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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1169957
審判番号 不服2004-16265  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-05 
確定日 2007-12-27 
事件の表示 平成7年特許願第190992号「無機金属水酸化物-粘土鉱物の被覆粉体及び該被覆粉体を配合した化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成9年1月21日出願公開、特開平9-20609〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成7年7月5日の出願であって、平成16年2月25日付け拒絶理由通知に対して平成16年4月30日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成16年6月30日付けで拒絶査定がなされ、平成16年8月5日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年9月3日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成16年9月3日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年9月3日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.特許法第17条の2第4項に規定する要件について
平成16年9月3日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含んでおり、補正前の請求項1につき、発明特定事項である粘土鉱物及び無機金属酸化物を限定し、新たな請求項1?4に分けたことにより、補正前の請求項1?7が、補正後は請求項1?10となって、請求項数が増加したものであり、その結果、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係にないものとなった。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものには該当せず、また、請求項の削除、誤記の訂正、及び明瞭でない記載の釈明のいずれの事項を目的としたものにも該当しない(東京高判平16.4.14平15(行ケ)230を参照)。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

2.特許法第17条の2第3項に規定する要件について
本件補正は、補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項「無機金属水酸化物」を、補正後の請求項1?4において「無機金属水酸化物(但し、金属水和酸化物を除く。)」に変更する補正を含むものである。
しかしながら、一般的に「金属水酸化物」には、金属の水酸化物だけではなく、その水和物や、金属酸化物の水和物(即ち「金属水和酸化物」)も含まれると当業者には認識されていたところ(例えば、化学大辞典編集委員会編「化学大辞典5」, 昭和36年4月15日発行, 共立出版株式会社, 第36頁, 「水酸化物」の項を参照)、「無機金属水酸化物」を「金属水和酸化物」を除いたものとすることは、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「本願当初明細書」という。)に記載されていた事項ではなく、本願当初明細書の記載から自明な事項でもない。
即ち、本願当初明細書においては、「無機金属水酸化物」は、特に「金属水和酸化物」を除くなどの限定が付されていないものとして一貫して記載されており、実施例1?4として記載されている被覆粉体についても、最終的に粘土鉱物の表面が如何なる物質によって被覆されたものであるのか明記されていないため、これら実施例の被覆粉体が金属水和酸化物以外の無機金属水酸化物によって被覆されたものであると認めることもできない。
よって、本件補正は、本願当初明細書に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正(新規事項を含む補正)であるから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成16年4月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「粘土鉱物の表面を被覆した無機金属水酸化物の被覆構造が下記(A),(B),又は(C)である被覆粉体を配合する事を特徴とする化粧料。
(A)粘土鉱物の表面を被覆している無機金属水酸化物の被覆構造が超微粒子(平均粒子径50?250Å)で形成された膜上にハニカム様の構造を形成している複合体。
(B)粘土鉱物の表面を被覆している無機金属水酸化物の被覆構造が超微粒子膜(平均粒子径50?250Å)で形成されている複合体。
(C)粘土鉱物の表面を被覆している無機金属水酸化物の被覆構造が平均粒子経50?250Åの超微粒子で形成された膜とその膜上にハニカム様構造が混在した構造を有する複合体。」 (以下、「本願発明」という。)

2.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、
(1)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
(2)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、
(3)本願明細書に記載された実施例の被覆粉体は、如何なる構造を有するのか何ら測定がされておらず、技術的な担保がなされていないうえ、如何なる条件であれば、本願発明に係る被覆粉体が得られるのか明確でないため、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、
というものである。



