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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない H01R
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない H01R
審判 訂正 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 訂正しない H01R
管理番号 1168311
審判番号 訂正2006-39137  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2006-08-11 
確定日 2007-07-27 
事件の表示 特許第3413080号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3413080号の請求項1ないし26に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)についての出願は、平成9(1997)年10月13日(パリ条約による優先権主張1996年10月10日,米国)の出願であって,平成15(2003)年3月28日にその発明についての特許権の設定登録がなされた。その後,平成18(2006)年8月11日に訂正の審判が請求され,平成18(2006)年12月15日付けで訂正拒絶理由が通知され,これに対し平成19(2007)年2月8日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正審判の請求の要旨
本件訂正審判の請求の要旨は,特許第3413080号の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり,すなわち,下記(1)ないし(3)のとおり,訂正することを求めるものである。
(1)訂正事項1
特許第3413080号の明細書中、特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正する。
「【請求項1】 多数のはんだボールの外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有する,基板に装着可能な多数の電気コネクタ用コンタクトであって,
絶縁ハウジングの装着凹部に装着される中間部と,
この中間部から延びるコンタクト係合部とを備え,このコンタクト係合部は相手方コンタクトに係合しかつはんだが付着されず,更に,
中間部から,前記コンタクト係合部から離隔する方向に延びるとともにその端部が前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置するはんだ端子部と,
基板上にコネクタを装着する前に,前記端子部上に熱融合されるとともに前記コンタクト係合部から離隔する方向に絶縁ハウジングから突出して共通平面を有するはんだボールとを備え,
前記中間部は,はんだウィッキング防止コーティングを有し,このはんだウィッキング防止コーティングは前記端子部からコンタクト係合部へのはんだウィッキングを防止する,コンタクト。」
(2)訂正事項2
特許第3413080号の明細書中、特許請求の範囲の請求項14を次のように訂正する。
「【請求項13】 多数のはんだボールの外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有する,基板上に実装する多数の電気コネクタ用コンタクトであって,
はんだウィッキング防止材料を含み絶縁ハウジングの装着凹部に装着される中間部と,
この中間部から延び,相手方コンタクトに係合する係合部と,
はんだ受容材料を含み,前記係合部と反対側に中間部から延びるとともにその端部が前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置する装着部と,
電気コネクタが基板に接続される前にこの装着部上に形成されたはんだ部材とを備え,このはんだ部材は,電気コネクタが基板に接続される前に,はんだと熱とを前記装着部に付加することによって前記コンタクト係合部から離隔する方向に絶縁ハウジングから突出して共通平面性を有する,コンタクト。」
(3)訂正事項3
特許第3413080号の明細書中、特許請求の範囲の請求項25を次のように訂正する。
「【請求項23】 多数の球状面を形成する溶融可能部材の外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有するものにおいて,縁部を有する材料で形成されたストリップと,
この縁部から延びる多数のコンタクトとを具備し,このコンタクトは,
前記縁部から延び,その上に配置されたはんだ受容材料の層を有するとともにその端部が前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置し,前記絶縁ハウジングから突出して共通平面を有する球状面を形成する溶融可能部材を保持する装着部と,
この装着部から延び,その上にはんだウィッキング防止材料の層を有するとともに前記絶縁ハウジングの装着凹部に装着される中間部と,
この中間部から延びる相手方コンタクト係合部とを,備える,キャリアストリップ。」
なお,上記下線部は訂正箇所を示す。

第3 訂正拒絶理由の概要
1 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張、変更及び新規事項の追加の有無の存否
訂正事項1ないし3は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,訂正事項1ないし3は,新規事項を追加するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

2 独立特許要件
(1)特許請求の範囲の記載不備について
本件訂正後の請求項1,13及び23に記載した発明は,特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないので,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(2)進歩性について
本件訂正後の請求項1及び13に係る発明は,下記の刊行物1に記載した発明及び周知技術(下記の刊行物2ないし7を参照)に基いて容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

