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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1169431
審判番号 不服2004-12553  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-17 
確定日 2007-12-13 
事件の表示 平成 8年特許願第306858号「光学ピックアップ及び光ディスク装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月 2日出願公開、特開平10-149563〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯の概要
本件審判の請求に係る特許出願(以下「本願」という。)は、平成8年11月18日に出願された特願平8-306858号であって、平成16年3月15日付けで手続補正がなされたが、平成16年5月11日付けで拒絶査定がなされた。
その後、平成16年6月17日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成16年7月16日付けで手続補正書が提出されたものである。


II.平成16年7月16日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成16年7月16日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.平成16年7月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、
「【請求項1】
光ビームを出射する光源と、
この光源から出射された光ビームを光ディスクの信号記録面上に集束させる光集束手段と、
前記光源と前記光集束手段との間に配設され、光源からの光ビームを透過させ、且つ光ディスクからの戻り光ビームを反射させる光分離手段と、
前記光分離手段で反射された前記光ディスクの信号記録面からの戻り光ビームを受光する受光部を有する光検出器と、
光軸に対して斜めに配置され、且つ前記光ディスクの基板にて生じる光ビームの非点収差を補正するように、前記光ディスクの基板によって生じる非点収差とは逆の非点収差が発生するように厚さが選定された平行平板からなる非点収差補正手段と、
前記光ディスクからの戻り光ビームにフォーカスエラー検出用の非点収差を発生させる非点収差発生手段とを備え、
前記光分離手段は、前記平行平板の光ディスク側の表面に形成された光分離膜で構成されていることを特徴とする光学ピックアップ。
【請求項2】
前記光源と前記平行平板との間に、前記光分離手段への入射NAを小さくするための凸レンズが設けられていることを特徴とする請求項1記載の光学ピックアップ。
【請求項3】
光源から出射した光ビームを、非点収差補正手段を介して、光ディスクの信号記録面上に集束する光集束手段と、
前記光源と光集束手段との間に配設され、光源からの光ビームを透過させ、且つ光ディスクからの戻り光ビームを反射させる光分離手段と、
前記光分離手段で反射された前記光ディスクの信号記録面からの戻り光ビームを受光する受光部を有する光検出器と、
光軸に対して斜めに配置され、且つ前記光ディスクの基板にて生じる光ビームの非点収差を補正するように、前記光ディスクの基板によって生じる非点収差とは逆の非点収差が発生するように厚さが選定された平行平板からなる非点収差補正手段と、
前記光ディスクからの戻り光ビームにフォーカスエラー検出用の非点収差を発生させる非点収差発生手段とを備え、
前記光分離手段が、前記平行平板の光ディスク側の表面に形成された光分離膜により構成されていることを特徴とする光ディスク装置。」

と、上記下線部を付加する補正をするものである。

2.本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲について、「前記光集束手段」「前記光ディスク」及び「前記平行平板」と、本件補正前の「光集束手段」「光ディスク」及び「平行平板」に、『前記』との文言を付加することで構成を特定していくものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
次に、本件補正の請求項1に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するか)について、以下に検討する。

(3-1)本件補正後発明
本件補正において【請求項1】に記載された発明は、上記1.に記載した以下のとおりのものである。
「光ビームを出射する光源と、
この光源から出射された光ビームを光ディスクの信号記録面上に集束させる光集束手段と、
前記光源と前記光集束手段との間に配設され、光源からの光ビームを透過させ、且つ光ディスクからの戻り光ビームを反射させる光分離手段と、
前記光分離手段で反射された前記光ディスクの信号記録面からの戻り光ビームを受光する受光部を有する光検出器と、
光軸に対して斜めに配置され、且つ前記光ディスクの基板にて生じる光ビームの非点収差を補正するように、前記光ディスクの基板によって生じる非点収差とは逆の非点収差が発生するように厚さが選定された平行平板からなる非点収差補正手段と、
前記光ディスクからの戻り光ビームにフォーカスエラー検出用の非点収差を発生させる非点収差発生手段とを備え、
前記光分離手段は、前記平行平板の光ディスク側の表面に形成された光分離膜で構成されていることを特徴とする光学ピックアップ。」(以下「本件補正後発明」という。)

