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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C07F
審判 全部無効 2項進歩性  C07F
管理番号 1170260
審判番号 無効2005-80127  
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-04-22 
確定日 2008-01-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3532500号発明「船底塗料用防汚剤およびそれに用いる高純度銅ピリチオンの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3532500号に係る発明についての出願は、平成12年5月31日(優先権主張平成11年5月31日)に出願され、平成16年3月12日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
これに対して請求人より本件無効審判の請求がなされた。審判における手続の経緯は、以下のとおりである。

審判請求 平成17年 4月22日
答弁書 平成17年 7月28日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成17年10月13日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成17年10月14日
口頭審理 平成17年10月27日
上申書(請求人) 平成17年10月27日
上申書(請求人) 平成17年11月11日
上申書(被請求人) 平成17年11月30日
上申書(請求人) 平成17年12月22日

2.本件発明について

本件特許第3532500号の請求項1?2に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1?2に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明2」という。)
「【請求項1】表面と内部が均一な状態の乾燥ブロックを粉砕することにより得られる、純度が97%以上で、平均粒子径が1?5μmであるビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナト-O,S)銅(II)(以下銅ピリチオンという)からなる船底塗料用防汚剤。
【請求項2】(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナト-O,S)アルカリ金属水溶液と無機銅(II)塩水溶液を混合して銅ピリチオンを製造する方法において、
(i)反応系内のpH値が1.6?3.2の範囲内に保たれるように、両水溶液を混合反応してスラリーを得、
(ii)次いでこのスラリーを、(i)で使用した無機銅(II)塩の銅換算で0.5?10重量%の銅(II)イオンの存在下に加熱処理すること、
を特徴とする高純度銅ピリチオンの製造方法。」

3.請求人の主張

(1)請求の概要
審判請求人は、本件発明1?2の特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする旨の審決を求める無効審判を請求し、証拠方法として審判請求書とともに下記の甲第1?5号証、口頭審理陳述要領書とともに甲第1号証の2、平成17年10月27日付け上申書とともに甲第6号証、平成17年11月11日付け上申書とともに甲第7?8号証の2、及び、平成17年12月22日付け上申書とともに甲第9?10号証の2を提出して、大略以下に示す理由により無効にされるべきであると主張している。

本件発明1は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきであると主張している。(請求書14頁下から11行?下から1行)

甲第1号証:特表平9-506903号公報
甲第1号証の2:米国特許第5540860号明細書
甲第2号証:特開平10-30071号公報
甲第3号証:H14.6.11 東京高裁 平成13(行ケ)84 特許権 行政訴訟事件 判決
甲第4号証:特許庁審査基準「第II部 第2章新規性進歩性 6頁 1.5.2(3)製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)」
甲第5号証:2005年4月13日付け実験成績証明書(韓国語及び英語)及び1枚目の翻訳
甲第6号証:平成17年10月26日付け実験成績証明書
甲第7号証:Electrical Conductivity of Aqueous Solutions, CH141tSPRING2005(英語)
甲第7号証の2:甲第7号証の翻訳
甲第8号証:2005年11月4日付け実験成績証明書(韓国語)
甲第8号証の2:甲第8号証の翻訳
甲第9号証:2005年12月9日付け実験成績証明書(韓国語)
甲第9号証の2:甲第9号証の翻訳
甲第10号証:2005年12月13日付け実験成績証明書(韓国語)
甲第10号証の2:甲第10号証の翻訳

