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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01K
管理番号 1168173
審判番号 無効2007-800039  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-23 
確定日 2007-11-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3821299号発明「愛玩動物侵入規制用柵」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続きの経緯
本件特許第3821299号は、平成16年11月24日に出願した特願2004-338416号をもとの出願とする特許法第44条第1項の規定による特許出願として、平成18年4月27日に出願されたものであって、平成18年6月30日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人株式会社ヤマヒサより無効審判が請求され、当該請求書の副本が被請求人に送付された。
被請求人は、平成19年5月18日に、答弁書を提出した。
請求人は、平成19年7月30日付け及び平成19年8月8日付けで上申書を提出した。

第2.請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、本件請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証を提出している。
請求人は、さらに、平成19年7月30日付け上申書において、愛玩動物侵入規制用柵として人が跨げる高さのものは公知である旨主張し、証拠方法として甲第7号証を提出している。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平7-285775号公報
甲第2号証:意匠登録第929649号公報
甲第3号証:意匠登録第1170082号公報
甲第4号証:特許第3467626号公報
甲第5号証:特開平7-173891号公報
甲第6号証:特開2001-8604号公報
甲第7号証:株式会社リッチェル ガーデン・ペット用品部カタログ「PET GOODS 2003-2004」

第3.被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の提出した甲第1号証及び甲第2号証は、「愛玩動物侵入規制用柵」である本件特許発明とは全く技術分野を別にするものであり、甲第1号証は人間が侵入しないことを目的とするもので、本件特許発明とは目的が異なり発想が正反対のものであって、甲第1号証に記載された発明に甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明を組み合わせることは当業者が容易に想到しうることではないこと、甲第4号証には、人が跨ぐという発想は示されていないことから、請求人の主張は失当であると主張し、証拠方法として乙第1号証を提出している。
[証拠方法]
乙第1号証:特開2002-21376号公報

第4.本件発明
本件の請求項1ないし3に係る発明は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】正面パネルと、該正面パネルの両側に設けられた側面パネルとを備えた愛玩動物侵入規制用柵であって、
前記正面パネルと前記側面パネルが、平面視で略コ字状を形成して自立可能に構成されると共に、コ字の2片を構成する側面パネルと反対方向に支持部材が延出して設けられ、
前記正面パネルは複数のパネルからなり、これら複数のパネルを前後に重ねて配置して、前後の重なり量を調整することで全体の幅を調整するように構成され、
前記正面パネルは、50cm?65cmの高さに設定されていることを特徴とする愛玩動物侵入規制用柵。
【請求項2】正面パネルと側面パネルは分解可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の愛玩動物侵入規制用柵。
【請求項3】正面パネルは、枠部と該枠部内に設置された線材とからなり、正面パネルにおける中央部3/5の部分は縦方向線材のみが設置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の愛玩動物侵入規制用柵。」(以下、請求項1に係る発明、請求項2に係る発明及び請求項3に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」及び「本件特許発明3」という。)

