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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1176509
審判番号 不服2004-9975  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-13 
確定日 2008-04-16 
事件の表示 特願2002- 93871「無線通信方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月17日出願公開、特開2003-298442〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は、平成14年3月29日に出願されたものであって、原審において、平成16年1月6日付けで拒絶の理由が通知され、それに対して、平成16年2月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものの、平成16年4月7日付けで拒絶査定されたので、平成16年5月13日付けで拒絶査定不服の審判が請求され、平成16年5月27日付けで請求の理由を記載した手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1乃至5に係る発明は、平成16年2月6日付け提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された以下のとおりの事項により特定されるものである。
「【請求項1】 入力されたデータを変調して得たIF帯変調信号に局部発振信号を乗積して得た無線周波数帯変調信号と、該周波数変換で使用した局部発振信号の電力の一部を合成して送信アンテナより送信する送信機と、
受信アンテナにより受信した前記送信機からの合成信号を検波してIF帯変調信号を得る検波回路と、このIF帯変調信号から受信データを復調するIF信号復調部とを有する受信機と、
の間の無線通信方法において、
前記受信機においては、平面プリント受信アンテナ素子と平面受信回路とを併せた平面回路を1構成要素とし、該構成要素となる平面回路を複数ならべ、
送信機より送信されるRF帯変調信号とこれとコヒーレントな位相雑音特性をもった局部発振信号を併せて受信し、該両成分の乗積成分を生成することでIF帯送信源信号を復元して検波出力とし、
個々の平面回路からの検波出力を電力合成し、
該電力合成された検波出力を前記IF信号復調部に受け渡すことから成る無線通信方法。
【請求項2】 入力されたデータを変調して得たIF帯変調信号に局部発振信号を乗積して得た無線周波数帯変調信号と、該周波数変換で使用した局部発振信号の電力の一部を合成して送信アンテナより送信する送信機と、
受信アンテナにより受信した前記送信機からの合成信号を検波してIF帯変調信号を得る検波回路と、このIF帯変調信号から受信データを復調するIF信号復調部とを有する受信機と、から構成される無線通信システムにおいて、
前記受信機における前記受信アンテナと、受信した合成信号を検波する前記検波回路は、
平面プリント受信アンテナ素子と平面受信回路とを併せた平面回路を1構成要素とし、
該構成要素となる平面回路を複数ならべ、その検波出力を電力合成する回路と、から構成して、
送信機より送信されるRF帯変調信号とこれとコヒーレントな位相雑音特性をもった局部発振信号を併せて受信し、該両成分の乗積成分を生成することでIF帯送信源信号を復元して前記電力合成回路の出力とし、該電力合成回路の出力を前記IF信号復調部に受け渡すことから成る無線通信システム。
【請求項3】 前記平面プリント受信アンテナ素子は、パッチアンテナである請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】 前記平面受信回路は、アンプ回路および2乗器を有する請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項5】 通信する各局に、それぞれ送信機と受信機を備えて、双方向通信可能に構成した請求項2に記載の無線通信システム。」(以下、請求項1乃至5に係る各発明をそれぞれ「本願発明1」乃至「本願発明5」という。)

3.引用文献
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開平2-44902号公報(平成2年2月14日特許庁発行))には、図面と共に、以下の記載がなされている。

「(産業上の利用分野)
本発明はアンテナ装置に係り、特にいわゆる平面アンテナの如き多素子アンテナに関する。
(従来の技術)
例えば衛星放送の受信アンテナには、パラボラアンテナの他に平面アンテナと称される多素子アンテナが用いられる。この種の多素子アンテナは、例えば第8図に示す如く複数のアンテナ素子81、…、同81を平面上に配置したもので、各アンテナ素子81の受信出力を合成器82にて合成し、その合成出力を増幅回路83にて増幅する構成となっている。」(第1頁左下欄第11行?同頁右下欄第2行目)

