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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1168709
審判番号 不服2004-6913  
総通号数 97 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-07 
確定日 2007-11-29 
事件の表示 特願2001-275797「ボトル缶用アルミニウム合金板」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月19日出願公開、特開2003- 82429〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年9月11日の出願であって、平成15年11月18日付けの拒絶理由通知に応答して、平成16年1月23日付けで手続補正がされたが、同年3月5日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年4月7日付けで審判請求がされると共に同年5月7日付けで手続補正がされ、その後、当審において、平成19年6月19日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成16年5月7日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「ボトル缶ネック部の成形時に絞り比30%以上の絞り加工を受ける1ピースボトル缶用の素材であるアルミニウム合金板において、Fe:0.2乃至0.7質量%、Si:0.1乃至0.3質量%、Mn:0.5乃至1.2質量%、Mg:0.5乃至1.2質量%及びCu:0.1乃至0.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、210℃で10分間保持してベーキングした場合における耐力(0.2%耐力)が220乃至250MPaであると共に、素材としての加工硬化指数が0.09以下であることを特徴とするボトル缶用アルミニウム合金板。」(以下、「本願発明」という。)

3.当審において通知した拒絶の理由の概要
平成19年6月19日付けで通知した当審の拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。
本願発明は、その出願前頒布された下記刊行物1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.大橋一郎ら、『「DAKARA」アルミボトル缶の開発』、包装技術、平成12年9月号、第8?15頁
2.特開平11-229066号公報
3.特開平6-228696号公報
4.特公平7-23160号公報
(以下、それぞれ「引用文献1」「引用文献2」「引用文献3」及び「引用文献4」という。)

4.引用文献及びその記載事項
当審の拒絶理由にある引用文献1?4には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)引用文献1
(1a)「外径 66mm/口径 38mm/材料 アルミ合金 通常のアルミ缶と同一」と記載された「ボトルの仕様」と題された表1(第9頁左欄)

(1b)「3.ボトル缶の開発 このアルミニウム製のボトル缶は・・・、従来のアルミDI缶の技術、生産ラインを有効に活用できることをコンセプトとして開発された。従来のアルミ缶と同じ3000番台の材料を使用し、通常のDI缶の工程でロング缶形状のストレートの粗缶を作り、印刷、内面塗装を行い、次に肩部、口部を少しづつ縮めて、ねじを切る(図1参照)。このボトル自体が1ピース構造であることは後述する」(第9頁右欄18?29行)

(1c)「アルミコイル潤滑剤塗布/内面塗装・焼付/ネッキング/天面カール成形」が図示され「アルミボトル缶の製造工程」と題された図1(第10頁)

(1d)「この缶は一般DI缶と同じように、はじめにしごいたストレート缶に印刷をしてから肩部を絞るため、ボトル肩部にもデザインを入れることが可能である。一方、絞る寸法も外径66mmから38mmまでと従来と比較にならないほど大きく、その上ねじ加工、天面カール加工と次々に負荷がかかる。」(第10頁左欄1?7行)

(2)引用文献2
(2a)「本発明はビール及び炭酸飲料等の缶に使用されるキャンエンドに好適なカーリング性及び巻き締め性が優れたアルミニウム合金板及びその製造方法に関し、特に、カーリング工程におけるカール先端部のシワ及び内容物充填時の巻き締め部のシワの発生の抑制を図ったカーリング性及び巻き締め性が優れたアルミニウム合金板及びその製造方法に関する。」(段落【0001】)

(2b)「なお、アルミニウム合金板の耐力が290(N/mm2)未満であると、強度が低いために蓋材としての使用が困難になることがある。一方、強度が高くなるほど耐圧強度に関しては有利になるが、成形性が低下しやすくなると共に、カーリングシワが発生しやすくなる。」(段落【0043】)

(2c)「270℃で20秒間の焼付塗装相当の熱処理を施した。これは、実際のキャンエンド用アルミニウム合金板は焼付塗装後に成形されるので、これと同じ条件とするために行ったものである。そして、各実施例及び比較例について機械的性質を測定した。これらの結果を下記表2に示す。」(段落【0047】)

(2d)「機械的性質/引張強さσB(N/mm2)/耐力σ0.2(N/mm2)/伸びδ(%)」と記載された表2。

(3)引用文献3
(3a)「この発明は、2ピースアルミニウム缶の缶胴、すなわちDI缶胴に用いられるAl-Mn系のアルミニウム合金板に関するものであり、特にDI成形時のしごき加工性に優れると同時に、塗装焼付処理およびネッキング加工後のフランジ成形性が優れたDI缶胴用アルミニウム合金板に関するものである」(段落【0001】)