(3-2)刊行物及び記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された実願昭61-180097号(実開昭63-84732号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)は、光学ピックアップ装置についてのもので、以下の記載がある。(なお、各刊行物での下線は当審での付与。)
(i)「2. 実用新案登録請求の範囲
レーザ光発光素子がハウジング内に収容され、該ハウジングの一部にガラス基板を備えた板状ビームスプリッタがその面を上記レーザ光発光素子からのレーザ光ビームの光軸に対して所定の傾斜角を有するものとなして固定され、上記レーザ光発光素子からのレーザ光ビームが該板状ビームスプリッタを通じて上記ハウジング外に導出されるものとされたレーザ光源部と、
該レーザ光源部からの上記板状ビームスプリッタを透過したレーザ光ビームを記録媒体に集束状態をもって入射させるとともに上記記録媒体からの反射レーザ光ビームを受けて上記板状ビームスプリッタに向わせる対物レンズと、
上記板状ビームスプリッタを経た上記反射レーザ光ビームを険出して検出出力信号を発生する光検出部と、
を具備して構成される光学ピックアップ装置。」(1頁4行?2頁3行)
(ii)「3. 考案の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本考案は、レーザ光ビームを対物レンズを通じて記録媒体に入射させるとともに記録媒体からの反射レーザ光ビームを光検出部に導いて、光検出部から、記録媒体に記録された情報の検出出力信号を得る光学ピックアップ装置に関する。」(2頁4行?10行)
(iii)「(考案の概要)
本考案は、レーザ光源部からのレーザ光ビームを対物レンズを通じて記録媒体に集束状態をもって入射させ、記録媒体からの反射レーザ光ビームを対物レンズを通じて光検出部に導き、光検出部から、記録媒体に記録された情報に応じた検出出力信号を得る光学ピックアップ装置において、レーザ光源部におけるレーザ光発光素子が収容されたハウジングの一部に、ガラス基板を備えた板状ビームスプリッタがその面をレーザ光発光素子からのレーザ光ビームの光軸に対して所定の傾斜角を有するものとなるように固定され、レーザ光源部からのレーザ光ビームが板状ビームスプリッタを透過して導出されるものとなるようにすることにより、使用光学部品点数が少とされて必要容積の低減が図られ、しかも、レーザ光源部からのレーザ光ビームの非点収差の低減が図られるようにしたものである。」(2頁11行?3頁10行)
(iv)「半導体レーザチップ1aが発するレーザ光ビームが、ガラス平板2を通じてハウジング1b外に導出される。このように、半導体レーザチッブ1a が発するレーザ光ビームがその光軸に対して所定の傾斜角を有するガラス平板2を通過せしめられることにより、半導体レーザユニット1からのレーザ光ビームは非点収差補正がなされたものとされる。