刊行物1 特開平8-213070号公報
刊行物2 特開平8-78574号公報
刊行物3 特開平8-88295号公報
刊行物4 特開平8-111581号公報
刊行物5 特開平1-276572号公報
刊行物6 実願昭63-104447号(実開平2-25172号)のマイ クロフィルム
刊行物7 特開平8-148236号公報

3 むすび
本件訂正後の請求項1,13及び23に記載した発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないので,本件審判の請求は特許法第126条第5項の規定に適合しない。

第4 当審の判断
1 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張、変更及び新規事項の追加の有無の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「電気コネクタ用コンタクト」に「多数のはんだボールの外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有する」及び「多数の」との限定を付加するものであり、以下同様に「中間部」に「絶縁ハウジングの装着凹部に装着される」と、「はんだ端子部」に「その端部が前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置する」と限定を付加するとともに,「端子部上で溶融したはんだで形成されたボディ」を「端子部上に熱融合されるとともに前記コンタクト係合部から離隔する方向に絶縁ハウジングから突出して共通平面を有するはんだボール」と減縮するものであるので、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項14を請求項13とし,請求項14に記載した発明を特定するために必要な事項である「電気コネクタ用コンタクト」に「多数のはんだボールの外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有する,基板上に実装する多数の」との限定を付加するとともに,「はんだ付けできない材料で形成された中間部」を「はんだウィッキング防止材料を含み絶縁ハウジングの装着凹部に装着される中間部」と減縮し,「装着部」に「その端部が前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置する」との限定を付加し,「この装着部に取付けられる溶融可能部材と,を備える」を「電気コネクタが基板に接続される前にこの装着部上に形成されたはんだ部材とを備え,このはんだ部材は,電気コネクタが基板に接続される前に,はんだと熱とを前記装着部に付加することによって前記コンタクト係合部から離隔する方向に絶縁ハウジングから突出して共通平面性を有する,」と減縮するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、訂正事項2は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項25を請求項23とし,請求項25に記載した発明を特定するために必要な事項である「キャリアストリップ」について「多数の球状面を形成する溶融可能部材の外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有するものにおいて,」との前提事項を追加するとともに,「コンタクト」に「多数の」との限定を付加し,「溶融可能部材を受入れ可能である装着部」を「その端部が前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置し,前記絶縁ハウジングから突出して共通平面を有する球状面を形成する溶融可能部材を保持する装着部」と減縮し,「中間部」に「絶縁ハウジングの装着凹部に装着される」との限定を付加し,「係合部」に「相手方コンタクト」との限定を付加するものであるので,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,訂正事項3は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

2 独立特許要件
そこで、本件訂正後の請求項1,13及び23係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。
2-1 特許請求の範囲の記載不備について
(1)本件訂正後の請求項1について
本件訂正後の請求項1には「装着凹部に装着される中間部」「装着凹部内に位置するはんだ端子部」という記載があり,これを文言どおりに読めば,「装着凹部」とは,「中間部」が装着されるとともに,その内に「はんだ端子部」を位置するものであると解することができる。
一方,明細書中には「内側凹部」「外側凹部」という記載があり,「内側凹部」の内にはコンタクトの中間部が位置するのに対し,「外側凹部」の内にはコンタクトのハンダ端子部が位置するものであり,これら「凹部」の内に「中間部」と「はんだ端子部」の両方が同時に位置することはない。つまり,「内側凹部」と「外側凹部」とは技術的意味が異なるものである。そして,同明細書中には,「内側凹部」と「外側凹部」を「装着凹部」という上位概念として整理できるとの明示的な根拠もない。
してみれば,上記本件訂正後の請求項1の記載のように,技術的意味の異なる「内側凹部」と「外側凹部」とを「装着凹部」として総合的に記載することは,同請求項1に係る発明を不明確にするものである。
よって,同請求項1の記載は明確ではないので,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
なお,平成19年2月8日付け意見書(以下,「意見書」という。)において出願人は,「本件明細書および図面に示されている実施例の記載から明らかなように,絶縁ハウジングに対するコンタクトの装着の仕方については様々な実施例が記載されていることを考慮すれば,これらを総合的に「装着凹部」と記載することに格別の不具合はない」(3ページ5-9行)とし,「明細書の段落【0011】-【0012】,段落【0016】,段落【0020】,段落【0028】,段落【0030】-【0032】及び【図5】,【図7】,【図11】-【図13】,【図24】,【図25】等の記載を参酌すれば,『絶縁ハウジングの装着凹部に装着される中間部』は,『絶縁ハウジングの内側凹部内に位置する中間部』と,同様に『前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置するはんだ端子部』は『前記絶縁ハウジングの外側凹部内に位置するはんだ端子部』と認めることができるものであり,不明瞭なものとはいえない」(5ページ3-10行)と主張する。
しかしながら,明細書の記載を充分に参酌しなければ,請求項に記載された発明特定事項の技術的意味を正確に理解できないというのは,請求項の記載が明確でないことの証左である。
よって,出願人の主張は採用できない。

