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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1170113
審判番号 不服2004-24573  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-01 
確定日 2008-01-04 
事件の表示 特願2000- 8129「パチンコ機」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月23日出願公開、特開2000-140299〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成7年7月19日に出願された特願平7-183049号の一部を特許法44条1項の規定により新たな特許出願とした特願平9-244366号の一部を同項の規定により新たな特許出願とした特願平11-221701号の一部をさらに同項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成16年10月26日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年12月1日付けで本件審判請求がされるとともに、同月20日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年12月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
本件補正は特許請求の範囲を補正するものであり、次の補正事項を含んでいる。
補正事項1:「変動後に大当たり表示された場合に」を「変動後に、大当たり決定用の第一カウンタが所定の第一数値を記憶したことに起因して大当たり表示された場合に」と補正する。
補正事項2:「大当たり状態が終了した後に、前記カウンタにカウントアップする所定の数値を設定して変動表示回数とするとともに、前記変動短縮状態を生起させ、該変動短縮状態中に前記特別図柄が一回変動表示する毎にカウントし、カウントアップするまで前記変動短縮状態を存続させる一方」を「大当たり状態が終了した後に、前記第二カウンタに所定の第二数値を設定して変動表示回数とするとともに、前記変動短縮状態を生起させ、該変動短縮状態中に前記特別図柄が一回変動表示する毎に前記第二カウンタの第二数値を減算カウントし、前記第二カウンタの数値が0となるまで前記変動短縮状態を存続させる一方」と補正する。

2.補正目的
補正事項1は、大当たり表示の原因を「大当たり決定用の第一カウンタが所定の第一数値を記憶した」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(平成18年改正前特許法17条の2第4項2号該当)を目的とするものと認める。そのため、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)については、同発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかの判断を行う。
しかし、補正事項2については、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることはできない。なぜなら、補正前の記載によれば、特別図柄が変動表示すれば、カウント値はアップしなければならない(設定した所定の数値に達するまで変動短縮状態を存続させる。)のに対し、補正後の記載によれば、特別図柄が変動表示すればカウント値がダウンするからである。補正事項2が、請求項削除(平成18年改正前特許法17条の2第4項1号)、誤記の訂正(同項3号)又は明りようでない記載の釈明(同項4号)に該当しないことも明らかである。
すなわち、補正事項2を含む本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反している。

3.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数の特別図柄を表示可能な特別図柄表示部と、複数の普通図柄を表示可能な普通図柄表示部と、普通電動役物とを有し、遊技球が所定の領域を通過あるいは所定の入賞口に入賞することにより普通図柄表示部に表示された普通図柄が変動を開始し、変動後に当たり表示された場合に、普通電動役物が遊技者にとって有利となるように作動する一方、遊技球が普通電動役物に入賞することにより特別図柄表示部に表示された特別図柄が変動を開始し、変動後に、大当たり決定用の第一カウンタが所定の第一数値を記憶したことに起因して大当たり表示された場合に、遊技者にとって有利な大当たり状態が生起するとともに、前記普通図柄の変動開始から停止までの時間が短縮された変動短縮状態を生起させるパチンコ機において、
前記変動短縮状態中の特別図柄の変動表示回数をカウントする第二カウンタを設け、
