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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1173962
審判番号 不服2005-24129  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-15 
確定日 2008-03-06 
事件の表示 特願2000-189306「高清浄構造用合金鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月 9日出願公開、特開2002- 4005〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年6月23日の出願であって、平成17年11月11日付けで拒絶査定され、これに対し、同年12月15日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年12月26日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成17年12月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成17年12月26日付けの手続補正を却下する。

【決定の理由】
[1]手続補正の内容
平成17年12月26日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1?3を補正するものであるところ、補正後の請求項1に係る発明は、その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「所定の探傷走査ピッチで検査試料中の非金属介在物の少なくとも位置および数を検出する粗超音波探傷を行った後、前記粗超音波探傷よりも探傷走査ピッチを狭くして前記粗超音波探傷により検出された介在物の粒径を検出する精密超音波探傷を行い、前記粗超音波探傷及び前記精密超音波探傷で検出された欠陥のうち、粒径が25μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物に相当する欠陥の個数が、検査対象である鋼3000mm^(3)あたりに10個以下であることが確認されたものを選抜して得られた高清浄構造用合金鋼。」(以下、「本願補正発明」という。)

[2]手続補正の適否
上記補正は、次の理由により、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

〈独立特許要件違反について〉
[2-1]引用例とその記載事項
原査定の理由で引用された刊行物2である特開平7-109541号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「【請求項2】 重量%にて、C:0.15?1.10%、Si:0.15?0.70%、Cr:0.50?1.60%、Mo:0.10?1.00%、Mn:0.10%以下、O:8ppm以下、残部Feおよび不可避不純物元素からなり、酸化物系介在物の粒子径が15μm以下であることを特徴とする電子ビーム溶解法による超清浄度軸受用鋼。」

(b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来の問題点に鑑みてなされたもので、通常の量産鋼の製造方法によって製造された鋼材を母材とし、電子ビーム溶解のみの再溶解を行うことによって、Al_(2)O_(3) のような酸化物系介在物を大幅に低減させ、疲労特性に優れた超清浄度軸受用鋼を製造する方法およびその製造方法によって製造された超清浄度軸受用鋼を提供することにある。」

(c)「【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明は、従来の電子ビーム溶解法により蒸発し消失するMnをあらかじめ0.20%を超えて含まない量まで取り除いたものを溶解母材とし、さらに溶解条件を制御することにより、大型の非金属介在物を浮上除去させ、超清浄度軸受用鋼の製造を可能にしたものである。
【0006】
そして、その手段は、(1)Mnを0.20%以下に規制した軸受用鋼を母材として使用し、長方形の皿状銅製水冷精錬用容器内での前記軸受用鋼の溶融金属の滞留時間として、前記溶融金属中から直径が15μm 以上の酸化物系非金属介在物を浮上分離するのに要する時間を確保することを特徴とする電子ビーム溶解法による超清浄度軸受用鋼の製造方法であって、そのために下記数式1を満足する条件で溶解するもの、」

(d)「【0025】また、本発明者らは介在物と寿命試験との関係について調査し、次の結果を得た(清浄度を評価する方法としては、『日本機械学会論文集(A編)1988年54巻 500号p688』で村上らが報告している極値統計法による予測最大介在物径(√Area max)を用いた。なお、検査基準面積を100mm^(2) 、予測する面積を30000mm^(2) とし、再帰期間301として推定した。)。
【0026】
前記の規定により推定される酸化物系介在物の√Area maxとスラスト型転動疲労試験機(電気製鋼研究会編「特殊鋼便覧」理工学社、1969年5月25日発行、10?21頁、10・28図参照)によるL_(10)(10%累積破損確率)との関係を調べ、その結果を図3に示す。同図から分かるように、√Area maxとL_(10)との間には強い相関が認められ、特に√Area max≦15μm の場合においては、従来の軸受鋼の2倍以上の寿命(5×10^(7) )を有する。したがって、30,000mm^(2) 中に15μm 以上の酸化物系介在物の存在しないことを前提に電子ビーム溶解法を設定した。」

(e)「【0044】次に、これらの製法によって造られた軸受用鋼の清浄度評価を行った。清浄度評価は鋼塊を65cmの丸棒に鍛伸後、鍛伸方向と平行な面を30cm^(2)観察することによって実施した。表3に示すように本発明鋼は、比較鋼2、6、10に比べ清浄度が著しく向上していることが分かる。また、VIM+VAR鋼である比較鋼4、8、12とほぼ同じである。次いで、発明鋼1および比較鋼A、2、3、4の場合、ソーキング処理、球状化焼鈍処理後、下記の熱処理を行い、厚さ5.5mmの試験片を作製し、また、発明鋼5、9および比較鋼B、6、7、8、C、10、11、12は、焼鈍処理後に下記の熱処理を行い、厚さ8mmの試験片を作製した。その後、すべての鋼について、表面をラッピング加工した後、面圧5292N/mm^(2)の条件で、転動疲労試験を行った。」