(考案が解決しようとする問題点)
しかしながら、上述の如くの従来提案されている光学ピックアップ装置においては、半導体レーザユニット1からのレーザ光ビームが、独立した光学部品に形成されたビームスプリッタ4,コリメータレンズ3及び対物レンズ5を通じてディスクDに入射せしめられ、また、ディスクDからの反射レーザ光ビームが、対物レンズ5,ビームスブリッタ4及び受光レンズ6を通じて光検出器7に導かれる。このため、レンズやビームスプリッタ等の光学部品が多数使用されることになり、組立て工数も多大とされて、装置がコスト高になるとともに、必要容積が大とされて、装置全体の小型化を図ることが困難となる虞がある。
斯かる点に鑑み、本考案は、レーザ光源部からのレーザ光ビームを対物レンズを通じてディスク等の記録媒体に集束状態をもって入射させ、記録媒体から対物レンズを通じて戻る反射レーザ光ビームを光検出部に導き、光検出部において記録媒体に記録された情報に応じた検出出力信号を得るにあたり、その光学路構成を、使用される光学部品の数が少とされるとともに必要容積が縮小され、比較的簡単で、小型化を図ることが容易なものとすることができる光学ピックアップ装置を提供することを目的とする。」(6頁4行?7頁17行)
(v)「(作 用)
このように構成される本考案に係る光学ピックアップ装置においては、レーザ光源部からの板状ビームスプリッタを透過したレーザ光ビームが対物レンズを通じて記録媒体に入射せしめられて得られる記録媒体からの反射レーザ光ビームが、対物レンズを通じてレーザ光源部に備えられた板状ビームスプリッタに導かれ、板状ビームスプリッタにおいて光軸方向が変化せしめられた反射レーザ光ビームが光検出部に入射せしめられて、光検出部から、記録媒体に記録された情報に応じた検出出力信号が得られる。このため、光検出部において、記録媒体に記録された情報に応じた検出出力信号を得るに、独立した光学部品としてのビームスプリッタが不要とされ、光学路構成全体が、使用される光学部品の数が少とされるとともに必要容積が縮小されて、比較的簡単で小型化を図ることができるものとされる。
また、レーザ光源部に備えられた板状ビームスプリッタは、ガラス基板を有しており、その面がレーザ光発光素子からのレーザ光ビームの光軸に対して所定の傾斜角を有するものとされるので、この板状ビームスプリッタを通じてレーザ光源部から発せられるレーザ光ビームは、非点収差補正がなされたものとされる。」(8頁17行?10頁2行)
(vi)「(実施例)
第1図は、本考案に係る光学ピックアップ装置の一例を示す。
この例は、第4図に示される光学ピックアップ装置と同様に、ディスクDに記録された情報を再生するに用いられるものとされており、1個の光学ブロック20を形成すべく纏められて、螺線状の記録トラックが形成されたディスクD の半径方向(矢印Aで示される方向)に沿って移動できるようにされた光学路構成を備えるものとされている。この光学路構成においては、半導体レーザチップ11aを収容したハウジング11bを有し、そのハウジング11b に板状ビームスプリッタ12が固定されて一体化された半導体レーザユニット11が配されている。
斯かる半納体レーザユニット11は、第2図に示される如く、レーザ光ビームを発する半導体レ一ザチッブ11a がヘッダーl3 に投げられた支持部13a に固着されて支持され、また、その下方において、ヘッダー13 の中央部に嵌挿された基台14上に、電極15 を介して、半導体レーザチップ1laが発するレーザ光を受けるモニタ用フォトダイオード16 が配されている。そして、これら半導体レーザチッブ11a及びモニタ用フォトダイオード1 6が、窓部17が設けられてキャップ状に形成され、その下端部がヘッダー13に嵌合するものとされたハウジング1lb の内部に収容されている。
ハウジング11bに設けられた窓部17には、板状ビームスプリッタ12が嵌合せしめられて、固定されている。この板状ビームスプリッタ12は、ガラス基板を備えていて、例えば、ハーフミラーを形成するものとされており、窓部17に嵌合せしめられるにあたって、その面が半導体レーザチップ1la からのレーザ光ビームの光軸に対して所定の、例えば、45度の傾斜角を有するものとなるようにされている。
そして、半導体レーザチッブ11aから発せられるレーザ光ビームが、窓部17に嵌合せしめられた板状ビームスプリッタ12を通じて、ハウジング11bの外部に導出される。従って、第3図に示される如くに、半導体レーザチッブ1laから発せられるレーザ光ビ-ムBf は、板状ビームスプリッタ12を、そのガラス基体の表面において屈折を生じて通過いくことになり、それによって、非点収差が低減せしめられる補正がなされる。
このようにして半導体レーザユニット11から得られるレーザ光ビームが、第1図に示される如く、コリメータレンズ 3において平行ビーム化された後、対物レンズ5を通じて集束状態とされたもとでディスクDに入射せしめられる。ディスクD に入射せしめられたレーザ光ビームは、ディスクD に形成された螺線状の記録トラックにおいて、そこに記録された情報に応じた変調を受けた状態で反射され、反射レーザ光ビームとされる。
ディスクDからの反射レーザ光ビームは、対物レンズ5を介して戻り、平行ビーム化されてコリメータレンズ3に入射し、コリメータレンズ3において集束ビーム化されて、半導体レーザユニット11に配された板状ビームスプリッタ12に導かれる。そして、第3図に示される如くに、斯かる反射レーザ光ビームの、例えば、略1/2が板状ビームスプリッタ12において反射され、その光軸方向が変化せしめられた反射レーザ光ビーム Brとされて、受光レンズ 6 を通じて光検出器 7 に導かれ、光検出器7によって検出される。」(10頁3行?13頁9行)

