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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1176182
審判番号 不服2005-2373  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-10 
確定日 2008-04-10 
事件の表示 特願2000- 6094「エンジンマウント」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月17日出願公開、特開2001-191800〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成12年1月11日の出願であって、平成17年1月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年2月10日に本件審判の請求がなされるとともに、同年3月14日付けで手続補正(前置補正)がなされ、その後、当審において平成19年10月10日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、同年12月12日付けで手続補正がなされたものである。

【2】本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成19年12月12日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1および2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項1】 エンジン側へ取り付けられる、外周面を有する第一部材と、車両側に取り付けられる、内周面を有する第二部材と、前記第一部材と前記第二部材との間に配置された少なくとも二つの弾性体とを具備するエンジンマウントにおいて、
前記エンジンマウントは、エンジン及び車両に取り付けられてエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時に、前記第一部材は前記第二部材に対して所定位置となり、
前記少なくとも2つの弾性体の一方は、前記相対上下振動が発生した時には、主に曲げ変形するように、前記第一部材及び前記第二部材の両方に固定されており、
前記少なくとも2つの弾性体の他方は、前記相対上下振動が発生して相対的に前記第一部材が前記所定位置から上側及び下側の一方へ移動する際には常に圧縮変形するが、前記上側及び下側の他方へ移動する際には引張り変形しないように、前記第一部材の外周面及び前記第二部材の内周面の一方へは固定されておりかつ前記第一部材の外周面及び前記第二部材の内周面の他方へは固定されておらず、前記第一部材が前記所定位置にある時に前記第一部材が前記少なくとも2つの弾性体の他方へ少なくとも当接しており、又は、前記少なくとも2つの弾性体の他方は、前記第一部材及び前記第二部材の両方に固定されているが、上下方向に少なくとも二分割されて、前記第一部材が前記所定位置にある時には二分割された前記弾性体が互いに当接しており、
前記第一部材が前記所定位置を中心に前記第二部材に対して予め定めた上下方向範囲で変位する時に、前記第一部材が前記少なくとも2つの弾性体の他方と当接したままであるように、又は、前記二分割された弾性体が互いに当接したままであるように、前記第一部材、前記第二部材及び前記少なくとも2つの弾性体が位置決めされていることを特徴とするエンジンマウント。」(以下「本願発明」という。)

【3】当審の拒絶理由
当審において平成19年10月10日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である、実願昭56-76048号(実開昭57-187943号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

【4】引用例とその記載事項
引用例には、「防振ゴム」に関して、図面とともに次のア?ウの事項が記載されている。
ア 「ブシュ形防振ゴムの外筒を延長し、その底部に内筒およびゴムとの間に空間を隔てて底板を取付けた防振ゴムにおいて、その空間部に補助ゴムを挿入したことを特徴とする防振ゴム」(実用新案登録請求の範囲)
イ 「第1図の実施例について説明すると、外筒2と内筒3とをゴム1により焼付接着し、予め成形しておいた補助ゴム5を外筒内に挿入してから底板4を取付ける。
第1図の如きストッパー形の補助ゴムはエンジンの起動および停止時の低速回転数域におきるエンジンの大揺れを軽減する効果がある。
また第2図の如く補助ゴム5の高さHを防振ゴムの空間高さhより大きく成形し、取付の際圧縮して使用することにより防振ゴムのばね定数を変えることが出来、補助ゴム5の形状、硬さ、圧縮代等を変えることによりばね定数の微妙な調整が可能になる。」(明細書第1頁第10行?同第2頁第2行)
ウ 「第3図の如く内筒3の下端に段付軸7を付加し、穴付き補助ゴム5を挿入することにより外力によって生ずる内筒の傾斜角を減少せしめ、上記効果し相俟ってエンジンの防振効果を増大する。」(明細書第2頁第3行?同第7行)
ここで、引用例の「ブシュ形防振ゴム」全体を見ると、内筒3に対する振動の入出力は、外筒2と底板4とから成る部材への入出力となることが判る。
また、引用例の「第3図の如く内筒3の下端に段付軸7を付加し」(記載事項ウ)との記載を参照すると、「ブシュ形防振ゴム」の上下方向は図示されたとおりのものであることが判る。そして、引用例記載のブシュ形防振ゴムは、エンジン及び車両に取り付けられてエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時に、内筒3は外筒2に対して所定位置となることは自明である。
また、図面を参酌すれば内筒3は外周面を有する形状であること及び、外筒2は内周面を有する形状であることは明白である。
また、内筒3と補助ゴム5の関係について「取付の際圧縮して使用する」(記載事項イ)場合、両者が接合しているか否かは明らかでないが、少なくとも接しているということができる。
第2図とともに上記各記載事項を総合すると、引用例には、
「外周面を有する内筒3と、内周面を有する外筒2と底板4とから成る部材、前記内筒3と前記外筒2と底板4とから成る部材との間に配置されたゴム1、補助ゴム5とを具備するブシュ形防振ゴムにおいて、
前記ブシュ形防振ゴムは、エンジン及び車両に取り付けられてエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時に、前記内筒3は前記外筒2に対して所定位置となり、
前記ゴム1は、前記内筒3及び前記外筒2の両方に焼付接着されており、
前記補助ゴム5は、前記内筒3が前記所定位置にある時に前記内筒3が前記補助ゴム5へ少なくとも接しているブシュ形防振ゴム。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