1.特開昭62-16408号公報
2.特公昭61-56258号公報
3.特開昭59-36160号公報
4.特開昭63-277281号公報

3.各刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の事項(1A)?(1E)が記載されている。
(1A)「マイカ粒子の全表面が5?30nmの厚さで、金属酸化物又は金属水酸化物の1種又は2種以上で均一に被覆した、該被覆マイカを配合したことを特徴とする化粧料」(特許請求の範囲第1項)
(1B)「本発明の化粧料の用途も任意であり、ファンデーション、口紅、アイシャドウ、マスカラ等のメーキャブ化粧料や乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料に用いることができる。」(第2頁右下欄第1?5行)
(1C)「(発明の効果)
本発明の化粧料は使用塗布時に筋むらがなく、隠蔽力のある自然な仕上がり効果を持ったものである。」(第8頁右上欄第9?12行)
(1D)「製造例5 水酸化チタン被覆マイカ
マイカ40gを精製水700mlに分散させ、該分散液を1l入り4口フラスコに入れ、これに1モルの塩酸水溶液を添加してpHを5に調製し、プロペラ攪拌した。攪拌しながら1モルの四塩化チタン水溶液26.5mlと4モルの水酸化ナトリウム水溶液を毎分2mlの速度で添加した。添加後4時間熟成させ水洗濾過し80℃で2日間乾燥した。乾燥後粉砕して水酸化チタンで被覆されたマイカ42gを得た。得られた水酸化チタン被覆マイカは粒子表面が微細な水酸化チタンの粒子によって均一に被覆された構造を形成していることがSEM-EDXで確認された。更に水酸化チタンの被覆厚さは8nmであった。」(第3頁右下欄第7?20行)
(1E)「実施例3 アイシャドウ
(1)タルク 9.5%
(2)カオリン 11.0%
(3)群青 7.0%
(4)製造例5の水酸化チタン被覆マイカ 46.3%
(5)製造例4の二酸化チタンと黄色酸化鉄被覆マイカ 10.0%
(6)製造例6の水酸化チタンと黒色酸化鉄被覆マイカ 8.0%
(7)スクワラン 5.0%
(8)イソプロピルミリステート 2.0%
(9)ソルビタンセスキオレート 1.0%
(10)防腐剤 0.2%
(11)香料 適量」
(第5頁左下欄第9行?同頁右下欄第3行)

(2)刊行物2の記載事項
刊行物2には、以下の事項(2A)?(2E)が記載されている。
(2A)「1 タルク粒子の全表面が金属水和酸化物及び(又は)金属酸化物のみからなる組成物で均一かつ完全に被覆されてなる被覆タルク及び該被覆タルクの焼成物。
…………
5 タルクと水との分散液を煮沸し、次いで液に水溶性加水分解性金属化合物を混合し、タルク粒子の全表面に金属水和酸化物及び(又は)金属酸化物のみからなる組成物の沈殿を生ぜしめ、そして被覆タルクを取得し、場合により次いで焼成することを特徴とするタルク粒子の全表面が金属水和酸化物及び(又は)金属酸化物のみからなる組成物で均一かつ完全に被覆されてなる被覆タルク及び該被覆タルクの焼成物の製法。」(特許請求の範囲第1項、第5項)
(2B)「タルクは代表的な体質顔料であり、…………化粧品の分野でも体質顔料として広く用いられている。」(第2頁第3欄第13?18行)
(2C)「実施例15
原料タルク(平均粒径5.0μm)300部を0.5N濃度の硫酸水溶液3000部に添加し、撹拌しながら加熱して、10時間煮沸した。放冷後、煮沸したタルク分散液1000部を取り、これに濃度40重量%の硫酸チタニル水溶液70部を加えて、撹拌しながら加熱し、6時間沸とうさせた。放冷後、濾過、水洗し、80℃で乾燥して、水和チタン酸化物で被覆されたタルクの白色顔料110部を得た。」(第6頁第12欄第23?31行)
(2D)「実施例16?23
タルク(平均粒径7.0μm)を原料として、下記第3表に示すとおり、酸水溶液の種類と濃度、煮沸時間、タルクの使用量、水溶性加水分解性金属化合物の種類、加水分解時のpHと温度を変えたほかは、実施例15と同様にして金属水和酸化物等で被覆されたタルク顔料を得た。」(第6頁第12欄第第41行?第7頁第14欄第1行)
(2E)「

」(第7頁第3?7行)

