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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  G02C
審判 全部無効 2項進歩性  G02C
管理番号 1174618
審判番号 無効2005-80164  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-26 
確定日 2008-03-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3548569号「眼鏡レンズの供給システム」の特許無効審判事件についてされた平成18年 2月10日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成18年(行ケ)第10122号平成18年6月2日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3548569号に係る主な手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成 4年 9月24日 原出願(特願平4-255018)
平成12年 3月29日 分割出願(特願2000-91821)
平成15年 5月 7日 本件出願に係る分割出願
(特願2003-128894)
平成16年 4月23日 特許権の設定登録(特許第3548569号)
平成17年 5月26日 特許無効審判請求(無効2005-80164 )
平成17年 8月16日 答弁書提出(被請求人)
平成17年10月28日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成17年11月11日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成17年11月11日 口頭審理実施
平成17年11月22日 上申書(被請求人)
平成17年12月 1日 上申書(請求人)
平成18年 2月10日 審決(第1回)
平成18年 3月20日 知的財産高等裁判所へ出訴(被請求人)
(平成18年(行ケ)第10122号)
平成18年 4月28日 本件特許に係る訂正審判請求
(訂正2006-39067)
平成18年 6月 2日 審決取消決定(特許法第181条第2項による )
平成18年 6月19日 みなされた訂正請求
(訂正2006-39067 取下げ) 平成18年 8月17日 弁駁書提出(請求人)
平成18年12月27日 答弁書提出(被請求人)
平成19年 2月 1日 上申書提出(被請求人)
平成19年 4月 5日 上申書提出(請求人)

第2 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 訂正の請求とみなされた訂正の請求に係る訂正は、特許法第126条第3項及び同134条第2項ただし書前段の規定に違反するものであるため、訂正要件を満たさない。
よって、本件特許発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載されたものである。
そして、本件特許発明は、無効審判請求書に記載した以下のA.乃至C.の理由、あるいは平成18年2月10日付け審決に記載した理由によって、無効にされるべきである。

A.特許法第29条の2違反
本件発明は、本件特許出願の日前の他の特許出願であって本件出願後に出願公開された特願平4-54214号の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第3号証;以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

B.特許法第29条第2項違反(その1)
本件出願は、特願平4-255018号(特開平6-102473号)及び特願2000-91821号(特開2000-321540号)との関係で分割出願の要件を満たさないから、本件出願の出願日は遡及せず、平成15年5月7日である。そして、本件発明は、出願前に頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

C.特許法第29条第2項違反(その2)
本件発明は、出願前に頒布された甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

[証拠方法]
平成17年5月26日付け特許無効審判の審判請求書に添付する証拠方法として
甲第1号証:特開平6-102473号公報 (特願平4-255018号 (以下「原出願1」という。)の公開公報)(以下「刊行物1 」という。)
甲第2号証:特開2000-321540号公報 (特願平2000-91 821号(以下「原出願2」という。)の公開公報)(以 下「刊行物2」という。)
甲第3号証:特開平5-212661号公報(特願平4-54214号の公 開公報; 以下「刊行物3」ともいう。)
甲第4号証:特開昭59-93420号公報(以下「刊行物4」という) 甲第5号証:特開平4-13539号公報(以下「刊行物5」という。) 甲第6号証:特開昭58-196407号公報(以下「刊行物6」という )
甲第7号証:特開昭62-215814号公報(以下「刊行物7」とい う。)
参考資料:本件特許第3548569号公報

平成17年11月11日付け口頭審理陳述要領書に添付する証拠方法として
参考資料2ないし6

平成17年12月1日付け上申書に添付する証拠方法として
参考資料7(平成17年12月1日付け上申書に添付)

2 仮に訂正の請求とみなされた訂正の請求に係る訂正が認められたとしても、本件訂正後の発明は、依然として(1)特許法第29条の2の規定に適合せず、又(2)同法第29条第2項の規定に適合せず、本件特許はいずれにせよ同法123条第1項第2号に基づいて無効とされるべきと主張する。

第3 被請求人の主張の概要及び証拠方法

1 平成18年4月28日請求の訂正審判(訂正2006-39067)の請求書に添付された特許請求の範囲と明細書を援用する訂正の請求とみなされた訂正の請求に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張、変更するものでもないから、認められるべきである。

2 乙第1号ないし乙第5号証を提出するとともに、本件発明は、本件特許出願の日前の他の特許出願であって本件出願後に出願公開された明細書又は図面(甲第3号証)に記載された発明と同一ではなく、また、本件特許出願は、分割出願の要件を満たすものであり、本件出願の出願日は、原出願1又は2のものに遡及するから、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明は公知ではなく、したがって、本件発明が、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、さらに、本件特許発明は、出願前に頒布された甲第4号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、請求人の主張は理由がなく、採用されるべきではない旨主張する。

[証拠方法]
平成17年8月16日付け答弁書に添付する証拠方法として
乙第1号証:「特許・実用新案審査基準」の適用時期・適用対象

平成17年10月28日付け口頭審理陳述要領書に添付する証拠方法として
乙第2号証:「眼鏡」1993年3月号
乙第3号証:「眼鏡」1994年8月号
乙第4号証:特許第3208566号公報

平成18年12月27日付け答弁書に添付する証拠方法として
乙第5号証:「調査報告書」HOYA株式会社 ビジョンカンパニー

さらに、被請求人は、平成18年4月28日付け訂正審判の請求に際し、以下の証拠方法を提示するとともに、請求人の主張は理由がなく、採用されるべきでない旨主張する。

[証拠方法]
(1)甲第1号証:特開昭59-93420号公報
(本件特許に係る無効審決に引用された甲第4号証)
(2)甲第2号証:特開昭58-196407号公報
(本件特許に係る無効審決に引用された甲第6号証)
(3)甲第3号証:特開昭62-215814号公報
(本件特許に係る無効審決で周知技術として引用された 刊行物)
(4)甲第4号証:特開昭62-169009号公報
(本件特許に係る無効審決で周知技術として引用された 刊行物)
(5)甲第5号証:特開平1-305308号公報
(本件特許に係る無効審決で周知技術として引用された 刊行物)
(6)甲第6号証:特開平3-20605号公報
(本件特許に係る無効審決で周知技術として引用された 刊行物)
(7)甲第7号証「眼鏡」1993年3月号
(8)甲第8号証「眼鏡」1994年8月号
(9)甲第9号証:調査報告書 HOYA株式会社 ビジョンカンパニー
(10)甲第10号証:無効2005-80164号審決(平成18年2月 10日付け)

第4 訂正の適否

1 訂正の内容
平成18年4月28日付けの訂正審判の請求は、訂正の請求とみなされ、本件特許発明に係る願書に添付した明細書を上記訂正審判の請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、これを以下「本件訂正」と呼称することとし、その内容は以下のとおりの(1)、(2)の訂正であり、それぞれを以下「訂正(1)」、「訂正(2)」という。

(1)特許無効審判の請求がされている請求項1について
「【請求項1】
眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと、この発注側コンピュータへ情報交換可能に接続された製造側コンピュータと、この発注側コンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する眼鏡レンズの供給システムであって、
前記発注側コンピュータは、眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し、発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し、
一方、前記製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備え、
前記眼鏡枠情報は、前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり、
前記発注側コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを前記製造側コンピュータへ送信することを特徴とする眼鏡レンズの供給システム。」
の記載を、
「【請求項1】
ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置された少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えたコンピュータと、この発注側コンピュータに情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータと、この発注側コンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであって、
前記発注側コンピュータは、眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し、発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し、
一方、前記製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、ヤゲン加工済眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備え、
前記眼鏡枠情報は、前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり、
前記発注側コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを前記製造側コンピュータへ送信することを特徴とするヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システム。 」
と訂正する。

(2)願書に添付した明細書の段落【0006】について
「 【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するための手段として、第1の手段は、眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと、この発注側コンピュータへ情報交換可能に接続された製造側コンピュータと、この発注側コンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する眼鏡レンズの供給システムであって、前記発注側コンピュータと前記製造側コンピュータとは、前記発注側からの眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報の入力操作に応じて演算処理を行い、互いに情報交換をしながら、眼鏡レンズの発注及び/又は受注に必要な処理を行う機能を備え、前記眼鏡枠情報を得るためのステップとは、前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を、前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データを採取し、この3次元の枠データに基づいて前記眼鏡枠のレンズ枠の周長を求め、前記3次元の枠データと前記レンズ枠の周長とを製造側コンピュータへ与えることを特徴とする眼鏡レンズの供給システムである。」を
「 【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するための手段として、第1の手段は、ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置された少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えたコンピュータと、この発注側コンピュータに情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータと、この発注側コンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであって、前記発注側コンピュータは、眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し、発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し、一方、前記製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、ヤゲン加工済眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備え、前記眼鏡枠情報は、前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり、前記発注側コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを前記製造側コンピュータへ送信することを特徴とするヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムである。」
と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正(1)(請求項1)について
訂正(1)は、訂正前の請求項1の記載を以下のように訂正するもの(以下、アないしカで摘記する)であるが、それぞれの訂正が適法なものか検討する。


訂正前の「眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータ」において、眼鏡レンズを、「ヤゲン加工済」と限定し、コンピュータを、「少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えた」と限定した(以下「訂正ア」という。)ので、訂正アは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この訂正アは、願書に添付した明細書又は図面(以下「特許明細書」ともいう。)に記載した事項の範囲内でなされたものであり(以下「新規事項を追加するものではなく」ともいう。)、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


(ア)訂正前の「この発注側コンピュータへ情報交換可能に接続された製造側コンピュータ」において、発注側コンピュータと製造側コンピュータに情報交換可能に接続する手段を「通信回線で」と限定した(以下「訂正イ」という。)ので、訂正イは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ)訂正イが、新規事項を追加するものか否かを検討する。
特許明細書には以下の記載がある。
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記、ヤゲン加工を含めた眼鏡レンズの供給システムにおいて、最も重要なことは眼鏡フレームの形状データを正確に把握することである。(略)このような場合、熟達した加工者は、当該変形を受けた眼鏡フレームを見て、ここへレンズが枠入れ加工された際の形状復元度等を考慮して、レンズのヤゲン加工等の縁擂り加工を行っていた。
しかし、上記眼鏡レンズの供給システムにおいて、加工者は、当該眼鏡フレームの現物を見ることなく、遠隔地から通信回線にて送られた加工データのみで対応しなければならないため、眼鏡フレームの正確な形状データ把握と、そのデータの送受信が望まれていた。
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、発注側にて眼鏡フレームの正確な形状データ把握し、加工側と互いに情報交換をしながら当該データを加工側に与える眼鏡レンズの供給システムを提供する。」

この記載によれば、本件発明の「発注側にて眼鏡フレームの正確な形状データ把握し、加工側と互いに情報交換をしながら当該データを加工側に与える眼鏡レンズの供給システム」において、発注側と加工側とが互いに情報交換をする手段には、通信回線が含まれることは明らかである。
してみると、訂正イは、特許明細書の記載からみて、新規事項を追加するものではない。

(ウ)訂正イは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


訂正前の請求項1の第1番目に記載した「眼鏡レンズの供給システム」において、眼鏡レンズを「製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済」と限定した(以下「訂正ウ」という。)ので、訂正ウは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この訂正ウは、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


訂正前の「一方、前記製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備え」において、眼鏡レンズを「ヤゲン加工済」と限定した(以下「訂正エ」という。)ので、訂正エは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この訂正エは、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


(ア)訂正前の「前記発注側コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め」において、前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDが「前記3次元の枠データに基づいて」求められるとしていたのを、「3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された」ものと限定する(以下「訂正オ-1」という。)と共に、
眼鏡枠の傾きTILTについて「眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である」(以下「訂正オ-2」という。)と限定し、また「傾きTILT」の意味を明りようにした。

したがって、訂正オ-1、訂正オ-2は、特許請求の範囲の減縮、又は明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(イ)訂正オ-1は、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(ウ-1)訂正オ-2が、新規事項を追加するものか否かを検討する。

特許明細書には以下の記載がある。
a「【0092】図17は、左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlおよび眼鏡の正面方向単位ベクトルFVMを示す斜視図である。本実施例では眼鏡装用時、左右の眼鏡枠は眼鏡の平面(眼鏡の正面方向に垂直な平面)に対して同一の傾きをなすものとして、眼鏡の正面方向を、左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlの和のベクトルの方向に定義する。すなわち、この和のベクトルの単位ベクトルを、眼鏡の正面方向単位ベクトルFVMとする。」

b「【0098】〔S610〕(略)なお、以降のステップS610?S612では、特に左右を区別する必要がないので、眼鏡枠形状座標値を(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,・・・,N)と、また眼鏡枠の正面方向単位ベクトルをFVと表記して説明するが、これらは左右のいずれをも表しているものである。」

c「【0105】〔S612〕まず、ステップS608で再度変換された眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVを用いて、眼鏡枠の傾きTILTを算出する。これを図22を参照して説明する。」

d「【0106】図22は、眼鏡枠の傾きTILTおよびフレームPD(眼鏡枠瞳孔間距離)の算出を説明する説明図であり、図22(A)は眼鏡枠の傾きTILTの斜視図、図22(B)は眼鏡フレームの平面図である。すなわち、図22(A)に示すように、眼鏡枠の傾きTILTは、眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVとYZ平面とのなす角として算出する。」

aの「眼鏡の正面方向に垂直な平面」は、dの「YZ平面」であることから、これらのa?dの記載によれば、眼鏡枠の傾きTILTが、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度であることは、特許明細書の記載からみて自明である。

してみると、訂正オ-2は、特許明細書の記載からみて新規事項を追加するものではない。

(ウ-2)訂正オ-2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(エ)したがって、訂正オ-1及び訂正オ-2は、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


訂正前の請求項1の末尾の「眼鏡レンズの供給システム」において、眼鏡レンズを「ヤゲン加工済」と限定した(以下「訂正カ」という。)ので、訂正カは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この訂正カは、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


したがって、請求項1に係る訂正(1)は、特許法134条の2第1項ただし書第1、3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許法126条第3項及び第4項の規定を満たすものである。

(2)訂正(2)(段落【0006】)について
訂正(2)は、特許請求の範囲の請求項1を訂正する訂正(1)に対応し、【課題を解決するための手段】の項の記載と特許請求の範囲との整合を図るものであり、明りようでない記載の釈明を目的とする。
そして、訂正(1)が新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、訂正(2)も新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

したがって、特許明細書の発明の詳細な説明の訂正に係る訂正(2)は、特許法134条の2第1項ただし書第3号に規定する明りようでない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許法126条第3項及び第4項の規定を満たすものである。

3 訂正の適否についての結論
以上のとおり、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書第1、3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許法126条第3項及び第4項の規定を満たすものである。

第5 本件特許発明
本件特許発明は、本件特許に係る訂正の請求とみなされた、平成18年4月28日付けの訂正審判の訂正審判請求書に添付した訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下「本件発明」という。)。

「【請求項1】ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置された少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えたコンピュータと、この発注側コンピュータに情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータと、この発注側コンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであって、
前記発注側コンピュータは、眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し、発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し、
一方、前記製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、ヤゲン加工済眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備え、
前記眼鏡枠情報は、前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり、
前記発注側コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを前記製造側コンピュータへ送信することを特徴とするヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システム。」

第6 各刊行物の記載事項
1 刊行物1(特開平6-102473号公報)
(1-1)
「【0002】
【従来の技術】眼鏡レンズの発注側から送られた眼鏡レンズや眼鏡フレームに関する情報に基づき、眼鏡レンズの加工側が、ヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し、その結果に基づき、ヤゲン加工を含めたレンズ加工が可能であるか否かの可否情報を、さらにはヤゲン加工形状を含めた眼鏡レンズの仕上がり予想形状を、発注側に返信し、発注側は、送信された可否情報または仕上がり予想形状を画面表示し、ヤゲン加工を含めたレンズ加工が可能であるか否かを確認し、あるいは仕上がり予想形状を確認し、この確認に基づき、最適なヤゲンが設けられた眼鏡レンズを決定して発注するようにした眼鏡レンズの供給システムが、本願出願人により提案されている(特願平4-165912号)。」

(1-2)
「【0007】本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、眼鏡枠形状の変形量が少なく、また、眼鏡枠の周長およびデータムラインに対する眼鏡枠形状の傾きを変えることなく、左右の眼鏡枠形状を同形化して眼鏡枠の左右のバランスをとるようにした眼鏡枠形状同形化方法を提供することを目的とする。」

(1-3)
「【0068】つぎに、以上のように構成されるフレーム形状測定器の作動を説明する。眼鏡フレームFを、図示しない眼鏡フレーム保持手段に固定保持し、スタイラス30の頭部32を眼鏡枠FrのV字形の内周溝に接触させ、図示していない制御装置によりモータ6を回転させる。それにより、タイミングベルト4で連結された回転台2が回転し、スタイラス30が眼鏡枠Frの内周溝に接触しながら転動する。測定部1の回転は、タイミングベルト7で連結されたロータリエンコーダ9を回転し、回転角(θ)として検出される。スタイラス30の半径方向の移動量は、リニアエンコーダ24によってスライド板16のE方向の移動量Rとして検出され、上下方向の移動量はZ軸測定器33によってスタイラス30のZ軸方向の移動量Zとして検出される。なお、これらの円筒座標をなす値θ,R,Zは、連続して測定されるものでなく、回転角(θ)の所定増加量毎に間欠的に測定されて、図2の端末コンピュータ101に入力されるものである。したがって、この入力座標値を以下、3次元測定形状データ(Rn,θn,Zn)(n=1,2,3,・・・,N)と表すことにする。Nが1回転での測定回数を表す。」

