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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1173592
審判番号 不服2005-13885  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-21 
確定日 2008-02-21 
事件の表示 平成10年特許願第337663号「基板処理装置および基板処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月16日出願公開、特開2000-164550〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件の出願(以下、「本願」という。)は、平成10年11月27日に出願したものであって、平成17年1月19日付けの拒絶理由通知(発送日:同月25日)に対して同年3月25日付けで手続補正がなされたが、同年6月14日付け(発送日:同月21日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月21日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年8月12日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成17年8月12日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年8月12日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成17年8月12日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。

「第1薬液成分と第2薬液成分とを有する処理液に基板を浸漬させて処理する基板処理装置であって、前記処理液を貯留する処理槽と、前記処理槽に貯留された処理液に基板を導入する導入手段と、前記第2薬液成分よりも自然劣化が遅い前記第1薬液成分を前記処理液中に補充し、前記処理液中の前記第1薬液成分の濃度を一定に保つ第1薬液成分補充手段と、前記処理液中に前記第2薬液成分を補充する第2薬液成分補充手段と、前記第1薬液成分を補充して前記第1薬液成分の濃度を一定に保持した後、前記導入手段によって前記処理液に基板が導入される直前から前記処理液に基板が導入される直後までの時間において、前記第2薬液成分を補充するように、前記第1薬液成分補充手段と前記第2薬液成分補充手段とを制御する制御手段と、を備えることを特徴とする基板処理装置。」

2.補正の適否の判断
本件補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について、「前記第1薬液成分を補充した後」という事項を「前記第1薬液成分を補充して前記第1薬液成分の濃度を一定に保持した後」という事項と補正することにより、「前記第1薬液成分の濃度を一定に保持し」という事項を追加することを含むものである。
しかし、追加された「前記第1薬液成分の濃度を一定に保持し」という事項は、本件補正前から特定事項として記載されている「第1薬液成分の濃度を一定に保つ第1薬液成分補充手段」という事項に基づいて、第1薬液成分補充手段により第1薬液成分が補充されれば、明示されなくても必然的に、導き出される事項である。
即ち、本件補正は、既に特定されている事項を重複して特定したものにすぎないから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められない。
また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的としたものとも認められない。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定される目的の何れにも該当しない。

3.むすび
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年3月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「第1薬液成分と第2薬液成分とを有する処理液に基板を浸漬させて処理する基板処理装置であって、前記処理液を貯留する処理槽と、前記処理槽に貯留された処理液に基板を導入する導入手段と、前記第2薬液成分よりも自然劣化が遅い前記第1薬液成分を前記処理液中に補充し、前記処理液中の前記第1薬液成分の濃度を一定に保つ第1薬液成分補充手段と、前記処理液中に前記第2薬液成分を補充する第2薬液成分補充手段と、前記第1薬液成分を補充した後、前記導入手段によって前記処理液に基板が導入される直前から前記処理液に基板が導入される直後までの時間において、前記第2薬液成分を補充するように、前記第1薬液成分補充手段と前記第2薬液成分補充手段とを制御する制御手段と、を備えることを特徴とする基板処理装置。」

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-166780号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある。

ア.「本発明は、洗浄装置、特に硫酸と過酸化水素水の混合液を洗浄液として用いる洗浄装置に関する。」(第2頁第1欄第24-26行)

イ.「半導体ウェハに付着した有機物の除去(典型例がフォトレジスト膜の剥離除去)、無機物(金属等)の除去、パーティクルと称される微粒子の除去のためにウェハ洗浄液として硫酸と過酸化水素水の混合液が多く用いられる。元来、硫酸は単独でも洗浄効果を有するが、それに過酸化水素水を混合すると下記の反応が生じ、その結果、カロー酸H_(2)SO_(5)が発生し強い洗浄効果を得ることができる。
2H_(2)SO_(4) +H_(2)O_(2) →H_(2)SO_(4) +H_(2)SO_(5) +H_(2)O(尚、この反応は可逆反応である。)」(第2頁第1欄第28-37行)

