太陽歯車52、遊星歯車53、リング歯車54からなる「遊星歯車機構50」は、「差動歯車列」に相当する。
また、甲第1号証に記載された発明2の「発電機20」は、「車両の補機」である点で、本件発明15の「車両の過給機」と共通している。
そして、甲第1号証に記載された発明2の「中空回転軸5」、「歯車22,23」、「回転軸21」は、発電機20と太陽歯車52とを連結していることから、本件特許発明15の「連結手段」に相当する。さらに、甲第1号証に記載された発明2の「遊星歯車53」は、リング歯車54と太陽歯車52との間で内燃機関10からの力を分配しており、また、キャリア51により支持されていることから、本件発明15の「少なくとも1つの歯車」に相当する。
そして、甲第1号証に記載された発明2の「歯車伝動装置」は、上記(イ-1)?(イ-5)から明らかなように、本件特許発明15と同様な「自動変速装置」と言えるものである。
よって、本件特許発明15と甲第1号証に記載された発明2とは、

「車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、車両の少なくとも1つの駆動輪に駆動可能に連結される出力軸と、該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、第3の要素、とを有する差動歯車列と、該第3の要素を車両の補機に連結するための連結手段、とを含んで成り、前記差動歯車列の入力要素は、機関から供給される力を出力要素及び第3の要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車を回動可能に支持した自動変速装置。」

で一致し、以下の点で相違している。

相違点15-1
本件特許発明15では、連結手段により第3の要素に連結される補機は過給機であるのに対して、甲第1号証に記載された発明2では、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21により太陽歯車52に連結される補機は、発電機20である点。

相違点15-2
本件特許発明15では、連結手段は、第3の要素の速度に対する過給機の回転速度を増幅する増幅手段を含むのに対して、甲第1号証に記載された発明2では、回転軸21は、歯車22,23を介して太陽歯車52に連結されており、歯車22,23が第1図から補機である発電機20の回転速度の増幅手段であるように見えるものの、回転速度の増幅手段であることの明確な記載がなされていない点。

相違点15-3
本件特許発明15では、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受けるのに対し、甲第1号証に記載された発明2では、M-Eモードにおいて、内燃機関10の出力を一定に保持しているので、必ずしも内燃機関10の出力は、アクセル開度の影響を受けるわけではない点。

相違点15-4
本件特許発明15では、過給機によって第3の要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加するのに対し、甲第1号証に記載された発明2では、過給機の記載はなく、発電機20によって太陽歯車52に伝達される機械的な抵抗負荷は、関数の関係にあるかどうか明らかでない点。

7.15.2 判断

相違点15-1について
甲第9号証には、エンジン1からの出力をフライホイール15外周に設けられた動力取出部であるプーリ25、Vベルト26、Vプーリ27を介し、補機である過給機5を駆動することが記載されている。すなわち、エンジン1から部分的に取り出した出力によって車両の補機である過給機5を駆動している(チ-3)。
また、過給機5とは別に、エンジン1から部分的に取り出した出力によって、車両の補機であるオルタネータ12及びエアコン用ポンプ13も駆動している(チ-2)。
また、過給機とオルタネータ(発電機)との、補機としての等価性が示唆されている(チ-4)。
また、オルタネータ12やエアコン用ポンプ13を過給機5と同じ側で駆動してもよいことが記載されている(チ-5)。
以上のことから、甲第9号証には、過給機、オルタネータ(発電機)、エアコン用ポンプなどの車両の複数の補機を同じ側で、エンジンから部分的に取り出した出力により駆動することが記載されている。

また、甲第1号証に記載された発明2における車両の補機である発電機20は、M-Eモードにおいて、内燃機関10から部分的に取り出した出力によって駆動されるものである。
それゆえ、甲第1号証に記載された発明2において、甲第9号証に記載された事項を参酌して、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21により太陽歯車52に連結される補機に過給機を加えることに格別の困難性はない。

相違点15-2について
甲第9号証の過給機5は、エンジン1からの出力を部分的に取り出すことにより駆動される車両の補機であって、フライホイール15外周のプーリ25、Vベルト26、Vプーリ27を介して駆動されるものであるが(チ-3)、プーリ25とVプーリ27とは第1図から分かるように、径の大きさが明らかに違うために、Vプーリ27は増速されて駆動されるものである。更に、Vベルトと歯車の等価性が記載されており(チ-3)、また、過給機とオルタネータ(発電機)との等価性が記載されていることから(チ-4)、甲第9号証には、補機の回転速度を増幅させることが記載されている。
よって、甲第9号証に、補機の回転速度を増幅させることが記載されており、また、どのような回転速度とするかは設計的事項であることから、甲第1号証に記載された発明2において、回転軸21は、上記「相違点15-1について」で検討したように補機である発電機20や過給機に結合されることになるので、歯車22,23を過給機の回転速度の増幅手段として、回転軸21を太陽歯車52に連結することに格別の困難性はない。

相違点15-3について
甲第1号証に記載された発明2は、M-Eモードにおいて、内燃機関10の出力を一定に保持しているが、これは、「電動機30の回転速度のみの制御によって出力軸2の回転速度を変化させることが可能である。」(イ-4)、「公害対策上内燃機関は最も排気ガスの少い回転速度で一定にしておくという方法は極めて有効である。」(イ-5)とあるように、内燃機関10の出力を一定以外にすることを妨げるわけではなく、「このときには内燃機関10と出力軸2は遊星歯車機構50を介して連結されしかも電動機30の動力も出力軸2に加わるから、全体として内燃機関と電動機の動力は複合伝達される。この状態はM-Eモ-ドであり、このM-Eモードでは内燃機関10の動力の一部が遊星歯車機構50の太陽歯車52から分流して歯車23,22を介して発電機20を駆動する。」(イ-4)や第1図から分かるように、内燃機関10の出力を変化させると出力軸2の出力も変化し得るものである。さらに、内燃機関の一定ではない出力と電動機の出力とを複合させて出力することは本件出願前に周知技術(例えば、実願昭56-140715号(実開昭58-46202号)のマイクロフィルム(第7?9ページ、第3,4図)、特開昭50-85019号公報(第4ページ右下欄)参照。)であることも考慮すると、内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにすることに格別の困難性はなく、特段の阻害要因も見あたらない。

