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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1171409
審判番号 不服2006-16838  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-03 
確定日 2008-01-17 
事件の表示 平成 9年特許願第104405号「ピストン式圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月10日出願公開、特開平10-299654〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は,平成9年4月22日の出願であって,平成18年6月26日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月3日に拒絶査定不服審判の請求がされ,同年9月4日に明細書についての補正がされたものである。

2.本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成18年9月4日付け手続補正書で補正(注:この補正は特許請求の範囲の請求項1?7のうちの請求項3について補正をするものであって,請求項1について補正をするものではない。)がされた特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものと認定する。

「ハウジング内にはシリンダボアが形成され、同シリンダボア内にはピストンが収容され、同ピストンが往復動されることで冷媒ガス等の圧縮を行うピストン式圧縮機において、
前記ピストンはピストン素地にコート層が被膜形成されてなり、同コート層の表面がシリンダボアの内周面と摺接するシール面をなし、同シール面は第1円筒面と、該第1円筒面より下死点側の端縁に形成され第1円筒面より微少に小径な第2円筒面とからなるピストン式圧縮機。」

3.引用発明の認定
(1)一方,原査定の拒絶の理由に引用された実願昭55-172375号(実開昭57-95484号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には,「圧縮機」と題して,図面と共に以下の事項が記載されている。

・「本考案は、車両空調用として好適な圧縮機に係り、とくにピストンがシリンダ内を往復動して流体を圧縮する形式の圧縮機の改良に関する」(明細書1ページ19行?2ページ1行)

・「本実施例は斜板式圧縮機を対象としたもので図示のように対接された1対のシリンダブロック1、2にはその中心部を貫通する駆動軸3に平行な適数個のシリンダボア4が形成され、またシリンダブロック1、2の端面にはそれぞれ吸入室5、6および吐出室7、8をもつフロントおよびリヤのハウジング9、10が弁板11、12を介して取付けられている。」(同書6ページ15行?7ページ2行)

・「また、第3図に示すようにピストン13の円筒部(ヘッド部)14の頂部には、端面から外周面にかけて面取部15とテーパ部16とが連続的に形成され、いわば2段面取り構成となっている。ピストン13の軸線方向に関する面取部15の傾斜角θ_(1)は大体において45度に設定され、一方テーパ部16の傾斜角θ_(2)は面取部15の傾斜角θ_(1)より相当に小さい、たとえば3?15度の範囲内で望ましくは5?10度の範囲で、しかもテーパ面の長さ(軸方向)lが0.5mm以上となるように設定される。」(同書7ページ12行?8ページ2行)

・「上記の如きピストン13の外周面、すなわち円筒部14、テーパ部16および面取部15の外周面ならびに円筒部14の端面の一部には、・・・(中略)・・・被膜17が施されている。」(同書8ページ2?8行)

・「これら両コーナC_(1)、C_(2)は組付後にあっては摺動面とならない」(同書10ページ12?13行)

・「円筒部14とテーパ部16との交点である第3コーナC_(3)の角度がきわめて小さい」(同書10ページ16?18行)

・「また、運転中にあってのテーパ部16は油の引込みを効果的に行い、かつクサビ効果によって油膜圧力の発生に大きく役立つため、ピストン13の摺動面に対する潤滑性を向上し得るものである。」(同書11ページ3?7行)

・第1図には、一対のシリンダブロック1及び2,並びに,フロントハウジング9及びリヤハウジング10によって,ハウジングが形成され,該ハウジング内にシリンダボア4が形成され,該シリンダボア4内にピストン13が収容されているピストン式圧縮機が示されている。

・第1図には,被膜17の表面がシリンダボア4の内周面と摺接することが示されている。

・第3図には,被膜17が,第3コーナC_(3)よりも図面右側においては円筒部14を覆っており,該円筒部14よりも上死点側に形成されている第3コーナC_(3)から第2コーナC_(2)にかけてはテーパ部16を覆うことが示されている。

