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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23Q |
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管理番号 | 1174759 |
審判番号 | 不服2006-20870 |
総通号数 | 101 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-09-20 |
確定日 | 2008-03-10 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第356664号「高速摺動に適したテレスコピックカバー」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月 7日出願公開、特開平10-180587〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年12月27日の出願であって、平成18年3月27日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年5月19日に意見書の提出とともに明細書について補正されたが、同年8月14日付けで拒絶の査定がなされ、これに対して同年9月20日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 2.本願発明 本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、平成18年5月19日付け手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「薄板状の部分カバーの複数枚を摺動可能に積層して形成したテレスコピックカバーを産業機器の摺動機構等に取り付けるについて、テレスコピックカバーに一個または複数個のパンタグラフを取り付けるとともに、テレスコピックカバーの薄板状の部分カバーとパンタグラフの一方または双方を、17%Cr-2%Niを主成分として軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相との微細混合組織を有する高強度複層組織ステンレス鋼製の極薄、極軽量であって、弾力性、物理的強度等の強い金属薄板で形成し、各部分カバーの摺動個所に板厚0.01?0.3mmのバネ用ステンレス、焼き入れリボン鋼等の弾力性、物理的強度等の強い金属薄板で形成した金属薄板製のブレード材を固定した高速摺動に適したテレスコピックカバー。」 3.刊行物記載の発明(事項) これに対して、原査定の拒絶の理由として引用された本願出願前に日本国内で頒布された特開平8-155780号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開平8-132330号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (1)刊行物1 (1-a)請求項1 「【請求項1】 幅が同じで長さの異なる薄板状の部分カバーの複数枚を、長さの順に、摺動可能に積層して形成した入り子式の伸縮カバーを枠体内に装填するについて、伸縮カバーまたは伸縮カバーの補強材に2列以上のパンタグラフを間隔を置いて平行に取り付け、また伸縮カバーの長さの一番長い部分カバーまたは長さの一番短い部分カバーの一方に産業機器の摺動機構を取り付けるとともに他方に固定機構を取り付けるか、あるいは双方に産業機器の摺動機構を取り付けて、伸縮カバーの摺動に応じてパンタグラフを摺動するようにしたパンタグラフを多列に設けた伸縮カバー。」 (1-b)段落0001 「【産業上の利用分野】本発明は、産業機器の主軸頭、ピストン、シリンダー等の摺動機構に取り付けた入り子式(テレスコピック式)の伸縮カバーに関するものであり、この伸縮カバーに二列以上のパンタグラフを間隔を置いて平行に取り付けたことに特徴がある。」 (1-c)段落0008?0009 「また、入り子式の伸縮カバーに一列のパンタグラフを取り付け、各部分カバーの摺動を均等にする試みもなされているが、一列のパンタグラフを取り付けるだけでは、伸縮カバーに直進性を与えることができず、傾いて摺動する欠点があり、伸縮カバーの両端部が枠体の内面に衝突して金属的な異音を発し、均一に摺動しないという難点があった。 【発明が解決しようとする課題】本発明は、前述した複数枚の部分カバーよりなる入り子式の伸縮カバーの欠点を解決するものであり、入り子式の伸縮カバーに二列以上のパンタグラフを間隔を置いて平行に取り付けることによって、伸縮カバーを全体的に連動して均等に、スムースに摺動させ、かつ伸縮カバーの摺動に直進性を与え、伸縮カバーを摩擦抵抗と金属騒音を小さくし、安定して往復摺動させることを目的とし、特に最近の産業機器の高速で複雑な動きに適切に対応する入り子式の伸縮カバーを提供することに目的がある。」 (1-d)段落0016?0017 「【作用】複数枚の部分カバーよりなる入り子式の伸縮カバーに二列以上のパンタグラフを間隔を置いて平行に取り付けて、産業機器の摺動機構で入り子式の伸縮カバーを摺動させると、複数枚の部分カバーはパンタグラフによって相互に関連して連動し、均等に、スムースに摺動し、かつ、一方のパンタグラフが他方のパンタグラフによる入り子式の伸縮カバーの傾斜して摺動することを抑制し、また他方のパンタグラフが一方のパンタグラフによる入り子式の伸縮カバーの傾斜して摺動することを抑制するために、入り子式の伸縮カバーは直進して摺動することになり、入り子式の伸縮カバーの両側部は、枠体の内面に衝突することなく、摩擦抵抗や金属音も少なく、より均等に、よりスムースに摺動する。 