相違点15-4について
甲第1号証に記載された発明2では、発電機20や、上記「相違点15-1」で検討した過給機によって太陽歯車52に伝達される機械的な抵抗負荷は、関数の関係にあるかどうか明らかでない。しかし、訂正後の本件特許明細書第4ページ第15行目?同第26行目(特許公報第4ページ第7欄第13行目?同第30行目)に記載されているように、衛星歯車7に伝達される機械的な抵抗負荷は、補償機構16の回転に対する抵抗力及び出力軸14の回転に対する抵抗力であって、これら抵抗力は、出力軸の回転の速度や加速度、補助機構の回転速度、慣性負荷であるフライホイールの加速度と比例関係(例えば、補助機構の回転速度の2乗に正比例するような抵抗、出力軸の回転速度の2乗に正比例するような抵抗。)にあり、速度及び加速度の関数である。
また、訂正後の本件特許明細書第7ページ第16行?同第20行目(特許公報第5ページ第10欄第37行目?同第43行目)に「スタータとして役立つことのできる発電装置27のシャフト16の自由端には、ファン28及び機械式過給機29を表わし、遊星歯車11が一定の速度で回転する場合でさえこの歯車の回転に対する抵抗を抵抗させるエネルギー消費負荷としてこれら3つの付属備品のいずれか1つ又は2つをシャフト16に連結することができるということを示した。」と記載されているように、過給機は、抵抗力を発生させる。(なお、口頭審理により(調書参照。)、「第3の要素に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「過給機の回転に対する抵抗力」だけの負荷を示し、出力軸の回転に対する抵抗力は含まない。)
してみると、上記「相違点15-1について」?「相違点15-3について」で検討したように、甲第1号証に記載された発明2の内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにしたものに、回転速度の増幅された過給機を適用した場合、発電機20や過給機は、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21を介して太陽歯車52や遊星歯車53に結合されており、それら自体、回転する部材を含んでいるので回転速度を生じ、また、過給機は、抵抗力を発生させるので、太陽歯車52や遊星歯車53は、機械構造上、発電機20,過給機の回転による抵抗力を受け、そしてこの抵抗力は、上記本件特許明細書の記載と同様に、速度や加速度と比例関係にあることは明らかであり、速度及び加速度の関数である。(なお、車両が走行するものである以上、駆動輪に接続される出力軸2にリング歯車54,遊星歯車53を介して連結された太陽歯車52は、出力軸の回転の速度や加速度の関数である抵抗力を受けることは自明である。)
よって、発電機20や過給機によって太陽歯車52に伝達される機械的な抵抗負荷が速度及び加速度の関数として増加することは、発電機や過給機のような車両補機が存在すれば機械構造上、必然的に発生する事項に過ぎない。

そして、本件特許発明15の作用効果も、甲第1号証に記載された発明2、甲第9号証の記載事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明15は、甲第1号証に記載された発明2、甲第9号証の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.16 本件特許発明16について
7.16.1 対比
本件特許発明16は、訂正後の本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項16に記載されたとおりのものであるが、当該請求項16の記載には、必ずしも明瞭とは言えない事項があるため、明細書の発明の詳細な説明の記載及び口頭審理調書に記載された被請求人の陳述内容を参酌すると、「エネルギー」は、「車両の機能に活用されるエネルギー」の意味に解釈される。以下同様に、「機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け」は、「アクセルペダルの踏み込みに応じて、アクセル開度が変化し、それに応じて機関の出力が変化する」の意味に、「平衡化要素に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力」だけの負荷の意味に、「抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加」について、「速度」、「加速度」は、「平衡化サブアセンブリの回転速度、回転加速度」であり、「関数として増加」は、平衡化サブアセンブリの抵抗力が「速度と加速度の関数として表されるように増加する」の意味に解釈される。以下、この解釈を前提に検討していく。
さらに請求項16の記載を検討していくと、「入力要素」は「入力軸」に連結され、「出力要素」は「出力軸」に連結され、「入力要素」、「出力要素」、「平衡化要素」、「少なくとも1つの歯車」により「歯車列」が形成される。
そして、「少なくとも1つの歯車」とは、機関からの力を「出力要素」と「平衡化要素」との間で分配するものである。この「平衡化要素」は、「平衡化サブアセンブリ」を「増幅手段」を含んだ「連結するための手段」によって連結するものであり、「少なくとも1つの歯車」から分配された力を受ける。「平衡化要素」については、明瞭な記載ではなく、また、発明の詳細な説明中には明確な記載がないが、口頭審理調書に記載された被請求人の陳述内容を参酌すると、「平衡化要素」は、発明の詳細な説明中の「遊星歯車11」、「管23」、「歯車24」を示し、これらは、それ自体、抵抗を「平衡化」するものではなく、「平衡化サブアセンブリ」によって抵抗を「平衡化」させるための接続要素である。
また、「平衡化サブアセンブリ」は、「エネルギーを取り出すための手段」によりエネルギーを取り出される。(なお、発明の詳細な説明においては、平衡化サブアセンブリとして、フライホイールが用いられており、車両の前進により発生する抵抗を、フライホイールの慣性により、衛星歯車の周りで平衡化している。)

ここで、上記(イ-2)、(イ-4)、第1図の記載から、甲第1号証に記載された発明3における「キャリア51」は、中間軸4に連結されており、「リング歯車54」は出力軸2に連結されている。また、「キャリア51」、「太陽歯車52」、「遊星歯車53」、「リング歯車54」は、「遊星歯車機構50」を形成している。そして、「遊星歯車53」は、内燃機関10からの力を「リング歯車54」と「太陽歯車52」との間で分配するものである。また、「太陽歯車52」は、「歯車22」、「回転軸21」を「中空回転軸5」、「歯車23」によって連結し、「遊星歯車53」から分配された力を受けている。「歯車22」、「回転軸21」は、「発電機20」によりエネルギーを取り出される。

