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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1173239
審判番号 不服2005-21294  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-04 
確定日 2008-02-14 
事件の表示 特願2001-70474号「光源装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年9月20日出願公開、特開2002-270386号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年3月13日の出願であって、平成17年9月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年11月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成17年11月28日付けで手続補正がされたものである。

2.平成17年11月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年11月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、「放電空間(12)の容積1立方ミリメートルあたり0. 15mg以上の水銀を含み、電極間隔が2. 5mm以下である一対の主たる放電のための電極(E1,E2)が対向配置された放電ランプ(Ld)と、
前記主たる放電のための電極(E1,E2)に放電電流を供給するための給電回路(Bx)を接続してなるプロジェクタ用光源装置において、
前記主たる放電のための電極以外の補助電極(Et)を、主たる放電のための放電空間(12)に接しないように設け、
前記主たる放電のための両極の電極(E1,E2)の何れかと前記補助電極(Et)の間に高電圧パルスを発生するスタータ(Ue)とを接続し、
該スタータ(Ue)はトランスと、該トランスの一次側に接続されたコンデンサを有し、該コンデンサに充電された電圧をトランスの一次側に印加して、トランスの二次側に昇圧された電圧を発生させ、室温状態のランプに前記主たる放電を始動させるために必要な電圧の2?5倍の電圧を有する高電圧パルスを発生させ、この高電圧パルスを上記両極の電極(E1,E2)の何れかと前記補助電極(Et)の間に印加することを特徴とするプロジェクタ用光源装置。」と補正された。
上記補正は、発明を特定するための事項である光源装置に関し、プロジェクタ用に限定するとともに、スタータ(Ue)に関し、トランスと、該トランスの一次側に接続されたコンデンサを有し、該コンデンサに充電された電圧をトランスの一次側に印加して、トランスの二次側に昇圧された電圧を発生させること、高電圧パルスを発生させること、及び、この高電圧パルスを上記両極の電極(E1,E2)の何れかと前記補助電極(Et)の間に印加することを限定するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開昭58-201296号公報(以下「引用刊行物」という。)には、第1?6図とともに以下の事項が記載されている。
ア.「低周波交流電源と、高周波ブロツク限流手段と、前記高周波ブロツク限流手段を介して前記低周波交流電源により付勢される高周波電源と、高周波電源の高周波電圧を昇圧する高周波電圧昇圧手段と、高周波電圧昇圧手段により昇圧された高周波高電圧が印加される始動補助手段を含む高圧放電ランプとを備え、前記昇圧された高周波高電圧で前記放電ランプを初始動および/または再始動するようにしたことを特徴とする放電灯点灯方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
イ.「しかし、高圧放電ランプはいつたん始動点灯すると、発光管の温度が数百℃に達し管内の蒸気圧が非常に高くなつている。このため消灯して直ちに再始動しようとしても、再始動電圧が著しく高いため、多くの場合瞬時再始動が困難ないし不可能であり、もし消灯後直ちに再始動させようとすると、非常に高い電圧が必要になる。しかも、そのような高電圧を配線路に供給することは、絶縁性の問題があるため部品の構成が困難になり、また例えできたとしても配線間や配線と金属部材間の絶縁,耐圧等に厳しい規制を受け、電撃等の危険性もあり、その上始動手段4の各構成部品が著しく大型かつ高価になるという問題点があった。