第5.無効理由に対する判断
1.請求人の提出した証拠の記載事項
(1)甲第1号証には次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 マンホールの周囲に設置される作業用安全柵において、折り畳めるように連結され、前記マンホール周囲の床の上に立設される複数枚の柵パネルと、この柵パネルの下端部に起倒自在に連結され、前記柵パネル両側の床の上に敷設される複数枚の倒れ防止パネルとを備えてなることを特徴とする作業用安全柵。」
(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、開け放なされたマンホールの周囲に転落防止の目的で設置される作業用安全柵に関する。」
(1c)「【0003】図7及び図8は、エスカレーターの乗降口付近及びエスカレーターの乗降口付近に設置された、従来の作業用安全柵の一例を示し、図において、符号1はエスカレーターの乗降口付近の床、2はこの床1に設けられ、エスカレーターの機械室に出入りするためのマンホール、そして、符号3はこのマンホール2周囲の床1の上に立設され、通行人に注意を喚起するとともに、マンホール2への転落事故を防止する作業用安全柵である。
【0004】作業用安全柵3は、マンホール2周囲の床1の上に立設され、マンホール2の三方を覆う複数枚の柵パネル3aと、この柵パネル3aの突き合わせ部に取り付けられ、隣接する柵パネル3aどうしを折り畳めるように回動自在に連結する複数個の蝶番3bとを備えて構成され、コの字状に折り曲げて立設されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の作業用安全柵は以上説明したように構成され、マンホール2周囲の床1の上に単に自立するように設置され、特に固定されているわけではないので、通行人、特に、目の不自由な人が作業用安全柵3にぶつかったりすると、作業用安全柵3と共にそのまま倒れ、時にはマンホール2の中に転落するおそれがある等の課題があった。また、少々の突風でも簡単に倒れてしまうおそれがある等の課題もあった。
【0006】この発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、通行人がぶつかったり、少々の突風でも倒れることがなく、通行人のマンホールへの転落事故等を未然に防止するようにした作業用安全柵を提供することを目的とする。」
(1d)「【0007】
【課題を解決するための手段】 この発明に係る作業用安全柵は、折り畳めるように連結され、マンホール周囲の床の上に立設される複数枚の柵パネルと、この柵パネルの下端部に起倒自在に連結され、前記柵パネル両側の床の上に敷設される複数枚の倒れ防止パネルとを備えて構成されている。」
(1e)「【0008】
【作用】この発明に係る作業用安全柵においては、通行人が柵パネルにぶつかるとき、通行人が倒れ防止パネルを自ら踏みつけていることにより、作業用安全柵の転倒及び通行人のマンホールへの転落事故が防止される。」
(1f)「【0009】
【実施例】図1及び図2は、この発明に係る作業用安全柵の一実施例を示し、図3は図1の要部側断面図、図4は図2の要部側断面図であり、図において、前記従来例と同一または相当部分には同一符号を付し、その説明を省略する。作業用安全柵4は、マンホール2周囲の床1の上にその三方を覆うようにそれぞれ立設される複数枚の柵パネル4aと、この隣接する柵パネル4aの竪枠4bにそれぞれねじ止めされ、隣接する柵パネル4aどうしを折り畳めるように回動自在に連結する複数個の蝶番4cと、各柵パネル4aの下枠4dにねじ止めされた取付桟4eに起倒自在に連結され、マンホール2周囲の床1の上に敷設される複数枚の倒れ防止パネル4f及び4gと、この倒れ防止パネル4f及び4gを柵パネル4aの両側に添え付けられるように、倒れ防止パネル4f及び4gと取付桟4eとをそれぞれ回動自在に連結する複数個の蝶番4hとを備えて構成されている。
【0010】柵パネル4a、倒れ防止パネル4f及び4gは、共に矩形板状に構成されている。また、倒れ防止パネル4fは柵パネル4aの外側に取り付けられ、倒れ防止パネル4gは柵パネル4aの内側に取り付けられている。また、倒れ防止パネル4fはできるだけ大きく構成されている。」
(1g)「【0012】このような構成において、この作業用安全柵を設置するには、マンホール2周囲の床1の上に、柵パネル4aを適当な形状(実施例ではコの字状に広げられている)に広げて自立させる。また、各柵パネル4aの両側に倒れ防止パネル4fと4gを倒して敷設する。
【0013】このような状態で、通行人が誤って柵パネル4aにぶつかったとしても、この柵パネル4aの下端部に連結された倒れ防止パネル4fを通行人自ら踏み付けているので、柵パネル4aは倒れる心配はなく、従って、通行人が柵パネル4aにぶつかった勢いでマンホール2に転落するのことが未然に防止できる。
【0014】一方、この作業用安全柵を折り畳むには、各柵パネル4a両側の倒れ防止パネル4fと4gとを起こし、柵パネル4aの両側にそれぞれ添え付け、マグネット5と吸着板6とを吸着させる。次に、柵パネル4aを蝶番4cを軸に折り畳み、そして、倒れ防止パネル4fの小孔4iに固定ねじ7を通し、その先端雄ねじ部7aに固定ナット8を螺合する。このようにコンパクトに折り畳めることにより、運搬、収納等の取り扱いがし易くなる。」
図1には、正面に配置された2枚の柵パネル4aの左右それぞれに1枚の柵パネルが配置され、全体がコの字状に広げられている作業用安全柵が記載されている。
これらの記載を含む明細書及び図面によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「複数枚の柵パネル4aを備えたマンホールの周囲に設置される作業用安全柵であって、前記複数枚の柵パネル4aが、平面視でコ字状を形成して自立可能に構成されると共に、各柵パネル4aの下端部に起倒自在に連結され、各柵パネル両側の床の上に敷設される複数枚の倒れ防止パネル4fとを備えてなり、
柵パネル4aは折り畳めるように連結されており、正面の柵パネル4aは2枚の柵パネルを蝶番4cを軸に折り畳み自在に連結してなる作業用安全柵」

