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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10197審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10312審決取消請求事件 判例 特許
平成16ワ14321特許権譲渡代金請求事件 判例 特許
平成14行ケ199特許取消決定取消請求事件 判例 特許
不服20058936 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1174761
審判番号 不服2007-6777  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-07 
確定日 2008-03-10 
事件の表示 特願2006-509462「置換ピラゾールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月14日国際公開、WO2004/087074、平成18年 9月28日国内公表、特表2006-522129〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月30日(パリ条約による優先権主張 2003年4月1日 米国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由に応答して平成18年11月9日付で手続補正がなされたが、その後、平成18年12月4日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年3月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月6日付で手続補正がなされたものである。

2.平成19年4月6日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年4月6日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「置換ピラゾール、置換ピラゾールの互変異性体、または置換ピラゾールもしくは互変異性体の塩を製造する方法であって、
置換ピラゾールの構造が式(I)に対応し:
【化1】(式(I)略)
該方法は以下の工程を含み:
ヒドラゾン(II)と置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイル(III)を反応器に導入することを含む方法により混合物を形成し;
この混合物を50℃より高い温度に加熱して保護したピラゾール中間体(IV)を形成し;
組成物の30%(重量)以上が保護したピラゾール中間体からなる組成物を形成し;
ここで、前記組成物の形成は、保護したピラゾール中間体、有機溶媒、および不純物を含む混合物と水を接触させて多相混合物を形成し;そして不純物を含有する水を多相混合物から除去することを含み;
必要に応じて、保護した置換ピラゾール中間体および有機溶媒を反溶媒と接触させることにより、溶媒/反溶媒混合物を形成して、保護したピラゾール中間体を沈殿させ;
式(XV)の構造に対応する非置換ピペリジニル中間体を形成し;そして
グリコール酸エステルと前記非置換ピペリジニル中間体(XV)を反応させることを含む方法;
ここで、前記ヒドラゾンの構造はは以下の式(II)に対応し:
【化2】(式(II)略)
前記置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイルの構造は以下の式(III)に対応し:
【化3】(式(III)略)
前記保護したピラゾール中間体の構造は以下の式(IV)に対応し:
【化4】(式(IV)略)
前記非置換ピペリジニル中間体の構造は以下の式(XV)に対応し;
【化5】(式(XV)略)
式中、
R^(B)は、ハロゲンであり;
R^(3A)、R^(3B)、およびR^(3C)は、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、アミノ、アルキル、アミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルコキシ、およびアルコキシアルキルよりなる群から選択され;
アルキル、アミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルコキシ、またはアルコキシアルキルの炭素はいずれも、独立してハロゲン、ヒドロキシ、およびシアノよりなる群から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよく;
Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(4)、およびY^(5)のうちの1つは、=C(R^(4))-であり;
Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(4)、およびY^(5)のうちの1つは、=N-であり;
Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(4)、およびY^(5)のうちの3つは、独立して=C(H)-および=N-よりなる群から選択され;
R^(4)は、独立して下記よりなる群から選択され:水素、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシ、チオール、カルボキシ、ニトロ、アルキル、カルボキシアルキル、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アルキルカルボニル、カルボサイクリル、カルボサイクリルアルキル、カルボサイクリルアルケニル、カルボサイクリルオキシ、カルボサイクリルアルコキシ、カルボサイクリルオキシアルキル、カルボサイクリルチオ、カルボサイクリルスルフィニル、カルボサイクリルスルホニル、ヘテロサイクリルチオ、ヘテロサイクリルスルフィニル、ヘテロサイクリルスルホニル、カルボサイクリルアルコキシ、カルボサイクリルヘテロサイクリル、ヘテロサイクリルアルキル、ヘテロサイクリルオキシ、ヘテロサイクリルアルコキシ、アミノ、アミノアルキル、アルキルアミノ、アルケニルアミノ、アルキニルアミノ、カルボサイクリルアミノ、ヘテロサイクリルアミノ、アミノカルボニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケニルオキシアルキル、アルコキシアルキルアミノ、アルキルアミノアルコキシ、アルコキシカルボニル、カルボサイクリルオキシカルボニル、ヘテロサイクリルオキシカルボニル、アルコキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボサイクリルアミノ、アルコキシカルボサイクリルアルキルアミノ、アミノスルフィニル、アミノスルホニル、アルキルスルホニルアミノ、アルコキシアルコキシ、アミノアルコキシ、アミノアルキルアミノ、アルキルアミノアルキルアミノ、カルボサイクリルアルキルアミノ、アルキルアミノアルキルアミノアルキルアミノ、アルキルヘテロサイクリルアミノ、ヘテロサイクリルアルキルアミノ、アルキルヘテロサイクリルアルキルアミノ、カルボサイクリルアルキルヘテロサイクリルアミノ、ヘテロサイクリルヘテロサイクリルアルキルアミノ、アルコキシカルボニルヘテロサイクリルアミノ、アルキルアミノカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、ヒドラジニル、アルキルヒドラジニル、およびカルボサイクリルヒドラジニル;
前記の基のうち置換可能なメンバーはいずれも、独立してアルキル、アルケニル、ヒドロキシ、ハロゲン、ハロアルキル、アルコキシ、ハロアルコキシ、ケト、アミノ、ニトロ、シアノ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、アルキルチオ、アルコキシアルキル、カルボサイクリルオキシ、ヘテロサイクリル、およびヘテロサイクリルアルコキシよりなる群から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよく;
R^(5)はアセチルである。」
と補正された。
本件補正は、補正前の「R^(5)は窒素保護基(t-ブチルオキシカルボニルを除く)」を「R^(5)はアセチル」と補正するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、さらに、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。
(2)独立特許要件について
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特表2002-530397号公報(以下、引用例という。)には以下の事項が記載されている。
a. 「【化859】(式1?8略)