以上のことから、本件特許発明16と甲第1号証に記載された発明3とを対比すれば、甲第1号証に記載された発明3の「内燃機関10」は、本件特許発明16の「機関」に相当し、以下同様に、「入力軸1」,「中間軸4」は「入力軸」に、「出力軸2」は「出力軸」にそれぞれ相当する。
そして、甲第1号証に記載された発明3の「キャリア51」は中間軸4に連結されており、本件特許発明16の「入力要素」に相当し、以下同様に、「リング歯車54」は出力軸2に連結されており、「入力要素」に相当し、「キャリア51」、「太陽歯車52」、「遊星歯車53」、「リング歯車54」は、「遊星歯車機構50」を形成し、「歯車列」に相当する。そして、甲第1号証に記載された発明3の「遊星歯車53」は、内燃機関10からの力を「リング歯車54」と「太陽歯車52」との間で分配するものであって、本件特許発明16の「少なくとも1つの歯車」に相当し、同様に、「太陽歯車52」は、「歯車22」、「回転軸21」を「中空回転軸5」、「歯車23」によって連結するものであり、「遊星歯車53」から分配された力を受けているので、「平衡化要素」に相当し、「発電機20」は、「歯車22」、「回転軸21」からエネルギーを取り出しており、「エネルギーを取り出すための手段」に相当し、また、「歯車22」、「回転軸21」は、「電動機20」の影響により、「平衡化」させる力を伝達はするが、「歯車22」、「回転軸21」自体は、「平衡化」であるとは必ずしも言えないものの、少なくとも、「サブアセンブリ」には相当している。
また、甲第1号証に記載された発明3の「中空回転軸5」、「歯車23」は、本件特許発明16の「平衡化要素」に相当する「太陽歯車52」と、「サブアセンブリ」に相当する「歯車22」、「回転軸21」とを連結するものであって、本件特許発明16の「平衡化要素をアセンブリに連結するための手段」に相当し、さらに、「歯車22」は、「平衡化要素をアセンブリに連結するための手段」を兼ねているものである。
そして、甲第1号証に記載された発明3の「歯車伝動装置」は、上記(イ-1)?(イ-5)から明らかなように、本件特許発明16と同様な「自動変速装置」と言えるものである。
よって、本件特許発明16と甲第1号証に記載された発明3とは、

「車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、車両の少なくとも1つの駆動輪の駆動可能に連結される出力軸と、サブアセンブリと、該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、平衡化要素と、機関から供給される力を出力要素及び平衡化要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車、とを有する歯車列と、平衡化要素をサブアセンブリに連結するための手段と、サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段、とを含む自動変速装置。」

で一致し、以下の点で相違している。

相違点16-1
本件特許発明16では、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受けるのに対し、甲第1号証に記載された発明3では、M-Eモードにおいて、内燃機関10の出力を一定に保持しているので、必ずしも内燃機関10の出力は、アクセル開度の影響を受けるわけではない点。

相違点16-2
本件特許発明16では、平衡化サブアセンブリによって平衡化要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加するのに対し、甲第1号証に記載された発明3では、歯車22,回転軸21は、サブアセンブリではあるが、必ずしも平衡化サブアセンブリとまでは言えず、また、歯車22,回転軸21によって太陽歯車52に伝達される機械的な抵抗負荷は、関数の関係にあるかどうか明らかでない点。

相違点16-3
本件特許発明16では、平衡化要素を平衡化サブアセンブリに連結するための手段は、平衡化要素の回転速度に対する平衡化サブアセンブリの回転速度を増幅する増幅手段を含むのに対し、甲第1号証に記載された発明3では、歯車22,回転軸21は、サブアセンブリではあるが、必ずしも平衡化サブアセンブリとまでは言えず、また、回転軸21は、歯車22,23を介して太陽歯車52に連結されており、歯車22,23が第1図から補機である発電機20の回転速度の増幅手段であるように見えるものの、回転速度の増幅手段であることの明確な記載がなされていない点。

7.16.2 判断

相違点16-1について
甲第1号証に記載された発明3は、M-Eモードにおいて、内燃機関10の出力を一定に保持しているが、これは、「電動機30の回転速度のみの制御によって出力軸2の回転速度を変化させることが可能である。」(イ-4)、「公害対策上内燃機関は最も排気ガスの少い回転速度で一定にしておくという方法は極めて有効である。」(イ-5)とあるように、内燃機関10の出力を一定以外にすることを妨げるわけではなく、「このときには内燃機関10と出力軸2は遊星歯車機構50を介して連結されしかも電動機30の動力も出力軸2に加わるから、全体として内燃機関と電動機の動力は複合伝達される。この状態はM-Eモ-ドであり、このM-Eモードでは内燃機関10の動力の一部が遊星歯車機構50の太陽歯車52から分流して歯車23,22を介して発電機20を駆動する。」(イ-4)や第1図から分かるように、内燃機関10の出力を変化させると出力軸2の出力も変化し得るものである。さらに、内燃機関の一定ではない出力と電動機の出力とを複合させて出力することは本件出願前に周知技術(例えば、実願昭56-140715号(実開昭58-46202号)のマイクロフィルム(第7?9ページ、第3,4図)、特開昭50-85019号公報(第4ページ右下欄)参照。)であることも考慮すると、内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにすることに格別の困難性はなく、特段の阻害要因も見あたらない。