[2-2]当審の判断
(1)引用例に記載された発明
引用例の(a)には、「重量%にて、C:0.15?1.10%、Si:0.15?0.70%、Cr:0.50?1.60%、Mo:0.10?1.00%、Mn:0.10%以下、O:8ppm以下、残部Feおよび不可避不純物元素からなり、酸化物系介在物の粒子径が15μm以下であることを特徴とする電子ビーム溶解法による超清浄度軸受用鋼。」が記載されている。
ここで、上記化学組成からなる鋼は、合金鋼といえるものであり、上記軸受用鋼は、構造用鋼の1種であり、また、上記超清浄度は、高清浄ともいえる。
そして、上記(e)の「次に、これらの製法によって造られた軸受用鋼の清浄度評価を行った。清浄度評価は鋼塊を65cmの丸棒に鍛伸後、鍛伸方向と平行な面を30cm^(2)観察することによって実施した。表3に示すように本発明鋼は、比較鋼2、6、10に比べ清浄度が著しく向上していることが分かる。・・・」との記載及び表3の清浄度評価の結果から明らかなとおり、上記軸受用鋼は、鍛伸方向と平行な面を30cm^(2)(3000mm^(2))観察を行い、酸化物系介在物の粒子径が15μm以下であること、すなわち、粒子径が15μmを超える酸化物系介在物の累積個数が0個であることが確認されたものということができるし、しかも、上記観察の結果から、15μmを超える粒径の酸化物系介在物の個数の確認に基づいて、本発明鋼(供試材No.1,5,9)と比較鋼(同No.2,6,10等)とを峻別しているのであるから、結局、上記観察の結果に基づいて、本発明鋼を選抜しているといえる。
したがって、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「鍛伸方向と平行な面の観察を行い、粒子径が15μmを超える酸化物系介在物の累積個数が、検査対象である3000mm^(2)あたりに0個であることが確認されものを選抜して得られた高清浄構造用合金鋼。」

(2)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明が規定する「酸化物系介在物」は、粒子径が15μmを超えるものであるから、粒子状のもの、すなわち、塊状または粒状酸化物系介在物であり、また、引用発明の「粒子径」及び「累積個数」は、それぞれ、粒径及び個数と同義である。一方、本願補正発明の「酸化物系介在物に相当する欠陥」とは、要するに、酸化物系介在物のことである。
また、本願補正発明の「所定の探傷走査ピッチで検査試料中の非金属介在物の少なくとも位置および数を検出する粗超音波探傷を行った後、前記粗超音波探傷よりも探傷走査ピッチを狭くして前記粗超音波探傷により検出された介在物の粒径を検出する精密超音波探傷を行」うこと、及び引用発明の「鍛伸方向と平行な面の観察を行」うことは、いずれも、所定の方法で塊状または粒状酸化物系介在物の個数を確認することということができる。
そして、塊状または粒状酸化物系介在物の個数を確認した結果、引用発明は、15μmを超えるものの個数が0個であるから、当然、粒径が25μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物の個数も10個以下であるといえる。
したがって、両者は「所定の方法で塊状または粒状酸化物系介在物の個数の確認を行い、粒径が25μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物の個数が検査対象あたり10個以下であることが確認されたものを選抜して得られた高清浄構造用合金鋼」である点で一致し、次の点で一応の相違がみられる。

相違点;塊状または粒状酸化物系介在物の個数の確認を行う方法について、本願発明では、所定の探傷走査ピッチで検査試料中の非金属介在物の少なくとも位置および数を検出する粗超音波探傷を行った後、前記粗超音波探傷よりも探傷走査ピッチを狭くして前記粗超音波探傷により検出された介在物の粒径を検出する精密超音波探傷を行い、検査対象である3000mm^(3)あたりの塊状または粒状酸化物系介在物の個数を確認する方法を用いるのに対して、引用発明では、鍛伸方向と平行な面の観察を行い、検査対象である3000mm^(2)あたりの塊状または粒状酸化物系介在物の個数を確認する方法を用いる点