(3)刊行物3の記載事項
刊行物3には、以下の事項(3A)?(3E)が記載されている。
(3A)「タルクを有機溶媒含有水溶液に分散させた液に1種又は2種以上の水溶性加水分解性金属化合物を混合し、タルク粒子の表面に金属水和酸化物の沈殿を生ぜしめ被覆してなる、粒子の表面を1種又は2種以上の金属水和酸化物で被覆したタルク」(特許請求の範囲第1項)
(3B)「タルクは代表的な体質顔料であり、…………医薬品及び化粧品の分野でも体質顔料として広く用いられている。」(第2頁左上欄第11?16行)
(3C)「実施例1
メタノールの40容量%水溶液100部に原料のタルク(平均粒子径5.0μm)20部を加えて充分に撹拌し均一に分散させた。得られた分散液に濃度40重量%の硫酸チタニル水溶液28部を加えて、撹拌しながら加熱し6時間沸とうさせた。放冷後、濾過、水洗し100℃で乾燥して、水和チタン酸化物で被覆されたタルク顔料24部を得た。」(第4頁右下欄第12?20行)
(3D)「実施例2?8
タルク(平均粒子径3.0μm)を原料として、下記表2に示すとおり、水溶性有機溶媒の種類、その水溶液濃度、タルク使用量、加水分解性金属化合物の種類、加水分解時のpHと濃度を変えたほかは、実施例1と同様にして金属水和酸化物で被覆されたタルク顔料を得た。」(第5頁左上欄第17行?同頁右上欄第4行)
(3E)「第2表
実施例 2
有機溶媒 ET
酸濃度(容量%) 20
タルク(部) 10
金属化合物(重量%) 5%の塩化アルミニウム
pH 9(NaOH)
温度 室温
被覆物 水和アルミニウム
(注) ET:エタノール」(第5頁下欄)

(4)刊行物4の記載事項
刊行物4には、以下の事項(4A)?(4C)が記載されている。
(4A)「(1)鱗片状無機粉体の粒子表面が酸化チタン水和物によって被覆されており、更にその表面が酸化アルミニウム水和物によって被覆されていることを特徴とする被覆顔料。
………
(3)鱗片状無機粉体が、雲母、セリサイト、タルク、カオリンである、特許請求の範囲第(1)項記載の被覆顔料。」(特許請求の範囲第1項、第3項)
(4B)「本発明の被覆顔料は、鱗片状粉体の表面にある被覆層が微粒子によって構成されているため皮膚への付着力に優れ、また、全体として鱗片状であるので、皮膚上でなめらかな伸びを示す、これらの特長は、化粧料に配合したときそのまま発揮される。」(第4頁左上欄第11?16行)
(4C)「実施例2
硫酸チタニル(TiO_(2)として40g)、硫酸アルミニウム(Al_(2)O_(3)として20g)、尿素100gを溶解させた水10l中に、平均粒径70μmのセリサイト1.0kgを分散させた後、撹拌下に加温し、60分で100℃とし、5時間加熱を続けた。ついで濾過、水洗、120℃で4時間乾燥して酸化チタン水和物-酸化アルミニウム水和物被覆セリサイト1.01kgを得た。」(第7頁右上欄第8?16行)

4.当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)について
ア.刊行物1に記載された発明について
(i)刊行物1に記載された発明
上記摘記事項(1A)?(1E)によれば、刊行物1には、
「マイカ粒子の全表面を5?30nmの厚さで無機金属水酸化物で均一に被覆した被覆マイカを配合したことを特徴とする化粧料」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(ii)本願発明と引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを比較する。
引用発明1におけるマイカは粘土鉱物であることが明らかであり、本願明細書においても、粘土鉱物としてマイカを用いた本願発明の実施例(実施例1、6、8、10)が記載されていることから、本願発明と引用発明1は、
「粘土鉱物の表面を無機金属水酸化物で被覆した被覆粉体を配合する事を特徴とする化粧料。」
である点で一致し、以下の点で一応相違している。
<相違点> 本願発明は、無機金属水酸化物の被覆構造が、(A)超微粒子(平均粒子径50?250Å)で形成された膜上にハニカム様の構造を形成している複合体、(B)超微粒子膜(平均粒子径50?250Å)で形成されている複合体、又は(C)平均粒子経50?250Åの超微粒子で形成された膜とその膜上にハニカム様構造が混在した構造を有する複合体、に特定されているのに対し、引用発明1は、無機金属水酸化物の被覆構造を明示していない点。