(2)証拠及びその記載内容

甲第1号証:特表平9-506903号公報
摘示事項(1-1)「イオン交換反応において銅塩、ピリチオン塩及び前記キャリヤーからなる反応混合物を反応させることを特徴とするゲルのない銅ピリチオン溶液または分散液の製造方法であって、前記反応は少なくとも一つの界面活性剤の安定化有効量の存在下で行われ、前記界面活性剤の総量は前記キャリヤー中でゲルの生成を防止または抑制するに十分な量であることを特徴とする製造方法。」(請求項1)
摘示事項(1-2)「棒状、球状、針状、円板状およびこれらの組み合わせから成る群れから選ばれた粒子形状を特徴とする銅ピリチオン粒子から成る、固体粒子銅ピリチオン組成物。」(請求項11)
摘示事項(1-3)「本発明は、一般に銅ピリチオンの製造方法に関するもので、より詳しくは、界面活性剤を使用しゲルのない銅ピリチオン分散液を製造する方法に関する。」(4頁3?4行)
摘示事項(1-4)「銅ピリチオン自体は、それが低毒性の観点からより好まれ、また塗料のような製品に、使用に先立つ貯蔵中のゲル化に対する安定性を与える」(4頁下から11行?下から10行)
摘示事項(1-5)「銅ピリチオン溶液または分散液の製造中このゲル化または増粘問題を避け、銅ピリチオンを製造する新規な方法が、生物致死剤製造業界により強く望まれている。本発明はそれに対し解決策を提供する。」(4頁下から3行?下から1行)
摘示事項(1-6)「有用なキャリヤーとしては、水、…がある。」(6頁下から9行)
摘示事項(1-7)「本発明の方法による反応は、所望するゲルのない銅ピリチオンを作るよう適切に行われる。適切な反応時間は、約1時間またはそれ以下、約6時間またはそれ以上の範囲に亘る。反応温度は、適切には約0から約100℃、より好ましくは約25から約90℃、最も好ましくは約65から約70℃である。反応のための適切なPHは、1から12、より好ましくは約3から約8、最も好ましくは約4から約5である。」(11頁下から11行?下から6行)
摘示事項(1-8)「例示の実施例として、240gの水性ナトリウム2-メルカプトピリジンN-オキシド(17.3%の乾燥固形分を持つ、ここではナトリウムピリチオンと呼ぶ)溶液を500ml、四つ口、丸底フラスコ反応器に仕込む。25gのPOLY-TERGENT 2A-IL非イオン系界面活性剤、50gのPOLY-TERGENT SLF-18非イオン系界面活性剤および37.5gのTRITON X-100非イオン系界面活性剤(…)を混合して、三つの界面活性剤のブレンド物を調整する。2gの界面活性剤混合物をフラスコに添加し、攪拌を20分続け、反応器で界面活性剤とナトリウムピリチオン溶液がよく混ざるようにした。それから反応器を40分から60分かけて70℃に加熱した。温度計とPH検出端を反応器に挿入し、塩化銅を含む原料液供給ホースを反応器に接続した。塩化銅(24.4gの固形塩化銅2水和物を含む20%水溶液)を、2ml/分の添加速度で加熱した反応器へゆっくり加えた。反応混合物を連続的に攪拌し、混合物のPHをそれが約4に達するまで監視し、フラスコ中のナトリウムピリチオンについて反応が完結したことを示す0.0%に達するまで成分分析をした。反応を通して、70℃の一定温度を維持した。」(12頁4?18行)
摘示事項(1-9)「生成した銅ピリチオン製品は150から250センチポイズの粘度をもち、容易に濾過できた。濾過は30秒以内で完了した。得られた銅ピリチオンケーキを、ろ液のイオンがなくなり伝導度測定で1000以下になるまで、冷水で洗浄した。ケーキを秤量し、オーブン中で70℃で乾燥した。約40から44gの銅ピリチオンが生成し、これは、銅ピリチオン純度が98%以上のとき理論量のほぼ100%に等しい。」(12頁下から9行?下から4行)
摘示事項(1-10)「乾燥したピリチオン粒子の形を顕微鏡で調べ、針状であることがわかり、また乾燥した針状物の大部分は、比較的狭い粒子径分布をもっことが判った。使用する界面活性剤のタイプを変えることにより、より対称な結晶形をもつ非針状円板形が製造されることがわかった。…円板状はまた、好ましい嵩密度、分散性および/または使用する前の次工程で容易な製粉化を与えるので、銅ピリチオンにとって好都合な形状である。好ましくは、円板状物は約0.65以下の平均球形度をもち、少なくとも約2ミクロンで15ミクロンより小さい体積メヂアン相当球径をもつ。」(12頁下から3行?13頁7行)
摘示事項(1-11)「比較例として、界面活性剤なしで同じ方法で行ったとき、目でわかるゼラチン状の銅ピリチオン生成物ができ、このものは粘度が高いため濾過すること、乾燥すること、および取り扱うことが困難であった。」(13頁下から3行?下から1行)

甲第1号証の2:米国特許第5540860号明細書
摘示事項(1-2-1)「About 40 to 44 grams of copper pyrithione was produced which is equivalent to almost 100% theoretical with a copper pyrithione purity of above 98%.」(6欄下から8行?下から5行)

甲第2号証:特開平10-30071号公報
摘示事項(2-1) 防汚剤を含有する塗料組成物(請求項1)
摘示事項(2-2) 防汚剤として、銅ピリチオンを使用し得ること。(段落0039)
摘示事項(2-3)「本発明の塗料組成物は、海中の生物汚損の防止が必要な船底部、…などに用いることができ」(段落0093)

甲第3号証:H14.6.11 東京高裁 平成13(行ケ)84 特許権 行政訴訟事件 判決
摘示事項(3-1)「本件訂正発明が物の発明である以上,本件製法要件は,物の製造方法の特許要件として規定されたものではなく,光ディスク用ポリカーボネート成形材料という物の構成を特定するために規定されたものという以上の意味は有し得ない。そうである以上,本件訂正発明の特許要件を考えるに当たっては,本件製法要件についても,果たしてそれが本件訂正発明の対象である物の構成を特定した要件としてどのような意味を有するかを検討する必要はあるものの,物の製造方法自体としてその特許性を検討する必要はない。」(20枚目16?23行)