相違点16-2について
甲第1号証に記載された発明3では、歯車22,回転軸21は、サブアセンブリではあるが、必ずしも平衡化サブアセンブリとまでは言えず、また、歯車22,回転軸21によって太陽歯車52に伝達される機械的な抵抗負荷は、関数の関係にあるかどうか明らかでない。しかし、訂正後の本件特許明細書第4ページ第15行目?同第26行目(特許公報第4ページ第7欄第13行目?同第30行目)に記載されているように、衛星歯車7に伝達される機械的な抵抗負荷は、補償機構16の回転に対する抵抗力及び出力軸14の回転に対する抵抗力であって、これら抵抗力は、出力軸の回転の速度や加速度、補助機構の回転速度、慣性負荷であるフライホイールの加速度と比例関係(例えば、補助機構の回転速度の2乗に正比例するような抵抗、出力軸の回転速度の2乗に正比例するような抵抗。)にあり、速度及び加速度の関数である。(なお、口頭審理により(調書参照。)、「平衡化要素に伝達される機械的な抵抗負荷」は、「平衡化サブアセンブリの回転に対する抵抗力」だけの負荷を示し、出力軸の回転に対する抵抗力は含まない。)
してみると、甲第1号証に記載された発明3の内燃機関10の出力を車両のアクセル開度によって影響を受けるようにしたものにおいて、発電機20は、中空回転軸5,歯車22,23,回転軸21を介して太陽歯車52や遊星歯車53に結合されており、それ自体、回転する部材を含んでいるので回転速度を生じることは明らかであり、また、発電機のような車両の補機(例えば、パワーステアリング装置用ポンプ)を駆動する回転軸に、フライホイールを設けることが本件出願前に周知技術(例えば、甲第6号証:特開昭59-48234号公報参照。上記5.6参照。)であって、甲第1号証に記載された発明3にフライホイールを設けたものでは、歯車22,回転軸21は平衡化サブアセンブリとなり、機械構造上、太陽歯車52や遊星歯車53は、発電機20や周知技術であるフライホイールの回転による抵抗力を受け、そしてこの抵抗力は、上記本件特許明細書の記載と同様に、速度や加速度と比例関係にあることは明らかであり、速度及び加速度の関数である。(なお、車両が走行するものである以上、駆動輪に接続される出力軸2にリング歯車54,遊星歯車53を介して連結された太陽歯車52は、出力軸の回転の速度や加速度の関数である抵抗力を受けることは自明である。)
よって、周知技術であるフライホイールを設けることにより、歯車22,回転軸21を平衡化サブアセンブリとし、また、歯車22,回転軸21によって太陽歯車52に伝達される機械的な抵抗負荷が速度及び加速度の関数として増加することは、発電機のような補機やフライホイールといった装置が存在すれば機械構造上、必然的に発生する事項に過ぎない。

相違点16-3について
甲第9号証の過給機5は、エンジン1からの出力を部分的に取り出すことにより駆動される車両の補機であって、フライホイール15外周のプーリ25、Vベルト26、Vプーリ27を介して駆動されるものであるが(チ-3)、プーリ25とVプーリ27とは第1図から分かるように、径の大きさが明らかに違うために、Vプーリ27は増速されて駆動されるものである。更に、Vベルトと歯車の等価性が記載されており(チ-3)、また、過給機とオルタネータ(発電機)との等価性が記載されていることから(チ-4)、甲第9号証には、補機の回転速度を増幅させることが記載されている。
よって、上記相違点16-2で検討した事項に加え、甲第9号証に、補機の回転速度を増幅させることが記載されており、また、どのような回転速度とするかは設計的事項であることから、甲第1号証に記載された発明3において、歯車22、回転軸21を平衡化サブアセンブリとし、また、回転軸21は、補機である発電機20に結合されているので、歯車22,23を発電機20の回転速度の増幅手段として、回転軸21を太陽歯車52に連結することに格別の困難性はない。

そして、本件特許発明16の作用効果も、甲第1号証に記載された発明3、甲第9号証の記載事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本件特許発明16は、甲第1号証に記載された発明3、甲第9号証の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8.むすび

