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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21K
管理番号 1176437
審判番号 不服2006-11856  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-08 
確定日 2008-04-17 
事件の表示 特願2000-225845「シャフトの成形方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 5日出願公開、特開2002- 35886〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成12年7月26日の出願であって、平成18年5月1日付で拒絶査定がなされたものであり、これに対し、平成18年6月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月4日に明細書を補正対象とする手続補正がなされ、当審による平成19年11月7日付の拒絶理由通知に対し、平成20年1月10日に明細書を補正対象とする手続補正がなされたものである。

本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成20年1月10日付の手続補正書により補正された明細書の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「金型に形成された円柱状のキャビティにワークを収容して、環状の第1のパンチと該第1のパンチ内に摺動自在に挿入された第2のパンチとを用い、駆動機構により前記第2のパンチを直接的に駆動して前記ワークを押圧するとともに、前記駆動機構により、油が充填されたシリンダ室を介して前記第1のパンチを駆動して前記ワークを押圧し、前記ワークの全外周部が前記キャビティの内周部に当接するまで前記ワークを変形させる第1の工程と、
加圧機構の作用下に、前記シリンダ室を減圧させることにより、前記第1パンチを後退させるとともに前記第2のパンチを突出させ、前記ワークにカップ部(筒状部)を成形する第2の工程と、
からなることを特徴とするシャフトの成形方法。」(以下、「本件発明」という。)

2.当審における拒絶理由の概要
当審が平成19年11月7日付で通知した拒絶理由は、本願の請求項1及び3に係る発明は、次の刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の事項に基いて、また、本願の請求項2及び4に係る発明は、次の刊行物1記載の発明及び刊行物2,3記載の事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

刊行物1: 特開平3-169449号公報
刊行物2: 特開平5-337589号公報
刊行物3: 特開平6-297068号公報

3.刊行物記載の発明(事項)
3.1 刊行物1
a.(第7ページ右下欄第2行?第8ページ左下欄第1行)
「第7図は、1次中間体13_(1)を製作するための据込みおよび穿孔加工作業の第1例を示す。その据込みおよび穿孔加工装置19_(1)は、固定の下部ブロック20_(1)と、その上方に配置された昇降自在な上部ブロック20_(2)とよりなる。
下部ブロック20_(1)は、支持台21と、その支持台21上面に固定されたダイス22とを備え、そのダイス22は上向きに開口するダイス孔22aを有する。ダイス22の底壁は昇降自在なノックアウトピン23の上端部より形成される。
上部ブロック20_(2)は、支持板24と、その支持板24下面に取付けられた油圧シリンダ25と、油圧シリンダ25に吊持された押圧用ポンチ26とを備えている。押圧用ポンチ26は、同心状に配設されて相対摺動可能なインナポンチ26_(1)とアウタポンチ26_(2)とよりなる。アウタポンチ26_(2)の上端に存するピストン部26aは、油圧シリンダ25のシリンダ本体25a内に摺動自在に嵌合され、そのピストン部26aの上端面とシリンダ本体25aの天井面との間に油圧室Cが画成される。インナポンチ26_(1)の大径上端部は、シリンダ本体25aの天井壁と支持板24との間に挟着される。
押圧用ポンチ26を下降させてダイス孔22a内に嵌入した状態において、インナポンチ26_(1)、アウタポンチ26_(2)およびダイス孔22aによって1次中間体成形用キャビティCaが画成される(第7図(c))。
1次中間体13_(1)の製作に当っては、第7図(a)に示すように、鋼製短円柱状素材27をダイス孔22aに設置する。また油圧シリンダ25の油圧室Cに油圧を導入し、その油圧を、素材27の据込み加工に際しアウタポンチ26_(2)の後退を妨げ得るように保持する。この状態では、インナポンチ26_(1)およびアウタポンチ26_(2)の下向きの両押圧面28_(1),28_(2)は面一になっている。
次いで、第7図(b)に示すように上部ブロック20_(2)を下降させて、押圧用ポンチ26の両押圧面28_(1),28_(2)により素材27の上端面を押圧してその素材27に据込み加工を施し、1次中間体用前駆体Pを得る。
引続き、第7図(c)に示すように、上部ブロック20_(2)に下降力を付与し、その際油圧室Cの油圧をリリーフバルブVを介し減圧することによって、アウタポンチ26_(2)を不動に保つと共に支持板24、シリンダ本体25aおよびインナポンチ26_(1)を下降させる。
これにより、前駆体Pの上端面をアウタポンチ26_(2)により押圧した状態にてインナポンチ26_(1)の作動で穿孔加工が行われ、対応盲孔17を有する1次中間体13_(1)が得られる。」