「(発明が解決しようとする課題)
ところで、上述した如き多素子アンテナでは、アンテナ素子と増幅回路間の結合線路における伝搬損失と合成器における合成損失とは当該アンテナ系の雑音指数を劣化させる要因である。ところが、上述したように、従来の多素子アンテナでは、各アンテナ素子と増幅回路間に合成器が介在するので、結合線路長は増大傾向にあり、伝搬損失が大きく、これを低減させることは困難である。故に、従来の多素子アンテナの構成では良好な雑音指数を有するアンテナ系を実現することが困難であるという問題点がある。
本発明は、このような従来の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、伝搬損失の低減を図り得る新規構成の多素子アンテナたるアンテナ装置を提供することにある。」(第1頁右下欄第3?18行目)

「本発明のアンテナ装置は、少なくとも1つのアンテナ素子とこのアンテナ素子の出力を増幅するまたはこのアンテナ素子を励振する増幅回路とを集積化してなるマイクロ波ICを複数個配列したことを特徴とするものである。」(第2頁左上欄第2?6行目)

「受信アンテナとして用いる場合には、マイクロ波ICは、少なくとも1つのアンテナ素子とこのアンテナ素子の出力を増幅する増幅回路とを集積化したもので、このマイクロ波ICの複数個の出力(即ち各増幅回路の出力)が合成されることになる。
ここに、アンテナ素子と増幅回路は近接配置されるので、両者間の結合線路長は従来よりも大幅に短縮化でき、伝搬損失を大幅に低減し得ることとなる。」(第2頁左上欄第10?19行目)

「第1図は本発明の第1実施例に係るアンテナ装置(多素子アンテナ)を示す。このアンテナ装置は、アンテナ素子2と増幅回路3とを集積化してなる複数個のマイクロ波IC12と合成器8とからなっている。空間を伝搬してくる受信電波1はそれぞれのマイクロ波IC12内のアンテナ素子2で電気信号に変換され、増幅回路3により増幅される。増幅回路3の出力、つまりマイクロ波IC12それぞれの出力は合成器8により合成され、出力端子11に導かれ、出力される。」(第2頁右上欄第3?12行目)

「基板29は、例えばアルミナセラミックス等の絶縁性基板からなり、アンテナ素子21はこの基板29の上面に厚膜技術または薄膜技術によって形成される。このアンテナ素子21は、例えば第3図(a)?同(d)に示すように各種の形態を採ることかできる。扱う電波が円偏波か直線偏波か等によって最適な形態を選定することになる。なお、基板29としてシリコンやガリウムひ素等の半導体基板を採用し、アンテナ素子21と増幅回路22を同一基板に形成すれば、ホンディングワイヤ27を省略できる。」(第2頁左下欄第9?19行目)

「次に、第4図は本発明の第2実施例を示す。
この第2実施例に係るマイクロ波ICl3は、混合回路4および局部発振信号形成回路5を前述したアンテナ素子1および増幅回路3と共に集積化したものからなり、増幅回路3の出力(高周波信号)を混合回路4にて中間周波帯の信号へ変換してから合成器8に出力するようにしたものである。
このような構成とする場合、各マイクロ波ICの出力間の同期をとる必要がある。そこで、局部発振信号基準信号発生回路17を設け、その出力(基準信号)を分配器10を介して各マイクロ波IC13の局部発振信号形成回路5へ供給し、各局部発振信号形成回路5は入力された基準信号に従って相互に同期がとれた所定周波数の局部発振信号を発生し、それを対応する混合回路4へ出力するようにしてある。
なお、局部発振信号基準信号発生回路17にて発生される信号は、それぞれのマイクロ波IC13内の局部発振信号形成回路5の出力信号の同期を取るのが目的であるので、局部発振信号基準信号発生回路17にて発生される信号は必ずしも局部発振信号の周波数に一致している必要はなく、例えば局部発振信号の周波数の1/2,1/3,2倍,3倍等でも良い。又、局部発振信号形成回路5は局部発振信号基準信号発生回路17の出力周波数と局部発振周波数との関係に応じ、逓倍回路、分周回路を含み、増幅回路もしくは弛張発振回路等により構成される。」(第2頁右下欄第14行?第3頁右上欄第1行目)