【実施例】図1に示すように、本発明の伸縮カバー1は、幅が同じで、長さの異なる長方形の複数枚の薄板状の部分カバー2a、2b、2c、2d、2e、2f、2gを、長さの順に、摺動可能に積層して入り子式の伸縮カバー1を形成する。また、薄板状の部分カバー2の材質としては、ステンレス等の金属製、プラスチック製、セラミックス製等の薄板状であって、物理的強度のあるものを使用する。」 (1-e)段落0022 「以上のように、パンタグラフ3aと3bを取り付けた入り子式の伸縮カバー1の全体を枠体8内に装填し、この伸縮カバー1のうち、長さの一番長い部分カバー2aに産業機器の摺動機構9を取り付け、長さの一番短い部分カバー2aに固定機構10を取り付ける。なお、反対に、伸縮カバー1のうち、長さの一番長い部分カバー2aに固定機構10を取り付け、長さの一番短い部分カバー2aに産業機器の摺動機構9を取り付けてもかまわないし、場合によっては、長さの一番長い部分カバー2aと長さの一番短い部分カバー2aに、産業機器の摺動機構9を取り付けてもかまわない。」 これらの記載事項を、図面を参照しつつ、技術常識を考慮しながら、本願発明に照らして整理すると、刊行物1記載の発明には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「薄板状の部分カバーの複数枚を摺動可能に積層して形成した伸縮カバーを産業機器の摺動機構の枠体内に装填するについて、伸縮カバーに2列以上のパンタグラフを取り付け、伸縮カバーの薄板状の部分カバーを、ステンレス等の金属製の薄板であって、物理的強度のある金属薄板で形成した高速な動きに適した伸縮カバー。」 (2)刊行物2 (2-a)請求項1?2 「【請求項1】 取付部2と、該取付部2に対して傾斜して設けられたリップ部3とからなる断面略くの字状の弾性部材4と、前記リップ部3の傾斜した側に張りつけられた金属薄板5とを有してなり、 前記金属薄板5の先端5aが前記リップ部3の先端3aより突出しており、前記金属薄板5の前記先端5aが所定の摺動面Sに接するように前記取付部2によって取り付けられる工業用スクレーパ。 【請求項2】 前記金属薄板5は、厚みが0.07?0.25mmの板バネ材である請求項1記載の工業用スクレーパ。」 (2-b)段落0001?0002 「【産業上の利用分野】本発明は、工作機械及び産業機械における摺動面に用いられ、摺動面の上に落ちた屑や油などを掻き取り、摺動面にこれらの屑や油が入り込むのを防ぐための工業用スクレーパに関し、特に摺動面に多少の曲面があっても確実に屑などを掻き取れるものに関する。 例えば、図3の如きNC旋盤には種々の摺動面があり、摺動面の精度等に対応可能な特性を有するシールが用いられている。このNC旋盤は、θ方向に回転自在な主軸台21と、X,Y方向に摺動自在な刃物台22とを有しており、主軸台21に保持された被工作物を刃物台22の刃物で加工するようになっている。この刃物台22は摺動ベッド23に取り付けられ、摺動ヘッド23に沿って刃物台22がY方向に摺動する。また摺動ベッド23は板金製の摺動カバー24で覆われ、摺動カバー24内のスライド機構によって摺動ヘッド23及び摺動カバー24の全体がX方向に摺動する。この摺動カバー24と固定の側壁25との間で摺動面が形成される。この摺動面から切り屑やクーラントが入り込むと、内部のスライド機構等の駆動部や電装部が破損する恐れがある。そこで、摺動カバー24と側壁25との間に上述した工業用スクレーパ26が用いられる。」 (2-c)段落0014?0016 「【作用】所定の摺動面Sの曲面や凹凸に沿うことができるという柔軟性は弾性材料4のリップ部3が担う。そして、摺動面Sに接するのは金属薄板5の先端5aであってシールに適した厚みに設定され、前記弾性材料のリップ部3がこの金属薄板5をバックアップする。また、この金属薄板5は前記弾性材料4のリップ部3の傾斜側に張りつけられ、高温の切削粉などがリップ部3に直接当たらないようにガードする。 この金属薄板5の厚みが0.07mm未満であると、強度的に弱すぎ、取付部2を介しての押さえ込みに対応して金属薄板5の先端5aが曲がりすぎてシールに必要な充分な接触を確保できなくなる。逆に0.25mmを越えると、強度的に強すぎ、金属薄板5の先端5aが充分に曲がることなく、摺動面Sに突き刺さるように当たり、摺動面Sを傷つけてしまう。金属薄板5の好ましい厚みは0.1?0.2mmであり、この程度の厚みであると、弾性材料4のリップ部3が出来るだけ金属薄板5の先端5aまでバックアップすることが望ましい。そのため、リップ部3を先細り形状にして徐々に厚みを薄くすると、金属薄板5の先端5aまでバックアップすることができ、リップ部3の先端3aが摺動面Sに当たりにくくなる。 このように弾性材料4のリップ部3と金属薄板5とを組み合わせて先端5aを形成す構成にすると、摺動面Sの曲面や凹凸に沿うと共にリップ部3が金属薄板5でガードされているため、高温の切削粉が当たる可能性のある板金摺動面Sを有する工作機械に使用すると、その利点が最も有効に生かされる。」 (2-d)段落0022 「金属薄板5はリン青銅板やステンレス鋼板のような板バネ材で作られたものであり、リップ部3の傾斜する側であって図示の区間Lにわたって加硫接着などで一体的に張りつけられている。この金属薄板5の先端5aはリップ部3の先端3aより距離Mだけ突出するように設けられており、金属薄板5の先端5aが摺動面Sに当たってシールする部分になる。