甲第4号証:特許庁審査基準「第II部 第2章新規性進歩性 6頁 1.5.2(3)製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)」
摘示事項(4-1)「請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。」(6頁下から9行?下から8行)

甲第5号証:2005年4月13日付け実験成績証明書(韓国語及び英語)及び1枚目の翻訳
摘示事項(5-1) HPLC測定チャート(1)?(3)(図面等は省略)、「Detector A-I (240nm)」(2?4枚目)
摘示事項(5-2)「2.実験方法
<2-1:銅ピリチオンの製造>
甲第1号証(特表平9-506903号公報)の実施例1に記載の方法によって行った。」(5枚目12?15行)
摘示事項(5-3)「<2-2:純度の測定>
下記の手順で、HPLC法により行い、純度を求めた。
1.得られた個体(注:固体の誤記)銅ピリチオン0.1gを250mlの溶媒に溶かす。
2.得られた溶液10μlをHPLC(High Performance Liquid Chromatography)に投入する。
3.純度は、peak areaから求める。」(5枚目16?21頁)
摘示事項(5-4)「3.実験結果
下記の表に測定結果をまとめて示すとともに、HPLC測定チャートを示す。なお、銅ピリチオン製造および純度測定は3回行った。

」(5枚目下から3行?下から1行及び表)

甲第6号証:平成17年10月26日付け実験成績証明書
摘示事項(6-1)「1.実験目的
甲第1号証(特表平9-506903号公報)の実施例1における銅ピリチオンの粒度分布を測定し、平均粒子径を算出する。
2.実験方法
<2-1:銅ピリチオンの製造>
甲第1号証(特表平9-506903号公報)の実施例1に記載の方法(上申書の表1記載の条件)によって行った。
<2-2:粒度分布の測定>
製造したハンマーミル粉砕前の銅ピリチオンについて、「マスターサイザー2000」を用い、常法に従った手順で粒度分布を測定し、平均粒径を算出した。
3.実験結果
上記の手順で粒度分布を測定し、その測定結果に基づいて算出された平均粒子径は、表面積加重平均粒子径で4.141μmであり、体積加重平均粒子径で5.693μmであった。」(1枚目9行?下から1行)

甲第7号証の2:甲第7号証の翻訳
摘示事項(7-2-1)「伝導度は、溶液中のイオン濃度の指標である。図1に示す回路を完成することにより、溶液の伝導度をビーカー内で測定できる。」(3?4行)

甲第8号証の2:甲第8号証の翻訳
摘示事項(8-2-1)「1.実験目的
甲第1号証(特標平(注:特表平の誤り)9-506903号公報)の実施例1によって製造された銅ピリチオン(平成17年10月27日の口頭審理において持参した試料、以下”CPT”という)に含有されたNa含量を測定する。
2.実験方法
<2-1:銅ピリチオンの製造>
甲第1号証(特標平(注:特表平の誤り)9-506903号公報)の実施例1及び平成17年10月27日付けで提出した上申書に記載した方法で行った。」(1枚目9?16行)
摘示事項(8-2-2)「4)初期試料内のNa含量算出:0.535×(5/0.22)×10=121.5ppm」(3枚目下から3行?下から2行)

甲第9号証の2:甲第9号証の翻訳
摘示事項(9-2-1)「1.実験目的
甲第1号証(特表平9-506903号公報)の実施例1によって製造された銅ピリチオン(平成17年10月27日の口頭審理において持参した試料、以下”CPT”という)を粉砕した後、平均粒子径を算出する。
2.実験方法
<2-1:銅ピリチオンの製造>
甲第1号証(特表平9-506903号公報)の実施例1及び平成17年10月27日付けで提出した上申書に記載した方法で行った。
<2-2:粉砕>
上記2-1で製造されたCPTをすり鉢内に入れ、約10分間手動で粉砕を行った。
<2-3:粒度分布の測定>
粉砕後のCPTについて、「マスターサイザー2000」を用い、常法に従った手順で粒度分布を測定し、平均粒子径を算出した。
3.実験結果
上記の手順で粒度分布を測定し、この測定結果に基づいて算出された平均粒子径は、表面積加重平均粒子径で2.450μmであり、体積加重平均粒子径で3.695μmであった。」(1枚目9行?下から1行)

甲第10号証の2:甲第10号証の翻訳
摘示事項(10-2-1)「1.実験目的
甲第1号証(特表平9-506903号公報)の実施例1によって製造された銅ピリチオン(平成17年10月27日の口頭審理において持参した試料、以下”CPT”という)について、被請求人が11月30日に提出した上申書第7?8頁に記載された化学分析法の手順に従って、純度を算出する。
2.実験方法
<2-1:銅ピリチオンの製造>
甲第1号証(特表平9-506903号公報)の実施例1及び平成17年10月27日付けで提出した上申書に記載した方法で行った。」(1枚目9?17行)
摘示事項(10-2-2)「3.実験結果
…これを純度に換算すれば、このCPTの純度は、99.0%となる。」(2枚目1?6行)