(2)本件訂正後の請求項13について
本件訂正後の請求項13の「装着凹部」は,上記「2-1(1)」で述べた理由と同様の理由により,同請求項13に係る発明を不明確にするものである。
よって,同請求項13の記載は明確ではないので,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3)本件訂正後の請求項23について
本件訂正後の請求項23には「多数の球状面を形成する溶融可能部材の外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有するものにおいて,・・・(中略)・・・とを,備える,キャリアストリップ。」と記載されていることから,同請求項23に記載した発明はキャリアストリップに係るものであり,その前提事項として記載された「多数の球状面を形成する溶融可能部材の外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有するもの」の「もの」とはキャリアストリップを意味すると解するのが常とうである。しかし,キャリアストリップとはコネクタの製造途中で用いられ,装着用インターフェイスをコネクタの外側部に形成する段階では,キャリアストリップのコンタクト以外の残りの部分は切除・廃棄されるものであることから,多数の球状面を形成する溶融可能部材の外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有するキャリアストリップとは,どのようなキャリアストリップを意味するのか明確であるとはいえない。なお,仮に,当該「もの」がコネクタであるとしても,同請求項23に記載した発明とその前提事項とが矛盾することとなるため,同請求項23に記載した発明は明確であるとはいえない。
また,同請求項23の「装着凹部」は,上記「2-1(1)」で述べた理由と同様の理由により,同請求項13に係る発明を不明確にするものである。
よって,同請求項23の記載は明確でないので,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
なお,上記意見書において出願人は,「確かに形式的には,『おいて』書き部分は,コネクタであって一見して相違しているものの,この発明がキャリアストリップであることは前述したようにその結語から明白であるから,前段の『おいて書き』はそのキャリアの適用対象を意味していることが自明」(14ページ3-6行)とし,「請求項23発明は,コネクタを適用対象としたキャリアストリップであると明白に特定されている」(14ページ8-9行)と主張する。
しかしながら,発明とその発明の「おいて書き」部分とは「本来的には明確に一致して書かなければならない」(14ページ10行)と出願人も認めているとおり,発明の「おいて書き」部分には,その発明の前提となる基本構成が提示されていると解するのが文言解釈上当然であることから,同請求項23の「おいて書き」部分の「もの」とは「キャリアストリップ」であると解するのが相当である。出願人の主張するように「キャリアストリップ」が「コネクタを適用対象とした」ものであることを特定したいのであれば,同請求項23にそのように明確に記載すべきである。
よって,出願人の主張は採用できない。