【5】発明の対比
(1)本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ゴム1、補助ゴム5」は本願発明の「少なくとも二つの弾性体」に相当し、以下同様に、「ゴム1」、「補助ゴム5」、「ブシュ形防振ゴム」は、それぞれ、「少なくとも2つの弾性体の一方」、「少なくとも2つの弾性体の他方」、「エンジンマウント」に相当する。さらに、引用発明の「内筒3」は、外周面を有する部材である限りにおいて本願発明の「第一部材」に相当し、引用発明の「外筒2と底板4とから成る部材」は内周面を有する部材である限りにおいて本願発明の「第二部材」に相当する。
また、引用発明の「ゴム1」は、「外筒2」と「内筒3」とを焼付接着している(記載事項イ)ことからみて、「外筒2」と「内筒3」に固定されているといえる。
(2)以上の対比から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりに認定できる。
[一致点]「外周面を有する第一部材と、内周面を有する第二部材と、前記第一部材と前記第二部材との間に配置された少なくとも二つの弾性体とを具備するエンジンマウントにおいて、
前記エンジンマウントは、エンジン及び車両に取り付けられてエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時に、前記第一部材は前記第二部材に対して所定位置となり、
前記少なくとも2つの弾性体の一方は、前記第一部材及び前記第二部材の両方に固定されており、
前記少なくとも2つの弾性体の他方は、前記第一部材が前記所定位置にある時に前記第一部材が前記少なくとも2つの弾性体の他方へ少なくとも接しているエンジンマウント。」である点。
[相違点1]本願発明は第一部材がエンジン側へ取り付けられ、第二部材が車両側に取り付けられるのに対して、引用発明は内筒3及び外筒2と底板4とから成る部材のどちらがエンジン側に取り付けられ、どちらが車両側に取り付けられるかが不明である点。
[相違点2]本願発明は少なくとも2つの弾性体の一方がエンジンと車両との相対上下振動が発生した時には、主に曲げ変形するように固定されているのに対して、引用発明のゴム1はエンジンと車両との相対上下振動が発生した時にどのような挙動をとるか明示されていない点。
[相違点3]本願発明は少なくとも2つの弾性体の他方がエンジンと車両との相対上下振動が発生して相対的に第一部材がエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時の所定位置から上側及び下側の一方へ移動する際には常に圧縮変形するが、前記上側及び下側の他方へ移動する際には引張り変形しないように、前記第一部材の外周面及び前記第二部材の内周面の一方へは固定されておりかつ前記第一部材の外周面及び前記第二部材の内周面の他方へは固定されていないのに対して、引用発明の補助ゴム5は内筒3と接触しているかまたは接着されているか及び、エンジンと車両との相対上下振動が発生した時にどのような挙動をとるか明示されていない点。
[相違点4]本願発明は第一部材がエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時の所定位置にある時に前記第一部材が少なくとも2つの弾性体の他方へ少なくとも当接しており、前記第一部材が前記所定位置を中心に第二部材に対して予め定めた上下方向範囲で変位する時に、前記第一部材が前記少なくとも2つの弾性体の他方と当接したままであるように、前記第一部材、前記第二部材及び少なくとも2つの弾性体が位置決めされているのに対して、引用発明はエンジンと車両との相対上下振動が発生した時の内筒3と補助ゴム5との相対変位に関して明示されていない点。