以上の摘示事項、及び、図面を参照して整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されているものと認める。
「レーザ光発光素子と、ガラス基板を備え、ハーフミラーを形成するものとされ、その面を上記レーザ光発光素子からのレーザ光ビームの光軸に対して所定の傾斜角を有して固定され、上記レーザ光発光素子からのレーザ光ビームの非点収差補正がなされる上記板状ビームスプリッタと、
上記レーザ光発光素子からの上記板状ビームスプリッタを透過したレーザ光ビームを記録媒体に集束状態をもって入射させるとともに上記記録媒体からの反射レーザ光ビームを受けて上記板状ビームスプリッタに向わせる対物レンズと、
上記反射レーザ光ビームの略1/2が板状ビームスプリッタにおいて反射され、その光軸方向が変化せしめられた上記反射レーザ光ビームを検出して検出出力信号を発生する光検出部と、
を具備してなる光学ピックアップ装置。」(以下「刊行物1発明」という。)

原査定の拒絶の理由で引用された特開昭63-187438号(以下「刊行物2」という。)には、光磁気再生装置について、以下の記載がある。
(vii)「〔産業上の利用分野〕
本願発明は光磁気再生装置に係り、特にディスク基板の複屈折による位相差を相殺するのに好適な光学ヘッドを備えた光磁気再生装置に関するものである。」(1頁右下欄3行?7行)
(viii)「〔問題点を解決するための手段〕
上記目的は、光学的情報記録媒体から出射するレーザ光の光路中に位相差補正手段を設け、該光学的情報記録媒体からの出射光を光検出器に導き、該位相差補正手段で生ずる位相差と、該光学的情報記録媒体で生ずる位相差が相殺するように、該位相差補正手段を制御する制御手段とにより、達成される。
〔作用〕
前記位相差補正手段は、前記制御手段によって光学的情報記録媒体で生ずる位相差を相殺するように制御される。したがって、光学的情報記録媒体にレーザ光が入射および反射する際に生ずる不均一な位相差を補正することができ、光学的情報記録媒体および光検出器に導かれるレーザ光をほぼ直線偏光にし、再生信号振幅を最大にすることができる。また、この結果、CN比を向上することができる。」(2頁右上欄5行?左下欄2行)
(ix)「この楕円偏光107aおよび107bは、光磁気ディスク1のカバーガラス3に、レーザ光が入射および反射する際に生ずるP(またはS)偏光とS(またはP)偏光との位相差によるものが主であり、カバーガラス3の材料として、光弾性定数の大きいポリカーボネート(以後PCと記す)等のプラスチックを用いた場合、特に大きな位相差を生じる。
・・・(中略)・・・
この原因は以下の理由からである。
位相差δは次式で与えられる。δ=k・n・d
ここで、kは定数、nは屈折率差、dは光路長である。つまり、第3図(a)のように、カバーガラス3に収束光301が入射する場合、マル1…光路長dはθが増大するに従い長くなる。マル2…PC基板のように、面内方向と板厚方向の屈折率が異なるカバーガラスでは、屈折率差nはθが増大するに従い大きくなる。
・・・(中略)・・・
本発明は、第2図(b)で説明したように、光磁気再生装置においてCN比の低下をもたらすレーザ光中の位相差が、第3図(c)(d)のように光束中で分布を有している場合においても、位相差補正手段9で補正することにより、常に第2図(a)に示すような直線偏光とし、良好な再生信号を得ようとするものである。」(4頁左上欄12行?右下欄6行)(なお、上記でマル1,マル2は刊行物2では丸の中に数字のある記号である。)