(1-4)
「【0085】なお、この実施例では、スタイラス頭部32は算盤玉状をなしているが、スタイラス頭部の形状がZ軸方向に対して回転対称であり、回転対称軸を含む断面形状が予め分かっていれば、スタイラス頭部と傾いた内周溝44との接触状態を計算によって把握することができ、したがって、上記と同様に補正を行うことが可能である。
【0086】〔S603〕ステップS602で補正された眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,・・・,N)から眼鏡枠形状(内周溝の底の周形状)の周長FLNを算出する。眼鏡枠形状の周長FLNは、眼鏡枠形状の各点間の距離の総和として次式(1)により算出される。」
(1-5)
「【0105】図20は、眼鏡枠の正面方向がZ軸方向に一致するように変換された後の眼鏡枠形状のXY平面図である。すなわち、まず、眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVがZ軸方向に一致するように、眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,・・・,N)を、原点を中心に回転移動する。この移動による変換後の座標値(Xn,Yn,Zn)において、Xnの最大値および最小値をXmax,Xminとし、Ynの最大値および最小値をYmax,Yminとすれば、眼鏡枠形状のAサイズ47は、XmaxとXminとの差の絶対値として求められ、Bサイズ48は、YmaxとYminとの差の絶対値として求められる。」

(1-6)
「【0113】つぎに、この傾きTILTと、ステップS609で求めた鼻幅DBLと、ステップS610で求めたAサイズとを基に、幾何学中心間の距離であるフレームPDを算出する。すなわち、図22(B)に示すように、Aサイズは左右の眼鏡枠で異なるので、右の眼鏡枠のAサイズをAr、左の眼鏡枠のAサイズをAlとすると、フレームPD(FPD)は次式(5)で算出される。」

2 刊行物2(特開2000-321540号公報)
(2-1)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来の方法では、一方の眼鏡枠を固定化して、それを基準とするので、例えば、左右の実際の眼鏡枠形状の間に大きな差異が存在する場合に、他方の眼鏡枠形状を大幅に変形させねばならなくなる。しかし、その変形量にも限度がある。しかるに、従来は、必要な変形量をあらかじめ把握して変形可能なものであるか否か等を客観的に確認するための適当な方法がなかった。
【0005】本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、左右の眼鏡枠形状の相違をできるだけ客観的に把握できるように処理して左右の眼鏡枠形状を重ね合わせる左右眼鏡枠形状重ね合わせ方法を提供することを目的とする。」

(2-2)
「【0063】つぎに、以上のように構成されるフレーム形状測定器の作動を説明する。眼鏡フレームFを、図示しない眼鏡フレーム保持手段に固定保持し、スタイラス30の頭部32を眼鏡枠FrのV字形の内周溝に接触させ、図示していない制御装置によりモータ6を回転させる。それにより、タイミングベルト4で連結された回転台2が回転し、スタイラス30が眼鏡枠Frの内周溝に接触しながら転動する。測定部1の回転は、タイミングベルト7で連結されたロータリエンコーダ9を回転し、回転角(θ)として検出される。スタイラス30の半径方向の移動量は、リニアエンコーダ24によってスライド板16のE方向の移動量Rとして検出され、上下方向の移動量はZ軸測定器33によってスタイラス30のZ軸方向の移動量Zとして検出される。なお、これらの円筒座標をなす値θ,R,Zは、連続して測定されるものでなく、回転角(θ)の所定増加量毎に間欠的に測定されて、図2の端末コンピュータ101に入力されるものである。したがって、この入力座標値を以下、3次元測定形状データ(Rn,θn,Zn)(n=1,2,3,・・・,N)と表すことにする。Nが1回転での測定回数を表す。」

(2-3)
「【0081】〔S603〕ステップS602で補正された眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,・・・,N)から眼鏡枠形状(内周溝の底の周形状)の周長FLNを算出する。眼鏡枠形状の周長FLNは、眼鏡枠形状の各点間の距離の総和として次式(1)により算出される。」
(2-4)
「【0100】図20は、眼鏡枠の正面方向がZ軸方向に一致するように変換された後の眼鏡枠形状のXY平面図である。すなわち、まず、眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVがZ軸方向に一致するように、眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,・・・,N)を、原点を中心に回転移動する。この移動による変換後の座標値(Xn,Yn,Zn)において、Xnの最大値および最小値をXmax,Xminとし、Ynの最大値および最小値をYmax,Yminとすれば、眼鏡枠形状のAサイズ47は、XmaxとXminとの差の絶対値として求められ、Bサイズ48は、YmaxとYminとの差の絶対値として求められる。」

(2-5)
「【0108】つぎに、この傾きTILTと、ステップS609で求めた鼻幅DBLと、ステップS610で求めたAサイズとを基に、幾何学中心間の距離であるフレームPDを算出する。すなわち、図22(B)に示すように、Aサイズは左右の眼鏡枠で異なるので、右の眼鏡枠のAサイズをAr、左の眼鏡枠のAサイズをAlとすると、フレームPD(FPD)は次式(5)で算出される。」

(2-6)
「【0122】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、重心位置を中心とした各動径方向における左右の眼鏡枠間距離の総和を算出してこれを左右の眼鏡枠形状の差異量とし、この差異量が最小になるように前記左右の眼鏡枠形状の一方を回転させる処理をして左右眼鏡枠形状を重ね合わせるようにしているので、左右の眼鏡枠形状の相違を客観的に把握することができる。」

3 先願明細書(特開平5-212661号公報参照)
(3-1)
「【請求項1】 眼鏡枠に枠入れするためにレンズの周縁を加工するレンズ周縁加工機において、立体計測された眼鏡枠のレンズ枠形状を入力する入力手段と、該入力手段により入力された3次元レンズ枠形状からレンズ枠の周長を求める算出手段と、レンズのヤゲン先端軌跡がなすカ-ブ値を決定するヤゲンカ-ブ決定手段と、前記算出手段により求められたレンズ枠の周長に略一致するようなレンズのヤゲン先端の軌跡を演算する演算手段と、を有することを特徴とするレンズ周縁加工機。
【請求項2】 請求項1のレンズ周縁加工機は、眼鏡枠のレンズ枠を立体計測する眼鏡枠形状測定装置と一体又はインタ-フェイスを介して結合していることを特徴とするレンズ周縁加工機。
・・・
【請求項5】 眼鏡枠に枠入れするためにレンズの周縁を加工するレンズ周縁加工方法において、眼鏡枠のレンズ枠形状を立体計測する第1ステップと、第1ステップにより得られたデ-タに基づいて眼鏡枠のレンズ枠の周長を求める第2ステップと、枠入れされる仮想又は現実のコバ厚及びレンズカ-ブを測定又は算出する第3ステップと、第3ステップにより測定又は算出されたデ-タに基づいてヤゲン先端軌跡がなすカ-ブ値を決定する第4ステップと、第4ステップで決定されたヤゲン先端の軌跡の周長と前記眼鏡枠のレンズ枠の周長が略一致するようにレンズ周縁加工機の制御デ-タを算出する第5ステップと、第5ステップで得られた制御デ-タに基づいてレンズ周縁加工機を制御する第6ステップとからなることを特徴とするレンズ周縁加工方法。」

(3-2)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の装置においては、ヤゲンカーブとレンズ枠のカーブRが等しい場合には両者の周長も一致するが、多くの場合異なるためので周長も一致しない。従って、このようにヤゲン加工したレンズを眼鏡枠に枠入れると、周長が一致せず、枠入れ作業時の適切なフィットが得られない。そこで作業者は眼鏡枠の無理な変形を行わざるを得なくなるという欠点がある。本発明は上記欠点に鑑み案出されたもので、レンズ枠入れ時にフィット感の良い、すなわちサイズ精度の高いレンズ周縁加工機及びレンズ周縁加工方法を提供することを技術課題とする。」

(3-3)
「【0009】
【実施例】以下本発明の一実施例を図面に基いて詳細に説明する。
(1)装置の全体構成
図1は本発明に係るレンズ研削装置の全体構成を示す斜視図である。1は装置のベースでレンズ研削装置を構成する各部がその上に配置されている。2はレンズ枠及び型板形状測定装置で装置上部に内蔵されている。その前方には測定結果や演算結果等を文字またはグラフィックにて表示する表示部3と、データを入力したり装置に指示を行う入力部4が並んでいる。装置前部には未加工レンズの仮想コバ厚等を測定するレンズ形状測定装置5がある。6はレンズ研削部で、ガラスレンズ用の荒砥石60aとプラスティック用の荒砥石60bとヤゲン及び平加工用60cとから成る砥石60が回転軸61に回転可能に取付けられている。回転軸61はベース1にバンド62で固定されている。回転軸61の端部にはプーリ63が取付けられている。プーリ63はベルト64を介してACモータ65の回転軸に取付けられたプーリ66と連結されている。このためモータ65が回転すると砥石60が回転する。7はキャリッジ部で、700はキャリッジである。」

(3-4)
「【0019】・・・・このとき測定子部2120はレンズ枠の動径に従って、ガイドシャフト2010a、2010b上を移動し、その移動量はポテンションメータ2134によって読取られ、測定子軸2122がレンズ枠のカーブに従って上下し、その移動量がポテンションメータ2130によって読取られる。パルスモータ2107の回転角Θとポテンションメータ2134の読取り量r及びポテンションメータ2130の読取り量zからレンズ枠形状が(r,Θ,z)(n=1,2,………,N)として計測される。この計測データ(r,Θ,z)を極座標-直交座標変換した後のデータ(x,y,z)の任意の4点(x1 ,y1 ,z1 )(x2 ,y2 ,z2 )(x3 ,y3 ,z3 )(x4 ,y4 ,z4 )によりフレームカーフーCF を求める(計算式はレンズカーブの計算式と同じ)。さらに、(xn ,yn ,zn )(n=1,2,3………N)の各データ間の距離を算出し、それをたし合わせることにより近似的に玉型の周長を求め、これをΠf とする。
【0020】また図10において(xn ,yn ,zn )のx,y成分(xn ,yn )から、x方向の最大値を持つ被計測点(xa ,ya )、x軸方向の最小値を持つ被計測展B(xb ,yb )、y軸方向の最大値を持つ被計測点C(xc ,yc )及びy軸方向の最小値を持つ被計測点D(xd ,yd )を選び、レンズ枠の幾何学中心OF (xF ,yF )を、(略)
として求め、既知であるフレーム中心から測定子部2120の回転中心Oo (xo ,yo )までの距離LとOO 、OF のズレ量(Δx ,Δy )から、レンズ枠幾何学中心間距離FPDの1/2は、
FPD/2=(L-Δx )
={L-(xF -xO )} ……(2)
として求める。・・・本実施例の装置では左右のレンズ枠の形状をそれぞれ測定することも可能であるし、左右一方のレンズ枠の形状を測定し、他は反転させたデータを用いることもできる。
【0021】[型板形状測定]次に、型板を測定する場合の動作について説明する。・・・この計測データ(rn ,Θn )から、フレーム測定の場合と同様に幾何学中心Oを求め、入力部からのFPD、PD、内寄せ量I、上寄せ量Uをもとに加工データである“( srn , sΘn )(n=1,2,………,N)を得る。」

(3-5)
「【0025】(ニ)表示部及び入力部
第18図は本実施例の表示部3及び入力部4の外観図で、両者は一体に形成されている。本実施例の入力部は各種のシートスイッチからなり、電源の入・切をコントロールするメインスイッチ400、各種の加工情報を入力する設定スイッチ群401及び装置の操作方法を指示する操作スイッチ群410とからなる。設定スイッチ群401には、被加工レンズの材質がプラスチックかガラスかを指示するレンズスイッチ402、フレームの材質がセルかメタルかを指示するフレームスイッチ403、加工モードを平加工かヤゲン加工かを選択するモードスイッチ404、被加工レンズが左眼用か右眼用か選択するR/Lスイッチ405、レンズ光心の上/下レイアウト及びPD値の遠用・近用変換を行う遠/近スイッチ406、設定データの変更項目を選択する入力切換スイッチ407、入力切換スイッチ407により選択された項目のデータを増減する+スイッチ408及び-スイッチ409が配置されている。操作スイッチ群410には、スタートスイッチ411、ヤゲンシュミレーション表示への画面切換スイッチも兼ねる一時停止用のポーズスイッチ412、レンズチャック開閉用のスイッチ413、カバー開閉用のスイッチ414、仕上げ二度摺い用の二度摺いスイッチ415、レンズ枠、型板トレースの指示をするトレーススイッチ416、レンズ枠及び型板形状測定部2で測定したデータを転送させる次データスイッチ417がある。表示部3は液晶ディスプレイにより構成されており、加工情報の設定値、ヤゲン位置やヤゲンとレンズ枠との嵌合状態をシュミレーションするヤゲンシュミレーションや基準設定値等を後述する主演算制御回路の制御により表示する。第19図は表示画面の例であり、第19-1図はレンズの加工情報を設定するための画面で、第19-2図はヤゲンシュミレーションの画面である。」
(3-6)
「【0026】(3)装置全体の電気制御系
以上のような機械的構成を持つ本実施例の電気制御系を説明する。第20図は装置全体の電気系ブロック図である。主演算制御回路は例えばマイクロプロセッサで構成され、その制御は主プログラムに記憶されているシーケンスプログラムで制御される。主演算制御回路はシリアル通信ポートを介して、ICカード、検眼システム装置等とデータの交換を行うことが可能であり、レンズ枠及び型板形状測定部のトレーサ演算制御回路とデータ交換・通信を行う。主演算制御回路には表示部3,入力部4及び音声再生装置が接続されている。・・」

(3-7)
「【0027】次にレンズ枠及び型板形状測定部について説明する。・・・また、測定されたレンズ枠及び型板の形状データは一旦トレースデータメモリに記憶され、主演算制御回路に転送される。」

(3-8)
「【0028】(4)装置全体の動作
次に第21図のフローチャートを基にしてレンズ研削装置の動作を説明する。
[ステップ1-1]第21図のメインスイッチ400をONにした後、まずフレームまたは型板をフレームまたは型板保持部にセットし、トレーススイッチ416にてトレースを行う。
[ステップ1-2] 被装者のPD値及び乱視軸を入力する。型板測定の場合にはFPD値も入力する。また、遠近切換スイッチ406により、入力されるPDが遠方であるか近方であるかを設定する。設定状態は表示部3のディスプレイにて表示される。ここで遠方に設定された状態で遠方PDを入力した後、遠近切換スイッチ406にて近方に変更すると、次式により近方PDに変換する。
近方PD=遠方PD×((l-12)/(l+13))
lは必要とする作業距離、12は日本人の角膜頂点間距離、13は角膜頂点と回旋点との距離を意味する。近方状態において近方PDを入力した後遠方に変更すると、下記の式により遠方PDに変換する。
遠方PD=近方PD×((l+13)/(l-12))
変換の詳細については特開昭63-82621号公報に記載されている。また上下レイアウトも近方、遠方それぞれにあらかじめ前述の基準値設定において入力された設定値に設定する。作業者がその値について変更を加えたい場合には、(+)スイッチ408、(-)スイッチ409にて変更が可能である。このときPDについても変更が可能である。
[ステップ1-3]ステップ1-1で求めたフレームまたは型板の動径情報及びFPD値と前ステップで入力されたPD上下レイアウトの情報により、前述の方法により新たな座標中心に座標変換し、新たな動径情報(rs δn ,rs θn )を得、これを枠データメモリに記憶する。・・・・」

(3-9)
「【0032】[ステップ2-7、2-8、2-9]モータ728によりレンズを砥石から離脱させた後キャリッジ移動モータ714によりレンズをヤゲン砥石の上に移動させる。次に、動径情報(rs δn 、rs θn )とヤゲンデータ(rs θn 、yZn )からヤゲンカーブ軌跡(rs δn 、rs θn 、yZn )を求め、その各データ間の距離を算出し、それをたし合わせることにより近似的にヤゲンカーブ軌跡の周長を求め、これをΠb とする。ここで、サイズ補正量Δを求める。
Δ=(Πb -Πf )/2π (Πf :玉型の周長)
という形に直してからさらに、サイズ補正後のヤゲン加工情報(L´i 、ξi、Zi )を求め、これを枠データメモリに記憶し直す。このときL´i =Li -Δである。ヤゲンはこの情報に基づいてモータ728はL´i をモータ721はξi をモータ714はZi をそれぞれi=1、2、3・・・・Nの順に同時に制御しながら加工する。
[ステップ3-1]研削モードが平加工モードである場合において、ステップ1-4による設定によりレンズがプラスティックであればプラスティック用荒砥石60c、ガラスであればガラス用荒砥石60aの上に被加工レンズがくるようキャリッジをモータ714に移動させる。砥石を回転させてからモータ728により砥石回転中心とレンズ加工中心間の距離Lを枠データメモリにより読み込んだ加工補正情報(Li 、ξi 、Θi )の内のLi まで移動する。その時加工終了ホトスイッチ727がONされるのを待って角度をξ2 まで回転させると同時にLをL2 まで移動させる。以上の動作を連続して(Li 、ξi )(i=1、2、3・・・・N)に基づき行う。これによりレンズは動径情報(rs δn 、rs θn )の形状に加工される。」

(3-10)
「【0034】
【発明の効果】上記のように本発明は、枠入れ作業時のフィット感における重要な要素の1つがヤゲンカーブの軌跡の周長と玉型立体形状の周長が一致していることに着目し、一般的なレンズ枠入れ作業において多く発生しているレンズ枠のカ-ブRとヤゲンカーブの違いによる周長の誤差を補正し、眼鏡枠の材質に柔軟性がある場合には枠をヤゲンカーブになじませ、また、柔軟性のない場合には枠のカ-ブRを修正して枠入れ作業を行うことにより、眼鏡枠にレンズをフィットとさせることができる。」

