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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B43K
管理番号 1176469
審判番号 不服2007-9275  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-02 
確定日 2008-04-17 
事件の表示 平成 9年特許願第 58445号「筆記具の軸」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月 8日出願公開、特開平10-236066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成9年2月26日の出願であって、平成19年2月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月2日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月26日付けで手続補正書が提出されたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成19年8月30日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は同年11月2日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

第2.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年11月2日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のものと認める。
「【請求項1】リフィール3を貫通させる軸先端口4における奥部に、内径がリフィール3の外径より僅かに大きいリフィール支持孔部5を所定の寸法精度で設けるとともに、そのリフィール支持孔部5の外側で軸先端口4における入口部に、リフィール支持孔部5よりも内径が大きくて、且つ、その内面箇所にゲートマーク6が現れるようにした拡口部7を設けた筆記具の軸であって、ゲートマーク6が多少突出しても吸収できるようにリフィール支持孔部5と拡口部7との間に段差を設け、上記段差を、拡口部7の内面に現れるゲートマーク6の突出高さよりも大きくなるように設定し、それにより前記所定の寸法精度を所望の値に高めることを可能としたことを特徴とする筆記具の軸。」

第3.当審の拒絶理由
当審において平成19年8月30日付けで通知した拒絶の理由の理由2の概要は、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である実公昭48-7883号公報に記載された発明(以下、「刊行物1」という。)及び周知事項(特開平8-99337号公報、特開平7-299985号公報、実願平4-51878号(実開平6-5930号)のCD-ROM、特開平8-11170号公報、特開平8-11171号公報、特開平8-197565号公報、特開平8-267983号公報、特開平9-39474号公報、特開平8-90984号公報)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4.引用例
上記刊行物1には、以下の記載が図示とともにある。
ア.「先端にボール5を装着し且つ内部にインキを装填した中芯4を、その先端が出没孔3より出没できるように軸胴1内に設けたものに於いて前記出没孔3部分にこれより大径なインキ溜め6を形成したことを特徴とするボールペン。」(実用新案登録請求の範囲)
イ.「図中1は合成樹脂製の軸胴で、先端に取り付けた先金2には中芯出没孔3が設けられ、この出没孔より先端部が出没できるように前記軸胴1内に中芯4が内装されている。...中芯4先端部は出没孔3に摺接しながら出没されるようになっており...出没孔3周部に大径なインキ溜め6が形成されている。」(第1頁右欄2?12行)
ウ.第2図から、先金2の奥部の出没孔3、入口部のインキ溜め6、出没孔3とインキ溜め6の間の段差が看取できる。
刊行物1の出没孔3は、中芯4を出没させるものである(前記記載ア.イ.参照)からその内径は中芯4の外径より大きいこと、出没孔3は中芯4をがたつかない様に保持する必要があるから出没孔3の内径と中芯4の外径の差は大きくできないこと、出没孔3に摺接しながら中芯4が出没する(前記記載イ.参照)ことからみて、その内径は中芯4の外径より僅かに大きいと認められる。
よって、上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「合成樹脂製の軸胴先端に取り付けられた先金2の奥部に、中芯4先端部を出没させる内径が中芯4の外径より僅かに大きい中芯出没孔3を設けるとともに、出没孔3周部で先金2の入口部に、大径なインキ溜め6を形成し、出没孔3とインキ溜め6との間に段差が設けられたボールペンの軸胴1。」
第5.対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比する。
a.刊行物1記載の発明の「出没させる」、「中芯出没孔3」、「インキ溜め6」、「軸胴1」は、それぞれ、本願発明の「貫通させる」、「リフィール支持孔部」、「拡口部」、「筆記具の軸」に相当する。
b.本願明細書には、筆記具の種類は自由(【0008】)とあるものの、ノック式ボールペンに係わる実施例が記載されていることから、本願発明は、ボールペンを含むことが明らかであって、本願発明の「リフィール」とは、ボールペンの「リフィール」であると解すことができる。一方、刊行物1記載の発明の「中芯」は、「先端にボール5を装着し且つ内部にインキを装填した」(前記記載ア.参照)ものであって、ボールペンの軸胴内から先端を出没させるものであるから、本願発明のボールペンの軸内部に収納された「リフィール」に相当する。
c.刊行物1記載の発明の「先金2」と、本願発明の「軸先端口」は、「孔を有する軸の先細先端部」で共通する。
よって、両者は、「リフィールを貫通させる孔を有する軸の先細先端部における奥部に、内径がリフィールの外径より僅かに大きいリフィール支持孔部を設けるとともに、そのリフィール支持孔部の外側で先細先端部における入口部に、リフィール支持孔部よりも内径が大きい、拡口部7を設けた筆記具の軸であって、リフィール支持孔部と拡口部との間に段差を設けた筆記具の軸。」で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]先端に孔を有する軸の先細先端部が、本願発明では、軸先端口であるのに対し、刊行物1記載の発明は先金である点。
[相違点2]拡口部について、本願発明では、その内面箇所にゲートマークが現れるようにし、ゲートマーク6が多少突出しても吸収できるように段差を、ゲートマーク6の突出高さよりも大きくなるように設定したと特定しているのに対して、刊行物1記載の発明は、前記特定をしていない点。
[相違点3]リフィール支持孔部を、本願発明では、所定の寸法精度で設けると特定しているのに対し、刊行物1記載の発明は、前記特定をしていない点。
[相違点4]本願発明では、所定の寸法精度を所望の値に高めることを可能としたと特定しているのに対し、刊行物1記載の発明は、前記特定がない点。