原査定の拒絶の理由で引用された特開平2-56740号(以下「刊行物3」という。)には、ビーム整形装置と光学ヘッド装置について、以下の記載がある。
(x)「(3) 発散光を発する発光手段と、上記発散光を一次元的に収束あるい発散せしめる円柱レンズと、上記発光手段と上記円柱レンズとを通る光軸に対して入射面を傾けて設けられた平板と、上記発散光を記録媒体上に収束させる対物レンズと、上記記録媒体を反射した光を電気信号に変換する受光手段とを備えたことを特徴とする光学ヘッド装置。
(4) 平板上には半透過膜が形成されていることを特徴とする請求項(3)記載の光学ヘッド装置。」(1頁左下欄12行?右下欄1行)
(xi)「第4図は本発明の第2の実施例におけるビーム整形装置の側面図である。同図においては、1は半導体レーザー、2は円柱レンズで、以上は第1図の構成と同様なものである。31は透過平板3の出射面(半導体レーザー1に対して反対側の面)上に設けられた半透過膜である。4は半導体レーザーlから出た光を光記録媒体5の情報記録面に収束させる対物レンズである。6は光記録媒体5で反射した光を電気信号に変換する受光手段である。
上記のように構成されたビーム整形装置について、以下その動作を説明する。
光軸に対して傾斜して設けられた透過平板3はそのままビームスプリッタとして用いることが出来る。すなわち、半導体レーザー出射光の一部を透過させ、光記録媒体反射光の一部を反射させることにより、光記録媒体5に記された情報を読み取ることができる。半透過膜31の透過率および反射率を適当に選べば、再生信号のSN比等を最適化することができる。
・・・(中略)・・・。
以上のように、本実施例によれば透過平板3の出射面上に半透過膜31を設けることによって、光記録媒体5に記された情報を読み取ることができる。」(3頁右上欄1行?左下欄8行)

(3-3)対比・判断
〔対比〕
(a) 刊行物1発明における「レーザ光発光素子」は、本件補正後発明の「光ビームを出射する光源」に相当する。また、刊行物1発明における「対物レンズ」は本件補正後発明の「光集束手段」に相当する。
(b)刊行物1発明における「光学ピックアップ装置」は、本件補正後発明の「光学ピックアップ」で共通する。
(c)刊行物1発明における「板状ビームスプリッタ」は、「ハーフミラーを形成するものとされ」「上記レーザ光発光素子からの上記板状ビームスプリッタを透過したレーザ光ビームを記録媒体に集束状態をもって入射させるとともに上記記録媒体からの反射レーザ光ビームを受けて上記板状ビームスプリッタに向わせる対物レンズ」及び「上記反射レーザ光ビームの略1/2が板状ビームスプリッタにおいて反射」等の記載からみて、「レーザ光発光素子」と「対物レンズ」との間に配置され、レーザ光発光素子からのレーザ光ビームを透過し、記録媒体からの反射レーザ光ビームを反射するという、ハーフミラーとしての作用をするものである点において、本件補正後発明の「前記光源と前記光集束手段との間に配設され、光源からの光ビームを透過させ、且つ光ディスクからの戻り光ビームを反射させる光分離手段」に相当する。
(d)刊行物1発明における「板状ビームスプリッタにおいて反射」された「反射レーザ光ビームを検出して検出出力信号を発生する光検出部」は、本件補正後発明の「前記光分離手段で反射された前記光ディスクの信号記録面からの戻り光ビームを受光する受光部を有する光検出器」に相当する。
(e)刊行物1発明における「板状ビームスプリッタ」は、上記(c)の事項に加え「ガラス基板を備え」「その面を上記レーザ光発光素子からのレーザ光ビームの光軸に対して所定の傾斜角を有して固定され、上記レーザ光発光素子からのレーザ光ビームの非点収差補正がなされる」ものであり、
ガラス基板、すなわち平行平板を備えること、
光軸に対して所定の傾斜角を有していること、
レーザ光ビームの非点収差補正がなされること、すなわち、非点収差の発生源で発生する非点収差とは逆の非点収差を発生するものであることから、
この非点収差補正作用をするものである点において、本件補正後発明の「光軸に対して斜めに配置され、光ビームの非点収差を補正するように、生じる非点収差とは逆の非点収差が発生する平行平板からなる非点収差補正手段」に相当する。