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1?16に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された各発明、甲第9号証の記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1?16に係る本件特許は、他の無効理由及び他の証拠(他の甲号証)を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
歯車装置による連続変速型変速装置
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、自動車、自動二輪車及びそれに類するものといった陸上用車両のための歯車装置による連続変速型の変速装置に関する。
DE-A-3011833及びFR-A-692079に従って、変速装置の出力軸とこの出力軸の速度とは一般に異なる速度で回転する補償用サブアセンブリの間で出力を分布させるように載置された少なくとも1つの歯車を含む結合歯車列を入力軸と出力軸の間に含んで成る特に車両用の自動変速装置がすでに知られている。
これらの文書によると、補償用サブアセンブリは、固定的又は可変的慣性のフライホイールで構成されている。これらの特許に内含されている確認事項によると、フライホイールの慣性は衛星歯車の上に、車両の前進に対する抵抗を平衡化するような半力を生み出すことになる。換言すると、各々の衛星歯車は自らの軸のまわりに、フライホイールの慣性によるトルク及び車両の前進に対する抵抗によるトルクという互いに平衡化する2つのトルクを受けることになる。
このタイプの装置は実現的なものでないと思われ、このような理由からこれまで一度も商品化されたことがないのであろう。実際、フライホイールは、その速度が増大した場合にしか望ましい方向において反力に抗することができない。ところが、車両の動きがフライホイールの回転速度の一定の増加のおかげで維持されているとは考えにくい。というのもこの速度は急速に途方もないものとなるからである。その上、この動きに従わなくてはならなくなるエンジンは同様にオーバーランすることになろう。
この問題点は、FR-A-692079において気づかれていたように思われる。この文書では、出力軸の或る一定の回転速度を超えるとフライホイールと出力軸の間の連結(直結)を確保するはずの遠心装置が提案されているのである。この直結装置は、もはや入力軸と出力軸の間の速比の自動的適合を可能にするものではない。その上、フライホイールが著しい回転速度に達したのに連結を確保しなくてはならない場合、連結を確保するために具備された摩擦パッキンは、多大な摩耗と発熱を受けがちである。同様に、遠心システムが休止状態と直結制御状態の限界にある1つの速度での運転の問題もでてくる。この場合、クラッチディスクとフライホイールの間の恒久的摩擦を伴う作動を避けることは困難であると思われる。
本発明の目的は、致命的な欠陥となるこれらの欠点を補正し、より限界的に言うとあらゆる状況の下で異常な発熱無く速比の自動的適合を可能にする単純かつ効果的な機構を提案することにある。
本発明に従うと、冒頭に記したタイプの自動変速装置は、補償用サブアセンブリから有効なエネルギーを取り出すための、歯車以外の手段が含まれていることを特徴とする。
有効なエネルギーというのは、車両の機能、例えばエンジン又は車両のいくつかの付属備品の機能のため或いは又変速装置の下流で駆動輪において放出されるために活用されるエネルギのことである。
従って本発明と先行技術の差異は明白である:すなわち、先行技術では補償用サブアセンブリは単なるエネルギー保存手段にすぎなかったのに対し、本発明では補償用サブアセンブリは基本的に、エネルギーを歯車からエネルギー消費装置まで伝達する手段である。
このような条件の下で、補償用サブアセンブリは、一定の速度で回転しているときでさえ、出力分布歯車に対し1つの反力を抵抗させる。従って、補償用サブアセンブリの回転速度を制御することが完全に可能であり、もはや直結機構を具備することは不可欠ではない。しかしながら、このような機構が望まれる場合、補償用サブアセンブリの回転速度はより低いものであるために、先行技術の場合に比べその機能ははるかに満足のいくものとなろう。
本発明の有利な実施態様に従うと、補償用サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段には、エネルギーを消費する負荷、特に過給機、ファン、冷却水ポンプ、発電装置などといった補助機構が含まれている。
このような補助機構はほとんどの場合、その回転速度の2乗に正比例する抵抗を提供する。前進中の車両に対する空気抵抗についても同様である。従って、変速装置及び補助機構のパラメータを適切に選択することにより、車両のあらゆる進行速度について、エネルギー消費負荷自体が理に適った一定の回転速度を有するような永続的状態で変速装置が機能するようにすることが可能である。
好ましくは、補償用サブアセンブリは、慣性負荷を有するか又は駆動している。車両により構成されるこの負荷はそれ自体慣性成分を有するため、2つの慣性成分は、車両の加速に際して変速装置内で互いに平衡化する。
従って、車両のあらゆる機能状態(速度の値と加速値の組合せ)について、車両により提供される抵抗と補償用サブアセンブリにより提供される抵抗の間ではバランスが保たれ、変速装置はそれ自体、補償用サブアセンブリが決して過度な回転速度で駆動されないような機能状態を見い出す。
本発明のその他の特徴及び利点は、さらに以下の記述から明確になることと思われる。
制限的な意味をもたない例として与えられた添付の図面において、-第1図は、ハウジングの軸方向断面を伴う。本発明の基づく変速装置の概略的斜視図である。
-第2図は、本発明に基づく変速装置の第2の実施態様の、軸方向断面図である。
-第3図は、本発明に基づく変速装置の第3の実施態様の、軸方向半断面を伴う図である。
-第4図は、本発明に基づく変速装置の第4の実施態様の、軸方向断面図である。
-第5図は、本発明に基づく変速装置の第5の実施態様の、部分断面を伴う概略的斜視図である。
-第6図は、第5図の実施態様の軸方向部分断面を伴う、正面図である。
-第7図及び第8図は、本発明に基づく変速装置の第6及び第7の実施態様の概略図である。
第1図に示されている例において、変速装置2の入力軸1は、同時に、標準的には内燃機関である3という番号で概略的に示されたエンジンの出力軸を構成する。
変速装置2は、エンジン3のフレームに固定されているハウジング4を含んでいる。
シャフト1は、当該例においては直径方向に反対側にある2つの衛星歯車7が自由に回転可能な形で上に載置されている衛星歯車ホルダー6を、シャフトの軸を中心として回転すべく駆動する。
各々の衛星歯車7は、内歯車9の内側歯面8ならびに外側に歯のついた遊星歯車11とかみ合う。
遊星歯車11、2つの衛星歯車7、衛星歯車ホルダー6及び内歯車9はこうして遊星歯車列を構成している。
内歯車9は同様に、変速装置2の出力軸14にっ連結されたピニオン13とこの内歯車をかみ合わせている外側歯面12も有している。遊星歯車11は、フライホイール17ならびに、発電装置、エンジン冷却用ファン或いは又エンジン過給機といったエネルギーを消費する補助機構の駆動用プーリー18を含む補償用サブアセンブリ16と回転式に連結されている。
従って、各々の衛星歯車7は、変速装置の出力軸14と補償用サブアセンブリ6の間で出力を分布するように載置されている。
換言すると、各々の衛星歯車7はその周囲において、衛星歯車の軸を中心にして反対方向のモーメントをもつ2つの力、すなわち補償機構16の回転に対する抵抗力及び出力軸14の回転に対する抵抗力を受けている。衛星歯車7の自軸を中心とする回転速度は、これらの力が等しい場合に安定する。