2-2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
本件特許第3413080号の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平8-213070号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
ア.「【従来の技術】電子部品を回路基板3の表面に固定する場合、電子部品の端子部を半田付で接続するものが多い。この場合、部品の小形化につれて、半田が端子を駆け上がり易くなり、その部品の機能や性能を損なうことが、しばしば発生する。例えば、コネクタの場合、端子部23から必要以上に半田5が駆け上がり、コンタクト2の接触部21に半田5が付着すると、コネクタの接続信頼性を損なうことになる。そこで、半田5の駆け上がりの防止策として種々の手段が提案されていて、例えば、
・接着剤によるシーリング 図3(A)
・インサート成形によるシーリング 図3(B)
・接着剤塗布によるシーリング 図3(C)
等を挙げることができる。
接着剤によるシーリングとは、図3(A)のように、絶縁体1のコンタクトテールが突出している側に、接着剤6を塗布したものである。接着剤6を塗布することによってコンタクト2と絶縁体1の間の隙間を埋めるものである。インサート成形によるシーリングとは、図3(B)のように、絶縁体1の射出成形時にコンタクト2を金型にセットし、コンタクト2を樹脂で一体成形するものである。コンタクト2を樹脂で一体成形することによって、コンタクト2と絶縁体1との隙間をなくすようにしたものである。接着剤塗布によるシーリングとは、図3(C)のように、予めコンタクト2に接着剤6・レジストインクを帯状に塗布したものである。予めコンタクト2に塗布することによって、半田5の付かない接着剤6・レジストインクのバリヤにより半田5の上がりを止めることをねらったものである。」(段落【0002】及び【0003】)
イ.「【課題を解決するための手段】上記本発明の目的は、電子部品の端子部23の表面局部に酸化皮膜231を設けることにより達成できる。ここで、表面局部とは、電子部品端子の端子部23で、基板3までの一部分又は全部をいい、その部分の端子部23全周をいう。
【作用】コンタクト2の端子部23表面に設けられている酸化皮膜231は、半田に対する濡れ性が小さいので、回路基板3から駆け上ってきた半田5は、酸化皮膜231で停止し、コンタクト2の接触部21に至ることはない。」(段落【0009】及び【0010】)
ウ.「【実施例】以下、図面に基づき本発明を説明する。図1は、本発明の一具体例であるコネクタを示したものである。図1において、1は絶縁体である。絶縁体1は、通常、電気絶縁性のプラスチツクを材料として射出成形技術により所定形状に作られる。絶縁体1には、所要本数のコンタクト2が取り付けられ、固定されている。コンタクト2は、一般に相手コネクタのコンタクトと接触しあう接触部21、絶縁体1に固定される固定部22及び回路基板3と電気的に接続される端子部23の3部分から成り立っている。」(段落【0011】)
エ.「コンタクト2は良電導性で,反発弾性のある金属材料を打ち抜き又はその他の公知の加工技術により作ることができる。コンタクトに使用し得る金属材料として,黄銅・リン青銅・ベリリウム銅・洋白丹銅・カドミウム銅・Cu-Ni-Sn合金等を挙げることができる。」(段落【0012】)
オ.「コンタクト2の端子部23は、絶縁体1より外側に突き出ていて、この突き出た部分は回路基板3に設けられた貫通孔31に挿通される。端子部23は、回路基板3との接続に際し、半田のりが良い様に半田メッキを施すことがある。本発明においては、コンタクト2端子部23の表面周囲に帯状の酸化皮膜231が設けられている。この帯状の酸化皮膜231の位置は、図2(A)に示すように、回路基板3の表面31位置から半田付の所要長を除いた絶縁体1寄りであれば、コネクタ端子部23の如何なる位置であっても良いが、半田付け部分に余裕を見て、絶縁体1の近傍とするのが一般的である。」(段落【0013】)
カ.「なお、帯状酸化被膜231の幅は、半田の流れを阻止できればよく、500um以上あれば充分にその効果を得ることができる。・・・(後略)」(段落【0014】)
キ.第1図及び第3図には,「回路基板3に装着可能なコンタクトであって,固定部22と,この固定部22から延びる接触部21とを備え,更に,固定部22から,前記接触部21から離隔する方向に延び,上記回路基板3にはんだ付される端子部23と,前記端子部23は,酸化被膜231を有するコンタクト」,及び,「縁部を有し,この縁部から延びる少なくとも1つのコンタクトを具備する板状部材」が,それぞれ示されている。