第6.判断
上記相違点1について検討する。
先端に孔を有する軸の先細先端部を軸と一体に製作することは、従来から慣用手段であるから、刊行物1記載の発明の軸の先端部に別に製作した先金を取り付け先細先端部を先金とすることに代えて、軸の先細先端部を一体のものとし、軸先端口とすることは、単なる設計変更にすぎない。

上記相違点2について検討する。
ゲートマークが現れるということは、本願発明の筆記具の軸は射出成形で形成されたものと認められるが、筆記具の軸を射出成形で形成することは、従来から周知・慣用手段(特開平8-99337号公報[【0002】?【0003】「【従来の技術】近年においては、プラスチック素材と成形技術が著しく進歩しており、そのため、プラスチック製品の需要が拡大されている。特に、成形技術の中でも生産性に優れている射出成形分野の発展は目覚ましいものがある。ここで、文具におけるプラスチック化の傾向も例外ではなく、従来、金属製品であったボールペンやシャープペンシルの軸...プラスチック化されている。...上述した筆記具は図9に示すような射出成形装置で成形されるのが一般的である。」]、特開平7-299985号公報[【0002】「【従来の技術】従来、ボールペン等の筆記具は、射出成形用のゲート部が軸体先端縁に設けられている。」]、実願平4-51878号(実開平6-5930号)のCD-ROM[【0001】「本考案は...射出成形用金型装置に関するものであり」、【0010】「成形品(筆記具などの軸体)12を成形する」]、特開平8-11170号公報[【0002】「射出成形用金型の従来例を図3、図4に示し説明する。キャビテイープレート101には成形品(筆記具の軸)が成形される」]、特開平8-11171号公報[【0001】「本発明は...射出成形用金型装置に関し、例えば、筆記具の軸体やキャップ...を成形するものに関するものである。」]、特開平8-197565号公報[【0006】「射出成形で本体軸aを調達することが考えられる。」]等を参照。)、であって、刊行物1における筆記具の軸を、上記射出成形技術により成形しようとすることは、当業者が容易に考え付くことである。
一方、筆記具においては外観の見栄えを良好にすることが、常に求められており、そのため、筆記具の成形に射出成形技術を適用するに際しては、成形時に必ず形成されて、美観を損なう金型の樹脂注入口跡(ゲートマーク)を目立たないようにし、見栄えが悪くならないようにしている(上記特開平7-299985号公報[【0003】「ゲート部を軸体の外方から目立つ位置(例えば軸体の側面)に設けると、ゲート跡(通常、白化している)により軸体の美観が損なわれてしまう。」、【0024】「軸体のねじ部後方に凹凸状の滑り止め部を一体成形し、前記滑り止め部又は前記滑り止め部近傍に射出成形用のゲート部を設ける構成によって、ゲート跡を目立たせず、軸体の美観を損ねることがない。その上、軸体を透明又は半透明のプラスチック材料により構成すると、前記凹凸状の滑り止め部の乱反射によって白化したゲート跡をより一層目立たせない。」]、特開平8-267983号公報[【0012】「ペン先ホルダー1及び軸筒2の射出成形時のゲート口は、外部から見えない部位に位置させることが美観を保つ上で好ましいばかりか、ペン先を保護するキャップ(図示せず)などとの嵌合を考慮すると寸法管理のしにくいゲート口は内部に形成することが好ましいといえる」]、特開平9-39474号公報[【0012】「本発明のノックカバー1は、樹脂を材料として金型により射出成形する場合に、注入ゲート部を陥没部分に設けることができるので、金型作成上、又は成形品の外観上も都合が良いという利点がある。」]、特開平8-90984号公報[【0004】?【0005】「射出成形の際のゲート部及びゲート部近傍に白化や濁りが生じ、美観が損なわれる。また、ゲート残りによっても、美観が損なわれがちである。本発明は、前記従来の問題点を解決するものであって、...射出成形用のゲート部によって全体の美観が損なわれることがない筆記具用キャップを提供しようとする」]等を参照。)。
