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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1169721
審判番号 無効2006-80093  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-05-18 
確定日 2007-12-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2649171号発明「遊技機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2649171号の請求項1,2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願からの主立った経緯を箇条書きにすると以下のとおりである。
・昭和63年5月31日 本件出願
・平成9年5月16日 特許第2649171号として設定登録(請求項1,2)
・平成18年5月18日 大森幸子より本件無効審判請求(請求項1,2の特許に対して)
・同年8月3日 被請求人より答弁書提出
・同年12月11日 請求人より弁駁書提出

第2 当事者の主張
[請求人の主張]
請求人は、証拠方法として特開昭63-54186号公報(甲第1号証)、特開昭57-115276号公報(甲第2号証)及び特開昭61-20573公報(甲第3号証)を提出し、以下のように主張している。
1.無効理由1
請求項1,2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、請求項1,2の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の規定に該当し無効とされるべきである。
2.無効理由2
請求項1,2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるか、又は同発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、請求項1,2の特許は特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の規定に該当し無効とされるべきである。
3.無効理由3
請求項1,2の「前記可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様になった場合に遊技者に付与される遊技結果価値の加算更新が可能となる特別状態」を実施例に即して解釈しても、請求項1,2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、請求項1,2の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の規定に該当し無効とされるべきである。

[被請求人の主張]
1.無効理由1,3に対して
請求項1,2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
2.無効理由2に対して
甲第3号証には、「遊技機が前記特別状態の期間中前記精算操作手段を不能動状態にする精算操作不能動化手段」(請求項1)及び「前記可変表示装置が可変表示している期間中および遊技機が前記特別状態となっている期間中の両期間中、前記精算操作手段を不能動状態にする精算操作不能動化手段」(請求項2)は記載されていないから、請求項1,2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明ではなく、又は同発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。

第3 当審の判断
1.本件発明の認定
請求項1,2に係る発明(以下、順に「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲【請求項1】,【請求項2】に記載されたとおりの次のものと認める。
(本件発明1)
【請求項1】遊技者所有の有価価値を使用して遊技が可能であり、複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置を有する遊技機であって、
前記可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様になった場合に遊技者に付与される遊技結果価値の加算更新が可能となる特別状態を開始させ、所定の条件が成立したことに基づいて前記特別状態を終了させる遊技制御手段と、
前記加算更新される遊技結果価値を累積的に記憶可能な価値記憶手段と、
該価値記憶手段に記憶されている価値を精算するための精算操作手段と、
遊技機が前記特別状態の期間中前記精算操作手段を不能動状態にする精算操作不能動化手段と、
を備えていることを特徴とする、遊技機。
(本件発明2)
【請求項2】遊技者所有の有価価値を使用して遊技が可能であり、複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置を有する遊技機であって、
前記可変表示装置を可変開始させた後表示結果を導出表示させる制御を行なう可変表示制御手段と、
前記可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様になった場合に遊技者に付与される遊技結果価値の加算更新が可能となる特別状態を開始させ、所定の条件が成立したことに基づいて前記特別状態を終了させる遊技制御手段と、
前記加算更新される遊技結果価値を累積的に記憶可能な価値記憶手段と、
該価値記憶手段に記憶されている価値を精算するための精算操作手段と、
前記可変表示装置が可変表示している期間中および遊技機が前記特別状態となっている期間中の両期間中、前記精算操作手段を不能動状態にする精算操作不能動化手段と、
を備えていることを特徴とする、遊技機。

