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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C23C
審判 全部無効 2項進歩性  C23C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
管理番号 1171283
審判番号 無効2005-80072  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-09 
確定日 2006-04-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3451334号発明「金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液及び表面調整方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3451334号の請求項1ないし4、6ないし9に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3451334号の請求項5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その10分の1を請求人の負担とし、10分の9を被請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯の概要
本件特許第3451334号に係る出願は、平成9年3月7日に特許出願され、平成15年7月18日に請求項1?10に係る発明について特許権の設定の登録がなされた。
その後、平成17年3月9日に日本ペイント株式会社(以下「請求人」という。)より、その請求項1?10に係る特許について、本件特許無効の審判請求がなされ、平成17年6月3日付けで被請求人より答弁書及び訂正請求書が提出され、平成17年8月1日付けで請求人より弁駁書が提出され、平成18年2月7日に口頭審理がなされるとともに、同日付けで請求人及び被請求人から口頭審理陳述要領書が提出された。


II.請求人の主張及び証拠方法
請求人は、甲第1号証?甲第10号証を提示して、本件特許の請求項1?10に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、併せて弁駁書に添付して甲第11?23号証、及び、口頭審理陳述要領書に添付して甲第24号証?甲第28号証の2を提出している。
(i)本件特許の請求項1係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(ii)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
(iii)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証又は甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(iv)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(v)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(vi)本件特許明細書は、本件特許の請求項1に係る発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものであるから、本件特許は、特許法第36条第4項及び同第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
(vii)本件特許の請求項2?10に係る発明は、それぞれ甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるか、甲第1号証、甲第2号証、甲第8号証、甲第9号証の2以上に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、及び/又は同第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(viii)本件特許の請求項2?10に係る発明は、それぞれ請求項1に従属するから、請求項1について述べたと同様に、特許法第36条第4項及び同第6項第1号及び第2号違反による無効理由が存在する。

なお、無効審判請求後に提出した無効審判請求人の攻撃防御方法は、間接事実、補助事実ないし間接証拠の追加に該当するといえ、請求理由の要旨を変更する補正事項を含むものとはいえない。


III.被請求人の主張及び証拠方法
一方、被請求人は、本件特許無効の審判請求は成立しない旨主張し、答弁書に添付して乙第1号証?乙第3号証、及び、口頭審理陳述要領書に添付して乙第1号証の2を提出している。


IV.証拠方法
(IV-1)請求人が提出した証拠方法
(A1)甲第1号証(米国特許第1137449号明細書)(日本語訳)
(A1-1)「1.鉄またはスチールの表面上におけるリン酸マンガン皮膜の形成方法であって、前記表面を、前記表面を湿らせるのに充分な時間、微細化不溶性オルトリン酸マンガン(II)の水溶性懸濁液により処理し、次いで、
前記処理された表面を、従来の酸性リン酸マンガンコーティング水溶液によりリン酸塩処理する、リン酸マンガン皮膜の形成方法。」(特許請求の範囲1)
(A1-2)「本発明によれば、鉄またはスチールの表面を湿らせるのに充分な時間、微細化不溶性オルトリン酸マンガン(II)の水溶性懸濁液により上記表面を処理し、次いで処理された表面を従来の酸性リン酸マンガンコーティング水溶液によるリン酸塩処理に供することにより、リン酸マンガン皮膜が鉄またはスチールの表面上に形成される。この形成された皮膜は、鉄またはスチールが予めアルカリ洗浄または酸洗浄されていた場合であっても、微細な結晶であることが見出された。」(第1頁第51?59行)
(A1-3)「リン酸マンガンは、酸性溶液中では可溶であるが、その溶液の酸度が小さくなると沈殿する。不溶性のオルトリン酸マンガン(II)は、そのように沈殿するリン酸塩の意であり・・・不溶性オルトリン酸マンガンの沈殿物は、リン酸中でりん酸マンガン水溶液を中和させてpH7.5にするか、またはリン酸水素二ナトリウム、リン酸水素三ナトリウム若しくは両方をマンガン塩の溶液に添加することにより生成することができる。」(第1頁第63?78行)
(A1-4)「オルトリン酸マンガン(II)の粒子サイズは、できるだけ小さいものであるべきである。オルトリン酸マンガンの50%が3.5μm未満の粒子サイズを有し、かつ90%が30μm未満である場合に、非常に良好な結果が得られている。しかし、多少粗い粒子サイズのオルトリン酸マンガンを用いた場合でも、充分な結果が得られる。
上記懸濁液中のオルトリン酸マンガンの量は、最終的なリン酸マンガン皮膜に含まれる微細度に依存し、数mg/L?約5g/Lであってよい。」(第2頁第1?13行)
(A1-5)「上記懸濁液にピロリン酸アルカリ金属塩を添加することにより、オルトリン酸マンガンの沈降を遅らせることができる。」(第2頁第23?25行)
(A1-6)「一般に、ピロリン酸塩および上記懸濁液中のその含量については、pHを過度に低下させないように選択されるべきである。・・・上記懸濁液中のピロリン酸塩の含量は、好ましくは0.5?5g/Lである。」(第2頁第34?41行)
(A1-7)「上記懸濁液の安定性は、界面活性剤、特にノニオン性界面活性剤の添加により増大しうる。
微細化不溶性オルトリン酸鉄もしくはピロリン酸カルシウムまたはその両方もまた、上記懸濁液に添加することができる。」(第2頁第42?48行)

(A1の1)甲第1号証の1(甲第1号証の日本語訳文)(摘記略)

(A2)甲第2号証(特開昭59-226181号公報)
(A2-1)「1.リン酸塩処理に先立って活性剤含有水性予洗浴により金属表面を前処理する方法において、モンモリロナイトを付加的に含む予洗浴を金属表面に接触させることを特徴とする金属表面の前処理方法。・・・
4.リン酸亜鉛溶液によるリン酸塩処理に先立って、微細に分散させたリン酸チタン又は微細に分散させた第三級リン酸亜鉛を含む予洗浴を金属表面に接触させることを特徴とする特許請求の範囲第1項?第3項のいずれか1項に記載の方法。
5.リン酸マンガン溶液によるリン酸塩処理に先立って、微細に分散させた第三級リン酸マンガンを含む予洗浴を金属表面に接触させることを特徴とする特許請求の範囲第1項?第3項のいずれか1項に記載の方法。」(特許請求の範囲第1、4、5項)
(A2-2)「リン酸塩処理に先立って金属表面を活性化するには、固相活性剤を微細に分散させた水性予洗浴に金属表面を接触させる。このような処理を介在させることによって、リン酸塩処理中に成長する金属表面上単位面積当りのリン酸塩結晶の数が著しく増大する。同時に、生成リン酸塩被膜における個々の結晶粒の大きさが部分的に著しく減少し、又リン酸塩被膜の単位面積当りの重量が減少し、更にリン酸塩結晶で金属表面を被覆するのに要する時間が短縮される。このような効果は、活性剤処理によって金属表面上に新たに生じた結晶核が固定され、リン酸塩処理中にこの核からリン酸塩結晶が成長しはじめるという事実に基いて説明される。
活性剤としてはいくつかの物質が知られている。リン酸亜鉛溶液によるリン酸塩処理の活性化のためには、微細に分散させたリン酸チタン、第三級リン酸亜鉛(ホパイト)及び第三級リン酸亜鉛鉄(II)(ホスホフィライト)を含む予洗浴での前処理が適当であるということが従来知られている。リン酸マンガン溶液中での層形成は、微細に分散させたリン酸マンガン又はリン酸マンガン鉄(II)(フローリット)を含む予洗浴で前処理することにより促進される。」(第2頁左上欄第1行?右上欄第4行)
(A2-3)「モンモリロナイト含有粘土鉱物を使用することができ、モンモリロナイトの割合が大きく且つ分散度の大きいものが特に効果的である。とりわけ水中で膨潤可能な層状モンモリロナイトのうちのベントナイトが特に効果的である。
モンモリロナイト若しくはベントナイトは予洗浴内でできるだけ微細に分散される必要がある。
従って、膨潤度の大きいナトリウム-ベントナイトの使用が好ましい。」(第2頁左下欄第16行?右下欄第3行)
(A2-4)「予洗浴のモンモリロナイト含有量或いはベントナイト含有量は広範囲に亘って選択可能である。特に、0.01?10g/lの量のモンモリロナイトを含有する予洗浴に金属表面を接触させるのが好ましい。
予洗浴の調製においては、通常、活性剤を浴中3mg/l?5g/lの濃度に分散させる。」(第2頁右下欄第3?9行)
(A2-5)「分散系の安定性を向上させ、且つ硬水が活性化作用に悪影響を及ぼすのを避けるために、濃縮アルカリ金属リン酸塩・・・を含有させても良い。」(第2頁右下欄第9?13行)
(A2-6)「効果を高めるための他の既知添加剤としては、特に、ゼラチン、ポリアクリル酸エステル及びその他の水溶性有機ポリマーなどがある。」(第2頁右下欄第13?16行)
(A2-7)「更に、例えばpH値の調節及び安定化のためにアルカリ金属のオルトリン酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩を添加しても良い。」(第2頁右下欄第16?18行)
(A2-8)「予洗浴のpH値は通常弱アルカリ性に調節し、殆どの場合、約7.1?10とする。」(第2頁右下欄第18?20行)
(A2-9)「実施例1」の予洗浴にNa_(4)P_(2)O_(7)を4g/l、「実施例2」の予洗浴にNa_(2)HPO_(4)を2.2g/l、Na_(2)CO_(3)を0.5g/l添加したことが示されている。(第3頁右上欄?右下欄)

(A3)甲第3号証(「実務表面技術Vol.35,No.1,1988」第2?8頁)
(A3-1)「リン酸塩処理前の被処理物表面の活性化処理として、0.05%のチタニウムコンパウンドと0.1?0.2%の第2リン酸ナトリウムおよびピロリン酸ナトリウムを含む水溶液に浸漬し、表面調整する方法である。
チタン-リン酸塩のコロイド水溶液で表面調整することにより、リン酸塩結晶の核生成と成長が行われる鋼板表面の活性点が著しく増加し、結晶粒径が微細で、皮膜重量の低い皮膜を形成する。
図2はチタン-リン酸塩のコロイド粒径と皮膜重量の関係を示したものであり、コロイドの平均粒子径が大きくなるに従い、リン酸亜鉛皮膜の皮膜重量が増加し、その効果が減少する。コロイドの粒子径がその吸着性、活性化に影響することを示唆している。」(第4頁左欄?右欄)
そして、「表面調整のコロイド粒径と皮膜重量との関係」を表わす上記「図2」(第4頁)には、コロイド平均粒子径(nm)と、皮膜重量(g/m^(2))との関係が図示され、同図によれば、コロイド平均粒子径が数百nm(0.数μm)?10000nm(10μm)の範囲において、コロイド平均粒子径が大きくなるにしたがい、皮膜重量が増加することが示されている。

(A4)甲第4号証(特開昭63-76883号公報)
(A4-1)「1.リン酸塩被膜化成処理用、チタンコロイドを主体とした表面調整液の表面調整性能を管理する方法において、
前記表面調整液中のチタンコロイドの平均粒径を測定して、その平均粒径が、表面調整液の調整機能が発揮されるように予め定められた範囲内になるように、制御管理することを特徴とするリン酸塩皮膜化成処理用表面調整液の管理方法。」(特許請求の範囲1)
(A4-2)「チタンコロイドの平均粒径測定はサブミクロン粒子アナライザーを用いて行うことができる。以下の実施例では、チタンコロイドの平均粒径を600nm、好ましくは400nm以下に制御するように表面調整液の更新を行う。」(第3頁左上欄第1?5行)
(A4-3)「表面調整剤A:硫酸チタニル、リン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、水を混合しながら加熱し、アルカリでpH調整して得た表面調整剤」(第3頁左上欄最下行?右上欄第3行)
(A4-4)「第2図のチタンコロイドの平均粒径は第1図の被膜重量の変動と相似した挙動を示している。
上記以外の表面調整液および化成処理液についても同様の挙動が認められ、この結果、本発明者等は表面調整液の経時劣化はコロイド平均粒径の増大により捉えられることを見出した。即ち、コロイド平均粒径が例えば約600nmを越えると、表面調整液の経時劣化が限度を越える。
第1図及び第2図で、4日経時から6日経時にかけての被膜重量並びに平均粒径の増加が大きい点を考慮すると、安全性を考えて平均粒径を400nm以下に制御すれば、被膜重量が約2.4g/m^(2)以下となり、被膜重量の安定化を図ることができる。」(第4頁左上欄第3?17行)