4 刊行物4(特開昭59-93420号公報)
(4-1)
「2.特許請求の範囲
(1)レンズの処方値と、レンズの種類と、使用する眼鏡枠の種類と形状についての情報と及び該眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報とを眼鏡店頭に於いて把握し、レンズ製造工場に伝え、レンズ製造工場ではその情報を基に該眼鏡枠に適したレンズ肉厚を決定し、該レンズを製造、供給する眼鏡レンズの供給方法。
(2)特許請求の範囲第1項の方法であって、前記レンズ製造工場においてコンピュータが設置され、該コンピュータには眼鏡枠の形状を表わすデータが多種類の眼鏡枠ごとに品番を付されて蓄積されていることを特徴とする眼鏡レンズの供給方法。」

(4-2)
「本発明は眼鏡レンズの供給方法に関し、
各々の眼鏡装用者の使用する眼鏡枠の種類及び形状に対し、最適な肉厚を有する眼鏡レンズを提供することを目的とする。」(1頁右下欄11?14行)

(4-3)
「現在、世界各国に於いて、眼鏡レンズを供給する方式は大別して2つの方式に分類される。
1つは眼鏡店がレンズの処方値や種類をレンズ製造工場、若しくはレンズ問屋に伝え、縁摺り加工をしていない生地のレンズを入手し、眼鏡店に於いて使用する眼鏡枠に枠入れ加工を施し、完成させる方式で、日本、東南アジア、ヨーロッパ等で主に用いられており.アンカット方式と呼ばれている。
他の1つは、視力検定医(optometrist)が、レンズの処方値や種類及び使用する眼鏡枠内に掛けるレンズ処方値の位置情報をその眼鏡枠を添えてレンズ製造工場に伝え、レンズ製造工場に於いてレンズの製造から枠入れ加工まで行ない、完成品を視力検定医へ送付する方式で、北米で主に用いられており、ラボ方式と呼ばれている。」(1頁右下欄15行?2頁左上欄10行)

(4-4)
「少なくともラボ方式に於いては、使用する眼鏡粋の種類や形状について、レンズ製造工場側が把握しており、その眼鏡枠に最も適した厚みを有する眼鏡レンズを準備しうる点に於いて、アンカット方式と決定的に異なる。」(2頁左上欄16?20行)

(4-5)
「ところが、アンカット方式にあつては、同じ度数に対して準備されている外径の種類は一般にせいぜい2、3種類であり、多種多様の眼鏡枠に細かく対応しうるものではない。従って、必要以上に大きな外径のレンズを用いざるを得ず、そのために必要以上のレンズの厚みと重量とを眼鏡装用者に強いる形となつている。」(2頁右上欄11?17行)

(4-6)
「この点に於いて、ラボ方式では前述の如く、使用する眼鏡粋の種類や形状について、レンズ工場側が把握しており、各々の眼鏡枠に対し、最も適した厚みを有する眼鏡レンズを製造することが出来る。ところが、ラボ方式に於いては、高価なフレームの輸送という工程がある為、破損や遺失による大きなリスクを伴なうという欠点がある。」(2頁左下欄5?11行)

(4-7)
「又、例えば現在の日本国内の様にアンカット方式が主流である市場に於いてラボ方式を導入することは、枠入れ加工という眼鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪う形となり、容認され難いであろう。」(2頁左下欄12?16行)

(4-8)
「この点に鑑み、本発明は従来には無かった全く新しい発想に依り、アンカット方式が主流の市場にあってもラボ方式の長所を有し、前述の欠点を全て除去した全く新しい眼鏡レンズ供給方法を提供しようとするものである。」
(2頁左下欄17?同右下欄1行)

(4-9)
「本発明による方法が従来の方式と最も異なるところは、眼鏡店に於いて眼鏡枠に関する情報を把握し、レンズ製造工場に伝えることにある。
眼鏡枠に関する情報としては次のものがある。
(イ)眼鏡枠の種類
即ち、合成樹脂製か、金属製か、ナイロン糸等で固定する方式か、等に関する情報であり、縁摺りされたレンズの最も薄い周辺の厚みを決定する際に必要となる情報である。又、眼鏡枠の品番等、後述の眼鏡杵の形状に関する情報を兼ねている場合もありうる。
(ロ)眼鏡枠の形状
眼鏡枠の大きさを正確に把握する為の情報であり、左右それぞれの眼鏡枠内の中心(フレーム・センターと呼ばれる。)相互の距離(フレ-ムPDと呼ばれる。)、鼻幅(レンズ間距離とも呼ばれる。)、枠の片眼の横幅(一般にAで表わされ、レンズサイズと呼ばれる。)、及び縦幅(一般にBで表される。)、更にフレ-ムセンタ-を中心として、眼鏡枠の縁までの距離を種々の方向に対して測定した寸法(即ち、フレ-ムセンタ-を中心とした眼鏡枠の極座標表示)等の情報である。
この他、眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報、即ち、装用者の角膜頂点間距離(PDと呼ばれる。左右眼が対称で無いときは、左右一対の片眼PDと呼ばれる数値で表現されることもある。)、又、レンズの光学中心や多重焦点レンズの近方視領域の眼鏡枠内に於ける配置を指定することもある。 この様に多くの情報を眼鏡店がレンズ製造工場に伝える手段としてはコンピュータを用い、オンラインにて電送することが最も望ましいが、本発明はそれに限定されるものではない。」(2頁右下欄2行?3頁左上欄15行)
(4-10)
「最適肉厚を備えた眼鏡レンズを供給する方法として次の態様がある。
(1)(略)
(2)眼鏡枠の種類は、そのデザインおよび大きさによってきわめて多数なものであるが、それらを類型化して大きく分類すれば、第2図(a)、(b)に示すごとく「なす型」や「四角型」等の数種のものとなる。そこで、これらの眼鏡枠の標準類型を型番号で表わしたデータをレンズ製造工場のコンピュータに蓄積しておき、眼鏡店では装用者の好みによって選択した型番号とその装用者のレンズ処方値および眼鏡枠の寸法情報すなわち横幅(A)、縦幅(B)や枠内の瞳孔の位置を表すデータ(BD)等をレンズ製造工場に伝達する。
(3)眼鏡店に於いて第3図の2で示すような例えば格子状のチャート(又はこれに相当する測定器)が予め準備されており、装用者の好みによって或る眼鏡枠が決まると、その枠3をチャート2の所定位置に乗せ、枠中心O’から枠上の複数点n1,n2,n3・・・・・nnまでのそれぞれの距離データを眼鏡枠形状データとして、前頂(2)で述べたレンズ処方値および眼鏡枠の寸法情報とともにレンズ製造工場に伝送する。
さて、この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し、そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変わるところない。
即ち、眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し、その位置の厚みが所定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し、所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを荒摺、砂掛、研磨することにより、所望のレンズが得られるのである。」(3頁左上欄16行?右下欄1行)

5 刊行物5(特開平4-13539号公報)
(5-1)
「2.特許請求の範囲
(1)複数の眼鏡フレーム形状測定手段と複数の玉摺機とコンピュータから構成された眼鏡レンズ加工システムであつて、前記コンピュータは、前記複数の眼鏡フレーム形状測定手段の各々の固有の測定誤差量と前記複数の玉摺機の各々の固有の加工誤差量とを記憶する記憶手段と、
眼鏡フレーム形状測定手段による眼鏡フレームの形状データを当該形状データを測定した前記眼鏡フレーム形状測定手段に固有の前記測定誤差量と選択した玉摺機に固有の前記加工誤差量とから補正し加工データを得るための演算手段とを有することを特徴とする眼鏡レンズ加工システム。
(2)前記眼鏡フレーム形状測定手段は各々少なくとも1台毎に複数の眼鏡店舗に設けられ、前記コンピュータと前記複数の玉摺機は加工センターに設けられ、前記各々の眼鏡フレーム形状測定手段と前記コンピュータは公衆通信回線網を介して前記形状データの授受が行われるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズ加工システム。」

(5-2)
「店舗OS、のパソコンPC1は、演算された補正フレームデータ〈4ρ 1.θ1)及び識別信号を、公衆通信回線JI15NWを介して加工センターMCのパソコンPCkに転送する。〉(6頁右上欄4?7行)

(5-3)
「尚、加工センターMCの玉摺機LE1?LEnのメモリm1?mnには、各々自己の加工誤差量L1-Lnを予め記憶させておく。また、玉摺機LE1?LEnは、第2演算手段としてのCPU30-1?CPU30-nを有する。
そして、選択された玉摺機LE1のCPU30-1は、補正フレームデータ(sρ-1,θ1)が入力されると、固有の加工誤差量L1から第1実施例と同様にして補正された加工データ(ρ1,θ1)を算出して、このデータに基づいてレンズの形状加工を行わせる。」(6頁右上欄13?22行)

6 刊行物6(特開昭58-196407号公報)
(6-1)
「本発明は斯かる事情に鑑み、フレーム枠の眼鏡レンズ周端と嵌合するV状溝の内周長を測定し得る測定装置を提供し、測定した内周長を基に眼鏡レンズを加工機により取外すことなく、直ちに最終形状に迄研削し得ることを可能にして枠合せ作業の能率を飛躍的に向上させると共に研削加工精度も大幅に向上させることを目的とするものである。」(1頁右下欄16行?2頁左上欄3行)

(6-2)
「従って、回転子(17)はフレーム枠(23)の全内周分だけ転動したことになり、回転子(17)の円周長にエンコーダ(15)で検出した回転数を掛合せればフレーム枠(23)の内周長を測定し得る。又、眼鏡レンズは完全な円形ではない為、その周端は3次曲線となり、V状溝(24)も上下に変位する。この上下方向の変位に対しては、平行リンク(14)、バランスバネ(19)の作用によって回転子(17)を追従させる。
而して、眼鏡レンズの外形形状は原型レンズより研削した時点でフレーム枠の形状と相似形に仕上げられているので、上記測定した内周長に眼鏡レンズの外周長が合致する様眼鏡レンズを削込めば、該レンズの加工機より取外すことなくフレーム枠の形状に正確に合せることができる。」(2頁左下欄12行?右下欄7行)

7 刊行物7(特開昭62-215814号公報)
(7-1)
「【特許請求の範囲】
眼鏡フレームのレンズ固定用溝形状を三次元的に求めて三次元座標データを出力する形状測定装置と、前記形状測定装置からの信号を入力し、前記フレームの幾何学中心データとカーブ値データとを演算する演算装置と、前記フレームの形状データとして前記三次元座標データと前記幾何学中心データ及び前記カーブ値データを出力する出力装置と、を有することを特徴とする眼鏡フレームの玉型形状測定装置。」

(7-2)
「(発明の背景)
この種の装置は、従来機械的な倣い装置であって、眼鏡フレームのレンズ固定用溝を倣いながら、レンズ周縁加工機用の型板を作製するものであった。(略)いずれの装置も得られる結果は、眼鏡フレームの装置への取付位置により変化してしまい、取付位置が不適切だと正しい測定が行なわれないという欠点があった。(略)」(1頁左下欄末行?同右下欄下から3行)

(7-3)
「次に、第3図に示したフレームカーブを算出するフローチャートについて説明する(第2図のステップ401に対応する)。まず、フレームの三次元座標データのうち異なる3つの点P1、P2、P3の座標データを選択する(ステップ412)。
次いで、P1 、P2 、P3の座標データより球の方程式を算出する(ステップ413)。この球は眼鏡フレームのレンズ固定用溝が乗る球である。
ステップ413で球の方程式が求まると、ステップ414で球の半径を算出し(ステップ414)、カーブ値を算出する(ステップ415)。また、この時この球の中心座標データとフレームの三次元座標データの幾何学中心座標データとを比較することにより、フレームの測定時の傾きも算出できる。」(2頁右下欄9行?3頁左上欄1行)

(7-4)
「以上の実施例によればフレームの溝形状を測定する際、フレームが傾かないように固定したり、フレームの玉型の幾何学中心の中心出しをしながら固定する必要がなくなり、測定が容易になり、フレームの傾き、玉型の幾何学中心を溝形状の測定データにより算出し補正することにより測定も正確になる利点がある。」(5頁右上欄15行?左下欄1行)

(7-5)
「(発明の効果)
以上述べた如く本発明によれば、フレームの玉型形状を決定するデータが簡単に得られるので、眼鏡レンズの加工及び枠入れ作業が容易になる、という効果が得られる。」(6頁6行?10行)

第7 当審の判断
A.特許法第29条の2について
1 先願明細書(甲第3号証)に記載の発明
先願明細書には、以下の点が記載されている。
(1)主演算制御回路 〔(3-5),(3-6)〕
(2)眼鏡枠のレンズ枠形状を立体計測するレンズ枠及び型板形状測定部2
〔(3-1),(3-5)〕
(3)主演算制御回路に形状データを転送するレンズ枠及び型板形状測定部 2 〔(3-6),(3-7)〕(4)眼鏡枠に枠入れするためにレンズの周縁を加工するレンズ周縁加工機 (3-1)
(5)被加工レンズの材質がプラスチックかガラスか(3-5)
(6)レンズ枠及び型板形状測定部2で測定したデータ(3-5)
(7)被装者のPD値及び乱視軸等(3-8)
(8)ポテンショメータの読取り量r,パルスモータの回転角Θ,ポテンシ ョメータのzからレンズ枠形状が(r,Θ,z)(n=1,2 …,N)として計測され(3-4)
(9)計測データを極座標-直交変換座標変換した後のデータから、玉型の 周長、及びレンズ枠幾何学中心間距離FPDを求める (3-4)

(10)立体計測された眼鏡枠のレンズ枠形状からレンズ枠の周長を求める 〔(3-1)、(3-4)〕

そして、主演算制御回路が、上記(5)?(7)の情報入力し、上記(8)、(9)を含むレンズ研削のために必要な事項を実行する第21図のフローチャートに示された[ステップ1-1]?[ステップ3-3]を行う機能を有することは明らかである。 〔(3-5)?(3-8)〕

したがって、上記(3-1)ないし(3-10)の記載からみて、先願明細書には、
「主演算制御回路と、この主演算制御回路に形状データを転送する眼鏡枠のレンズ枠形状を立体計測するレンズ枠及び型板形状測定部2とを有する、眼鏡枠に枠入れするためにレンズの周縁を加工するレンズ周縁加工機であって、前記主演算制御回路は、加工レンズの材質がプラスチックかガラスか、レンズ枠及び型板形状測定部2で立体計測したデータ、被装者のPD値及び乱視軸等を入力し、レンズ研削のために必要な処理を行う機能を有し、
ポテンショメータの読取り量r,パルスモータの回転角Θ,ポテンショメータのzからレンズ枠形状が(r,Θ,z)(n=1,2…,N)として計測され、前記主演算制御回路は、計測データを極座標-直交変換座標変換した後のデータから、玉型の周長、及びレンズ枠幾何学中心間距離FPDを求めることを特徴とするレンズ周縁加工機。」についての発明が記載されている(以下「先願発明」という。)。

2 対比
本件発明と先願発明とを比較すると、
(1)先願発明に係る「主演算制御回路」は本件発明に係る「コンピュータ」に相当する。
(2)先願発明に係る「眼鏡枠のレンズ枠形状を立体計測するレンズ枠及び型板形状測定部2」は、本件特許発明に係る「3次元的フレーム形状測定器」に相当する。
そして、先願発明のレンズ枠及び型板形状測定部2が、主演算制御回路に形状データを転送するので、レンズ枠及び型板形状測定部2が、主演算制御回路に接続されることは明らかである。
(3)先願発明の対象である「レンズ周縁加工機」は、本件発明の対象である「ヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システム」といえるが、レンズ枠及び型板形状測定部2を有することから、手元に眼鏡フレームがある状態でヤゲン加工を行うものである。
(4)先願発明の「加工レンズの材質がプラスチックかガラスか」、「レンズ枠及び型板形状測定部2で立体計測したデータ」、「被装者のPD値及び乱視軸等を」は、本件発明の「眼鏡レンズ情報」、「3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報」、「処方値、及びレイアウト情報を含めた」に、それぞれ相当する。
また、先願発明の「加工レンズの材質がプラスチックかガラスか、レンズ枠及び型板形状測定部2で立体計測したデータ、被装者のPD値及び乱視軸等」は、本件発明の「枠入れ加工する上で必要となる情報」にも相当する。
(5)先願発明の「ポテンショメータの読取り量r,パルスモータの回転角Θ,ポテンショメータのzからレンズ枠形状が(r,Θ,z)(n=1,2…,N)として計測され」は、本件発明の「前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり」に実質的に相当する。
また、先願発明の「レンズ枠形状」は、本件発明の「3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報」に相当する。
(6)先願発明の「前記主演算制御回路は、計測データを極座標-直交変換座標変換した後のデータから、玉型の周長、及びレンズ枠幾何学中心間距離FPDを求めること立体計測された眼鏡枠のレンズ枠形状からレンズ枠の周長を求めること」と本件発明の「前記発注側コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを前記製造側コンピュータへ送信すること」とは、前記コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、及びフレームPDを求める点で共通する。

したがって、両者は、
「コンピュータと、このコンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する、ヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであって、前記コンピュータは、眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工する上で必要となる情報を入力し、レンズ研削のために必要な処理を行う機能を有し、前記眼鏡枠情報は、前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり、前記コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、及びフレームPDを求めることを特徴とするヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システム。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
ヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムにおいて、本件発明は、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるのに対して、先願発明は、手元に眼鏡フレームがある状態でヤゲン加工が行われる点。
[相違点2]
ヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムが有するコンピュータが、本件発明は、ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置された少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えたコンピュータと、この発注側コンピュータへ情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータであるのに対して、先願発明は、そのような限定がされていない点。
[相違点3]
眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報について、本件発明では、発注側コンピュータが、これらの情報を入力し、発注に必要なデータを製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有するのに対して、先願発明は、発注側コンピュータと製造側コンピュータという概念がなく、また、発注に必要なデータを製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有しない点。
[相違点4]
本件発明は、製造側コンピュータは、発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、ヤゲン加工済眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備えているのに対して、先願発明は、そのような限定がされていない点。
[相違点5]
本件発明では、発注側コンピュータが、3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを前記製造側コンピュータへ送信するのに対して、先願発明は、主演算制御回路(コンピュータ)が、3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長及びフレームPDを求めるに留まる点。