それゆえ、この発明の主たる目的は、高圧放電ランプの初始動はもとより、消灯後に瞬時またはより短時間で再始動が可能な、しかも始動手段を小型化でき、かつ安全な放電灯点灯方法およびこの点灯方法に好適する高圧放電ランプを提供することである。」(第2頁左上欄第1?19行)
ウ.「第3図はこの発明の放電灯点灯方法に基づく放電灯点灯装置の回路図を示す。図において、10は商用の低周波交流電源、11は高周波電圧をブロツクし商用の低周波のランプ電流を限流する高周波ブロツク限流手段、・・・(中略)・・・第4図は第3図の具体的な一実施例の回路図を示す。図において、高周波ブロツク限流手段11は単チョークコイルで構成されている。また、高周波電源12は、第2図に示す始動手段4と同様に発振コンデンサ5に対して昇圧インダクタ6とサイリスタ7の直列回路を並列接続してなる昇圧発振回路8で構成されている。ただし、その出力電圧は、放電ランプ14を初始動もしくは消灯後瞬時に再始動せしめ得る程高くはない。さらに、高周波電圧昇圧手段13は、一例としてインダクタ17とコンデンサ18とよりなり、高周波電源12の出力周波数に共振する直列共振回路で構成されている。また、放電ランプ14の発光管15には主電極19,20の他に始動補助手段16の一例としての近接導体を設けてあり、前記高周波電源12の出力電圧が主電極19,20に印加され、前記高周波電圧昇圧手段13を構成するインダクタ17とコンデンサ18の接続点の電位が前記近接導体16に与えられている。
そして、放電ランプ14は、例えば高圧ナトリウムランプの例で示すと、第5図に示すように、透光性アルミナ等よりなり両端に主電極19,20を有する発光管15に近接導体16を配置して・・・(中略)・・・いる。」(第2頁右上欄第15行?第3頁左上欄第15行)
エ.「電源スイツチ(図示せず)を開いて放電ランプ14を消灯し再び電源スイツチを投入すると、高周波電源12および高周波電圧昇圧手段13が作動して、昇圧された高周波高電圧が近接導体16に印加されるので、この高周波高電圧を再始動電圧よりも高くしておけば、発光管15を消灯後瞬時にあるいはより短時間で再始動することができる。」(第3頁右上欄第18行?左下欄第5行)
オ.「例えば数千V程度に昇圧すれば、水銀ランプやナトリウムランプは容易かつ確実に初始動および/または瞬時再始動ができる。また、従来再始動が困難ないし不可能とされていたメタルハライドランプにおいてもより短時間で再始動が行なえる。しかも、高周波電源12でいきなり数千V程度もの高電圧に昇圧しないので、高圧配線を回避することができる。」(第3頁左下欄第18行?右下欄第5行)
カ.「図示例のように、高周波電圧昇圧手段13のインダクタ17を発光管15のランプ電流路を避けて接続すれば、インダクタ17の電流容量を著しく小さくでき、格段に小型化できるのみならず、より高電圧を得ることができる。・・・(中略)・・・また、高周波電源12の出力電圧を数百V以下の比較的低電圧に抑えておけば、器具内の配線間や配線と金属部間の絶縁や耐圧等が容易,安価になるのみならず、電撃の危険性もなくなる。」(第3頁右下欄第16行?第4頁左上欄第11行)
キ.「あるいはインダクタ17に昇圧用の2次巻線を設けて、インダクタ17の端子電圧をさらに昇圧した上で始動補助手段16に印加するようにしてもよい。・・・(中略)・・・
また実施例では高周波電圧昇圧手段13を直列共振昇圧回路として説明したが、その他トランス構成等の昇圧手段でも同様な効果を奏する範囲内において置換できることはもちろんである。
この発明は以上のように、低周波交流電源電圧を高周波電圧に変換し、この高周波電圧を昇圧して高圧放電ランプの発光管の始動補助手段に印加するようにしたので、低周波高電圧または高周波高電圧を発光管の主電極間に印加する場合に比較してより小さい高電圧で高圧放電ランプの初始動および/または再始動がより確実かつより短時間で行なえる。」(第4頁左下欄第3行?右下欄第2行)
ク.第4図には高周波ブロツク限流手段11を介して低周波交流電源10の電圧が発光管15の主電極19,20に印加されるとともに、主電極19,20に接続される高周波電圧昇圧手段13のインダクタ17とコンデンサ18の接続点の電位が近接導体16に与えられる接続態様が図示されており、高周波電圧昇圧手段13の出力する電位は主電極19,20に対する電位であるといえる。