(3b)「しかしながら従来の缶胴材料では、たとえしごき加工性が良好でDI成形性が良好であっても、塗装焼付後のネッキング加工時の絞り込みが大きくなれば、冷間加工度が大きくなることによりフランジ部が硬くなって、伸びが小さくなってしまい、その結果フランジ成形性が悪くなり、またシーミング加工での成形性も悪くなる。」(段落【0006】)

(3c)「さらにこの発明のアルミニウム合金板は、30%伸びから70%伸びまでの間における加工硬化指数(N値)が0.1未満であることが必要である。・・・このようなN値は、30%伸びから70%伸びに至るまでの間の応力-歪み曲線(S-Sカーブ)の傾きに相関し、・・・深絞りや缶胴の縁部に対するフランジ加工の如き強加工の場合に、上記のN値を0.1未満として30%から70%までの間のS-Sカーブの傾きを小さくすることが成形荷重を小さくするに有効である。」(段落【0024】?【0026】)

(3d)合金記号A、B、C、D及びEの「機械的特性 元板(塗装焼付相当処理前) N値」の欄にそれぞれ、「0.04/0.04/0.04/0.07/0.08」と記載された表3(第8頁)。

(4)引用文献4
(4a)「この発明のアルミニウム合金製DI缶胴においては、優れたネッキング成形性、フランジ成形性を与えるためには、・・・30%伸びから70%伸びまでの間における加工硬化指数(N値)を0.045以下とする必要がある。・・・このようなN値は、30%伸びから70%伸びに至るまでの間のS-Sカーブの傾きに相関し、・・・フランジ成形の如き強加工の場合には上気のN値を0.045以下として30%から70%までの間のS-Sカーブの傾きを小さくすることが、成形荷重を小さくして、フランジ成形性を向上させるに有効であることを見出した。」(第3頁右欄11行?第4頁左欄27行)

(4b)製造プロセス番号2の「ベーキング後引張特性 N値」の欄に「0.034」と記載された第3表(第5表)。

5.当審の判断
(1)引用発明
引用文献1の(1a)には、ボトル缶用アルミニウム合金が記載されているといえ、また、(1b)の「このアルミニウム製のボトル缶は・・・従来のアルミ缶と同じ3000番台の材料を使用し、・・・このボトル自体が1ピース構造である」という記載によれば、上記アルミニウム合金は3000番台の材料であり、上記ボトル缶は1ピース構造ボトル缶であるといえる。
そして、(1c)には、アルミボトル缶の製造工程として、アルミコイルを出発材とし、内面塗装・焼付後、ネッキング及び天面カール成形を施すことが記載され、ここに記載のアルミコイルとは板状のアルミ素材をコイル状に巻いたものであることは明らかであるから、ボトル缶の製造時に内面塗装・焼付後、ネッキング及び天面カール成形が施される上記アルミニウム合金は板状体であるといえる。
また、(1b)の「ロング缶形状のストレートの粗缶を作り、印刷、内面塗装を行い、次に肩部、口部を少しづつ縮めて」という記載、(1d)の「この缶は・・・ストレート缶に印刷をしてから肩部を絞る・・・絞る寸法も外径66mmから38mmまでと従来と比較にならないほど大きく」という記載、及び、「ボトル缶の仕様」と題して「外径 66mm/口径 38mm」と記載された(1a)によると、上記板状体のアルミニウム合金は、肩部及び口部へと縮める際に外径66mmから口径38mmまで絞り加工を受けるものであるといえる。

上記記載及び認定事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。

「肩部及び口部へと縮める際に外径66mmから口径38mmまで絞り加工を受ける1ピース構造ボトル缶用の素材であるアルミニウム合金板において、3000番台の材料からなり、内面塗装・焼付後、天面カール成形が施される、ボトル缶用アルミニウム合金板」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願発明と引用発明との対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「肩部及び口部」及び「1ピース構造ボトル缶」は、本願発明の「ネック部」及び「1ピースボトル缶」に相当する。
また、引用発明において、外径66mmから口径38mmまで絞り加工されることにより、絞り比がほぼ42%の絞り加工を受けることは明らかであるから、本願発明と引用発明は、「ボトル缶ネック部の成形時に絞り比42%の絞り加工を受ける」の点でも一致しているといえる。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「ボトル缶ネック部の成形時に絞り比42%の絞り加工を受ける1ピースボトル缶用の素材であるアルミニウム合金板」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点イ:アルミニウム合金板の組成が、本願発明では、「Fe:0.2乃至0.7質量%、Si:0.1乃至0.3質量%、Mn:0.5乃至1.2質量%、Mg:0.5乃至1.2質量%及びCu:0.1乃至0.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる」のに対して、引用発明では、3000番台の材料である点。
相違点ロ:本願発明では、「210℃で10分間保持してベーキングした場合における耐力(0.2%耐力)が220乃至250MPaである」のに対して、引用発明では、210℃で10分間保持してベーキングした場合の耐力が不明である点。
相違点ハ:本願発明では、「素材としての加工硬化指数が0.09以下である」のに対して、引用発明では、素材としての加工硬化指数が不明である点。