合成は、氷浴(0-10℃)中で冷却されたTHF又はエーテルのような有機溶媒中のLiHMDS、LDA、又は、tBuOKのような塩基で4-メチルピリミジン2を処理することから始まる。結果となる4-メチルアニオンにTHF又はエーテル中のイソニコチン酸1の適切に保護された(Bocが示される)エチルエステルの溶液を添加した。反応物を室温まで温め、4時間乃至20時間の期間にわたって攪拌し、この時点で所望のケトン3が水の働きによって分離した。トルエン又はベンゼン中のトシルヒドラジドを溶媒とするケトン3の濃縮を、還流温度で1時間乃至5時間の期間にわたって行うことによってヒドラゾン4を得た。ヒドラゾン4を、0℃乃至70℃の温度でLiHMDS、LDA、tBuOK、又は、トリエチルアミンのような塩基の存在の下、適切に置換された塩化ベンゾイルに反応させた。反応物を3-6時間の期間にわたって攪拌した。HCまたはH_(2)SO_(4)のような酸性水溶液による保護基の酸性の加水分解、及び、NaOHまたはKOHのような水溶性塩基による後続の中和より所望のピラゾール6を得た。ピラゾール6を塩基の存在下で酸塩化物によって処理する、又は標準的なペプチド結合状況下(HOBt又はHATUのような添加物を有するEDC、DCC、又は、PyBrOP、及び、N-メチルモルホリン、ジイソプロピルエチルアミン、又は、トリエチルアミンのような塩基)で酸8によって処理し、所望のピラゾールアミド9を得た。・・・」(段落1727)
b. 「【化864】(反応式略)
方法B:800ミリリットルのTHF中の200グラム(423ミリモル)のN-t-ブチルカルボニル-1-(4-ピペリジル)-2-(4-ピリミジル)-1-エタノン p-トルエンスルホニルヒドラゾンの溶液に、3リットルの3首フラスコ中の70ミリリットル(500ミリモル)のトリエチルアミンを添加した。溶液を氷/塩/水浴の中で0-5℃まで冷却した。この冷却した溶液に100ミリリットルのTHF中の4-クロロ塩化ベンゾイル(74グラム、423ミリモル)の溶液を一滴づつ添加し、温度を10℃より下に保った。添加を完了した後、氷浴を除去し、加熱マントルに置き換えた。4-N、N-ジメチルアミノピリジン(5グラム、40ミリモル)を添加し、反応混合物を15-30分間50℃まで加熱した。反応混合物をろ過し、残留物をTHF(100ミリリットル)で洗浄した。組み合わされたろ過液を減少された気圧下で蒸発させ半固体にした。
半固体の残留物を450ミリリットルのTHF中で溶解し、この溶液に180ミリリットルの12NのHClを迅速に添加した。反応混合物を65℃まで1.5-2時間加熱し、別の漏斗に移した。有機層を廃棄し、水相を200ミリリットルのTHFで2度洗浄した。水相を2リットルのフラスコに戻し、氷浴中で0-10℃まで冷却した。15Nの水酸化アンモニウム(?180ミリリットル)を一滴づつ添加することによって溶液のpHを?9-10の間に調節した。この混合物を別の漏斗に戻し、温かいn-ブタノール(3×150ミリリットル)で抽出した。組み合わされたn-ブタノール相を乾燥するまで減少された気圧下で蒸発した。残留物をメタノール(200ミリリットル)で攪拌し、ろ過し、乾燥し、129グラム(90%)の所望の5-(4-ピペリジル)-4-(4-ピリミジル)-3-(4-クロロフェニル)ピラゾールをオフホワイトの固体として得た。この材料は、方法Aによって調製した材料と全てに関して同一である。」(段落1733、1734)
c. 「【化865】(反応式略)
ステップ5:1リットルの丸底フラスコに34.2グラム(102ミリモル)の5-(4-ピペリジル)-4-(4-ピリミジル)-3-(4-クロロフェニル)ピラゾール、500ミリリットルのCH_(2)Cl_(2)、及び、26.6ミリリットル(153ミリモル)のヒューニッグの塩基を仕込んだ。この懸濁液に16.5グラム(122ミリモル)の1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、及び、8.1グラム(106ミリモル)のグリコール酸を添加した。グリコール酸の添加後、23.7グラム(122ミリモル)の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルノジイミド塩酸塩を添加した。反応物を一晩室温で攪拌した。反応物を真空下で濃縮し、油状の残留物を残した。残留物を400ミリリットルのメタノール、及び、50ミリリットルの2.5NのNaOH中で溶解した。反応混合物を1時間室温で攪拌した。混合物を2NのHClを用いてpH5まで酸性化し、CH_(2)Cl_(2)(6×200ミリリットル)で抽出した。組み合わされた有機相をフェーズペーパー(phase paper)を通してろ過し、ろ過液を真空下で濃縮し、黄色の残留物を残した。残留物を75ミリリットルのアセトニトリルで処理した。沈殿物を形成した。固体をろ過し、追加のアセトニトリル及びEt_(2)Oで洗浄し、31.4グラムのN-(2-ヒドロキシアセチル)-5-(4-ピペリジル)-4-(4-ピリミジル)-3-(4-クロロフェニル)ピラゾールを得た・・・」(段落1735)
d. 「N-(2-ヒドロキシアセチル)-5-(4-ピペリジル)-4-(4-ピリミジル)-3-(4-クロロフェニル)ピラゾール塩酸塩」(段落1736)