ケ.第5図には近接導体16が発光管15の外周に接するように設けられる配置態様が図示される。

これらの記載事項ア.?カ.及びク.?ケ.の図示内容を総合すると、上記引用刊行物には、「水銀ランプやメタルハライドランプ等の高圧放電ランプ14と、
高圧放電ランプ14の発光管15の主電極19,20に低周波交流電源10からの低周波のランプ電流を限流して印加する高周波ブロツク限流手段11を接続する放電灯点灯装置において、
始動補助手段である近接導体16を、発光管15の外周に接するように設け、
主電極19,20に対して再始動電圧より高い高周波高電圧を発生して近接導体16に与える高周波電源12及び高周波電圧昇圧手段13を接続して、
水銀ランプやナトリウムランプは容易かつ確実に瞬時再始動ができ、従来再始動が困難ないし不可能とされていたメタルハライドランプにおいてもより短時間で再始動が行えるようにした放電灯点灯装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「水銀ランプやメタルハライドランプ等の高圧放電ランプ14」は前者の「放電ランプ(Ld)」に相当し、後者の「高圧放電ランプ14の発光管15の主電極19,20」はその構成・機能からみて前者の「一対の主たる放電のための電極(E1,E2)」に相当し、以下同様に、後者の「低周波交流電源10からの低周波のランプ電流」は前者の「放電電流」に、後者の「低周波交流電源10からの低周波のランプ電流を限流して印加する高周波ブロツク限流手段11」は前者の「放電電流を供給するための給電回路(Bx)」に、後者の「放電灯点灯装置」は前者の「光源装置」に、後者の「始動補助手段である近接導体16」は前者の「主たる放電のための電極以外の補助電極(Et)」に、それぞれ相当する。
また、後者の近接導体16は「発光管15の外周に接するように設け」られるのであるから、前者と同様に、「主たる放電のための放電空間(12)に接しないように設け」られているといえ、後者の「高周波電源12及び高周波電圧昇圧手段13」は「主電極19,20に対して再始動電圧より高い高周波高電圧を発生して近接導体16に与える」のであって、そのことにより「水銀ランプやナトリウムランプは容易かつ確実に瞬時再始動ができ、従来再始動が困難ないし不可能とされていたメタルハライドランプにおいてもより短時間で再始動が行える」のであるから、その機能からみて、前者の「主たる放電のための両極の電極(E1,E2)の何れかと補助電極(Et)の間に高電圧」「を発生するスタータ(Ue)」に相当するといえ、「スタータ(Ue)は」「高電圧を発生させ、この高電圧」「を電極(E1,E2)の何れかと前記補助電極(Et)の間に印加する」ものともいえる。
したがって、両者は、「放電ランプ(Ld)と、
主たる放電のための電極(E1,E2)に放電電流を供給するための給電回路(Bx)を接続してなる光源装置において、
前記主たる放電のための電極以外の補助電極(Et)を、主たる放電のための放電空間(12)に接しないように設け、
前記主たる放電のための両極の電極(E1,E2)の何れかと前記補助電極(Et)の間に高電圧を発生するスタータ(Ue)とを接続し、
該スタータ(Ue)は高電圧を発生させ、この高電圧を上記両極の電極(E1,E2)の何れかと前記補助電極(Et)の間に印加する
光源装置。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
相違点A:本願補正発明が「プロジェクタ用」であるのに対して、引用発明はそのような用途を限定するものではなく、放電ランプ(Ld)についても、本願補正発明が「放電空間(12)の容積1立方ミリメートルあたり0. 15mg以上の水銀を含み、電極間隔が2. 5mm以下である一対の主たる放電のための電極(E1,E2)が対向配置された」ものであるのに対して引用発明は「水銀ランプやメタルハライドランプ等の高圧放電ランプ14」としている点。
相違点B:スタータ(Ue)が発生する高電圧の波形について、本願補正発明は「高電圧パルス」であるのに対して引用発明は「高周波高電圧」である点。
相違点C:スタータ(Ue)が高電圧を発生する構成について、本願補正発明は「トランスと、該トランスの一次側に接続されたコンデンサを有し、該コンデンサに充電された電圧をトランスの一次側に印加して、トランスの二次側に昇圧された電圧を発生させ」るものであるのに対して引用発明はそのようなものではない点。