上記記載事項ア.ないしカ.及び上記図示事項キ.によれば,引用例には,以下の発明が記載されていると認められる。
「回路基板3に装着可能な所要本数のコンタクトであって,
絶縁体1に固定される固定部22と,
この固定部22から延びる接触部21とを備え,この接触部21は相手コネクタのコンタクトと接触し,更に,
固定部22から,前記接触部21から離隔する方向に延びた端子部23と,
前記端子部23は,酸化皮膜231を有し,この酸化皮膜231は回路基板3から駆け上がって来たはんだが前記接触部21に至ることを防止する,コンタクト。」(以下,「引用発明」という。)

(2)本件訂正後の請求項1に係る発明について
ア.本件訂正後の請求項1に係る発明の認定
上記「3-1(1)」で検討したとおり,本件訂正後の請求項1の記載は明確でないため,明細書中の段落【0011】,段落【0016】,段落【0020】,段落【0028】,段落【0030】及び【図5】,【図11】,【図12】,【図24】,【図25】の記載を参酌し,請求項1に係る発明の発明特定事項である「絶縁ハウジングの装着凹部に装着される中間部」は「絶縁ハウジングの内側凹部内に位置する中間部」と,「前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置するはんだ端子部」は「前記絶縁ハウジングの外側凹部内に位置するはんだ端子部」と認める。
してみれば,本件訂正後の請求項1に記載された事項により特定される発明は,次のとおりのものと認める。
「多数のはんだボールの外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有する,基板に装着可能な多数の電気コネクタ用コンタクトであって,
絶縁ハウジングの内側凹部内に位置する中間部と,
この中間部から延びるコンタクト係合部とを備え,このコンタクト係合部は相手方コンタクトに係合しかつはんだが付着されず,更に,
中間部から,前記コンタクト係合部から離隔する方向に延びるとともにその端部が前記絶縁ハウジングの外側凹部内に位置するはんだ端子部と,
基板上にコネクタを装着する前に,前記端子部上に熱融合されるとともに前記コンタクト係合部から離隔する方向に絶縁ハウジングから突出して共通平面を有するはんだボールとを備え,
前記中間部は,はんだウィッキング防止コーティングを有し,このはんだウィッキング防止コーティングは前記端子部からコンタクト係合部へのはんだウィッキングを防止する,コンタクト。」(以下、「本件訂正発明1」という。)

イ.対比
本件訂正発明1と引用発明とを対比すると、後者の「回路基板3」は,その機能又は作用からみて、前者の「基板」に相当し,以下同様に,後者の「所要本数の」は前者の「多数の」に,後者の「コンタクト」は前者の「電気コネクタ用コンタクト」に,後者の「絶縁体1」は前者の「絶縁ハウジング」に,後者の「固定部22」は前者の「中間部」に,後者の「接触部21」は前者の「コンタクト係合部」に,後者の「相手方コネクタのコンタクト」は前者の「相手方コンタクト」に,後者の「接触し」は前者の「係合し」に,後者の「上記回路基板3にはんだ付される端子部23」は前者の「はんだ端子部」にそれぞれ相当する。
本件訂正発明1の「絶縁ハウジングの内側凹部内に位置する中間部」と引用発明の「絶縁体1に固定される固定部22」とは,「絶縁ハウジングに装着される中間部」である点で共通する。
また,はんだウィッキングとは,コンタクトの端子部と基板のはんだ付けの際に,はんだが基板からコンタクト上を伝わり(駆け上がり),コンタクトの上部に至ることを意味するという技術常識に基づけば,引用発明の「酸化被膜21」は本件訂正発明1の「はんだウィッキング防止コーティング」に相当し,引用発明の「酸化皮膜231は回路基板3から駆け上がって来たはんだが前記接触部21に至ることを防止する」は本件特許発明1の「はんだウィッキング防止コーティングは前記端子部からコンタクト係合部へのはんだウィッキングを防止する」に相当するといえる。
さらに,上記記載事項(イ)の「コンタクト2の端子部23表面に設けられている酸化皮膜231は、半田に対する濡れ性が小さいので、回路基板3から駆け上ってきた半田5は、酸化皮膜231で停止し、コンタクト2の接触部21に至ることはない。」との記載によれば,「酸化被膜231」は「接触部21」にはんだが至らないようにする機能を有することから,この「接触部21」には「はんだが付着されない」ことは明らかである。