(2)甲第2号証には、「音響吸音板」について次の事項及び図面が記載されている。
(2a)「説明 本物品は、高さ約3m、幅約2m、奥行約0.8mの大きさで、複数枚の本物品を演奏会場、会議場などにおいて壁面近傍に設置して会場内の音響を吸音し、会場内の音響が会場外に漏洩することを防止する。」
(2b)


(3)甲第3号証には、次の事項及び図面が記載されている。
(2a)「【意匠に係る物品の説明】本意匠に係る物品は、主としてペットのためのゲートであり、壁又は柱間の幅に合わせて長さを調節可能に螺子部材で結合された2枚の柵体と、柵体を壁又は柱間に支持する4個の支持部材を有し、一方の柵体には開閉可能な扉が設けられている。 柵体の上部及び下部の外枠は特色ある形状を有している。また、丸断面の多数の平行な縦細桟は、その上下部を中央間隔を十分に明けた2本の横細桟により支持されている。」
(2b) 【正面図】

【左側面図】


これらの記載によれば、甲第3号証には、「複数の柵体からなり、これら複数の柵体を前後に重ねて配置して、前後の重なり量を調整することで全体の幅を調整するように構成され、柵体を構成する多数の平行な縦細桟は、その上下部を中央間隔を十分に明けた2本の横細桟により支持されているペットのためのゲート」の発明が記載されていると認められる。

(4)甲第4号証には、図面と共に、次の事項が記載されている。
(4a)「【請求項1】下側の柵Aは、土台Aaと桁Abとの間に柱Acを建て、上側の柵Bの柱Bcを通すための縦穴Adを桁Abに開け、柵の高さ調節し固定するためのピンK等を入れる横穴を桁Abに開け、上側の柵Bは、土台Baと桁Bbとの間に柱Bcを建て、下側の柵Aの柱Acを通すための縦穴Beを土台Baに開け、柵の高さ調節し固定するためのピンK等を入れる横穴Bdを柱Bcに開け、下側の柵Aと上側の柵Bを組み立て、下側の柵Aの桁Abに開けた横穴と上側の柵Bの柱Bcの開けた横穴BdとにピンK等を通し、ピンK等を用いて下側の柵Aの桁Abと上側の柵Bの柱Bcとを固定した、以上のことを特徴とするペット用柵。」
(4b)図1ないし図3に示される実施例においては、高さ1cmの土台(Aa、Ca、Ea)と高さ1cmの桁(Ab、Cb、Eb)との間に高さ60cmの柱(Ac、Cc、Ec)を建てた下側の柵(A、C、E)と、高さ1cmの土台(Ba、Da、Fa)と高さ1cmの桁(Bb、Db、Fb)との間に高さ60cmの柱(Bc、Dc、Fc)を建てた上側の柵(B、D、F)を組み立て、ピンKを用いて下側の柵(A、C、E)の桁(Ab、Cb、Eb)と上側の柵(B、D、F)の柱(Bc、Dc、Fc)とを固定して柵の高さが63cmから122cmまで調整出来るようにしたペット用柵を造ったことが記載されている(【0013】?【0015】)。