ウ.「従来において、過酸化水素水の補充タイミング、補充量、混合液交換頻度を、実際の混合液の組成濃度のモニターをすることなく行っていたので、常に安定した洗浄が行えないという問題があった。この問題について詳細に説明すると次のとおりである。カロー酸H_(2)SO_(5)は一般に、硫酸濃度と過酸化水素水の混合濃度によって転換率が決まり、図5に示すように、硫酸濃度が高い程硫酸に過酸化水素水を添加したときのカロー酸H_(2)SO_(5)の発生率(カロー酸H_(2)SO_(5)への転換率)が高くなる。そして、カロー酸H_(2)SO_(5)の発生率が高い程洗浄力が強いのである。従って、若し、硫酸濃度を低くすると過酸化水素水を多量に添加してもカロー酸H_(2)SO_(5)の発生率が低くなるので充分な洗浄効果が得られないのである。依って、洗浄効果を高めるためには、出来るだけ高濃度の硫酸に過酸化水素水を混合するようにすることが必要であるといえる。
ところで、洗浄力は過酸化水素濃度にも左右され、過酸化水素濃度が低下すると洗浄力も低下し、そして過酸化水素濃度は洗浄、時間経過によって低下する。というのは、H_(2)O_(2)が分解すると水H_(2)Oが残り、洗浄の進行により水が徐々に増えるからである。従って、一定以上の洗浄力を確保するためには過酸化水素水を適宜補充する必要があるのである。また、洗浄の進行、時間が経過しても硫酸の量は減少しない(但し、ウェハを液槽から引き上げるときウェハに付着した分は減少する。)が、過酸化水素水の分解により水が増えることによって更には硫酸自身の吸湿性によって硫酸濃度は低下する。そして、前述のとおり硫酸濃度の低下によっても洗浄力が低下する。特に硫酸濃度が一定以下になると極端に洗浄力が弱まるので混合液全体を交換した方が好ましいのである。」(第2頁第2欄第17-48行)

エ.「最近は、過酸化水素水の補充頻度、混合液の交換頻度をより高くしたり、処理時間をより長くすることにより洗浄力不足が生じないようにする傾向も生じてきている。しかし、それは処理時間の過剰、薬液消費量の過剰を招き、コスト増の一因にもなりつつある。特に、混合液の硫酸濃度があまり低くないのに交換することは、排液処理に要するコストの増大を招く。」(第3頁第3欄第9-15行)

オ.「本発明はこのような問題点を解決すべく為されたものであり、その一つの目的は洗浄力の低下、薬液の過剰消耗を伴うことなく安定した洗浄を行うことができるようにすることにあり、他の目的は温度変化による洗浄力の低下、薬液の過剰消耗を防止することにある。」(第3頁第3欄第16-21行)

カ.「請求項1の洗浄装置によれば、濃度検出手段により過酸化水素濃度、硫酸濃度の低下を正確に把握したうえで過酸化水素水の補充、混合液の交換を行うことが可能になるので、洗浄力不足や過頻度補充、過頻度交換を伴うことなく安定に半導体ウェハ等の洗浄を行うことができる。」(第3頁第3欄第33-38行)

キ.「図1乃至図3は本発明洗浄装置の一つの実施例を示すもので、図1は装置の構成図、図2は濃度コントロール動作を示すフローチャート、図3は洗浄をした場合の混合液の硫酸濃度及び過酸化水素濃度の推移の一例を示す濃度変化図である。
図面において、1は硫酸と過酸化水素水の混合液からなる洗浄液の入った液槽、2は液液槽1へ硫酸を供給する硫酸供給管に設けられたバルブ、3は液槽1へ過酸化水素水を供給する硫酸供給管に設けられたバルブ、4は液槽1内の混合液の温度を検出する温度センサー、5は液槽1内の混合液の液面の高さを検出する液位センサーである。
6は混合液を加熱するヒーター、7は混合液を冷却するクーラーであり、共に液槽1内の混合液を取り出して還流する経路に設けられており、その還流経路を通る硫酸と過酸化水素水からなる混合液を加熱あるいは冷却することにより液槽1内の混合液の温度を上昇させたり低下させたりする。8は還流を生ぜしめるポンプ、9はフィルタである。
10は液槽1内の硫酸濃度及び過酸化水素濃度を検出する濃度分析装置であり、本例においては上記還流経路のフィルタ9を経て液槽1内に戻ろうとする混合液の一部を取り込んで濃度を測定するようになっている。本濃度分析装置10は、混合液の吸光度を測定することにより硫酸濃度及び過酸化水素濃度を求めるものであり、比較的高い測定精度を得ることができる。尚、濃度測定方法としてPH電極やH_(2)O_(2)電極を用いる、混合液の屈折率を求めるあるいはイオン電極を用いる等の各種濃度測定方法があり、濃度分析装置10はどの濃度測定方法を用いたものであっても良い。
11は過酸化水素水を液槽1内に補充する過酸化水素水補充管に設けられたバルブ、12は液槽1から混合液を廃棄する廃棄管に設けられたバルブである。13は装置全体を制御するコントローラであり、コンピュータからなる。」(第3頁第3欄第48行-同頁第4欄第32行)