これらの記載事項及び図示内容によれば,引用例1には,

「ハウジング内にはシリンダボアが形成され、同シリンダボア内にはピストンが収容され、同ピストンが往復動されることで流体を圧縮するピストン式圧縮機において、
前記ピストンの外周面には被膜が施されてなり、同被膜の表面がシリンダボアの内周面と摺接し、同被膜の表面は円筒部を覆う部分と、該円筒部を覆う部分より上死点側に形成されているテーパ部を覆う部分とを有するピストン式圧縮機。」

という発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定できる。

(2)同じく,原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第1864384号明細書(以下「引用例2」という。)には,「PISTON」と題して,図面と共に,以下の事項が記載されている。

・「This invention relates to pistons ・・・, such as reciprocating pumps and air compressors.」(1ページ左欄1?7行)
この記載事項の当審による和訳は以下のとおりである。
「本発明は,ピストンに関するものであって,特に高出力の内燃機関のピストンに関するものである。もっとも,本発明の原理が往復動ポンプや気体圧縮機といったピストンを使う全ての機構に適用できることは明らかであろう。」

・「in addition to an axially curved or taper relief tangent to the cylindrical bearing surface at the lower or inner end of the piston,・・・, of forming an oil reservoir and of providing an oil wedge for the film lubrication of the piston bearing face on the outward stroke of the piston.」(1ページ右欄8?18行)
この記載事項の当審による和訳は以下のとおりである。
「ピストンの下方端又は内方端において円筒状の摺接面(the cylindrical bearing surface)に連なる往復動方向の曲線状又はテーパ状の逃げに加えて,上方端にも同様の逃げがあり,この逃げも摺接面へ連なるようになっている。そして,この逃げは,シリンダ壁(the cylinder wall)と協働して,2つの目的を達成する。1つはオイル溜まり(an oil reservoir)を形成することであり,もう1つはピストンの圧縮行程でのピストン摺接面の潤滑膜のためのオイル楔(an oil wedge)を生成することである。」

・「The relieved portions at each end, extending from A to B and from C to D, merge tangentially into the cylindrical bearing surface, so that there shall be no abrupt change in contour to impede the flow of oil onto the said surface.・・・, which may be considered as being extended beyond the end of the cylindrical bearing surface by the wedging of the oil between the advancing curved or taper relief and the cylinder wall」(2ページ左欄19?35行)
この記載事項の当審による和訳は以下のとおりである。
「AからB,及び,CからDへ延びる両端の開放部分は,円筒状の摺接面に接するように合流する。そのため,摺接面上のオイルの流れを阻害するような,表面形状における急変はない。・・・(中略)・・・。効果的な摺接面は,先進的な(advancing)曲線状又はテーパ状の逃げとシリンダ壁との間のオイル楔によって円筒状の摺接面の端部まで延長されたものとして理解される。」

