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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580353 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H02P
管理番号 1171915
審判番号 無効2006-80189  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-09-22 
確定日 2008-02-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第1751443号発明「電圧形インバ?タの制御装置及びその方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第1751443号(昭和60年12月6日出願、平成5年4月8日設定登録。)の請求項1及び請求項2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものと認める。

(本件発明1)
「交流電圧指令に基づいて直流電圧をパルス幅変調制御して交流電圧に変換し、該交流電圧を負荷に供給する電圧形インバータの制御装置において、
交流電流指令値を発生する電流指令手段と、予め記憶した電流に対する前記インバータの電圧降下の特性から、前記交流電流指令値に応じた前記インバータの電圧降下の値を出力する手段と、該電圧降下の値を前記交流電圧指令に補正する手段とを備えたことを特徴とする電圧形インバータの制御装置。」

(本件発明2)
「交流電圧指令に基づいて直流電圧をパルス幅変調制御して交流電圧に変換し、該交流電圧を負荷に供給する電圧形インバータの制御方法において、
予め記憶した電流と前記インバータの電圧降下の関係と、前記インバータの交流出力電流指令により、瞬時瞬時において前記交流出力電流指令に対する前記インバータの電圧降下を求め、該電圧降下に基づいて前記インバータの交流出力電圧を修正するようにしたことを特徴とする電圧形インバータの制御方法。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明1及び本件発明2に係る特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、甲第1号証ないし甲第8号証を提出すると共に、大略、以下のように主張している。
本件発明1及び本件発明2は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。よって、これらの特許は同法第123条第1項第2号に該当し無効とされるべきである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開昭60-187292号公報
甲第2号証:特開昭60-139195号公報
甲第3号証:特開昭58-72387号公報
甲第4号証:特開昭59-63998号公報
甲第5号証:特開昭59-156184号公報
甲第6号証:特開昭59-156185号公報
甲第7号証:特開昭58-103881号公報
甲第8号証:特開昭58-84679号公報

3.甲第1号証ないし甲第8号証
(1)甲第1号証には、「インバータ装置」に関し、図面と共に次の事項が記載されている。
・「この発明のインバータ装置を説明するにあたつて、まず、PWM正弦波近似出力電圧形インバータ(以下、PWMインバータと略す)の主回路の動作原理について簡単に説明する。
まず、第1図はPWMインバータ装置の主回路を示す図である。図において、R,S,Tは3相商用電源、D_(11)?D_(16)はダイオード、C_(1)は平滑用コンデンサを示している。今ダイオードD_(11)?D_(16)は商用電源を直流電源に変換するコンバータ回路を構成しており、コンデンサC_(1)は変換されたこの直流電圧のリツプルを平滑にするものである。TR_(1)?TR_(6)はトランジスタ等のスイツチング素子、D_(1)?D_(6)は還流用ダイオードであり、これら各トランジスタTR_(1)?TR_(6)及びダイオードD_(1)?D_(6)によつて、P_(0)-N_(0)間に発生する直流電圧を所定の周波数の交流電源に変換するインバータ部が構成されている。U,V,Wはこのインバータの出力端子であり、負荷として例えば3相交流モートルMが接続されている。
次に第1図に示したインバータ制御装置の従来における1相分電流帰還制御ブロツク図を第2図に示す。図において、A_(1)は積分形増幅器、CMPはコンパレータ、TC_(1),TC_(2)は夫々上下アームTR_(1),TR_(2)の短絡防止回路、DCCTは3相モータMの電流を検出する変流器、A_(2)は電流増幅器、Tは三角波を発生させる固定周波発生器である。
第2図の動作を以下に説明する。3相モータMに対し電流指令通りの主電流を流すために3相モータMの相電流I_(U)(例えば、U相について)を変流器DCCTで検出しフイードバツク電流I_(f)として増幅器A_(2)を介して帰還する。積分形増幅器A_(1)においては電流指令値I_(A)と前記フイードバック電流I_(f)との差を増幅しその出力信号である相電圧指令V_(f1)を後段のコンパレータCMPの被比較端子に与える。他方、固定周波数三角波発生器Tからの出力信号V_(T)は前記コンパレータCMPの比較端子に入力され、その比較結果はPWM相電圧指令V_(C)を作る。上,下アームTR_(1),TR_(2)に与えられる入力信号は一方のみをNOTゲートを介すことによつて互いに反転動作の信号に変換する。従つて上アームTR_(1)、及び下アームTR_(2)への入力信号は上ONの時は下OFF、上OFFの時は下ONとなり夫々の反転動作は一般にONが速く、OFFが遅く行われる。そのため上下アーム短絡の危険が生ずる。上記の短絡を防止するためにON動作のタイミングを遅延させるタイムデイレイ回路を内蔵した上下アーム短絡防止回路TC_(1),TC_(2)を経て上下アームTR_(1),TR_(2)を駆動している。この時の積分形増幅器A_(1)の積分コンデンサC_(2)はフイードバツク電流I_(f)のPWM動作に起因する電流リツプルを平滑するために設けてある。
従来のインバータ装置は以上のように構成されていたので、上下アーム短絡防止時間の影響によつて相電圧PWM指令と実相電圧とが一致しなくなりその影響は出力電圧が低い時、すなわち指令周波数fが低い時、又は指令周波数が高い時に大きくなるためその不一致の補正を行う必要がある。その補正は電流ループで行われているためその補正を行うためには電流ループのゲインを低速で上げてやる必要があるが、前記ゲインを上げると逆に平滑コンデンサの影響により電流ループ全体が不安定となる等の欠点があつた。」(1頁右下欄10行?2頁左下欄11行)