(A5)甲第5号証(特開平11-181587号公報:平成11年7月6日公開)
本件出願後の頒布物であり、以下の記載がある。
(A5-1)「【請求項1】A)アルカリ剤と、(E)・・エチレン性不飽和有機酸モノマーの単独もしくは共重合体・・・またはその塩と、水とを含有することを特徴とする、懸濁状の金属用アルカリ性液体洗浄剤。・・・
【請求項6】(F)スメクタイト系粘土鉱物0.01?0.5重量%をさらに含有する請求項3ないし5のいずれかに記載の一液型の金属用アルカリ性液体洗浄剤。」(請求項1、6)
(A5-2)「本発明において用いられる成分(F)のスメクタイト系粘土鉱物は、以下の一般式[Si_(8)(Mg_(a)Li_(b))O_(20)(OH)_(c)F_(4-c)]^(-x)Me^(+x)(0<a≦6、0<b≦6、4<a+b<8、0≦c≦4、x=12-2a-b、Me:Na、K、LiおよびNH_(4)の少なくとも1種)を有する粘土鉱物である。この粘土鉱物は、天然にも産するが合成品としても得られる。
本発明において用いられるスメクタイト系粘土鉱物の具体的な例としては、モンモリロナイト・・・等を挙げることができる・・・
スメクタイト系粘土鉱物は層状構造をしており、層状構造における結晶構造各層は、厚さ約1mμの二次元小板よりなっている。そしてこの小板ユニットに存在するマグネシウム原子とアルミニウム原子の一部が低原子価の陽イオン原子と同型置換しており、その結果小板ユニットは負に帯電している。乾燥状態ではこの負電荷はプレート面の格子構造外側にある置換可能な陽イオンと釣り合っており、固相ではこれらの粒子はファンデルワールス力により互いに結合し平板の束を形成している。
このようなスメクタイト系粘土鉱物を水相に分散すると、置換可能な陽イオンが水和されて粒子が膨潤を起こし、高速ディソルバー等の通常の分散機を用いて分散させると安定なゾルを得ることができる。このように水相に分散された状態では小板は表面が負の電荷となり、相互に静電気的に反発し、小板状の一次粒子にまで細分化されたゾルになる。スメクタイト系粘土鉱物の水相分散物は厚さ約1mμの2次元小板すなわち方形または円板状のプレートでプレート面の一辺もしくは直径は20?500mμであると考えられている。」(段落【0054】?【0055】)

(A6)甲第6号証(野田公彦、恩田吉朗編「水溶性・水分散型高分子材料の最新技術動向と工業応用」2001年1月10日(日本科学情報株式会社)第337?343頁)
本件出願後の頒布物であり、以下の記載がある。
(A6-1)「合成水溶性高分子には、・・・無機系のものと有機系のものとがある。ただし、実際は有機系のものが大半で、有機系のものは、親水基の種類によって、イオン性のものと非イオン性のものに大別できる。
このうちイオン性のものは、アニオン性とカチオン性のものに分けられ、さらに、アニオン性のものにはカルボン酸型のものとスルホン酸型のものがある。」(第337頁)

(A7)甲第7号証(特開平4-228581号公報)
(A7-1)「【請求項1】リン酸亜鉛で処理される金属表面をその処理前に活性化するためのかつリン酸チタン(IV)を主剤とする活性化剤を、リン(V)化合物を使用して水相中でチタン(IV)化合物を転化することにより製造するとき、非常に丹念な混和条件の下で、
a)水または酸に溶解した一つまたは複数のチタン(IV)化合物を水溶液アルカリでアルカリ性となし、
b)次いで、アルカリ性のpH値を保持しながらオルトリン酸と化合させ、
c)活性化剤の熟成のために70?90℃の温度および、常圧?300barの圧力で少くとも15分間攪拌し、上記c)過程による熟成を常圧?1barの圧力にて行うときは、上記a)およびb)過程を常温?45℃の温度で行い、上記c)過程による熟成を1?300barの圧力にて行うときは、上記a)およびb)過程を常温?90℃の温度で行うことを特徴とするリン酸亜鉛処理用活性化剤の製造方法。」(請求項1)
(A7-2)「次に鉄、鋼、亜鉛、亜鉛メッキ鉄または鋼、アルミニウムおよび/またはアルミメッキ鋼の表面を、リン酸亜鉛処理の前に活性化するため、本発明の製造法によって得られた液状または固形状の活性化剤を単独あるいは、縮合リン酸塩および/または錯塩形成剤および/またはケイ酸塩および/または界面活性剤および/または水溶性有機高分子化合物、例えばマレイン酸共重合体と混ぜて、7ないし11、好ましくは7.5ないし10のpH範囲で使用するのがよい。」(段落【0029】)

(A8)甲第8号証(特公昭40-1095号公報)
(A8-1)「2価または3価金属の不溶性リン酸塩を含む懸濁液を金属表面に吹付けるか、懸濁液中に浸漬することを特徴とする鋼板あるいはメッキ鋼板にリン酸処理を行うための前処理方法。」(特許請求の範囲1)
(A8-2)「2価または3価金属の不溶性リン酸塩を水に懸濁したものを用い(2価金属の不溶性燐酸塩としてはZn_(3)(PO_(4))_(2)、Ca_(3)(PO_(4))_(2)、Mg_(3)(PO_(4))_(2) 、また3価のものではFePO_(4)、AlPO_(4))低濃度の場合(大体30g/l位まで)に高圧で金属表面に吹付けると良好な均一予備処理面が得られ、また高濃度の液を用いて好結果を得るには、通常浸漬するかあるいは浸漬後ロール等で付着液を板面に押し付けまたはこすり付ける方法などが用いられる。」(第1頁右欄第29?37行)
(A8-3)「懸濁液のpHは微酸性または微アルカリ性(pH3?10)がよく、この範囲外では金属が腐蝕されたり、金属のリン酸塩が溶解するおそれがあるので好ましくない。pHの調節にはリン酸またはリン酸ナトリウムを用いて調節するのが適当である。」(第2頁左欄第10?14行)

(A9)甲第9号証(特開昭63-109176号公報)
(A9-1)「リン酸イオン、該リン酸イオンと水溶液中で安定なリン酸二水素化合物として存在しかつ脱水素反応により溶解度が減少する金属イオン、フッ素を除くハロゲンイオン、及び酸性溶液中で銅の溶解度を促進する酸化剤を含んだ化成処理を前記銅系金属表面に接触させて、該表面に化成被膜を形成させるにあたり、あらかじめ前記銅系金属表面に無機化合物のコロイド粒子を付着させることを特徴とする銅系金属への化成処理方法。」(特許請求の範囲(1))
(A9-2)「本発明で使用されるコロイド粒子(粒径10Å?10000Å)は、銅系金属表面に付着し、化成被膜を微細、均一にし、また塗膜との密着性を向上させる成分であって、その種類はいかなるものでもよいが、中でもチタン系コロイド粒子が工業的に入手しやすく好ましい。なお、チタン系の他には例えばSiO_(2)、PbO、SiC、Si_(3)N_(4)、BN、無水ケイ酸などがある。コロイド粒子を銅系金属表面に付着させる方法には・・・コロイド粒子が分散している溶液に銅系金属を接触させる方法が容易であり、均一なものを得やすいので好ましい。」(第2頁左下欄下から第2行?右下欄第10行)

(A10)甲第10号証(特許第3451334号掲載公報)
本件特許の掲載公報。(摘記略)

(A11)甲第11号証(特許第3451337号掲載公報:平成15年9月29日発行)
本件出願後の頒布物であり、以下の記載がある。
(A11-1)「【請求項1】粒径5μm以下の少なくとも1種以上の2価およびまたは3価の金属の1種以上を含有するりん酸塩から選ばれる1種以上のりん酸塩粒子と、単糖類、多糖類及びその誘導体から選ばれる1種以上とを含有することを特徴とする、金属のりん酸塩被膜化成処理前の表面調整用処理液。」(請求項1)

(A12)甲第12号証(特許第3545974号掲載公報:平成16年7月2日発行)
本件出願後の頒布物であり、以下の記載がある。
(A12-1)「金属材料を、濃度が0.001-30g/Lであり、粒径が5μm以下の2価または3価の金属にかかる1種以上のりん酸塩粒子と促進成分とを含有する表面調整液に接触させた後、亜鉛イオンを0.5?5g/L、りん酸イオンを5?30g/L含有するりん酸塩化成処理液に接触させることを特徴とする金属材料のりん酸塩化成処理方法。」(請求項1)

(A13)甲第13号証(特開平8-3483号公報)
(A13-1)「【請求項1】表面がリン酸塩処理液で処理された導電性金属製品をポリ-4-ビニルフエノール誘導体ポリマーまたは該誘導体ポリマーと酸との塩の少なくとも1種を含有する溶液で処理した後、鉛化合物およびクロム化合物を含まない電着塗料で塗装することを特徴とする塗装法。」(請求項1)
(A13-2)「本発明においては、これらの導電性金属製品は、リン酸塩処理液・・・で表面処理される。具体的には、例えば、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、およびカルシウム、ニッケル、マグネシウムなどのイオンを配合したリン酸亜鉛などから選ばれる1種もしくは2種以上の金属塩を含有する水溶液または水分散液が好適である。」(段落【0010】)

(A14)甲第14号証(ドイツ特許第1521889号明細書)(日本語訳)
(A14-1)「1.鉄と鋼のリン酸塩処理のための方法であって、それらリン酸塩処理の前に、表面が、ある水性の難溶性の2価金属のリン酸塩の懸濁液と接触させられる方法であって、アルカリ性および/または酸性の表面処理の後、リン酸マンガンによるリン酸塩処理の前の前処理のために、少なくとも部分的にリン酸マンガン鉄(II)(ヒューロリット)からなり難溶性であるオルトリン酸マンガン(II)が微細に分散するのを含む水性の前洗浄溶液が、適用されることによって特徴づけられる方法。・・・
6.請求項1から5による方法であって、少なくとも部分的に5μmより小さい粒径で存在する難溶性のリン酸塩が用いられることによって特徴づけられる方法。」(特許請求の範囲:請求項1、6)
(A14-2)「オルトリン酸マンガン(II)の活性化効果は、さらに、その粒子径に依存し、そして、粉砕の度合いが増すほどに向上する。大変良い効果は、例えばオルトリン酸マンガン(II)を用いたときに達成され、その時の粒子径の約50%は3.5μm未満を示し、そして粒子径分布の約90%が30μm未満となった。」(第3欄第22?28行)

(A15)甲第15号証(米国特許第2456947号明細書)(日本語訳)
(A15-1)金属がチタン、ジルコン、錫およびヒ素である場合について、「第2りん酸ナトリウムと前記金属の化合物の一つとを化合することによって調製された添加物が、一定量のコロイドを作ると信じられている。明らかにこのコロイドの存在が、第2りん酸ナトリウムと金属の化合物の水性懸濁液にさらされた鉄及び亜鉛メッキ鋼板の金属表面の活性を決定づけている。」(第2欄第32?39行)

(A16)甲第16号証(米国特許第3864139号明細書)(日本語訳)
(A16-1)「以下a、bおよびcを必須とする、りん酸亜鉛被膜処理が続いて施される、鉄、亜鉛鋼、アルミニウム及びこれらの合金の中から選ばれる金属表面を活性化するための安定した水性コロイド懸濁液。
a.オルトリん酸2ナトリウム及びチタン塩からなる活性化組成物・・・
b.クエン酸アルカリおよびアミノポリカルボン酸アルカリからなる群から選ばれる安定剤・・・
c.好ましくないアルカリ土類金属カチオンを有する水・・・」(第17段落:請求項1)
(A16-2)「ここでは「水性活性化コロイド懸濁液」または「水性活性化コロイド溶液」という場合、その液中で微細に分割されコロイド状に分散され、かつ、沈降または沈殿をもたらさないある程度の安定性を有する、ある種の多分子性[polymolecular]または複合体[comp1ex]粒子を含有する水性活性化または活性化浴を意味する。」(第3欄第22?28行)

(A17)甲第17号証(ドイツ公開特許第2247888号明細書)(日本語訳)
(A17-1)「1.鉄および/また亜鉛の表面の洗浄と活性化のための薬剤で、PHの値が10を下回らないアルカリ性の水溶液からなり、コロイド状のチタン塩と、0.3から15g/lの、オルト珪酸塩および/またはピロリン酸塩とトリポリリン酸塩および/またはビロリン酸塩からなる安定化剤を含んでいることによって特徴付けられるもの。」(第18頁請求項1)

(A18)甲第18号証(ドイツ公開特許第2125963号明細書)(日本語訳)
(A18-1)「この部類のチタン-粒微細化化合物はいわゆる“ジャーンステッド”塩であり、これは例えば、オーストラリア特許第224761号と、米国特許第2310239号に記載されている。この塩の正確な性状は知られていないけれども、前処理溶液の中で微細に分散された固体、おそらくは、コロイドの大きさで存在し、液体にチタンイオンを供給する、チタン/リン酸塩-複合体のように思われる。」(第3頁第7?15行)