(3)無効の理由
請求人は、本件発明1及び2を以下のような構成要件ア?コに分割した上で、各々の構成要件と甲第1号証に記載された発明を比較・検討している。

【請求項1】
ア 表面と内部が均一な状態の乾燥ブロックを粉砕することにより得られる、
イ 純度が97%以上で、
ウ 平均粒子径が1?5μmである
エ ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナト-O,S)銅(II)(以下銅ピリチオンという)からなる
オ 船底塗料用防汚剤。
【請求項2】
カ (1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナト-O,S)アルカリ金属水溶液と無機銅(II)塩水溶液を混合して銅ピリチオンを製造する方法において、
キ (i)反応系内のpH値が1.6?3.2の範囲内に保たれるように、両水溶液を混合反応してスラリーを得、
ク (ii)次いでこのスラリーを、(i)で使用した無機銅(II)塩の銅換算で0.5?10重量%の銅(II)イオンの存在下に
ケ 加熱処理すること、を特徴とする
コ 高純度銅ピリチオンの製造方法。

(a)本件発明1について
(I)構成要件イについて
甲第1号証には、「約40から44gの銅ピリチオンが生成し、これは、銅ピリチオン純度が98%以上のとき理論量のほぼ100%に等しい。」と記載されているから(摘示事項(1-9))、「純度が97%以上」という構成要件イと重複するので、構成要件イは甲第1号証に記載されているか、または、記載されているに等しい(審判請求書9頁下から3行?10頁2行)。また、甲第1号証に対応する米国特許である甲第1号証の2の記載(摘示事項(1-2-1))を参照すれば、「銅ピリチオンの収量は理論量の100%にほぼ等しく、得られた銅ピリチオンの純度は98%である」との意味であることがより明確となる(口頭審理陳述要領書5頁下から10行?下から5行)。
甲第5号証は、甲第1号証の実施例1の通りに銅ピリチオンを製造し、その純度をHPLCにより測定したもので、この測定結果によれば、その純度は99%以上であり、実際に実施例1で得られた銅ピリチオンの純度は99%以上なのであるから(摘示事項(5-1)?(5-4))、構成要件イは、甲第1号証の実施例1に記載されているに等しい(審判請求書10頁9?17行)。
甲第1号証記載の方法によって製造された銅ピリチオンは、被請求人の主張する分析方法によっても、約99%の純度を有し(摘示事項(10-2-1)、(10-2-2))、本件特許の請求項1記載の発明特定要件を備えていた(平成17年12月22日付け上申書4頁3?9行)。

(II)構成要件ウについて
甲第1号証には、「円板状はまた、好ましい嵩密度、分散性および/または使用する前の次工程で容易な製粉化を与えるので、銅ピリチオンにとって好都合な形状である。好ましくは、円板状物は約0.65以下の平均球形度をもち、少なくとも約2ミクロンで15ミクロンより小さい体積メヂアン相当球径をもつ。」と記載されているので(摘示事項(1-10))、「平均粒子径が1?5μmである」という構成要件ウは、甲第1号証に記載されているか、または、記載されているに等しい(審判請求書10頁18?24行)。
甲第5号証によって製造された銅ピリチオン試料をすり鉢で粉砕後の銅ピリチオンの体積加重平均粒子径は2.450μm(粉砕前4.141μm)、表面積加重平均粒子径は3.695μm(粉砕前5.693μm)であった(摘示事項(9-2-1)、平成17年12月22日付け上申書3頁下から10行?下から2行)。

(III)構成要件エについて
甲第1号証には、「本発明は、一般に銅ピリチオンの製造方法に関するもので、より詳しくは、界面活性剤を使用しゲルのない銅ピリチオン分散液を製造する方法に関する。」と記載されているので(摘示事項(1-3))、「ビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナト-O,S)銅(II)(以下銅ピリチオンという)からなる」という構成要件エは、甲第1号証に記載されているか、または、記載されているに等しい(審判請求書10頁25?30行)。

(IV)構成要件オについて
甲第1号証には、銅ピリチオンが塗料として用いられ、それが生物致死剤として用いられていることが記載されており(摘示事項(1-4)?(1-5))、甲第2号証の記載から、銅ピリチオンを船底塗料用防汚剤として用いることは周知の事実である(摘示事項(2-1)?(2-3))から、「船底塗料用防汚剤」という構成要件オは、甲第1号証に記載されているか、または、記載されているに等しい(審判請求書10頁下から5行?下から1行)。