(iii)相違点についての判断
本願発明における被覆粉体の製造方法のうち、本願明細書に記載の実施例2の製造方法は、精製水中で粘土鉱物と無機金属の塩化物とを水酸化ナトリウムを添加してアルカリ性とした条件下で混合撹拌する工程を経ることによって無機金属水酸化物で表面が被覆された粘土鉱物を得るものである点で、刊行物1の製造例5に記載の被覆粉体の製造方法と共通しており(摘記事項(1D)を参照)、本願発明と引用発明1は、その被覆粉体の製造方法が類似している。そして、製造方法が類似していれば、製造される被覆粉体の被覆構造も類似していると考えるのが自然であるから、刊行物1に記載の被覆粉体の被覆構造は、本願発明における上記(A)、(B)又は(C)の条件の何れかを満たすものであると推定される。
この点につき、審判請求人は審判請求書において、
「甲第1号証(実験結果報告書)の写真1?6と、実験成績証明書(平成16年4月30日付け提出の意見書に添付すると共に平成16年5月6日に物件提出書で提出)における本願明細書の実施例に記載の被覆粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)による写真とを比較すれば、引用例1の被覆マイカは本願請求項で特定する被覆構造を有していないと考えられる。」
と主張している。
しかしながら、審判請求人は、刊行物1の製造例5の記載に従って製造したとされる被覆粉体(水酸化チタン被覆マイカ)の写真(甲第1号証の写真4?6)と、本願明細書に記載された実施例1?4の被覆粉体の写真(平成16年4月30日付け意見書に添付された実験成績証明書の図1?6)について、どのような点をどのように比較すれば、どのように両者の被覆構造が異なるといえるのか、何ら具体的な説明を行っておらず、実際に両者の写真を見比べても、本願明細書に記載の実施例1?4の被覆粉体が、本願発明における上記(A)、(B)又は(C)の何れかの条件を満たすものであるとも、刊行物1の製造例5の記載に従って製造したとされる被覆粉体が当該条件の何れをも満たさないものであるとも、判別することができないため、審判請求人の上記主張は、受け入れることができない。

(iv)小括
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

イ.刊行物2?4に記載された発明について
(i)刊行物2?4に記載された発明
上記摘記事項(2A)?(2E)によれば、刊行物2には、
「タルク粒子の全表面が金属水和酸化物で均一かつ完全に被覆された被覆タルクを配合した化粧料」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されており、上記摘記事項(3A)?(3E)によれば、刊行物3には、
「タルク粒子の表面に金属水和酸化物の沈殿を生ぜしめ被覆してなる、粒子の表面を1種又は2種以上の金属水和酸化物で被覆したタルクを配合した化粧料」
の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されており、上記摘記事項(4A)?(4C)によれば、刊行物4には、
「鱗片状無機粉体(雲母、セリサイト、タルク、カオリン)の粒子表面が酸化チタン水和物によって被覆されており、更にその表面が酸化アルミニウム水和物によって被覆された被覆顔料を配合した化粧料」
の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

(ii)本願発明と引用発明2?4との対比
引用発明2?3におけるタルク、及び引用発明4における鱗片状無機粉体(雲母、セリサイト、タルク、カオリン)は、いずれも粘土鉱物であることが明らかであり、先に「第2.平成16年9月3日付け手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]において指摘したように、「金属水酸化物」には、金属の水酸化物だけでなく、金属酸化物の水和物(金属水和酸化物)も含まれるので、引用発明2?3における「金属水和酸化物」、並びに引用発明4における「酸化チタン水和物」及び「酸化アルミニウム水和物」は、いずれも「無機金属水酸化物」に該当するから、本願発明と引用発明2?4とは、
「粘土鉱物の表面を無機金属水酸化物で被覆した被覆粉体を配合する事を特徴とする化粧料。」
である点で一致し、以下の点で一応相違している。
<相違点> 本願発明は、無機金属水酸化物の被覆構造が、(A)超微粒子(平均粒子径50?250Å)で形成された膜上にハニカム様の構造を形成している複合体、(B)超微粒子膜(平均粒子径50?250Å)で形成されている複合体、又は(C)平均粒子経50?250Åの超微粒子で形成された膜とその膜上にハニカム様構造が混在した構造を有する複合体、に特定されているのに対し、引用発明2?4は、無機金属水酸化物の被覆構造を明示していない点。