上記記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「相電圧指令に基づいて直流電圧をPWM動作により所定の周波数の交流電源に変換し、該交流電源を負荷に供給する電圧形インバータの制御装置において、
電流指令値を入力する手段と、上下アーム短絡防止時間の影響による相電圧指令と実相電圧との不一致を電流ループで補正する手段とを備えた電圧形インバータの制御装置。」

(2)甲第2号証には、「パルス幅変調インバータの制御方法」に関し、図面と共に次の事項が記載されている。
・「本発明の特徴は、インバータ出力電流の極性に応じた信号をインバータの出力電圧の指令信号に加えることにある。
乱調の原因し本発明の原理について述べる。パルス幅変調インバータは、正側スイツチング素子と負側スイツチング素子を交互に導通制御し、その導通時間比率を制御することによりインバータ出力電圧を制御する。この際、素子のターンオフタイム等により両素子が同時に導通し、短絡事故が発生いないようにするために、一方のターンオフ動作からもう一方のターンオン動作までの所定時間の間、両素子が非導通となる非ラ立プ期間が設けられる。この非ラツプ期間が乱調の原因となる。」(1頁右下欄13行?2頁左上欄6行)
・「次に、乱調の発生メカニズムを第3図を用いて簡単に説明する。図(a)に示すeは電動機の内部誘導起電力、vは非ラツプ期間がない場合におけるインバータ出力電圧(パルス幅変調により正負交互に変化する電圧の時間平均を示す、以下の各波形も同様)、iはインバータ出力電流及びv′は非ラツプ期間がある場合のインバータ出力電圧である。v′の極性に応じてvより変動する理由は、第2図において説明した通りである。このとき図から明らかなようにv′の基本波成分はvより位相が進む、このv′とeの電圧差及び電動機の漏れインピーダンスに関係して電流iが流れる。無負荷時についてみれば、v′とiの位相差はほぼ90度である。次に乱調を生じるメカニズムを説明する。何らかの原因によりiが進み位相に移ると、v′は前述した理由から電流の極性に応じて変動するため、電流の位相が進むとそれに伴いv′は図(b)に示すように変化し、その位相(基本波成分)は図(a)のものより進む。この結果、v′とeの電圧差が大となり、電流iは増大し、その位相はさらに進む。そのため、正トルクが発生し電動機は加速される。この結果、v′とeの位相差が小となり、iが減少し、その位相は遅れ側に移る。このようにして、v′が前述とは逆にeより遅れ位相となれば、iはeより90度以上遅れることになり、負トルクが発生して回転速度が減少する。この結果、eがv′より再び遅れ位相となれば、再び正トルクが発生し前述の動作を繰返す。このようにして、電動機は加速及び減速を繰返し、いわゆる、乱調を生じる。
このように乱調の発生メカニズムは、非ラツプ期間によりインバータ出力電圧に出力電流に応じた電圧変動を生じ、それが電流の変動を生じ、さらにそれが電圧変動を生じるという一巡の動作によるものであると理解される。
次に、第1図に示す回路の動作を説明する。制御回路3はインバータ各相出力電圧の指令信号(基本波分の瞬時値を指令するものであり、正弦波信号)を出力する。これら指令信号は加算6?6″を介して比較器8?8″に加えられ、発振器7からの搬送波信号と比較される。比較器からのパルス幅変調信号に応じてインバータのスイツチング素子はオンオフ制御され、前述の非ラツプ期間による電圧変動を除外するならば、インバータの出力電圧(基本波分)は電圧指令信号に比例するように制御される。以上は周知のパスル幅変調インバータの動作である。
電流検出器4,4′及び電流極性検出器5?5″は非ラツプ期間による前述の電圧変動を補償するように、電圧指令信号に電流極性に関係した信号を加える回路である。第4図を用いてその動作を説明する。図においてiはインバータ出力電流、jは電流極性検出器の出力信号、v_(p)は電圧指令信号(正弦波)に前述の信号jを加算した信号(加算点の出力信号)である。もし、非ラツプ期間が無い場合は、インバータの出力電圧はv_(p)に比例して制御されるが、前述のように、非ラツプの影響があるため、矢印のように電圧変動を生じ、この結果、出力電圧v′は信号γを加算しない前の電圧指令信号に比例したものとなる。」(2頁左下欄7行?3頁右上欄6行)
・「従つて、本発明によれば、インバータの出力電圧は出力電流の影響を受けることがなく、前述の乱調を未然に防止することができる。
前述の実施例では、非ラツプ期間による電圧変動を防止するようにインバータ出力電流極性に応じた信号を電圧指令信号に加算したが、出力電流検出信号をそのまま電圧指令信号に加算するようにしても同様の効果がある。なぜなら、乱調の原因は前述した電圧変動により電圧位相が変動することにあり、電流信号を加算するようにしても、その位相変動を抑制できるからである。なお、電流検出信号を適当に加工して加えても、電流の極性あるいは位相との関連が保たれる限り、同様の効果が得られることは明らかである。」(3頁右下欄10行?4頁左上欄3行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「非ラップ期間による電圧変動を補償するために、インバータ出力電流を検出する電流検出器及び該電流検出器で検出した電流が入力されインバータ出力電流極性に応じた信号を出力する電流極性検出器を備え、該インバータ出力電流極性に応じた信号を電圧指令信号に加えるようにしたパルス幅変調インバータの制御装置。」