すなわち、引用文献1には、
「従来は、複数のアンテナ素子を平面上に配置し、各アンテナ素子の受信出力を合成した後、増幅回路で増幅していたので、結合線路長が増大し、伝搬損失が大きくなる欠点があったので、アンテナ素子とこのアンテナ素子の受信出力を増幅する増幅回路とを集積化してなるマイクロ波ICの複数個の出力を合成する合成器とでアンテナ装置を構成し、このアンテナ素子と増幅回路は近接配置されて両者間の結合線路長は従来より大幅に短縮化でき、伝搬損失を低減化したアンテナ装置であって、更に前記マイクロ波ICは、アンテナ素子と該アンテナ素子の出力を増幅する増幅器と、高周波信号を中間周波帯の信号に変換する混合回路からなるものであり、該混合回路に与えられる局部発振信号は、並列接続された各々のマイクロ波ICに共通な局部発振信号基準信号発生回路で発生された信号から分配器を介して与えられるものであること、及び、前記アンテナ素子として、基板上に厚膜技術又は薄膜技術によって形成された各種の形状からなるものが用いられること」
が記載されている(以下、これを「引用発明1」という)。

(2)引用文献2乃至4
A.引用文献2
同じく、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(特開平5-48491号公報(平成5年2月26日特許庁発行))には、図面と共に、以下の記載がなされている。

「【0002】
【従来の技術】従来のワイヤレス伝送方式に用いる送信回路と受信回路の構成を図5と図6にそれぞれ示す。まず、送信回路1では、中間周波信号を周波数変換回路11に入力し、局部発振器12からの局部発振周波信号と混合して高周波の送受信周波信号に変換し、必要な周波数の信号を増幅回路13により増幅して、出力回路14を介してアンテナ15から送信する。次に、受信回路2では、アンテナ25から入力回路24を介して受信した受信信号のうち、必要な周波数の信号を増幅回路23により増幅し、局部発振器22からの局部発振信号と混合して、周波数変換回路21により中間周波信号に変換して出力する。なお、出力回路14および入力回路24では、インピーダンスの整合や平衡/不平衡の変換などを行うものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、従来のワイヤレス伝送方式では、データや音声などの信号をワイヤレスで送受信する複数の端末器の各々が送信回路1と受信回路2を備え、これらが局部発振器12及び22を備えているために、局部発振周波数が高くなると、局部発振器12,22が高価になり、各端末器に接続する送受信回路のコストが上昇するという問題があった。
【0004】本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、局部発振周波数が高い場合でも端末器の送受信回路を安価に構成できるようなワイヤレス伝送方式を提供することにある。」

「【0008】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例によるワイヤレス伝送方式に用いる特定の端末器の送信回路1のブロック図であり、図2は他の端末器における受信回路2のブロック図である。特定の端末器の送信回路1では、中間周波信号を周波数変換回路11に入力し、局部発振器12からの局部発振信号と混合して送受信周波信号に変換する。また、局部発振周波数の基準信号を増幅回路16により増幅し、混合回路17により送受信周波信号と混合して、出力回路14を経て、アンテナ15から同時に送信する。一方、他の端末器の受信回路2では、アンテナ25から受信した信号を、入力回路24を経て、第1のフィルタ26と第2のフィルタ27により基準信号と受信信号とに分離し、基準信号を増幅回路28により増幅して局部発振周波信号を作成し、増幅回路23により増幅した受信信号と共に周波数変換回路21に入力し、両信号を混合して中間周波信号に変換し、出力する。また、他の端末器の送信回路でも図2に示した受信回路2と同様に、特定の端末器の送信回路1が送出した基準信号から局部発振周波信号を作成し、これを中間周波信号と混合して送受信周波信号に変換して送信する。」

「【0010】
【発明の効果】請求項1記載の発明によれば、上述のように、特定の端末器の送信回路から送出された基準信号を用いて一般の端末器の送受信回路の局部発振周波信号を作成するので、一般の端末器の送受信回路に局部発振器が不要になり、送受信回路を安価に構成できるという効果がある。さらに、従来のように各端末器の送受信回路がそれぞれ独立した局部発振器を備える場合には、各局部発振器の周波数変動が問題となるのに対して、本発明では、局部発振周波数を全ての端末器の送受信回路で共用することによって、中間周波数及び送受信周波数が安定し、且つ同期も採り易くなるという効果がある。」

B.引用文献3
又、同じく、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3(特開2001-53640号公報(平成13年2月23日特許庁発行))には、図面と共に、以下の記載がなされている。