相違点D:スタータ(Ue)が発生する電圧値について、本願補正発明は「室温状態のランプに前記主たる放電を始動させるために必要な電圧の2?5倍の電圧」としているのに対して引用発明はそのような発明特定事項を有していない点。

そこで、上記相違点について検討する。
ア.相違点Aについて
特開平2-148561号公報や特開平6-52830号公報、特開2000-348680号公報等に示されるように、本願補正発明の「放電空間(12)の容積1立方ミリメートルあたり0. 15mg以上の水銀を含み、電極間隔が2. 5mm以下である一対の主たる放電のための電極(E1,E2)が対向配置された」放電ランプ(Ld)は周知である。
また、ショートアーク形の高圧放電灯である高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、また、ショートアーク形の超高圧放電灯である超高圧水銀ランプや超高圧メタルハライドランプをプロジェクタ用の光源に用いることも、例えば、上記特開平6-52830号公報(段落【0015】や【0016】等参照)や特開2001-35440号公報(段落【0002】や【0003】、【0021】等参照)、特開平6-290754号公報(段落【0017】や【0019】等参照)、特開2000-106141号公報、特開平11-354077号公報、特開平6-310100号公報等に示されているように当該技術分野において周知である。
そして、超高圧放電灯は高圧放電灯の一種であることも、例えば、上記特開平6-290754号公報(段落【0019】等参照)にも示されるように当業者にとって技術常識である。
そうすると、上記周知のショートアーク形の超高圧水銀ランプを用いたプロジェクタ用の光源装置として引用発明の光源装置を用いることは、上記のように超高圧放電灯は高圧放電灯の一種であって、引用発明も再始動が難しい又は困難な高圧放電灯の再始動を短時間で行おうとするものであるから、当業者が何ら格別の困難性を要することなくなし得たことといえる。そして、その放電ランプを上記周知の「放電空間(12)の容積1立方ミリメートルあたり0. 15mg以上の水銀を含み、電極間隔が2. 5mm以下である一対の主たる放電のための電極(E1,E2)が対向配置された」放電ランプとすることも、当業者が適宜採用し得たことである。
また、例え、本願補正発明のようなショートアーク形の超高圧水銀放電ランプが補助電極による再点弧(ホットリスタート)が難しいまたは不可能と考えられていたとしても、引用発明は「従来再始動が困難ないし不可能とされていたメタルハライドランプにおいてもより短時間で再始動が行えるようにした」ものであって、上記するように超高圧水銀放電ランプは高圧放電灯の一種といえるのであるから、さらに、上記引用刊行物には「低周波交流電源電圧を高周波電圧に変換し、この高周波電圧を昇圧して高圧放電ランプの発光管の始動補助手段に印加するようにしたので、低周波高電圧または高周波高電圧を発光管の主電極間に印加する場合に比較してより小さい高電圧で高圧放電ランプの初始動および/または再始動がより確実かつより短時間で行なえる」((2)のキ.)とも記載されるのであって、引用発明の放電灯点灯装置で再始動できないかとこれを採用してみることに格別の困難性は認められない。
さらに、引用発明はランプ電流路を避けてインダクタ17を設けることで、小型化しつつ高電圧を得る((2)のカ.参照)ものであるから、高圧を発生する巻線をランプ電流路に設けないように主電極間ではなく、近接導体16に再始動用の高電圧を印加することで上記効果を達成することが示唆されているといえる。そしてインダクタ17に換えてトランスを用いること((2)のキ.参照)も記載されている。そうすると、例えランプがショートアーク形の超高圧水銀ランプであるとしても、上記の目的を達成するように近接導体16を用いてこれに再点弧用の高電圧を印加するよう構成することは当業者にとって容易である。
なお、上記周知例である、特開平6-290754号公報、特開2000-106141号公報、特開平11-354077号公報及び特開平6-310100号公報には、一方の主たる放電のための電極と同じ電位ではあるものの、ショートアーク形の超高圧放電灯においても近接導体により始動性及び再始動性が向上することが示されており、ショートアーク形の超高圧放電灯においても当業者が近接導体の効果を当然期待することといえる。この点からも、引用発明の光源装置で、周知のショートアーク形の超高圧放電灯である本願補正発明の放電ランプ(Ld)を点灯しようとすることに格別の困難性は見出せない。

