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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D01H
管理番号 1169257
審判番号 不服2006-18094  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-18 
確定日 2007-12-13 
事件の表示 特願2003-344688「ドラフト装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年4月28日出願公開、特開2005-113274号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年10月2日の出願であって、その請求項1ないし3に係る発明は、平成19年1月23日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、請求項1の記載は下記のとおりである(以下、これによって特定される発明を「本願発明」という。)。
「繊維束を下流側に送り込みつつ牽伸する複数のローラ対から構成されるドラフト装置であって、
前記ローラ対を構成するローラ間端部の前記ローラ対を構成するいずれか一方のローラに、隙間が1mm以上で3mm以下であり、幅が6mm以上の所定の段差を形成する間隙を設け、該間隙が、ローラの回転に伴う随伴気流を挿通させると共に、前記気流がドラフトされて送り出される繊維束の拡がりを阻止する防止壁となるスライバ送り出し方向への空気流と紡績部へ送り出す空気流に偏向する空気通路を形成することを特徴とするドラフト装置。」

2.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-126926号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
a.(段落番号【0001】【産業上の利用分野】)
「この発明は、高速紡績装置等に使用されるローラー式ドラフト装置のフロントトップローラーに関するものである。」
b.(段落番号【0003】【発明が解決しようとする課題】)
「上記のローラー式ドラフト装置は、フロントトップローラーRfa、フロントボトムローラーRfbの各外周面に沿って回転方向に随伴気流が発生し、その随伴気流に乗って繊維がフロントローラーRfの軸方向に頻繁に拡散し、糸の均整度を低下させている。それは、供給繊維束の配向性がよいほど顕著である。」
c.(段落番号【0004】)
「この発明は、随伴気流による繊維の拡散を防ぐことのできる、特に高速回転に適する、ドラフト装置のフロントトップローラーを提供することを目的としている。」
d.(段落番号【0007】【実施例】)
「図1ないし図3を参照し、この発明のドラフト装置のフロントトップローラーの実施例について説明する。」
e.(段落番号【0008】)
「このフロントトップローラーRfaは、例えば、フロントローラーRf、エプロンEを有するセカンドローラーR2、サードローラーR3及びバックローラーRBとよりなるローラー式ドラフト装置に採用される。」
f.(段落番号【0011】)
「フロントトップローラーRF1は、軸方向の筋を有する金属製のフロントボトムローラーRFbの上に配され、支軸25に軸受け29を介して設けられた鉄製の円筒体26と、その外周にアルミニウム製のスリーブ27を介して固定されたゴム層28とよりなっている。」
g.(段落番号【0012】)
「このゴム層28には、図3(1)に示すように、両端に段部28aを形成するか、図3(2)に示すように、両端にテーパー部28bを形成する。例えば、直径28mmのものの場合、元のローラー幅は32mm、両端を切除した後の有効ローラー幅は18mm(標準ローラー幅の56.3%)である。なお、フロントローラーRFより送出される繊維束の幅は6?10mmである。」
h.(段落番号【0013】)
「この発明のフロントトップローラーRF1は、一例として、図5に示す空気紡績装置におけるドラフト装置に採用することができる。」
i.(段落番号【0026】)
「このような紡績装置と上記ローラー式ドラフト装置を組み合わせて紡出糸速度250m/min で運転したところ、フロントローラー前方から両側へ飛散する風綿はほとんど見られず、フロントトップローラーRf1、フロントボトムローラーRf2の各外周面に沿って回転方向に流れる随伴気流の影響をほとんど受けなくなることがわかる。これは、特に両端に段部9aを有するものにおいて著しい。ちなみに、両端に段部9aを有するものにおいては、従来のものに比べ、落綿率が6%程度、ネップ数が10%程度、著しく細い部分が11%程度、著しく太い部分が16%程度それぞれ減少している。」
j.(段落番号【0028】【発明の効果】)
「この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載するような効果を奏する。」
k.(段落番号【0029】)
「即ち、フロントローラーの高速回転によって生じる随伴気流による繊維の飛散を防ぐことができ、従って、糸の均整度を上げ、糸質を向上させることができる。また、落綿率を低下させることもできる。更に、騒音の発生を著しく改善することができる。」

上記の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「高速紡績装置等に使用され、フロントローラ対、セカンドローラー対、サードローラー対及びバックローラー対から構成されるローラー式ドラフト装置であって、
前記フロントローラ対を構成するフロントトップローラー(Rf1)及びフロントボトムローラー(Rf2)のうち、フロントトップローラー(Rf1)の両端を切除し、元のローラー幅が32mmであるのに対し、両端を切除した後の有効ローラー幅を18mmとすることにより、フロントボトムローラー(Rf2)との間に段部を形成する間隙を設け、該間隙が、フロントトップローラー(Rf1)、フロントボトムローラー(Rf2)の各外周面に沿って回転方向に流れる随伴気流の影響を低減し、随伴気流による繊維の飛散を防ぐようにしたローラー式ドラフト装置。」