「【0002】
【従来の技術】広帯域なディジタル信号やアナログ信号を高品質に伝送するための無線通信システムでは、その占有帯域の広さと現状でのマイクロ波帯における周波数の不足から、特にSHF帯以上の高周波数帯が用いられ、例えばミリ波を用いた無線LAN、無線ホームリンク、無線映像伝送システム、無線路車間(車車間)通信システムにおける活用が検討されている。一般的に、高い無線周波数帯を使用する無線通信システムにおいては、送信機は中間周波数帯において変調信号の生成と複数チャネルの多重処理を行った後に、これを局部発振源を用いて使用無線周波数帯へ周波数変換(アップコンバート)する。逆に受信機では受信した無線周波数帯信号を局部発振源を用いて中間周波数帯へ周波数変換(ダウンコンバート)したのちチャネルの抽出と信号の復調を行う。
【0003】このとき送受信機双方で用いる局部発振源間は同期している必要があり、周波数差または位相差に時間変動が生じた場合、これがダウンコンバート後の変調信号に重畳されて復調信号の品質劣化の原因になる。したがって、送信機及び受信機双方に非常に周波数安定度の高い局部発振源を備える必要がある。従来、周波数安定度の高い局部発振器を実現するためにPLL(Phase Lock Loop)構成を用いたフィードバック制御により安定化をはかった局部発振器を用いる方法、及び信号復調時にPLL構成による同期搬送波再生回路を用いる方法が一般的であった。」

「【0010】図1はこの発明の無線通信装置の第1の実施形態を示す図である。図において、この発明の無線通信装置10は、無線送信された信号を受信側で中間周波数帯へダウンコンバートする無線通信装置であり、送信機11と受信機12とを備えている。
【0011】送信機11は、入力された信号を変調して中間周波数帯変調信号(以下、「IF帯変調信号」という)を出力する中間周波数帯変調回路111と、局部発振信号(以下、「無変調キャリア」という)を出力する局部発振器117と、IF帯変調信号および無変調キャリアを乗積して無線周波数帯変調信号(以下、「無線変調信号」という)を出力する乗積器112と、乗積器112からの無線変調信号および局部発振器117から分岐して出力された無変調キャリアを合成しその合成信号を出力する合成器114と、その合成信号を無線伝送する送信アンテナ116と、を備えている。
【0012】なお、乗積器112と合成器114との間には、乗積器112からの無線変調信号のうち、不要成分を除去する帯域ろ波器113を介在させている。また、合成器114と送信アンテナ116との間には、合成器114からの合成信号を増幅する増幅器115を介在させている。
【0013】一方、受信機12は、送信アンテナ116からの合成信号を受信する受信アンテナ121と、受信アンテナ121が受信した合成信号からIF帯変調信号を得る二乗器124と、二乗器124からのIF帯変調信号を復調する中間周波数帯復調回路125と、を備えている
【0014】なお、受信アンテナ121と二乗器124との間には、受信アンテナ121からの合成信号を増幅する増幅器122と、その増幅器122からの合成信号のうち、不要成分を除去する帯域ろ波器123とを直列に介在させている。
【0015】上記送信機11の中間周波数帯変調回路111が出力するIF帯変調信号(中心周波数fIF)のスペクトル波形を、図1の左上に示している。また、送信アンテナ116と受信アンテナ121との間の空間伝送路中における合成信号のスペクトル波形を、図1の中央上に示している。この合成信号は、無変調キャリア(中心周波数fc )と、この無変調キャリアによりアップコンバートされた無線変調信号(中心周波数fc +fIF)とから構成されている。さらに、受信機12の二乗器124から出力されたIF帯変調信号(中心周波数fIF)のスペクトル波形を、図1の右上に示している。
【0016】このように、この第1の実施形態では、IF帯変調信号を無線周波数帯にアップコンバートする際に用いた無変調キャリアを、そのアップコンバートにより得られた無線変調信号と同時に無線送信し、受信側ではその受信信号の無変調キャリア成分と無線変調信号成分との乗積成分を生成することで、無線変調信号を中間周波数帯にダウンコンバートするようにしている。
【0017】すなわち、送信側では、無線変調信号と無変調キャリアとを同時に伝送し、受信側では、受信した無線変調信号を中間周波数帯へダウンコンバートする際に、その無線変調キャリアを同期局部発振源として使用する。このため、受信機12側では、本来高精度に周波数を安定させる必要のある受信機側局部発振器を不要にすることができ、受信機12の構成を簡単化できると同時にその製造コストを削減することができる。
【0018】また、送信機11で用いる局部発振器117には高い周波数安定度及び優れた位相雑音特性が要求されなくなるため、その製造コストを削減することができる。
【0019】さらに、受信機12でダウンコンバートに使用する無変調キャリアは送信側で用いたものと同一であり同期しているため、ダウンコンバート後のIF帯変調信号には、送信機11側の局部発振器117に含まれる位相雑音による品質劣化が生じるようなことはなく、高品質な信号伝送が可能になる。」