結局、両発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「光ビームを出射する光源と、
この光源から出射された光ビームを光ディスクの信号記録面上に集束させる光集束手段と、
前記光源と前記光集束手段との間に配設され、光源からの光ビームを透過させ、且つ光ディスクからの戻り光ビームを反射させる光分離手段と、
前記光分離手段で反射された前記光ディスクの信号記録面からの戻り光ビームを受光する受光部を有する光検出器と、
光軸に対して斜めに配置され、光ビームの非点収差を補正するように、生じる非点収差とは逆の非点収差が発生する平行平板からなる非点収差補正手段と、
前記光分離手段は、前記平行平板で構成されている光学ピックアップ。」の点。

[相違点]
(イ)非点収差補正手段について、本件補正後発明のものは「光ディスクの基板にて生じる光ビームの非点収差を補正するように、前記光ディスクの基板によって生じる非点収差とは逆の非点収差が発生するように厚さが選定された平行平板」なるものであるが、刊行物1発明のものはレーザ発光素子からのレーザ光ビームの非点収差補正をするものである点。

(ロ)戻り光ビームからのフォーカス検出であるが、本件補正後発明のものは「光ディスクからの戻り光ビームにフォーカスエラー検出用の非点収差を発生させる非点収差発生手段とを備え、」というものであるが、刊行物1発明のものは非点収差発生手段によるフォーカスエラー検出手段について記載がない点。

(ハ)光分離手段であるが、本件補正後発明のものは「平行平板の光ディスク側の表面に形成された光分離膜で構成」というものであるが、刊行物1発明のものはこの構成について記載がない点。

〔判断〕
-上記相違点(イ)について-
複屈折材料からなる基板を備えた光ディスクでは、戻り光には複屈折の影響により光学系に有害となりうる非点収差が発生することが、光ディスクの技術分野において技術常識(必要であれば、特開平7-282469号公報の【0012】?【0021】、特開平8-279187号公報【0011】【0015】【0023】【0024】等参照。)である。
また、刊行物2には、光学的情報記録媒体にレーザ光が入射及び反射する際に基板の複屈折により生じる位相差を補正(相殺)する位相差補正手段を、光学ヘッドの光路中に設けることの記載(上記(vii)参照。)がある。一方、本件補正後発明が補正の対象とする非点収差についても、光ディスクの材料の複屈折性により光ビームに発生するもの(本願明細書段落【0020】参照。)である。そして、両者はともに、光が記録媒体の複屈折材料を透過するときに常光と異常光に対する屈折率の違いに基づいて発生する光のゆがみを補正する補正手段を設ける点で共通している。
そうすると、刊行物2に記載のように、光ピックアップの光路中の補正手段により光ディスクの複屈折に起因する光のゆがみを補正しうること、及び、光ディスクにおいても戻り光に非点収差が発生することが技術常識であることを勘案すれば、刊行物1発明における、レーザ光発光素子の構造に起因したレーザ光ビームの非点収差補正をする板状ビームスプリッタについて、前記レーザ光発光素子で発生する非点収差だけではなく、ディスクDにおいて発生する非点収差についても補正するような構造とすること、ないしは、前記レーザ光発光手段で発生する非点収差に替えて、ディスクDにおいて発生する非点収差を補正する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
この場合、板状ビームスプリッタによる補正の程度に応じて該板状ビームスプリッタの厚さを選択することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎないものである。