上記周知技術からみて、引用発明における筆記具の軸を射出成形技術により成形する際に、外観の見栄えを良好にするためゲートマークが目立たない箇所に現れるように設計することは当然のことであって、拡口部内面箇所は外部から見えない箇所であり、其所に現れるゲートマークも見えないことが明らかであり、上記特開平8-267983号公報記載のペン先ホルダー1において、その内面にゲートマークが現れるように設計している[【0009】「ペン先ホルダー1の内孔6は、小径部6aと小径部6aより先端側の大径部6bが形成されている。...大径部先端部分には凹部8が形成されておりこの部分に射出成形時のゲート口(金型の樹脂流入口跡)が位置している。」]ように、内面箇所にゲート口を設けることを妨げる特段の技術的困難性が認められないから、ゲートマークが現れる箇所として、拡口部内面箇所を選択することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
又、段差を、ゲートマーク6が多少突出しても吸収できるようにゲートマーク6の突出高さよりも大きくなるように設定した点は、ゲートマークが現れる箇所を拡口部内面にしたことに伴い、該箇所はリフィールが挿通する場所であることから、該箇所に現れるゲートマークがリフィールの挿通を阻害しないように、段差の高さを設定したものであり、単なる設計事項にすぎない。
そして、この点により格別な効果も生じない。

上記相違点3について検討する。
軸の先細先端部の内面のリフィール支持孔部は、リフィールの先端部をぶれないように支持する場所であり、又、リフィールが出没する場合は、その内径がリフィールの外径より僅かに大きくなるように寸法精度を高める必要があるから、軸の先細先端部にリフィール支持孔部を設けるにあたり、所定の寸法精度で設けることはきわめて当然に通常行われていることであり、刊行物1記載の発明においても、明記されていなくても、リフィール支持孔部は所定の寸法精度で設けると解されるので、相違点3は実質的な相違点ではない。

上記相違点4について検討する。
所定の寸法精度を所望の値に高めることを可能としたと特定した点は、本願発明の他の発明特定事項によって必然的にもたらされる効果を記載したにすぎず、刊行物1記載の発明に上記相違点1に係る構成を採用したものにおいても奏する効果と認められるから、相違点4は実質的な相違点とは認められない。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-12 
結審通知日 2008-02-19 
審決日 2008-03-03 
出願番号 特願平9-58445
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B43K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 尾崎 俊彦
藤井 靖子
発明の名称 筆記具の軸  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 篠崎 正海  
代理人 島田 哲郎  

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