イ.相違点Bについて
本願補正発明は高電圧パルスを発生するとするものの、その具体的波形や繰り返し等について何ら規定していない。
また、本願補正発明の実施例とする図5のものは比較的ゆっくり電圧が上昇するものであり、図13のものは点弧するまで繰り返し放電ギャップが放電して高圧パルスが印加されるといえるものであって、その波形や繰り返しは任意であるといえる。
一方、引用発明も再始動電圧より高い数千V程度の高周波高電圧を発生するもの((2)のオ.も参照)であるから、高電圧の繰り返しパルスを印加するものといえるとともに、始動用の点弧電圧として高圧パルスを印加することは、上記周知例である特開平6-290754号公報(段落【0003】等参照)、特開2000-106141号公報(段落【0012】等参照)、特開平11-354077号公報(段落【0021】や【0022】等参照)、及び特開平6-310100号公報(段落【0010】等参照)にも示されるように常套手段であることから、相違点Bに係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。なお、本願補正発明はスタータの停止について特定していない。

ウ.相違点Cについて
スタータの点弧電圧を発生する構成として、「トランスと、該トランスの一次側に接続されたコンデンサを有し、該コンデンサに充電された電圧をトランスの一次側に印加して、トランスの二次側に昇圧された電圧を発生させ」るものは、例えば特開平9-274993号公報や特開平11-283769号公報、特開昭62-51194号公報等に示されるように周知である。また、引用発明においてもトランス構成とすることが示唆されている((2)のキ.参照)。そうすると、スタータの点弧電圧を発生するための具体的構成として、上記周知の構成とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。
そして、上記構成により格別の作用効果を奏するものともいえない。

エ.相違点Dについて
引用発明はより短時間で再始動が行えるようにするものであって、再始動電圧より高い高周波高電圧を発生するものである。そして従来絶縁性の問題や大型かつ高価となる問題からできなかった高電圧の印加を可能とする((2)のイ.及びエ.参照)ものといえる。
そうすると、より短時間の再点弧を行うように高電圧を印加しようとすることは当業者がただちに思い至ることである。
一方、絶縁性や大型かつ高価となる問題が述べられているように、当業者であれば、単に高い電圧であればよいと考えることはあり得ず、さらに、高電圧がスタータ自身の絶縁性の問題、大型かつ高価の問題を引き起こすことも当業者にとって当然考慮する事項といえる。上記特開平11-354077号公報(段落【0022】等参照)にも当該問題点やノイズ発生の問題点が指摘されている。
そうすると、電圧を高くして再始動の時間を短くしようとするとともに、高すぎると問題が生じるからこれを制限しようとすることは当業者が普通に想到することであるから、再始動の時間に対して効果的な高電圧の印加を行うべく、電圧に対する再始動の時間を測定して、設計条件に応じて適切な再始動時間と電圧値を求めることは当業者が設計時に通常行う程度、当然なす筈の事項といえる。実験結果から再始動の時間に対してより効果的な電圧値を求めることは、当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことである。本願の実験結果である図1及び図2で良いとする2?5倍の範囲の電圧は約8.2?25kVであって、この範囲の電圧は上記特開2000-106141号公報、特開平11-354077号公報、特開平6-310100号公報等にも示されるように、通常使用される電圧にすぎず、格別の電圧を用いる、低い電圧で良いというものでもない。
さらに言えば、上記のような実験を行うことが当業者にとって、その設計時に当然なす筈のことである以上、その結果から再始動の時間の短縮の効果がなくなる前付近の値を利用しようとすることは当業者が通常になす程度の事項であるといえる。
