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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 B21D
管理番号 1175147
審判番号 不服2006-19458  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-04 
確定日 2008-03-19 
事件の表示 平成 8年特許願第 94792号「除雪用エッジ部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月30日出願公開、特開平 9-253773〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成8年3月25日の出願であって、平成17年7月19日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年9月26日に意見書の提出とともに明細書について補正がされ、再度、平成18年3月28日付けで拒絶の理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答が無く、同年7月27日付けで拒絶の査定がなされ、これに対して、同年9月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

そして、本願の請求項1に係る発明は、平成17年9月26日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「全体が平坦で、しかも片側の面における接地刃の端縁に、端部に向けて次第に薄肉となるよう傾斜させた接地側先端部を形成してなるエッジ部材であって、該エッジ部材の接地刃に、接地端面に開口する溝を上記エッジ部材の長さ方向に向けて一定間隔毎に多数形成する場合において、上記溝の大きさに対応し、しかもエッジ部材における接地側先端部に対応する部分のみ、その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた1又は2以上のパンチと、該パンチに対応するダイス溝とにより順次加圧打ち抜き加工するようにしたことを特徴とする除雪用エッジ部材の製造方法。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(平成18年3月28日付け)は、「請求項1の「その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」との点は願書に最初に添付した明細書又は図面には記載されていない。図1及び2には確かにパンチ下面の一部が下向きに傾斜して突出するように描かれているが、この傾斜及び突出の範囲及び程度がエッジ部材における接地側先端部に対応しているとは明記されておらず、また、一般に平板を打ち抜き加工する場合にもパンチの下面を傾斜面に形成することがあるから、当業者にとって自明であるとも認められない。
【0005】及び【0013】についての補正も同様である。」というものである。

3.審判請求書における請求人の主張の概要
請求人は、請求項1および段落0005、0013について、「その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」と補正した点については、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面の記載に根拠を見出すことができるものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているとして、審判請求後の平成18年11月13日付け手続補正書の第1ページ下から8行目ないし第3ページ第3行で、「補正の適法性について」、「本願のパンチによる効果」という項目において、以下のように主張している。
【補正の適法性について】
「a.まず願書に最初に添付された図面の図1には、「パンチブロック6」と、これを受ける「ダイスブロック8」、そしてこの両者間において溝3を打ち抜かれる「エッジ部材1」が示されている。この場合の「エッジ部材1」は全体が平坦で、しかも両側の接地側先端部2および4が斜め方向に次第に薄肉となるように形成されて断面が略台形に構成されたものであることは、願書に最初に添付された明細書[0007]の第3-4行、および[0001]の第2-3行に記載されている通りであり、また該エッジ部材1に形成される溝3は、片側の接地刃における接地側先端部2寄りに、(片側を)該接地側先端部2側に開口させて略U字状をなしており、しかも該溝3がエッジ部材1の長さ方向に向けて一定間隔毎に多数形成されることについても明細書[0008]第1-3行に記載されている通りである。
さらに「パンチブロック6」は、上記した接地部材1の加工すべき溝に対応する形状ならびに大きさのパンチ(明細書[0008]の第4-6行および[0006]の第1行に記載)7を有し、しかもこれらのパンチ7が形成すべき溝3・3間の必要間隔を介して下向きに突出形成されている。
b.したがって、パンチブロック6に下向きに突出形成されたパンチの形状については、上記した通り「形成すべき溝3に対応する形状ならびに大きさ」というこになるが、「形成すべき溝3に対応する形状ならびに大きさ」とは、全体が平坦で、しかも両側の接地側先端部2および4が斜め方向に次第に薄肉となるように形成されて断面が略台形に構成された、その片側の接地側先端部2にかけて斜め方向に次第に薄肉となるように形成される接地刃の断面形状における表面形状に対応させた形状であることになる。そうであるとすれば、これに対応させるパンチの形状については「その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」となることは論理的帰結と言えるものである。
c.なおパンチの「(エッジ部材1の溝3を形成する接地部の表面形状に対応させて)次第に高さを増すように」との表現については、エッジ部材1の溝3を形成する片側接地部の厚みや傾斜度について、除雪用エッジ部材1として、通常の除雪用のほかに氷結化した箇所の除雪用、あるいはある程度厚みのある氷結箇所の除雪用など、エッジ部材の用途如何により一様ではなく、したがってエッジ部材1に対応させたパンチブロック6のパンチ7の傾斜及び突出の範囲及び程度についても具体的に特定することはできない。
・・・」