(5)甲第5号証には、図面と共に、次の事項が記載されている。
(5a)「【請求項1】相互に連結機構を介して着脱可能に連結される基本パネルおよび拡張パネルを備えた展示パネルであって、
基本パネルは、主パネル要素の両側縁に補助パネル要素を平面視H形に直交配置してなるもので、主パネル要素と補助パネル要素の間が蝶持機構を介して折り畳み可能に蝶着されており、
拡張パネルは、主パネル要素の一方の側縁に補助パネル要素を平面視T字形に直交配置してなるもので、主パネル要素と補助パネル要素の間が蝶持機構を介して折り畳み可能に蝶着されており、
基本パネルと拡張パネルの間および拡張パネル同士の間を、連結機構を介して主パネル要素の面方向に順次連結してなることを特徴とする展示パネル。」
(5b)「【0020】基本パネル1は、図2に示すように、主パネル要素3の両側縁に補助パネル要素4を平面視H形に直交配置して構成されている。

(5c)「【0027】以上詳述した基本パネル1に対して、壁面増設用の拡張パネル2は、図16に示すように、主パネル要素3の一側縁のみに補助パネル要素4を平面視T形に直交配置した構成からなる。」

(6)甲第6号証には、図面と共に、次の事項が記載されている。
(6a)「【請求項1】正面幅が任意の幅で通常は約1500?2000mm程度、高さが約1000?1800mm程度で外形がほぼ矩形状をなすフェンス体であって、このフェンス体は、4?6mmφの太さで長さが約1000?1800mm程度の鋼棒を約50?60mm間隔で縦向きに平行にして前記正面幅をなすように並べた縦メンバと、4?10mmφの太さで長さが前記正面幅と略同長の鋼棒の2本乃至3本を幅が約50?60mm程度をなすように横向きに平行に並べる横メンバとにより、前記横メンバの複数の組を前記縦メンバの上に、当該縦メンバの上端近くから約400mm?500mm程度の間隔を持たせて配置し、各縦メンバと横メンバの交叉部を溶接により接合したことを特徴とする防獣フェンス用のフェンス体。」
(6b)「【0002】
【従来の技術】従来より、山間部を走る高速道路や鉄道路線に対しては、安全上、その他の観点から道路や路線内にキツネ,タヌキ,イノシシ等の獣類、或は、人が侵入することがないように、ネット状に編成した金網を使用したフェンスが設置されている。
【0003】しかし・・・金網タイプのフェンスでは、その網の目に手,爪を掛けて小動物がフェンスを乗り超えることが知られており、この点でも問題である。」
(6c)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記のような従来の防獣用フェンスの現状に鑑み、フェンスを二重に設ける必要がなく、また、設置場所における地表の凹凸の有無に拘わらずフェンスと地上の間に隙間が生じないだけではなく、小動物がフェンスの下に穴を堀っても通り抜けることができず、更に、小動物であってもフェンスの隙間から抜けられないことは勿論、手や爪を掛けてもフェンスに登ることも不可能にし、加えて、積雪地帯に設けても雪圧により変形することがないフレームレスタイプの防獣フェンスと、このフェンスを形成するためのフェンス体を提供することを、その第一の課題とするものである。・・・」
(6d)「【0008】
【課題を解決するための手段】上記第一の課題を解決することを目的としてなされた本発明フェンス体の第一の構成は、正面幅が任意の幅で通常は約1500?2000mm程度、高さが約1000?1800mm程度で外形がほぼ矩形状をなすフェンス体であって、このフェンス体は、4?6mmφの太さで長さが約1000?1800mm程度の鋼棒を約50?60mm間隔で縦向きに平行にして前記正面幅をなすように並べた縦メンバと、4?10mmφの太さで長さが前記正面幅と略同長の鋼棒の2本乃至3本を幅が約50?60mm程度をなすように横向きに平行に並べる横メンバとにより、前記横メンバの複数の組を前記縦メンバの上に、当該縦メンバの上端近くから約400mm?500mm程度の間隔を持たせて配置し、各縦メンバと横メンバの交叉部を溶接により接合したことを特徴とするものである。」
(6f)「【0033】・・・また、フェンスの上半側に形成されるスリットは鋼棒による縦,横メンバを溶接して形成した50?60mm×400?500mm程度の大きさであるため、人手によってもこのスリットを変形させることは困難であり、ましてや、小動物が前記スリットから抜けることはまずない。仮に小動物がこのスリットに手や爪を掛けようとしても、引掛かりがないためフェンスの上まで登ることは不可能である。・・・」

