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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成12行ケ404審決取消請求事件 判例 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1169918
審判番号 不服2005-6940  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-18 
確定日 2007-12-26 
事件の表示 平成 5年特許願第511918号「血液損失を減少する方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 7月 8日国際公開、WO93/12813、平成 7年 3月23日国内公表、特表平 7-502734〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続・経緯

本願は、平成4年12月28日(優先権主張1991年12月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成17年5月18日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】 因子XIIIを含む、手術を受ける患者における術中血液損失の減少のための医薬組成物。但し、当該組成物は、フィブリノーゲンを含まない。」

2.原査定の拒絶理由

これらの発明に対する原査定の拒絶の理由は、「この出願は、明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」というものであって、次の点を具体的に指摘している。
「本技術分野においては、各種生理活性を奏するメカニズムが完全には解明されているものではなく、未だ実際に試験等を通して確認が必要な事項が多々存する分野である。したがって、単にある生理活性が定性的に示されかつその試験・測定方法が示されているだけでは、当業者に対して当該生理活性があると理解・認識されるものではなく、該生理活性に係る十分な客観的データが伴って、初めて当該生理活性が奏されるものと理解・認識されるものである。
しかるに、本願明細書には術中血液損失減少に関する客観的裏付けデータが示されておらず、単に試験・測定方法とともに定性的に活性を奏する旨記載されているだけである。したがって、かかる明細書の記載に触れた当業者が、本願発明に係る生理活性に関し真に奏されるものと理解・認識するものとすることはできない。
すなわち、換言するならば、本願明細書の記載では、本願発明に係る組成物が術中血液損失減少という生理活性を示すと、当業者が理解・認識しうるには不十分であり、この点で、本願明細書の記載は当業者が容易に実施できように記載されているものとすることができず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものとすることはできない。

3.当審の判断

特許法第36条第4項の規定によれば、明細書には、その技術文献としての性格上、当業者が容易に発明の実施をすることができる程度にその発明の目的、構成及び効果を具体的に記載することとされている。本願のような医薬用途に係る発明におけるその医薬用途自体は発明の構成に該当するとともに、また効果そのものでもあるが、一般的にいって、有効成分の物質名や化学構造だけからその医薬用途を正確に予測することは困難であり、明細書に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当業者が当該有効成分が実際にその医薬用途を有するか否かを直ちに知ることができない。したがって、明細書にその有効成分についての医薬用途を裏付ける薬理データまたはそれと同視すべき程度の記載をしてその医薬用途を十分に開示する必要があり、それがなされていない発明の詳細な説明の記載は、その構成及び効果に関する記載に不備があり、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないものであるといわなければならない。

これを本願の明細書についてみると、本願発明は、請求項1の記載からみて、有効成分として因子XIIIを含むが、フィブリノーゲンを含まない組成物であって、手術を受ける患者における術中血液損失の減少を図るという用途のための医薬組成物であるから、本願明細書の発明の詳細な説明において、有効成分である因子XIIIが、手術を受ける患者における術中血液損失の減少をもたらすことが、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載で裏付けられていることが必要である。

そこで、この点について検討する。

本願明細書には、因子XIIIに関して以下の記載がある。

(a)
「本発明の範囲内で因子XIIIが、手術を受ける患者において術中血液損失の減少のための医薬組成物の製造に対して用いられる。
本発明はまた、手術を受ける患者において術中血液損失を減少する方法を提供し、この方法において生物学的に適合性ビヒクル中に有効量の因子XIIIを患者に投与する。一つの態様において、因子XIIIを患者に注射薬として、典型的には手術前、1日以内に投与する。他の態様において、因子XIIIを患者の体重1kg当たり0.1-1.0mg、好ましくは0.15-0.4 kg(当審注:mgの誤記)の用量で投与する。他の態様において、アプロチニンも又患者に投与される。
本発明のこれらおよび他の面は次の詳細な記載を参照して明らかになるであろう。」(第2ページ第9?19行)