3 当審の判断
上記相違点1ないし5が、実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(1)相違点1について
本件発明及び先願発明は、眼鏡レンズのヤゲン加工を行う点では軌を一にしているが、その加工の際、本件発明は、手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工するが、先願発明は、手元に眼鏡フレームがある状態でヤゲン加工するので、相違点1は、実質的な相違点であることは明らかである。

(2)相違点2について
先願明細書には、
「【請求項2】 請求項1のレンズ周縁加工機は、眼鏡枠のレンズ枠を立体計測する眼鏡枠形状測定装置と一体又はインタ-フェイスを介して結合していることを特徴とするレンズ周縁加工機。」なる記載、
また、その段落【0004】ないし【0008】に、
「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は次のような特徴を有する。すなわち、
(1)(略)
【0005】(2) (1)のレンズ周縁加工機は、眼鏡枠のレンズ枠を立体計測する眼鏡枠形状測定装置と一体又はインタ-フェイスを介して結合していることを特徴としている。
・・・
【0008】(5)(略)ことを特徴としている。」
と記載されている。

しかしながら、先願明細書の発明の詳細な説明には、レンズ周縁加工機が、眼鏡枠のレンズ枠を立体計測する眼鏡枠形状測定装置とインタ-フェイスを介して結合した装置あるいはシステムの構成について、説明がされておらず、また、先願明細書の図面にも、レンズ周縁加工機に眼鏡枠形状測定装置が組み込まれたものしか開示されていない。

してみると、先願発明に係るレンズ周縁加工機(ヤゲン加工済レンズの供給システム)は、先願明細書の図1からわかるように、主演算制御回路、眼鏡枠保持部、測定部、入力部、表示部、及びレンズ研削部等の各構成要素が組み込まれたレンズ周縁加工機の発明であり、先願発明においては、眼鏡レンズを発注する「発注者側」と、これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」との明確な区別をしていないことを前提とした発明である。

一方、本件発明は、眼鏡レンズを発注する「発注者側」と、これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」との明確な区別をして、発注側コンピュータとは別個に、発注側コンピュータへ情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータとを有することを構成要件とするものである。

したがって、相違点2は実質的な相違点である。

(3)相違点3について
「相違点2について」で検討したことからみて、相違点3も実質的な相違点であることは明らかである。

(4)相違点4について
「相違点2について」で検討したことからみて、相違点4も実質的な相違点であることは明らかである。

(5)相違点5について
上記「相違点2について」の項で述べたように、先願発明においては、眼鏡レンズを発注する「発注者側」と、これを受注して眼鏡レンズを製造する「製造側」との明確な区別をしていないことを前提とした発明である。
さらに、先願明細書には、3次元形状測定データである測定データから、「眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求める点さえ記載されておらず、また、示唆もされていない。

したがって、相違点5も実質的な相違点であることは明らかである。

(6)本件発明の効果
本件発明は、請求項1に記載した構成要件を有することにより、訂正された明細書の段落【0125】に記載した「精度の高い眼鏡フレーム枠形状情報を加工者側に与え、より精度の高いレンズのヤゲン加工及びそのレンズの供給を可能とし、特に、眼鏡枠形状の周長という新規な指標を採用したことで、フレームの変形誤差をも考慮した眼鏡レンズの供給システムができた。」という先願発明では得られない顕著な効果を奏する。

(7)相違点1ないし5の検討のまとめ
相違点1ないし5は、いずれも実質的な相違点であり、また、本件発明は、上記(6)に記載した顕著な効果を奏するので、本件発明が先願発明と同一であるとすることはできない。

4 請求人の主張
請求人は、平成17年11月11日付けの口頭審理陳述要領書において、「フレーム形状測定器とレンズ周縁加工機はインターフェースを介して別体でも良く(甲第3号証の請求項1参照)、それぞれ眼鏡店舗やレンズメーカに配置できるものである。」(9頁14行?16行)、及び「オンライン化は、甲第4号証、甲第5号証に示されているような周知技術であるから、上記形式的な差は、周知技術の単なる付加によってもたらされるといえる。」(同頁下から3行?末行)旨主張する。
また、平成18年8月17日付け弁駁書において、「先願明細書の請求項2には、レンズ周縁加工機に対して、眼鏡枠のレンズ枠を立体測定する手段を、インターフェイスを介して結合させる旨の記載があるので」(5頁4?5行)、「原審決は、先願明細書において、製造側コンピュータはないとするが(15頁末行?16頁1行)、上述したように請求項2の記載から当然に導かれるものであるので、当該認定は誤りである。」(5頁18?20行)と主張する。

しかしながら、上記したように本件発明は、先願発明との実質的な相違点である相違点1ないし5を有し、また、本件発明は、訂正された明細書記載の顕著な効果を奏するので(上記「3 当審の判断(6)」の項)、請求人の主張は根拠のないものであって、採用することができない。

B.特許法第29条第2項違反(その1)について
請求人は、本件出願が、原出願1及び原出願2との関係で分割出願の要件を満たさないことを前提として、本件発明は、出願前に頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると主張するので、本件出願が分割要件を満たすか否かについて検討する。
1.本件出願と原出願1(特願平4-255018号(特開平6-102473号公報))

(1)請求人の主張
原出願1の当初の明細書又は図面(刊行物1参照)には、本件発明に係る、眼鏡枠周長、眼鏡枠の傾きTILT、眼鏡枠瞳孔間距離、眼鏡枠の縦サイズ横サイズ、フレームセンター、眼鏡枠材質情報について、他の情報(3次元枠データ、眼鏡枠の傾き、鼻幅等)と共に個別に記載があるが、このような多数の情報の中から、本件発明の課題に鑑みて、本件発明の特定事項「前記3次元の枠データに基づいて前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPD」の要素を選出することにより、「眼鏡枠の正確な形状データを把握」する等といった本件発明の作用効果を奏させる旨は、一切記載されていない。また、原出願1の当初明細書には、本件発明に係る「3次元的眼鏡枠形状情報」、「眼鏡枠情報」の記載がなく、これらの用語の意味乃至含み得る情報の範囲が不明である。
したがって、本件出願の明細書又は図面は、原出願1の当初明細書等に記さした事項の範囲内ではないから、適法な分割出願とは認められない。

(2)当審の判断
ア まず、本件発明で用いられている用語「3次元的眼鏡枠形状情報」について検討する。

原出願1の段落[0068]?[0076]によれば、フレーム形状測定器は、眼鏡枠の内周溝にスタイラスを接触させることにより、3次元測定形状データを得るものであって、この計測された3次元測定形状データに基づいて眼鏡枠周長(段落[0086])、眼鏡枠瞳孔間距離(段落[0113])、眼鏡枠の横サイズ縦サイズ(段落[104]及び[105])、及びフレームセンター(段落[104]?[106])が算出されるものである。そして、これらの3次元測定形状データに基づいて得られた眼鏡枠周長、眼鏡枠瞳孔間距離、眼鏡枠の横サイズ縦サイズ、及びフレームセンターは、いずれも眼鏡フレームの形状情報といえるものであることは明らかである。

したがって、原出願1には、「所望の眼鏡フレームをフレーム形状測定器で測定し、その測定データから、眼鏡枠周長、眼鏡枠瞳孔間距離、眼鏡枠の縦サイズ横サイズ、及びフレームセンターを計算処理して得た3次元的眼鏡枠形状情報」についての構成が実質的に開示されているものと認められる。

イ 次に、本件発明で用いられている用語「眼鏡枠情報」について検討する。

原出願1の段落[0002]には、発注側は、眼鏡フレームに関する情報を製造側に送ることが記載されており、これが眼鏡枠情報に相当することは明らかであるから、原出願1には、眼鏡枠情報が実質的に開示されているものと認められる。
なお、請求人は、原出願1には、「眼鏡枠の正確な形状データを把握」するといった本件発明の作用効果を奏させる記載は一切ないと主張するが、原出願1の段落[004]?[007]、[127」及び[128]の記載から、原出願1には、眼鏡枠の正確な形状データを把握することを考慮した眼鏡レンズの供給システムが実質的に記載されているものと認められる。

ウ 以上から、本件出願が、原出願1との関係で分割要件を満たさないとする請求人の主張は採用することができない。

2.本件出願と原出願2(特願平2000-91821号(特開2000-321540号公報))

(1)請求人の主張
請求人は、原出願2も原出願1と同様に、上記1(1)で指摘したような事実があるから、本件出願は、原出願2との関係でも分割要件を満たしていない旨主張する。

(2)当審の判断
ア まず、本件発明で用いられている用語「3次元的眼鏡枠形状情報」について検討する。

原出願2の段落[0063]?[0071]によれば、フレーム形状測定器は、眼鏡枠の内周溝にスタイラスを接触させることにより、3次元測定形状データを得るものであって、この計測された3次元測定形状データに基づいて眼鏡枠周長(段落[081])、眼鏡枠瞳孔間距離(段落[108])、眼鏡枠の横サイズ縦サイズ(段落[099]及び[100])、及びフレームセンター(段落[099]?[101])が算出されるものである。
そして、これらの3次元測定形状データに基づいて得られた眼鏡枠周長、眼鏡枠瞳孔間距離、眼鏡枠の横サイズ縦サイズ、及びフレームセンターは、いずれも眼鏡フレームの形状情報といえるものであることは明らかである。

したがって、原出願2には、「所望の眼鏡フレームをフレーム形状測定器で測定し、その測定データから、眼鏡枠周長、眼鏡枠瞳孔間距離、眼鏡枠の縦サイズ横サイズ、及びフレームセンターを計算処理して得た3次元的眼鏡枠形状情報」についての構成が実質的に開示されているものと認められる。
イ 次に、本件発明で用いられている用語「眼鏡枠情報」について検討する。

原出願2の段落[0002]には、発注側は、眼鏡フレームに関する情報を製造側に送ることが記載されており、これが眼鏡枠情報に相当することは明らかであるから、原出願2には、眼鏡枠情報が実質的に開示されているものと認められる。

なお、請求人は、原出願2には、「眼鏡枠の正確な形状データを把握」するといった本件発明の作用効果を奏させる記載は一切ないと主張するが、原出願1の段落[004]?[007]、[127」及び[128]の記載から、原出願2には、眼鏡枠の正確な形状データを把握することを考慮した眼鏡レンズの供給システムが実質的に記載されているものと認められる。

ウ 以上から、本件出願が、原出願2との関係で分割要件を満たさないとする請求人の主張は採用することができない。

3.結論
以上のとおり、本件出願は、原出願1及び原出願2との関係で分割出願の要件を満たすから、本件出願が分割要件を満たさないこと前提とした請求人の特許法第29条第2項違反に関する主張は採用することができない。

C.特許法第29条第2項違反(その2)について
1 刊行物4(甲第4号証)に記載の発明

刊行物4の上記(4-1)?(4-10)の記載から、刊行物4には、以下の事項が記載されている。

(1)眼鏡店に設置された眼鏡枠に関する情報をオンラインで電送するコン ピュータ(4-9)
(2)この眼鏡店のコンピュータにオンライン接続されたレンズ製造工場に 設置されたコンピュータ〔(4-1),(4-9),(4-10)〕
(3)使用する眼鏡枠に最適な肉厚を有する眼鏡レンズの供給システム〔( 4-1)、(4-2)〕
(4)眼鏡店のコンピュータは、

レンズの種類、眼鏡枠の形状及び眼鏡枠の種類を含む眼鏡枠に関する情報、眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報、装用者の角膜頂点距離(PDと呼ばれる)、レンズ処方値、レンズの光学中心、多重焦点レンズの近方視領域の眼鏡枠内に於ける配置等〔(4-1),(4-9)〕

使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚のレンズを製造する上で必要な情報を把握し、その情報をレンズ製造工場のコンピュータに電送する
〔(4- 1),(4-9),(4-10)〕
(5)レンズ製造工場のコンピュータは、眼鏡店のコンピュータからの電送に基づいて、使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し
〔(4-1),(4-10)〕
(6)使用する眼鏡枠に最適な肉厚を有する眼鏡レンズの供給システム
〔(4-1),(4-2),(4-10)〕

そして、眼鏡店のコンピュータは、眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚のレンズを製造する上で必要な情報をレンズ製造工場のコンピュータに電送するので、そのために眼鏡店のコンピュータは、上記情報を入力することは明らかである。

したがって、上記(4-1)?(4-10)の記載から、刊行物4には
「眼鏡店に設置された眼鏡枠に関する情報をオンラインで電送するコンピュータと、この眼鏡店のコンピュータにオンライン接続されたレンズ製造工場に設置されたコンピュータとを有する、使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズの供給システムであって、
眼鏡店のコンピュータは、レンズの種類、眼鏡枠の形状及び眼鏡枠の種類を含む眼鏡枠に関する情報、眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報、装用者の角膜頂点距離(PDと呼ばれる)、レンズ処方値、レンズの光学中心、多重焦点レンズの近方視領域の眼鏡枠内に於ける配置等の使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚のレンズを製造する上で必要な情報を入力し、その情報をレンズ製造工場のコンピュータに電送し、
一方、前記レンズ製造工場のコンピュータは、前記眼鏡店のコンピュータからの電送に基づいて、使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定することを特徴とする使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズの供給システム。」についての発明(以下「刊行物4発明」という。)が記載されているものと認められる。

2 本件発明と刊行物4発明との対比
(1)刊行物4発明の「眼鏡店に設置された眼鏡枠に関する情報をオンラインで電送するコンピュータ」と本件発明の「ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータ」とは、眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータの点で一致する。
(2)刊行物4発明の「レンズ製造工場に設置されたコンピュータ」は本件発明の「製造側コンピュータ」に相当する。
(3)刊行物4発明における上記2つのコンピュータが、オンラインで情報を電送することから、刊行物4発明の2つのコンピュータは、本件発明と同様に「情報交換可能に通信回線で接続され」ていることは明らかである。
(4)刊行物4発明に係る「レンズの種類」は本件発明に係る「眼鏡レンズ情報」に相当する。
(5)刊行物4発明に係る「眼鏡枠の形状及び眼鏡枠の種類を含む眼鏡枠に関する情報」と本件発明に係る「3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報」とは、眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報の点で一致する。
(6)刊行物4発明に係る「眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報、装用者の角膜頂点距離(PDと呼ばれる)、レンズ処方値、レンズの光学中心、多重焦点レンズの近方視領域の眼鏡枠内に於ける配置等」は、本件発明に係る「処方値、及びレイアウト情報」に相当する。
(7)刊行物4発明の眼鏡店のコンピュータは「眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚のレンズを製造する上で必要な情報を入力し、その情報をレンズ製造工場のコンピュータに電送」するから、本件発明の「発注に必要なデータを製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有」することは明らかである。
(8)刊行物4発明のレンズ製造工場のコンピュータは「眼鏡店のコンピュータからの電送に基づいて、使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定」するから、本件発明に係る「発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い」「受注に必要な処理を行う機能を備え」ることは明らかである。

したがって、両者は、
「眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと、この発注側コンピュータに情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータとを有する、眼鏡レンズの供給システムであって、前記発注側コンピュータは、眼鏡レンズ情報、眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた情報を入力し、発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し、一方、前記製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備えることを特徴とする眼鏡レンズの供給システム。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本件発明では、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるのに対し、刊行物4発明では、そのような限定がされていない点。
[相違点2]
眼鏡レンズの供給システムにより供給される眼鏡レンズが、本件発明では、ヤゲン加工済眼鏡レンズであるのに対し、刊行物4発明では、使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズに留まり、ヤゲン加工済との限定がない点。
[相違点3]
発注側に設置されたコンピュータが、本件発明では、少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えるのに対して、刊行物4発明では、その限定がされていない点。
[相違点4]
本件発明では、3次元的眼鏡枠測定装置が発注側コンピュータに接続されているのに対し、刊行物4発明では、その限定がされていない点。
[相違点5]
発注側コンピュータに入力する情報が、本件発明では、枠入れ加工をする上で必要となる情報であるのに対して、刊行物4発明では、使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚のレンズを製造する上で必要な情報である点。
[相違点6]
発注及び受注の対象となる眼鏡レンズが、本件発明では、ヤゲン加工済眼鏡レンズであるのに対して、刊行物4発明では、使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズに留まり、ヤゲン加工済との限定がない点。
[相違点7]
眼鏡枠形状情報が、本件発明では、3次元的と規定されているのに対し、刊行物4発明では、3次元的とは規定されていない点。
[相違点8]
眼鏡枠情報が、本件発明では、3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであるのに対し、刊行物4発明では、その点について限定されていない点。
[相違点9]
発注側コンピュータが、本件発明では、3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを製造側コンピュータへ送信するのに対し、刊行物4発明では、その点について限定されていない点。
[相違点10]
本件発明の対象は、ヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであるのに対し、刊行物4発明の対象は、使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズの供給システムである点。

3 当審の判断
(1)相違点1,2,5,6,10について
相違点1,2,5,6,10を併せて検討する。

刊行物4には、以下のア?カの記載がなされている。

「本発明は眼鏡レンズの供給方法に関し、各々の眼鏡袋用者の使用する眼鏡枠の種類及び形状に対し、最適な肉厚を有する眼鏡レンズを提供することを目的とする。」(1頁右下欄11?14行)

「レンズ工場に於いて、レンズの製造から枠入れ加工まで行ない、完成品を視力検定医へ送付する方式で、北米で主に用いられており、ラボ方式と呼ばれている。」(2頁左上欄7?10行)

「ところが、アンカット方式にあつては、同じ度数に対して準備されている外径の種類は一般にせいぜい2、3種類であり、多種多様の眼鏡枠に細かく対応しうるものではない。従って、必要以上に大きな外径のレンズを用いざるを得ず、そのために必要以上のレンズの厚みと重量とを眼鏡装用者に強いる形となつている。」(2頁右上欄11?17行)