(3)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用例には、「・・・電子ビーム溶解のみの再溶解を行うことによって、Al_(2)O_(3)のような酸化物系介在物を大幅に低減させ、疲労特性に優れた超清浄度軸受用鋼を製造する方法・・・によって製造された超清浄度軸受用鋼を提供する」〔上記(b)参照〕こと、「・・・さらに、溶解条件を制御することにより、大型の非金属介在物を浮上させ、超清浄度軸受用鋼の製造を可能にしたものである。そして、その手段は、・・・前記溶融金属中から直径が15μm以上の酸化物系非金属介在物を浮上分離するのに要する時間を確保することを特徴とする電子ビーム溶解法による超清浄度軸受用鋼の製造方法であ」〔上記(c)参照〕ること、さらに、「・・・30,000mm^(2) 中に15μm 以上の酸化物系介在物の存在しないことを前提に電子ビーム溶解法を設定した」〔上記(d)参照〕こと等が記載されており、これらの記載によれば、引用発明は、鋼中に15μm以上の酸化物系介在物が存在しない鋼を得ることを目的として製造条件を設定することにより製造した高清浄度構造用合金鋼であるといえる。
してみると、引用発明は、その鋼中に15μm以上の酸化物系介在物は存在しないものであり、すると、当然、25μm以上の酸化物系介在物も存在しないものと解することができるから、引用発明は、本願補正発明の「粒径が25μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物が、検査対象である3000mm3あたり10個以下」との規定を満たすものと認められる。
したがって、上記相違点は、塊状または粒状酸化物系介在物の個数を確認する方法が相違するというに過ぎず、このような確認方法が相違するからといって、別の物が得られるわけではないから、高清浄度合金鋼という物の発明として、両者が相違するということはできない。
よって、本願補正発明は引用発明であると認められる。

〈請求人の主張について〉
請求人は、平成18年2月16日付け手続補正書(審判請求書についての手続補正書)の(3-3)において、引用例には、所定の粒径(例えば15μm)以下の介在物のみからなる高清浄度鋼との記載があるものの、該当する介在物検査法(顕微鏡法等)に関して被検査量(被検面積)が小さく、15μm以下の介在物と比較して極めて低い確率で偶発的に発生する25μm以上の介在物を見つけていないに等しいのに対して、本願補正発明の高清浄構造用合金鋼は、粒径が25μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物に相当する欠陥の個数が、検査対象である鋼の3000mm^(3)あたり10個以下であることが確認されたものを選抜して得られた点で、25μm以上の介在物を見つけていない引用発明とは「物」として明確に相違するという主旨の主張をしている。
しかしながら、本願補正発明の塊状または粒状酸化物系介在物の個数の確認を行う方法において、その検査対象の大きさ(被検査量)が、引用発明のものより大きいとしても、そのことによって、鋼中に極めて低い確率で偶発的に発生する25μm以上の酸化物系介在物を見つける可能性が高くなるに過ぎず、言い換えると、多数の高清浄構造用合金鋼の製品を製造した場合に、極めて低い確率でほんの僅かの製品に発生する可能性がある、25μm以上の酸化物系介在物を含む不良品を見つける精度が高くなるというだけのことに過ぎず、そして、本願補正発明の酸化物系介在物の個数の確認を行う方法を用いることにより、引用発明が用いる方法に比較して、不良品を見つける精度が多少高くなったとしても、それによって、上記不良品を除いた、本願補正発明と引用発明がそれぞれ規定する高清浄度構造用合金鋼自体に関して、両者が相違するわけではないので、本願補正発明が、引用例に記載された発明であると認定することを妨げるものではないというべきである。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

(4)小括
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[2-3]むすび
したがって、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明についての審決
[1]本願発明
平成17年12月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「所定の探傷走査ピッチで検査試料中の非金属介在物の少なくとも位置および数を検出する粗超音波探傷を行った後、前記粗超音波探傷よりも探傷走査
ピッチを狭くして前記粗超音波探傷により検出された介在物の粒径を検出する精密超音波探傷を行い、粒径が25μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物の個数が、検査対象である鋼3000mm^(3)あたりに10個以下であることが確認された高清浄構造用合金鋼。」

[2]原査定の理由の概要
原審の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるか、又はこれらの刊行物の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


刊行物1;特開昭60-194047号公報
刊行物2;特開平7-109541号公報
刊行物3;特開平9-291340号公報
刊行物4;特開平8-3682号公報

[3]引用例及び引用例の記載事項
原審の拒絶の理由で引用された刊行物2(引用例)とその記載事項は、上記第2の[2-1]に記載したとおりである。

[4]当審の判断
上記第2の[1]に記載した本願補正発明は、本願発明を減縮したものである。
このように減縮した本願補正発明が、引用発明と同一であると認められる以上、本願発明も、上記第2の[2-2]に記載したと同様の理由により、引用発明と同一であるといえる。

[5]むすび
したがって、本願発明は引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきでものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-28 
結審通知日 2008-01-08 
審決日 2008-01-21 
出願番号 特願2000-189306(P2000-189306)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C22C)
P 1 8・ 575- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蛭田 敦  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 山田 靖
平塚 義三
発明の名称 高清浄構造用合金鋼  
代理人 岸田 正行  
代理人 水野 勝文  

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