(b)
「本発明の範囲内において、有効量の因子XIIIを生物学的に適合性ビヒクルと組合わせそして患者に投与する。適当なビヒクルには、滅菌した、非-発熱性水性希釈液、例えば注射用滅菌水、滅菌緩衝溶液又は滅菌食塩水が含まれる。得られた組成物は静脈注入により又は輸液により術前および/又は術中に患者に投与される。好ましい態様において、因子XIII組成物は、術前1週までにしかし好ましくは術前1日以内に注射薬として投与される。」(第3ページ第7-13行)

(c)
「因子XIII(また、「フィブリノリガーゼ(fibrinoligase)」として知られる〔ローランド等、Prog.Hemost.Thromb. 5 : 245-290, 1980〕および「フィブリン安定化因子」としても知られる〔クルチウスおよびローランド、Methods Enzymol. 45: 177-191, 1976〕)は、活性化されるとき、フィブリン分子の側鎖間および他の基質間の分子内γ-グルタミル-ε-リジン架橋結合を形成するその能力によって特徴づけられる。酵素が2個のaサブユニットおよび2個のbサブユニット(a_(2)b_(2)と称す)の四量体酵素前駆体としてプラスマ中に存在する。これらの酵素前駆体形のいずれも本発明において使用でき、並びにその特徴的架橋結合活性を保持する因子XIIIの遺伝子工学で作成された変異体も使用できる。」(第3ページ第14-24行)

(d)
「本発明において、因子XIIIの「有効量」は、術中および術後、血液の損失を少なくとも15%だけ減少させるのに十分な量として定義される。・・・因子XIIIの有効量は、一般に患者の体重1kg当たり約0.1?1.0mgの範囲内であり、すなわち70kgの患者に対し約10mg?約70mgの用量である。患者の体重1kg当たり約0.15mg?約0.4mgの範囲内の用量は、実際に好ましい。投与される因子XIIIの実際の量は、手術の性質および予じめ存在する因子XIIIレベルを含めた患者の全体的状態の如き因子に一部は依存するであろう。術中の過剰の血液損失の場合には、追加の因子XIIIが投与できる。
本発明の一つの態様において、因子XIIIはアプロチニンと組合せて投与される。アプロチニン(例えば、トラシロール(Trasylol)、バイエル社、レーベルキュセン、ドイツ)は、術前および術中そしてオキシゲネータ-(oxygenator)を介し静脈内注入を含めた、当業者に公知の方法に従って投与される。・・・を参照のこと。」(第3ページ第25行-第4ページ20行)

(e)
「本発明において使用するための因子XIIIは、フックおよびホールブルック(Biochem.J. 141 : 79-84, 1974)およびクルーティスおよびローランド、Methods Enzymol. 45: 177-191, 1976)(これらは引用してその内容が本発明に加入される)によって開示された如き、公知の方法に従ってプラスマから調製できる。・・・しかし疾患伝達の危険性を有する血液-又は組織-誘導製品の使用を避けるため組換え体因子XIIIを使用することが好ましい。
組換え体因子XIIIの製造方法は、業界公知である。例えばダビ等、ヨーロッパ特許268,772およびブルンドマン等、オーストラリア公開69896/96(これらは引用してその内容が本発明に加えられる)を参照のこと。好ましい態様において、因子XIIIa_(2)ダイマーは同時米国特許出願07/741,263およびPCT出願US92/06629(これらは引用してその内容が本発明に加えられる)に記載される如く、酵母菌サツカロマイセス セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)中て細胞質的に調製される。・・・・
当業者に明らかなように、免疫応答を誘発する危険性を減少させるため患者と同-遺伝子型の因子XIII蛋白質を用いることが好ましい。非-ヒト因子XIIIの製造および特徴は、中村等(J.Biochem. 78 : 247-1266, 1975)により開示された。本発明は獣医学の手順においてそのような因子XIII蛋白質の使用を包含する。」(第4ページ第21行-第5ページ25行)