(A19)甲第19号証((社)日本粉体工業技術協会編「微粒子工学」1994年6月25日初版(朝倉書店)第22?35頁)
(A19-1)「液相中の粒子は多かれ少なかれ帯電する。帯電すると粒子表面の電位が著しく異ならない限り、一般に粒子間には反発力が働く。帯電機構は、下で述べるように、表面解離基による帯電、吸着イオンによる帯電、格子欠陥による帯電に大別される。
i)表面解離基による帯電: 粒子がその表面に解離基(たとえば-OH、-COOH、-NH_(2))を有する場合、水中でこれらが解離して、粒子表面が帯電する。・・・・一方、正負に解離する2種類の解離基(たとえば-COOHと-NH_(2))をもつ両性粒子や下に示すような酸化物の場合には、曲線IIのようにpHの低い領域で正に帯電し、pHの増加とともに荷電が消失する点、すなわち等電点が存在し、高いpH領域で負に帯電する。・・・表2.3に代表的な酸化物の等電点を示す。」(第23?24頁「a.粒子表面の帯電」の欄)
そして、上記「表2.3」(第24頁)には、モンモリナイトの等電点がpH^(0)2.5であることが示されている。また、「図2.8」(第23頁)には、上記「曲線II」の場合の表面電位が、等電点pH^(0)を挟んで、低pHではプラス電位、高pHではマイナス電位となることが示されている。

(A20)甲第20号証(「化学大辞典3 縮刷版」(1963年9月15日)第936頁)
(A20-1)「酸化物」の欄に以下の記載がある。
「酸素と他の元素との化合物。狭義では酸素を負価の状態で含む化合物のみをいう。・・・酸化物は最も基本的な化合物であって、希ガスを除くほとんどすべての元素について知られている。元素間の直接結合により、あるいは酸化剤の作用、陽極酸化などにより生ずる。また酸素酸あるいは水酸化物の脱水、酸素酸塩の分解、他の化合物の酸素による分解・・などの反応の生成物としても得られる。相手の元素の原子価により表に示すような種々の型の酸化物がある。・・・・→酸素化合物」
そして、表には、「酸化物の型」として、一(二)酸化物(X_(2)O)、一酸化物(XO)、二酸化物(XO_(2))、五(二)酸化物(X_(2)O_(5))、三酸化物(XO_(3))、七(二)酸化物(X_(2)O_(7))、及び四酸化物(XO_(4))が、その化合物の例とともに示されている。

(A21)甲第21号証(特開昭64-16894号公報)
(A21-1)「カリウム四珪素マイカ、ナトリウム四珪素マイカ、天然金マイカ、ベントナイト、およびバーミキュライトから選ばれた1種または2種以上の粒子状の酸化物系層状物質10重量部と、酸化硼素、硼酸およびアルカリ金属硼酸塩から選ばれた1種または2種以上の結合剤1?3重量部とからなる、熱間加工用固体潤滑剤。」(特許請求の範囲)

(A22)甲第22号証(日本粘度学会編「粘度ハンドブック 第二版」1987年4月30日1刷発行(技報堂出版株式会社)第940?941頁)
(A22-1)「e.ベントナイト
ナトリウムモンモリロナイト
化学式 (OH)_(4)Si_(3)(Al_(10/3)Mg_(2/3))O_(20)・Na_(2/3)・・ゲル形成力:ベントナイトは水中で膨潤分散して負電荷を持つコロイド粒子となる。」(第940頁)

(A23)甲第23号証(前野昌弘著「そこが知りたい 粘土の科学」1993年7月30日(日刊工業新聞社)第45?57頁)
(A23-1)「図4.2に示すように、モンモリロナイトの陽イオン交換容量は、pH2.5?6の間では変化しないが、pH6以上になると増加する。・・・このように、陽イオン交換容量がpHによって変化しない負電荷が永久電荷であり、pHとともに増加する負電荷が変異電荷である。前者は粘土鉱物の同形置換によってできる負電荷であり、後者は破壊原子価によるものである。」(第49頁)
(A23-2)「表4.2に、モンモリロナイトのNa塩であるベントナイトの乾式摩砕による陽イオン交換能の変化を示す。これより、摩砕によって陽イオン交換能がいちじるしく増加することがわかる。」(第50頁)

(A24)甲第24号証(知的財産高等裁判所、平成17年(行ケ)第10406号、第3回弁論準備手続調書)
(A24-1)「甲第1号証に記載されたモンモリロナイトないしベントナイトが、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」に相当することは認める。」(被告陳述2)

(A25)甲第25号証(「岩波 理化学事典 第5版」1998年2月20日第5版発行(株式会社岩波書店)第1387頁「モンモリロナイト」の欄)(摘記略)

(A26)甲第26号証の1(再公表特許WO2003/42236)及び甲第26号証の2(米国特許2004/248270明細書)両者とも国際出願番号PCT/JP2002/11768に基く刊行物。(摘記略)

(A27)甲第27号証の1(特開2004-209469公報)及び甲第27号証の2(WO2004/56474パンフレット)両者とも特願2002-369424を優先権主張の基礎とする刊行物。(摘記略)

(A28)甲第28号証の1(特開平3-181627公報)及び甲第28号証の2(米国特許第5268398号明細書)両者とも特願平1-228153を優先権主張の基礎とする刊行物。(摘記略)


(IV-2)被請求人が提出した証拠方法
(B1)乙第1号証(「Phosphating and metal pre-treatment」第74?82頁)(日本語訳)。乙第1号証の2により著者:D.B.Freeman、頒布年:1986年、発行者:Woodhead-Faulkner Ltdであることを確認。
(B1-1)「りん酸マンガン処理
りん酸マンガン皮膜は一般的に純粋に腐蝕保護のために最良の性能を与えるものとして認められ、そして、広くこの目的の為に、特に米国及び英国で、使用されている。」(第75頁第10?13行)
(B1-2)「りん酸亜鉛処理
りん酸亜鉛処理は防錆目的の為に広く利用され、りん酸鉄やりん酸マンガン処理に比べより低温で作用するという利点がある。」(第75頁第34?37行)
(B1-3)ベアリング面潤滑について
「1943年、この目的のためにりん酸マンガン皮膜の方がりん酸亜鉛皮膜より効果的であることが・・・あきらかにされた。これは、りん酸マンガン処理の方が温度の安定性がよいこと、次に示すようにはるかに硬度が高いためである。・・・
りん酸マンガン皮膜は、りん酸亜鉛より艶だし作用の抵抗性をもっているということを CAVANAGHは示した。リん酸マンガン処理によって与えられるもう一つの利点は騒音減少作用である。これは冷蔵庫部品の様な物品にとって家庭環境ということで重要である。」(第78頁第20?33行)

(B2)乙第2号証(「表面技術vol.49,No8,1998」第3?9頁)
本件出願後の頒布物であり、以下の記載がある。
「エンジンに用いられる表面処理技術」と題する報文であり、以下の記載がある。
(B2-1)「リン酸マンガン皮膜は表1こ示すよぅな性質を有する無機結晶皮膜で、それ自身に潤滑性はないが、潤滑油をよく保持し、摺動部材同士の金属接触を阻止しながらなじみ過程を速やかに進行させる。」(第6頁右欄本文第12?16行)
そして、「りん酸マンガン皮膜の性質と特徴」を示す上記「表1」の用途欄には、「ステンレスを除く鉄系摺動部材、ギア、ベアリング、カム、タペットシムなど」と記載されている。

(B3)乙第3号証(「日本パーカライジング技報 第15号」平成15年1月1日(日本パーカライジング株式会社)第33?38頁)
本件出願後の頒布物であり、以下の記載がある。
(B3-1)「3.1 りん酸塩微粒子の平均粒径と表調効果
図1に、試験に用いた5種類のりん酸塩微粒子の粒度分布測定結果を粒径と通過分積算(%)の関係で示した。試料Aの平均粒径は26.22μmであり、図1から試料Aに含まれる微粒子の粒径は、ほとんどが5μm以上であることが解る。試料Bの平均粒径は7.00μmであり、同じく図1から試料Bに含まれる微粒子の粒径は、ほとんどが2μm以上であることが解る。試料Cの平均粒径は0.96μmであり、5μm以下の微粒子で構成されていた。試料D,Eの平均粒径はさらに小さく、試料Dで0.56μm、試料Eでは0.22μmであり、そのほとんどが1μm以下の微粒子で構成されていた。・・・
試料A?E、各々のりん酸塩微粒子を表面調整剤に用いて、りん酸亜鉛処理を行ったテストピースの皮膜外観と皮膜重量、及び結晶サィズを表2に、SEMで観察した結晶外観を図2に示す。 さらに、用いたりん酸塩微粒子の平均粒径と皮膜重量の関係を図3に示す。表2に示したとおり、試料Aのりん酸塩粒子を表面調整剤に用いてりん酸亜鉛処理を行ったテストピースの表面には、乾燥後に黄錆が発生していた。また、りん酸亜鉛処理後もテストピース表面は金属光沢を有しており、りん酸亜鉛皮膜の析出がほとんど認められなかった。試料Bを用いた水準のりん酸亜鉛処理後の外観は均一であったが、若千黒色がかった灰色となっていた。試料C,D及びEを用いた水準のりん酸亜鉛処理後の外観は、何れも均一な灰色であった。また図3に示した通り、表面調整処理に用いたりん酸塩微粒子の平均粒径が小さくなるにしたがって、得られたりん酸亜鉛皮膜の皮膜重量も小さくなる傾向を有していた。皮膜重量が小さくなった原因は、図2からも明らかな様に、得られたりん酸亜鉛皮膜結晶の結晶サイズが小さくなった為である。」(第34頁右欄?第35頁左欄)
そして、表1及び2、図2及び3には、平均粒径(26.22μm、7.00μm、0.96μm、0.54μm、0.22μm)と、粒度分布(図1)、皮膜外観、皮膜重量及び結晶サイズ(表2)、SEMによる結晶外観(図2)、及び皮膜重量(図3)との関係が示されている。


V.訂正の適否について
(V-1)訂正の内容
上記平成17年6月3日付け訂正請求書による訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a(特許請求の範囲の訂正)
(a-1)請求項3を削除し、それ以下の請求項番号を繰り上げるとともに、引用する請求項番号を新請求項番号に整合させ、
(a-2)請求項1中の「2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子と」を、「2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと」と訂正し、
(a-3)新請求項1?9において、「金属のりん酸塩皮膜化成処理前の」を、「金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の」と訂正し、
これにより、特許請求の範囲を次のとおりに訂正する。

「【請求項1】粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項2】前記粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子の濃度が0.001?30g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項3】前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩の濃度が0.5?20g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項4】前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩を含む、請求項1または請求項3に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項5】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項6】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の濃度が0.001?5g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項7】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子がSi、B、Ti、Zr、Al、Sb、Mg、Se、Zn、Sn、Fe、Mo、およびVの酸化物の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項8】金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面を請求項1?7のいずれか1項に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整方法。
【請求項9】金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、金属表面の活性化と清浄化を兼ねて、あらかじめ該金属表面をノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、ビルダーを含む請求項1?7に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整方法。」

訂正事項b(特許請求の範囲以外の訂正)
(b-1)発明の名称「りん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」を、「りん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」と訂正する。

(V-2)訂正の適否について
(V-2-1)訂正の目的、訂正の範囲、実質上の拡張・変更の有無について
請求項3の削除及びそれに伴う請求項番号の整合に係る訂正事項(a-1)、及び、りん酸塩粒子の限定に係る訂正事項(a-2)は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、りん酸塩皮膜についての限定に係る訂正事項(a-3)、及び発明の名称の訂正に係る訂正事項(b-1)は、不明りょうな記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、これらの訂正は、訂正前の願書に添付した明細書、特に、その請求項3、段落【0019】及び、実施例、比較例の結果を示す「表1」の記載から見て、当該明細書に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとはいえない。
したがって、本訂正は特許法第134条の2第1項ただし書き、及び同条第5項で準用する特許法第126条第3、4項の規定に適合するので、本訂正を認める。

VI.本件発明
上記「V.訂正の適否について」の欄に記載したとおり、平成17年6月3日付け訂正請求書による訂正は認められるので、本件各発明は、平成17年6月3日付け訂正請求書により訂正された明細書(以下、「明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載した事項により特定されるとおりの次のものである。(以下、「訂正発明1」?「訂正発明9」という。)

「【請求項1】粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項2】前記粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子の濃度が0.001?30g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項3】前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩の濃度が0.5?20g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項4】前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩を含む、請求項1または請求項3に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項5】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項6】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の濃度が0.001?5g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項7】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子がSi、B、Ti、Zr、Al、Sb、Mg、Se、Zn、Sn、Fe、Mo、およびVの酸化物の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項8】金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面を請求項1?7のいずれか1項に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整方法。
【請求項9】金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、金属表面の活性化と清浄化を兼ねて、あらかじめ該金属表面をノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、ビルダーを含む請求項1?7に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整方法。」