ク.「次に、図2に従って洗浄装置の動作を説明する。初期状態では液槽1内は廃棄が終了して空になっている。そして、洗浄装置が起動すると、過酸化水素水の液槽1への注入が行われ、更に硫酸の滴下も行われる。具体的にはバルブ3、2を開くことにより行う。ところで、硫酸と過酸化水素水を混合すると、その際に過酸化水素H_(2)O_(2)が下記の反応を起す。
2H_(2)O_(2)→O_(2)+2H_(2)O+98.5KJ
そして、98.5KJが反応熱として混合液の液温を高める要因となり、液温が高くなると過酸化水素の分解を惹起し、過酸化水素濃度の低下を速め、延いてはカロー酸H_(2)SO_(5)の発生率の低下を招く。
そこで、図示こそしなかったが、温度センサー4により検出した温度が予め設定した値よりも高いか低いかを判定し、高いときはクーラー7により液温を低下させる動作も行う。そして、図示はしないが、液面の高さ(液位センサー5により検出する。)が予め設定された値に達したときバルブ3、2を閉じて硫酸、過酸化水素水の供給を停止する動作をする。」(第3頁第4欄第33行-第4頁第5欄第1行)

ケ.「以後、実際にウェハを洗浄処理する作業が行われることになる。この作業中下記の動作が行われる。硫酸濃度と過酸化水素濃度を測定し、硫酸濃度が予め設定した基準値d以上であるか否かを判定し、基準値d以上であるという判定結果が得られたら過酸化水素濃度が予め設定した基準値e以上であるか否かを判定する。
そして、基準値e以上であるという判定結果が得られたら混合液の液温を確認した上で硫酸濃度、過酸化水素濃度の測定に戻り、上記各判定の結果がYesである限り、上記一連の動作が繰返される。そして、この状態の下でウェハ洗浄が繰返されるのである。
ところで、洗浄の繰返し、時間の経過によって過酸化水素H_(2)O_(2)が分解し、過酸化水素濃度が低下する(この低下はカロー酸H_(2)SO_(5)転換率の低下を招き洗浄力の低下につながること前述のとおりである)。従って、過酸化水素濃度がやがて過酸化水素濃度低下許容値として設定された基準値eよりも低くなる。すると、過酸化水素濃度が基準値e以上か?という判定の結果がNoになりバルブを一定時間開いて過酸化水素水を一定量補充する動作が行われる。その結果、過酸化水素濃度は初期状態のときの値に近くなる。尚、コンピュータからなるコントローラ13において最も適切な過酸化水素の補充量を算出し、その算出した量の正確な補充を自動的に行うように制御するようにしても良い。」(第4頁第5欄第28行-同頁第6欄第2行)

コ.「そして、バルブ12を開いて混合液を排出する。硫酸濃度が低下すると、もはや混合液には必要な洗浄力を期待出来ないから排出するのである。勿論、硫酸を補充することも考えられるが、水が相当に多くなっているので相当の硫酸を補充しても硫酸濃度を充分に高めることが難しいので混合液全体を交換することとするのである。」(第4頁第6欄第13-19行)

サ.「その後は硫酸濃度と過酸化水素濃度を測定し、硫酸濃度、過酸化水素濃度とそれらの所定の基準値とを比較して補充、交換のタイミングを決めるので、洗浄力が著しく低下して半導体ウェハが洗浄不足になったり、洗浄力が不足していないのに過頻度に薬液の補充、交換が行われて薬液の消耗量が徒らに多くなることを回避することができる。」(第5頁第7欄第19-25行)