2.無効理由1,3についての判断
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(以下甲号各証につき「甲1」などと略記する。)には、以下のア?ケの記載が図示とともにある。
ア.「この発明は、スロットマシン、アレンジゲーム機等に代表される遊技機であって、磁気カード等でできた遊技用カードを用いて遊技が可能な遊技機に関するものである。」(2頁左下欄2?5行)
イ.「第1図を参照して、パチスロ10の正面には前面板12が備えられており、前面板12の上側中央部には表示枠が形成されている。表示枠14内には3つの絵柄表示部18a,18b,18cと、遊技状態表示部20とが備えられている。絵柄表示部18a,18b,18cの後方側、すなわち装置内部には、それぞれ、回転リール22a,22b,22cが設けられている。回転リール22a,22b,22cは、その回転軸が紙面に平行になるように配置された所定の厚みを有する円形リール(円形ドラム)で、その周面には、所定の間隔で、文字または図柄が複数個描かれている。・・・表示枠14の右下隅には得点表示器23が設けられており、遊技によって獲得した得点等が表示される。」(3頁右上欄18行?右下欄7行)
ウ.「カード挿入口25から遊技用カードが挿入されると、内部の読取機構(図示せず)によって、遊技用カードに、たとえば磁気的に記憶された得点が読取られ、得点表示器23で表示される。そして該得点分の遊技が可能になる。」(3頁右下欄14?19行)
エ.「遊技選択ボタン28a,28b,28cからの信号に基づいて、1回のゲームの遊技単位が決まり、遊技単位数が多いほど有効化される表示組合わせが増え、得点獲得確立が高くなるようにされている。」(4頁左上欄19行?右上欄3行)
オ.「参照番号30は精算ボタンである。精算ボタン30が押されると、遊技は終了し、それまでに獲得された、得点表示器23に表示されている得点が遊技用カードに書込まれて、遊技用カードはカード挿入口25から排出される。これによって、遊技者は、カード挿入口25へ遊技用カードを挿入する前に遊技用カードに記憶されていた得点以上の得点を得ることもできるし、遊技で得点が十分に獲得できなかったときは、排出された遊技用カードの得点は減少していることになる。」(4頁右上欄8?17行)
カ.「絵柄検出手段84の出力に基づいて、絵柄組合せ判定手段86は、表示された絵柄が予め定める組合せか否かの判別をし、得点算出手段88はそれに基づいた得点を算出する。」(4頁右下欄12?15行)
キ.「第3図を参照して、カード読取書込装置94は遊技カードに記憶された得点を読取り、また遊技カードの得点を書換えるためのものである。カード読取書込装置94は、カード読取書込装置制御回路96によって制御される。この制御回路96は、マイクロコンピュータ98によって制御がされる。カード読取書込装置94によって読取られた得点および遊技で獲得された得点に関するデータは、マイクロコンピュータ98から得点表示回路99へ与えられ、得点表示器23で表示される。精算ボタン30のオン信号はマイクロコンピュータ98へ与えられ、・・・マイクロコンピュータ98は、これら各スイッチやセンサからの入力信号に基づいて、所定の制御動作を行なう。」(5頁左上欄6行?右上欄10行)
ク.「第5A図において、制御がスタートすると、マイクロコンピュータ98は遊技用カード投入後、遊技選択ボタン28a,28b,28cのいずれかが押されるのを待つ。」(6頁2?5行)
ケ.「始動ボタン24のオンに応じて、マイクロコンピュータ98からドライバ90へ信号が与えられ、・・・マイクロコンピュータ98は、回転リール22a,22b,22cの回転が停止したときの表示絵柄の組合せを検出し、判別する。表示絵柄が、ボーナス絵柄の並びである場合はボーナスチャイム音を発生し、ボーナス絵柄並びでない場合はボーナスチャイム音を発生することなく入賞判定を行なう。予め定める絵柄が並んだときは入賞であり、マイクロコンピュータ98は入賞に応じた得点を算出し、得点表示器23で表示する。さらに、ボーナス入賞の場合は、ボーナスゲームの回数を決定する。ここに、ボーナスゲームとは、遊技30回中に予め定められた絵柄の組合せ、たとえば「7」「西瓜マーク」または「BAR」のいずれかが表示線に沿って揃ったときに与えられる遊技価値である。ボーナスゲームでは、・・・停止ボタン26aが押されると左リール22aが停止するが、このとき表示「ジャック」が中央にくるとボーナスゲーム入賞となり、得点がたとえば15点得られる。次に、中央の停止ボタン26bが能動化され、停止ボタン26bのオンにより中リール22bが停止されて、「ジャック」表示か否かが判別されて、得点の算出が行なわれる。右リール22cについても同様である。」(6頁右上欄15行?右下欄12行)