なお、区間Lの上側は凹溝7の部分での屈曲に支障を生じない程度に凹溝7に近づけることが望ましい。この部分に、高温の切削粉が当たってもリップ部3が損なわれないようにするためである。」 これらの記載事項から、刊行物2には次の構成が記載されていると認められる。 「摺動カバーと側壁との間に設けられ、厚みが0.07?0.25mmのステンレス鋼板等で形成した板バネ材製の工業用スクレーパ。」(以下、「刊行物2に記載された事項」という。) 3.対比 本願発明と引用発明とを比較すると、後者の「伸縮カバー」、「装填する」、「2列以上」は、それぞれ前者の「テレスコピックカバー」、「取り付ける」、「一個または複数個」に、それぞれ相当する。 そして、引用発明の「摺動機構の枠体内」は、本願発明の「摺動機構等」に含まれることは明らかである。 また、薄板状の部分カバーについて、引用発明の「ステンレス等の金属製」と、本願発明の「高強度複層組織ステンレス鋼製」とは、「ステンレス鋼製」である限りにおいて、一致する。 さらに、引用発明の「高速な動き」は「高速摺動」ということができる。 してみると、本願発明と引用発明とは、 「薄板状の部分カバーの複数枚を摺動可能に積層して形成したテレスコピックカバーを産業機器の摺動機構等に取り付けるについて、テレスコピックカバーに一個または複数個のパンタグラフを取り付けるとともに、テレスコピックカバーの薄板状の部分カバーをステンレス鋼製の金属薄板で形成した高速摺動に適したテレスコピックカバー。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] テレスコピックカバーの薄板状の部分カバーについて、本願発明では、「17%Cr-2%Niを主成分として軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相との微細混合組織を有する高強度複層組織ステンレス鋼製の極薄、極軽量であって、弾力性、物理的強度等の強い金属薄板で形成し」ているのに対し、引用発明では、そのようになってない点。 [相違点2] 本願発明では、「各部分カバーの摺動個所に板厚0.01?0.3mmのバネ用ステンレス、焼き入れリボン鋼等の弾力性、物理的強度等の強い金属薄板で形成した金属薄板製のブレード材を固定し」ているのに対し、引用発明では、そのようになっていない点。 4.判断 各相違点について検討する。 [相違点1について] 引用発明も高速摺動させるものであるところ、高速摺動させるために部材を薄肉化して軽量化することは、通常行われている事項である。また、部材を薄肉化すると強度が低下するから、強度を保持したまま薄肉化する際に、比強度の高い材料を選択することは、設計事項ということができる。 そして、高強度で延性がある材料として12%Cr-2%Niを含む組成割合のフェライト相とマルテンサイト相との複相組織ステンレス鋼は、例えば特開平8-319519号公報の段落0004、特開平1-172524号公報の第12ページ右上欄第1?12行等に示すように周知の事項である。 そうすると、高速摺動に適した材料の選択に当たり、多種の材料の中から、12%Cr-2%Niからなる複相組織ステンレス鋼を採用し、相違点1に係る構成とすることは、引用発明に、前記周知の事項を採用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。 [相違点2について] 刊行物2に記載された事項の「摺動カバーと側壁との間」、「ステンレス鋼板等で形成した板バネ材」は、それぞれ本願発明の「部分カバーの摺動箇所」、「バネ用ステンレス」ということができる。また、本願発明の「薄板」は、「板厚0.01?0.3mm」を含むものであるから、刊行物2に記載された事項のステンレス鋼板は、「厚みが0.07?0.25mm」であるから薄板ということができるものである。 そうすると、刊行物2に記載された事項は、「部分カバーの摺動部に厚みが0.07?0.25mmのバネ用ステンレスの金属薄板で形成した金属薄板製のブレード材。」であり、これにより、切り屑等が部分カバー内に入り込まないようにしたものである。 引用発明においても、切り屑等が部分カバー内に入り込まないようにすることが望ましいことは当然であるから、そのために、複数の部分カバーの摺動箇所に刊行物2に記載された事項を、引用発明に採用し、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。 そして本願発明によってもたらせられる効果も、引用発明、刊行物2に記載された事項、及び周知の事項から、当業者であれば十分予測できる範囲内であって、格別顕著なものではない。 なお、請求人は、審判請求の理由において、「当時の技術水準」に基づく主張を行っているが、引用発明への適用阻害要因を具体的に主張しているものではなく、根拠がない。また、製品としての評価と特許性の判断とは、別問題である。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-01-10 |
結審通知日 | 2008-01-15 |
審決日 | 2008-01-28 |
出願番号 | 特願平8-356664 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B23Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田村 嘉章 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
豊原 邦雄 加藤 昌人 |
発明の名称 | 高速摺動に適したテレスコピックカバー |
代理人 | 高橋 章 |