車両のあらゆる機能状態(各瞬間における速度と加速度の組合せ)について、車両は、前進に対する一定の抵抗(一般に速度の2乗に正比例する)ならびに加速度が正である場合には慣性力を抵抗させる。補償用サブアセンブリ16はそれ自体、プーリー18により駆動される補助機構によって自らの回転速度の2乗に正比例するものでありうる抵抗をならびにフライホイールによって加速度に対する抵抗を抵抗させる。従って、各瞬間において、変速装置は、入力軸1と出力軸14の間に、各衛星歯車の周囲上に加わる2つの力の平衡に相当する速比を打ち立てる傾向をもつ。
これらの2つの力が等しい場合、遊星歯車11及び内歯車9に伝達されるトルクは、遊星歯車11の直径が内歯車9の内歯8の直径よりもきわめて小さいことから、非常に異なるものであるということに留意すべきである。例えば、この比率は1対10である可能性もある。従って、平衡条件の下で、出力軸14に伝達される出力は、補償機構16に伝達される出力よりきわめて大きいものでありうる。
エンジンの始動時及びアイドリング時においては、シャフト1の回転速度は低い。入力軸1上の駆動トルクは、場合によってはパーキングブレーキによって補完される車両の前進に対する抵抗のおかげで不動状態にとどまる遊星歯車11上を走行する衛星歯車7を介して補償用サブアセンブリ16を回転させる。補償用サブアセンブリ16の回転速度は、逆に例えば前述の例におけるシャフト1の速度の約10倍にも相当する5000回転/分といったように比較的高いものとなる。この段階で、車両の運転者が車両をスタートさせることを望まないかぎり出力軸14に対して無駄に伝達される力を制限するか又は無くすような形で、プーリー18を介して伝達された抵抗を制限又は削除するための手段を具備することが可能である。同様に、シャフト19のこの回転速度で、補助機構の回転に対する抵抗が比較的小さくなるようにすることもできる。
車両を作動開始させるためには、パーキングブレーキをゆるめ、アイドリングでの作動の際にプーリー18に伝達された機械的抵抗が削除されている場合にはこの抵抗を再度打ち立てる。このとき、トルクが出力軸14に伝達される。フライホイール17及びプーリー18に対して伝達される反力を増大させ、回転に対する抵抗が著しいものとなるさらに高い回転速度まで補助機構を移行させるような形で、入力軸1の回転速度を増大することにより、意のままにこのトルクを増大させることが可能である。車両は、何らかの摩擦機構を介入させる必要なく、漸進的に動き始める。
ひとたび車が動くと、動きを維持するのに必要なトルクひいては遊星歯車列により導かれるエンジンの出力は、より一層変速装置2の出力軸14の方へと伝達される。フライホイール17の回転速度は減少し、保存されたその運動エネルギーの一部分は出力軸14に放出される。その結果、変速装置は、入力軸1と出力軸14の間の変速比を自動的にかつ連続的に変える。この比には最大値も最小値も無い。
この比は、運転者の制御下でエンジン3により提供される出力及びトルク、ならびに車両の移動に対する抵抗に同時に従って、あらゆる時点で変化しうる。抵抗トルクが例えば勾配で又は加速時において高い場合、補償用サブアセンブリ16の回転速度は出力軸14上の抵抗トルクを平衡変すべく高くなり、その結果、シャフト14の回転速度は入力軸1の速度との関係において低下する。車両に対して制動力を加える場合又は単に車両のアクセルペダルをゆるめただけの場合でも、同様のことが言える。車両は、エンジンが作動している状態で減速し停止する。このとき補償装置16は、アイドリング時の機能に関し上述のような比較的高い回転状態にある。高い回転数でのこの作動は、減速段階の際にフライホイール17が車両の運動エネルギーを回復したいということを暗に意味しており、このエネルギーは、次に続く再始動又は再加速のために使用できる。
制限的な意味をもたない一実施例に従うと、4サイクルで1000cm3から1500cm3の排気量で、6000回転/分で70kwの出力及び3000回転/分で150Nmの最大トルクで作動するエンジンは、車の自重が約1000kgである場合最大7000回転/分で回転する重さ約15?18kg、直径約250?300mmのフライホイールを必要とする。
4800回転/分で150Nmの最大トルクで10000回転/分で70kwの出力を出す約1000cm3のエンジンのついたオートバイの場合、フライホイールは約230mm?250mmの直径をもち、重さは約10kgであり、オートバイの自重が約250kgであるならば最大10000回転/分で回転することができる。
換言すると、このフライホイールは、通常熱機関のクランク軸に連結されているものに比べむしろ軽量で体積も小さい。その上、本発明に基づく変速装置のフライホイールは、通常熱機関上に具備されているフライホイールに置き換わり、車両が停止した状態でエンジンがアイドリング状態にあるときの非常に高い回転数を考慮に入れると常軌を逸したものである安定性を、熱機関の減速時に付与する。
車両が停止しエンジンがアイドリング状態にある状態のフライホイールの高い回転速度を考慮に入れると、スタータを補償装置16のシャフト19に直接連結することが可能である。かくして、スタータとフライホイール間の一時的連結の問題が無くなる。この一時的連結についての現在の解決法は、特に摩耗を受けやすいものであることがわかっている。
シャフト19に対して車両の発電装置を連結することを考慮することができ、この発電装置は、熱機関3の作動開始に際しスタータとして役立つ電動機として機能できる。
第1図の要素と機能的に類似した要素を指すのに同じ数字を再度使用しながら、ここで本発明のその他の実施態様について記述していく。
第1図に従った実施態様において、説明を簡単にする目的で、補償装置16に直接遊星歯車11を連結し、逆に内歯車9をピニオン13を介して出力軸14と連結した。
しかしながら、第2図に表わされているように、逆を行なうこと、すなわち入力軸1と同軸であり従来の差動機21の入力軸を構成する出力軸14と内歯車9を直接連結することが好ましい。ベル22が、内歯車9をシャフト14にしっかりと連結している。衛星歯車ホルダー6は、このベル22と遊星歯車11の間に配置されており、この遊星歯車11は入力軸をとり囲む管23により、補償用サブアセンブリ16のシャフト19と一体化された比較的小さい直径のピニオン26とかみ合う比較的大きな直径の歯車に連結されている。従ってフライホイール17は、このとき入力軸1との関係において偏心されている。スタータとして役立つことのできる発電装置27のシャフト16の自由端には、ファン28及び機械式過給機29を表わし、遊星歯車11が一定の速度で回転する場合でさえこの歯車の回転に対する抵抗を抵抗させるエネルギー消費負荷としてこれら3つの付属備品のいずれか1つ又は2つをシャフト16に連結することができるということを示した。
歯車24とピニオン26は、遊星歯車11の回転速度との関係における補償用サブアセンブリ16の回転速度の増速装置を構成していることがわかる。換言すると、遊星歯車11の抵抗トルクはシャフト19の抵抗トルクとの関係において増倍される。こうして有利なことに、遊星歯車11により遊星歯車7に対し伝達された周辺力が増大する。従って、前述の例において、トルク及び出力が比較的小さい補償負荷が遊星歯車11の周囲で、シャフト14によって遊星歯車列の内歯車9の内歯8に伝達された力を平衡化できる反力を生成できるようにすることがさらに容易になる。