大当たり状態が終了した後に、前記第二カウンタに所定の第二数値を設定して変動表示回数とするとともに、前記変動短縮状態を生起させ、該変動短縮状態中に前記特別図柄が一回変動表示する毎に前記第二カウンタの第二数値を減算カウントし、前記第二カウンタの数値が0となるまで前記変動短縮状態を存続させる一方、
その変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率を、前記第一カウンタが前記所定の第一数値を記憶する比率と前記減算カウントする第二カウンタの第二数値との積の値を特別図柄の変動表示の繰り返しに伴って減少させる態様で表示することを特徴とするパチンコ機。」

4.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-177045号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?ウの記載が図示とともにある。
ア.「遊技者が発射した打球が流下する遊技部内に、複数の図柄を可変表示可能な特別図柄表示装置と、該特別図柄表示装置の可変表示を開始するための条件を創出する始動手段と、上記特別図柄表示装置が可変表示を停止したときの表示図柄の組み合せ態様に基づく特定条件の成立により遊技者に不利な第1状態と遊技者に有利な第2状態とに変換可能は変動入賞装置と、該変動入賞装置の第2状態を維持するための条件を創出する継続手段を少なくとも配設し、上記各装置を制御する制御手段を有するパチンコ機において、
上記遊技部内に、複数の図柄を可変表示可能な普通図柄表示装置と、該普通図柄表示装置の可変表示を開始する表示開始手段とを配設し、
上記特別図柄表示装置の可変表示を開始するための条件を創出する始動手段を、上記普通図柄表示装置が可変表示を停止したときに表示する表示図柄に基づいて遊技者に不利な第1状態と遊技者に有利な第2状態とに変換可能な普通電動役物により構成し、
上記表示開始手段を、普通電動役物に臨ませた検出スイッチにより構成し、
特別図柄表示装置が表示する図柄の組み合せ態様が所定の態様となったとき、特別図柄表示装置及び普通図柄表示装置が可変表示を停止するのに要する変動時間を変更するようにしたことを特徴とするパチンコ機。」(【請求項1】)
イ.「S21-A-27では、停止している特別図柄左、中、右の全てが一致しているか否かを判定し、一致していない場合はS21-A-36へ進み、一致している場合はS21-A-28へ進んで、停止している特別図柄左、中、右が「777」か否かを判定し、一致している場合はS21-A-29へ進み、変動時間短縮フラグをセットし、「777」でない場合はS-A-30へ進み、変動時間短縮フラグをクリアする。そして、次のS21-A-31において、セットされているタイマ、カウンタをクリアして、S21-A-32において大役継続回数に「1」をセットし、次のS21-A-33で大役フラグをセットし、S21-A-34では大役スタートウエイトタイマに2秒をセットし、S21-A-35へ進み、S21-A-35において大入賞口開口タイマに29.5秒をセットし、S21-9へ進む。」(段落【0048】)
ウ.「遊技者が発射した打球が始動口ゲート11を通過すると、普通図柄表示装置6が可変表示を開始し、所定時間経過後に可視表示する図柄が当りの場合には、普通電動役物5の羽根部材22が開放する。この普通電動役物5は、特別図柄表示装置3の始動手段として機能し、普通電動役物5に設けた特別図柄スイッチに打球が作用すると、特別図柄表示装置3が可変表示を開始し、所定時間経過後に可視表示する図柄の組み合せ態様が所定の組み合せの場合には、大入賞口を開放し、更に図柄の組み合せが特定の図柄、例えば「777」のときには、普通図柄表示装置6及び特別図柄表示装置3が表示する図柄の変動時間を短縮するので、図柄の組み合せからみた大当りになる確率は変化していないのであるが、単位時間当りにみた大当りになる確率が向上する。従って、大当りが短時間に集中して発生することも可能であって、大当りが連続して発生する期待感を高め、興趣に富んだパチンコ遊技が可能となる。」(段落【0091】)

5.引用例1記載の発明の認定
記載イの「変動時間短縮フラグ」がセットされている状態において、記載アの「変動時間を変更」が行われることは明らかであり、「変動時間を変更」とは「変動時間を短縮」の趣旨である。
記載イの「大役」が記載アの変動入賞装置の「遊技者に有利な第2状態」に当たり、記載ウによれば「特別図柄左、中、右の全てが一致している」場合に「遊技者に有利な第2状態」となり、その中でも「特別図柄左、中、右が「777」」の場合に「変動時間短縮フラグ」がセットされ、「777」以外で「特別図柄左、中、右の全てが一致している」場合に「変動時間短縮フラグ」がクリアされる。すなわち、「変動時間を変更」は、特別図柄が「777」で停止した場合に開始され、「777」以外のぞろ目で停止した場合に終了する。
したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「遊技者が発射した打球が流下する遊技部内に、複数の図柄を可変表示可能な特別図柄表示装置と、該特別図柄表示装置の可変表示を開始するための条件を創出する始動手段と、上記特別図柄表示装置が可変表示を停止したときの表示図柄の組み合せ態様に基づく特定条件の成立により遊技者に不利な第1状態と遊技者に有利な第2状態とに変換可能は変動入賞装置と、該変動入賞装置の第2状態を維持するための条件を創出する継続手段を少なくとも配設し、上記各装置を制御する制御手段を有するパチンコ機において、
上記遊技部内に、複数の図柄を可変表示可能な普通図柄表示装置と、該普通図柄表示装置の可変表示を開始する表示開始手段とを配設し、
上記特別図柄表示装置の可変表示を開始するための条件を創出する始動手段を、上記普通図柄表示装置が可変表示を停止したときに表示する表示図柄に基づいて遊技者に不利な第1状態と遊技者に有利な第2状態とに変換可能な普通電動役物により構成し、
上記表示開始手段を、普通電動役物に臨ませた検出スイッチにより構成し、
特別図柄表示装置が表示する図柄の組み合せ態様が、前記特定条件の成立を満たす組み合せ態様のうちの所定の態様となったとき、特別図柄表示装置及び普通図柄表示装置が可変表示を停止するのに要する変動時間を短縮するようにし、前記特定条件の成立を満たす組み合せ態様のうちの所定の態様以外となったとき、特別図柄表示装置及び普通図柄表示装置が可変表示を停止するのに要する変動時間を短縮しないように構成したパチンコ機。」(以下「引用発明」という。)

6.補正発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
引用発明の「複数の図柄を可変表示可能な特別図柄表示装置」及び「複数の図柄を可変表示可能な普通図柄表示装置」は、補正発明の「複数の特別図柄を表示可能な特別図柄表示部」及び「複数の普通図柄を表示可能な普通図柄表示部」にそれぞれ相当する。引用発明では「特別図柄表示装置の可変表示を開始するための条件を創出する始動手段を、上記普通図柄表示装置が可変表示を停止したときに表示する表示図柄に基づいて遊技者に不利な第1状態と遊技者に有利な第2状態とに変換可能な普通電動役物により構成」したのであるから、「遊技球が所定の領域を通過あるいは所定の入賞口に入賞することにより普通図柄表示部に表示された普通図柄が変動を開始し、変動後に当たり表示された場合に、普通電動役物が遊技者にとって有利となるように作動する一方、遊技球が普通電動役物に入賞することにより特別図柄表示部に表示された特別図柄が変動を開始し、変動後に大当たり表示(審決注;引用発明における「特定条件の成立を満たす組み合せ態様」がこれに相当)された場合に、遊技者にとって有利な大当たり状態が生起する」ことは補正発明と引用発明の一致点である。
また、引用発明の「変動時間を短縮」した状態は、補正発明の「普通図柄の変動開始から停止までの時間が短縮された変動短縮状態」に相当する。ただし、補正発明では「大当たり表示された場合に、・・・変動短縮状態を生起させる」のに対し、引用発明では大当たり表示のうちの所定の表示態様の場合のみ変動短縮状態を生起させる点は相違点となる。
したがって、補正発明と引用発明とは、
「複数の特別図柄を表示可能な特別図柄表示部と、複数の普通図柄を表示可能な普通図柄表示部と、普通電動役物とを有し、遊技球が所定の領域を通過あるいは所定の入賞口に入賞することにより普通図柄表示部に表示された普通図柄が変動を開始し、変動後に当たり表示された場合に、普通電動役物が遊技者にとって有利となるように作動する一方、遊技球が普通電動役物に入賞することにより特別図柄表示部に表示された特別図柄が変動を開始し、変動後に大当たり表示された場合に、遊技者にとって有利な大当たり状態が生起するとともに、
前記普通図柄の変動開始から停止までの時間が短縮された変動短縮状態を生起させることができるパチンコ機。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉特別図柄表示部の大当たり表示につき、補正発明が「大当たり決定用の第一カウンタが所定の第一数値を記憶したことに起因して」としているのに対し、引用発明にはかかる限定がない点。
〈相違点2〉変動短縮状態を生起させる条件につき、補正発明が「大当たり表示された場合に」としているのに対し、引用発明では大当たり表示のうちの所定の表示態様の場合のみ変動短縮状態を生起させる点。
〈相違点3〉補正発明が「前記変動短縮状態中の特別図柄の変動表示回数をカウントする第二カウンタを設け、大当たり状態が終了した後に、前記第二カウンタに所定の第二数値を設定して変動表示回数とするとともに、前記変動短縮状態を生起させ、該変動短縮状態中に前記特別図柄が一回変動表示する毎に前記第二カウンタの第二数値を減算カウントし、前記第二カウンタの数値が0となるまで前記変動短縮状態を存続させる」としているのに対し、引用発明では、「特定条件の成立を満たす組み合せ態様のうちの所定の態様以外となったとき、特別図柄表示装置及び普通図柄表示装置が可変表示を停止するのに要する変動時間を短縮しない」ようにしている点。