VII.対比・判断
(VII-1)訂正発明1について
訂正発明1と、甲第2号証に記載されたものとを対比すると、甲第2号証には、リン酸塩処理に先立って活性剤含有水性予洗浴により金属表面を前処理する方法において、モンモリロナイトを付加的に含む予洗浴を金属表面に接触させる金属表面の前処理方法に係る発明が記載されており(摘記A2-1:第1項)、併せて、リン酸亜鉛溶液によるリン酸塩処理に先立って、微細に分散させた第三級リン酸亜鉛を含む予洗浴を金属表面に接触させることが記載されている(摘記A2-1:第4項)。
そして、当該予洗浴に含まれる「微細に分散させた第三級リン酸亜鉛」は、訂正発明1における、「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属リン酸塩粒子であって亜鉛を含むもの」に該当し、そして、甲第2号証の予洗浴は、訂正発明1でいう表面調整用前処理液に相当する。してみれば、甲第2号証には、訂正発明1における、「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のリン酸塩粒子であって亜鉛を含むものを含有する、金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」が記載されているといえる。
また、甲第2号証には、予洗浴のpH値について、通常弱アルカリ性に調節し、殆どの場合約7.1?10とすることが記載され(摘記A2-8)、このpH値は訂正発明1のpH値(4?13)と重複している。
また、甲第2号証には、アルカリ金属リン酸塩を含有させること(摘記A2-5)、及び、アルカリ金属のオルトリン酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩を添加すること(摘記A2-7)が記載されており、これらのアルカリ金属リン酸塩、並びにアルカリ金属のオルトリン酸塩及びアルカリ金属の炭酸塩は、訂正発明1の「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物」におけるアルカリ金属塩に該当する。
一方、甲第2号証には、金属のりん酸塩粒子の粒径を「5μm以下」とすること、及び、前処理液が「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種」を含有することを明示する記載は見当たらない。

以上のことからすると、訂正発明1は、甲第2号証に記載されたものと、
「少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」の点で一致し、そして、以下の点で相違している。
(イ)訂正発明1では、りん酸塩粒子の粒径を「5μm以下」と特定しているのに対して、甲第2号証には、その様に粒径を特定する記載が見当たらない点、及び、
(ロ)訂正発明1では、前処理液がさらに「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種」の浴成分を含有するものであるのに対して、甲第2号証には、当該浴成分を含有することの記載が見当たらない点。

そこで、これら相違点について、以下検討する。
相違点(イ)について
本件特許の明細書には、りん酸塩粒子の粒径について、「短時間で微細なりん酸塩結晶を析出させるためには、りん酸塩化成処理前に結晶の核を多く付与することが効果的であり、その為には核となる物質の粒径が小さい方が有利であることは言うまでもない。また、不溶性物質を水溶液中で安定に分散させるためにも本発明で用いられる2価もしくは3価の金属のりん酸塩の粒径は5μm以下であることが望ましい。」(段落【0020】)と記載されて、りん酸塩化成処理前に結晶の核を多く付与する点、及び、不溶性物質を水溶液中で安定に分散させる点から、粒径を5μm以下とする理由が説明されている。
一方、甲第2号証には、「微細に分散させた第三級リン酸亜鉛」(摘記A2-1)と記載されて、リン酸亜鉛を微細に分散させることが説明されているが、その具体的な粒径は不明である。

そこで、この粒径の点につき更に検討する。
(イ-1)相違点(イ)の検討1(甲第1号証との関係)
甲第1号証には、鉄またはスチールの表面を、微細化不溶性リン酸マンガンの水溶性懸濁液により処理し、次いでリン酸塩処理するリン酸マンガン皮膜の形成方法に係る発明が記載され(摘記A1-1)、そして、上記微細化不溶性リン酸マンガンの粒子サイズについて、「粒子サイズは、できるだけ小さいものであるべきである」(摘記A1-4)との記載とともに、「オルトリン酸マンガンの50%が3.5μm未満の粒子サイズを有し、かつ90%が30μm未満である場合に、非常に良好な結果が得られている」(摘記A1-4)と記載されている。
すなわち、甲第1号証には、微細化不溶性リン酸マンガンの粒子サイズについて、できるだけ小さいものであるべきであることと共に、50%が3.5μm未満の粒子サイズを有することが好ましいことが記載されているといえる。ただ、甲第1号証の記載では、「90%が30μm未満である」と記載されていることからみて、3.5μm以上のサイズの粒子が混在することを排除するものとはいえない。

被請求人は、この点について、甲第1号証では「少なくとも、粒径が5μm以上のりん酸塩粒子が相当量混入することを認めている点で相違する。」として、両者の相違を主張している。
これについて検討すると、本件特許の明細書に、「5μm以上の粒径の2価もしくは3価の金属のりん酸塩が本発明における表面調整用前処理液中に存在しても、本発明の効果に対しては何ら影響を与えることは無く」(段落【0020】)と記載されていることからすれば、訂正発明1は、5μm以上の大きな粒子の混在を全く排除するものとはいえない。
また、被請求人は、「甲第1号証に開示された粒径分布は本件発明と全く異なっており」として、甲第1号証との粒径分布の相違を主張している。
しかし、訂正発明1では、りん酸塩粒子の粒径については「粒径が5μm以下」と特定するのみで、粒径分布は発明特定事項ではない。したがって、粒径分布が相違すると被請求人が上記主張する点は、訂正発明1の発明特定事項に基かない主張であり採用できない。
以上のとおりであるから、粒径の点で、訂正発明1と甲第1号証に記載されたものとは相違するとすることはできない。
そして、本件明細書の記載を見ても、上記相違点(イ)のとおりに粒径を「5μm以下」と特定した点により、当業者が予期し得なかった効果を奏したと認め得る記載は見当たらない。
なお、当該甲第1号証は、りん酸塩が、リン酸マンガンである場合についてのものであり、亜鉛を含むりん酸塩である場合についてのものではない。しかし、先の甲第2号証には、予洗浴中に含有させる活性剤として、微細に分散させた第三級リン酸亜鉛及び第三級リン酸亜鉛鉄(II)とともに、微細に分散させた第三級リン酸マンガン及びリン酸マンガン鉄(II)(摘記A2-1、A2-2)が記載されて、活性剤の金属が亜鉛である場合とマンガンである場合とが列挙され、しかも、これら両者が、いずれも、りん酸塩処理に先立って金属表面を活性化する活性剤として共通するものであることが記載されている(摘記A2-2)。
してみれば、甲第1号証に記載された、リン酸マンガンの粒径についての知見を、甲第2号証に記載されたリン酸亜鉛の場合に適用することに、格別の困難性があるとすることはできない。

以上のとおり、りん酸塩粒子の粒径を「5μm以下」と特定することに格別の困難性があるとすることはできず、したがって、上記相違点(イ)は、当業者が容易になし得たことである。

(イ-2)相違点(イ)の検討2(甲第3号証との関係)
甲第3号証には、チタン-リン酸塩のコロイド水溶液で表面調整することにより、リン酸塩結晶の核生成と成長が行われる鋼板表面の活性点が著しく増加し、結晶粒径が微細で、皮膜重量の低い皮膜が形成されることが記載されており、併せて、チタン-リン酸塩のコロイド粒径と皮膜重量の関係を示す図2に基づき、コロイドの平均粒子径が大きくなるにしたがい、リン酸亜鉛皮膜の皮膜重量が増加し、その効果が減少することが記載されて(摘記A3-1)、チタン-リン酸塩コロイドの粒子径が小さいことが好ましいことが説明されている。
そして、当該図2には、コロイドの平均粒子径が数百nm(0.数μm)?10000nm(10μm)の範囲であることが示され、そして、この粒子径範囲は、訂正発明1の粒径範囲(5μm以下)と重複している。

この甲第3号証の記載は、コロイド水溶液が、チタン-リン酸塩である場合についてのものであり、訂正発明1のような亜鉛を含むりん酸塩である場合についてのものではない。
これについて検討すると、先の甲第2号証には、「微細に分散させたリン酸チタン又は微細に分散させた第三級リン酸亜鉛を含む予洗浴を金属表面に接触させる」こと(摘記A2-1)、及び、「リン酸亜鉛溶液によるリン酸塩処理の活性化のためには、微細に分散させたリン酸チタン、第三級リン酸亜鉛(ホパイト)及び第三級リン酸亜鉛鉄(II)(ホスホフィライト)を含む予洗浴での前処理が適当であるということが従来知られている」こと(摘記A2-2)が記載されている。したがって、甲第2号証には、リン酸チタンを用いた場合と、リン酸亜鉛ないしリン酸亜鉛鉄とが、予洗浴成分として同様に作用し用いられることが示されているといえる。そして、この微細に分散させたリン酸亜鉛ないしリン酸亜鉛鉄は、訂正発明1でいう「金属のリン酸粒子であって亜鉛を含むもの」に該当する。
してみれば、甲第3号証の上記粒径(0.数μm?10μm)の記載に基づいて、その粒径範囲と重複する「5μm以下」とすることに、格別の困難性があるとすることはできない。
そして、本件明細書の記載を見ても、粒径を「5μm以下」と特定した点により、当業者が予期し得なかった効果を奏したと認め得る記載は見当たらない。
したがって、甲第3号証に開示された粒径についての知見を、甲第2号証に記載されたリン酸亜鉛又はリン酸亜鉛鉄の場合に適用し、相違点(イ)のとおり、りん酸塩の粒径を「5μm以下」と特定することは、当業者が容易になし得たことである。


相違点(ロ)について
相違点(ロ)に係る成分は、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種」の複数の成分を含むものであるところ、以下、単独の成分に分けて検討する。

(ロ-1)「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」について
甲第2号証には、予洗浴にモンモリロナイトないしベントナイトを含有させることが記載され(摘記A2-1?A2-4)、また、モンモリロナイトないしベントナイトは分散度の大きいものが特に効果的であること、及び、予洗浴内でできるだけ微細に分散される必要があること(摘記A2-3)が記載されている。

請求人は、上記モンモリロナイト、ベントナイトについて、『甲第2号証記載の発明におけるモンモリロナイト、ベントナイトは、本件特許発明における「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」に相当する』と主張している。
そこで、これについて検討すると、モンモリロナイト、ベントナイトについて、甲第2号証の、分散度の大きいものが特に効果的であること、及び予洗浴内でできるだけ微細に分散される必要があること」との上記した記載からみて、甲第2号証には、モンモリロナイト、ベントナイトが、「分散した微粒子」といえることが記載されているといえる。

一方、甲第19号証には、「液相中の粒子は多かれ少なかれ帯電する」、及び、「下に示すような酸化物の場合には、曲線IIのようにpHの低い領域で正に帯電し、pHの増加とともに荷電が消失する点、すなわち等電点が存在し」と記載され(摘記A19-1)、「代表的な酸化物の等電点を示す」とした「表2.3」(第24頁)には、「モンモリナイト」(モンモリロナイトに同じ。甲第25号証?甲第28号証の2参照。)が挙げられて、その等電点(pH^(0)2.5)が示されている。そして、当該等電点と、「図2.8」(第23頁)の曲線IIをあわせ見ると、モンモリロナイトは、酸化物であるとともに、その等電点のpH^(0)2.5を境として、それよりも高pH領域(アルカリ寄り)では、マイナス電位となることが理解できる。してみれば、モンモリロナイトは、訂正発明1で規定するpH領域(4?13)では、アニオン性に帯電しているといえる。
したがって、甲第2号証に記載された「モンモリロナイト」は、請求人が主張するとおり、訂正発明1における「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」に該当するといる。
そしてこの認定は、第1回口頭審理での陳述どおり、被請求人が認める点でもある(摘記A24-1参照。)。
よって、上記相違点(ロ)は、実質的な相違点とすることはできない。

(ロ-2)「アニオン性の水溶性有機高分子」及び「ノニオン性の水溶性有機高分子」について
甲第2号証には、「効果を高めるための他の既知添加剤としては、特にゼラチン、ポリアクリル酸エステル及びその他の水溶性有機ポリマーなどがある。」(摘記A2-6)と記載されている。
請求人は、この「水溶性有機ポリマー」の記載に基づき、甲第2号証記載の発明における「水溶性有機ポリマー」は、本件特許発明における「アニオン性の水溶性有機高分子」、「ノニオン性の水溶性有機高分子」を包含すると主張している。

そこで、これについて検討すると、甲第6号証は、水溶性・水分散型高分子材料について記載した一般文献であって、当該甲第6号証には、有機系合成水溶性高分子(即ち、水溶性有機ポリマー)は、イオン性の高分子と、非イオン性(ノニオン性)の高分子とに大別でき、さらに、イオン性の高分子は、アニオン性とカチオン性のものに分類されることが記載されており(摘記A6-1)、水溶性有機ポリマーとして、アニオン性のもの及びノニオン性のものが存在することは、本件出願時、周知であったと認めることができる。なお、本甲第6号証は、本件出願後に発行された刊行物であるが、水溶性有機ポリマーの種類に係る上記事実は、本件出願時に既に周知であったと認めることができる(要すれば、特開昭62-113140号公報参照)。一方、甲第2号証には、上記「水溶性有機ポリマー」から、アニオン性及びノニオン性の水溶性有機ポリマーを除外すべきとする特段の記載は見当たらない。
してみれば、してみれば、甲第2号証に記載された水溶性有機ポリマーとして、周知のアニオン性の水溶性有機ポリマー又はノニオン性の水溶性有機ポリマーを用いることに、格別の困難性があるとすることはできない。