第3図に示されている実施例においては、フライホイール17及びシャフト19は、第1図の例の場合と同様に、入力軸1と同軸である。しかしながら、内歯車9の歯面8の歯数と内歯車11の歯数の間の比を10にするのに第1図R>図の例において必要である大きい直径の衛星歯車の使用を避けるため、遊星歯車列には、直列に載置された2つの個別遊星歯車列31a及び31bが含まれている。第1の歯車列31aの衛星歯車ホルダー6aは、入力軸1にしっかりと連結されている。このホルダーは、一方では内歯車9の第1の内側歯面8aとかみ合い他方では第2の歯車列31bの衛星歯車ホルダー6bと回転式に一体を成す中間の遊星歯車11aとかみ合う衛星歯車7aを保持している。衛星歯車ホルダー6bにより保持されている衛星歯車7bは、歯面8aと同じ歯数同じ直径の内歯車9の第2の内側歯面8b及び第2の歯車列31bの遊星歯車11とかみ合っており、この第2の歯車列の遊星歯車11は、補償用サブアセンブリのシャフトと一体を成している。内歯車9は、入力軸1及び補償用サブアセンブリのシャフト19に対し垂直に延びる出力軸14と一体化された小かさ歯車33とかみ合うかさ歯車32と一体化されており、このことは、横方向に配置された原動機付きの車両にとって有利である。フライホイール17の重量のある円周部分は、内歯車9の外周を包囲している。
第4図に示されている実施例は、個別の2本の列のついた歯車列の代りに、内歯車9とかみ合う比較的小さい直径のピニオン7c及びシャフト19及びフライホイール17と一体化された遊星歯車11とかみ合う比較的大きな直径のもう一方のピニオン7dという2つの個別のピニオンで各々構成されている衛星歯車7を保持する衛星歯車ホルダー6をもつ唯一の列31が存在するという点を除いて、第3図の実施例と一致する。従って、遊星歯車11を介して衛星歯車7に対し周辺的に伝達された反力は、各々の衛星歯車7の軸のまわりに、内歯車9により衛星歯車7に伝達された抵抗力よりも大きいてこの腕を有する。従って、シャフト19上の比較的小さいトルクは、ここでも又、内歯車9上の比較的大きなトルクを平衡化することができる。
第2図の増速装置24,26、第3図の2重の遊星歯車列31a,31b又は第4図の個別の2つのピニオンのついた衛星歯車7c及び7dなどの機械的変換手段によって、各々の衛星歯車7の軸を中心とした内歯車9との関係におけるシャフト19に対する抵抗トルクの影響を増大させればさせるほど、システムを比較的低いシャフトの速度にて機能させることが可能となる。
即ち、第2図の例を考えた場合、増速装置24,25の存在は、第1図の場合に比較してシャフト19の回転速度の増加という形で表れる訳ではなく、それとは反対に該速度の減少という形で表れる。これは遊星歯車11の回転速度が第1図の場合に比較して更に一段と減少するためである。
第5図及び第6図の例において、歯車列31はいわゆる『円筒型差動装置』タイプの機構によって構成されている。これは、入力軸1に剛結されている入力遊星歯車34を1個、シャフト1と同軸の出力軸19と一体化されている出力遊星歯車36を1個含んでいる。遊星歯車34,36はそれぞれ円筒形の外側に歯面を有している。衛星歯車ホルダー37は、変速装置出力軸14と一体化されている直径がかなり大きなかさ歯車39とかみ合うかさ歯車38と一体化されている。衛星歯車ホルダー37は、互いにかみ合うと同時に遊星歯車34,36の一つとそれぞれかみ合う、少なくとも一対の衛星歯車7a及び7bを保持している。歯車39の大きな直径のお陰で、シャフト14上の抵抗トルクは削減されて衛星歯車ホルダーに伝達され、これによって補償用サブアセンブリの抵抗トルクと釣り合いを取ることができる。
第1図との間の差異に関してのみ以下に説明する第7図R>図に示す例においては、内歯車9は、回転子41を囲む固定子42がハウジング4の内側に固定されている電動機40の回転子要素をその外部表面で支えるベル22を介して出力軸14に連結されている。
ベル22の内部表面は、疑似固定子43によって囲まれ補償機構16のシャフト19と一体化された固定子をもつ第2の装置、ダイナモ44の疑似固定子43を保持している。
ダイナモ44は、熱機関1の始動用には既に説明した通り電動機として作動し、運転時には、変速装置の入力軸1と出力軸14間の速比を調整するために、補償用サブアセンブリ16に組み合わされたエネルギー消費負荷を形成する発電装置として作動する。
単に固定子43ではなく疑似固定子43として話をしているが、これは疑似固定子43がシャフト19に連結された回転子46に対して電気的には固定子の役割を果しているものの、ベル22と共に回転しているからである。
ダイナモ44が発電機として作動している場合、車両の走行条件を考慮して望ましい値を有する抵抗トルクをシャフト19上に発生させるような方法で、ダイナモが供給する出力、例えばその励磁を調節する。場合によってダイナモ44が発生させる過剰電流は電動機40に送られ、ここで出力軸14に伝達される機械的エネルギーに変換される。
ダイナモ44によって生成された出力は車両の走行における様々なパラメータを考慮して調節することができる。例えば、エンジンの最大出力を要求する場合、運転者は一般に、エンジンが定格出力近辺の比較的高い回転数で作動できるような速比を変速装置が確保することも望んでいる。この場合は、入力軸1がシャフト14の回転速度に比べて高い速度を取ることができるように、比較的低い機械的抵抗トルクに相当する特性に応じてタイナモ44を作動させることができる。
第8図に示されている実施例では、電動機40、即ち回転子41と固定子42が削除されている。従って発電機44は、発電機が補償装置のシャフト19に伝達する抵抗トルクを変化させるような形で制御されており、これが、車両の電気系統が要求する電力を考慮に入れると、シャフト19と14の間の一定の相対速度を決定している。疑似固定子43が抵抗している反作用トルクは、ベル22ひいては出力軸14に伝達される負荷的な駆動トルクを構成している。
換言すると、機械的出力はトルクと回転速度の積に等しいことが分かっている。出力軸14が入力軸1に対して相対的に高い速度で回転することが望ましい場合は、発電機の電磁トルクが増加するような形で発電機44を制御する。これによって、遊星歯車11が対抗している回転抵抗力を増加させ、その結果出力軸14の速度、即ち疑似固定子43の回転速度を上げることができる。これらの条件において、回転子46の疑似固定子43に対する相対速度は減少したが、電磁トルクが増大していることから供給出力は、電気系統によって要求されるものに等しくほぼ一定にとどまる。
こうして、発電機44によってシャフト19に伝達される反作用出力は電気系統が要求する電力に、疑似固定子43からベル22と出力軸14に返された機械的出力の分が加増されたものに常に等しくなる。
第8図に示されている例においては、1つのサイリスタ式調節装置51が、ダイナモ44の出力端子の間で、車両のバッテリー52と直列に取り付けられている。サイリスタ式調節装置は51は制御入力53に印加されている電圧に応じて、ダイナモの電磁力を調節する。入力53の電圧は、2つの可変抵抗器56,57で構成されている分圧器54の中間プラグの電圧である。抵抗器56の値は車両のアクセルペダル上の圧力によって決定されている。抵抗器57の値は出力軸14の回転速度によって決定されている。アクセルペダルへの圧力が高くなればなるほど、変速機内の減速比を増加させるように電磁トルクは削減される(入力軸1の速度に対する出力軸14の速度を減少させる)。出力軸14の速度が高くなればなるほど、装置51は、変速機内の減速比を削減させるようにダイナモ44の電磁トルクの増加を指令する。