(iii)相違点についての判断
本願発明における被覆粉体の製造方法のうち、本願明細書に記載の実施例1及び3の製造方法は、水溶液中で粘土鉱物と無機金属塩とを100℃付近の温度で加熱する工程を経ることによって、無機金属水酸化物で表面が被覆された粘土鉱物を得るものである点で、刊行物2の実施例15?16に記載の被覆粉体の製造方法、刊行物3の実施例1?2に記載の被覆粉体の製造方法、及び刊行物4の実施例2に記載の被覆粉体の製造方法と共通しており(摘記事項(2C)?(2D)、(3C)?(3E)、(4C)を参照)、本願発明と引用発明2?4は、その被覆粉体の製造方法が類似している。そして、製造方法が類似していれば、製造される被覆粉体の被覆構造も類似していると考えるのが自然であるから、刊行物2?4に記載の被覆粉体の被覆構造は、本願発明における上記(A)、(B)又は(C)の条件の何れかを満たすものであると推定される。
この点につき、審判請求人は審判請求書において、
「甲第1号証の写真7?12と、前記実験成績証明書における本願明細書の実施例に記載の被覆粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)による写真とを比較すれば、引用例2の被覆粉体は本願請求項で特定する被覆構造を有していないと考えられる。」
と主張している。
しかしながら、審判請求人は、刊行物2の実施例16の記載に従って製造したとされる被覆粉体(水和アルミニウム被覆タルク)の写真(甲第1号証の写真10?12)と、本願明細書に記載された実施例1?4の被覆粉体の写真(平成16年4月30日付け意見書に添付された実験成績証明書の図1?6)について、どのような点をどのように比較すれば、どのように両者の被覆構造が異なるといえるのか、何ら具体的な説明を行っておらず、実際に両者の写真を見比べても、本願明細書に記載の実施例1?4の被覆粉体が、本願発明における上記(A)、(B)又は(C)の何れかの条件を満たすものであるとも、刊行物2の実施例16の記載に従って製造したとされる被覆粉体が当該条件の何れをも満たさないものであるとも、判別することができないため、審判請求人の上記主張は、受け入れることができない。
なお、審判請求人は、刊行物3?4に記載された被覆粉体の被覆構造が、本願発明における上記(A)、(B)又は(C)の何れの条件も満たさないことについて、それを証明するような写真等の客観的な証拠を何ら提示しておらず、具体的な主張も行っていない。