(V)構成要件アについて
本件明細書段落0004、0006及び0007の記載からみて、請求項1における銅ピリチオンの製品の純度及び平均粒径は、反応過程のpH及び熱処理条件を選択することによってのみ得られ、具体的には請求項2の製造方法によってのみ得られるものであるが、請求項2の具体的な製造方法の要件は請求項1には記載されていない。また、構成要件アを、銅ピリチオンの構造ないし性質、性状、その他の構成を更に限定的に特定するための要件として取り扱うべき、明示または暗示的な記載も本件明細書中には記載されていない。したがって、構成要件アは、銅ピリチオンの構造ないし性質、性状、その他の構成を特定するための要件として取り扱われるべき特別な意味を持っていないことになり、甲第3号証の判示や、甲第4号証の審査基準にあるように、これを製法要件として考慮すべきでない。(審判請求書11頁1行?下から3行)
付け加えると、「表面と内部が均一な状態」は、あくまで防汚剤の製造に使用される中間物質である乾燥ブロックの特性を示すものであるが、乾燥ブロックが粉砕された後には、このような乾燥ブロックの表面と内部の均一度は、粉末の純度以外は粉末の特性に影響を及ぼすものと認められないので、このような記載が、請求項1の銅ピリチオンと、甲第1号証の銅ピリチオンを差別化する構成になれないのは当然のことである(審判請求書11頁下から2行?12頁4行)。

(VI)以上により、構成要件アは製法要件として考慮されるべきでなく、残りの構成要件イからオは、いずれも甲第1号証に記載されている、または記載されているに等しいので、請求項1は新規性がない。また、少なくとも甲第1号証及び甲第2号証の記載に基づいて、当業者が容易に想到できるので進歩性がない。(審判請求書12頁5?9行)

(VII)念のため、製法要件として構成要件アを考慮した場合についても検討する。甲第1号証の実施例1には、「比較的狭い粒子径分布」をもち、乾燥した銅ピリチオン粒子が記載されているので(摘示事項(1-9)?(1-10))、「表面と内部が均一な状態」は、甲第1号証に記載されているに等しいと言える。また、この粒子は、水溶液から濾過後の銅ピリチオン「ケーキ」を乾燥して得られているので、「乾燥ブロック」も甲第1号証に記載されているに等しい。更に、使用する前の次工程で「容易な製粉化」を与えると記載されているので、「乾燥ブロックを粉砕する」ことも甲第1号証に記載されているに等しい。したがって、構成要件アは、すべて甲第1号証に記載されているに等しいことになるから、上記(VI)と同様に判断される。(審判請求書12頁10?24行)
なお、甲第1号証に記載の乾燥した針状物の「比較的狭い分子径分布」とは、当然に、表面と内部との間においても、粒子径の差違がほとんどないことを意味することから、「表面と内部が均一な状態」であることは推論可能である(口頭審理陳述要領書4頁8?10行)。

(b)本件発明2について
(I)構成要件カについて
甲第1号証に「イオン交換反応において銅塩、ピリチオン塩及び前記キャリヤーから成る反応混合物を反応させることを特徴とするゲルのない銅ピリチオン溶液または分散液の製造方法であって、」(摘示事項(1-1))、及び「有用なキャリヤーとしては、水、…がある。」(摘示事項(1-6))と記載されている(審判請求書12頁下から10行?下から4行)。

(II)構成要件キについて
甲第1号証に「反応のための適切なPHは、1から12、より好ましくは約3から約8、最も好ましくは約4から約5である。」(摘示事項(1-7))と記載されている(審判請求書12頁下から3行?13頁1行)。

(III)構成要件クについて
甲第1号証に「…240gの水性ナトリウム2-メルカプトピリジンN-オキシド(17.3%の乾燥固形分を持つ、ここではナトリウムピリチオンと呼ぶ)溶液を…。(中略)。塩化銅(24.4gの固形塩化銅2水和物を含む20%水溶液)を、2ml/分の添加速度で加熱した反応器へゆっくり加えた。」(摘示事項(1-8))と記載されている。この際、過剰添加される銅の量は置換反応に要求される銅塩のモルを基準として約2.9重量%となるから、構成要件クのうち「(i)で使用した無機銅(II)塩の銅換算で0.5?10重量%の銅(II)イオンの存在下に」の部分は、甲第1号証に記載されているに等しい。(審判請求書13頁2?18行)

(IV)構成要件ケについて
甲第1号証に「…それから反応器を40分から60分かけて70℃に加熱した。(中略)。塩化銅(24.4gの固形塩化銅2水和物を含む20%水溶液)を、2ml/分の添加速度で加熱した反応器へゆっくり加えた。」(摘示事項(1-8))と記載されている(審判請求書13頁19?22行)。

(V)構成要件コについて
甲第1号証に「本発明は、一般に銅ピリチオンの製造方法に関するもので、…」(摘示事項(1-3))と記載されている(審判請求書13頁23?25頁)。