【本願のパンチによる効果】
「本願の発明は、上記したようにパンチブロック6に下向きに突出形成されたパンチ7の形状について、エッジ部材1の平坦部に対応する平坦部分のほかに、エッジ部材1の片側接地部の傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた傾斜部分とを有するために、エッジ部材1に略U字状の溝3を打ち抜く際に、パンチ7がエッジ部材1の平坦部から接地側先端部2の傾斜形状にかけて同時に加圧接して剪断がおこなわれ、剪断に際してパンチ7に偏荷重がかからず、パンチ7がダイスブロック8のダイス溝9内に垂直に挿入される結果、パンチ7の折損や変形、あるいは打ち抜かれた溝3へのバリの発生が防止でき、パンチブロック6およびダイスブロック8の耐久性を向上させるとともに、曲がりのない高品質のエッジ部材を得ることができる。
すなわち、パンチブロック6に下向きに突出形成されたパンチ7の形状について、すべて平坦である場合においては、エッジ部材1に略U字状の溝3を打ち抜く際に、パンチ7が先ずエッジ部材1の平坦部に当接して剪断を開始し、その後にエッジ部材1の接地側先端部2の次第に薄肉となる傾斜形状部分に沿って順次当接して剪断することになるために、エッジ部材1に略U字状の溝3を打ち抜く際にパンチ7で、エッジ部材1に対して材料に当たる部分と当たらない部分とができることにより、パンチ7で、部分的に大きな負荷、すなわち偏荷重がかかってパンチ7が折れや変形を生じて耐久寿命が短くなり、あるいはパンチ7とダイス溝9とのクリアランスが不均一になって、打ち抜かれた溝3にバリが発生するなどの不都合が生じやすい。
そこで本願の発明はパンチブロック6に下向きに突出形成されたパンチ7の形状について、エッジ部材1の平坦部に対応する平坦部分のほかに、エッジ部材1の片側接地部の傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた傾斜部分とを有することにより、上記した課題を解決するようにしたものである。」

4.当審の判断
平成18年3月28日付けの拒絶の理由が妥当なものであるか、以下検討する。
当該補正箇所は、補正前は「溝に対応する1又は2以上のパンチ」であったものが、補正後は「溝の大きさに対応し、しかもエッジ部材における接地側先端部に対応する部分のみ、その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた1又は2以上のパンチ」に補正したものである。
そして、本件出願当初明細書には、「その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」という記載そのものは存在しない。一方、出願当初の図面を参照すると、パンチ7が傾斜部を有し、下向きに突出していることから、「次第に高さを増すように下向きに突出させた」パンチということが看取できる。
そこで、「その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」点が、本件出願当初明細書又は図面に記載されたに等しい事項であるか、以下検討する。