(f)
「例1
正常な血液凝固因子を有する20匹の成長雄家兎を、各々10匹からなる2群に分ける。実験群に、25mMのグリシン、0.25mMのEDTAおよび5%スクロース、pH7.4中の10mg/mlの組換え体因子XIIIa_(2)ダイマー10mg(ブラスマ因子XIIIレベルを3?5倍の正常まで上昇させるのに十分)の静脈内注射薬を投与する。対照群にビヒクルのみの同等の注射薬を投与する。次いで動物を麻酔し次いでそれらの腹を外科的に開く。膵臓を開放しそして予備釈量したガーゼ三角布上に置く。4回の標準化した裂傷を毎動物の膵臓において行いそして次の観察を行う:
1.出血時間、可視的に推定
2.血液損失、乾燥および損傷後15分後の湿ガーゼ重量間の差異として推定。」(第6ページ第5-17行)

(g)
例2
「心肺のバイパスにより心臓手術を受ける予定の70kgの成人男性患者を、25mgの合計用量に対し、25mMのグリシン、0.25mMのEDTA、5%のスクロース、pH7,4中の4mlの因子XIIIの静脈内注射により処理する。患者を、短時間作用バルビツレートを用い引き続きハロタンおよびパンクロニウム(pancuronium)で維持する標準法により麻酔する。ヘパリンを投与し次いで大動脈および静脈カニユーレを挿入後、バイパスを設けそして手術を行う。バイパスを除去後、残留ヘパリン化をブロタミンスルフエートの投与により変える。心膜および縦膜ドレーンを、胸骨切開の閉鎖前に挿入し、次いで吸引を適用する。ドレナージ量を監視する。ドレーン内およびスワブ上の血液損失、およびヘモグロビンの降下を治療の有効性決定のため測定する。」(第6ページ第18行-第7ページ第3行)

(h)
例3
「心肺のバイパスにより心臓手術を受ける予定の70kgの成人男性患者を、例2における如く因子XIIIを用いて処理する。患者を、標準法により麻酔する。ヘパリンを投与し次いで大動脈および静脈カニューレを挿入後、バイパスをプライミング(priming)容量のアプロチニン(トランロール(Trasylol)、バイエル)の2×10^(6)KIUと共に設け次いで手術を行う。バイパスを除去後、残留ヘパリン化をプロタミンスルフェートの投与により変える。心膜および縦膜ドレーンを、胸骨切開の閉鎖前に挿入し、次いで吸引を適用する。ドレナージ量を監視する。」(第7ページ第4-13行)

(a)(b)(d)には、手術を受ける患者の術中血液損失を減少する方法において適合性ビヒクル中と組み合わせて因子XIIIを患者に投与すること、注射薬としての投与時期及び投与量、アプロチニンと組合せて投与することについての記載がなされているが、その投与時期や投与量が如何にして決定されたのかについては何ら記載されていない。
(c)は、因子XIII自体の基質間における分子内架橋結合活性能力について(e)には因子XIIIの製法について記載がされているが、いずれも従来の知見に基づく解説であって、術中における血液損失減少作用について裏付ける記載はない。
また、(f)には、成長雄家兎を用いて因子XIIIの出血時間、血液損失等を評価する方法、(g)及び(h)には心臓手術を受ける成人男性患者の手術時のドレナージ量により因子XIIIの有効性を評価する方法が記載されている。しかし、これらは実験乃至評価手法の開示に留まり、これらの手法により実際にどれだけ血液損失が減少したかについて具体的な結果は示されていない。
そして、本願明細書全体を精査してみても、本願明細書の発明の詳細な説明には、因子XIIIが手術を受ける患者における術中血液損失を減少させるという作用効果を有することを裏付ける薬理データの記載は見あたらず、これと同視することのできる記載もない。