なお、上記摘示事項b.における「t-ブチルカルボニル」との記載は、引用例の化学式の記載(段落1731 化862)に照らせば「t-ブチルオキシカルボニル」の誤りであると認める。

これらの記載からみて、引用例には、「N-t-ブチルオキシカルボニル-1-(4-ピペリジル)-2-(4-ピリミジル)-1-エタノン p-トルエンスルホニルヒドラゾンと4-クロロ塩化ベンゾイルとからなる混合物を50℃に加熱して得られた反応混合物を濾過して得られた濾液の蒸発残留物のTHF溶液を加水分解反応に付して、5-(4-ピペリジル)-4-(4-ピリミジル)-3-(4-クロロフェニル)ピラゾールを形成し、それをグリコール酸と反応させることによりN-(2-ヒドロキシアセチル)-5-(4-ピペリジル)-4-(4-ピリミジル)-3-(4-クロロフェニル)ピラゾールを製造する方法。」が記載されている。(以下、「引用発明」という。)

本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明において、N-t-ブチルオキシカルボニル-1-(4-ピペリジル)-2-(4-ピリミジル)-1-エタノン p-トルエンスルホニルヒドラゾン、4-クロロ塩化ベンゾイル、N-t-ブチルオキシカルボニル-1-(4-ピペリジル)-2-(4-ピリミジル)-1-エタノン p-トルエンスルホニルヒドラゾンと4-クロロ塩化ベンゾイルとの反応混合物、5-(4-ピペリジル)-4-(4-ピリミジル)-3-(4-クロロフェニル)-ピラゾール、及びN-(2-ヒドロキシアセチル)-5-(4-ピペリジル)-4-(4-ピリミジル)-3-(4-クロロフェニル)ピラゾールは、それぞれ本願補正発明の式(II)、(III)、(IV)、(XV)、及び(I)に相当する。
本願補正発明において、「保護した置換ピラゾール中間体および有機溶媒を反溶媒と接触させることにより、溶媒/反溶媒混合物を形成して、保護したピラゾール中間体を沈殿させ」との発明特定事項は、必要に応じて、として所望の条件であると規定されており、引用発明との相違点となり得ない。
そうすると、両者は、
「置換ピラゾール、または置換ピラゾールの塩を製造する方法であって、
置換ピラゾールの構造が式(I)に対応し:
【化1】(式(I)略)
該方法は以下の工程を含み:
ヒドラゾン(II)と置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイル(III)を反応器に導入することを含む方法により混合物を形成し;
この混合物を加熱して保護したピラゾール中間体(IV)を形成し;
式(XV)の構造に対応する非置換ピペリジニル中間体を形成し;そして
前記非置換ピペリジニル中間体(XV)グリコール酸エステル化することを含む方法;
ここで、前記ヒドラゾンの構造は以下の式(II)に対応し:
【化2】(式(II)略)
前記置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイルの構造は以下の式(III)に対応し:
【化3】(式(III)略)
前記保護したピラゾール中間体の構造は以下の式(IV)に対応し:
【化4】(式(IV)略)
前記非置換ピペリジニル中間体の構造は以下の式(XV)に対応する。
【化5】(式(XV)略)
式中、
R^(B)は、ハロゲン;クロライドであり、
R^(3A)、R^(3B)、およびR^(3C)は、独立して水素、ハロゲンよりなる群から選択され;4-クロロフェニル基を形成し、
Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(4)、およびY^(5)のうちの3つは、=C(R4)-であり;
Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(4)、およびY^(5)のうちの2つは、=N-であり; 4-ピリミジニル基を形成し、
R^(4)は、水素である」点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明ではヒドラゾン(II)と置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイル(III)の混合物を50℃より高い温度に加熱して保護したピラゾール中間体(IV)を形成するのに対し、引用発明では50℃に加熱している点

<相違点2>
本願補正発明では組成物の30%(重量)以上が保護したピラゾール中間体からなる組成物を形成し;ここで、前記組成物の形成は、保護したピラゾール中間体、有機溶媒、および不純物を含む混合物と水を接触させて多相混合物を形成し;そして不純物を含有する水を多相混合物から除去することを含むとしているのに対し、引用発明ではそのような工程が記載されていない点

<相違点3>
本願補正発明では非置換ピペリジニル中間体(XV)をグリコール酸エステルと反応させることによりグリコールエステル化しているのに対し、引用発明では、グリコール酸と反応させている点

<相違点4>
本願補正発明ではヒドラゾン(II)、保護したピラゾール中間体(IV)として、その式中の符号R^(5)がアセチルである化合物を用いるのに対し、引用発明ではt-ブチルオキシカルボニルを用いる点