してみれば,本件訂正発明1と引用発明とは,
「基板に装着可能な多数の電気コネクタ用コンタクトであって、
絶縁ハウジングに装着される中間部と、
この中間部から延びるコンタクト係合部とを備え、このコンタクト係合部は相手方コンタクトに係合しかつはんだが付着されず、更に、
中間部から、前記コンタクト係合部から離隔する方向に延びるはんだ端子部と、
はんだウィッキング防止コーティングを有し,このはんだウィッキング防止コーティングは前記端子部からコンタクト係合部へのはんだウィッキングを防止する、コンタクト。」である点で一致し,次の各点で相違する。

(ア)相違点1
中間部が位置する絶縁ハウジングの箇所について,本件訂正発明1においては内側凹部内であるのに対し,引用発明においてはそのような発明特定事項がない点。

(イ)相違点2
はんだ端子部について,本件訂正発明1においては,その端部が絶縁ハウジングの外側凹部内に位置し,また,電気コネクタ用コンタクトについて,本件訂正発明1においては,多数のはんだボールの外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有するとともに,基板上にコネクタを装着する前に,前記端子部上に熱融合されるとともに前記コンタクト係合部から離隔する方向に絶縁ハウジングから突出して共通平面を有するはんだボールとを備えているのに対し,引用発明においては,そのような発明特定事項がない点。

(ウ)相違点3
はんだウィッキング防止コーティングを有する箇所について,本件訂正発明1においては,「中間部」であるのに対し,引用発明においては,「端子部23」である点。

ウ.判断
(ア)相違点1について
引用発明において,絶縁体1の固定部22を固定する箇所に凹部を設け,該凹部内に該固定部22の一部を位置させることは,必要に応じて決定することのできる設計事項に過ぎず,そのようにすることで格別な作用・効果を奏するものではない。

(イ)相違点2について
半導体装置といった高密度で基板との電気的接続が求められる電子機器において,基板に対向する該電子機器の接続面にはんだボールを配置するための凹みを設けるとともに,該凹み内にリードなどの端子を設け,該電子機器が基板に電気的接続される前に該端子にはんだボールが熱融合により取り付けられ,複数の該はんだボールを該接続面から突出して共通平面を形成させることは,いずれも周知技術である(特開平8-78574号公報,特開平8-88295号公報,特開平8-111581号公報等を参照)。
してみれば,電気コネクタの技術分野において,実装密度の増加は周知の技術的課題(特開平1-276572号公報等を参照)であり,また,電気コネクタをケーブルなどの対象にはんだ接続するものにおいて,該コネクタの端子部を相手方コネクタのコンタクトとの係合部から離隔する方向に延ばし,該端子部にボール半田などの接続用はんだを予め配置することは周知技術である(実願昭63-104447号(実開平2-25172号)のマイクロフィルム,特開平8-148236号公報等を参照)ことを踏まえれば,引用発明において,その絶縁体1及び端子部23の構造として,これら周知技術を採用することにより,上記相違点2に係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点3について
引用発明の「酸化皮膜231」の機能は「接触部21」にはんだが至ることのないようにすることにあるため,その位置は「端子部23」に限定されることなく,「接触部21」よりも下方(「端子部23」側)であればよいことは明らかなので,引用発明において上記相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易になし得ることである。