以上、(ロ-1)項及び(ロ-2)項に記載したとおり、相違点(ロ)については、甲第2号証に記載のものと実質的な相違点を構成しないものであり、また、周知の事項に基づき当業者が容易に想到できたことである。

以上のとおり、相違点(イ)は、「相違点(イ)について」の欄に記載したとおり当業者が容易になし得たことである。また、相違点(ロ)は、「相違点(ロ)について」の欄に記載したとおり実質的な相違点を構成しないものであり、また当業者が容易に想到できたことである。
以上のとおりであるから、甲第6号証及び甲第19号証を参酌すれば、訂正発明1は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、訂正発明1についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。


(VII-2)訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1における上記「粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子」について、その濃度が「0.001?30g/L」であるとして、訂正発明1を上記りん酸塩粒子の濃度の点でさらに限定した発明である。
このりん酸塩粒子の濃度の点について検討すると、甲第1号証には、懸濁液中のオルトリン酸マンガンの量は「数mg/L?約5g/L」であってよいこと(摘記A1-4)が記載されている。
一方、甲第2号証には、「活性剤処理によって金属表面上に新たに生じた結晶核が固定され、リン酸塩処理中にこの核からリン酸塩結晶が成長しはじめるという事実に基いて説明される。活性剤としてはいくつかの物質が知られている。リン酸亜鉛溶液によるリン酸塩処理の活性化のためには、微細に分散させたリン酸チタン、第三級リン酸亜鉛(ホパイト)及び第三級リン酸亜鉛鉄(II)(ホスホフィライト)を含む予洗浴での前処理が適当であるということが従来知られている。リン酸マンガン溶液中での層形成は、微細に分散させたリン酸マンガン又はリン酸マンガン鉄(II)(フローリット)を含む予洗浴で前処理することにより促進される。」(摘記A2-2)と記載されて、リン酸マンガンとりん酸亜鉛は共に活性剤として作用する成分であることが記載されている。
してみれば、オルトリン酸マンガンについての上記添加量についての知見を、りん酸亜鉛に適用して、「数mg/L?約5g/L」の濃度にしてみることは当業者が容易に想到できることであり、そして、この濃度は訂正発明2で特定する濃度である「0.001?30g/L」と重複している。
なおかつ、本件明細書の記載を見ても、当該濃度範囲としたことにより、格別の効果が奏したと認めることはできない。
以上のとおりであるから、粒子の濃度を限定した点には格別の困難性はなく、したがって、訂正発明2は、「(VII-1)訂正発明1について」の欄に記載したと同様、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、訂正発明2についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。


(VII-3)訂正発明3について
訂正発明3は、請求項1を引用し、「前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩の濃度が0.5?20g/Lである」として、「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩」の塩の濃度の点につき、訂正発明1を限定した発明である。
そこで、この濃度の点について、以下検討する。
(1)検討その1
甲第1号証には、懸濁液中にピロリン酸塩アルカリ金属塩を添加することが記載されており(摘記A1-5)、そして、この「ピロリン酸アルカリ金属塩」は、訂正発明1及び3でいう「アルカリ金属塩」の一種に相当する化合物である。
そして、甲第1号証には、このピロリン酸アルカリ金属塩の含量は、「好ましくは0.5?5g/L」(摘記A1-6)であることが記載されており、これは、訂正発明3で特定する濃度(0.5?20g/L)と重複している。
なおかつ、第1号証に記載された上記懸濁液と、訂正発明3における前処理液は、いずれもリン酸塩処理の前処理液である点で共通している。
してみれば、甲第1号証に記載されたアルカリ金属塩の含量(0.5?5g/L)の知見に基づいて、アルカリ金属塩の濃度を、訂正発明3のとおり特定することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)検討その2
甲第2号証には、「実施例1」の予洗浴にNa_(4)P_(2)O_(7)(ピロリン酸ナトリウム)を4g/l添加した例が記載され(摘記2-9)、また、「実施例2」の予洗浴にNa_(2)HPO_(4)(リン酸水素ナトリウム)を2.2g/l及びNa_(2)CO_(3)(炭酸ナトリウム)を0.5g/l(合計量2.7g/l)添加した例が記載されており(摘記2-9)、これらNa_(4)P_(2)O_(7)、Na_(2)HPO_(4) 及びNa_(2)CO_(3)はいずれもアルカリ金属塩の一種である。そして、実施例1の上記アルカリ金属塩の添加量(4g/l)、及び、実施例2の上記アルカリ金属塩の合計添加量(2.7g/l)は、訂正発明3で特定する「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩」の濃度である「0.5?20g/L」に包含されている。
してみれば、「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩」の濃度を「0.5?20g/L」とすることに、格別の困難性があるとすることはできない。

以上、(1)項及び(2)項に記載したとおりであるから、訂正発明3は、上記「(VII-1)訂正発明1について」の欄で訂正発明1について記載したと同様、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、訂正発明3についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものであ

(VII-4)訂正発明4について
訂正発明4は、請求項1又は3を引用し、「前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩を含む」として、本件発明1又は3をさらに化合物の点で特定した発明である。
これについて検討すると、甲第2号証には、「アルカリ金属の炭酸塩」(摘記A2-7)を添加することが記載され、「実施例2」にはNa_(2)CO_(3)(炭酸ナトリウム)を添加した具体例(摘記A2-9)が示されている。そして、これらアルカリ金属の炭酸塩及びNa_(2)CO_(3)は、訂正発明4で上記特定するアルカリ金属塩が炭酸塩である場合に相当する。してみれば、上記のように化合物を特定した点に格別の困難性があるとすることはできない。
以上のとおりであるから、訂正発明4は、上記「(VII-1)訂正発明1について」の欄で訂正発明1について記載したと同様、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、訂正発明4についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものであ

(VII-5)訂正発明5について
訂正発明5は、請求項1を引用し、「前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である」として、酸化物微粒子の平均粒径の点につき、本件発明1をさらに限定した発明である。
一方、請求人は、訂正発明5(訂正前の請求項6に係る発明(「訂正前発明6」という。)に対応する。)について、
(1)訂正前発明6は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当すると主張し、また、
(2)訂正前発明6は、甲第1号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張している。
そこで、請求人の主張について、以下判断する。

主張(1)について
甲第2号証に記載されたモンモリロナイトないしベントナイト(摘記A2-1?A2-4)は、上記「(VII-1)訂正発明1について」の「相違点(ロ)について」の欄で検討したとおり、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」に該当する成分である。
しかし、甲第2号証にはモンモリロナイト、ベントナイトの平均粒子径を「0.5μm以下」とする記載は見当たらない。
請求人は、粒径の点について、甲第5号証のスメクタイト系粘度鉱物の直径が20?500mμであることの記載(摘記A5-2)を引用しているが、甲第5号証は特定の金属用アルカリ性液体洗浄剤についての発明を記載したものであるので(摘記A5-1)、そこに用いられているスメクタイト系粘度鉱物の直径が、甲第2号証に記載されたモンモリロナイトないしベントナイトの平均粒径を意味するということはできない。
そして、なおかつ、平均粒径を「0.5μm以下」としたことの効果は、本件明細書に記載された実施例における皮膜結晶サイズ(C.S.)の小ささとして示されている。

主張(2)について
請求人は、甲第9号証に記載されているコロイド粒子(摘記A9-1、A9-2)の粒径が「10Å?10000Å」(摘記A9-2)を引用して、訂正発明5は、甲第1号証と甲第9号証に記載されたものから容易になし得たと主張している。
これについて検討すると、甲第9号証に記載されたものは、銅系金属表面に化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ無機化合物のコロイド粒子を付着させるものであって(摘記A9-12)、そのコロイド粒子は、訂正発明5のように、りん酸塩粒子を必須成分とする表面調整用前処理液に含有させたものではない。
してみれば、甲第1号証の記載内容を併せ見ても、甲第9号証に記載されたコロイド粒子の粒径から、訂正発明5において「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」の平均粒子径を「0.5μm以下」とする論拠は見いだせない。

以上、「主張(1)について」及び「主張(2)について」の欄に記載したとおりであるから、訂正発明5は、請求人が主張する理由及び証拠によっては無効とすることはできない。

(VII-6)訂正発明6について
訂正発明6は、請求項1を引用して「前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の濃度が0.001?5g/Lである」として、酸化物微粒子の平均粒径の点につき、訂正発明1をさらに特定した発明である。
これについて検討すると、モンモリロナイトないしベントナイトは、上記「(VII-1)訂正発明1について」の「相違点(ロ)について」の欄で検討したとおり、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」に該当する成分である。そして、甲第2号証には、0.01?10g/lの量のモンモリロナイトないしベントナイトを含有する予洗浴が好ましいことが記載されており(摘記A2-4)、この量は訂正発明6で特定する濃度(0.001?5g/L)と重複している。
してみれば、訂正発明6で特定する上記濃度は、甲第2号証に記載された濃度と一致しており、また、これに基づいて当業者が容易に設定できたものである。
したがって、訂正発明6は、上記「(VII-1)訂正発明1について」の欄で訂正発明1について記載したと同様に、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、訂正発明6についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

(VII-7)訂正発明7について
訂正発明7は、請求項1を引用して「前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子がSi、B、Ti、Zr、Al、Sb、Mg、Se、Zn、Sn、Fe、Mo、およびVの酸化物の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする」として、酸化物微粒子の組成の点につき、訂正発明1をさらに特定した発明である。
一方、甲第2号証に記載されたモンモリロナイトないしベントナイト(摘記A2-1?A2-4)は、上記「(VII-1)訂正発明1について」の「相違点(ロ)について」の欄で検討したとおり、「アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子」に該当する成分である。
そこで、モンモリロナイトないしベントナイトについてさらに検討すると、甲第5号証には、スメクタイト系粘土鉱物は、一般式[Si_(8)(Mg_(a)Li_(b))O_(20)(OH)_(c)F_(4-c)]^(-x)Me^(+x)(0<a≦6、0<b≦6、4<a+b<8、0≦c≦4、x=12-2a-b、Me:Na、K、LiおよびNH_(4)の少なくとも1種)を有する粘土鉱物であり、具体的な例としてはモンモリロナイトが挙げられること(摘記A5-2)が記載されており、したがって、モンモリロナイトがSi、Mgを含む粘土鉱物であることが記載されているといえる。また、甲第19号証には、モンモリロナイトが酸化物であること(摘記A19-1)、甲第21号証にはベントナイトが酸化物系層状物質であること(摘記A21-1)、甲第22号証にはナトリウムモンモリロナイト(すなわち、モンモリロナイトのナトリウム塩)の化学式が(OH)_(4)Si_(3)(Al_(10/3)Mg_(2/3))O_(20)・Na_(2/3)であり、また、ベントナイトは水中で負電荷を持つこと(摘記A22-1)が記載されている。そして、これら、甲第5号証及び甲第19、21及び22号証の記載を参酌すれば、モンモリロナイトは、少なくともSi、Mg及びAlの酸化物から選ばれる1種を含むものということができる。
してみれば、訂正発明7の上記酸化物微粒子の組成についての特定事項は、モンモリロナイトないしベントナイトを包含したものといえる。
したがって、訂正発明7は、上記「(VII-1)訂正発明1について」の欄で訂正発明1について記載したと同様に、甲第1?3、6及び19号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、訂正発明7についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

(VII-8)訂正発明8について
訂正発明8は、訂正発明1?7のいずれかの表面調整用前処理液を用いて、「金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面を請求項1?7のいずれか1項に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整方法。」とした発明である。
これについて検討すると、先の「(VII-1)訂正発明1について」の欄に記載したとおり、訂正発明1は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。
一方、甲第1号証には、鉄またはスチールの表面上におけるリン酸マンガン皮膜の形成方法であって、前記表面を微細化不溶性オルトリン酸マンガンの水溶性懸濁液により処理し、次いで前記処理された表面を酸性リン酸マンガンコーティング水溶液によりリン酸塩処理することが記載され(摘記A1-1)、甲第2号証には、リン酸塩処理に先立って活性剤含有水性予洗浴により金属表面を前処理する方法において、モンモリロナイトないしベントナイトを付加的に含む予洗浴を金属表面に接触させる金属表面の前処理方法が記載され(摘記A2-1?A2-4)、また、甲第3号証には、リン酸塩処理前の被処理物表面の活性化処理として、チタニウムコンパウンドと第2リン酸ナトリウムおよびピロリン酸ナトリウムを含む水溶液に浸漬し表面調整する方法が記載されており(摘記A3-1)、したがって、これら甲第1?3号証は、いずれも、リン酸塩処理前の前処理液について記載したものであるといえる。
してみれば、訂正発明8は、上記訂正発明1と同様、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、訂正発明8についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