〈相違点4〉補正発明が「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率を、前記第一カウンタが前記所定の第一数値を記憶する比率と前記減算カウントする第二カウンタの第二数値との積の値を特別図柄の変動表示の繰り返しに伴って減少させる態様で表示する」との発明特定事項を有するのに対し、引用発明にはかかる発明特定事項が存在しない点。

7.相違点の判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1について
特別図柄の変動表示に当たり、大当りかどうかをカウンタの記憶値によって決定することは周知である。補正発明の「第一カウンタ」とはその意味でのカウンタにほかならず、「第一」との接頭辞は、別のカウンタ(第二カウンタ)と区別するために付されたにすぎないから、この接頭辞については、相違点1では検討する必要がない。
したがって、相違点1に係る補正発明の構成は、上記周知技術を採用した程度のものであり、同構成を採用することは設計事項である。

(2)相違点3について
便宜上、相違点2に先だって相違点3の検討を行う。
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭64-62180号公報(以下「引用刊行物2」という。)に、「前記可変表示装置が、前記特別表示状態の出現確率よりも高い確率で出現する特定表示状態を表示するように制御する特定表示状態表示制御手段」(1頁右下欄4?6行)及び「特定表示状態表示制御手段の作動を終了させる条件として、特定表示状態の出現回数によって規制されるものを示したが、これに限らず、たとえば、特定表示状態表示制御手段の作動が開始してから所定時間経過することによって作動終了としたり、あるいは可変表示装置が所定回数作動したことにより、更には、可変表示装置の表示態様が予め定められた表示態様となったときに、それぞれ作動終了とするようにしても良い。」(21頁右上欄2?11行)との各記載があるところ、「変動短縮状態」が引用刊行物2記載の「特定表示状態表示制御手段の作動」と同一とはいえないにせよ、図柄の可変表示に関しての通常とは異なる制御状態である(引用刊行物2のものは、いわゆる確率変動状態に該当する。)点、及び遊技者に有利な状態である点では一致している。そして、引用刊行物2記載の「可変表示装置が所定回数作動」の回数は補正発明の「変動表示回数」と異ならない。
さらに、本願出願の相当以前に頒布された特開平5-329254号公報に「上記実施例では、普通図柄の確率変動、及び短縮停止制御を特別遊技(大当り)発生時の停止図柄により変化させているが、これは、特別図柄を可変表示する所定回数の期間に限定してこの確率変動及び短縮停止制御を行うようにしてもよい。」(段落【0207】)と記載されているように、確率変動と短縮停止制御(変動短縮状態)は相反するものではなく、両立しうるものであり、上記文献にも「特別図柄を可変表示する所定回数の期間に限定」することが記載されているのだから、図柄の可変表示に関しての通常とは異なる制御状態(補正発明及び引用発明の「変動短縮状態」はこれに含まれる。)を特別図柄を可変表示する所定回数の期間に限定することは周知技術と認めることができる。
そうである以上、引用発明を出発点として、上記周知技術に従い、特別図柄が所定回数変動するまでを、変動短縮状態の期間とすることは設計事項というべきである。
また、引用発明では、大当たり状態が終了する前も変動短縮状態にあると解されるところ、大当たり状態はそれだけで遊技者に十分利益を与えているのだから、大当り状態中は変動短縮状態としない、すなわち、変動短縮状態開始時期を「大当たり状態が終了した後」とすることも設計事項である。
そして、特別図柄の最大変動回数(補正発明において、大当たり状態終了時に設定する「所定の第二数値」に相当)をカウンタに設定(その前提として、変動短縮状態中の特別図柄の変動表示回数をカウントするカウンタを設ける。)し、特別図柄が一回変動表示する毎に同カウンタの数値を減算カウントし、同カウンタの数値が0となるまで変動短縮状態を存続させることは、変動短縮状態を特別図柄の変動回数で管理するとした場合における、1つの自明な回数管理手法であるから、これも設計事項である。なお、補正発明における「第二」との接頭辞については、「第一」と区別するだけの意味しか有さないから、相違点3においては検討する必要がない。
以上のとおりであるから、相違点3に係る補正発明の構成を採用することは設計事項である。

(3)相違点2について
引用発明は、図柄の変動時間を短縮を短縮することにより、大当りが連続して発生する期待感を高め、興趣に富んだパチンコ遊技を提供することを目的としたものであり(記載ウ参照。)、変動短縮状態は遊技者に有利な状態とされている。