(7)甲第7号証には、甲第3号証と同様の形状のペット用ゲートが示され、「製品高さ53Hcm」のものについて、「またいで通れる高さです。」との説明が記載されている。

2.対比、判断
[1]無効審判請求人は、甲第1号証を主引用例として、本件特許発明1ないし3は、当業者が容易に発明をすることができたと主張しているので、まず、この主張について検討する。
(1)本件特許発明1について
(1-1)本件特許発明1と甲第1号証記載の発明との対比。
本件特許発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明における「柵パネル」は、本件特許発明1の「パネル」に相当し、甲第1号証記載の発明における「正面の柵パネル」、「左右の柵パネル」は、それぞれ本件特許発明1の「正面パネル」、「側面パネル」に相当する。
また、甲第1号証記載の発明の「作業用安全柵」は、作業者以外の人の侵入を規制するものであるから、本件特許発明1の「愛玩動物侵入規制用柵」とは、「侵入規制用柵」ともいえる点で共通する。
したがって、両者は、
「正面パネルと、該正面パネルの両側に設けられた側面パネルとを備えた侵入規制用柵であって、前記正面パネルと前記側面パネルが、平面視で略コ字状を形成して自立可能に構成され、前記正面パネルは複数のパネルからなる侵入規制用柵。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:侵入規制用柵が、本件特許発明1では、愛玩動物を侵入規制対象とする愛玩動物用侵入規制用柵であるのに対し、甲第1号証記載の発明では、作業者以外の人を侵入規制対象とする作業用安全柵である点。
相違点2:本件特許発明1では、側面パネルと反対方向に支持部材が延出して設けられているのに対し、甲第1号証記載の発明は、倒れ防止パネル4f、4gが、側面パネルと同一方向(正面パネルの外側)、反対方向(正面パネルの内側)及び、直交方向(側面パネル外側)に設けられている点。
相違点3:正面パネルが、本件特許発明1では、複数のパネルを前後に重ねて配置して、前後の重なり量を調整することで全体の幅を調整するように構成されているのに対し、甲第1号証記載の発明では、折り畳めるように回動自在に連結されたものであり、前後に重ねて配置されていない点。
相違点4:本件特許発明1では、正面パネルが50cm?65cmの高さに設定されているのに対し、甲第1号証記載の発明では正面パネルの高さは不明な点。

(1-2)相違点についての判断
(a)まず、相違点2について検討する。
本件特許発明1において、側面パネルと反対方向に設けた「支持部材」は、正面パネルが外側方向(側面パネルの突出するのとは反対の方向)に転倒することを防止するためのものである。
一方、甲第1号証記載の発明の「倒れ防止パネル」4f、4gは、人が踏むことによって、パネルが人とは反対方向に倒れることを防止するものであり、正面パネルの外側に設けた倒れ防止パネル4fは、正面パネルが内側方向に転倒することを防止するものであって、正面パネルに対して起倒自在に連結されているものであるから、正面パネルが外側方向に転倒することを防止する支持機能はない。
また、甲第1号証記載の発明において、正面パネルの内側に設けた倒れ防止パネル4gは、正面パネルが外側方向に転倒することを防止するものであるが、側面パネルと反対方向に設けたものではない。
ところで、甲第2号証には、正面のパネルと左右の側面パネルからなる音響吸音板において、正面のパネルの背面側に支持部材を設けたことが記載されており、この支持部材は、音響吸音板が背面側に転倒することを防止する作用を有しているものと認めることができる。
しかし、甲第1号証記載の発明の倒れ防止パネル4fは、人が踏むことによって、パネルが人とは反対方向に倒れることを防止するものであり、「できるだけ大きく構成されている」((1f)【0010】)もので、しかも各パネルごとに設けているものである。
甲第2号証に記載のような支持部材を側面パネルの反対方向に設けたのでは、人が踏むことができず、正面パネルが人とは反対方向に倒れることをただちに防止することはできない。
したがって、甲第1号証記載の発明において、各パネル(正面パネル、側面パネル)ごとに設けた「倒れ防止パネル」に代えて、側面パネルと反対方向に設けた「支持部材」を設けることが当業者にとって容易になしうるとすることはできない。