「【0021】図2はこの発明の無線通信装置の第2の実施形態を示す図である。この第2の実施形態における無線通信装置20は、受信機22の構成が上記した第1の実施形態と相違している。送信機21は、第1の実施形態での送信機11と同一の構成を有しており、同一の構成要素には、送信機11側の各構成要素に付した符号の下から3桁目の「1」を「2」に書き換えて符号を付すこととし、その説明は省略する。
【0022】受信機22は、送信アンテナ216からの合成信号を受信する受信アンテナ221と、受信アンテナ221が受信した合成信号を増幅する増幅器222と、増幅器222が増幅した合成信号から無変調キャリア成分を抽出する帯域ろ波器223と、その帯域ろ波器223の出力より無変調キャリアを再生する注入同期型発振器224と、増幅器222からの無線変調信号および注入同期型発振器224からの無変調キャリアを乗積してIF帯変調信号を得る乗積器225と、乗積器225からのIF帯変調信号を復調する中間周波数帯復調回路226と、を備えている。
【0023】なお、注入同期型発振器224に代えて、単一同調増幅器を使用するようにしてもよい。
【0024】上記送信機21の中間周波数帯変調回路211が出力するIF帯変調信号(中心周波数fIF)のスペクトル波形を、図2の左上に示している。また、送信アンテナ216と受信アンテナ221との間の空間伝送路中における合成信号のスペクトル波形を、図2の中央上に示している。この合成信号は、無変調キャリア(中心周波数fc )と、この無変調キャリアによりアップコンバートされた無線変調信号(中心周波数fc +fIF)とから構成されている。さらに、受信機22の乗積器225から出力されたIF帯変調信号(中心周波数fIF)のスペクトル波形を、図2の右上に示している。
【0025】上記構成の無線通信装置20は、第1の実施形態の無線通信装置10と同様の作用効果を発揮するとともに、第1の実施形態では、上記したように、第2次相互変調ひずみによる信号品質劣化に対する防止策、例えば無線変調信号と無変調キャリアとの周波数距離を無線変調信号帯域以上にする等の対処が必要であったが、この第2の実施形態では、受信機22側で無変調キャリアのみを抽出し増幅するブランチを設けたので、このような防止策を不要とすることができる。
【0026】さらに、注入同期型発振器224を用いて無変調キャリアを再生することで、雑音特性の優れたIF帯変調信号を得ることができる。」

C.引用文献4
更に、同じく、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4(特開2002-9655号公報(平成14年1月11日特許庁発行))には、図面と共に、以下の記載がなされている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、無線通信システム、特にSHF帯以上の高周波数帯で用いる無線通信(例えば、ミリ波帯を用いた無線LAN、無線ホームリンク、無線映像伝送システム、無線路車間通信システム、無線車車間通信システム等)の双方向無線通信において、ディジタル信号またはアナログ信号を高速かつ高品質に伝送する上で好適な双方向無線通信システムおよび双方向無線通信方法に関する。」