(2)甲1記載の発明の認定
記載ア?ケを含む甲1の全記載及び図示によれば、甲1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「カード挿入口から遊技用カードを挿入することにより遊技可能なパチスロであって、
カード読取書込装置及び得点表示器を備え、
前記得点表示器には、前記遊技用カードが挿入された際に同カードに記憶された得点を表示し、
前記精算ボタンが押されると、遊技を終了し、それまでに獲得された得点表示器に表示されている得点を前記遊技用カードに書込み、同カードをカード挿入口から排出するように構成されており、
始動ボタンのオンに応じて、周面に所定の間隔で文字または図柄が複数個描かれた3つの回転リールを回転停止し、停止時の表示絵柄により入賞判定を行い、停止時の表示絵柄がボーナス絵柄の並びである場合は遊技30回を限度としたボーナスゲームを行うように制御されるパチスロ。」(以下「甲1発明」という。)

(3)本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定
甲1発明の「遊技用カード」はカード挿入時に同カードに記憶された得点を表示し、記載オによれば、遊技終了時に排出されるのだから、同カードに記憶された得点は本件発明1の「遊技者所有の有価価値」に相当する。また、甲1発明の「周面に所定の間隔で文字または図柄が複数個描かれた3つの回転リール」は本件発明1の「複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置」に相当し、「パチスロ」(甲1発明)は「遊技機」(本件発明1)である。
請求人は無効理由1において、甲1発明の「入賞」が「遊技結果価値の加算更新が可能」な状態であり、得点表示器に表示することが、同状態終了条件であると主張、要するに甲1発明の「入賞」が本件発明1の「特別状態」に相当する旨主張している。しかし、甲1発明の「入賞」は、遊技結果価値の加算更新を必ず実行する状態であり、これを「加算更新が可能」と称するのは不自然である。加えて、得点表示器には直ちに表示すると解するのが自然であるから、直ちに表示することが「所定の条件が成立」に相当すると解することも困難である。さらに、「特別状態の期間中前記精算操作手段を不能動状態にする」との文言からすれば、その期間は「精算操作手段を不能動状態にする」ことの技術的意義がある程度の長さが必要と解されるところ、入賞から得点表示器へ表示するまでを「特別状態の期間」に相当すると見ることもできない。以上の理由により、請求人の上記主張を採用することはできない。
他方、本件明細書には「得点(遊技結果価値)の加算が可能となる可変表示装置の表示結果の種類を増やし得点(遊技結果価値)が加算されやすい状態での遊技が可能となる所謂ボーナスゲームの状態にしたりして、特別状態を開始させていた。」(特許公報3欄20?24行)との記載があり、甲1発明の「ボーナスゲーム」は、甲1の記載ケによれば「得点(遊技結果価値)が加算されやすい状態での遊技が可能」なゲームであるといえる。そして、「加算更新が可能」とは、得点を減ずるよりも増やすことが相当程度見込めるという意味に解することができるから、甲1発明の「ボーナスゲーム」が本件発明1の「前記可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様になった場合に遊技者に付与される遊技結果価値の加算更新が可能となる特別状態」に相当する。なお、この解釈は無効理由3における請求人の主張に合致する。甲1発明において特別遊技終了条件は「遊技30回」であり、これは本件発明1でいう「所定の条件が成立」に該当する。本件発明1の「遊技制御手段」が甲1発明にも備わっていることは自明である。
甲1発明においては、精算ボタンが押されると、それまでに獲得された得点表示器に表示されている得点を遊技用カードに書込むだから、得点表示器に表示されている得点は入賞(それに伴う得点が本件発明1の「遊技結果価値」に相当)に伴い加算されると解さねばならず、それゆえ「加算更新される遊技結果価値を累積的に記憶可能な価値記憶手段」は甲1発明に備わっている。
そして、甲1発明の「精算ボタン」は本件発明1の「該価値記憶手段に記憶されている価値を精算するための精算操作手段」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、
「遊技者所有の有価価値を使用して遊技が可能であり、複数種類の識別情報を可変表示可能な可変表示装置を有する遊技機であって、
前記可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様になった場合に遊技者に付与される遊技結果価値の加算更新が可能となる特別状態を開始させ、所定の条件が成立したことに基づいて前記特別状態を終了させる遊技制御手段と、
前記加算更新される遊技結果価値を累積的に記憶可能な価値記憶手段と、
該価値記憶手段に記憶されている価値を精算するための精算操作手段と、
を備えている遊技機。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉本件発明1が「遊技機が前記特別状態の期間中前記精算操作手段を不能動状態にする精算操作不能動化手段」を備えるのに対し、甲1発明が同手段を備えるとはいえない点。