(3)甲第3号証には、「誘導電動機のベクトル制御方法及び装置」に関し、次の事項が記載されている。
・「第2図において、電圧検出器14は三相の一次電圧瞬時値v_(u),v_(v),v_(w)を与え、無効電圧検出回路15は一次電流I_(1)の位相を表わすディジタル信号rから一次電圧V_(1)の無効分(V_(1)sinφ)を算出し、二次抵抗検出回路16は(V_(1)sinφ),ω_(s),ω_(s)^(*),I_(1)^(*)の入力信号を得て実際の二次抵抗r_(2)の値を導出する。ここで、すべり各周波数指令ω_(s)^(*)および一次電流指令I_(1)^(*)に代えて、角周波数ω_(1),電動機回転角周波数ω_(M)の(ω_(s)-ω_(M))により実測したすべり角周波数および電流検出器7により検出した一次電流の値を用いるようにしてもよい。しかしコンバータ制御回路5やインバータ制御回路6′の部分が正常に動作しておれば(ω_(s)^(*)≒ω_(s)),(I_(1)^(*)≒I_(1))が成立し、さらには信号リップル等の少ないω_(s)^(*),I_(1)^(*)の方が演算上好ましい。」(3頁左上欄4?18行)

(4)甲第4号証には、「誘導電動機の制御方法」に関し、次の事項が記載されている。
・「第4図はその実施例を示す回路構成図である。磁束検出器26は次式に従い電動機1次電圧を2相交流信号v_(1α),v_(1β)に変換しそれらを積分することにより、電動機磁束φ_(α),φ_(β)(2相交流信号)を検出する。
v_(1α)=v_(U)
v_(1β)=1/√3(v_(v)-v_(w)) ・・・・・・・・(9)′
φ_(α)=-∫(v_(1β)-zi_(1β))dt
φ_(β)=-∫(v_(1α)-zi_(1α))dt・・・・・・・・(12)
ここで、zi_(1)は磁束の検出精度を高めるために、電動機の漏れインピーダンス効果の影響を1次電流i_(1)(実際値または指令値)を用いて補償していることを示す。」(6頁右下欄4?18行)