(VI)本件発明2と甲第1号証に記載された発明を比較すると、本件発明2は、構成要件キとクの2段階に分けて行うことが、甲第1号証に記載された発明とは相違する。しかしながら、甲第1号証の実施例1においても、銅塩が一挙に投入されるのではなく、反応中に約2mL/分の添加速度で徐々に引き続き供給されている。すなわち、銅塩投入の観点からみるとき、本件発明2が、2段階に分けて銅塩を投入するとすれば、甲第1号証に記載された発明はむしろより多くの段階に分けて、常時銅塩を投入すると考えることができる。(審判請求書13頁下から1行?14頁20行)

(VII)上記(a)で述べたように、得られる銅ピリチオンの純度や平均粒子径は、甲第1号証の実施例1のものと比較して格別の効果が認められないのであるから、銅塩の添加を2段階に分けて行うという点には格別の作用効果は認められず、請求項2の銅ピリチオン製造方法は、甲第1号証の記載に基づいて、当業者が容易に推考できるので進歩性がない(審判請求書14頁21?26行)。

4.被請求人の主張

被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人が主張する上記無効の理由に対して、答弁書とともに下記の乙第1?3号証、平成17年11月30日付け上申書とともに乙第4?6号証の3を提出し、大略以下のように主張している。

本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反しておらず、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反しておらず、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、無効とされるべきではないと主張している。

乙第1号証:米国特許出願公開第2004/118319号明細書及び第1頁右欄翻訳文
乙第2号証:特許第3062825号公報
乙第3号証:Commission for the Investigation of Health Hazards of Chemical Compounds in the Work Area, Report No.33 List of MAK and BAT Values 1997, Sodium pyrithione, Wiley-VCH及び部分訳
乙第4号証:国際公開第95/22905号パンフレット
乙第5号証:特開昭56-158764号公報
乙第6号証の1?3:ナトリウムピリチオンpH測定結果

5.当審の判断

(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の公表公報の原文に当たる国際公開パンフレットである乙第4号証をみても明らかなとおり、摘示事項(1-9)は、銅ピリチオンについて、理論量の100%が得られたとすれば、純度は98%であるという仮定を示しているものと認められるので、甲第1号証には、98%という銅ピリチオン純度が実際に測定されたものを記載したものとすることはできない。また、同じように、乙第4号証をみても明らかなとおり、摘示事項(1-10)は、実施例1において、実際に得られたピリチオン粒子は針状のみであって、界面活性剤のタイプを変えることにより円板状物が得られ、その体積メヂアン相当径は好ましくは約2?15ミクロンとなるという仮定を示しているものと認められるので、甲第1号証には、円板状物で約2?15ミクロンという銅ピリチオン体積メヂアン径が実際に測定されたものを記載したものとすることもできない。
よって、摘示事項(1-1)?(1-10)からみて、甲第1号証には、「銅ピリチオンケーキが容易な製粉化を与えるものである銅ピリチオンからなる塗料用生物致死剤」に係る発明(以下、「刊行物発明1」という。)及び「ナトリウムピリチオンを反応器に仕込み、界面活性剤を添加して混合し、この反応器を40?60分かけて70℃に加熱し、塩化銅を2ml/分の添加速度で加熱した反応器へゆっくり加え、反応混合物を連続的に攪拌し、混合物のPHを約4に達するまで監視し、ナトリウムピリチオンについて反応が完結するまで成分分析し、反応を通じて70℃の一定温度を維持することからなる銅ピリチオンの製造方法」に係る発明(以下、「刊行物発明2」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
(a)本件発明1について
本件発明1と刊行物発明1を比較する。
刊行物発明1の「塗料用生物致死剤」及び「銅ピリチオンケーキ」は、それぞれ、本件発明1の「塗料用防汚剤」及び「乾燥ブロック」に相当する。
よって、両発明は、「乾燥ブロックから得られる、銅ピリチオンからなる塗料用防汚剤」という点で一致し、乾燥ブロックについて、本件発明1は「表面と内部が均一な状態」と規定されているのに対して、刊行物発明1にはそのような規定がない点(以下、「相違点1」という。)、銅ピリチオンの純度について、本件発明は「97%以上」と規定されているのに対して、刊行物発明1には明確に規定されていない点(以下、「相違点2」という。)、銅ピリチオンの平均粒子径について、本件発明1は「1?5μm」と規定されているのに対して、刊行物発明1には明確に規定されていない点(以下、「相違点3」という。)、塗料用防汚剤について、本件発明1は船底塗料用防汚剤とされているのに対して、刊行物発明1にはそのような規定がない点(以下、「相違点4」という。)、で相違する。
よって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明とすることはできない。