「ところが、ラボ方式に於いては、高価なフレームの輸送という工程がある為、破損や遺失による大きなリスクを伴うという欠点がある。」(2頁右下欄9?11行)

「又、例えば現在の日本国内の様にアンカット方式が主流である市場に於いてラボ方式を導入することは、枠入れ加工という眼鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪う形となり、容認され難いであろう。」(2頁左下欄12?16行)

「この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し、そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変わるところない。
即ち、眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し、その位置の厚みが所定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し、所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを荒摺、砂掛、研磨することにより、所望のレンズが得られるのである。」(3頁左下欄16行?右下欄1行)

これらの記載によれば、刊行物4には、以下の(ア)?(エ)の点が記載されている。
(ア)「本発明」即ち刊行物4発明の目的は、本件発明と異なり、使用する眼鏡枠に最適な肉厚を有する眼鏡レンズを提供することである。
(イ)レンズ製造と枠入れ(ヤゲン加工も含む)とは異なるプロセスである。
(ウ)レンズ製造工場では、手元に眼鏡フレームがない状態でレンズを製造するが、眼鏡枠に嵌まるようにヤゲン加工を含むレンズを切削加工する枠入れ加工まではしない。
(エ)「レンズを荒摺、砂掛、研磨」することは、所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを製造することを意味し、レンズの枠入れ加工を意味するものではない。

したがって、刊行物4発明は、レンズ製造工場では、手元に眼鏡フレームがない状態でレンズを製造するが、眼鏡枠に嵌まるようにヤゲン加工を含むレンズを切削加工する枠入れ加工まではせず、レンズの枠入れ加工(ヤゲン加工も含む)を行うのは、あくまで眼鏡店であることを前提とした発明である。
してみると、相違点1,2,5,6,10のそれぞれに係る本件発明の構成要件の前提である、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われる点は、刊行物4に記載されていないばかりか、示唆もされていないことは明らかである。

なお、刊行物5(特開平4-13539号公報)には、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で、発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいて、レンズの形状加工する点が記載されているが、レンズのヤゲン加工まで行う点は明記されていない。

そして、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われる点は、本願出願前に頒布された刊行物5等の請求人が提出したその他の証拠方法にも記載されていない。

よって、相違点1,2,5,6,10に係る本件発明の構成要件は、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。

(2)相違点3について
請求人が提出した平成18年8月17日付け弁駁書に添付した特開昭61-274859号公報(参考資料9)、特開平3-20602号公報(参考資料10)、特開平3-135711号公報(参考資料11)には、レンズをヤゲン加工することが記載されており、レンズをヤゲン加工すること自体は本願出願前の周知技術であるといえる。

しかしながら、「相違点1,2,5,6,10について」で述べたように、刊行物4発明は、レンズの枠入れ加工ないしヤゲン加工を行うのは、レンズの発注側(眼鏡店)であることを前提とした発明であるので、レンズの製造側(レンズ製造工場)にヤゲン加工済眼鏡レンズの発注する必要がない、換言すれば、眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータから製造側に設置されたコンピュータに、ヤゲン情報を送信する必要がないことは明らかである。

してみると、刊行物4発明において、レンズの発注側のコンピュータから、レンズの製造側のコンピュータに、ヤゲン情報を送信することを想起することは、当業者といえども、困難なことであるといえる。

したがって、相違点3に係る本件発明の構成要件は、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。

(3)相違点4,7,8について
相違点4,7,8を併せて検討する。

刊行物4には、眼鏡店において眼鏡枠に関する情報を把握すること、また、その情報としてフレームセンター、フレームPD、枠の横幅縦幅、等の眼鏡枠の形状情報が記載されているので〔上記摘記事項(4-1)、(4-9)〕、これらの眼鏡枠の形状に関する情報を把握するために眼鏡枠の形状測定装置が用いられることは当然のことである。
そして、眼鏡枠の形状測定装置として3次元的測定装置が用いられることは、当該技術分野において周知である(周知例として、特開昭62-169009号公報、特開昭62-215814号公報、特開平1-305308号公報、特開平3-20605号公報を参照のこと)。
また、眼鏡枠形状に関して3次元的眼鏡枠測定装置によって得られた情報は、3次元的眼鏡枠形状情報といえることは明白であって、さらに、3次元的に眼鏡枠の形状を測定する際に、3次元的眼鏡枠測定装置の測定子が眼鏡枠形状に沿って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取することは、通常の3次元的測定装置を用いて眼鏡枠の形状を測定する際の一実施形態にすぎず、当業者であれば、適宜、採用することができたものである。

以上から、相違点4,7,8に係る本件発明の構成要件は、当業者が刊行物4の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。

(4)相違点9について
ア 製造側コンピュータへ送信する情報の中に、本件発明では、3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された眼鏡枠のレンズ枠の周長が含まれる点で引用発明とは相違するので、「眼鏡枠のレンズ枠の周長」の点について検討する。

刊行物6(甲第6号証)には、眼鏡レンズの外径形状と眼鏡フレームの形状とを正確に合致させる為フレーム枠の周長を測定する技術思想及び「眼鏡フレーム枠のV状溝内周長測定装置」の発明が記載されている。すなわち、刊行物6には、眼鏡フレームに合致するレンズを製造する際に、眼鏡フレーム枠の周長、本件発明でいう「眼鏡枠のレンズ枠の周長」の情報が有用であることが開示されている。

しかしながら、「相違点1,2,5,6,10について」の項において述べたように、刊行物4発明は、レンズ製造工場では、手元に眼鏡フレームがない状態でレンズを製造するが、眼鏡枠に嵌まるようにヤゲン加工を含むレンズを切削加工する枠入れ加工まではせず、レンズの枠入れ加工(ヤゲン加工も含む)を行うのは、あくまで眼鏡店であることを前提とした発明である。
してみると、レンズ製造工場でレンズの枠入れ加工をしない刊行物4発明にとって、眼鏡枠のレンズ枠の周長の情報は必ずしも有用な情報ではない。つまり、発注側コンピュータは、「眼鏡枠のレンズ枠の周長」を求め、これを製造側コンピュータへ送信する必要がないことは明らかであり、刊行物6に記載された技術思想又は発明を刊行物4発明に適用する動機付けがないというべきである。

したがって、相違点9に係る本件発明の構成要件の一部である、発注側コンピュータが「眼鏡枠のレンズ枠の周長」を求め、これを製造側コンピュータへ送信する点は、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。

イ 次に、製造側コンピュータに送信する情報の中に、本件発明では、更に「眼鏡枠の傾きTILT」が含まれる、即ち、3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILTが含まれる点で引用発明とは相違するので、「眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT」の点について検討する。

刊行物7(甲第7号証)(7-3)には、
「以上の実施例によればフレームの溝形状を測定する際、フレームが傾かないように固定したり、フレームの玉型の幾何学中心の中心出しをしながら固定する必要がなくなり、測定が容易になり、フレームの傾き、玉型の幾何学中心を溝形状の測定データにより算出し補正することにより測定も正確になる利点がある。」(5頁右上欄15行?左下欄1行)と記載されている。

この記載によれば、刊行物7(甲第7号証)には、フレームの溝形状を測定する際に、誤ってフレームが傾いても、その傾きは溝形状の測定データにより算出でき、フレームの溝形状の測定値を補正できる旨が記載されており、刊行物7(甲第7号証)に記載された「フレームの傾き」とは、眼鏡枠(フレーム)を形状測定装置にセットする際に変わり得る傾きであり、換言すれば、眼鏡枠の形状測定の際、基準となる面に対する眼鏡枠(フレーム)の設置誤差ともいえる傾きである。
これに対して、本件発明で定義される「眼鏡枠の傾きTILT」は、測定される眼鏡枠固有の傾きであり、また、その定義からみても明らかなように刊行物7(甲第7号証)に記載された「フレームの傾き」とは別異のものである。

なお、請求人が平成17年11月11日付け口頭審理陳述要領書に添付した参考資料2である特開平4-93163号公報には、「フレーム溝の角度」を求めることが記載されているものの(第10頁右上欄第18行?同左下欄第14行)、上記「フレーム溝の角度」は、本件発明で定義された「眼鏡枠の傾きTILT」に該当するということはできない。

したがって、相違点9に係る本件発明の構成要件の一部である、発注側コンピュータが「眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT」を求め、これを製造側コンピュータへ送信する点は、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。

ウ よって、相違点9に係る本件発明の構成要件は、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。

(5)本件発明の作用効果
本件発明は、訂正された請求項1に記載された構成要件、を有することで、請求人が提示した証拠方法の記載からは当業者といえども予測できない効果、即ち、訂正された特許明細書の段落【0125】に記載された
「精度の高い眼鏡フレーム枠形状情報を加工者側に与え、より精度の高いレンズのヤゲン加工及びそのレンズの供給を可能とし、特に、眼鏡枠形状の周長という新規な指標を採用したことで、フレームの変形誤差をも考慮した眼鏡レンズの供給システムができた。」という顕著な作用効果を奏する。

(6)相違点の検討のまとめ
したがって、相違点1ないし10のうち、相違点1ないし3,5,6,9,10に係る本件発明の構成要件は、本願出願前に頒布された刊行物4ないし刊行物7に記載された発明、並びに周知技術、請求人が提示した他の証拠方法に基づいても容易とはいえず、また、本件発明は、上記した顕著な作用効果を奏するものである。
よって、本件発明は、本願出願前に頒布された刊行物4ないし刊行物7に記載された発明、並びに周知技術、請求人が提示した他の証拠方法に基づいても当業者が容易に発明することができたとはいえない。