また,上記相違点1ないし3によって,本件訂正発明1が奏する作用・効果も,引用発明及び上述の周知技術から予測される範囲内のものであって,格別なものとは認められない。

(3)本件訂正後の請求項13に係る発明について
ア.本件訂正後の請求項13に係る発明の認定
上記「3-1.(2)」で検討したとおり,本件訂正後の請求項13の記載は明確でないため,明細書中の段落【0011】,段落【0016】,段落【0020】,段落【0028】,段落【0030】及び【図5】,【図11】,【図12】,【図24】,【図25】の記載を参酌し,請求項2に係る発明の発明特定事項である「絶縁ハウジングの装着凹部に装着される中間部」は「絶縁ハウジングの内側凹部内に位置する中間部」と,同様に,「前記絶縁ハウジングの装着凹部内に位置するはんだ端子部」は「前記絶縁ハウジングの外側凹部内に位置するはんだ端子部」と認める。

してみれば,本件訂正後の請求項13に記載された事項により特定される発明は,次のとおりのものと認める。
「多数のはんだボールの外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有する,基板上に実装する多数の電気コネクタ用コンタクトであって,
はんだウィッキング防止材料を含み絶縁ハウジングの内側凹部内に位置する中間部と,
この中間部から延び,相手方コンタクトに係合する係合部と,
はんだ受容材料を含み,前記係合部と反対側に中間部から延びるとともにその端部が前記絶縁ハウジングの外側凹部内に位置する装着部と,
電気コネクタが基板に接続される前にこの装着部上に形成されたはんだ部材とを備え,このはんだ部材は,電気コネクタが基板に接続される前に,はんだと熱とを前記装着部に付加することによって前記コンタクト係合部から離隔する方向に絶縁ハウジングから突出して共通平面性を有する,コンタクト。」(以下、「本件訂正発明2」という。)

イ.対比
本件訂正発明2と引用発明とを対比すると、後者の「回路基板3」は,その機能又は作用からみて、前者の「基板」に相当し,以下同様に,後者の「所要本数の」は前者の「多数の」に,後者の「コンタクト」は前者の「電気コネクタ用コンタクト」に,後者の「絶縁体1」は前者の「絶縁ハウジング」に,後者の「固定部22」は前者の「中間部」に,後者の「接触部21」は前者の「係合部」に,後者の「相手方コネクタのコンタクト」は前者の「相手方コンタクト」に,後者の「接触」は前者の「係合」に,後者の「離隔する方向に」は前者の「反対側に」に,後者の「はんだメッキが施され」は前者の「はんだ受容材料を含み」に,後者の「端子部23」は前者の「装着部部」にそれぞれ相当する。
引用発明においては「装着可能」としているのに対し,本件訂正発明2においては「実装する」としているが,コンタクトを基板に実装するために,このコンタクトを基板に装着可能としているものであるから,両者は技術的に同義であるといえる。
また,本件訂正発明2の「絶縁ハウジングの内側凹部内に位置する中間部」と引用発明の「絶縁体1に固定される固定部22」とは,「絶縁ハウジングに装着される中間部」である点で共通する。
さらに,上記「(2)(イ)」の対比と同様に,引用発明の「酸化皮膜231」は本件特許発明2の「はんだウィッキング防止材料」に相当する。

してみれば,本件訂正発明2と引用発明とは,
「基板上に実装する多数の電気コネクタ用コンタクトであって、
はんだウィッキング防止材料を含み,
絶縁ハウジングに装着される中間部と、
この中間部から延び,相手方コンタクトに係合する係合部と,
はんだ受容材料を含み,前記係合部と反対側に中間部から延びる装着部とを備えるコンタクト。」である点で一致し,次の各点で相違する。