(VII-9)訂正発明9について
訂正発明9は、請求項1?7項を引用して、「金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面をノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、請求項1?7に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整方法。」とした発明であり、内容的には、訂正発明8をさらに特定した発明に該当する。
なお、本件明細書の段落【0016】の「ノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、ビルダーを添加することによって金属表面の清浄化と活性化を兼ねた脱脂兼表面処理方法にも使用することができる」、段落【0038】の「脱脂兼表面調整工程における洗浄力を高めるために公知の無機アルカリビルダー、有機ビルダー、及び界面活性剤等を添加しても構わない」、及び、段落【0058】の「実施例15 実施例14の処理液に界面活性剤(ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル:EO11モル)を2g/L添加し・・・脱脂兼表面調整処理を行った。」との記載からみて、上記「ノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物」は、表面調整用前処理液に混合して用いるものと解される。
そこで検討すると、
(その1)甲第1号証には、「懸濁液の安定性は、界面活性剤、特にノニオン性界面活性剤の添加により増大しうる」(摘記A1-7)と記載されており、したがって甲第1号証にはノニオン性界面活性剤を含有させる点が記載されているといえる。
してみれば、訂正発明9は、上記「(VII-8)訂正発明8について」に記載したと同様、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。

(その2)甲第2号証には、効果を高めるための添加剤として水溶性有機ポリマーが挙げられている(摘記A2-6)。一方、水溶性有機ポリマーとして、ノニオン性界面活性剤は周知のものである。(要すれば、特開昭49-52735号公報、特開平1-219170号公報、特開平3-138377号公報参照。)してみれば、甲第2号証に記載された予洗浴(摘記A2-1)に、さらにノニオン性界面活性剤を混合することは、当業者が容易に想到できることである。
したがって、訂正発明9は、上記「(VII-8)訂正発明8について」に記載したと同様、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。

以上、(その1)及び(その2)に記載したとおりであるから、訂正発明9は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、したがって、訂正発明9についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。


VIII.理由(vi)及び(viii)(特許法第36条第4項及び第6項の規定に基く理由)について
請求人は、無効理由(vi)及び(viii)として、以下のとおり、本件明細書の記載不備を主張している。
(a)請求項1?10における「粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子」について、りん酸塩粒子の濃度に関して、請求項1に係る発明を実施可能な開示がなされておらず、また、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっている。
(b)請求項1?10における「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物」について、当業者が本件特許発明を実施可能なように開示されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっている、
(c)請求項1?10における「アニオン性の水溶性高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤」 について、当業者が実施できる程度に開示されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっており、発明が不明確となっている。
(d)請求項10は、請求項の記載が不明確であって、特許を受けようとする発明が明確に記載されたものではない。

以下、これらの点について判断する。
主張(a)について
本件明細書には、表面調整用前処理液についての従来の問題点を挙げ(段落【0002】?【0012】)、そして、「粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子」を含む点により、上記の課題を解決し、本件発明の目的を達成することが説明されている(段落【0013】)。
当該りん酸塩粒子の含有量は、これらの発明の課題及び目的に寄与する量であることは明らかであり、また、実施例にも具体的に示されている。
そして、当該りん酸塩粒子の含有量は、本件明細書のこれら記載に基いて、当業者が適宜決め得る程度のことであり、これを発明特定事項であるとすべき理由はない。
以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲には、請求人が主張する不備があるとすることはできず、主張(a)は採用できない。

主張(b)について
本件明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載した「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物」について、これら化合物を含む点により、従前の課題を解決を解決し、本件発明の目的を達成することが記載され(段落【0013】)、そして、当該「アルカリ金属塩」、「アンモニウム塩」として、より具体的な化合物が例示され(段落【0014】)、そして、当該化合物を用いた実施例が示されている。
してみれば、本件明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲には、請求人が主張する不備があるとすることはできず、したがって、主張(b)は採用できない。

主張(c)について
本件明細書には、「本発明における表面調整用前処理液の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性を高める効果は、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤などを用いても同様に得られる。」と記載されて、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤についての効果が説明されている。そして、当該化合物は、実施例15(段落【0058】)に具体的に示されているほか、各化合物自体は周知のものである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲には、請求人が主張する不備があるとすることはできず、したがって、主張(c)は採用できない。

主張(d)について
請求項9には、「金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面をノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、請求項1?7に記載の表面調整用前処理液と接触させること」が記載されている。一方、発明の詳細な説明には、これに対応して、「本発明品である表面調整用前処理液は・・・ノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物・・・を添加することによって金属表面の清浄化と活性化を兼ねた脱脂兼表面処理方法にも使用することができるものである。」(段落【0016】)、「脱脂兼表面調整工程における洗浄力を高めるために公知の無機アルカリビルダー、有機ビルダー、及び界面活性剤等を添加しても構わない。」(段落【0038】)、及び、「実施例15 実施例14の処理液に界面活性剤(ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル:EO11モル)を2g/L添加し、処理温度40℃で脱脂を行わない塗油されたままのテストピースに対して脱脂兼表面調整処理を行った。」(段落【0058】)と記載されて、前処理液に、ノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物を添加することが記載されており、両者の記載に特段の矛盾があるとはいえない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲には、請求人が主張する不備があるとすることはできず、したがって、主張(d)は採用できない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由(vi)及び(viii)によっては、訂正発明1?9は無効とすることはできない。


IX.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の訂正後の請求項1?4及び6?9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるので、これら訂正後の請求項1?4及び6?9に係る特許は、特許法第123条第1項第2項に該当し、無効とすべきものである。
また、本件特許の訂正後の請求項5に係る特許については、請求人の主張する理由及び証拠によっては無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が10分の1、被請求人が10分の9を負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
りん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子であって亜鉛を含むものと、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物と、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種と、を含有し、pHを4?13に調整したことを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項2】前記粒径が5μm以下の少なくとも1種以上の2価もしくは3価の金属のりん酸塩粒子の濃度が0.001?30g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項3】前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩の濃度が0.5?20g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項4】前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩を含む、請求項1または請求項3に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項5】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下である、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項6】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の濃度が0.001?5g/Lである、請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項7】前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子がSi、B、Ti、Zr、Al、Sb、Mg、Se、Zn、Sn、Fe、Mo、およびVの酸化物の中から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液。
【請求項8】金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面を請求項1?7のいずれか1項に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整方法。
【請求項9】金属表面にりん酸塩化成皮膜を形成するにあたり、あらかじめ該金属表面をノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、請求項1?7に記載の表面調整用前処理液と接触させることを特徴とする金属のりん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄鋼、亜鉛めっき鋼板、及びアルミニウム等の金属材料の表面に施されるりん酸塩皮膜化成処理において、その化成処理前に化成反応の促進および短時間化ならびにりん酸塩皮膜結晶の微細化を図るために用いられる表面調整用前処理液及び表面調整方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】昨今、自動車のりん酸塩処理においては塗装後の耐食性向上のため、また、塑性加工用のりん酸塩処理においてはプレス時の摩擦低減またはプレス型寿命延長のために金属表面に微細で緻密なりん酸塩皮膜結晶を形成することが求められている。そこで、微細で緻密なりん酸塩皮膜結晶を得るために金属表面を活性化し、りん酸塩皮膜結晶析出のための核をつくる目的で、りん酸塩皮膜化成処理工程の前に表面調整工程が採用されている。以下に微細で緻密なりん酸塩皮膜結晶を得るために行われている一般的なりん酸塩皮膜化成工程を例示する。(1)脱脂(2)水洗(多段)(3)表面調整(4)りん酸塩皮膜化成処理(5)水洗(多段)(6)純水洗
【0003】表面調整工程は、りん酸塩皮膜結晶を微細で緻密なものにするために用いられる。その組成物に関しては、例えば米国特許第2874081号、第2322349号、及び第2310239号などにより公知となっており、表面調整剤に含まれる主たる構成成分としてチタン、ピロリン酸イオン、オルソリン酸イオン及びナトリウムイオン等が開示されている。上記表面調整組成物は「ジャーンステッド塩」と称され、その水溶液にはチタンイオンとチタンコロイドが含まれる。脱脂、水洗を行った金属を前記表面調整組成物の水溶液に浸漬もしくは、金属に表面調整用前処理液を噴霧することによってチタンコロイドが金属表面に吸着する。吸着したチタンコロイドが次工程のりん酸塩皮膜化成処理工程においてりん酸塩皮膜結晶析出の核となり、化成反応の促進およびりん酸塩皮膜結晶の微細化、緻密化が可能となる。現在工業的に利用されている表面調整組成物は全てジャーンステッド塩を利用したものである。しかしながら、ジャーンステッド塩から得られるチタンコロイドを表面調整工程に用いた場合、種々の問題点があった。
【0004】第1の問題点としては、表面調整用前処理液の経時劣化が挙げられる。従来の表面調整組成物を用いる場合、その組成物を水溶液とした直後はりん酸塩皮膜結晶の微細化及び緻密化に関して著しい効果を発揮する。しかし、水溶液とした後に数日間が経過すると、チタンコロイドが凝集することによって経過日数の間の表面調整用前処理液の使用の有無に関わらずその効果が失われ、得られるりん酸塩皮膜結晶は粗大化する。そこで、特開昭63-76883号公報には、表面調整用前処理液中のチタンコロイドの平均粒径を測定し平均粒径がある一定値未満になるように表面調整用前処理液を連続的に廃棄し、更に廃棄された分の表面調整組成物を補給することによって表面調整効果を維持管理する方法が提案されている。しかし、この方法は表面調整用前処理液の効果に対する要因を定量的に管理することを可能としたが、効果を維持するためには表面調整用前処理液を廃棄する必要があった。また、この方法で表面調整用前処理液の効果を水溶液とした初期と同等に維持するためには多量の表面調整用前処理液の廃棄を必要とする。従って、実際には使用される工場の排水処理能力の問題もあり、連続的な表面調整用前処理液の廃棄と全量更新を併用してその効果を維持している。
【0005】第2の問題点としては、表面調整用前処理液を建浴する際に使用される水質によって、その効果及び寿命が大きく左右されることが挙げられる。通常表面調整用前処理液を建浴する際には工業用水が使用される。しかし、周知の通り工業用水にはカルシウム、マグネシウム等の全硬度の元になるカチオン成分が含まれており、その含有量は使用される工業用水の水源によってまちまちである。ここで、従来の表面調整用前処理液の主成分であるチタンコロイドは、水溶液中でアニオン性の電荷を持つことにより、その電気的反発力によって沈降せずに分散していることが知られている。
【0006】従って、工業用水中にカチオン成分であるカルシウムやマグネシウムが多量に存在するとチタンコロイドはカチオン成分によって電気的に中和され、反発力を失い凝集沈殿を引き起こすことによってその効果を失う。そこで、カチオン成分を封鎖しチタンコロイドの安定性を維持する目的でピロリン酸塩等の縮合りん酸塩を表面調整用前処理液に添加する方法が提案されている。しかし、縮合りん酸塩を表面調整用前処理液に多量に添加すると縮合りん酸が鋼板表面と反応し不活性皮膜を形成するために、その後のりん酸塩皮膜化成処理工程において化成不良が発生する弊害を有する。また、極端にマグネシウムやカルシウム含有量が多い地域では純水を用いて表面調整用前処理液の建浴及び給水を行う必要があり経済面でも極めて不利である。
【0007】第3の問題点として、使用条件における温度、pHの制約が挙げられる。具体的には、温度35℃以上、pH8.0?9.5以外の範囲ではチタンコロイドが凝集し表面調整効果を発揮することが出来なくなる。従って、従来の表面調整組成物を使用する際には定められた温度、pH範囲で使用する必要があり、かつ、脱脂剤等に表面調整組成物を添加して金属表面の清浄化と活性化の効果を長時間に渡って一液で発揮させることは不可能であった。
【0008】第4の問題点として、表面調整用前処理液の効果によって得られるりん酸塩皮膜結晶の微細化の限界値が挙げられる。表面調整効果はチタンコロイドが金属表面に吸着してりん酸塩皮膜結晶析出の際の核を形成することにより得られる。従って、表面調整工程で金属表面に吸着したチタンコロイドの数が多ければ多いほど微細で緻密なりん酸塩皮膜結晶が得られる。その為には、表面調整用前処理液中のチタンコロイドの数を増やす、すなわちチタンコロイドの濃度を高めることが容易に考えられる。しかし、濃度を増すと表面調整用前処理液中でのチタンコロイド同士の衝突頻度が増し、衝突することによってチタンコロイドの凝集沈殿が発生する。現在使用されているチタンコロイドの濃度の上限は表面調整用前処理液中のチタンとして100ppm以下であり、それ以上にチタンコロイド濃度を増やすことによってりん酸塩皮膜結晶を微細化することは従来技術では不可能であった。
【0009】そこで、特開昭56-156778号公報および特開昭57-23066号公報では、ジャーンステッド塩以外の表面調整剤として鋼帯表面に2価または3価の金属の不溶性りん酸塩を含む縣濁液を加圧下に吹き付ける表面調整方法が開示されている。しかし、この表面調整方法は被処理物に縣濁液を加圧下に吹き付けて初めてその効果が発揮されるため通常の浸漬および噴霧処理によって施されるりん酸塩皮膜化成処理の表面調整には使用できなかった。
【0010】また、特公昭40-1095号公報では亜鉛めっき鋼板を高濃度の2価または3価金属の不溶性りん酸塩縣濁液に浸漬する表面調整方法が開示されている。しかし、この方法で示される実施例は亜鉛めっき鋼板に限られており、かつ表面調整効果を得るためには最低30g/L以上の高濃度の不溶性りん酸塩縣濁液を用いる必要があった。
【0011】従って、ジャーンステッド塩の問題点は種々提示されているにも関わらず、現在までのところ、それに代わりうる新しい技術は未だ提示されていないのである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は従来技術の抱える前記課題を解決し、りん酸塩皮膜化成処理において、化成反応の促進および短時間化、ならびに得られるりん酸塩皮膜結晶の微細化を図るために用いられる、経時安定性に優れた新規な表面調整用前処理液および表面調整方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者等は前記課題を解決するための手段について鋭意検討し、従来方法における問題点を解決し、かつ、りん酸塩皮膜結晶の品質をさらに向上させることが可能である新規な表面調整用前処理液および表面調整方法を完成するに至った。すなわち、本発明の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液は、粒径が5μm以下の粒子を含む2価もしくは3価の金属の少なくとも1種を含有するりん酸塩の1種以上と、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物を含有し、且つ、pHを4?13に調整したことを特徴とするものである。
【0014】前記5μm以下の粒子の濃度が0.001?30g/Lであり、前記2価もしくは3価の金属がZn、Fe、Mn、Ni、Co、Ca、およびAlの中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩がオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩であり、且つ、その濃度が0.5?20g/Lであることが好ましい。更に、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子の平均粒径が0.5μm以下であり、且つ、その濃度が0.001?5g/Lであることが好ましい。また、前記アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子がSi、B、Ti、Zr、Al、Sb、Mg、Se、Zn、Sn、Fe、Mo、およびV酸化物の中から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
【0015】本発明の金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整方法は、該金属表面を前記表面調整用前処理液と接触させることを特徴とするものである。
【0016】更に、本発明品である表面調整用前処理液は高pH域での安定性および高温下での安定性が従来品と比較して非常に優れているため、ノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤、またはこれらの混合物と、ビルダーを添加することによって金属表面の清浄化と活性化を兼ねた脱脂兼表面処理方法にも使用することができるものである。
【0017】
【作用】本発明における各々の成分の作用を詳細に説明する。
【0018】2価もしくは3価の金属の少なくとも1種を含有するりん酸塩の1種以上(以下、単に「2価もしくは3価の金属のりん酸塩」と称する)は本発明における必須成分である。本発明の目的は前記の通り、りん酸塩処理前に金属表面を活性化し、りん酸塩皮膜結晶析出のための核をつくるために用いられる表面調整用前処理液を提供することにある。本発明者等は、ある特定の濃度、粒径の2価もしくは3価の金属のりん酸塩はある特定の添加物を含む水溶液中で被処理物表面に吸着し後のりん酸塩皮膜結晶析出の際の核となり更にりん酸塩化成処理反応速度を高めることを発明したのである。
【0019】また、2価もしくは3価の金属のりん酸塩は、りん酸塩化成処理浴およびりん酸塩化成処理皮膜と類似した成分であるために、りん酸塩化成処理浴へ持ち込まれても化成処理浴に悪影響を与えず、また、りん酸塩皮膜中に核となって取り込まれてもりん酸塩化成皮膜の性能に悪影響を与えない利点も有している。本発明で用いられる2価もしくは3価の金属のりん酸塩としては下記に示す様な例が挙げられる。
2価もしくは3価の金属のりん酸塩
Zn3(PO4)2,Zn2Fe(PO4)2,Zn2Ni(PO4)2,Ni3(PO4)2,Zn2Mn(PO4)2,Mn3(PO4)2,Mn2Fe(PO4)2,Ca3(PO4)2,Zn2Ca(PO4)2,FePO4,AlPO4,CoPO4,Co3(PO4)2
【0020】また、金属表面に形成されるりん酸塩皮膜結晶の粒径は反応初期に析出した単位面積あたりの結晶数が多いほど微細になることが知られている。これは、りん酸塩皮膜の結晶の成長は隣り合う結晶同士が接触し金属表面を覆い尽くした時点で完結することから、反応初期に析出した結晶数が多ければ隣り合う結晶間の距離が小さくなり短時間で微細な結晶が金属表面を覆いつくすからである。従って、短時間で微細なりん酸塩結晶を析出させるためには、りん酸塩化成処理前に結晶の核を多く付与することが効果的であり、その為には核となる物質の粒径が小さい方が有利であることは言うまでもない。また、不溶性物質を水溶液中で安定に分散させるためにも本発明で用いられる2価もしくは3価の金属のりん酸塩の粒径は5μm以下であることが望ましい。ただし、仮に5μm以上の粒径の2価もしくは3価の金属のりん酸塩が本発明における表面調整用前処理液中に存在しても、本発明の効果に対しては何ら影響を与えることは無く、表面調整調整用水溶液中の5μm以下の微粒子の濃度が、ある濃度に達して初めてその効果が発揮されるのである。
【0021】また、本発明においては2価もしくは3価の金属のりん酸塩の粒径をコントロールすることによって、得られるりん酸塩皮膜結晶の粒径をコントールすることが可能である。微細に粉砕された2価もしくは3価の金属のりん酸塩を用いることによって前記した理由により極微細なりん酸塩結晶を析出させることが可能となるのである。
【0022】りん酸塩化成処理反応の反応速度は単位時間あたりに被処理物表面へ到達することができる活性りん酸塩イオン量で決定されFickの法則によって説明されている。
【0023】
【数1】