「【0019】図2は、第1無線局B1と第2無線局B2との間での双方向通信を行う双方向無線通信システムの第2実施形態を示すもので、その特徴を端的に述べるなら、第1無線局B1と第2無線局B2の両方が内部に局部発振信号源をもち、各無線局で各々送信すべき中間周波数帯変調信号を局部発振信号で無線周波数帯にアップコンバートすると同時に、得られた無線変調信号と局部発振信号を同時に送信し、各無線局で受信する場合には、無線周波数帯変調信号成分と局部発振信号成分を含む受信無線信号から、両成分の乗積成分を生成することで、中間周波数帯変調信号を生成するのである。すなわち、双方向通信を行う2つの無線局は、送信時にのみ自局の局部発振信号源の局部発振信号を用い、受信時には自局の局部発振信号源の局部発振信号を用いないので、両無線局が周波数および位相の同期がとれた局部発振信号源を備える必要がないのである。
【0020】なお、本実施形態における第1無線局B1と第2無線局B2は、送信回路30aと受信回路30bを独立して備える同一の構成としてあり、以下、第1無線局B1の構成についてのみ説明する。
【0021】第1無線局B1の送信回路30aは、内部に局部発振信号源1を有しており、無線周波数よりも低い中間周波数帯において変調信号を生成する中間周波数帯変調信号生成回路2の出力(中間周波数帯変調信号)と局部発振信号源1からの局部発振信号を乗積器3で乗積することで、変調信号を無線周波数帯域へアップコンバートする。すなわち、中間周波数帯変調信号生成回路2は、「無線周波数よりも低い中間周波数帯において変調信号を生成する変調信号生成手段」として機能し、乗積器3は、「変調信号生成手段により生成された変調信号を局部発振信号を用いて無線周波数帯へアップコンバートすることで送信無線変調信号を生成する送信無線変調信号生成手段」として機能する。
【0022】上記のように生成された送信無線変調信号は、帯域フィルタ4で不要成分を除去した後、加算器5によって局部発振信号を加算され、増幅器6により増幅され、送信アンテナ7aから送信される。すなわち、加算器5,送信アンテナ7a等が協働することで、「送信無線変調信号生成手段が用いた局部発振信号を無線変調信号と共に無線送信する送信手段」として機能する。
【0023】また、第1無線局B1の受信回路30bは、通信相手となる第2無線局B2からの無線信号を受信アンテナ7bで受信し、帯域フィルタ8で不要成分を除去し、増幅器9により増幅した後、2乗器31(増幅器等の非線形効果を有するデバイスにより実現可能)等により、無線局B2より受信した無線信号と局部発振信号成分の乗積成分を生成することで、無線信号を中間周波数帯へダウンコンバートし、この中間周波数帯変調信号を中間周波数帯変調信号復調回路11によって復調する。すなわち、受信アンテナ7b,2乗器31等が協働することで、「通信相手の無線局から受信した無線変調信号成分と局部発振信号成分の乗積成分を生成することで、受信無線変調信号を中間周波数帯の変調信号へダウンコンバートする受信手段」として機能する。
【0024】上述した第1無線局B1と第2無線局B2とで双方向無線通信を行う方式によれば、相手局からの信号を受信する際には、通信相手から送信された無線変調信号成分と局部発振信号成分を受信し、両成分の乗積成分を生成することで受信無線信号を中間周波数帯へダウンコンバージョンするので、双方の無線局で使用する局部発振信号源による局部発振信号の周波数および位相の同期がとれている必要がないため、低コストな双方向無線通信システムを実現できる。また、上述した第2実施形態では、第1無線局B1と第2無線局B2とで異なる送信無線周波数帯を用いるように設定し、周波数分割復信方式を実現するものとしてある。」

すなわち、引用文献2乃至4には、
「ミリ波帯で用いる無線通信システムにおいて、送信機は、送信すべき中間周波数帯変調信号と局部発振器の発振信号とを乗積器・周波数変換回路に加えて無線変調信号を得、該無線変調信号に前記局部発振器の発振信号を加えて、無線変調信号と局部発振信号とを同時に送信するようにし、又、受信機は、無線変調信号と局部発振信号とを受信し、受信信号から無線変調信号と局部発振信号とを分離し、両成分を加算器・混合回路に入力して中間周波数帯変調信号を得るようにした、いわゆる、自己ヘテロダイン無線通信システム、及び、この自己ヘテロダイン無線通信システムを複数組用いることで双方向通信を行うこと、更に、受信機でダウンコンバートに使用する無変調キャリアは送信側で用いたものと同一であり同期しているため、ダウンコンバート後のIF帯変調信号には、送信機側の局部発振器に含まれる位相雑音による品質劣化が生じるようなことはなく、高品質な信号伝送が可能になること」
が記載されている(以下、これを「引用発明2」という)。