(4)相違点の判断及び本件発明1の進歩性の判断
甲2には、以下のコ?スの各記載がある。
コ.「コイン遊技機は、1回のゲームに要する所定数(以下所要数)のコインの投入に応じて、一定数または一定時間の間だけパチンコ玉(以下玉と略称する。)を打球して遊技するものである。・・・遊技者によって打込まれた玉が玉受口の組合せによって得点を与えて得点に応じた景品(たとえばコイン)を払出すものである。」(2頁右上欄2?12行)
サ.「遊技者によっては、コインの投入と同時に誤って精算ボタンを押圧する場合がある。・・・従来の遊技制御回路は、コインの投入に応じて一旦遊技可能状態に作動した後、1回のゲーム終了前に精算ボタンが押圧されると、その時点でゲーム終了となるように回路構成されていた。このため、従来のコイン遊技機は、遊技者がコイン投入から1回のゲームを終了する前に誤って精算ボタンを押圧すると、ゲームの途中で終了となり、遊技者が極めて不利益をこうむるという問題点があった。」(2頁右上欄17行?左下欄11行)
シ.「所定の遊技状態でない期間中には精算ボタンの操作を不能動化するようにした」(2頁右下欄2?4行)
ス.「精算ボタン6が押圧されると、・・・それまでに計数されている得点に基づいて、・・・得点に応じた数のコインを払出制御する。」(7頁右上欄12?19行)
との各記載がある。

甲2記載の遊技機は甲1発明の「パチスロ」ではないし、甲1発明のように遊技用カードを使用する遊技機でもない。しかし、甲2記載の「精算ボタン」は、それが操作(押圧)されるとゲーム終了になる点、及びそれまでに計数されている得点に基づく精算を行う点において甲1発明のそれと共通する。
ところで、甲1発明では「精算ボタンが押されると、遊技を終了」するものの、ボーナスゲーム中に精算ボタンが押された場合に、ボーナスゲームを終了することまでが、甲1に直接記載されているわけではない。しかし、ボーナスゲームを終了しないとすれば、遊技用カードを排出することは不自然である。加えて、本件明細書の「遊技者が遊技を終了したい場合には、精算ボタンなどからなる精算操作手段を操作することにより今まで獲得した得点(遊技結果価値)が精算されるよう構成されていた。」(特許公報3欄24?27行)との記載は、甲1発明にも当てはまるものであり、本件明細書には続けて「この種従来の遊技機においては、常に精算操作手段を能動化させていたため、前記特別状態の期間中に誤まって精算操作手段が操作されてしまった場合、遊技状態を初期状態に戻す構成になっている遊技機」(3欄29?32行)との記載があることを考慮すれば、甲1に接した当業者であれば、甲1発明においてボーナスゲーム中に精算ボタンが押された場合に、ボーナスゲームが終了すると理解すると認めることができる。
さらに、甲1の記載クにあるように、甲1発明では「遊技用カード投入後、遊技選択ボタン28a,28b,28cのいずれかが押されるのを待つ」のであるが、ボーナスゲームであれば、各リールにおいて「表示「ジャック」が中央にくるとボーナスゲーム入賞」(記載ケ)となり、「遊技選択ボタン28a,28b,28cのいずれかが押されるのを待つ」意味がない(記載エにより、遊技選択ボタン28a,28b,28cは、有効化される表示組合わせを定めるために設けられている。)のだから、遊技用カード挿入直後はボーナスゲームの状態ではないと解するのが相当である。精算ボタンが押された場合には遊技用カードを排出する以上、再度遊技を行うには遊技用カードを再度挿入しなければならないところ、遊技用カード挿入直後はボーナスゲームではないのだから、この点からみても、精算ボタンが押された場合にボーナスゲームを終了すると解すべきである。
そして、甲1発明においては、ボーナスゲームは遊技者に有利な状態であり、同状態中に遊技を終了することは通常はあり得ないと考えるべきであり、同状態中に精算ボタンが押されるのは、多くの場合誤操作であると当業者は理解する。もちろん、誤操作であっても、それが遊技者に不利益を与えないのであれば、必ずしも同操作を不能動化する必要はないであろうが、前示のとおり、誤操作によりボーナスゲームを終了することは、明らかに遊技者に不利益を与えることに通ずる。仮に、甲1発明において、精算ボタンが押された場合にボーナスゲームを終了しないと解する余地があるとしても、遊技用カードを再度挿入することは面倒であるから、不利益の度合いは、ボーナスゲームを終了する場合に比して小さいものの、不利益であることには変わりがないから、上記及び以下の判断には影響しない。
そうであれば、「遊技者が極めて不利益をこうむるという問題点」(甲2の記載サ)を解消するために手段である「所定の遊技状態でない期間中には精算ボタンの操作を不能動化」(甲2の記載シ)を、その「所定の遊技状態」をボーナスゲーム中(特別状態)とした上で甲1発明に採用すること、すなわち相違点に係る本件発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
被請求人は「甲第1号証のスロットマシンと甲第2号証のアレンジゲーム機とは共に「精算」という言葉を用いているが、その目的や要求される機能は、スロットマシンにおいては「スロットマシン側に預けている遊技者の獲得得点の返還」という意味があり、アレンジゲーム機においては「1ゲーム中における不必要となったゲームの続行の打切り」という意味合いを有するものである。よって、このような「精算」の意味合いの相違を考慮した場合には、アレンジゲーム機の精算が開示されている甲第2号証は、そもそも先行技術としての証拠の適格性に欠けるものである。」(答弁書8頁14?21行)などと主張しているので検討する。甲1,甲2の精算目的・機能に被請求人が主張する相違があるとしても、両者は精算ボタンの押圧によりゲームを終了する点で共通(ただし、甲2の場合は1ゲームの終了である。)しており、ゲームを終了するという意図をもって甲1,甲2の精算ボタンは押圧されることが予定されており、誤操作によるゲーム終了が遊技者に不利益をもたらす点で共通する以上、甲2記載の技術を甲1発明に適用することには十分な動機があるといわなければならない。したがって、被請求人が主張する精算目的・機能の相違は、上記判断を覆す理由にはならない。
以上のとおりであるから、本件発明1は甲1発明及び甲2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1の特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許である。