ところで、本願の実験結果である図1及び図2についてみると、当該実験は電極間隔を5種類、無負荷解放電圧を2種類について実験しているものの、その他の条件である、ランプや発光管の大きさや形状・材質、封入ガス種類や量、水銀やその他の物質の種類や量、電極の材質や形状、補助電極の形状や配置、高電圧パルスの波形や繰り返し状況、スタータの電流容量、主たる放電のための電圧、電流、電力(さらには、DC、AC、周波数、波形、特には点弧直後の電流供給の状況など)などについて、特定のランプについて特定の装置で実験するものであり、その温度等の条件も不明である。
したがって、その電圧のデータについて、始動しうる最も低い電圧との比で表したとしても、それが予定される全てのランプ、点灯装置、点灯条件に対して、どうして常に同じ結果となるのかその根拠が不明であり、大まかな傾向を提示するに留まるものといえ、始動しうる最も低い電圧を基準電圧として採用することにも格別の技術的意義が認められない。実際に図1及び図2をみても、さらにその値の決定方法からみても、2?5倍という値そのものに臨界的意義が認められない。
さらに請求項1では、2?5倍の電圧を有する高電圧パルスを発生、印加することを発明特定要件としているが、その根拠となる図1?図3の実験では、電圧の測定を補助電極より外して行うもの(段落【0024】参照)であって、補助電極の接続により当然その発生するパルスの波形も電圧も変化するものであるから、この点においても2?5倍という値そのものに臨界的意義があるとはいえない。
以上のようであるから、設計に際し、電圧に対する再始動の時間を実験により求めて、再始動時間の短縮に対して効果的な電圧値として、始動しうる最も低い電圧の2?5倍の電圧を採用することは当業者が容易になし得たことである。
そうすると、引用発明に特定のランプを用いてスタータを設計するに際し、その発生する電圧について、相違点Dに係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。

そして上記相違点A?Dを合わせ考えても、本願補正発明の効果が格別であるとはいえない。

エ.まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(なお、平成14年3月6日付けの手続補正は特許請求の範囲を補正するものではない。)
「放電空間(12)の容積1立方ミリメートルあたり0.15mg以上の水銀を含み、電極間隔が2.5mm以下である一対の主たる放電のための電極(E1,E2)が対向配置されると共に、前記主たる放電のための電極以外の補助電極(Et)を主たる放電のための放電空間(12)に接しないように設けた放電ランプ(Ld)と、前記主たる放電のための電極(E1,E2)に放電電流を供給するための給電回路(Bx)と、前記主たる放電のための両極の電極(E1,E2)の何れかと前記補助電極(Et)の間に高電圧を発生するスタータ(Ue)とを接続してなる光源装置において、
前記スタータ(Ue)は、室温状態のランプに前記主たる放電を始動させるために必要な電圧の2?5倍の電圧を発生させる能力を有するように光源装置を構成することを特徴とする光源装置。」

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明の発明を特定するための事項である光源装置に関してのプロジェクタ用との限定、及び、スタータ(Ue)に関し、トランスと、該トランスの一次側に接続されたコンデンサを有し、該コンデンサに充電された電圧をトランスの一次側に印加して、トランスの二次側に昇圧された電圧を発生させること、高電圧パルスを発生させること、及び、この高電圧パルスを上記両極の電極(E1,E2)の何れかと前記補助電極(Et)の間に印加することとの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-06 
結審通知日 2007-12-11 
審決日 2007-12-25 
出願番号 特願2001-70474(P2001-70474)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 光治  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 平上 悦司
岸 智章
発明の名称 光源装置  
代理人 長澤 俊一郎  

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