【0024】ここで、dnが大きいほどりん酸塩化成処理反応の反応速度は大きい。従って、りん酸塩化成処理の反応速度を大きくする為には(1)式の右辺の分母を小さくするか、もしくは分子を大きくする必要がある。しかし、分母は密着層の厚さであり密着層の厚さを小さくするためにはりん酸塩化成処理工程における攪拌を強くする等の物理的効果に頼らざるを得ない。また拡散係数はりん酸塩化成処理浴の浴組成で決定されるため大きく変わることはない。従って、分子を大きくする、すなわち反応速度を大きくするためにはりん酸塩化成処理浴中の活性りん酸塩イオン量を多くする以外に手段が無いわけである。
【0025】本発明者等は前記したFickの法則における反応初期の状態に着目して検討を行った。反応開始、すなわち金属がりん酸塩処理液と接触した段階でのCBは0であり、りん酸塩皮膜結晶が析出し得る濃度にCB達した時に初めてりん酸塩皮膜結晶の析出がおこる。従ってdnが大きい程CBが前記濃度に達するまでの時間が小さく、(1)式からCAが大きいほど初期反応は起こりやすいと考えられる。しかし、CAすなわち、りん酸塩化成処理浴中のりん酸塩イオン濃度をいたずらに高めると、加水分解による余剰スラッジの析出および得られるりん酸塩化成処理皮膜の粗大化を招くために得策ではない。そこで表面調整処理によってりん酸塩化成処理反応初期のCBを高めることと同じ効果が得られる手法を発明したのである。すなわち表面調整用前処理液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩は結晶析出の際の核となるだけではなく、りん酸塩化成処理液のpHが低いために、その一部が溶解し反応初期における金属表面のCBを高める働きを有するのである。従って、目標とするりん酸塩化成皮膜の成分と表面調整剤水溶液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の成分が近いほどその効果は大きくなるのである。
【0026】初期のりん酸塩化成処理反応におけるCBを高めるためには2価もしくは3価の金属のりん酸塩濃度としては0.001?30g/Lが好ましい。なぜならば、2価もしくは3価の金属のりん酸塩濃度が0.001g/Lよりも小さいと金属表面に吸着する2価もしくは3価の金属のりん酸塩量が少ないためにりん酸塩化成処理反応を促進し得る濃度までCBが高められず、また結晶の核となる2価もしくは3価の金属のりん酸塩の数も少ないために反応は促進されない。2価もしくは3価の金属のりん酸塩濃度が30g/Lよりも大きくても、それ以上はりん酸塩化成処理反応を更に促進する効果は得られないために経済的に不利なだけである。
【0027】次に本発明の必須成分としてアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはこれらの混合物(以下、単に「アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩」と称する)が挙げられる。従来技術にも示した通り過去においても2価もしくは3価の金属の不溶性のりん酸塩を加圧下に吹き付けて表面調整を行う方法が試みられている。しかし、過去の方法ではあくまでも加圧下に2価もしくは3価の金属の不溶性のりん酸塩を吹き付ける必要があった。加圧下に吹き付ける理由は、表面調整効果を発揮させるためには不溶性のりん酸塩を金属表面にぶつけて反応させる、またはショットピーニングの様に金属表面にキズをつける必要があったためである。また、浸漬処理によって表面調整効果を得るためには、従来方法では2価または3価の金属の不溶性のりん酸塩の濃度を極端に高める必要があった。
【0028】本発明者らは、アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩が存在すると2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が低濃度で、且つ金属表面に物理的な力を加えない浸漬処理においても表面調整効果が発揮されることを発明したのである。従って、本発明においては表面調整用前処理液に被処理物を接触させるだけで良く、従来技術とは全く反応機構を異にするものである。そのための必須成分としてアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩が必要なのである。
【0029】アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩としてはオルソりん酸塩、メタりん酸塩、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、およびホウ酸塩の群から選ばれる少なくとも1種の塩の形であれば特に限定されるものではない。また、前記アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩を2種以上組み合わせて使用しても何ら問題はない。
【0030】アルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩の濃度は0.5?20g/Lであることが望ましい。濃度が0.5g/L未満では被処理物を表面調整用前処理液に接触させただけでは表面調整効果が発揮されず、20g/L以上ではそれ以上の効果は期待できず経済的に不利なだけである。
【0031】本発明における表面調整用前処理液はpH4?13の範囲に調整する必要がある。pH4未満では表面調整用前処理液中で金属が腐食することによって酸化膜等が発生し、りん酸塩化成処理不良を起こす恐れがある。またpHが13を越える場合、りん酸塩化成処理水溶液は酸性であるために表面調整用前処理液がりん酸塩化成処理工程に持ち込まれた際にりん酸塩化成処理浴を中和し、浴のバランスをくずす恐れがあるからである。
【0032】本発明においてはアニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子を添加することが好ましい。以下のに酸化物微粒子の作用を説明する。
【0033】第1に酸化物微粒子は金属表面に吸着しりん酸塩結晶析出における核、すなわちマイクロカソードとなってりん酸塩化成処理反応の起点となる。
【0034】第2には表面調整用前処理液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性の向上が挙げられる。酸化物微粒子が表面調整用前処理液中に分散させた2価もしくは3価の金属のりん酸塩に吸着もしくは2価もしくは3価の金属のりん酸塩同士の衝突を防ぐことによって2価もしくは3価の金属のりん酸塩の凝集沈殿を防止し安定性を向上させるのである。そのためには酸化物微粒子の粒径が2価もしくは3価の金属のりん酸塩の粒径よりも小さい必要がある。
【0035】具体的には0.5μm以下であることが好ましい。本発明で使用される酸化物微粒子としては粒径とアニオン性であることを満たしていれば、酸化物微粒子の金属には制限されない。また、カチオン性の酸化物微粒子に表面処理を施すことによって、その表面電荷をアニオン性に変えたものでも差し支えない。本発明で用いられる酸化物微粒子の一例を示すと以下の通りである。酸化物微粒子
SiO2,B2O3,TiO2,ZrO2,Al2O3,Sb2O5,MgO,SeO2,ZnO,SnO2,Fe2O3MoO3,Mo2O5,V2O5
尚、本発明における表面調整用前処理液の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性を高める効果は、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤などを用いても同様に得られる。
【0036】酸化物微粒子の濃度は0.001?5g/Lであることが望ましい。酸化物微粒子の濃度が0.001g/L未満では本発明における酸化物微粒子の用途である表面調整用前処理液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性を高めることができない。また5g/L以上添加してもそれ以上に2価もしくは3価の金属のりん酸塩の分散安定性を高める効果は大きくならないために濃度の上限は5g/Lで十分である。
【0037】本発明における表面調整用前処理液は従来法と異なりあらゆる使用環境でその効果を継続することが可能である。すなわち、従来法と比較して下記に示す様な利点を有している。(1)経時安定性が高い。(2)Ca、Mg等の硬度成分が混入しても効果が衰えない。(3)高温度での使用が可能である。(4)様々なアルカリ金属塩を添加することができる。(5)幅広いpH域での安定性が高い。(6)得られるりん酸塩結晶の粒径をコントロールすることができる。
【0038】従って、従来法では継続して安定した品質を維持することができなかった脱脂兼表面調整剤としても使用する事が可能である。その際、脱脂兼表面調整工程における洗浄力を高めるために公知の無機アルカリビルダー、有機ビルダー、及び界面活性剤等を添加しても構わない。また、脱脂兼表面調整に関わらず表面調整用前処理液に持ち込まれたカチオン成分等による影響を打ち消すために公知のキレート剤、縮合りん酸塩等を添加しても構わない。
【0039】また、本発明の表面調整方法は表面調整用前処理液と金属表面を接触させるだけで良く、接触時間、表面調整用前処理液の温度等に制限はない。更に本発明の表面調整方法は、鉄鋼、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムまたはアルミニウム合金等のりん酸塩処理が施される、あらゆる金属素材に適用可能である。
【0040】
【実施例】次に本発明の表面調整用前処理液を適用した際の効果を実施例と比較例を用いて詳細に説明する。ただし、りん酸塩処理の一例として、自動車用のりん酸亜鉛処理を示したものであり、本発明における表面調整用前処理液の用途を限定するものでは無い。
【0041】(供試板)実施例と比較例に用いた供試板の略号と内訳を以下に示す。SPC(冷延鋼板:JIS-G-3141)EG(両面電気亜鉛めっき鋼板:めっき目付量20g/m2)GA(両面合金化溶融亜鉛めっき鋼板:めっき目付量45g/m2)Zn-Ni(両面電気亜鉛ニッケルめっき鋼板:めっき目付量20g/m2)Al(アルミニウム板:JIS-5052)
【0042】(アルカリ脱脂液)実施例、比較例ともにファインクリーナーL4460(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を2%に水道水で希釈して使用した。
【0043】(表面調整剤)表1に実施例で使用した表面調整用前処理液の組成を、表2に比較例で使用した表面調整用前処理液の組成を示す。なお、経時試験は表面調整用前処理液を調整後、1週間室温で放置した後に実施した。
【0044】実施例1Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0045】実施例2Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0046】実施例3Zn3(PO4)2・4H2O試薬を乳鉢で1分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、4.2μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0047】実施例4Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで1時間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.09μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0048】実施例550℃に加温した0.5mol/Lの硫酸鉄(II)溶液1Lに、1mol/Lの硫酸亜鉛溶液100mLおよび1mol/Lのりん酸1水素ナトリウム溶液100mLを交互に加え沈殿を生成させた。沈殿を含む水溶液を90℃で1時間加温して沈殿粒子を熟成させた後、傾斜洗浄を10回繰り返し実施した。濾過して得られた沈殿物を乾燥しX線回折で分析した結果、沈殿物は一部第3りん酸鉄を含むフォスフォフィライト[Zn2Fe(PO4)2・4H2O]であった。前記フォスフォフィライトをジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.29μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0049】実施例650℃に加温した0.1mol/Lの硝酸マンガン溶液1Lに1mol/Lの硝酸亜鉛溶液200mLを加え、更に1mol/Lのりん酸1水素ナトリウム溶液200mLを加えて沈殿を生成させた。沈殿を含む水溶液を90℃で1時間加温して沈殿粒子を熟成させた後、傾斜洗浄を10回繰り返し実施した。濾過して得られた沈殿物の一部を塩酸で溶解し成分を原子吸光分析装置を用いて分析した結果、沈殿物は[ZnXMnY(PO4)2]であった。