また、引用例1の半導体ウェハを洗浄する洗浄装置が、液槽に半導体ウェハを導入する導入手段を有することは、技術常識に照らせば明らかである。

したがって、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

「硫酸と過酸化水素水とを有する洗浄液に半導体ウェハを浸漬させて処理する洗浄装置であって、洗浄液を貯留する液槽と、液槽に貯留された洗浄液に半導体ウェハ導入する導入手段と、洗浄液中に過酸化水素水を補充するH_(2)O_(2)補充バルブと、過酸化水素水より自然劣化が遅い硫酸の、洗浄液中の硫酸の濃度を一定以上に保つようにし、また、硫酸と過酸化水素水との供給量を制御し、過酸化水素濃度に基づき過酸化水素水を補充するH_(2)O_(2)補充バルブを制御するコントローラとを備えた洗浄装置。」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-278529号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。

シ.「本発明は半導体集積回路装置の製造装置において、シリコンウェハーをアンモニア,過酸化水素水又は硫酸,過酸化水素水等の無機薬液で洗浄するシリコンウェハー洗浄装置に関する。」(段落【0001】)

ス.「従来のシリコンウェハ洗浄装置は、アンモニア,過酸化水素水又は硫酸,過酸化水素水等の無機薬液の混合液を、60?100℃の温度にしてシリコンウェハーを洗浄している。この時、シリコンウェハー洗浄装置の薬液槽内の各薬液の濃度は、液温を60?100℃にすることによって経時的に減少する方向で変化する。特にアンモニア,過酸化水素水の場合、アンモニアの濃度が減少すると洗浄効果が低下し、硫酸,過酸化水素水の場合も過酸化水素水の濃度が減少するとカロ酸生成量が減少し、洗浄効果が低下する。
このため従来装置では、各薬液を一定時間間隔である一定量自動補充している。しかし、この方法では、薬液槽内の各薬液ごとの濃度が一定になるように制御することが困難であり、自動補充の方法が最適化されてない場合には、各薬液ごとの濃度の経時変化が激しくなり、濃度のばらつきが大きくなるという問題がある。」(段落【0003】-【0004】)

セ.「本発明のシリコンウェハー洗浄装置は、アンモニア,過酸化水素水又は硫酸,過酸化水素水等の無機薬液の濃度を各薬液ごとに計測する成分分析計を取りつけ、薬液槽内に混合された各々の薬液の濃度を連続モニターすることを可能にしている。そして、成分分析計からの信号に基づいて補充用開閉弁を制御し、薬液槽内の各々の薬液の濃度が、新液投入直後より経時的に減少しても、濃度がある一定値まで減少した時に、濃度の減少した薬液について自動補充できるようにしている。」(段落【0005】)

ソ.「実施例1は、シリコンウェハー洗浄装置の薬液層1に、アンモニアと過酸化水素水の各濃度を光学的に計測する成分分析計5及び6が取り付けてある。分析の際は、まず計測サンプリング用開閉弁7を開き、薬液槽1内の薬液をポンプ8でフィルター9を介して順環させる。これにより、薬液槽1内のアンモニア過酸化水素水の濃度を常時連続モニターすることができ、成分分析計5,6からの開閉指令信号10により補充用開閉弁4を開閉させ、薬液槽1内のアンモニア又は過酸化水素水が経時的に減少しても、ある一定量までアンモニア又は過酸化水素水が減少した時点でアンモニア補充槽2aおよび過酸化水素水補充槽3から自動補充し、常に薬液槽内のアンモニアおよび過酸化水素水の濃度を一定に保つことが可能となる。」(段落【0008】)

タ.「次に、実施例1および2の従来技術に対する効果を説明する。図4は実施例1と従来技術とを比較するグラフで、同図(a)は本発明の実施例1を用いた場合の薬液槽内のアンモニアと過酸化水素水の濃度の経時変化を示すグラフである。また、同図(b)は従来技術を用いた場合の薬液槽内のアンモニアと過酸化水素水の濃度の経時変化を示すグラフである。」(段落【0010】

チ.「以上説明したように本発明のシリコンウェハー洗浄装置は、薬液槽内の各薬液の濃度を質量比として連続モニターできるように、成分分析計が取り付けてある。これにより、薬液槽の各薬液の濃度の経時変化に応じて濃度の減少した薬液の自動補充の制御が可能になり、洗浄効果の安定化が図れる。」(段落【0014】)