3.対比
本願発明と上記引用発明とを対比する。
引用発明の「フロントローラ対、セカンドローラー対、サードローラー対及びバックローラー対」は、本願発明の「繊維束を下流側に送り込みつつ牽伸する複数のローラ対」に相当し、そのうち、「フロントトップローラ」が「前記ローラ対を構成するいずれか一方のローラ」であるということができる。
また、引用発明のフロントトップローラの両端を切除して形成された「段部」は、本願発明の「段差」に相当し、その幅は、上記摘示記載gによれば、(32-18)/2=7mmで、「幅が6mm以上」である。
してみれば、両者の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
[一致点]
「繊維束を下流側に送り込みつつ牽伸する複数のローラ対から構成されるドラフト装置であって、
前記ローラ対を構成するローラ間端部の前記ローラ対を構成するいずれか一方のローラに、幅が6mm以上の所定の段差を形成する間隙を設けたドラフト装置。」
[相違点1]
本願発明においては、段差の隙間を「1mm以上で3mm以下」としたのに対し、引用発明においては、段部の高さがどの程度のものか明確でない点。
[相違点2]
本願発明において、「間隙」が「ローラの回転に伴う随伴気流を挿通させると共に、前記気流がドラフトされて送り出される繊維束の拡がりを阻止する防止壁となるスライバ送り出し方向への空気流と紡績部へ送り出す空気流に偏向する空気通路を形成する」のに対し、引用発明において「間隙」は、「フロントトップローラー(Rf1)、フロントボトムローラー(Rf2)の各外周面に沿って回転方向に流れる随伴気流の影響を低減し、随伴気流による繊維の飛散を防ぐ」点。

4.判断
[相違点1]について
本願発明が「隙間が1mm以上で3mm以下」とした点について、明細書には、段差を形成する隙間と幅を変化させて糸物性を測定し(段落番号【0039】)、「その結果、紡績ノズルと中空ガイド軸体とを備える空気紡績装置を備える紡績部Spを装着する紡績機においては、隙間Bが1mm以上3mm以下、幅6mm以上の場合に効果が見られた。また特に、隙間Bが1.5mmで且つ幅7mm程度の段差を形成するドラフトローラで紡出される紡績糸の糸物性が安定して良好であることが判った。」(段落番号【0040】)と記載され、高速回転するフロントローラにより生じる随伴気流の様子を、隙間を変化させてシュミレーションした結果、隙間が1.5程度が最適であった(段落番号【0054】?【0058】並びに【図8】及び【図9】)と記載されているように、最適値を、実験的に、しかも、特定の装置(空気紡績装置)を特定条件(350m/min)で運転したときの、特定のローラ(フロントトップローラ)についての実験に基づいて求めたものと解することができる。
しかしながら、ドラフトローラの回転によって生じる随伴気流の挙動は、ローラの回転速度、あるいは糸条の紡出速度、ローラの長さ、ローラ径、さらには、吸引ノズルや旋回ノズルのような周辺部材等の諸条件によって変化すること、すなわち、ドラフト装置が、どのような装置(例えば、空気紡績装置、あるいは本願明細書の段落番号【0025】で適用可能とされる「その他の精紡機や粗紡機や練条機等)に適用される、いずれのローラを対象とするかによって、随伴気流の挙動は異なり、該随伴気流による繊維への影響も異なることは明らかである。
してみると、本願明細書を参酌しても、「隙間が1mm以上で3mm以下」とすることにより、上記した諸条件にかかわらず、臨界的な効果が奏されるとする技術的根拠を見いだすことはできない。
一方、引用発明も、上記した引用文献の摘記事項iによれば、フロントトップローラ(Rf1)に段部を設けて、空気紡績装置に組み合わせて紡出糸速度250m/minで運転したときに、フロントローラの回転方向に流れる随伴気流の影響をほとんど受けなくなるようにするものである以上、この運転条件下での随伴気流の挙動を考慮して、段部の高さ、すなわち隙間を適宜選定することは、当業者が設計上当然試みることであり、元のローラー幅が32mmであり、切除した後の有効ローラー幅が18mmであることからみて、段差の高さを「1mm以上で3mm以下」の範囲内で設定することが、通常試みる程度を超えるほど特異なものとも解されない。
したがって、引用発明において、段部の高さを、「1mm以上で3mm以下」の範囲内で設定することにより、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

[相違点2]について
本願発明の「該間隙が、ローラの回転に伴う随伴気流を挿通させると共に、前記気流がドラフトされて送り出される繊維束の拡がりを阻止する防止壁となるスライバ送り出し方向への空気流と紡績部へ送り出す空気流に偏向する空気通路を形成する」という構成は、「隙間が1mm以上で3mm以下であり、幅が6mm以上の所定の段差を形成する」ことにより、ローラの回転に伴って生じる空気流の作用を記載したものであり、それを超えて、構成を特定するものではない。
一方、該間隙に対応する、引用発明の段部も、「フロントトップローラー(Rf1)、フロントボトムローラー(Rf2)の各外周面に沿って回転方向に流れる随伴気流の影響を低減し、随伴気流による繊維の飛散を防ぐ」ものであるので、当然、フロントトップローラー(Rf1)及びフロントボトムローラー(Rf2)の回転に伴う随伴気流を挿通させるとともに、この随伴気流が、ドラフトされて送り出される繊維束の拡がりを阻止する防止壁を形成しているということができる。
そして、そのような繊維の側方への拡散を防止し得る気流が、随伴気流の方向である回転方向から、ローラの接線方向に沿って前方、すなわちスライバ送り出し方向あるいは紡績部の方向に偏向していることは、当業者が容易に推認し得ることである。
したがって、相違点2は、実質的な相違点とはいえず、そうでなくても、引用発明において、ローラの回転速度、あるいは糸条の紡出速度、ローラの長さ、ローラ径、さらには、吸引ノズルや旋回ノズルのような周辺部材等の諸条件に応じて、間隙の幅や段部の高さを適宜選定することにより、当業者が容易に達成し得ることである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-15 
結審通知日 2007-10-16 
審決日 2007-11-01 
出願番号 特願2003-344688(P2003-344688)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉澤 秀明西山 真二白土 博之  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 関 信之
田中 玲子
発明の名称 ドラフト装置  
代理人 鳥巣 実  

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