そして、変動短縮状態が多く発生するほど、興趣に富んだパチンコ遊技を提供することができるから、すべての大当り発生を変動短縮状態の生起条件とすることは、それを阻害する格別の事由がない限り設計事項というべきである。
もっとも、引用発明においては、「特定条件の成立を満たす組み合せ態様のうちの所定の態様以外となったとき、特別図柄表示装置及び普通図柄表示装置が可変表示を停止するのに要する変動時間を短縮しない」ようにしており(相違点3に係る構成)、すべての大当り発生を変動短縮状態の生起条件とすれば、変動短縮状態を終了する条件がなくなってしまうことになり、それは不都合であり、阻害要因となりうるものである。
しかし、変動短縮状態を終了する条件が他に存在すれば、上記の問題はなくなり、(2)で述べたとおり、相違点3に係る補正発明の構成を採用すれば、特別図柄の変動回数が変動短縮状態を終了する条件となるのだから、同構成の採用を前提とすれば、相違点2に係る補正発明の構成を採用することも設計事項といわなければならず、相違点2が存在することをもって、補正発明に進歩性があると認めることはできない。
すなわち、相違点2に係る補正発明の構成を採用することは、設計事項とまではいえないかもしれないが、当業者にとって想到容易である。

(4)相違点4について
引用刊行物2には、1回の変動表示における大当り確率を表示することが記載されており、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-329262号公報には短縮停止(ただし、普通図柄の短縮停止ではない。)の残り回数を表示することが記載されている(段落【0207】参照。)。このように、遊技に関連した種々のパラメータを表示することは周知であるから、引用発明においても遊技に関連した何らかのパラメータを表示することは設計事項である。そして、大当り確率、短縮停止の残り回数及び「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率」は、表示してもしなくても、遊技の進行そのものには関係しないパラメータである。遊技進行に関係しないパラメータとしてどのようなパラメータを表示すべきかは、専ら遊技進行ルールや遊技者の心理的側面を考慮して決定すべき事項である。特許法は「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」(2条1項)と定めており、表示すべきパラメータの選択が創作であるとしても、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないことは明らかである。そして、相違点の判断においては、発明の定義が上記のとおりである以上、相違点に係る補正発明の構成に至ることが、「自然法則を利用した技術的思想の創作」として、当業者にとって想到容易かどうかが問われることとなる。そうでないならば、例えば、「技術的思想の創作」といえない構成のみ相違する先行技術があった場合、その発明を全体としてみれば、先行技術と比較しての「技術的思想の創作」に該当しないからである。以上のことを本件に当てはめると、表示すべきパラメータの選択が新規であるものの、その選択自体には自然法則が関与しておらず、技術的思想の創作ともいえないのであるから、パラメータの選択が当業者にとって想到困難であることを理由として、補正発明に進歩性を認めることはできない。このことのみをもってしても、「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率を表示する」ことは当業者にとって想到容易といわなければならない。
そればかりか、「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率を表示する」ことには、以下に述べるように、十分合理的理由があり、技術的思想の創作かどうかを度外視しても、当業者にとって想到容易である。
パチンコ機においては、連続大当り(「連チャン」と称されることが多い。)に多大の関心が寄せられ、各種パチンコ機を調査解析した上で、雑誌を含む多くの攻略本に連チャン率や連チャン回数が報告されている。かかる事実によれば、連チャン率は多くの遊技者が関心を寄せるパラメータであると認めることができる。
他方、相違点3に係る補正発明の構成を採用した場合には、変動短縮状態は大当たり状態終了後であって、特別図柄変動回数が制限された状態であるから、同状態中の大当たりを連チャンと評価することができ、「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率」を連チャン率と評価することができる。そして、上記のとおり、連チャン率は多くの遊技者が関心を寄せるパラメータであるから、多くの遊技者は「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率」に関心を寄せると見るべきであり、多くの遊技者が関心を寄せるパラメータを表示対象に選択することに困難性があるとは到底認めることができない。「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率」を表示するに当たっての技術的困難性がない(1回の変動表示における大当り確率と変動短縮状態の残り変動回数から簡単に算出できる。)ことも明らかである。