(5)甲第5号証には、「誘導電動機の制御方法」に関し、次の事項が記載されている。
・「第5図に本発明の他の実施例を示す。
第5図はd軸とq軸の磁束成分φ_(d),φ_(q)を演算検出し、直接にφ_(d),φ_(q)を制御するようにしたものである。
第5図において第1図と同一記号のものは相当物を示し、磁束検出回路21は次式に従い電動機電圧の2相交流信号v_(1α),v_(1β)を積分することにより、磁束成分φ_(α),φ_(β)(2相交流信号)を検出する。
φ_(α)=-∫(v_(1β)-Zi_(1β))dt
φ_(β)= ∫(v_(1α)-Zi_(1α))dt ・・・・・・(16)
ここに、Z:漏れインピーダンス
なお、Zi_(1)は磁束の検出精度を高めるために、電動機の漏れインピーダンス降下の影響を1次電流i_(1)(実際値または指令値)を用いて補償したことを示す。」(6頁左下欄1?17行)

(6)甲第6号証には、「誘導電動機の制御方法」に関し、次の事項が記載されている。
・「前記実施例においては、e_(d)及びe_(q)を検出しφ_(d)は所定値に、φ_(q)については零となるように制御するものであつたが、φ_(d)及びφ_(q)を演算検出し、直接にφ_(d),φ_(q)を制御するようにしても同様の制御が行える。第3図はその実施例の回路構成図である。磁束検出器26は次式に従い電動機電圧を2相交流信号v_(α),v_(β)に変換し、それらを積分することにより磁束φ_(α),φ_(β)(2相交流信号)を検出する。
φ_(α)=-∫(v_(β)-Zi_(β))dt
φ_(β)= ∫(v_(α)-Zi_(α))dt ・・・・・・(18)
ここに、Ziは磁束の検出精度を高めるために電動機の漏れインピーダンス降下の影響を1次電流i(実際値または指令値)を用いて補償したことを示す。」(6頁右上欄6?20行)

(7)甲第7号証には、「インバータ装置の保護装置」に関し、次の事項が記載されている。
・「このデイジタルデータはトランジスタTR及びダイオードDが夫々持つ電流・電圧特性を記憶する電流-電圧変換器3の入力にされてその出力に電流に対応する電圧のデイジタルデータが取出される。」(2頁右上欄9?13行)

(8)甲第8号証には、「アーク長の自動制御方法」に関し、次の事項が記載されている。
・「本発明ではこの具体的手段として、アーク長をパラメータとしたTIG溶接でのアーク電流電圧特性(以下I-V特性と呼ぶ)をあらかじめ半導体メモリに記憶させておき、この記憶されたI-V特性と溶接中に検出した溶接電流とを用いて、設定アーク長におけるI-V特性上のアーク電圧設定値を演算し、」(2頁右上欄18行?左下欄4行)

4.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを比較すると、後者の「相電圧指令」は前者の「交流電圧指令」に相当し、以下同様に、「PWM動作により所定の周波数の交流電源に変換」は「パルス幅変調制御して交流電圧に変換」に、「電流指令値を入力する手段」は「交流電流指令値を発生する電流指令手段」に、それぞれ相当している。
また、前者の「予め記憶した電流に対するインバータの電圧降下の特性から、交流電流指令値に応じた前記インバータの電圧降下の値を出力する手段と、該電圧降下の値を交流電圧指令に補正する手段」と後者の「上下アーム短絡防止時間の影響による相電圧指令と実相電圧との不一致を電流ループで補正する手段」とは、「オンディレイによる影響を補償する手段」との概念で共通している。
したがって、両者は、
「交流電圧指令に基づいて直流電圧をパルス幅変調制御して交流電圧に変換し、該交流電圧を負荷に供給する電圧形インバータの制御装置において、
交流電流指令値を発生する電流指令手段と、オンディレイによる影響を補償する手段とを備えた電圧形インバータの制御装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
オンディレイによる影響を補償する手段に関し、本件発明1は、「予め記憶した電流に対するインバータの電圧降下の特性から、交流電流指令値に応じた前記インバータの電圧降下の値を出力する手段と、該電圧降下の値を交流電圧指令に補正する手段」としているのに対し、甲1発明は、「相電圧指令と実相電圧との不一致を電流ループで補正する手段」としている点。