【6】相違点の判断
(1)相違点1について
引用例に記載された「ブシュ形防振ゴム」はエンジンマウントであることは明白であるが、エンジンをどのように支持しているか具体的に記載されていない。しかしながら、前述のとおり引用例の「ブシュ形防振ゴム」の上下方向は図示されたとおりのものであることが判り、引用例に記載されたような「ブシュ形防振ゴム」を用いる場合、技術常識からみて重量物であるエンジンは車両に載置されるように固定すると考えられる。また、エンジンを内筒部材に固定するともに車両を外筒部材に固定することは当該技術分野において周知のものである(周知例:特開昭57-200741号公報、特開平9-257101号公報)ので、前記技術常識及び周知例に記載のものを参酌すれば、内筒3はエンジンに固定され外筒2は底板4を介して車両に固定されているといえる。したがって、引用発明の内筒3及び外筒2の取付箇所をこの相違点1に係る本願発明の構成とすることに、格別の困難性は要しない。
(2)相違点2について
引用例に記載のゴム1は外筒2と内筒3とを焼付接着している(記載事項イ)ことからみて、エンジンと車両との相対上下振動が発生した時すなわち引用例第2図の上下方向に振動が入力された時、主に曲げ変形するものであるといえる。したがって、引用発明のゴム1はこの相違点2に係る本願発明の構成と同様のものである。
(3)相違点3について
引用例の第2図に示された補助ゴム5は引用例の第1図に記載された補助ゴムの変形例として示される点、及び圧縮変形を加えた状態で取付る(記載事項イ)ことからみて、引用例の第2図に示された補助ゴム5は外筒2の内周面には固定されておりかつ内筒3には固定されていないとするのが妥当である。そうすると引用例の第2図に示された補助ゴム5はエンジンと車両との相対上下振動が発生して相対的に内筒3がエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時の所定位置から下側へ移動する際には圧縮変形するが、上側へ移動する際には引張り変形しないものであるといえる。したがって、引用発明の補助ゴム5はこの相違点3に係る本願発明の構成と同様のものである。
(4)相違点4について
上記【6】(3)において検討したとおり、引用例の第2図に示された補助ゴム5は内筒3がエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時の所定位置にある時に前記内筒3と当接しているといえる。また、引用例の第2図に示された補助ゴム5は形状、硬さ、圧縮代等を適宜のものに設定し得る(記載事項イ)ので、その設定によっては内筒3がエンジンと車両との相対上下振動が発生しない時の所定位置を中心に外筒2に対して予め定めた上下方向範囲で変位する時に、前記内筒3が前記補助ゴム5と当接したままであるように、前記内筒3、前記外筒2及び補助ゴム5が位置決めできることが判る。また、そのように位置決めすることは設計的事項であるといえる。したがって、引用発明の内筒3、外筒2及び補助ゴム5をこの相違点4に係る本願発明の構成とすることに、格別の困難性は要しない。
(5)作用効果等について
上記の相違点1ないし4に係る構成を併せ備える本願発明の作用効果について検討しても、引用発明及び上記各周知例に記載された周知技術から、当業者が予測しうる域を超えるものがあるとは認められない。
したがって、本願発明は、引用発明及び上記各周知例に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【7】むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-29 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-25 
出願番号 特願2000-6094(P2000-6094)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 成彦  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 佐藤 正浩
山内 康明
発明の名称 エンジンマウント  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  
代理人 鶴田 準一  

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