第8 むすび
以上のとおりであり、請求人の主張する理由はいずれも当を得ないものであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
眼鏡レンズの供給システム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置された少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えたコンピュータと、この発注側コンピュータに情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータと、この発注側コンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであって、
前記発注側コンピュータは、眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し、発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し、
一方、前記製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、ヤゲン加工済眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備え、前記眼鏡枠情報は、前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり、
前記発注側コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを前記製造側コンピュータへ送信することを特徴とするヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、眼鏡レンズの供給システムに関し、特に当該供給システムにおける眼鏡フレ-ムの形状データ処理に関する。
【0002】
【従来の技術】
眼鏡レンズの発注側から送られた眼鏡レンズや眼鏡フレームに関する情報に基づき、眼鏡レンズの加工側が、ヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し、その結果に基づき、ヤゲン加工を含めたレンズ加工が可能であるか否かの可否情報を、さらにはヤゲン加工形状を含めた眼鏡レンズの仕上がり予想形状を、発注側に返信し、発注側は、送信された可否情報または仕上がり予想形状を画面表示し、ヤゲン加工を含めたレンズ加工が可能であるか否かを確認し、あるいは仕上がり予想形状を確認し、この確認に基づき、最適なヤゲンが設けられた眼鏡レンズを決定して発注するようにした眼鏡レンズの供給システムが、本願出願人により提案されている(特許文献1)。
【0003】
このシステムの完成度をより高めるためには、眼鏡枠の左右のバランスをとることが行われる必要がある。一般に、左右の眼鏡枠形状は同一であることが美観上好ましいが、フレーム製造後の輸送、保管等の取扱やフレーム素材の経時変化等により形状変形を受け、差異を生じる場合がある。この差異を放置して枠入れすると、例えば、バイフォーカルレンズのように、小玉がついているレンズでは、各々、左右のレンズ枠で小玉のレイアウト位置が異なる場合が発生する。そして、この眼鏡の小玉位置の左右の相違は、装用者以外の第三者から見た場合、非常にアンバランスな眼鏡に映る。そこで、眼鏡枠の左右のバランスをとるために、従来、左右の眼鏡枠形状を同形化することが行われていた。すなわち、例えば特公平3-25298号公報に開示されるように、左右いずれか一方の眼鏡枠形状をそのまま双方の眼鏡枠形状として使用して眼鏡レンズの加工を行い、他方の眼鏡枠形状を変形した上で眼鏡レンズを枠入れすることが行われていた。
【0004】
【特許文献1】
特願平4-165912号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記、ヤゲン加工を含めた眼鏡レンズの供給システムにおいて、最も重要なことは眼鏡フレームの形状データを正確に把握することである。通常、眼鏡店にて実施される玉摺機を用いたヤゲン加工においては、手元に眼鏡フレームとレンズとがあるので、眼鏡フレームの形状変形状態やレンズの厚み等は加工者が視覚的に把握できる。従って、加工者は、長年の経験や勘等のノウハウによる加工技術により、処方と比較しながら対応することができる。
すなわち、工場から出荷された眼鏡フレームは、種々の流通経路を経て眼鏡店の元に届くが、この流通過程で眼鏡フレームは形状変形を受けてしまう。このような場合、熟達した加工者は、当該変形を受けた眼鏡フレームを見て、ここへレンズが枠入れ加工された際の形状復元度等を考慮して、レンズのヤゲン加工等の縁擂り加工を行っていた。
しかし、上記眼鏡レンズの供給システムにおいて、加工者は、当該眼鏡フレームの現物を見ることなく、遠隔地から通信回線にて送られた加工データのみで対応しなければならないため、眼鏡フレームの正確な形状データ把握と、そのデータの送受信が望まれていた。
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、発注側にて眼鏡フレームの正確な形状データ把握し、加工側と互いに情報交換をしながら当該データを加工側に与える眼鏡レンズの供給システムを提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するための手段として、第1の手段は、ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置された少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えたコンピュータと、この発注側コンピュータに情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータと、この発注側コンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する、製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであって、前記発注側コンピュータは、眼鏡レンズ情報、3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し、発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し、一方、前記製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、ヤゲン加工済眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備え、前記眼鏡枠情報は、前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し、所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり、前記発注側コンピュータは、前記3次元の枠データに基づいて、この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長、眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT、及びフレームPDを求め、これらを前記製造側コンピュータへ送信することを特徴とするヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。図2は、本発明の眼鏡枠形状同形化方法が実施される眼鏡レンズの供給システムの全体構成図である。発注側である眼鏡店100とレンズ加工側であるレンズメーカの工場200とは公衆通信回線300で接続されている。図では眼鏡店を1つしか示さないが、実際には複数の眼鏡店が工場200に接続される。
【0008】
眼鏡店100には、オンライン用の端末コンピュータ101およびフレーム形状測定器102が設置される。端末コンピュータ101はキーボード入力装置やCRT画面表示装置を備えるとともに、公衆通信回線300に接続されている。端末コンピュータ101へは、フレーム形状測定器102から眼鏡フレーム実測値が入力され、端末コンピュータ101で計算処理が行われるとともに、キーボード入力装置から眼鏡レンズ情報、処方値等が入力される。そして端末コンピュータ101の出力データは、公衆通信回線300を介して工場200のメインフレーム201にオンラインで転送される。なお、端末コンピュータ101とメインフレーム201との間に、中継局を設けるようにしてもよい。また、端末コンピュータ101の設置場所については眼鏡店100に限定されるものではない。
【0009】
メインフレーム201は眼鏡レンズ加工設計プログラム、ヤゲン加工設計プログラム等を備え、入力されたデータに基づき、ヤゲン形状を含めたレンズ形状を演算し、その演算結果を、公衆通信回線300を介して端末コンピュータ101に戻して画面表示装置に表示させるとともに、その演算結果を工場200の各端末コンピュータ210,220,230,240,250にLAN202を介して送るようにする。
【0010】
端末コンピュータ210には、荒擦り機(カーブジェネレータ)211と砂掛け研磨機212とが接続され、端末コンピュータ210は、メインフレーム201から送られた演算結果に従い、荒擦り機211と砂掛け研磨機212とを制御して、予め表面が加工されたレンズの裏面の曲面仕上げを行う。
【0011】
端末コンピュータ220には、レンズメータ221と肉厚計222とが接続され、端末コンピュータ220は、レンズメータ221と肉厚計222とで得られた測定値と、メインフレーム201から送られた演算結果とを比較して、レンズ裏面の曲面仕上げが完了したレンズの受入れ検査を行うとともに、合格レンズには光学中心を示すマーク(3点マーク)を施す。
【0012】
端末コンピュータ230には、マーカ231と画像処理機232とが接続され、端末コンピュータ230は、メインフレーム201から送られた演算結果に従い、レンズの縁摺りおよびヤゲン加工をする際にレンズをブロック(保持)すべきブロッキング位置を決定し、またブロッキング位置マークを施すことに使用される。このブロッキング位置マークに従い、ブロック用の治工具がレンズに固定される。
【0013】端末コンピュータ240には、マシニングセンタからなるNC制御のレンズ研削装置241とチャックインタロック242とが接続され、端末コンピュータ240は、メインフレーム201から送られた演算結果に従い、レンズの縁摺り加工およびヤゲン加工を行う。
【0014】
端末コンピュータ250には、ヤゲン頂点の形状測定器251が接続され、端末コンピュータ250は、この形状測定器251が測定したヤゲン加工済のレンズの周長および形状を、メインフレーム201から送られた演算結果と比較して加工の合否判定を行う。
【0015】
以上のような構成のシステムにおいて眼鏡レンズが供給されるまでの処理の流れを、以下、図3および図4を参照して説明する。なお、この処理の流れには、「問い合わせ」と「注文」との2種類があり、「問い合わせ」は、ヤゲン加工を含めたレンズ加工の完了時のレンズ予想形状を報知するように、眼鏡店100が工場200に求めることであり、また、「注文」は、縁摺り加工前のレンズまたはヤゲン加工済のレンズを送るように、眼鏡店100が工場200に求めることである。
【0016】
図3は、眼鏡店100での最初の入力処理の流れを示すフローチャートである。図中、Sに続く数字はステップ番号を表す。〔S1〕眼鏡店100の端末コンピュータ101のレンズ注文問い合わせ処理プログラムが起動され、オーダエントリ画面が画面表示装置に表示される。眼鏡店100のオペレータは、オーダエントリ画面を見ながら、キーボード入力装置により、注文あるいは問い合わせの対象となるレンズの種類の指定を行う。
【0017】
すなわち、レンズの種類指定、注文あるいは問い合わせをするレンズが、ヤゲン加工済のレンズなのか、または縁摺り加工とヤゲン加工とが施されないレンズなのかの指定、レンズの厚さを必要最小値になるように指定する加工指定、マイナスレンズのコバを目立たなくする面取りをし、その部分の研磨仕上げをする加工指定等を行う。
【0018】
〔S2〕レンズのカラーの指定を行う。〔S3〕レンズの処方値、レンズの加工指定値、眼鏡フレームの情報、アイポイント位置を指定するレイアウト情報、ヤゲンモード、ヤゲン位置およびヤゲン形状を入力する。
【0019】
ヤゲンモードは、レンズコバのどこにヤゲンを立てるかによって、「1:1」、「1:2」、「凸ならい」、「フレームならい」、および「オートヤゲン」のモードがあり、それらの中から選択して入力する。ここで例えば「凸ならい」とは、レンズ表面(前面)に沿ってヤゲンを立てるモードである。
【0020】
ヤゲン位置の入力は、ヤゲンモードが「凸ならい」、「フレームならい」、および「オートヤゲン」のときに限り有効であり、ヤゲン表面側底の位置をレンズ表面からどれだけ裏面方向に位置させるかを指定するもので、0.5mm単位で指定する。
【0021】
〔S4〕ここで対象となる眼鏡フレームに対し、図2のフレーム形状測定機102によるフレーム形状の測定が既に完了しているか否かを判別する。完了していればステップS7へ進み、完了していなければステップS5へ進む。
【0022】
〔S5〕まず、眼鏡店100の端末コンピュータ101において、レンズ注文問い合わせ処理プログラムからフレーム形状測定プログラムへ処理が渡される。そして、これから形状測定される眼鏡フレームに付された測定番号を入力する。また、フレームの材質(メタル、プラスティック等)を指定し、さらに、フレーム曲げの可不可の指定を行う。
【0023】
〔S6〕測定すべき眼鏡フレームをフレーム形状測定器102に固定して測定を開始する。フレーム形状測定器102の構造の概略を、図5を参照して後述するとともに、このステップS6の詳細内容を、図6を参照して後述する。
【0024】
フレーム形状測定器102で測定された測定値に対して端末コンピュータ101において計算処理が施され、その結果が端末コンピュータ101の画面表示装置に表示される。なお、測定値に大きな乱れがあったり、左右フレーム枠の形状に大きな差があったりした場合には、その旨のエラーメッセージが画面表示装置に表示される。
【0025】
眼鏡店100では、エラーメッセージが画面表示装置に表示されたときには、そのエラーメッセージの内容に応じて点検をし、再び測定を行う。
〔S7〕既にフレーム形状の測定が行われ、その結果が記憶されている場合には、その記憶された測定値を読み出すために、眼鏡フレームに付けた測定番号を入力する。
【0026】
〔S8〕測定番号に従い、該当する眼鏡フレームについての記憶されたフレーム形状情報を内部記憶媒体から読み出す。以上のステップS1?S8により、眼鏡レンズ情報、眼鏡枠情報、処方値、レイアウト情報、加工指示情報の内の少なくとも1つである加工条件データが送信される。
〔S9〕「問い合わせ」か、「注文」かの指定をする。
【0027】
以上のステップの実行によって得られたレンズ情報、処方値、フレーム情報等のデータが、公衆通信回線を介して工場200のメインフレーム201に送られる。
【0028】
図4は、工場200での処理の流れ、ならびに工場200からの転送により眼鏡店100で行われる確認およびエラー表示のステップを示すフローチャートである。図中、Sに続く数字はステップ番号を表す。
【0029】
〔S11〕工場200のメインフレーム201には眼鏡レンズ受注システムプログラム、眼鏡レンズ加工設計プログラム、およびヤゲン加工設計プログラムが備えられている。レンズ情報、処方値、フレーム情報、レイアウト情報、ヤゲン情報等のデータが、公衆通信回線を介して送られると、眼鏡レンズ受注システムプログラムを経て眼鏡レンズ加工設計プログラムが起動し、レンズ加工設計演算が行われる。すなわち、ヤゲン形状を含めた所望のレンズが演算される。
【0030】
すなわち、指定レンズの外径が不足していないかを確認し、レンズの外径が不足している場合には、ボクシングシステムでの不足方向、不足量を算出し、眼鏡店100の端末コンピュータ101に表示するために、眼鏡レンズ受注システムプログラムに処理を戻す。
【0031】
レンズの外径に不足が出なければ、レンズの表カーブの決定を行う。つぎにレンズの厚さの決定を行い、レンズの厚さが決まったら、レンズの裏カーブ、プリズム、プリズムベース方向を算出し、これにより、縁摺り加工前のレンズの全体形状が決定する。
【0032】
ここで、フレーム各方向の動径毎に全周のコバの厚さを調べて、必要なコバ厚さを下回る箇所がないかを確認する。もし、下回る箇所があれば、ボクシングシステムでの不足方向、不足量を算出し、眼鏡店100の端末コンピュータ101に表示するために、眼鏡レンズ受注システムプログラムに処理を戻す。
【0033】
全周のコバの厚さに不足がなければ、レンズ重量、最大および最小のコバ厚さとそれらの方向等を算出する。そして、レンズの裏面加工のために必要となる、工場200の端末コンピュータ210に対する指示値を算出する。
【0034】
以上の演算は、端末コンピュータ210、荒擦り機211、および砂掛け研磨機212によって、縁摺り加工前のレンズ研磨加工が行われる場合に必要なものであり、算出された種々の値が次のステップに渡される。
【0035】
また、在庫レンズが指定され、縁摺り加工前のレンズ研磨加工が行われない場合には、レンズの種類と処方値とでレンズ外径、レンズ厚さ、表カーブ、裏カーブが予め決まっており、かつ、それらのデータが記憶されているから、それらの値を読み出して上記裏面加工品と同様に、レンズの外形、コバ厚さが不足しないかを確認し、次のステップに渡す。
【0036】
〔S12〕つぎに、メインフレーム201では、眼鏡レンズ受注システムプログラムを経てヤゲン加工設計プログラムが起動し、ヤゲン加工設計演算が行なわれる。
【0037】
まず、眼鏡フレームの材質に応じて眼鏡枠形状の3次元データの補正を行い、眼鏡フレームの材質に起因する眼鏡枠形状データの誤差を補正する。つぎに、眼鏡枠形状と眼鏡レンズとの位置関係を、アイポイント位置を基に3次元的に決める。
【0038】
ヤゲン加工を行うためにレンズを保持する際に基準となる加工原点および回転軸である加工軸を決め、この加工座標に今までのデータを座標変換する。そして、3次元のヤゲン先端形状(ヤゲン軌跡も含む)を、指定されたヤゲンモードに応じて決定する。その際、3次元ヤゲン先端形状を、ヤゲン周長を変えることなく変形させることを前提とし、その予想される変形量を算出する。ヤゲンモードがフレームならいのときやフレーム曲げが不可のときには変形できないから、変形しないとヤゲンが立たない場合には、その旨のエラーコードを出力する。
【0039】
その算出された変形量を、眼鏡フレームの材質毎に設けられた変形の限界量と比較し、限界量を越えていれば、その旨のエラーコードを出力する。なお、3次元のヤゲン先端形状を変形させることにより、アイポイント位置がずれるので、その誤差を補正するようにする。また、復元の誤差の補正も行う。これらの処理は選択的に行うことができる。
【0040】
以上のように、3次元のヤゲン加工の設計演算を行う。
〔S13〕図3のステップS9での指定が「注文」ならばステップS15へ進み、一方、「問い合わせ」ならば、問い合わせの結果を、公衆通信回線を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101へ送り、ステップS14へ進む。
【0041】
〔S14〕工場200のメインフレーム201から送られてきた、問い合わせに対する結果に基づき、端末コンピュータ101がヤゲン加工完了時のレンズの予想形状あるいはエラー状況を画面表示装置に表示する。眼鏡店100のオペレータは、表示された内容によって、指定入力情報の変更や確認を行う。
【0042】
すなわち、図4のステップS11およびステップS12での加工設計演算においてエラーが発生していないならば、図2の端末コンピュータ101の画像表示装置の画面に順次、レンズ厚さおよびレンズ重量を表示するオーダエントリ着信画面、眼鏡フレームに指定されたレイアウト情報に従ってレンズがどのように配置されるかを視覚的に表示するレイアウト確認図、フレームに枠入れされて空間的に配置された左右のレンズを任意の方向からみた立体図、レンズの形状や、コバとヤゲンとの位置関係を詳しく表示したヤゲン確認図、左右両方のレンズのコバ厚さとヤゲン位置とをヤゲンに沿って展開した左右ヤゲンバランス図を表示する。
【0043】
また、図4のステップS11およびステップS12での加工設計演算において、エラーが発生しているならば、図2の端末コンピュータ101の画面表示装置に、エラーの内容に応じたメッセージが表示される。
【0044】
〔S15〕図3のステップS9での指定が「注文」ならば、このステップを実行し、図4のステップS11およびステップS12での加工設計演算においてエラーが発生したか否かを判別する。エラーが発生していれば、その結果を、公衆通信回線を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101へ送り、ステップS17へ進む。一方、エラーが発生していなければ、その結果を、公衆通信回線を介して眼鏡店100の端末コンピュータ101へ送り、ステップS16へ進むとともに、ステップS18に進む。
【0045】
〔S16〕眼鏡店100の端末コンピュータ101の画面表示装置に「注文を受け付けた」旨の表示を行う。これにより、フレームに確実に枠入れ可能な縁摺り加工前またはヤゲン加工後のレンズを発注できたことが確認できる。
【0046】
〔S17〕注文のレンズは、レンズ加工設計演算またはヤゲン加工設計演算においてエラーが発生していて加工のできないレンズであるから、「注文を受け付けられない」旨の表示を行う。
【0047】
〔S18〕ステップS9で「注文」が指定されていて、しかもレンズの加工設計演算またはヤゲンの加工設計演算においてエラーが発生していなかった場合には、工場200で、レンズ裏面の研磨加工、レンズの縁摺り加工、およびヤゲン加工等の実際の加工を行う。
【0048】
すなわち、予め、ステップS11でのレンズ加工設計演算結果が図2の端末コンピュータ210に送られており、荒擦り機211と砂掛け研磨機212とにより、送られた演算結果に従い、レンズ裏面の曲面仕上げを行う。さらに、図示がない装置により、染色や表面処理が行われ、縁摺り加工前までの加工が行われる。なお、こうした加工が完了している在庫レンズの使用が指定されたときは、これらの加工工程はスキップされる。そして、縁摺り加工前まで加工された眼鏡レンズの光学性能、外観性能の品質検査を行う。この検査には、図2の端末コンピュータ220、レンズメータ221、肉厚計222が利用され、光学中心を示す3点マークが施される。なお、縁摺り加工前までのレンズを眼鏡店100から注文された場合には、上記品質検査を行った後、そのレンズを眼鏡店100へ出荷する。
【0049】