(3)相違点についての判断
そこで、上記相違点について検討する。
(a)相違点イについて
引用発明における「3000番台の材料」とは、JIS3004などに代表されるJIS3000番台のアルミニウム合金のことであることは明らかであり、JIS3004に該当する、「Fe:0.2乃至0.7質量%、Si:0.1乃至0.3質量%、Mn:0.5乃至1.2質量%、Mg:0.5乃至1.2質量%及びCu:0.1乃至0.3質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成」に包含される組成のアルミニウム合金を、アルミニウム合金製缶用の素材として用いることは、本願出願前に周知の事項である(必要があれば、特開2000-219929号公報、特開平11-256290号公報を参照のこと。)。すると、引用発明において、上記周知の事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
そうすると、上記相違点イは、当業者が容易に想到し得たことである。

(b)相違点ロについて
引用文献2の(2a)の「本発明はビール及び炭酸飲料等の缶に使用されるキャンエンドに好適な・・・カーリング工程におけるカール先端部のシワ及び内容物充填時の巻き締め部のシワの発生の抑制を図ったカーリング性及び巻き締め性が優れたアルミニウム合金板及びその製造方法に関する。」という記載、及び、(2b)の「強度が高くなるほど耐圧強度に関しては有利になるが、成形性が低下しやすくなると共に、カーリングシワが発生しやすくなる。」という記載によると、引用文献2には、キャンエンド用アルミニウム合金板が記載され、更に、耐圧強度のためには強度が高いほど有利であるが、カーリング工程でシワが発生するのを抑制するためには強度を低くすることが示されているといえる。ここで、強度とは、(2d)に記載された引張強さσB又は耐力σ0.2(0.2%耐力)を指すことは当業者に明らかである。
そして、(2c)の「焼付塗装相当の熱処理をした。これは、実際のキャンエンド用アルミニウム合金板は焼付塗装後に成形されるので、これと同じ条件にするために行ったものである」という記載によれば、カーリング工程は、焼付塗装、すなわちベーキング後のアルミニウム合金板に対して施されることも明らかである。
すると、引用文献2には、キャンエンド用アルミニウム合金板において、耐圧強度のためにはベーキング後の0.2%耐力が高いほど有利であり、カーリング工程でシワが発生するのを抑制するためにはベーキング後の0.2%耐力を低くすることが示唆されているといえる。そして、引用発明のアルミニウム合金板は、引用文献2に記載のアルミニウム合金板と同様に、ベーキング後に、天面カール成形、すなわちカーリング工程を施されるものであるから、当業者が上記引用文献2の示唆に触れれば、引用発明においても、カーリング工程でシワが発生する恐れがあることは当然に想起されるといえる。
また、ベーキングが、210℃で10分間保持する、又はそれに近い条件で施されることは、本願出願前に周知の事項である(必要があれば、特開平10-235442号公報、特開平6-33204号公報などを参照。)。
してみれば、引用発明において、210℃で10分間保持してベーキングした後の0.2%耐力を、カーリング工程でシワが発生しない範囲で低く設定することは当業者が容易に想到し得たことであり、その上限値は、缶としての耐圧強度を決める耐力の所望の下限値と共に、この下限値との関係から、当業者が適宜設定することにすぎない。
そうすると、上記相違点ロは、当業者が容易に想到し得たことである。

(c)相違点ハについて
引用文献3の(3a)?(3d)の記載によれば、引用文献3には、DI用アルミニウム合金板において、強加工により加工硬化して成形性が低下することがないように、その加工硬化指数(N値)を0.04、0.07、0.08など0.1未満にすることが記載されているといえる。また、引用文献4の(4a)?(4b)にも、引用文献3と同様の目的のために、アルミニウム合金板の加工硬化指数を0.045以下にすることが記載されているといえる。
そして、引用発明のアルミニウム合金板は、ボトル缶の製造時に絞り加工が施されるものであり、(1d)の「この缶は・・・絞る寸法も外径66mmから38mmまでと従来と比較にならないほど大きく、その上ねじ加工、天面カール加工と次々に負荷がかかる。」という記載から、絞り加工を受けて加工硬化する恐れがあることは当業者にとって明らかである。
すると、引用発明において、アルミニウム合金板の加工硬化指数を、上記引用文献3及び4に記載された程度に設定することは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
そうすると、上記相違点ハは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)小括
したがって、上記相違点イ?ハは当業者が容易に想到し得たことであるから、本願発明は、引用発明、引用文献2?4の記載及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2?4の記載及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-28 
結審通知日 2007-10-02 
審決日 2007-10-15 
出願番号 特願2001-275797(P2001-275797)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 近野 光知
平塚 義三
発明の名称 ボトル缶用アルミニウム合金板  
代理人 藤巻 正憲  

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