(5)本件発明2の進歩性について
本件発明1と本件発明2を比較すると、本件発明2は本件発明1に「前記可変表示装置を可変開始させた後表示結果を導出表示させる制御を行なう可変表示制御手段」を追加するとともに、「特別状態の期間中」だけでなく「前記可変表示装置が可変表示している期間中」をも、精算操作手段を不能動状態にする期間としたものである。
そこで検討するに、「前記可変表示装置を可変開始させた後表示結果を導出表示させる制御を行なう可変表示制御手段」が甲1発明に備わっていることは明らかである(リールの回転開始が「可変表示装置を可変開始」に当たり、停止時の表示絵柄が「表示結果」に当たる。)から、「前記可変表示装置が可変表示している期間中、前記精算操作手段を不能動状態にする」ことが新たな相違点となる。
そこでこの相違点について検討するに、甲1発明では、精算ボタンを操作するとゲームを終了するのであるが、可変表示装置が可変表示している期間中(リールの回転中)とは、遊技者が遊技の実行している状態であり、同状態において、遊技者が意図的にゲームを終了するとはおよそ考えられない。ゲーム終了と切り離して純粋に精算処理だけを考えても、可変表示の結果次第で持点は加算されるのだから、結果が未確定の状態で精算処理を意図的に実行するとは考えられない。すなわち、可変表示装置が可変表示している期間中にされた精算ボタン操作は、誤操作と解すべきであり、誤操作によりゲームを終了すれば、遊技者に不利益なことは明らかである。そうである以上、前項で述べたと同様の理由により、上記新たな相違点に係る補正発明2の構成を採用することも当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明2は甲1発明及び甲2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2の特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許である。