つぎに、ステップS12で演算された結果に基づき、図2の端末コンピュータ230、マーカ231、画像処理機232等により、レンズ保持用のブロック治工具をレンズの所定の位置に固定する。このブロック治工具に固定されたレンズを、図2のレンズ研削装置241に装着する。
【0050】
図2のメインフレーム201がステップS12のヤゲン加工設計演算と同様の演算を行い、3次元ヤゲン先端形状を算出する。ただし、実際の加工では、計算上で把握したレンズの位置と実際のレンズの位置とに誤差が生じる場合があるので、加工座標への座標変換が終了した時点で、この誤差の補正を行う。
【0051】
そして、この算出された3次元ヤゲン先端形状を基に、所定の半径の砥石で研削加工する際の加工座標上の3次元加工軌跡データを算出する。この算出された加工軌跡データが端末コンピュータ240を介してNC制御のレンズ研削装置241に送られる。レンズ研削装置241は、送られたデータに従い、レンズの縁摺りおよびヤゲン加工を行う。
【0052】
最後に、端末コンピュータ250およびヤゲン頂点の形状測定器251により、ヤゲン加工完了レンズのヤゲン頂点の周長および形状を測定する。端末コンピュータ250は、ステップS12の演算で求められた設計ヤゲン頂点周長と、形状測定器251により測定された測定値とを比較し、それらの差が、例えば0.1mm以内ならば合格品と判断する。
【0053】
以上のようにして出来上がったヤゲン加工上がりレンズを眼鏡店100へ出荷する。図5は、図3のステップS6で行われる眼鏡フレームの形状測定に使用されるフレーム形状測定器102の構造の概略を示す斜視図である。なお、フレーム形状測定器については、本出願人の出願になる特開平1-305308号公報に詳細な開示があり、本実施例ではそのフレーム形状測定器を用いる。
【0054】
フレーム形状測定器は、図示しない眼鏡フレーム保持手段によって所定位置に動かないように保持された眼鏡フレームFの眼鏡枠Frの形状を測定する測定部1を備えている。この測定部1はU字状の回転台2を備え、この回転台2はその下端面に取り付けられたタイミングプーリ(図示せず)、タイミングベルト4およびタイミングプーリ5を介してモータ6によってΘ方向に回転駆動される。この回転の角度は、回転台2に取り付けられた上記図示のないタイミングプーリに、タイミングベルト7とタイミングプーリ8とを介して接続されたロータリエンコーダ9によって検出される。モータ6とロータリエンコーダ9とは、本フレーム形状測定器の基板10(図5では、測定器の他の部品を見易くするため、一部しか示していないが、実際には回転台2の下に一面に存在する)に固定され、そして上記図示のないタイミングプーリおよび回転台2は図示していない軸受によって基板10に対して回転可能に軸承されている。
【0055】
測定部1の回転台2は2枚の側板11,12と、これら両側板を連結する長方形の中央板13とからなっている。側板11と側板12との間には、2本のスライドガイドシャフト14,15が平行に固定されている。これらスライドガイドシャフト14,15に沿って水平なスライド板16がE方向に滑動可能に案内されている。この案内のために、スライド板16はその下面に、回転自在な3個のスライドガイドローラ17,18,19を備えている。この場合、一方のスライドガイドシャフト14に2個のスライドガイドローラ17,18が接触し、他方のスライドガイドシャフト15に1個のスライドガイドローラ19が接触し、これらのスライドガイドローラ17,18,19はスライドガイドシャフト14,15を両側から挟むようにしてそれぞれスライドガイドシャフト14,15に沿って転動する。
【0056】
スライド板16には、そのスライド方向Eに定荷重ばね20が作用し、スライド板16は一方の側板12の方へ引っ張られている。この定荷重ばね20はブッシング21に巻き取られ、軸22とブラケット23とを介して側板12に固定されている。定荷重ばね20の他端はスライド板16に取り付けられている。定荷重ばね20は、後述のスタイラス30を眼鏡枠Frの内周溝に押しつける作用がある。
【0057】
スライド板16のE方向の移動量Rは、変位計測スケールとしての反射型のリニアエンコーダ24で測定される。このリニアエンコーダ24は、回転台2の側板11と側板12との間に延設されたスケール25と、スライド板16に固定され、かつスケール25に沿って移動する検出器26と、アンプ27と、このアンプ27と検出器26とを接続するフレキシブルケーブル28とからなっている。アンプ27は側板12に固定されたブラケット29に取り付けられている。
【0058】
スライド板16の移動によって、検出器26はスケール25の面と一定の距離を保ちながら移動する。この移動に対応して、検出器26はパルス信号をフレキシブルケーブル28で接続されたアンプ27へ出力する。アンプ27ではこの信号を増幅して、カウンタ(図示せず)を経て移動量Rとして出力する。
【0059】
スライド板16には、測定子としてのスタイラス30が保持されている。このスタイラス30はスライド板16に固定されたスリーブ31の中ですべり軸受によって上下方向(Z軸方向)に移動自在に、かつ回転自在に軸承されている。スタイラス30は算盤玉状の頭部32を持ち、この頭部32が定荷重ばね20の作用により眼鏡枠Frの内周溝に接触し、回転台2の回転により眼鏡枠Frの内周溝に沿って転動する。
【0060】
その際、スタイラス30は眼鏡枠Frの形状に対応して半径方向に移動する。この半径方向の移動量Rは前述のようにスリーブ31とスライド板16とを介してリニアエンコーダ24で測定される。
【0061】
また、スタイラス30は眼鏡枠Frのカーブに対応してZ軸方向に移動する。このZ軸方向の移動量を検出するのが変位計測スケールとして形成されたZ軸測定器33である。このZ軸測定器33は、スライド板16に固定され、スタイラス30のZ軸方向への動きを、スタイラス30の両側に配置された内蔵の電荷結合素子(CCD)ラインイメージセンサと、光源である発光ダイオード(LED)とにより、変位量Zとして検出する。
【0062】
つぎに、以上のように構成されるフレーム形状測定器の作動を説明する。眼鏡フレームFを、図示しない眼鏡フレーム保持手段に固定保持し、スタイラス30の頭部32を眼鏡枠FrのV字形の内周溝に接触させ、図示していない制御装置によりモータ6を回転させる。それにより、タイミングベルト4で連結された回転台2が回転し、スタイラス30が眼鏡枠Frの内周溝に接触しながら転動する。測定部1の回転は、タイミングベルト7で連結されたロータリエンコーダ9を回転し、回転角(θ)として検出される。スタイラス30の半径方向の移動量は、リニアエンコーダ24によってスライド板16のE方向の移動量Rとして検出され、上下方向の移動量はZ軸測定器33によってスタイラス30のZ軸方向の移動量Zとして検出される。なお、これらの円筒座標をなす値θ,R,Zは、連続して測定されるものでなく、回転角(θ)の所定増加量毎に間欠的に測定されて、図2の端末コンピュータ101に入力されるものである。したがって、この入力座標値を以下、3次元測定形状データ(Rn,θn,Zn)(n=1,2,3,…,N)と表すことにする。Nが1回転での測定回数を表す。
【0063】
以下、本実施例において、添字nを用いて(n=1,2,3,…,N)等で表された点列およびベクトル等は、この添字nの数値の順に空間的に並んでおり、かつ、この添字nに対して周期がNである周期的なデータを意味する。
【0064】
回転台2が1回転すると、眼鏡フレーム保持手段が、眼鏡フレームFを保持したまま所定量スライド移動し、これによりスタイラス30が他方の眼鏡枠に設定され、他方の眼鏡枠の形状測定が行われる。眼鏡フレーム保持手段の所定のスライド量は予め一定値に設定されているので、この設定値と左右の眼鏡枠Frの測定データとから両眼鏡枠の相対的な位置関係を知ることができる。この設定値を3次元的に表現して、以下、相対的位置データ(δX,δY,δZ)とする。これらのデータも図2の端末コンピュータ101に入力される。なお、端末コンピュータ101には、各種定数、例えばスタイラス30の半径SR、内周溝角度BA、内周溝幅BW等が予め入力されている。
【0065】
図6は、これらのデータが送られた端末コンピュータ101における計算処理の手順を示すフローチャートであり、図3のステップS6内での処理内容に相当する。図中、Sに続く数字はステップ番号を表す。
【0066】
〔S601〕3次元測定形状データ(Rn,θn,Zn)は、厳密にはスタイラス30の頭部32の中心軸の軌跡を表すデータであり、眼鏡枠の内周溝形状を示していないので、正確な眼鏡枠形状(内周溝の形状)を得るためには、スタイラス30の先端部(内周溝の底に接触する部分)が描く包絡線を求めねばならない(本実施例ではこの包絡線を求める計算をオフセット計算と呼ぶ)。これを図7および図8を参照して説明する。
【0067】
図7は、片側の眼鏡枠の内周溝形状に沿ったスタイラス頭部の中心軸の軌跡41を3次元座標で表したものであり、図8は、XY平面上に射影したスタイラス頭部32の中心軸の軌跡41、および片側の眼鏡枠の内周溝形状43を示す図である。
【0068】
まず、図7に示すように、円筒座標値である測定形状データ(Rn,θn,Zn)(n=1,2,3,…,N)を、原点42を共有する直交座標値(Xsn,Ysn,Zn)(n=1,2,3,…,N)に変換する。
【0069】
つぎに、図8に示すように、内周溝形状43は、スタイラス頭部32の中心軸の軌跡41を法線方向にスタイラス30の半径SRだけ変形した形状である点に着目し、内周溝形状43を算出する。すなわち、スタイラス頭部32の中心軸の軌跡41のj番面の点(Xsj,Ysj)における法線ベクトルを(SVxj,SVyj)とすれば、対応する内周溝形状43の直交座標値(Xj,Yj)は、(Xsj,Ysj)に法線ベクトル(SVxj,SVyj)を加えることで得られる。これをj=1からj=Nまで計算することで、内周溝形状座標値(Xn,Yn)(n=1,2,3,…,N)を算出する。なお、この内周溝形状のZ軸座標値Znは、直交座標値(Xsn,Ysn,Zn)のZnと等しい。
【0070】
〔S602〕ところで、同一の眼鏡枠を測定したとしても、スタイラスの形状が異なれば、スタイラス頭部32の先端部の位置が変化して内周溝から離れてしまうことがあり得、その結果、ステップS601で求めた内周溝形状が変化してしまう。また、スタイラス頭部32の径方向は、機構上常に、フレーム形状測定器102のZ軸方向に垂直な平面上にあるのに対して、眼鏡枠はZ軸方向にも変化する形状を有しているため、内周溝が、フレーム形状測定器102のZ軸方向に垂直な平面に対して傾きを持つことがある。この場合にも、傾きに応じてスタイラス頭部32の先端部の位置が変化する。本ステップは、以上のようなスタイラスの位置の変化を考慮して、内周溝の底の周形状を求めるものである。以下、図9?図13を参照して説明する。
【0071】
図9および図10は内周溝44とスタイラス頭部32とを示す斜視図であり、図9は眼鏡枠形状がZ軸方向に変化しないが、スタイラス先端が内周溝の底に接触できない場合を示し、一方、図10は眼鏡枠形状がZ軸方向に変化しているために、スタイラス先端が内周溝の底に接触できない場合を示す。図11は図9に示される内周溝44およびスタイラス頭部32のZX平面図である。図12は図10に示される内周溝44およびスタイラス頭部32のXY平面図であり、図25は図10に示される円32dを通る平面図である。図1313は眼鏡枠とレンズヤゲンとのZX平面図である。
【0072】
図9に示すような、眼鏡枠の形状がZ軸方向に変化していない場合、スタイラス頭部32と内周溝44との接触状態は、図11(A)?(C)に示すように、同一の内周溝形状であっても、スタイラス頭部32の形状によって変化する。したがって、スタイラス頭部32の先端部32aと内周溝44の底44aとの距離Hnを、内周溝角度BA、溝幅BW、スタイラス頭部32の先端部の角度SA、スタイラス頭部32の幅SWから求める。すなわち、図11(A)に示すような、SA≦BAの場合、常にスタイラス頭部32の先端部32aが内周溝44の底44aに接触しているので、Hn=0となる。また、図11(B)に示すような、SA>BA、かつBW≧SWの場合、スタイラス頭部32の上端32bおよび下端32cが内周溝44の壁面に接触するので、SWおよびSAから高さVbを求め、また、SWおよびBAから高さTbを求め、下記式に基づき距離Hnを求める。Hn=Tb-Vbさらに、図11(C)に示すような、SA>BA、かつBW<SWの場合、スタイラス頭部32の側面が内周溝44の上縁44b,44cに接するので、BWおよびSAから高さVcを求め、また、BWおよびBAから高さTcを求め、下記式に基づき距離Hnを求める。Hn=Tc-Vc
【0073】
図10に示すように、眼鏡枠の形状がZ軸方向に変化している場合、スタイラス頭部32と内周溝44の接触状態は、内周溝44がZ軸方向に垂直な平面となす角度TAの変化によって変わる。この変化によりステップS601で算出された内周溝形状座標値(Xn,Yn)に誤差が生じてしまうため、この誤差の補正を行う必要がある。
【0074】
すなわち、スタイラス頭部32の先端部32aの角度SAが内周溝角度BA以下であるときは、内周溝44がZ軸方向に垂直な平面となす角TAの大きさに拘らず、スタイラス頭部32の先端部は必ず内周溝44の壁面に接触する。よって、スタイラス頭部32の先端部と内周溝44の壁面との接触状態における誤差補正のみを考えればよい。まず、内周溝角度BAと、角度TAとから、スタイラス頭部32の先端部32aを含む平面(図10においてX軸およびY軸を含む平面)が内周溝44に交差してできる2つの線分La,Lbがなす角度βを求める。そして、スタイラス頭部32の先端部32aと内周溝44の底44aとの距離Hnを、角度βとスタイラス頭部32の先端部32aの半径SRとから求める。すなわち、まず図12(A),(B)に示すように、スタイラス頭部32の先端部32aの半径SRの円が、角度βで交差する2つの線分La,Lbに同時に接するときの接点44dと接点44eとの間の距離SDWを求める。また、内周溝44の上縁44b,44c間の距離BDWを求める。なお、2つの線分La,Lbがスタイラス頭部32の先端部32aの円に接しないときには、この円に接するようにこれらの線分を平行移動してから距離SDWを求める。そして、図12(A)に示すようなBDW≧SDWの場合、スタイラス頭部32の先端部32aが、接点44dと接点44eとにおいて内周溝44の壁面に接しているので、SDWおよびSRから高さVSaを求め、また、SDWおよびβから高さTSaを求め、下記式に基づき距離Hnを求める。Hn=TSa-VSa
【0075】
また、図12(B)に示すようなBDW<SDWの場合、スタイラス頭部32の先端部32aが、内周溝44の上縁44b,44cに接するので、BDWおよびSRから高さVSbを求め、また、BDWおよびβから高さTSbを求め、下記式に基づき距離Hnを求める。Hn=TSb-VSbこうして求められた距離Hnを、眼鏡枠1周に亘って算出し、それを補正量Hn(n=1,2,3,…,N)とする。
【0076】
つぎに、スタイラス頭部32の先端部32aの角度SAが内周溝角度BAより大きいときには、内周溝44がZ軸方向に垂直な平面となす角TAの大きさによっては、スタイラス頭部32の上端32bおよび下端32cが内周溝44の壁面に接触してしまい、スタイラス頭部32の先端部32aが必ずしも内周溝44の壁面に接触しない。よって、スタイラス頭部32の上端32bおよび下端32cが内周溝44の壁面に接触する状態も考慮して補正量Hn(n=1,2,3,…,N)を求める。すなわち、まず、スタイラス頭部32の先端部32aから上端32bおよび下端32cに至る間のどの位置で内周溝44の壁面に接するのかを考える。ここで、スタイラス頭部32の形状は上端方向と下端方向とが対称であるので、以下ではスタイラス頭部32の先端部32aから上端32bに至る間のみを考える。図10に示すように、スタイラス頭部32の先端部32aの円の中心をO1とし、この中心O1からZ軸方向へ距離dだけ離れた点O2を中心とするスタイラス頭部32の側面上の円32dが、内周溝44の壁面に接しているとする。この円32dを通る平面(図10でXY平面に平行な面)を図25(A)に示す。図25(B)は図25(A)の一部拡大図である。図25において、まず、内周溝44の底44aから円32dの中心O2までの水平方向距離dsを求める。ここでは、内周溝44の壁面線44a-44b,44a-44cがなす角β*の2等分線の方向を垂直方向とし、この2等分線に直角な方向を水平方向とする。dsは角度TAと距離dとから下記式に基づき与えられる。ds=d/tanTAつぎに、内周溝44の壁面線44a-44bと円32dの中心O2を通る垂直線との交点を44a*とするとき、内周溝44の底44aから点44a*までの垂直方向距離ts(d)は、距離dsと角β*とから求まり、この距離ts(d)はdをパラメータとする関数となっている。ところで、点44a*を、図11,12における内周溝44の底44aと仮定すれば、図11,12を参照して説明した距離Hnの算出と同様な方法により、円32dの下端と点44a*との距離hn(d)を算出することができる。ここで算出される距離hn(d)はdをパラメータとする関数となっている。なお、図25に記号(*)を添えて示される部分は、こうした仮定における図11,12の対応部分を示している。さらにここで、円32dの中心O2から内周溝44の底44aまでの垂直方向の距離TO(d)を下記式に基づき算出する。TO(d)=sr(d)+hn(d)+ts(d)sr(d)は、dをパラメータとして表した円32dの半径である。TO(d)はdをパラメータとする関数となっている。そして、円32dが、スタイラス頭部32の先端部32a(d=0)からスタイラス頭部32の上端32b(d=SW/2)まで変化するとしたときに、距離TO(d)が最大となる距離dの値d0を求める。この値d0の距離にある位置を中心とするスタイラス頭部32の側面の円が、内周溝44の壁面に実際に接する円である。このときの距離Hnは、下記式に基づき算出される。Hn=TO(d0)-SRなお、以上の図25を参照して説明したケースは、発生が稀なケースであるので、計算処理速度を高めるために省略するようにしてもよい。
【0077】
ところで、ヤゲン加工の際に必要な形状は、測定した眼鏡枠にヤゲン加工後のレンズが嵌合したと仮定した状態におけるヤゲンの先端軌跡の形状である。ここでは、これをヤゲン先端軌跡形状と呼ぶことにする。ヤゲン先端軌跡形状の位置55は、図13に示すように、内周溝角度BA、内周溝幅BW、およびヤゲン頂角YAが決まれば、内周溝の底から一定の距離の位置にある。この距離をヤゲン溝間距離BYと呼ぶことにする。ヤゲン先端軌跡形状を最終的な眼鏡枠形状として求めるために、求めた補正量Hn(n=1,2,3,…,N)からヤゲン溝間距離BYを引いたものを、新たな補正Hn(n=1,2,3,…,N)とする。
【0078】
補正量Hnの補正方向は、図12(C)に示すように、内周溝形状座標値(Xn,Yn,Zn)をXY平面に射影した形状の法線方向と等しいから、この法線方向へ補正量Hnだけ変形した補正形状45を改めて眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)とおく。
【0079】
なお、この実施例では、スタイラス頭部32は算盤玉状をなしているが、スタイラス頭部の形状がZ軸方向に対して回転対称であり、回転対称軸を含む断面形状が予め分かっていれば、スタイラス頭部と傾いた内周溝44との接触状態を計算によって把握することができ、したがって、上記と同様に補正を行うことが可能である。
【0080】
〔S603〕ステップS602で補正された眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)から眼鏡枠形状(内周溝の底の周形状)の周長FLNを算出する。眼鏡枠形状の周長FLNは、眼鏡枠形状の各点間の距離の総和として次式(1)により算出される。
【0081】
FLN=Σ〔((Xi-Xi+1)2+(Yi-Yi+1)2+(Zi-Zi+1)2)1/2〕(i=1?N)…(1)ただし、上記式(1)において、i=Nのときはi+1を1とする。
【0082】
〔S604〕一般に、眼鏡フレームがフレーム形状測定器102に保持されて眼鏡枠の形状が測定される際には、左右の眼鏡枠の正面方向はフレーム形状測定器102のZ軸方向に対してそれぞれ傾いている。この各傾きを把握するために、左右の眼鏡枠の正面方向のベクトルを決定する。
【0083】
本発明において、眼鏡枠の正面方向は、眼鏡枠を正面方向に垂直な平面に射影した2次元形状が囲む面積が最大となる方向であると定義することによって、眼鏡枠の正面方向を把握する。この眼鏡枠の正面方向の定義方法に関しては、具体的には種々の方法がある。
【0084】
図14はそれらのうちの厳密な定義方法の一例を示すもので、眼鏡枠形状座標値のほぼ中央に位置する点G(例えば、眼鏡枠形状座標値のX,Y,Z各成分の加重平均値として与えられる重心位置)を起点とし、眼鏡枠形状の各座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)を終点とするベクトルVn(n=1,2,3,…,N)を示す斜視図である。眼鏡枠の正面方向の単位ベクトルFVは、ベクトルVn(n=1,2,3,…,N)を用いて、次式(2)により求めることができる。
【0085】
FV=Σ(Vi×Vi+1)/||Σ(Vi×Vi+1)||(i=1?N)…(2)ただし、「×」はベクトルの外積を表し、またi=Nのときi+1を1とする。
【0086】
また、眼鏡枠の正面方向を近似的に求めることもできる。本実施例では、この近似的方法を用いており、この方法を図15を参照して説明する。図15は一方の眼鏡枠の正面方向を示す斜視図である。まず、ステップS602で補正された眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)の中で、Xnが最大値になる眼鏡枠形状上の点をA、Xnが最小値になる眼鏡枠形状上の点をB、Ynが最大値になる眼鏡枠形状上の点をC、Ynが最小値になる眼鏡枠形状上の点をDとする。つぎに、点Aから点Bに至るベクトルをH、点Cから点Dに至るベクトルをVとする。そのとき、眼鏡枠の正面方向の単位ベクトルFVは、2つのベクトルH,Vに垂直なベクトルであると定義し、そのベクトルFVを算出する。
【0087】
〔S605〕ステップS601?S604の処理が、左右の眼鏡枠形状測定データに対して施されたか否かを判別し、この答えが肯定(YES)ならばステップS606へ進み、否定(NO)ならばステップS601へ戻る。
【0088】
〔S606〕これまでに得られた左右の眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)はそれぞれ座標原点が異なるので、前述の相対的位置データ(δX,δY,δZ)を用いて同一の点を原点とする同一の座標の座標値にそれぞれ変換する。これを、図16を参照して説明する。