そこで、これらの相違点について検討する。

<相違点1>について
引用例には、本願補正発明のヒドラゾン(II)に相当する化合物と同置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイル(III)に相当する化合物の混合物を、実施例に記載される50℃のほか、0℃乃至70℃の温度で反応させたと記載されている。(摘示a.)
そして、本願明細書には、保護したピラゾール類の製造における反応温度について、「反応混合物を好ましくは加熱する。ある態様においては、混合物を少なくとも約50℃の温度・・・に加熱する。」と記載されており(段落0154)、加熱が当該反応における好ましい手段であるとして採用されていることが理解できるのであって、同種の反応において具体的な製造目的化合物に応じ好ましい反応温度を採用することは、当業者が容易に想到しうることである。そして、その温度も、引用例に記載された採りうる反応温度にすぎない。

<相違点2>について
引用例には、上記b.で摘示したように、N-t-ブチルオキシカルボニル-1-(4-ピペリジル)-2-(4-ピリミジル)-1-エタノン p-トルエンスルホニルヒドラゾンと4-クロロ塩化ベンゾイルとの反応を、THF中でトリエチルアミンの存在下に行うことが記載されており、その反応において得られた反応混合物中に、前記のとおり本願補正発明の保護したピラゾール中間体(IV)に相当する化合物が得られるほか、水、トリエチルアミン、塩酸等の副生物、あるいは、THFや原料化合物等の原材料物が共存していることもまた当業者に自明である。
もっとも、引用例には、それら共存成分を分離することについて記載はない。しかし、ある物質をそれが混在している混合物から分ける分離操作は化学実験の基本操作であり、またそれは精製操作の一部分でもある。その際、溶液中に溶けている物質の混合物、たとえば、それら複数の物質の水と有機溶媒との溶解度の差に着目して各物質を抽出分離することが通常行われている。(必要なら、緒方章ら著 「化学実験操作法」訂正第36版 株式会社南江堂 昭和52年6月20日 発行 第307、318、319頁 参照)そして、ある物質を高純度で製造することもまた化学合成において当業者が一般に求めることであって、引用発明においても同様である。
そうすると、引用発明においても、前記した、水溶性の共存成分を除去するとの工程を採用することは当業者が容易に想到するところであり、化学実験の基本操作であるところの分離・精製操作を通じて製造目的物である保護した置換ピラゾールの反応混合物中の配合割合を一定値、たとえば30重量%以上と設定することにも格段の創意は見いだせない。

<相違点3>について
アミド化が求核置換反応であることは当業者によく知られている。そして、エステルは、カルボン酸と同様に、電子が乏しいカルボニル炭素においてアミンの攻撃を受けてその末端基がアミノ基で置換されることも本願優先権主張日前に周知である。(必要なら、中西香爾ら訳 「モリソン ボイド 有機化学(中)」第3版第6刷 株式会社東京化学同人 1981年3月11日発行 第834頁 20・16 エステルの反応参照)
そうすると、非置換ピペリジニル中間体(XV)のグリコールエステル化において、引用発明で用いているグリコール酸に代えてそのエステルを用いてなる方法を採用することは当業者であれば格別の創意を要さずなし得ることである。

<相違点4>について
引用例には、上記b.で摘示したように、ピペリジン環の窒素原子がt-ブチルオキシカルボニル基で置換された、本願補正発明のヒドラゾン(II)に相当する化合物、同保護したピラゾール中間体(IV)に相当する化合物を用いてなる方法が記載されているほか、保護基について具体的な記載はない。しかし、化学合成工程において副反応を防止するために用いられる保護基として、アセチル基は、t-ブチルオキシカルボニル基と同様、当業者に周知の基であり(必要なら、国際公開第2002/76922号(特に、第6頁第36?44行 R1の定義)、特開平2-83357号公報(特に、第5頁左上欄?右上欄)、特開昭62-167744号公報(特に、第6頁左上欄)参照)、引用発明においても、上記ヒドラゾン(II)、保護したピラゾール中間体(IV)として、そのピペリジン環の窒素原子がt-ブチルオキシカルボニル基が置換した化合物に代えてアセチル基が置換した化合物を採用することは当業者が容易に想到し得たものと認める。