(ア)相違点4
中間部が位置する絶縁ハウジングの箇所について,本件訂正発明2においては内側凹部内であるのに対し,引用発明においてはそのような発明特定事項がない点。

(イ)相違点5
装着部について,本件訂正発明2においては,その端部が絶縁ハウジングの外側凹部内に位置し,また,電気コネクタ用コンタクトについて,本件訂正発明2においては,多数のはんだボールの外面によるほぼ平坦な装着用インターフェイスをコネクタの外側部に有するとともに,電気コネクタが基板に接続される前に,はんだと熱とを前記装着部に付加することによって前記コンタクト係合部から離隔する方向に絶縁ハウジングから突出して共通平面性を有するのに対し,引用発明においては,そのような発明特定事項がない点。

(ウ)相違点6
はんだウィッキング防止材料を含む箇所について,本件訂正発明2においては,「中間部」であるのに対し,引用発明においては,「端子部23」である点。

ウ 判断
(ア)相違点4について
引用発明において,絶縁体1の固定部22を固定する箇所に凹部を設け,該凹部内に該固定部22の一部を位置させることは,必要に応じて決定することのできる設計事項に過ぎず,そのようにすることで格別な作用・効果を奏するものではない。

(イ)相違点5について
半導体装置といった高密度で基板との電気的接続が求められる電子機器において,基板に対向する該電子機器の接続面にはんだボールを配置するための凹みを設けるとともに,該凹み内にリードなどの端子を設け,該電子機器が基板に電気的接続される前に該端子にはんだボールが熱融合により取り付けられ,複数の該はんだボールを該接続面から突出して共通平面を形成させることは,いずれも周知技術である(特開平8-78574号公報,特開平8-88295号公報,特開平8-111581号公報等を参照)。
してみれば,電気コネクタの技術分野において,実装密度の増加は周知の技術的課題(特開平1-276572号公報等を参照)であり,また,電気コネクタをケーブルなどの対象にはんだ接続するものにおいて,該コネクタの端子部を相手方コネクタのコンタクトとの係合部から離隔する方向に延ばし,該端子部にボール半田などの接続用はんだを予め配置することは周知技術である(実願昭63-104447号(実開平2-25172号)のマイクロフィルム,特開平8-148236号公報等を参照)ことを踏まえれば,引用発明において,その絶縁体1及び端子部23の構造として,これら周知技術を採用することにより,上記相違点5に係る本件訂正発明2の発明特定事項とすることは,当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点6について
引用発明の「酸化皮膜231」の機能は「接触部21」にはんだが至ることのないようにすることにあるため,その位置は「端子部23」に限定されることなく,「接触部21」よりも下方(「端子部23」側)であればよいことは明らかなので,引用発明において上記相違点6に係る本件訂正発明2の発明特定事項とすることは,当業者が容易になし得ることである。

また,上記相違点4ないし6によって,本件訂正発明2が奏する作用・効果も,引用発明及び上述の周知技術から予測される範囲内のものであって,格別なものとは認められない。

(4)むすび
よって、本件訂正発明1,2は、引用発明及び上述の周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
よって,本件訂正発明1,2,3は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので,特許出願の際独立して特許を受けることができず,またさらに,本件訂正発明1,2は,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

第5 むすび
したがって、本件審判の請求は、特許法第126条第5項の規定に適合しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-23 
結審通知日 2007-02-28 
審決日 2007-03-19 
出願番号 特願平9-279076
審決分類 P 1 41・ 856- Z (H01R)
P 1 41・ 537- Z (H01R)
P 1 41・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 哲男菅澤 洋二  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 芦原 康裕
一色 貞好
登録日 2003-03-28 
登録番号 特許第3413080号(P3413080)
発明の名称 高密度コネクタおよび製造方法  
代理人 中村 誠  
復代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 哲  
代理人 鈴江 武彦  

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