摘記事項aには明記されていないが、上部ブロックを下降させて素材を押圧するためには、何らかの駆動機構が設けられていることは、自明である。
そこで、摘記事項aを、本件発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
「ダイスに形成されたダイス孔に素材を収容して、環状のアウタポンチと該アウタポンチ内に摺動自在に挿入されたインナポンチとを用い、駆動機構により前記インナポンチを直接的に駆動して前記素材を押圧するとともに、前記駆動機構により、油が充填された油圧室を介して前記アウタポンチを駆動して前記素材を押圧して変形させ1次中間体用前駆体を得る工程と、
前駆体の上端面をアウタポンチにより押圧した状態にて、前記油圧室を減圧させることにより、前記アウタポンチを不動に保つとともに前記インナポンチを突出させ、前記1次中間体用前駆体に盲孔を成形して1次中間体を得る工程と、
からなる1次中間体の成形方法。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

3.2 刊行物2
b.(明細書段落【0009】?【0015】)
「【0009】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の鍛造用金型を詳しく説明する。なお前記従来例と同一構成部分には、同一符号を付して説明を簡略化する。この実施例の鍛造用金型は、前記図5に示した凸部1を有する製品を鍛造するためのものである。この実施例の金型は、図1に示した上型10を備えたもので、この上型10は、上パンチセット11と、この上パンチセット11をプレス装置の上盤12に取り付けるための取り付けブロックセット13とによって概略構成されている。
【0010】上パンチセット11は上パンチ本体14と押さえ部材15とからなるもので、上パンチ本体14には前記製品の凸部1を成形する凹部6を形成するための貫通孔16が金型の開閉動作方向Aに沿って穿設されている。そしてこの貫通孔16には、前記押さえ部材15がその深さ方向に沿って摺動自在に挿入されている。押さえ部材15はほぼ円柱状のもので、その後端には鍔部17が形成されている。
【0011】この押さえ部材15の下限位置は、前記貫通孔16の上部を拡径することにより形成した段部18にその鍔部17が当接することにより規制されるようになっている。そして押さえ部材15が下限位置にあるとき、その先端面は上パンチ本体14の下面と面一となるように調整されている。またこの押さえ部材15の上限位置はその後端面が前記取り付けブロックセット13に当接した位置となっている。
【0012】前記取り付けブロックセット13の中央部にはガスが充填される気密な空間19が設けられている。この空間19には図示しないガス注入路を介して窒素ガス等のガスを充填できるようになっている。この空間19と前記押さえ部材15との間には、取り付けブロックセット13に対して気密にかつ摺動自在に嵌め合わされたピストンロッド20が設けられている。このピストンロッド20と空間19とは、前記押さえ部材15の後退を抑えるガススプリング22を構成している。
【0013】この金型で鍛造を行なうには、まず上型10の空間19にガスを注入する。このときのガス圧は1ton/cm^(2)程度に設定すると良い。この状態では、空間19のガス圧によりピストンロッド20が前方に押し出されており、これにより押さえ部材15は下限位置に来ている。つぎにプリフォーム2を図2に示すように金型に収めた後、図3に示すように、約6ton/cm^(2)のプレス圧力をかけて上型10を下降させ上パンチセット11をダイ23に進入させると、上パンチ本体14によってプリフォーム2が塑性変形される。そして空間が狭まることによって逃げ場を求める材料は、ガススプリングの押圧力、約1ton/cm^(2)に抗して押さえ部材15を押し上げて貫通孔16の下部すなわち凹部6に進入し、凸部1を形成する。進入する材料の先端には常にガススプリング22により圧力が加わっており、これにより材料進入速度が抑制されている。押さえ部材15の後退は押さえ部材15が上限位置に来たときに停止し、それ以降は上パンチ本体14の下にある材料に加わるプレス圧と同等の圧が凹部6に進入した(押さえ部材15の下にある)材料に加わる。
c.(図2及び図3)
塑性変形前におけるプリフォームの上面の位置に対して、塑性変形後における押さえ部材の下面が、より高い位置にあることが、示されている。
d.(図4及び図5)
製品は、円柱状の本体部分の端面に円柱状の凸部をもつことが、示されている。

上記摘記事項b,dにおいて、製品が円柱状の本体をもつためには、金型に形成された空間が円柱状でなければならず、成形過程ではプリフォームの全外周部が空間の内周部に当接するまでプリフォームを塑性変形させねばならないこと、また、摘記事項cより、押さえ部材が上パンチ本体に対して相対的にのみならず、金型に対しても後退していることは、当業者にとって明らかである。
そこで、摘記事項bないしdを、本件発明の記載に沿って整理すると、刊行物2には次の事項が記載されていると認められる。
「金型に形成された円柱状の空間にプリフォームを収容して、環状の上パンチ本体と該上パンチ本体内に摺動自在に挿入された押さえ部材とを用い、前記上パンチ本体を下降させて前記プリフォームを押圧するとともに、ガススプリングを介して前記押さえ部材を駆動して前記プリフォームを押圧し、前記プリフォームの全外周部が前記空間の内周部に当接するまで前記プリフォームを変形させ、
ガススプリングの作用下に、前記押さえ部材を後退させるとともに前記上パンチ本体を突出させ、前記プリフォームに凸部を成形する、
製品の成形方法。」(以下、「刊行物2記載の事項」という。)