(b)次に、相違点1及び相違点4について検討する。
甲第1号証記載の発明の「作業用安全柵」は、コ字型とすることにより自立するものではあるが、上記(a)で検討したとおり、作業用安全柵が倒れること防止するために、人が踏むことを前提とした倒れ防止パネルを設けたものであり、愛玩動物の侵入規制用に転用しようとする動機に欠ける。
また、甲第1号証記載の発明の「作業用安全柵」は、作業員以外の人がマンホールに転落することを防止するためのものであるから、正面パネルの高さが、人が跨ぐことができる50?65cmの高さであるとはいえないし、このような高さとすることが当業者が容易になしうるとすることもできない。
請求人は、平成19年7月30日付け及び平成19年8月8日付け上申書において、甲第1号証記載の発明の安全柵は、作業員が出入りするものであるから、人が跨ぐことができる高さである、また、図面からみても、安全柵の高さは作業員が跨ぐことができる高さである旨主張しているが、上述のとおり、作業員以外の人が柵内に侵入するとマンホールに転落する等の重大な危険が生じるものであるから、人が容易に跨ぐことができる高さとすることはむしろ避けるべきことである。また、甲第1号証の図面は概略図であって、図面の記載から安全柵の高さを推測することはできない。

(1-3)本件特許発明1の作用効果について
本件特許発明1は、全体として、両側に柱や壁がない階段の上がり口等に配置することができ、しかも、側面パネルを設けることにより、単に正面パネルの自立を可能としているのみではなく、正面パネルの両側から動物がすり抜けることを確実に防止できる(明細書段落【0016】)、側面パネルと反対方向に設けた支持部材により愛玩動物侵入規制用柵の自立状態での安定性が向上する(同段落【0022】)等の、甲第1号証ないし甲第5号証からは予測できない顕著な作用効果を奏するものと認められる。
請求人は平成19年7月30日付け上申書に参考図1、2を添付し、甲第1号証記載の作業用安全柵は、建物の出入口に配置して人や動物を含めて意思あるものの移動を規制できる旨、主張しているが、側面パネルと直交方向の倒れ防止パネル(側面パネルの外側の倒れ防止パネル4f)が存在することにより、動物の移動(すり抜け)が規制できない場合が容易に想定され、甲第1号証記載の作業用安全柵を動物の侵入規制に採用することは容易に想到しうることではない。
また、甲第3号証又は甲第4号証には、動物侵入規制用柵を、両側に柱や壁がない階段の上がり口や、段差のある出入口を囲んで配置しようとすることは何ら記載されておらず、動物侵入規制用柵を参考図1、2に記載されているような配置としようとすること自体、当業者が容易に想到しうることではない。

(1-4)したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明、及び、甲第2号証ないし甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を特定する事項をすべて含むものであるから、本件特許発明1が、甲第1号証記載の発明、及び、甲第2号証ないし甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、同様に、甲第1号証記載の発明、及び、甲第2号証ないし甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1を特定する事項をすべて含むものであるから、本件特許発明1が、甲第1号証記載の発明、及び、甲第2号証ないし甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、同様に、甲第1号証記載の発明、及び、甲第2号証ないし甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