【0089】
図16は、3次元の同一の直交座標上に配置された左右の眼鏡枠の斜視図である。まず、右の眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)をX軸、Y軸、Z軸方向にそれぞれ、-δX/2,-δY/2,-δZ/2だけ平行移動した座標値を算出して改めて右眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn)(n=1,2,3,…,N)とするとともに、このときの正面方向単位ベクトルを改めてFVrとする。
【0090】
つぎに、左の眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)をX軸、Y軸、Z軸方向にそれぞれ、δX/2,δY/2,δZ/2だけ平行移動した座標値を算出して改めて左眼鏡枠形状座標値(Xln,Yln,Zln)(n=1,2,3,…,N)とするとともに、このときの正面方向単位ベクトルを改めてFVlとする。
【0091】
〔S607〕ステップS606で求めた左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlから眼鏡の正面方向を算出し、その正面方向がZ軸方向に一致するように左右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn),(Xln,Yln,Zln)および左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlを回転移動する。これを、図17を参照して説明する。
【0092】
図17は、左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlおよび眼鏡の正面方向単位ベクトルFVMを示す斜視図である。本実施例では眼鏡装用時、左右の眼鏡枠は眼鏡の平面(眼鏡の正面方向に垂直な平面)に対して同一の傾きをなすものとして、眼鏡の正面方向を、左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlの和のベクトルの方向に定義する。すなわち、この和のベクトルの単位ベクトルを、眼鏡の正面方向単位ベクトルFVMとする。
【0093】
つぎに、眼鏡の正面方向がZ軸方向に一致するように、右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn)(n=1,2,3,…,N)および左の眼鏡枠形状座標値(Xln,Yln,Zln)(n=1,2,3,…,N)ならびに左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlを、原点を中心に回転移動した新たな変換値を算出する。〔S608〕ステップS607で変換された左右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn),(Xln,Yln,Zln)から、XY平面内における眼鏡のデータムラインとX軸方向とのなす角θdを求め、データムラインがX軸方向に一致するように、左右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn),(Xln,Yln,Zln)および左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlを変換する。すなわち、まず、算出された眼鏡の正面方向に垂直な平面に左右の眼鏡枠を射影した2次元形状を用い、左右の眼鏡枠の上方に接する接線と同一方向の単位ベクトルと、左右の眼鏡枠の下方に接する接線と同一方向の単位ベクトルとの和の方向を眼鏡のデータムライン方向として算出する。これを、図18を参照して説明する。
【0094】
図18は、XY平面上(眼鏡の正面方向に垂直な平面)に射影された左右の眼鏡枠を示す平面図である。まず、眼鏡の上方で左右の眼鏡枠形状に同時に接する眼鏡上方接線L1がX軸方向となす角θaと、眼鏡の下方で左右の眼鏡枠形状に同時に接する眼鏡下方接線L2がX軸方向となす角θbとを求める。つぎに、眼鏡のデータムライン46がX軸方向となす角θdは、これら角θaと角θbとの中間の角度であるから、これらの平均値を求め、この平均値を角θdとする。
【0095】
つぎに、眼鏡のデータムラインがX軸方向に一致するように、ステップS607で変換された右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn)(n=1,2,3,…,N)および左の眼鏡枠形状座標値(Xln,Yln,Zln)(n=1,2,3,…,N)ならびに左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlを、Z軸を回転軸として角θdだけ回転移動した新たな変換値を再度算出する。
【0096】
〔S609〕ステップS608で再度変換された左右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn),(Xln,Yln,Zln)を基に、眼鏡枠間距離を算出する。これを、図19を参照して説明する。
【0097】
図19は、眼鏡枠間距離を示す左右の眼鏡枠の斜視図である。すなわち、右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn)の中で、Xrnが最大値となる点Sと、左の眼鏡枠形状座標値(Xln,Yln,Zln)の中で、Xlnが最小値となる点Tとを求め、点Sから点Tに至るベクトルをZX平面に射影したベクトルの長さDBLを求める。この長さDBLは鼻幅であり、この実施例では、眼鏡枠間距離を、鼻幅DBLを用いて表す。
【0098】
〔S610〕ステップS608で再度変換された左右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn),(Xln,Yln,Zln)および左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlを基に、左右の眼鏡枠形状のAサイズ、Bサイズ、および幾何学中心(フレームセンタ)座標を算出するとともに、これら左右の眼鏡枠形状座標値(Xrn,Yrn,Zrn),(Xln,Yln,Zln)を、算出された各幾何学中心を原点とし、左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVr,FVlをZ軸方向に一致させた座標値にそれぞれ変換する。これを図20を参照して説明する。なお、以降のステップS610?S612では、特に左右を区別する必要がないので、眼鏡枠形状座標値を(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)と、また眼鏡枠の正面方向単位ベクトルをFVと表記して説明するが、これらは左右のいずれをも表しているものである。
【0099】
図20は、眼鏡枠の正面方向がZ軸方向に一致するように変換された後の眼鏡枠形状のXY平面図である。すなわち、まず、眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVがZ軸方向に一致するように、眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)を、原点を中心に回転移動する。この移動による変換後の座標値(Xn,Yn,Zn)において、Xnの最大値および最小値をXmax,Xminとし、Ynの最大値および最小値をYmax,Yminとすれば、眼鏡枠形状のAサイズ47は、XmaxとXminとの差の絶対値として求められ、Bサイズ48は、YmaxとYminとの差の絶対値として求められる。
【0100】
また、幾何学中心(フレームセンタ)座標(FCx,FCy)は下記式(3),(4)により求められる。FCx=(Xmax+Xmin)/2…(3)FCy=(Ymax+Ymin)/2…(4)つぎに、眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVがZ軸方向に一致するように、先に変換された眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)を、幾何学中心(FCx,FCy)を原点とする座標値に変換する。
【0101】
また、この眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)の2次元データ(Xn,Yn)(n=1,2,3,…,N)を、幾何学中心(FCx,FCy)を原点とする極座標値(Rn,θn)(n=1,2,3,…,N)に変換する。
【0102】
さらに、極座標値(Rn,θn)の中で、Rnの最大値を求め、それを2倍して有効径EDを算出する。〔S611〕ステップS610で求められた幾何学中心を原点とする眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)は、近似的にトーリック面上の閉曲線にのっていると見做し、そのトーリック面の方程式を求める。これを図2121を参照して説明する。
【0103】
図21は、トーリック面の方程式を求めるための眼鏡枠49の斜視図である。図中、トーリック面の中心座標を(a,b,c)とし、またトーリック面の回転対称軸方向単位ベクトルを(p,q,r)とし、このトーリック面の中心座標(a,b,c)を含み回転対称軸方向単位ベクトル(p,q,r)に垂直な平面で前記トーリック面を切ったときにできる最大の円の半径をベース半径RBとし、また、トーリック面の中心座標(a,b,c)を含み回転対称軸方向単位ベクトル(p,q,r)に平行な平面で前記トーリック面を切ったときにできる円の半径をクロス半径RCとする。
【0104】
トーリック面を3次元座標上に定義するためには、中心座標(a,b,c)、ベース半径RB、クロス半径RC、回転対称軸方向単位ベクトル(p,q,r)を変数とするトーリック面の方程式を、眼鏡枠形状座標値(Xn,Yn,Zn)(n=1,2,3,…,N)のデータを用いて最小2乗近似法によって解き、これによって、中心座標(a,b,c)、ベース半径RB、クロス半径RC、回転対称軸方向単位ベクトル(p,q,r)を得るようにする。
【0105】
〔S612〕まず、ステップS608で再度変換された眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVを用いて、眼鏡枠の傾きTILTを算出する。これを図22を参照して説明する。
【0106】
図22は、眼鏡枠の傾きTILTおよびフレームPDの算出を説明する説明図であり、図22(A)は眼鏡枠の傾きTILTの斜視図、図22(B)は眼鏡フレームの平面図である。すなわち、図22(A)に示すように、眼鏡枠の傾きTILTは、眼鏡枠の正面方向単位ベクトルFVとYZ平面とのなす角として算出する。
【0107】
つぎに、この傾きTILTと、ステップS609で求めた鼻幅DBLと、ステップS610で求めたAサイズとを基に、幾何学中心間の距離であるフレームPDを算出する。すなわち、図22(B)に示すように、Aサイズは左右の眼鏡枠で異なるので、右の眼鏡枠のAサイズをAr、左の眼鏡枠のAサイズをAlとすると、フレームPD(FPD)は次式(5)で算出される。
【0108】
FPD=(Ar+Al)/2・cos(TILT)+DBL…(5)(S613〕左右の眼鏡枠形状は同一であることが望ましいが、一般に若干の差異がある。そこで、左右の眼鏡枠のバランスをとるために、左右の眼鏡枠形状を合わせるためのマージ処理を行う。このマージ処理の詳細を、図1を参照して説明する。
【0109】
図1は左右眼鏡枠形状のマージ処理の手順を示すフローチャートであり、図6のステップS613内での処理内容に相当する。図中、Tに続く数字はステップ番号を表す。
【0110】
なお、このフローチャートの説明に際し、適宜、図23および図24を参照する。図23は左右の眼鏡枠形状の差異量の検出を説明する斜視図であり、図24は新たな眼鏡枠形状を示す斜視図である。図24(B)は、図24(A)の部分52の拡大図である。
【0111】
〔T1〕まず、ステップS610で求めた各幾何学中心を原点とする左右の眼鏡枠形状の直交座標値(Xn,Yn,Zn)に基づき、左右の眼鏡枠形状の各周長を算出する。
【0112】
〔T2〕つぎに、一方においてステップS610で求めた各幾何学中心を原点とする左右の眼鏡枠形状の直交座標値(Xn,Yn,Zn)に基づき、加重平均値を算出し、左右それぞれの眼鏡枠形状の重心位置を算出する。
【0113】
〔T3〕そして、左の眼鏡枠形状のX座標値の符号を反転させた上で、図23に示すように、左右の眼鏡枠形状の各重心位置が同一の点Gに位置するようにして、左の眼鏡枠形状51を右の眼鏡枠形状50に重ね合わせる。ここで、点Gを中心とした各動径方向θiにおける左右の眼鏡枠間距離Lθiの総和を算出し、これを左右の眼鏡枠形状の差異量DEとする。
【0114】
ここで予め、その差異量DEに対して、所定の限界変形量を決めておく。
〔T4〕つぎに、図24(A)に示すように、右の眼鏡枠形状50を固定し、左の眼鏡枠形状51を点Gを中心に回転させ、差異量DEが最小となるようにする。そして、差異量DEが最小となったときの左の眼鏡枠形状(以下、これを第2の左の眼鏡枠形状とする)53が、先の眼鏡枠形状51から回転した回転角θsおよび回転軸ベクトルAVを求める。
【0115】
〔T5〕そして、この回転角θsおよび最小の差異量を、所定の回転角および差異量と比較し、前者が後者よりも大きく(所定の基準値を越えている)、左右眼鏡枠形状の差異が大きいならば、ステップT9へ進み、一方、前者が後者よりも小さく差異が小さいならば、ステップT6へ進む。
【0116】
〔T6〕つぎに、図24(B)に示すように、この第2の左の眼鏡枠形状53と右の眼鏡枠形状50との中間となる混合眼鏡枠形状54を算出する。すなわち、各動径方向θiにおける左右の眼鏡枠位置の中点Mを求める。また、混合眼鏡枠形状54の決定は、中点を採用する以外にも、第2の左の眼鏡枠形状53、および右の眼鏡枠形状50のうちの対応する各部分の間の距離を、所定の比率で分割された点の集合形状として算出してもよい。
【0117】
〔T7〕そして、この混合眼鏡枠形状54に基づき、新たな左右の眼鏡枠形状を決定する。すなわち、混合眼鏡枠形状54の座標値を求め、それを新たな右の眼鏡枠形状座標値とし、かつ、混合眼鏡枠形状54の座標値を、点Gを通る回転軸ベクトルAVを中心に回転角θsだけ、先程とは逆方向へ回転させ、新たな左の眼鏡枠形状座標値とする。
【0118】
〔T8〕ステップT7で決定された新たな左右の眼鏡枠形状の各周長がステップT1で算出された左右の眼鏡枠形状の周長に一致するように、ステップT7で決定された新たな左右の眼鏡枠形状を相似形状にそれぞれ変形する。
【0119】
〔T9〕ここで求めた差異量DEおよび回転角θsは、左右の眼鏡枠形状のバランスの悪さを表す値であるから、これらの値が所定の限界値を越えているときには、マージ処理を行わず、左右の眼鏡枠形状のバランスが異常であることを示すエラーコードを出力するようにする。このエラーコードが出力されたときには、目視により左右の眼鏡枠形状のうちの好ましい方を選び、その選ばれた方の形状に他方の形状を合わせるようにする。
【0120】
なお、以上のマージ処理により、左右の眼鏡枠形状が変化してしまっているので、ステップS610?S612を再度実行する。以上の実施例では、3次元形状におけるマージ処理を示したが、同様の方法でXY成分だけを使って2次元のマージ処理を行うようにしてもよい。ただし、その場合には、眼鏡枠形状は、ステップS611で求めたトーリック面上の形状であるとする。
【0121】
尚、上記の発明は、従来の方法において、一方の眼鏡枠を固定化して、それを基準とするので、例えば、左右の実際の眼鏡枠形状の間に大きな差異が存在する場合に、他方の眼鏡枠形状を大幅に変形させねばならなくなる。しかし、その変形量にも限度がある。しかるに、従来は、必要な変形量をあらかじめ把握して変形可能なものであるか否か等を客観的に確認するための適当な方法がなかったという課題も解決するものである。
【0122】
即ち、本発明は、左右の眼鏡枠形状の相違をできるだけ客観的に把握できるように処理して左右の眼鏡枠形状を重ね合わせる左右眼鏡枠形状重ね合わせ方法を提供することで、上述の課題を解決した。
【0123】
具体的には、第1の手段は、眼鏡枠形状測定装置によって測定された左右の眼鏡枠形状データに座標変換処理を含む処理を加えて左右の眼鏡枠形状を重ね合わせる左右眼鏡枠形状重ね合わせ方法であって、前記眼鏡枠形状データから左右眼鏡枠形状の各重心位置を算出する処理をし、次に、前記左右眼鏡枠形状の重心を一致させて重ね合わせる処理をして左右眼鏡枠形状を重ね合わせることを特徴とする左右眼鏡枠形状重ね合わせ方法である。第2の手段は、眼鏡枠形状測定装置によって測定された左右の眼鏡枠形状データに座標変換処理を含む処理を加えて左右の眼鏡枠形状を重ね合わせる左右眼鏡枠形状重ね合わせ方法であって、前記眼鏡枠形状データから左右眼鏡枠形状の各重心位置を算出する処理をし、次に、前記左右眼鏡枠形状の重心を一致させて重ね合わせる処理をし、次に、前記重心位置を中心とした各動径方向における左右の眼鏡枠間距離の総和を算出してこれを左右の眼鏡枠形状の差異量とし、この差異量が最小になるように前記左右の眼鏡枠形状の一方を回転させる処理をして左右眼鏡枠形状を重ね合わせることを特徴とする左右眼鏡枠形状重ね合わせ方法である。
【0124】
上記第1の手段によれば、前記眼鏡枠形状データから左右眼鏡枠形状の各重心位置を算出する処理をし、次に、前記左右眼鏡枠形状の重心を一致させて重ね合わせる処理をして左右眼鏡枠形状を重ね合わせるようにしており、また、第2の手段によれば、重心位置を中心とした各動径方向における左右の眼鏡枠間距離の総和を算出してこれを左右の眼鏡枠形状の差異量とし、この差異量が最小になるように前記左右の眼鏡枠形状の一方を回転させる処理をして左右眼鏡枠形状を重ね合わせるようにしているので、左右の眼鏡枠形状の相違を客観的に把握することができる。
【0125】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと、この発注側コンピュータへ情報交換可能に接続された製造側コンピュータとにより、発注側より製造側へ、眼鏡枠の3次元の枠データ、及びこの3次元の枠データに基づいて求めた前記眼鏡枠のレンズ枠の周長を与えることで、加工者は前記眼鏡枠の正確な形状データを把握することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】左右眼鏡枠形状のマージ計算の手順を示すフローチャートであり、図6のステップS613内での処理内容に相当する。
【図2】本発明の眼鏡枠形状同形化方法が実施される眼鏡レンズの供給システムの全体構成図である。
【図3】眼鏡店での最初の入力処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】工場での処理の流れ、ならびに工場からの転送により眼鏡店で行われる確認およびエラー表示のステップを示すフローチャートである。
【図5】フレーム形状測定器の構造の概略を示す斜視図である。
【図6】眼鏡店の端末コンピュータにおける計算処理の手順を示すフローチャートであり、図3のステップS6内での処理内容に相当する。
【図7】片側の眼鏡枠の内周溝形状に沿ったスタイラス頭部の中心軸の軌跡の斜視図である。
【図8】XY平面上に射影したスタイラス頭部の中心軸の軌跡および片側の眼鏡枠の内周溝形状を示す平面図である。
【図9】内周溝とスタイラス頭部とを示す斜視図である。
【図10】内周溝とスタイラス頭部とを示す斜視図である。
【図11】図9に示される内周溝およびスタイラス頭部のZX平面図である。
【図12】図10に示される内周溝とスタイラス頭部のXY平面図である。
【図13】眼鏡枠とレンズヤゲンとのZX平面図である。
【図14】眼鏡枠形状座標値のほぼ中央に位置する点を起点とし、眼鏡枠形状の各座標値を終点とするベクトルを示す斜視図である。
【図15】眼鏡枠の正面方向を示す斜視図である。
【図16】3次元の同一の直交座標上に配置された左右の眼鏡枠の斜視図である。
【図17】左右の眼鏡枠の正面方向単位ベクトルおよび眼鏡の正面方向単位ベクトルを示す斜視図である。
【図18】XY平面上に射影された左右の眼鏡枠を示す平面図である。
【図19】眼鏡枠間距離を示す左右の眼鏡枠の斜視図である。
【図20】眼鏡枠の正面方向がZ軸方向に一致するように変換された後の眼鏡枠形状のXY平面図である。
【図21】トーリック面の方程式を求めるための眼鏡枠の斜視図である。
【図22】眼鏡枠の傾きおよびフレームPDの算出を説明する説明図である。
【図23】左右の眼鏡枠形状の差異量の検出を説明する斜視図である。
【図24】新たな眼鏡枠形状を示す斜視図である。
【図25】図10に示す円32dを通る平面を示す図である。
【符号の説明】
100…眼鏡店、101…端末コンピュータ、102…フレーム形状測定器、200…工場、201…メインフレーム、202…LAN、210…端末コンピュータ、211…荒擦り機(カーブジェネレータ)、212…砂掛け研磨機、220…端末コンピュータ、221…レンズメータ、222…肉厚計、230…端末コンピュータ、231…マーカ、232…画像処理機、240…端末コンピュータ、241…レンズ研削装置、242…チャックインタロック、250…端末コンピュータ、251…形状測定器、300…公衆通信回線
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-03-30 
結審通知日 2006-01-30 
審決日 2006-02-10 
出願番号 特願2003-128894(P2003-128894)
審決分類 P 1 113・ 16- YA (G02C)
P 1 113・ 121- YA (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 峰 祐治  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 濱田 聖司
末政 清滋
青木 和夫
佐藤 昭喜
登録日 2004-04-23 
登録番号 特許第3548569号(P3548569)
発明の名称 眼鏡レンズの供給システム  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 牧野 知彦  
代理人 園田 清隆  
代理人 新井 全  
代理人 岩田 弘  
代理人 牧野 知彦  
代理人 石田 喜樹  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 岡▲崎▼ 信太郎  
代理人 新井 全  
代理人 岡▲崎▼ 信太郎  
代理人 岩田 弘  

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