上記相違点について、以下検討する。
本件発明1は、本件特許明細書中の「パルス幅変調インバータにおいては、インバータを構成するP側及びN側スイツチング素子を交互に導通制御して出力電圧をPWM制御する。しかしスイツチング素子にはターンオフ時間によるスイツチングの遅れがあるため、P側及びN側が同時にオンしないように、一方がオフした後、所定時間(オンデレイ時間)の後に、もう一方を遅れてオンするようにしている。このオンデレイにより前述の電圧降下が生じる。これはインバータ出力電流の大きさと向きにより変化し出力電圧/指令値の線形性を乱す。またそれは後述する特性から高調波成分を含みトルクリプルの発生原因となる。
従来、この解決法として、特公昭59-8152号公報、特開昭59-123478号公報に記載のように、インバータ出力電流の向きを検出し、それに応じてインバータの電圧指令信号を修正し、電圧降下を補償する方法が知られている。しかしこれらの方法においては出力電流の極性を高精度に検出できる電流検出器が必要であり、回路構成が複雑なこと、また電流検出器がすでに設置されていて電流検出信号が利用できる場合であつても、電流に含まれる高調波ノイズのために、前述の電圧降下の補償を安定かつ精度よく行なわせることが困難である。
また他の対策法として、三菱電機技報(Vol.58No.12、1984 pp27?28)に記載のように、インバータの瞬時出力電圧を検出し、それをフイードバツク制御する方法があるが、電圧検出器が必要であり、上述と同様の問題がある。」(特公平4-37680号公報の2頁4欄15?44行)なる記載を参照すれば、上記相違点に係る手段を備えることにより、オンディレイによる電圧降下を補償する上で、電流検出器や電圧検出器を不要にし、もって回路構成の複雑化を回避することができたものであるといえる。
これに対し、甲1発明は、オンディレイによる影響を補償するために、「電流ループで補正する手段」を備えているところから、電流検出器を必要とするものである。
また、甲2発明のパルス幅変調インバータ(即ち、電圧形インバータ)の制御装置は、非ラップ期間による電圧変動(即ち、オンディレイによる影響)を補償するものではあるが、そのために、「インバータ出力電流を検出する電流検出器及び該電流検出器で検出した電流が入力されインバータ出力電流極性に応じた信号を出力する電流極性検出器」を備えているところから、電流検出器を必要とするものであるといえる。
そうすると、甲1発明に甲2発明を組み合わせたとしても、オンディレイによる影響を補償するために、電流検出器を必須の構成とする発明にしかならないことは明らかである。
また、甲第3号証には、電動機の二次抵抗値を演算する際に、インバータの電流指令値に代えて検出電流値を用いてもよいことが開示され、甲第4号証ないし甲第6号証には、電動機の漏れインピーダンス降下の影響を、インバータの検出電流値または電流指令値を用いて補償することが開示されているにすぎない。
さらに、甲第7号証及び甲第8号証には、予め電流-電圧特性をメモリに記憶しておき、その特性に応じて所望の電圧を取り出すことが開示されているにすぎず、インバータのオンディレイによる影響を補償するための技術を示唆するものではない。
したがって、何れの甲号証にも、電圧形インバータの制御において、オンデレイによる電圧降下を補償するために、上記相違点に係る手段を備えることにより、電流検出器を不要にするとの技術思想を何等開示するものではない以上、本件発明1が、甲第1号証ないし甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

なお、請求人は、平成19年2月20日に実施された口頭審理において、最重要点として、「(ウ)甲第2号証に記載の前記実施例は、電流の大きさに応じた電圧降下の値が一定値ということでは、本件特許明細書の第2図記載の電圧降下の特性と相違する。しかしながら、本件特許発明の請求項には、前記第2図そのもの、あるいは電流の大きさに応じてインバータの電圧降下の値も大きくなるとの記載はない。すなわち、電流の大きさに対して電圧降下の値が一定値となる場合を除外する旨の記載はない。
(エ)甲第2号証記載の発明は、電圧降下の補償値が一定値に限られるものではなく、甲第2号証の3頁右下欄13行?4頁左上欄3行には、他の実施例として出力電流検出信号をそのまま電圧指令信号に加算する例が開示されている。すなわち、出力電流に応じて大きさの変る出力電流検出信号を電圧指令信号に加算する例も開示されている。また、電流検出信号を適当に加工して加える例も開示されている。
(オ)甲第2号証記載の前記3つの実施例(電圧降下の補償値を一定値とする実施例、出力電流検出信号をそのまま電圧指令信号に加算する実施例、及び電流検出信号を適当に加工して加える実施例)における電圧降下の値と、本件特許発明の第2図による電圧降下の値とは、オンディレイによる電圧降下を補償する点で共通しており、単に、インバータの電圧降下の真値に対するずれ量(補償した電圧降下の値と、真の電圧降下の値とのずれ量)の大小という点で相違するにすぎない。しかも、請求項には、「予め記憶した…インバータの電圧降下の特性」が真値であることを担保するための規定、例えば、実運転前に電圧降下の値を実測して該測定値を記憶する、或いは第2図そのものを記憶する等の記載もない。」(請求人の提出した口頭審理陳述要領書13頁5?25行)なる主張を挙げている。
しかしながら、仮に、甲2発明における「インバータ出力電流極性に応じた信号」の値が、本件発明1における「電流に対するインバータの電圧降下」の値に相当するとしても、甲2発明は、オンディレイによる電圧降下を補償するために、「インバータ出力電流を検出する電流検出器及び該電流検出器で検出した電流が入力されインバータ出力電流極性に応じた信号を出力する電流極性検出器を備え、該インバータ出力電流極性に応じた信号を電圧指令信号に加える」ものである以上、電流検出器を省略することはできないものであり、請求人の上記主張は、上述した本件発明1の進歩性の判断に何等影響を与えるものではない。