(iv)小括
したがって、本願発明は、刊行物2?4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(2)特許法第36条第4項に規定する要件(実施可能要件)について
(i)実施例1?4の被覆粉体の実施可能要件について
本願発明の化粧料を構成する被覆粉体は、その被覆構造が請求項1に記載の(A)、(B)又は(C)の条件を満たすとされており、平成16年4月30日付け手続補正後の本願明細書には、当該被覆構造及びその作用機序について、以下の一般的な説明が記載されている。
「本発明の被覆粉体は、粘土鉱物の表面が無機金属水酸化物により被覆された複合体であるが、その被覆状態は、製造条件や粘土鉱物の微細な表面形態の相違や表面活性度等の違いから超微粒子で形成された膜上に、ハニカム様構造を形成した被覆層又は平均粒子径50?250Åの超微粒子の被覆層やその被覆層とハニカム様構造が混在する形態をとりうる。これらの被覆状態(被覆構造)は通状の粒状、球状、針状、紡錘状の粒子が単に被覆したとは全く異なるものである。」(【0019】)
「次いで作用機序について考察してみるならば、………。本発明は、基質の表面に低屈折率の無機金属水酸化物を特定の厚さに調整した被覆層を形成させ、その被覆層の内部構造は入射した光が、強い内部散乱効果を呈し光が消失しやすい超微粒子膜上に形成されたハニカム様構造や超微粒子膜とハニカム様構造が混在した構造等をとっている。つまり、光の反射散乱のメカニズムとしては、………、本発明は被覆層内での光の内部拡散、消失効果によるものである。本発明の被覆粉体が優れた透明感を有し、肌の形態トラブル修正効果と肌の色調トラブル修正効果を有する理由として、その第1は、低屈折率を有する無機金属水酸化物をある特定の厚さの被覆層にすることにより、被覆層の透明性を保持しながら、光の表面反射を極力抑えている。第2には、入射した光が層内で内部散乱しやすく、更には光が減衰しやすい特殊構造をしている。第3に被覆層内の光の散乱方向がアットランダムのため、被覆層が透明性を有していても皮膚表面がぼけてみえる。つまり、肌の形態トラブルや肌の色調トラブルが見えにくくなると推測している。」(【0026】)
しかしながら、本願発明における被覆粉体の具体例として本願明細書に記載されている、それぞれ特定の製造方法により粘土鉱物を無機金属水酸化物で被覆して得られた実施例1?4の被覆粉体は、いずれも具体的に如何なる被覆構造を有するものであるのか確認できるような分析や測定等を行った結果が本願明細書に全く記載されていないため、上記請求項1に記載の(A)、(B)又は(C)の条件を満たすものであるとは認められず、これら実施例1?4に記載された製造方法によって本願発明における被覆粉体が得られると認めることはできない。
この点について、審判請求人は、平成16年4月30日付け意見書において、同意見書に添付して提出した平成16年4月6日付け実験成績証明書の記載に基づいて、実施例1の被覆粉体(A)は、請求項1に記載の(A)の条件を満たす被覆構造を有し、実施例2の被覆粉体(B)は、請求項1に記載の(B)の条件を満たす被覆構造を有し、実施例3の被覆粉体(C)は、請求項1に記載の(C)の条件を満たす被覆構造を有し、実施例4の被覆粉体(D)は、請求項1に記載の(B)の条件を満たす被覆構造を有している旨を主張しているが、以下のとおり、上記実験成績証明書の記載を参照しても、上記実施例1及び3の被覆粉体が、それぞれ本願請求項1に記載の(A)及び(C)の条件を満たすものであると認めることはできない。
即ち、上記実験成績証明書の「4-1.本件明細書実施例1の粉体の粉体の構造」には、「また、この写真(図2)において、この板形上のものの表面上には白いものが表れているが、この白いものが、マイカの表面上に形成された水酸化アルミニウムの膜上に形成されたハニカム様の構造の水酸化アルミニウムである。」という説明が記載されているが、図2の写真からは、上記「白いもの」がハニカム様の構造であると確認することができず、当該「白いもの」が何故ハニカム様の構造であると認識できるのか理解することもできない。
さらに、上記実験成績証明書の「4-3.本件明細書実施例3の粉体の粉体の構造」には、「この写真(図4)において、最下に帯状のものが表れているが、これがタルクである。また、この帯状のもの(タルク)の上の部分(表免)に黒い層状ものが表れているが、これがタルクの表面に形成された水酸化アルミニウムの膜である。更に、この黒い層状のもの(膜)の上にブロック状物があり、その周囲に黒いものが表れているが、この周囲にある黒いものがハニカム様構造の水酸化アルミニウムである。」という説明が記載されているが、図4の写真のどの部分が「ブロック状物」であるのか不明であり、どこにハニカム様構造があるのか確認することができず、当該「ブロック状物」の周囲の「黒いもの」が何故ハニカム様の構造であると認識できるのか理解することもできない。

(ii)実施例以外の被覆粉体の実施可能要件について
上述したとおり、本願明細書に記載された実施例1及び3の被覆粉体は、本願請求項1に記載の(A)又は(C)の条件を満たすものであるとは認められないが、仮に、上記実施例1及び3の被覆粉体が、それぞれ上記条件(A)及び(C)を満たすものであったとしても、それらは特定の粘土鉱物(マイカ又はタルク)に特定の無機金属化合物(Al_(2)(SO_(4))_(3)・13?18H_(2)O)を特定の条件下で反応させて得られたものであり、本願明細書中には、上記(A)又は(C)の条件を満たす被覆構造を有する被覆粉体を得るための一般的な製造方法が明確かつ十分に記載されていないため、特に無機金属がアルミニウム以外である無機金属水酸化物で表面を被覆された粘土鉱物については、どのような無機金属化合物を用い、如何なる条件下で反応を行えば、上記(A)又は(C)の条件を満たす被覆構造を有する被覆粉体を製造することができるのか、本願明細書全体の記載を見ても理解することができない。

(iii)小活
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認めることはできないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第4.結語
以上のとおりであるから、本願は、請求項1以外の請求項に係る発明について検討するまでもなく、また、原査定の拒絶の理由2について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-23 
結審通知日 2007-10-30 
審決日 2007-11-13 
出願番号 特願平7-190992
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 572- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 美穂  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 井上 典之
弘實 謙二
発明の名称 無機金属水酸化物-粘土鉱物の被覆粉体及び該被覆粉体を配合した化粧料  
代理人 加藤 朝道  

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