4.対比
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「ダイス」、「ダイス孔」、「素材」、「アウタポンチ」、「インナポンチ」、「油圧室」、「1次中間体用前駆体を得る工程」、「盲孔」及び「1次中間体を得る工程」が、後者の「金型」、「キャビティ」、「ワーク」、「第1のパンチ」、「第2のパンチ」、「シリンダ室」、「第1の工程」、「カップ部」及び「第2の工程」にそれぞれ相当することは明白であり、後者において「前駆体の上端面をアウタポンチにより押圧した状態にて」インナポンチを突出させることは、「加圧機構の作用下に」第1のパンチを突出させる、と言い換えることができる。また、後者の「1次中間体」と前者の「シャフト」とは、いずれも成形の結果得られる製品である限りにおいて共通する。
そうしてみると、本件発明と刊行物1記載の発明との間には、以下の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「金型に形成されたキャビティにワークを収容して、環状の第1のパンチと該第1のパンチ内に摺動自在に挿入された第2のパンチとを用い、駆動機構により前記第2のパンチを直接的に駆動して前記ワークを押圧するとともに、前記駆動機構により、油が充填されたシリンダ室を介して前記第1のパンチを駆動して前記ワーク素材を押圧して変形させる第1の工程と、
加圧機構の作用下に、前記シリンダ室を減圧させることにより、前記第2のパンチを突出させ、前記ワークにカップ部を成形する第2の工程と、
からなる製品の成形方法。」である点。
<相違点1>
キャビティが、前者では円柱状であるのに対し、後者ではこのようなものでない点。
<相違点2>
前者では第1の工程でワークの全外周部がキャビティの内周部に当接するまでワークを変形させるのに対し、後者ではこのようなものでない点。
<相違点3>
前者では第2の工程で第1パンチを後退させるとともに第2のパンチを突出させるのに対し、後者では第1のパンチを不動に保つ点。
<相違点4>
成形により得られる製品が、前者ではシャフトであるのに対し、後者では1次中間体である点。

5.当審の判断
以下、上記各相違点について検討する。

5.1 <相違点1>について
プリフォーム、すなわち本件発明におけるワークの外周部を、円柱状に成形するために、金型に円柱状の空間、すなわちキャビティを形成することは、刊行物2に記載されている。
刊行物1記載の発明と刊行物2記載の事項とは、共に製品の成形方法の分野に係るものであるから、刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明に適用して、<相違点1>に係る発明特定事項を本件発明のものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

5.2 <相違点2>について
プリフォーム、すなわちワークの全外周部が円筒状の空間、すなわちキャビティの内周部に当接するまでワークを変形させることは、刊行物2に記載されている。刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明に適用して<相違点2>に係る発明特定事項を本件発明のものとすることは、5.1に述べたとおり、当業者が容易に想到し得る。
刊行物2記載の事項では、ワークの全外周部がキャビティの内周部に当接するまでワークを変形させる工程と凸部を成形する工程とに、本件発明のような第1の工程、第2の工程といった区別はないが、ワークの全外周部がキャビティの内周部に当接するまでワークを変形させることが、成形過程中に、前後を問わずいずれかの時点で達成されれば製品を得る上で充分であることは当業者にとって明らかであるから、本件発明のように第1の工程においてワークの全外周部がキャビティの内周部に当接するまでワークを変形させることは、格別の技術的な意義を有しない、設計上の事項というべきである。

5.3 <相違点3>について
刊行物2記載の事項では、押さえ部材を後退させるとともに上パンチ本体を突出させてプリフォームに凸部を成形しているが、成形工程における各部材の作用に着目すると、パンチの押し込み量が大きい、円筒状の本体部分の成形を担当する上パンチ本体が、刊行物1記載の発明のインナーポンチ、すなわち本件発明の第2のパンチに相当し、押さえ部材がアウターポンチ、すなわち第1のパンチに相当するものであることは明らかであるから、刊行物2には第1パンチを後退させるとともに第2のパンチを突出させることにより端面に段差を成形することが記載されているということができる。刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明に適用して<相違点3>に係る発明特定事項を本件発明のものとすることは、5.1に述べたとおり、当業者が容易に想到し得る。
なお、請求人は平成20年1月10日付意見書において、「刊行物2ではガススプリング22を用いており、本願の『油が充てんされたシリンダ室』と異なります。」と主張しているが、上記のとおり、各部材の作用に着目するとかかる相違は問題にならないから、請求人の主張を採用することはできない。

5.4 <相違点4>について
本件発明のシャフトと刊行物1記載の発明の1次中間体とは、外周部と、その中心部に盲穴状のカップ部を有するものである点で共通しているため、刊行物1記載の発明の1次中間体を成形する方法を、シャフトの成形方法に転用することは、当業者が容易になし得る。

5.5 まとめ
本件発明には、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の事項とに基いて普通に予測される範囲を超える格別の作用効果を見出すこともできないから、本件発明は刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるため、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-18 
結審通知日 2008-02-19 
審決日 2008-03-03 
出願番号 特願2000-225845(P2000-225845)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 芳之  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 豊原 邦雄
加藤 昌人
発明の名称 シャフトの成形方法及びその装置  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 佐藤 辰彦  

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