4.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「増幅器」は、アンテナ素子の出力を増幅しているものであるので、これは本願発明1における「受信回路」に相当するものである。

引用発明1における「混合回路」は、増幅回路3の出力(高周波信号)と局部発振信号形成回路5の出力を混合することにより中間周波帯の信号へ変換するものであり、又、本願発明1における「検波回路」は、受信アンテナにより受信した信号を検波してIF帯変調信号を得ているものであり、更に、引用発明1における「増幅回路3の出力(高周波信号)」,「中間周波帯の信号」は、それぞれ本願発明1における「受信アンテナにより受信した信号」,「IF帯変調信号」に相当しているので、引用発明1における「混合回路」は、本願発明1における「検波回路」に相当している。

又、引用発明1における「マイクロ波IC」は、アンテナ素子と該アンテナ素子の出力を増幅する増幅回路と、高周波信号を中間周波帯の信号に変換する混合回路からなるものであり、マイクロ波ICの複数個の出力が合成されて出力されているので、これは本願発明1における「受信アンテナ素子と受信回路とを併せた回路を1構成要素とし、該構成要素となる回路を複数」に相当しており、又、引用発明1には「アンテナ素子」の形状として、「基板上に厚膜技術又は薄膜技術によって形成された各種の形状からなるものが用いられる」旨示されているので、このような「アンテナ素子」は、本願発明1における「平面プリント受信アンテナ」に相当するものであり、又、引用発明1における「アンテナ素子と増幅回路」とで構成される「マイクロ波IC」は本願発明1の「受信アンテナと受信回路とを併せた回路を1構成要素とし」たものに相当し、又、引用発明1においては、その回路構成が複数個近接配置されているので、これは本願発明1おける「構成要素となる回路を複数ならべ」たことに相当している。

更に、引用発明1のマイクロ波帯無線通信は、一般に送信機と受信機との間で行われるものであることは自明の事項である。

したがって、両者は共に、
送信機と、
受信アンテナより受信した信号を検波してIF帯変調信号を得る検波回路を有する受信機と、
の間の無線通信方法において、
前記受信機においては、平面プリント受信アンテナ素子と受信回路とを複数ならべ、
個々の回路からの検波出力を電力合成することから成る無線通信方法、
である点では同じである。

ただ、本願発明1においては、
A.送信機の構成として、入力されたデータを変調して得たIF帯変調信号に局部発振信号を乗積して得た無線周波数帯変調信号と、該周波数変換で使用した局部発振信号の電力の一部を合成して送信アンテナより送信する送信機が用いられており、
又、受信機としては、受信信号を検波してIF帯変調信号を得る検波回路は、送信機からの合成信号を検波し、IF帯変調信号から受信データを復調するIF信号復調部とを有し、送信機より送信されるRF帯変調信号とこれとコヒーレントな位相雑音特性をもった局部発振信号を併せて受信し、該両成分の乗積成分を生成することでIF帯送信源信号を復元して検波出力とする受信機が用いられているのに対して、
引用発明1においては、送信機の具体的構成は示されておらず、
又、受信機の内部構成も本願発明1の受信機と相違している点、

B.本願発明1においては、平面プリントアンテナ素子と平面受信回路とを併せた平面回路を1構成要素としたものが用いられているのに対して、引用発明1においては、「平面プリント受信アンテナ素子」と、受信回路とを併せた回路を1構成要素とすることは開示されているものの、「平面」受信回路と併せた「平面」回路を用いることは示されていない点、
で両者は相違している。

(2)相違点に対する当審の判断
よって、上記相違点A.及びB.について以下判断する。

A.について
引用発明2に、いわゆる自己ヘテロダイン無線通信システムの送信機及び受信機として示されている無線通信方法は、本願発明1に「入力されたデータを変調して得たIF帯変調信号に局部発振信号を乗積して得た無線周波数帯変調信号と、該周波数変換で使用した局部発振信号の電力の一部を合成して送信アンテナより送信する送信機」、及び、「受信アンテナにより受信した前記送信機からの合成信号を検波してIF帯変調信号を得る検波回路と、このIF帯変調信号から受信データを復調するIF信号復調部とを有する受信機」とからなる無線通信方法と同じ構成である。又、引用発明2には受信機でダウンコンバートに使用する無変調キャリアは送信側で用いたものと同一であり同期しているため、ダウンコンバート後のIF帯変調信号には、送信機側の局部発振器に含まれる位相雑音による品質劣化が生じるようなことはなく、高品質な信号伝送が可能になることも示されており、更に、引用発明2は本願発明1と同様な動作をするものと認められるので、引用発明2は本願発明1と同様に送信機より送信されるRF帯変調信号とこれとコヒーレントな位相雑音特性を持った局部発振信号を受信しているものと認められる。