また、遊技の進行、すなわち、特別図柄の変動表示の繰り返しに伴って、変動短縮状態中の残存特別図柄変動回数は減少する(相違点3に係る補正発明の構成を採用した場合)のだから、遊技進行時点において期待される「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率」も減少することは当然であり、「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率を、特別図柄の変動表示の繰り返しに伴って減少させる態様で表示する」ことは設計事項というべきである。
残る検討事項は「前記第一カウンタが前記所定の第一数値を記憶する比率と前記減算カウントする第二カウンタの第二数値との積の値」を表示することである。ここで、「前記第一カウンタが前記所定の第一数値を記憶する比率」は1回の変動表示における大当り確率(以下「p」と表記する。)であり、「第二カウンタの第二数値」は変動短縮状態中の残存変動回数(以下「n」と表記する。)であって、「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率」は「1-(1-p)^(n)」であり、pとnの積ではない(p^(-1)≫nであれば、近似的に等しいが。)。
この点請求人は、「「1回の大当たり抽選で“はずれ”となる確率の“変動回数乗”を“1”から差し引いた数値」というパラメータを変動短縮状態中に表示しても、遊技者は、どの程度当たり易いのかを瞬時に把握することができない。それゆえ、本件発明の発明者らは、「変動短縮状態中における大当たりの生起確率」としてどのようなパラメータを表示すれば遊技者が変動短縮状態における当たり易さを瞬時に判断できるようになるのかについて思案を重ね、その結果、「1回の大当たり抽選で“はずれ”となる確率の“変動回数乗”を“1”から差し引いた数値」というパラメータを敢えて「残りの変動短縮回数×大当たり確率」という不正確な(数学的には間違った)代替パラメータに置き換える、という発想に至ったのである。」(本件補正と同日付けで提出された審判請求書の手続補正書2頁35?43行)と主張しているが、表示されるのは単なる数値(又はこれをアナログ表示したもの)であるから、その数値が正しい算出式に基づいて算出された値であろうと、誤った算出式に基づいて算出された値であろうと、遊技者の理解度・把握度に相違があると認めることは到底できず、正しい数値を表示する方が望ましいことは明らかである。本願明細書には出願当初から一貫して「1回の変動で「大当たり状態」が生起する確率が1/235であるので、たとえば、変動短縮回数が60回である場合には、「変動短縮状態」中に「大当たり状態」が生起する確率として25.5%((1/235)*60)と表示される」(段落【0030】)と記載があることからすると、請求人が「変動短縮状態中における大当たりの生起確率」がpとnの積であると勘違いしていたと解すべきである(数学を得意としない者によく見られる誤りである。)。そして、勘違いであるかどうかに関係なく、誤った算出式に基づく数値を表示することに困難性があるなどとは到底認めることができない。
以上のとおりであるから、相違点4に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(5)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1?4に係る補正発明の構成を採用することは設計事項であるか又は当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。すなわち、本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
以上によれば、本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定及び同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年5月25日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数の特別図柄を表示可能な特別図柄表示部と、複数の普通図柄を表示可能な普通図柄表示部と、普通電動役物とを有し、遊技球が所定の領域を通過あるいは所定の入賞口に入賞することにより普通図柄表示部に表示された普通図柄が変動を開始し、
変動後に当たり表示された場合に、普通電動役物が遊技者にとって有利となるように作動する一方、遊技球が普通電動役物に入賞することにより特別図柄表示部に表示された特別図柄が変動を開始し、変動後に大当たり表示された場合に、遊技者にとって有利な大当たり状態が生起するとともに、前記普通図柄の変動開始から停止までの時間が短縮された変動短縮状態を生起させるパチンコ機において、