本件出願当初明細書の段落0006には、「エッジ部材に対する溝の形成は、加工すべき溝に対応する形状のパンチ、およびダイス溝との間に、エッジ部材の被加工部分を位置合わせし、上記したパンチを加圧してエッジ部材の目的箇所に対して順次溝を形成する。」と、段落0008には、「さらに片側の接地側先端部2寄りには、該接地側先端部2側に開口させたところの、ほぼ長U字状をした溝3が該エッジ部材1の長さ方向に向けて一定間隔毎に多数形成される。 この溝3の形成は、前記したパンチブロック6とダイスブロック8とにより打ち抜かれる。 すなわち、パンチブロック6には、形成すべき溝3に対応する形状ならびに大きさのパンチ7が、形成すべき溝3・3間の必要間隔を介して2個下向きに突出形成され、またダイスブロック8には上記したパンチブロック6のパンチ7・7に対応する形状ならびに数のダイス溝9・9が形成されている。」と、それぞれ記載されている。
これらの記載によると、段落0006に記載された「加工すべき溝に対応する形状のパンチ」の「加工すべき溝」とは、段落0008の記載から「ほぼ長U字状をした溝」であることが理解できる。
また、段落0008に「パンチブロック6には、形成すべき溝3に対応する形状ならびに大きさのパンチ7が、形成すべき溝3・3間の必要間隔を介して2個下向きに突出形成され、またダイスブロック8には上記したパンチブロック6のパンチ7・7に対応する形状ならびに数のダイス溝9・9が形成されている。」と記載されており、この記載にある「形成すべき溝3に対応する形状ならびに大きさのパンチ」についても、「溝の形状に対応する形状ならびに大きさのパンチ」、すなわち、「ほぼ長U字状をした溝の形状に対応する形状ならびに大きさのパンチ」であることから、パンチの形状ならびに大きさは、ほぼ長U字状をした溝の形状に対応するものであることは理解できる。
さらに、ダイスブロックのダイス溝についても、段落0008に「パンチブロック6のパンチ7・7に対応する形状ならびに数のダイス溝9・9が形成されている。」と記載されていることから、ダイス溝の形状は、形成すべき溝に対応するパンチに対応する形状であるといえる。
そうすると、段落0006、0008の記載を参照すれば、パンチの形状は、ほぼ長U字状をした溝に対応する形状であるということができる。

そして、補正後の請求項1には、「その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」ことについて、「溝の大きさに対応し、しかもエッジ部材における接地側先端部に対応する部分のみ」と記載されている。この「のみ」について検討すると、「のみ」の意味は「だけ。ばかり。」であることが、広辞苑(新村出 編,第2版増訂版,株式会社岩波書店,昭和51年12月1日,p.1750)に記載されている。そうすると、「その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」部分は、「エッジ部材における接地側先端部に対応する部分」だけということになる。しかし、エッジ部材における接地側先端部に対応する部分だけに、その傾斜形状に対応させて、次第に高さを増すように下向きに突出させたパンチについて、出願当初明細書に記載されておらず、また、出願当初の図面を参照しても、パンチブロック6のパンチ7の斜め部の長さと、斜め方向に次第に薄肉となるように形成されているエッジ部材の接地側先端部の形状に関しては、パンチの斜め部の長さと、エッジ部材1の接地側先端部2の斜めの部分とは、長さが異なることが看取れ、両者は対応していないことは明らかである。

したがって、「エッジ部材における接地側先端部に対応する部分のみに、その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」ことが、出願当初明細書又は図面に記載されていたとすることができない。

また、審判請求人は、審判請求後の平成18年11月13日付け手続補正書の「本願のパンチによる効果」において、「エッジ部材1に略U字状の溝3を打ち抜く際に、パンチ7がエッジ部材1の平坦部から接地側先端部2の傾斜形状にかけて同時に加圧接して剪断がおこなわれ、剪断に際してパンチ7に偏荷重がかからず、パンチ7がダイスブロック8のダイス溝9内に垂直に挿入される結果、パンチ7の折損や変形、あるいは打ち抜かれた溝3へのバリの発生が防止でき、パンチブロック6およびダイスブロック8の耐久性を向上させるとともに、曲がりのない高品質のエッジ部材を得ることができる。」と主張している。
しかし、請求人の主張するこの効果については、出願当初明細書には何ら記載されていない。また、この効果を得るためには、パンチ7の形状が、エッジ部材1の平坦部から接地側先端部2の傾斜形状と、「エッジ部材における接地側先端部に対応する部分のみ、その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」ことが必要であるが、前述したとおり、前記事項については、出願当初明細書又は図面に記載されているということはできない。

よって、平成17年9月26日付け手続補正書により補正された請求項1および段落0005、0013について、「溝の大きさに対応し、しかもエッジ部材における接地側先端部に対応する部分のみ、その傾斜形状に対応させて次第に高さを増すように下向きに突出させた」と補正した点については、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたといえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおり、本件出願に関する平成17年9月26日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-21 
結審通知日 2008-01-08 
審決日 2008-01-24 
出願番号 特願平8-94792
審決分類 P 1 8・ 55- Z (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 健一原 泰造  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 鈴木 孝幸
加藤 昌人
発明の名称 除雪用エッジ部材の製造方法  
代理人 吉村 公一  

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