そして、本願明細書(段落0155)に記載され、また、請求の理由についての平成19年4月6日付手続補正書において審判請求人が本願補正発明の特徴であるとする、保護されたピラゾール生成物を生成物混合物から単離することによって、下流の生成物の収率、純度、および再現性を改善できるという効果にしても、上記のとおり、当該単離工程が本願補正発明における任意工程である以上、上記効果は、本願補正発明の一部の態様におけるものにすぎないし、また、その一部の態様についてさえ、特定の保護基を選択したことにより予測し得ないほど顕著な効果を奏し得たものであることを確認することはできない。

なお、審判請求人は、 <相違点4>に関連して、引用例記載に接した当業者であれば、t-ブチルオキシカルボニル保護基が塩基による除去に抵抗性であるために使用されており、塩基性条件下で不安定な保護基で保護された窒素は「適切に保護された」とはいえないと理解することから、アセチル保護基を当業者が用いる動機付けがないとし、アミノ(窒素)保護基の安定性についての文献(T. W. Green, P. G. M. Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, Wiley-Interscience, New York, 1999:その要約はOrganic-Chemistry.org (www.organic-chemistry.org/protecivegroups/から得られる)を提示する。(以下、「参考資料」という。)参考資料には、保護基の各種条件における反応性について記載されており、それによれば、t-ブチルオキシカルボニル基、アセチル基の塩基に対する反応性は、LDAに対して、前者が安定であるのに対し、後者が反応活性であるという違いがあるものの、トリエチルアミン、t-BuOKといった他の塩基に対する反応性に違いがないことも記載されている。そして、それらはいずれも引用例に、本願補正発明のヒドラゾン(II)に相当する化合物と、同置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイル(III)に相当する化合物との反応工程において用いるとされている塩基であって(段落0151)、その一部の塩基に対する反応性が異なるとはいうものの、それをもって当該保護基を用いることができないとまでいうことはできない。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