3.無効理由2についての判断
請求人は、甲3の「コインボックス3には、さらに精算ボタン12とスタートボタン13とが設けられている。精算ボタン12は、遊技の終了を遊技者が指示するためのボタンであり、このボタン12が押されることにより、弾球遊技機1はその動作を停止し、遊技者の獲得得点に応じたコインを払出す。」(3頁左下欄11?16行)との記載における「精算ボタン12」が本件発明1,2の「精算操作手段」に、「次に、CPU61はフィーバ状態になったか否かを判別する(ステップS23)。フィーバ状態とは、始動入賞孔102a,102b,102cにパチンコ球が入賞し、スロットドラム16a、ディジタル表示部16bを含む可変表示装置16が可変表示可能となり、かつその可変表示装置16の表示内容に応じて可変入賞球装置104の入賞状態が変化可能になった状態である。このような状態になったときには、CPU61は、遊技制御設定用のデータ入力装置13から入力されているデータにもとづいて、可変表示装置16および可変入賞球装置104を制御する(ステップS24)。」(8頁右下欄10行?9頁左上欄2行)との記載における「フィーバ状態」が本件発明1,2の「特別状態」にそれぞれ相当する旨主張している。上記主張については、被請求人も格別争っておらず、当審も上記主張に誤りはないと認める。
そして、請求人は、第8A図及び第8B図のフローチャートにおいて、フィーバ状態の処理(ステップS24)を行い、その後球を供給(ステップS29)した後、精算か否かの判断(ステップS31)をしていることを根拠に、「精算ボタン12」が押されてもステップ31に至るまでは精算手段が不能動化されていると主張する。まず、この主張は、「精算ボタン12」が本件発明1,2の「精算操作手段」に相当するのだとすると、「精算操作手段を不能動状態にする」とは、精算手段が不能動化するのではなく、「精算ボタン12」の操作の受付禁止でなければならない点で誤りである。精算手段が不能動化されていても、「精算ボタン12」の操作の受付までが不能動化されているとはいえないからである。
次に、甲3の第8B図によれば、フィーバ制御(ステップS24)に引き続いて、「球はあるか」の判断(ステップS25)がされ、NOの場合に球を供給する処理(ステップS29)がされている。フィーバ制御がループ巡回プログラムかどうかについて甲3に直接記載はないけれども、ループ巡回プログラムであるとすると、フィーバ制御中に球が供給されないことになり不自然である。さらに、「CPU61は、入賞球があるか否かを判別する(ステップS18)。これは、入賞領域101a?104に関連して設けられた入賞球検出センサ65の出力があるか否かによって判別される。」(8頁左下欄8?12行)との記載における「入賞領域104」は「可変入賞球装置104」であるから、ステップS18の処理はフィーバ中においても実行されると解釈しなければならず、ステップS24の「フィーバ制御」とは、個々の遊技における「可変表示装置16および可変入賞球装置104を制御」のみを意味し、フィーバ中の遊技は繰り返し実行されると解するのが技術常識にかなうから、フィーバ中であっても、精算処理は実行されると解すべきである。
請求人は、「フィーバ制御の処理中に敢えて精算処理を能動化させる必要はないし、誤作動によってフィーバ中に精算処理が行われた場合には遊技者に著しい不利益となることは当然であるから、フィーバまでの間に精算処理が行われないようにすることは、当業者が容易に想起し得ることである。」(審判請求書33頁10?14行)とも主張している。この主張は、「フィーバ制御の処理中」と「フィーバ中」を混同した主張であり、「フィーバ制御の処理中」及び「フィーバまでの間」を「フィーバ中」の趣旨に善解するとすれば、一理ある主張である。しかし、無効理由3は、甲3の記載のみから、フィーバ中の精算処理を不能動化することが読み取れる、又は容易に想起であるとの主張であって、既に述べたように精算処理の不能動化と精算操作手段の不能動化は異なるばかりか、遊技者の不利益を解消することを目的とするのならば、精算処理の不能動化以外に、警告を発することも考えられるのであるから、甲3の記載のみから、フィーバ中の精算処理を不能動化することの容易想到性を是認することはできない。
もちろん、甲3記載の発明に甲2記載の技術を適用すれば、本件発明1,2の進歩性を否定することは可能かもしれないが、無効理由2はそのような主張ではない。
以上のとおりであるから、無効理由2によって、請求項1,2の特許を無効にすることはできない。

第4 むすび
以上によれば、請求項1,2の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされた特許であるから、無効理由3により無効とされるべきである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-10 
結審通知日 2007-10-15 
審決日 2007-10-31 
出願番号 特願昭63-135022
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 中槙 利明
土屋 保光
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2649171号(P2649171)
発明の名称 遊技機  
代理人 根本 恵司  
代理人 森田 俊雄  
代理人 塚本 豊  
代理人 深見 久郎  
代理人 中田 雅彦  
代理人 杉山 猛  
代理人 青木 俊明  

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