前記変動短縮状態中の特別図柄の変動表示回数をカウントするカウンタを設け、
大当たり状態が終了した後に、前記カウンタにカウントアップする所定の数値を設定して変動表示回数とするとともに、前記変動短縮状態を生起させ、該変動短縮状態中に前記特別図柄が一回変動表示する毎にカウントし、カウントアップするまで前記変動短縮状態を存続させる一方、
その変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率を表示することを特徴とするパチンコ機。」

2.本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
「第2[理由]6」で述べたことを踏まえると、本願発明と引用発明は、
「複数の特別図柄を表示可能な特別図柄表示部と、複数の普通図柄を表示可能な普通図柄表示部と、普通電動役物とを有し、遊技球が所定の領域を通過あるいは所定の入賞口に入賞することにより普通図柄表示部に表示された普通図柄が変動を開始し、変動後に当たり表示された場合に、普通電動役物が遊技者にとって有利となるように作動する一方、遊技球が普通電動役物に入賞することにより特別図柄表示部に表示された特別図柄が変動を開始し、変動後に大当たり表示された場合に、遊技者にとって有利な大当たり状態が生起するとともに、
前記普通図柄の変動開始から停止までの時間が短縮された変動短縮状態を生起させることができるパチンコ機。」である点(補正発明と引用発明の一致点に等しい。)で一致し、「第2[理由]6」で述べた相違点2(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)並びに次の相違点3’及び相違点4’で相違する。
〈相違点3’〉本願発明が「前記変動短縮状態中の特別図柄の変動表示回数をカウントするカウンタを設け、大当たり状態が終了した後に、前記カウンタにカウントアップする所定の数値を設定して変動表示回数とするとともに、前記変動短縮状態を生起させ、該変動短縮状態中に前記特別図柄が一回変動表示する毎にカウントし、カウントアップするまで前記変動短縮状態を存続させる」としているのに対し、引用発明では、「特定条件の成立を満たす組み合せ態様のうちの所定の態様以外となったとき、特別図柄表示装置及び普通図柄表示装置が可変表示を停止するのに要する変動時間を短縮しない」ようにしている点。
〈相違点4’〉本願発明が「その変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率を表示する」との発明特定事項を有するのに対し、引用発明にはかかる発明特定事項が存在しない点。

3.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
相違点2については「第2[理由]6(3)」で述べたとおりである(「補正発明」及び「相違点3」を、「本願発明」及び「相違点3’」などと適宜読み替える。)。
相違点3’については次のとおりである。引用発明を出発点として、特別図柄が所定回数変動するまでを変動短縮状態の期間とすること、及び変動短縮状態開始時期を「大当たり状態が終了した後」とすることは「第2[理由]6(2)」で述べたとおり設計事項である。変動短縮状態の期間を特別図柄変動回数で管理するために、「変動短縮状態中の特別図柄の変動表示回数をカウントするカウンタを設け」、同カウンタによって特別図柄が一回変動表示する毎にカウントし、大当たり状態が終了した後に設定した所定の数値にカウントアップするまで変動短縮状態を存続させることは設計事項である。
相違点4’については、「第2[理由]6(4)」で述べたうちの「・・・「変動短縮状態中に大当たり状態が生起する確率」を表示するに当たっての技術的困難性がない(1回の変動表示における大当り確率と変動短縮状態の残り変動回数から簡単に算出できる。)ことも明らかである。」までがそのまま当てはまり(これも適宜読み替える。)、当業者にとって想到容易である。
また、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-31 
結審通知日 2007-11-06 
審決日 2007-11-22 
出願番号 特願2000-8129(P2000-8129)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 572- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池谷 香次郎鉄 豊郎  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 ▲吉▼川 康史
中槙 利明
発明の名称 パチンコ機  
代理人 石田 喜樹  

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