また、請求人は、提出した口頭審理陳述要領書8頁15?22行において、本件特許明細書中の第4の実施例(第5図のもの)は、電流検出器を不要にしたものではない旨主張しているので、この点も一応検討する。
本件特許明細書中の「第5図に本発明の他の実施例を示す。前記実施例と異なり、電流制御形ベクトル制御装置への適用例である。電流制御形においては、インバータ出力電流を電流指令に比例して正弦波に制御するため、インバータの内部電圧降下Δvによる出力電流の波形歪みは補償され、トルクリプルの発生は防止される。しかしその場合、電流調節器のゲインを十分に高めておく必要があり、前述と同様の問題がある。そこで、内部電圧降下Δv後述するようにして別途補償するならば電流調節器のゲインを低減でき問題を解決できる。
次に第5図の実施例の構成と動作について述べる。1?6及び9,10は前記実施例における要素と同一物である。14はi_(m)^(*)、i_(t)^(*)に基づいて前述の(4)(5)式に従い電流指令i_(1)^(*)(i_(1u)?i_(1w))を演算する瞬時値電流指令演算器である。電流指令i_(1)^(*)と電流検出器15により検出したインバータ出力電流i_(1)の偏差を電流調節器16において増巾し電圧指令v_(1)^(*)を出力する。以後は前記実施例と全く同様にしてパルス幅変調制御によりインバータ出力電圧が制御される。演算器17は第1図の実施例における演算器12と全く同様にインバータ内部電圧降下Δvを演算する。Δvを演算電流調節器16の出力信号に加算することにより前記実施例と同様にインバータ内部電圧降下の影響を補償でき、前述の効果が得られる。
さて、前述したように演算器12,13,17には実運転前にΔv-i特性を記憶させておく必要がある。」(特公平4-37680号公報5頁9欄32行?10欄16行)との記載によれば、第5図に示されたものは、本件発明1を電流制御形ベクトル制御装置に適用した例であり、電流検出器15は、電流制御形においてインバータ出力電流を電流指令に比例して正弦波に制御するために、電流調節器のゲインを低減できるものとして設けられているものであり、オンディレイによる電圧降下の補償は、あくまでも、Δv-i特性を記憶させた演算器17(即ち、予め記憶した電流に対するインバータの電圧降下の特性から、交流電流指令値に応じた前記インバータの電圧降下の値を出力する手段)によりなされるものであると解される。
したがって、請求人の上記主張も、上述した本件発明1の進歩性の判断に何等影響を与えるものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、物の発明である本件発明1を、実質的に方法の発明として捉えたものであるから、上記(1)での検討内容を踏まえれば、本件発明2が、甲第1号証ないし甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1及び本件発明2についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2007-02-27 
出願番号 特願昭60-273259
審決分類 P 1 123・ 121- Y (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田良島 潔小川 謙岡本 俊威  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 高橋 学
丸山 英行
登録日 1993-04-08 
登録番号 特許第1751443号(P1751443)
発明の名称 電圧形インバ?タの制御装置及びその方法  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  
代理人 高石 秀樹  
代理人 篁 悟  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 隈部 泰正  
代理人 竹内 英人  
代理人 那須 威夫  
代理人 中村 彰吾  
代理人 松尾 和子  
代理人 大塚 文昭  
代理人 井坂 光明  
代理人 近藤 直樹  
代理人 奥村 直樹  

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