次に、相違点1について検討する。
本件明細書中の本件発明1の比較例をみれば、乾燥ブロック表面が、ブロック内部と比べて硬い状態である場合は、本件発明1の「表面と内部が均一な状態の乾燥ブロック」には該当しないと判断されることから、本件発明1の「表面と内部が均一な状態の乾燥ブロック」とは、表面と内部の硬さが同じものであると認められる。そして、本件明細書には、「表面と内部が均一な状態の乾燥ブロック」を粉砕すれば、均一な平均粒子径の粉末とすることができるとが記載され(段落0007)、平成17年11月30日上申書には、粉砕すると大きな塊状物や1μm以下の微粒子が殆ど生成せず、平均粒子径1?5μmのものとなると記載されていることからすれば(9頁下から13行?下から8行)、「表面と内部が均一な状態の乾燥ブロック」は、これから作成される銅ピリチオンの粒子のバラツキ、すなわち、粒径分布を規定しているものと解することができる。
甲第1号証には、(顕微鏡での観察によれば、粉砕前の)乾燥した針状物の大部分は、比較的狭い粒子径分布を持つとされている(摘示事項(1-10))が、甲第1号証に記載の乾燥した針状物が、表面と内部が均一な状態であるとは記載されておらず、この比較的狭い粒子径分布と本件発明1の表面と内部が均一な状態との関係、乾燥した針状物を粉砕して得られた粉砕物が、粉砕前に顕微鏡で観察された粒子径どおりに粉砕されるか否か、あるいは、粉砕後の粒径分布について、記載も示唆もされていない。
また、請求人が甲第1号証の実施例1の追試であるとした甲第5号証の実験について、請求人の提出した平成17年10月27日付け上申書の記載を見ると、使用した界面活性剤は実験番号第1回?第3回いずれもTRITON X-100(登録商標)であり、一方、甲第1号証の実施例1では、POLY-TERGENT 2A-IL非イオン系界面活性剤、POLY-TERGENT SLF-18非イオン系界面活性剤及びTRITON X-100非イオン系界面活性剤を混合したものを使用しており、甲第1号証の実施例1とは、使用した界面活性剤が異なっているから、少なくともその点で甲第5号証の実験は、甲第1号証の実施例1の真正な追試であるとはできないので、その実験によって甲第1号証に記載の乾燥した針状物を粉砕して得られる粉砕物と、本件発明1の「表面と内部が均一な状態の乾燥ブロック」を粉砕して得られる粉砕物とが同じ物であることを立証することはできない。
なお、この点について、請求人は、甲第1号証実施例1は、甲第1号証に係る発明の好ましい実施例を記載しているにとどまり、実施例1がこの発明を具現化する唯一の条件とは解釈できないこと、甲第1号証には界面活性剤を単独で使用してもよい旨記載されていることをもって、甲第5号証の実験は、甲第1号証の実施例1の追試である旨主張している(平成17年12月22日付け上申書2頁4行?下から8行)。しかしながら、刊行物1に、「使用する界面活性剤のタイプを変えることにより、より対称な結晶形をもつ非針状円板形が製造されることがわかった。」と記載されている(摘示事項(1-10))ことからすれば、使用する界面活性剤が異なれば、結晶形が異なる物質が生成すること、すなわち、性質が異なる別の物質が生成すると解されるから、異なる界面活性剤を使用した甲第5号証の実験で得られた物質が、甲第1号証の実施例1で得られた物質と同じであるとすることはできない。
よって、甲第1号証には、本件発明1の表面と内部が均一な状態の乾燥ブロック、又は、表面と内部が均一な状態の乾燥ブロックを粉砕して得られた銅ピリチオン粒子と同等のものを得ることについて記載ないし示唆はされていないので、刊行物発明1の乾燥ブロックにおいて、その表面と内部を均一な状態とするという構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、甲第2号証には、塗料組成物において防汚剤として銅ピリチオンを使用し得ることが記載されているのみであり、甲第2号証の記載を参酌しても、刊行物発明1の乾燥ブロックにおいて、その表面と内部を均一な状態とするという構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。