したがって、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されている。

「硫酸と過酸化水素水からなる混合液中に硫酸を補充し、混合液中の硫酸の濃度を一定に保つ硫酸の補充用開閉弁を備えたシリコンウェハー洗浄装置。」

3.対比
本願発明と上記引用例1発明とを対比する。

引用例1発明の「硫酸」は、本願発明の「第1薬液成分」に相当し、以下同様に、「過酸化水素水」は「第2薬液成分」に、「洗浄液」は「処理液」に、「半導体ウェハ」は「基板」に、「洗浄装置」は「基板処理装置」に、「液槽」は「処理槽」に、「H_(2)O_(2)補充バルブ」は「第2薬液成分補充手段」に、「コントローラ」は「制御手段」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、

「第1薬液成分と第2薬液成分とを有する処理液に基板を浸漬させて処理する基板処理装置であって、前記処理液を貯留する処理槽と、前記処理槽に貯留された処理液に基板を導入する導入手段と、前記処理液中に前記第2薬液成分を補充する第2薬液成分補充手段と、前記第2薬液成分補充手段とを制御する制御手段と、を備えることを特徴とする基板処理装置。」

の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では、第2薬液成分よりも自然劣化が遅い第1薬液成分を処理液中に補充し、前記処理液中の前記第1薬液成分の濃度を一定に保つ第1薬液成分補充手段を備えているのに対し、
引用例1発明では、過酸化水素水より自然劣化が遅い硫酸の、洗浄液中の硫酸の濃度を一定以上に保つようにしているが、処理液中の第1薬液成分である硫酸の濃度を一定に保つ第1薬液成分補充手段を備えてはいない点。

[相違点2]
本願発明では、導入手段によって処理液に基板が導入される直前から前記処理液に基板が導入される直後までの時間において、第2薬液成分を補充するように、第2薬液成分補充手段を制御する制御手段を備えているのに対し、
引用例1発明では、過酸化水素濃度に基づき過酸化水素水を補充するH_(2)O_(2)補充バルブを制御する制御手段(コントローラ)を備えている点。

4.判断
相違点1について
引用例1には、硫酸を補充して硫酸濃度を一定以上にすることも考えられる旨、記載されている。(上記摘記事項「コ.」を参照。)

また、引用例2発明における「硫酸」は、本願発明の「第1薬液成分」に相当し、以下同様に、「過酸化水素水」は「第2薬液成分」に、「混合液」は「処理液」に、「硫酸の補充用開閉弁」は「第1薬液補充手段」に、「シリコンウェハー洗浄装置」は「基板処理装置」にそれぞれ相当し、また、硫酸が過酸化水素水よりも自然劣化が遅いことは、技術常識に照らし明らかなことであるから、引用例2発明は、
「第2薬液成分よりも自然劣化が遅い第1薬液成分を処理液中に補充し、前記処理液中の前記第1薬液成分の濃度を一定に保つ第1薬液成分補充手段を備えた基板処理装置。」ということができる。

そして、引用例1発明、及び、引用例2発明の課題は、ともに、安定したウェハの洗浄を行うことである。(上記摘記事項「オ.」、「ス.」及び「チ.」を参照。)

したがって、引用例1発明において、第2薬液成分よりも自然劣化が遅い第1薬液成分を処理液中に補充し、前記処理液中の前記第1薬液成分の濃度を一定に保つ第1薬液成分補充手段を備え、上記相違点1に係る本願発明の構成を採用することは、引用例2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

相違点2について
基板洗浄を行う基板処理装置において、処理液の使用量の削減のために、導入手段によって処理液に基板が導入される直前において自然劣化の速い薬液成分を補充するように制御することは、当業者にとって従来周知の技術的事項(例えば、特開昭62-78828号公報(特に、第2頁左上欄第2-5行、第8頁右上欄第6行-第10頁左上欄第11行を参照。)、特開平7-142435号公報(特に、段落【0019】を参照。)を参照されたい。)である。

したがって、引用例1発明において、導入手段によって処理液に基板が導入される直前から前記処理液に基板が導入される直後までの時間において、自然劣化の速い第2薬液成分を補充するように制御するようにし、上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

しかも、本願発明の作用効果は、引用例1発明、引用例2発明、及び、周知の技術的事項から当業者が予測できた範囲内のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明、引用例2発明、及び、周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-12 
結審通知日 2007-12-18 
審決日 2008-01-04 
出願番号 特願平10-337663
審決分類 P 1 8・ 573- Z (H01L)
P 1 8・ 574- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 571- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早房 長隆金丸 治之  
特許庁審判長 岡 千代子
特許庁審判官 新海 岳
関口 哲生
発明の名称 基板処理装置および基板処理方法  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

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