記述されている各々の実施態様に対する変形態様としては、補償用サブアセンブリによって駆動される付属備品の慣性モーメントが、特にそれらの回転速度を考慮した上で十分な場合には、フライホイール17を削減することができる。例えば、非常に高速で回転し、その結果、比較的軽量であるにも拘わらず、大きな慣性力をシャフト19の回転に抵抗させることのできる遠心過給器などがある。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】入力軸(1)と出力軸(14)とを相互連結する歯車列(7,8,11;7a,7b,8a,8b,11a;7c,7d;34,36)を含み、該入力軸(1)は、車両の機関(3)と連結することができ、該出力軸(14)は、車両の駆動輪と連結することができ、該歯車列には、出力軸(14)の速度とは通常異なる速度で回転する平衡化サブアセンブリ(16)と該出力軸(14)との間に力を分配するために取着される少なくとも1つの歯車が含まれ、平衡化サブアセンブリ(16)から有効エネルギーを取り出すために、前記少なくとも1つの歯車以外の手段(18;27,28,29;44)が設けられ、機関(3)の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、平衡化サブアセンブリによって前記少なくとも1つの歯車に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加し、所定の車両速度において、入力軸(1)と出力軸(14)との間の変速比は、アクセル開度に応じた必要出力によって影響を受けることを特徴とする、特に車両における駆動輪と出力源との間の変速比を負荷及び速度の条件に応じて変えるための自動変速装置。
【請求項2】上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、エネルギー消費負荷(18;27,28,29;44)、特に、過給機(29)、ファン(28)、冷却水ポンプ、発電装置(27,44)といった補助機構を含むことを特徴とする請求項1に記載の自動変速装置。
【請求項3】上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、自動変速装置が連結される機関の過給機(29)を含むことを特徴とする請求項1に記載の自動変速装置。
【請求項4】上記平衡化サブアセンブリ(16)は、慣性負荷(17)を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項5】上記平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す手段は、平衡化サブアセンブリ(16)から出力軸(14)にエネルギーを伝達するための手段(44,40)を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項6】上記エネルギーを伝達するための手段は、平衡化サブアセンブリ(16)によって駆動される発電装置(44)を含むことを特徴とする請求項5に記載の自動変速装置。
【請求項7】上記入力軸(1)及び出力軸(14)の間の変速比を変更するために、平衡化サブアセンブリ(16)から取り出されるエネルギーの量を調節するための手段(51,54)が設けられることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項8】上記平衡化サブアセンブリ(16)は、平衡化サブアセンブリの回転速度の増幅手段(24,26)を介して歯車(7)に連結されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項9】上記歯車列は、遊星タイプであって、入力軸(1)に連結された衛星歯車ホルダー(6)と、出力軸に連結された内歯車(9)と、平衡化サブアセンブリ(16)に連結された太陽歯車(11)、とを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項10】上記衛星歯車ホルダー(6)は、2個の遊星歯車(7a,7b)を支持し、その各々は、内歯車(9)に噛み合う比較的小さい直径のピニオン(7c)と、該ピニオン(7c)に回転連結された太陽歯車(11)に噛み合う比較的大きい直径のピニオン(7d)、とを含むことを特徴とする請求項9に記載の自動変速装置。
【請求項11】上記遊星タイプの歯車列は、直列に配設された2つの遊星歯車列(31a,31b)を含むことを特徴とする請求項9に記載の自動変速装置。
【請求項12】上記歯車列は、円筒形の差動タイプであって、入力軸(1)に連結された入力太陽歯車(34)と、平衡化サブアセンブリ(16)に連結された出力太陽車(36)と、出力軸(14)に連結された衛星歯車ホルダー(37)、とを含み、衛星歯車ホルダーは、各々が太陽歯車(34,36)の一方に係合する、少なくとも一対の相互係合する遊星歯車(7a,7b)を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項13】上記平衡化サブアセンブリ(16)には、スタータ(27,44)が連結されることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の自動変速装置。
【請求項14】上記スタータ(27,44)は、機械的エネルギーが自動変速装置の入力軸(1)に受容されるときに、平衡化サブアセンブリ(16)からエネルギーを取り出す発電装置として機能し得る可逆機関であることを特徴とする請求項13に記載の自動変速装置。
【請求項15】車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、車両の少なくとも1つの駆動輪に駆動可能に連結される出力軸と、該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、第3の要素、とを有する差動歯車列と、該第3の要素を車両の過給機に連結するための連結手段、とを含んで成り、前記差動歯車列の入力要素は、機関から供給される力を出力要素及び第3の要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車を回動可能に支持し、前記連結手段は、第3の要素の速度に対する過給機の回転速度を増幅する増幅手段を含み、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、過給機によって第3の要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加することを特徴とする自動変速装置。
【請求項16】車両の機関からの力を伝達可能に連結される入力軸と、車両の少なくとも1つの駆動輪の駆動可能に連結される出力軸と、平衡化サブアセンブリと、該入力軸に連結した入力要素と、該出力軸に連結した出力要素と、平衡化要素と、機関から供給される力を出力要素及び平衡化要素の間で分配するように構成した少なくとも1つの歯車、とを有する歯車列と、平衡化要素の回転速度に対する平衡化サブアセンブリの回転速度を増幅する増幅手段を含み、平衡化要素を平衡化サブアセンブリに連結するための手段と、平衡化サブアセンブリからエネルギーを取り出すための手段、とを含み、機関の出力は、車両のアクセル開度によって影響を受け、平衡化サブアセンブリによって平衡化要素に伝達される機械的な抵抗負荷は、速度及び加速度の関数として増加することを特徴とする自動変速装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-05-17 
結審通知日 2007-05-22 
審決日 2007-06-04 
出願番号 特願平1-505561
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高木 進藤井 昇  
特許庁審判長 鈴木 久雄
特許庁審判官 山内 康明
柴沼 雅樹
登録日 1999-03-05 
登録番号 特許第2894760号(P2894760)
発明の名称 歯車装置による連続変速型変速装置  
代理人 小林 茂雄  
代理人 柳橋 泰雄  
代理人 生川 芳徳  
代理人 津国 肇  
代理人 生川 芳徳  
代理人 津国 肇  
代理人 金木 章郎  
代理人 金木 章郎  
代理人 柳橋 泰雄  

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