・Fig.1には,ピストンの下死点側の端縁(C-D)にテーパ面が形成されたものが示されている。

4.対比
そこで,本願発明と引用発明とを比較すると,引用発明の「流体を圧縮する」ことは,引用発明が車両空調用の圧縮機として好適なものとされていることからみて,本願発明の「冷媒ガス等の圧縮を行う」ことに相当する。
また,引用発明の「ピストンの外周面には被膜が施され」ることは,本願発明の「ピストンはピストン素地にコート層が被膜形成され」ることに相当する。
そして,引用発明の「被膜の表面がシリンダボアの内周面と摺接し、同被膜の表面は円筒部を覆う部分と、該円筒部を覆う部分より上死点側に形成されているテーパ部を覆う部分とを有する」ことは,以下の(イ)?(ニ)に示した事項からみて,本願発明の「コート層の表面がシリンダボアの内周面と摺接するシール面をなし、同シール面は第1円筒面と、該第1円筒面より下死点側の端縁に形成され第1円筒面より微少に小径な第2円筒面とからなる」ことと,「コート層の表面がシリンダボアの内周面と摺接するシール面をなし、同シール面は第1円筒面と、第1円筒面に連なる場所に形成され第1円筒面より微少に小径な第2円筒面とからなる」ものという概念で共通する。
(イ)本願明細書【0035】の,
「また、シール面44は第1円筒面45と、下死点側の端縁に形成され同第1円筒面45より微少に小径な第2円筒面46とにより構成されている。従って、同シール面44とシリンダボア21の内周面21aとの隙間は、下死点側の入口が微少に広がっている。よって、ピストン22が駆動軸18の駆動により往復動され、各頭部22aがシリンダボア21内において上死点側から下死点側に移動されると、冷媒ガス中にミスト状に分散された潤滑油及びシリンダボア21の内周面21aに付着した潤滑油が、シール面44とシリンダボア21の内周面21aとの隙間へ効果的に引き込まれる。その結果、油膜が、シール面44とシリンダボア21の内周面21aとの間において効果的に形成されて動圧軸受を形成し、ピストン22とシリンダボア21の内周面21aとの低摩擦摺動性及び同ピストン22の耐摩耗性が向上される。」という記載,及び,同【0037】の,
「第2円筒面46は、第1円筒面45側に向かって徐々に大径となる無数の円筒面46-1...46-nにより構成され、全体としてテーパ面をなしている。従って、第2円筒面46とシリンダボア21の内周面21aとの間には、第1円筒面45に向かって縮小された楔状の隙間が形成されている。その結果、潤滑油が、楔効果によってシール面44とシリンダボア21の内周面21aとの隙間に引き込まれ易くなり、油膜形成効果が高められる。」という記載に照らすと,本願発明では,第2円筒面とシリンダボアの内周面との間にある,楔効果によって潤滑油を引き込みやすくするための隙間におけるコート層の表面についても,「シリンダボアの内周面と摺接するシール面」としていること,
(ロ)引用例1には,テーパ部が楔効果によって油を引き込みやすくするためものであることが示されていること,
(ハ)引用例1には「円筒部14とテーパ部16との交点である第3コーナの角度がきわめて小さい」と表現されていること,及び,
(ニ)本願明細書【0028】では,隙間の寸法として,100μm以下のものを例示しているところ,引用例1でも,テーパ面の長さl及び傾斜角θ_(2)をそれぞれ例示されている0.5mm(=500μm)及び5?10度として隙間の寸法を三角関数の正接(tan)を用いて算出すると44μm?88μmとなり,両者は同等の寸法の隙間を有するものであるといえること。

よって,両者は,
「ハウジング内にはシリンダボアが形成され、同シリンダボア内にはピストンが収容され、同ピストンが往復動されることで冷媒ガス等の圧縮を行うピストン式圧縮機において、
前記ピストンはピストン素地にコート層が被膜形成されてなり、コート層の表面がシリンダボアの内周面と摺接するシール面をなし、同シール面は第1円筒面と、第1円筒面に連なる場所に形成され第1円筒面より微少に小径な第2円筒面とからなるピストン式圧縮機。」の点で一致し,以下の点で相違している。

・相違点
第2円筒面が形成される,第1円筒面に連なる場所として,本願発明では「第1円筒面より下死点側の端縁」に形成されるのに対し,引用発明では「第1円筒面より上死点側」に形成されている点。

5.相違点についての判断
引用例2には,潤滑のために油を引き込む楔状の隙間を,ピストンの下死点側の端縁に形成する構成が記載されているといえる。
そして,引用発明と引用例2記載の構成とは,往復動ピストンによる圧縮技術であって,共に楔状の隙間によって油を引き込むという機能を有し,該機能によってピストンの摺動面の潤滑性を向上させるという作用を有するものである。
そうすると,引用発明において引用例2に記載の構成を採用し,相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。

さらに,本願発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明及び引用例2記載の構成から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本願発明は,引用発明及び引用例2記載の構成に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから,本願発明については,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は、特許法49条2号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-16 
結審通知日 2007-11-20 
審決日 2007-12-04 
出願番号 特願平9-104405
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信川口 真一  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 本庄 亮太郎
谷口 耕之助
発明の名称 ピストン式圧縮機  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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