-上記相違点(ロ)について-
光ディスクからの戻り光ビームについて、フォーカスエラー検出用の非点収差を発生させる非点収差発生手段を介在させてフォーカスエラー検出していく構成は周知(例:特開平6-309687号公報,特開平7-287850号公報,特開平8-185635号公報等の拒絶査定時に提示した文献を参照)であるから、刊行物1発明のものにおいても、板状ビームスプリッタ12と光検出器7との間に非点収差発生手段を備え、上記相違点(ロ)のようにしていくことは当業者が適宜容易に想到できるものである。

-上記相違点(ハ)について-
刊行物3には、第4図に関して「31は透過平板3の出射面(半導体レーザー1に対して反対側の面)上に設けられた半透過膜である。」「半導体レーザー出射光の一部を透過させ、光記録媒体反射光の一部を反射させることにより、光記録媒体5に記された情報を読み取る」及び「透過平板3の出射面上に半透過膜31を設ける」と記載されている。また、上記構成は必要であれば拒絶査定時に提示した特開昭62-239428号公報の第3図にも記載されているように本願出願前周知技術であるから、刊行物1発明の板状ビームスプリッタ12に採用して、上記相違点(ハ)のようにすることは当業者が容易に想到できるものである。

そして、上記各相違点についての判断を総合しても、本件補正後発明の奏する効果は、上記各刊行物並びに周知技術から当業者が十分予測可能なものであり、格別のものではない。

結局、本件補正後発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2,3並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するもので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願発明
1.本願発明
平成16年7月16日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項に係る発明は、平成16年3月15日付け手続補正で補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ、【請求項1】に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
光ビームを出射する光源と、
この光源から出射された光ビームを光ディスクの信号記録面上に集束させる光集束手段と、
前記光源と光集束手段との間に配設され、光源からの光ビームを透過させ、且つ光ディスクからの戻り光ビームを反射させる光分離手段と、
前記光分離手段で反射された光ディスクの信号記録面からの戻り光ビームを受光する受光部を有する光検出器と、
光軸に対して斜めに配置され、且つ前記光ディスクの基板にて生じる光ビームの非点収差を補正するように、前記光ディスクの基板によって生じる非点収差とは逆の非点収差が発生するように厚さが選定された平行平板からなる非点収差補正手段と、
前記光ディスクからの戻り光ビームにフォーカスエラー検出用の非点収差を発生させる非点収差発生手段とを備え、
前記光分離手段は、前記平行平板の光ディスク側の表面に形成された光分離膜で構成されていることを特徴とする光学ピックアップ。」(以下「本願発明」という。)

2.刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物及び該刊行物に記載された事項は、上記したとおりである(上記「II.〔理由〕3.(3-2)刊行物及び記載された事項」参照)。

3.対比・判断
本願発明は、上記II.で検討した本件補正後発明の「前記光集束手段」「前記光ディスク」と記載のある構成から、下線部分の、『前記』を削除して上位概念の構成としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を実質的に全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正後発明が、上記「II.〔理由〕3.(3-3)の対比・判断」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2,3並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本願発明も、同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-27 
結審通知日 2007-10-02 
審決日 2007-10-30 
出願番号 特願平8-306858
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田良島 潔  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 中野 浩昌
吉村 伊佐雄
発明の名称 光学ピックアップ及び光ディスク装置  
代理人 小池 晃  
代理人 田村 榮一  
代理人 伊賀 誠司  

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