この点につき、請求人は以下の資料を提出し、
「・・陳述書において、Dr. Rojkjaerは、上記ヨーロッパ特許庁に提出されたDr. Woernerの意見書に記載されたウサギの術中出血モデルに関する実験(注1)及びDr. Godjeらの実験(注2)と、本願発明の方法との相違は、出願時の当業者が本願発明を実施するにあたって、影響を与えるものではなく、当業者は上記実験結果を簡単に本願発明に対応させることができると陳述している。なぜなら、出願時において、第XIII因子はすでに利用可能であり、且つ止血に関与すると考えられており(添付書類4及び5)、その説明書により患者への投与の実施は十分に可能であり、さらにGodjeらの研究において第XIII因子が術後に投与されたことから、これらの文献が本願出願後に公表されたものであるとしても、当業者が本願明細書の記載に基づいて第XIII因子を術前又は術中に投与することは出願時の技術常識に属すると考えられ、ウサギの術中出血モデルにおける第XIII因子の再出血阻害効果(注2)もあわせて、本願発明を実施し、そして第XIII因子の術中血液損失の減少という生理活性による効果を得ることが本願出願時においても十分に可能であったことが間接的に証明されていると考えられるからである。したがって、薬理データと等価であり、これと同視し得る内容を含む上記2つの研究結果を考慮することにより、本願明細書の記載は、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明を容易に実施しうるように記載されているといえる。」と主張している。

添付書類1;DECLARATION OF RASMUS ROJKJAER(Dr. Rasmus Rojkjaerによる陳述書)
添付書類2 上記添付書類1の翻訳文
添付書類3 CURRICULUM VITAE(Dr. Rojkjaerの履歴書(証拠書類1))
添付書類4 Board et al, Blood Reviews 1993 Dec; 7(4):229-42(証拠書類2)
添付書類5 Tosetto et al. Haematologica, 1993 Nov-Dec;78(6 Suppl 2):5-10
(注1) 平成16年2月24日付けの意見書の提示した添付資料1
2002年8月8日付けの前臨床試験報告(参考資料A)を含むヨーロッパ特許庁に提出されたDr. Woernerの意見書
(注2) 平成16年2月24日付けの意見書の添付資料3
Thorac. Cardiovasc. Surg., 1998, 46, 263-267

しかしながら、(注1)の資料は、2002年に行われた実験成績証明書であり、そこにはウサギの耳の全層切開に先立って投与した因子XIIIが、切開後出血が止まった後、血栓溶解剤投与による再出血を遅らせたことが示されているにすぎないし、(注2)の資料は、1998年の刊行物であって、心臓外科手術の後の因子XIII投与が手術後の血液損失を減少させることを示すものである。
このように、(注1)(注2)の資料は、因子XIIIが術中の血液損失の減少をもたらすことを直接的にも間接的にも証明するものではない上、何れも本出願の優先日後に得られた知見であるから、この点からも本願明細書に記載された技術的事項を理解する上で当業界における技術常識として参照することのできるものではない。
因子XIIIがフィブリン安定化因子として止血に関与していること自体は本出願の優先日当時よく知られている。しかしながら、血液凝固や凝血塊の溶解の機構には因子XIIIのみならず多くの因子が関与していること、本願発明では、特にフィブリノーゲン(因子XIIIが作用する対象であるフィブリンの前駆体)を含まない条件で当該因子のみが使用されることを考慮するならば、何ら具体的な裏付けが示されていない本願明細書の記載から、因子XIIIが直ちに手術を受ける患者における術中の血液損失の減少をもたらすことを当業者が容易に実施しうるものとして理解し得たとすることはできない。したがって、上記請求人の主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、因子XIIIが、手術を受ける患者における術中血液損失の減少という効果をもたらすことが、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載によって裏付けられておらず、当業者が請求項1に係る発明を容易に実施をすることができる程度にその目的、構成、効果が記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-24 
結審通知日 2007-07-31 
審決日 2007-08-16 
出願番号 特願平5-511918
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 円香胡田 尚則  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 谷口 博
瀬下 浩一
発明の名称 血液損失を減少する方法および組成物  
代理人 吉田 維夫  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  

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