さらに、相違点3について検討する。
本件明細書には、「船底塗料の防汚剤として適した平均粒子径1?5μmの銅ピリチオン粉末」(段落0025)、「船底塗料に用いる際に塗料がゲル化、ブツの発生や塗膜の亀裂を起こすことがない高純度かつ最適な粒子径を有する銅ピリチオン」(段落0003)、「表面と内部が均一な状態の乾燥ブロックが得られ、粉砕することにより、純度が97%以上で、目的の均一な平均粒子径の粉末とすることができる」(段落0007)と記載され、比較例2において、純度が97%でも平均粒子径が8.4μmであるものが好ましくない例であることからすれば、本件発明1において、銅ピリチオンの平均粒子径を「1?5μm」とすることによって、船底塗料に用いる際に塗料がゲル化、ブツの発生や塗膜の亀裂を起こすことがないという効果を奏するものである。
これに対して、刊行物1には、上記(1)で述べたとおり、銅ピリチオン円板状物の体積メヂアン相当径は好ましくは約2?15ミクロンとなるという仮定を示しているにすぎず、約2?15ミクロンという体積メヂアン径は、本件発明1の銅ピリチオンの平均粒子径「1?5μm」と重複する部分はあるが、相違点1で検討したとおり、刊行物1には、表面と内部が均一な状態の乾燥ブロックを粉砕して得られた均一な1?5μmの平均粒子径の銅ピリチオン粒子を得ることについて記載ないし示唆はされておらず、また、刊行物1の記載から、本件発明1の構成を採用した際に、船底塗料に用いる際に塗料がゲル化、ブツの発生や塗膜の亀裂を起こすことがないという効果を奏することも、当業者が予測し得るものではない。
また、請求人が甲第1号証の実施例1の追試であるとした甲第6号証には、銅ピリチオン粒子の平均粒子径が表面積加重平均粒子径で4.141μmであり、体積加重平均粒子径で5.693μmであることが示され(摘示事項(6-1))、甲第9号証には、甲第5号証によって製造された銅ピリチオン試料をすり鉢で粉砕後の銅ピリチオンの体積加重平均粒子径は2.450μm(粉砕前4.141μm)、表面積加重平均粒子径は3.695μm(粉砕前5.693μm)であることが記載されている(摘示事項(9-2-1))が、甲第6号証又は甲第9号証の実験も、甲第5号証と同じ条件下の実験であるから、相違点1でも検討したとおり、甲第1号証の実施例1の真正な追試であるとはできないので、それらの実験によって甲第1号証に記載の銅ピリチオンの平均粒子径が、本件発明1の銅ピリチオンの「1?5μm」の範囲内にあることを立証することはできない。
さらに、甲第2号証には、塗料組成物において防汚剤として銅ピリチオンを使用し得ることが記載されているのみであり、甲第2号証の記載を参酌しても、刊行物発明1の銅ピリチオンの平均粒子径を1?5μmとするという構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。

相違点1及び3が上記のとおり、当業者が容易に想到し得るものではないので、相違点2及び4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(なお、相違点2について検討すれば、相違点1でも検討したとおり、甲第5号証は、甲第1号証の実施例1の追試であるとはできないので、甲第5号証又は甲第10号証の結果をもって、甲第1号証に本件発明1のものと同程度の純度をもつ銅ピリチオンが記載されているとすることはできない。また、相違点4について検討すれば、甲第2号証には、防汚剤として銅ピリチオンを使用した塗料組成物を、船底部に使用し得ることが記載されているので、刊行物発明1の銅ピリチオンを船底塗料用防汚剤に使用することは格別の創意を要しない。)

(b)本件発明2について
本件発明2と刊行物発明2を比較する。
銅ピリチオンの製造方法において、両発明は「(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナト-O,S)アルカリ金属水溶液と無機銅(II)塩水溶液を混合する」点で一致するが、本件発明2は「(i)反応系内のpH値が1.6?3.2の範囲内に保たれるように、両水溶液を混合反応してスラリーを得」る工程と「(ii)次いでこのスラリーを、(i)で使用した無機銅(II)塩の銅換算で0.5?10重量%の銅(II)イオンの存在下に加熱処理する」工程の2工程で行うのに対して、刊行物発明2はそのような工程がない点(以下、「相違点5」という。)、本件発明2は界面活性剤を添加すると記載されていないが、刊行物発明2は界面活性剤を添加する点(以下、「相違点6」という。)で相違する。

まず、相違点5について検討する。
刊行物発明2は、ナトリウムピリチオンを反応器に仕込み、塩化銅を2ml/分の添加速度で加熱した反応器へゆっくり加え、反応混合物を連続的に攪拌するものであるが、甲第1号証には、銅ピリチオンの製造方法において、(i)及び(ii)の2工程とすることが記載ないし示唆もされていない。そして、本件発明2は、(i)及び(ii)の2工程とすることによって、高純度で、乾燥ブロックの表面と内部が均一であり、船底塗料の防汚剤として適した平均粒子径の銅ピリチオン粉末を調製することができる銅ピリチオンを高収率で得ることができる(本件明細書段落0025)ものであり、この効果は、甲第1号証には記載ないし示唆もされていない。よって、刊行物発明2において、(i)及び(ii)の2工程とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。

次に、相違点6について検討する。
本件明細書には、本件発明2において、界面活性剤を添加してもよい旨の記載はなく、甲第1号証には、界面活性剤なしで同じ方法で行ったとき、好ましくないことが起こると記載されており(摘示事項(1-11))、この記載は、刊行物発明2において、界面活性剤を使用しないとすることを阻害するものであるから、刊行物発明2において、界面活性剤を使用しないとすることは、当業者が容易に想到することではない。

したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1?2についての特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-27 
結審通知日 2006-01-05 
審決日 2006-01-17 
出願番号 特願2000-161774(P2000-161774)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (C07F)
P 1 113・ 121- Y (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 恵  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 原田 隆興
岩瀬 眞紀子
登録日 2004-03-12 
登録番号 特許第3532500号(P3532500)
発明の名称 船底塗料用防汚剤およびそれに用いる高純度銅ピリチオンの製造方法  
代理人 正林 真之  
代理人 谷 良隆  
代理人 谷 良隆  

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