したがって、引用発明1の送信機及び受信機からなる無線通信システムとして、引用発明2に示されているような公知の自己ヘテロダイン送信機及び受信機からなるシステムを適用することによって、送信機より送信されるRF帯変調信号とこれとコヒーレントな位相雑音特性を持った局部発振信号を受信するように構成して本願発明1のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

B.について
一般に、平面プリントアンテナと平面受信回路とを併せた平面回路を1構成要素としたものを用いることは、例えば特開平9-68573号公報の段落【0018】?【0020】に、
「【0018】次に、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のモノパルスレーダ装置において、前記アンテナ素子,90度ハイブリッド回路,及び移相器からなる送受信用の高周波回路部が、所定の基板上に導電パターンにて形成した平面回路からなることを特徴とする。
【0019】このように、請求項3に記載のモノパルスレーダ装置では、高周波回路部を、所定の基板上に導電パターン(マイクロストリップライン)からなる平面回路にて構成しているので、モノパルスレーダ装置をより小型化することができ、装置の利用範囲を拡大できる。
【0020】なお、高周波回路部を平面回路にて構成するには、例えば、90度ハイブリッド回路を、ラットレース電力合成回路,ウィルキンソン電力合成回路等のマイクロストリップラインにて構成可能なハイブリッド回路にて構成するようにすればよい。」
と記載されており、ここにおける「平面回路」はアンテナの受信回路であることは明らかであるので、平面プリントアンテナと平面受信回路とを併せた平面回路を1構成要素としたものは当業者に周知である。

そして、平面プリントアンテナを用いる場合には、受信回路をも併せて平面化しようと考えることは当業者にとって当然のことであるので、上記したように、平面プリントアンテナと平面受信回路とを併せた平面回路を1構成要素としたものが周知である以上、それを引用発明1に適用することによって、本願発明1のように構成することは当業者が容易に想到し得たことである。

更に、本願発明1の構成によってもたらされる効果も、引用発明1乃至2及び上記周知の事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるので、本願発明1は、引用発明1乃至2及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

5.本願発明2について
本願発明2と引用発明1とを対比すると、本願発明2は本願発明1が無線通信方法の発明であるのを無線通信システムの発明としたものであって、その余の点では両者は実質的に同じである。

したがって、本願発明2についても、本願発明1で述べたのと同じことが当てはまり、本願発明1と同じ理由により、本願発明2は、引用発明1乃至2及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

6.本願発明3及び4について
本願発明3は、本願発明2を前提として「平面プリント受信アンテナ素子」が「パッチアンテナ」であることに限定したものであり、又、本願発明4は、本願発明2を前提として「平面受信回路」が「アンプ回路及び2乗器を有する」ことに限定したものであるが、「パッチアンテナ」は当業者に周知のアンテナであり、又、受信回路が「アンプ回路及び2乗器を有する」こと及び該2乗器の動作も当業者に周知の事項にすぎないものである。

したがって、本願発明3及び4は、引用発明1乃至2及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

7.本願発明5について
本願発明5は、本願発明2を前提として、「通信する各局に、それぞれ送信機と受信機を備えて、双方向通信可能に構成した」ものであるが、そのような構成は引用発明2に示されており、当業者に公知の事項である。

したがって、本願発明5は、引用発明1乃至2及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

8.むすび
以上の通りであるので、本願発明1乃至5は、いずれも、引用発明1乃至2及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-05 
結審通知日 2008-02-12 
審決日 2008-02-25 
出願番号 特願2002-93871(P2002-93871)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伏本 正典  
特許庁審判長 井関 守三
特許庁審判官 桑江 晃
橋本 正弘
発明の名称 無線通信方法及びシステム  
代理人 大川 譲  

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