[2]甲第3号証の「ペットのためのゲート」は、本件特許発明1の「愛玩動物侵入規制用柵」に相当するので、甲第3号証記載の発明を主引用例として、本件特許発明1が甲号各証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるかどうかについても検討する。
(2-1)本件特許発明1と甲第3号証記載の発明との対比
本件特許発明1と甲第3号証記載の発明とを対比すると、甲第3号証記載の発明の「柵体」は、本件特許発明1の「パネル」に相当するので、両者は、
「複数のパネルからなり、これら複数のパネルを前後に重ねて配置して、前後の重なり量を調整することで全体の幅を調整するように構成された愛玩動物侵入規制用柵。」である点で一致し、つぎの点で相違する。
相違点a:愛玩動物侵入規制用柵が、本件特許発明1は、正面パネルと、該正面パネルの両側に設けられた側面パネルとを備えており、前記正面パネルと前記側面パネルが、平面視で略コ字状を形成して自立可能に構成されると共に、コ字の2片を構成する側面パネルと反対方向に支持部材が延出して設けられているのに対し、甲第3号証記載の発明は、側面パネルを備えておらず、本件特許発明1における正面パネルに相当するパネルのみで構成されている点。
相違点b:本件特許発明1では、正面パネルが50cm?65cmの高さに設定されているのに対し、甲第1号証記載の発明ではパネルの高さが不明な点。

(2-2)判断
上記相違点aについて検討する。
甲第3号証記載の発明の愛玩動物侵入規制用柵は、4個の支持部材により、壁又は柱間に固定して使用するものであり、支持部材に代えて自立のための構成を採用しようとする動機が欠けている。
ところで、甲第1号証には、正面パネルと、該正面パネルの両側に設けられた側面パネルとを、平面視で略コ字状を形成するように配置することでパネルを自立させる技術が記載され、甲第4号証には、パネル(柵)を連結することで檻を形成し自立させる技術が記載されている。
しかし、仮に甲第3号証記載の発明の愛玩動物侵入規制用柵を自立させようとして、4個の支持部材に代えて甲第1号証又は甲第4号証記載のパネルを自立させる技術を採用しても本件特許発明1の構成にはならない。
また、甲第2号証には、正面パネルと、該正面パネルの両側から前方へ突出するように設けた側面パネルと、正面パネルの背面側に突出する支持部材が示されているが、音響吸音板に係るもので、柵の技術分野とは全く異なる。しかも左右のパネルは折り畳みのために開閉されるもので、正面パネルと側面パネルの構造が自立のためのものであるとは、ただちに認めることはできない。
甲第5号証には、正面パネルと、該正面パネルの両側に設けられた側面パネルとを、平面視でH字状を形成するように配置して自立させることが記載されているが、正面パネルと、該正面パネルの両側に設けられた側面パネルとを、平面視で略コ字状を形成するように配置することでパネルを自立させるものではない。
そして、本件特許発明1は、相違点aに係る構成により、上記[1](1-3)で述べたとおり、正面パネルの両側から動物がすり抜けることを確実に防止できる、側面パネルと反対方向に設けた支持部材により愛玩動物侵入規制用柵の自立状態での安定性が向上する等の甲第1号証ないし甲第5号証からは予測できない顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、相違点bについて検討するまでもなく、甲第3号証記載の発明、及び、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証並びに甲第5号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を特定する事項をすべて含むものであるから、本件特許発明1が、甲第3号証記載の発明、及び、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証並びに甲第5号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、同様に、甲第3号証記載の発明、及び、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証並びに甲第5号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

上記判断は、甲第6号証、甲第7号証又は乙第2号証によっても左右されない。

第6.むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし3についての特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-25 
結審通知日 2007-09-27 
審決日 2007-10-10 
出願番号 特願2006-122774(P2006-122774)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伊波 猛
石井 哲
登録日 2006-06-30 
登録番号 特許第3821299号(P3821299)
発明の名称 愛玩動物侵入規制用柵  
代理人 向井 秀史  
代理人 柿内 瑞絵  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 宇治 美知子  
代理人 平井 正司  
代理人 倉内 義朗  

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