平成19年4月6日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年11月9日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「置換ピラゾール、置換ピラゾールの互変異性体、または置換ピラゾールもしくは互変異性体の塩を製造する方法であって、
置換ピラゾールの構造が式(I)に対応し:
【化1】(式(I)略)
該方法は以下の工程を含み:
ヒドラゾン(II)と置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイル(III)を反応器に導入することを含む方法により混合物を形成し;
この混合物を50℃より高い温度に加熱して保護したピラゾール中間体(IV)を形成し;
組成物の30%(重量)以上が保護したピラゾール中間体からなる組成物を形成し;
ここで、前記組成物の形成は、保護したピラゾール中間体、有機溶媒、および不純物を含む混合物と水を接触させて多相混合物を形成し;そして不純物を含有する水を多相混合物から除去することを含み;
必要に応じて、保護した置換ピラゾール中間体および有機溶媒を反溶媒と接触させることにより、溶媒/反溶媒混合物を形成して、保護したピラゾール中間体を沈殿させ;
式(XV)の構造に対応する非置換ピペリジニル中間体を形成し;そして
グリコール酸エステルと前記非置換ピペリジニル中間体(XV)を反応させることを含む方法;
ここで、前記ヒドラゾンの構造はは以下の式(II)に対応し:
【化2】(式(II)略)
前記置換されていてもよいハロゲン化ベンゾイルの構造は以下の式(III)に対応し:
【化3】(式(III)略)
前記保護したピラゾール中間体の構造は以下の式(IV)に対応し:
【化4】(式(IV)略)
前記非置換ピペリジニル中間体の構造は以下の式(XV)に対応し;
【化5】(式(XV)略)
式中、
R^(B)は、ハロゲンであり;
R^(3A)、R^(3B)、およびR^(3C)は、独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、アミノ、アルキル、アミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルコキシ、およびアルコキシアルキルよりなる群から選択され;
アルキル、アミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルコキシ、またはアルコキシアルキルの炭素はいずれも、独立してハロゲン、ヒドロキシ、およびシアノよりなる群から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよく;
Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(4)、およびY^(5)のうちの1つは、=C(R^(4))-であり;
Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(4)、およびY^(5)のうちの1つは、=N-であり;
Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(4)、およびY^(5)のうちの3つは、独立して=C(H)-および=N-よりなる群から選択され;
R^(4)は、独立して下記よりなる群から選択され:水素、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシ、チオール、カルボキシ、ニトロ、アルキル、カルボキシアルキル、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アルキルカルボニル、カルボサイクリル、カルボサイクリルアルキル、カルボサイクリルアルケニル、カルボサイクリルオキシ、カルボサイクリルアルコキシ、カルボサイクリルオキシアルキル、カルボサイクリルチオ、カルボサイクリルスルフィニル、カルボサイクリルスルホニル、ヘテロサイクリルチオ、ヘテロサイクリルスルフィニル、ヘテロサイクリルスルホニル、カルボサイクリルアルコキシ、カルボサイクリルヘテロサイクリル、ヘテロサイクリルアルキル、ヘテロサイクリルオキシ、ヘテロサイクリルアルコキシ、アミノ、アミノアルキル、アルキルアミノ、アルケニルアミノ、アルキニルアミノ、カルボサイクリルアミノ、ヘテロサイクリルアミノ、アミノカルボニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケニルオキシアルキル、アルコキシアルキルアミノ、アルキルアミノアルコキシ、アルコキシカルボニル、カルボサイクリルオキシカルボニル、ヘテロサイクリルオキシカルボニル、アルコキシカルボニルアミノ、アルコキシカルボサイクリルアミノ、アルコキシカルボサイクリルアルキルアミノ、アミノスルフィニル、アミノスルホニル、アルキルスルホニルアミノ、アルコキシアルコキシ、アミノアルコキシ、アミノアルキルアミノ、アルキルアミノアルキルアミノ、カルボサイクリルアルキルアミノ、アルキルアミノアルキルアミノアルキルアミノ、アルキルヘテロサイクリルアミノ、ヘテロサイクリルアルキルアミノ、アルキルヘテロサイクリルアルキルアミノ、カルボサイクリルアルキルヘテロサイクリルアミノ、ヘテロサイクリルヘテロサイクリルアルキルアミノ、アルコキシカルボニルヘテロサイクリルアミノ、アルキルアミノカルボニル、アルキルカルボニルアミノ、ヒドラジニル、アルキルヒドラジニル、およびカルボサイクリルヒドラジニル;
前記の基のうち置換可能なメンバーはいずれも、独立してアルキル、アルケニル、ヒドロキシ、ハロゲン、ハロアルキル、アルコキシ、ハロアルコキシ、ケト、アミノ、ニトロ、シアノ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、アルキルチオ、アルコキシアルキル、カルボサイクリルオキシ、ヘテロサイクリル、およびヘテロサイクリルアルコキシよりなる群から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよく;
R^(5)は窒素保護基(t-ブチルオキシカルボニルを除く)である。」

本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明記載の式中の符号R^(5)をアセチルのみならず、それを含む窒素保護基(t-ブチルオキシカルボニルを除く)としたものであるから本願補正発明を包含する。
そうすると、本願補正発明が、前記「2.(2)」に記載したとおりの理由により当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も同様の理由を有するものである。
したがって、本願発明は、引用発明に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、平成19年9月4日付け早期審理に関する事情説明書において、請求項33、34を削除する用意があるとし、補正案を添付の上、補正の機会を与えてほしい旨主張するが、上記のとおり、当該補正を受け入れてもなお拒絶の理由は解消しない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-11 
結審通知日 2007-10-12 
審決日 2007-10-30 
出願番号 特願2006-509462(P2006-509462)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
P 1 8・ 575- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 穴吹 智子
川上 美秀
発明の名称 置換ピラゾールの製造方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 社本 一夫  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  
代理人 江尻 ひろ子  

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