前記[ZnXMnY(PO4)2]をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.32μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0050】実施例750℃に加温した0.1mol/Lの硝酸カルシウム溶液1Lに1mol/Lの硝酸亜鉛溶液200mLを加え、更に1mol/Lのりん酸1水素ナトリウム溶液200mLを加えて沈殿を生成させた。沈殿を含む水溶液を90℃で1時間加温して沈殿粒子を熟成させた後、傾斜洗浄を10回繰り返し実施した。濾過して得られた沈殿物を乾燥しX線回折で分析した結果、沈殿物はショルタイト[Zn2Ca(PO4)2・4H2O]であった。前記ショルタイトをジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.30μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0051】実施例8Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が0.02g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてZrO2ゾル(NZS-30B:日産化学工業(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0052】実施例9Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が30g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSb2O5ゾル(A-1530:日産化学工業(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0053】実施例10Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩としてメタ珪酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0054】実施例11Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩としてセスキ炭酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0055】実施例12Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0056】実施例13Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0057】実施例14実施例2と同じ処理液を用い、処理温度40℃で表面調整用前処理を行った。
【0058】実施例15実施例14の処理液に界面活性剤(ホ°リオキシエチレンノニルフェノールエーテル:EO11モル)を2g/L添加し、処理温度40℃で脱脂を行わない塗油されたままのテストピースに対して脱脂兼表面調整処理を行った。
【0059】実施例16Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。縣濁液の粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)とコールターカウンター(コールター社)で測定した結果、0.31μmと6.5μmに粒度分布のピークがあり、6.5μmの粒子を20%含んでいた。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0060】比較例1従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN(登録商標:日本パーカライジング(株)製)水溶液の標準条件で表面調整用前処理を行った。
【0061】比較例2従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN水溶液に、表2に示す通り酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)を加えて表面調整用前処理を行った。
【0062】比較例3従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN水溶液ののpHを表2に示す値に調整して表面調整用前処理を行った。
【0063】比較例4従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN水溶液ののpHを表2に示す値に調整して表面調整用前処理を行った。
【0064】比較例5従来品の表面調整用前処理液であるプレパレンZN水溶液の処理温度を40℃として表面調整用前処理を行った。
【0065】比較例6Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0066】比較例7Zn3(PO4)2・4H2O試薬を2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し濾紙に残った粒子を再度水に分散し縣濁液とした。縣濁液の平均粒径をコールターカウンター(コールター社)で測定した結果、6.5μmであった。次に縣濁液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0067】比較例8Zn3(PO4)2・4H2O試薬をジルコニアビーズを用いたボールミルで10分間粉砕したものを2価もしくは3価の金属のりん酸塩として用いた。前記2価もしくは3価の金属のりん酸塩を縣濁液とした後に5μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液の平均粒径をサブミクロン粒子アナライザー(コールターN4型:コールター社)で測定した結果、0.31μmであった。更に濾液中の2価もしくは3価の金属のりん酸塩の濃度が2g/Lとなる様に調整した。前記濃度調整された縣濁液に酸化物微粒子としてSiO2(AEROSIL#300:日本アエロジル(株)製)、更にアルカリ金属塩として第3りん酸ナトリウム試薬を加えた後、pHを所定の値として表1に示す表面調整用前処理液として調整した。
【0068】(りん酸亜鉛処理液)実施例、比較例ともにパルボンドL3020(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を4.8%に水道水で希釈し、成分濃度、全酸度、遊離酸度、促進剤濃度を現在、自動用りん酸亜鉛処理として一般に用いられている濃度に調整して使用した。以下に処理工程を示す。
【0069】(処理工程)(1)アルカリ脱脂42℃、120秒スプレー(2)水洗 室温、30秒スプレー(3)表面調整 室温、20秒浸漬(4)りん酸亜鉛処理42℃、120秒浸漬(5)水洗 室温、30秒スプレー(6)脱イオン水洗 室温、30秒スプレー
【0070】(塗装および評価工程)実施例、比較例ともにカチオン電着塗料(エレクロン2000:関西ペイント社製)を膜厚20μmとなる様に塗装し、180℃で25分間焼き付けた後に一部を塩水噴霧試験と耐塩温水試験に供した。残りの電着塗装板を中塗り塗料(自動車用中塗り塗料:関西ペイント社製)を中塗り塗装の膜厚が40μmとなる様に塗装し140℃で30分間焼き付けを行った。更に中塗り塗装が完了した供試板に上塗り塗料(自動車用上塗り塗料:関西ペイント社製)を上塗り塗装の膜厚が40μmとなる様に塗装し140℃で30分間焼き付けた。得られた総合膜厚100μmの3コート板を1次密着性評価試験、2次密着性評価試験に供した。
【0071】(りん酸亜鉛皮膜の評価方法)(1)外観目視観察により、りん酸亜鉛皮膜のスケ、ムラの有無を確認した。評価は以下の通りとした。◎均一良好な外観 ○一部ムラあり △ムラ、スケあり ×スケ多し ××化成皮膜なし
【0072】(2)皮膜重量(C.W.)化成処理後の処理板の重量を測定し(W1[g]とする)、次いで化成処理板に下記に示す剥離液、剥離条件にて皮膜剥離処理を施し、その重量を測定し(W2[g]とする)、式(I)を用いて算出した。・冷延鋼板の場合剥離液:5%クロム酸水溶液剥離条件:75℃、15分、浸漬剥離・亜鉛めっき板の場合剥離液:重クロム酸アンモニウム2重量%+28%アンモニア水49重量%+純水49重量%剥離条件:常温、15分、浸漬剥離 皮膜重量[g/m2]=(W1-W2)/0.021 式(I)
【0073】(3)皮膜結晶サイズ(C.S.)析出した皮膜結晶は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1500倍に拡大した像を観察し、結晶粒径を調査した。
【0074】(4)P比実施例、比較例ともにSPC鋼板についてのみ、X線回折装置を用いてりん酸亜鉛化成皮膜中のフォスフォフィライト結晶のX線強度(P)とホパイト結晶のX線強度(H)を測定した。得られたX線強度から式(II)を用いてP比を算出した。P比=P/(P+H)式(II)
【0075】(塗膜の評価方法)実施例、比較例ともに下記に示す評価方法に従って塗膜の評価を実施した。
【0076】(1)塩水噴霧試験(JIS-Z-2371)クロスカットを入れた電着塗装板に5%塩水を960時間噴霧した。噴霧終了後にクロスカットからの片側最大錆幅を測定し評価した。
【0077】(2)耐塩温水試験クロスカットを入れた電着塗装板を5%塩水中に240時間浸漬した。浸漬終了後にクロスカットからの片側最大錆幅を測定し評価した。
【0078】(3)1次密着性評価試験3コート板に鋭利なカッターで2mm間隔の碁盤目を100個形成し、碁盤目上に粘着テープを粘着した後に剥離して、剥離した碁盤目塗膜の数を評価した。
【0079】(4)2次密着性評価試験3コート板を40℃の脱イオン水に240時間浸漬し浸漬終了後に1次密着性評価試験と同様の手順に従い碁盤目剥離試験を実施し、剥離した碁盤目塗膜の数を評価した。
【0080】表3に実施例における表面調整用前処理液を用いたりん酸亜鉛処理において得られた化成処理皮膜の皮膜特性を示す。
【0081】表4に比較例における表面調整用前処理液を用いたりん酸亜鉛処理において得られた化成処理皮膜の皮膜特性を示す。
【0082】表5に実施例における表面調整用前処理液を用いたりん酸亜鉛処理において得られた化成処理皮膜の塗装後の性能評価結果を示す。
【0083】表6に比較例における表面調整用前処理液を用いたりん酸亜鉛処理において得られた化成処理皮膜の塗装後の性能評価結果を示す。
【0084】表3および表4より本発明品である表面調整用前処理液は従来品の欠点であった経時安定性が著しく向上していることが確認される。また、実施例1および実施例2から経時安定性に対する酸化物微粒子の効果が明らかとなっている。更に酸化物微粒子およびアルカリ金属の種類、処理温度を変えてもその効果は変わらず従来品と同等以上に緻密で微細な結晶を得ることができ、使用する2価もしくは3価の金属のりん酸塩の平均粒径を制御することによって得られるりん酸塩皮膜結晶のサイズを制御することも可能となった。
【0085】表5および表6から本発明品である表面調整用前処理液は従来品と同等以上の塗装性能を与えるものであることが解る。
【0086】
【発明の効果】前述した通り本発明品は従来品の欠点であった経時安定性を格段に向上し、従来品では不可能であったりん酸塩皮膜結晶サイズの自由な制御も可能とした。従って、本発明品は従来品と比較して経済的に有利であり、かつ従来品と同等以上の性能を与えることを可能としたのである。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
【表5】

【0092】
【表6】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-02-08 
結審通知日 2006-02-14 
審決日 2006-02-27 
出願番号 特願平9-52181
審決分類 P 1 113・ 536- ZD (C23C)
P 1 113・ 121- ZD (C23C)
P 1 113・ 113- ZD (C23C)
P 1 113・ 537- ZD (C23C)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 池田 正人
特許庁審判官 日比野 隆治
市川 裕司

登録日 2003-07-18 
登録番号 特許第3451334号(P3451334)
発明の名称 りん酸亜鉛皮膜化成処理前の表面調整用前処理液  
代理人 吉原 政幸  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 飯塚 卓也  
代理人 末吉 亙  
代理人 小野寺 良文  
代理人 前 直美  
代理人 岡田 淳  
代理人 吉原 政幸  

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