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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800186 審決 特許
無効200680040 審決 特許
無効2010800015 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01V
審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  G01V
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G01V
管理番号 1176796
審判番号 無効2007-800097  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-05-23 
確定日 2008-04-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3406539号発明「能動型間接探査装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3406539号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3406539号は、平成11年7月15日に、発明者を「熊澤 峰夫」,「武井 康子」,「鈴木 和司」,「山岡 耕春」,「国友 孝洋」,「小川 克郎」の6名とし、出願人を「日本熱水開発株式会社」として特許出願され、平成15年3月7日に特許権の設定登録が行われたものであって、平成16年1月8日に、「日本熱水開発株式会社」から「株式会社マイホームプランナー」へ移転登録され、さらに、平成18年3月2日に、「株式会社マイホームプランナー」から「株式会社アースリソース」へ登録名義人の表示の変更がなされたものである。その後、平成19年5月23日(受付日)に無効審判請求人独立行政法人日本原子力研究開発機構により本件特許無効の審判が請求されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1及び2に係る発明を、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)。

「【請求項1】 波動発信装置から発信された波動を探査対象を介して受信手段により受信し、かつ受信した波動信号を解析することにより探査対象を非破壊的に探査するものにおいて、回転軸を中心として回転するおもりの回転動作により一つ若しくは複数の周波数を有する弾性波を正弦波として励起するよう構成され、かつ当該おもりの回転をGPS衛星から発信される時刻データ(GPS時計)により精密に制御する手段を有する波動発信装置と、探査対象を介してこの波動発信装置から発信された弾性波を受信する受信手段と、波動発信装置から発信された波動と受信手段で受信された波動とを前記GPS時計を用いて同期させる精密時刻合わせ手段と、受信手段により連続して受信された波動の受信信号を蓄積することによりノイズを低減した波動信号をフーリエ解析して探査対象の状態を解析する手段とを有することを特徴とする能動型間接探査装置。
【請求項2】 探査対象は自然地盤或いは人工的な構造物であり、受信信号は処理装置において解析されるよう構成され、当該探査対象の構造解析を行う他、長期間受信された信号の解析データと初期解析データとを比較することにより探査対象の状態の変化を監視するよう構成したことを特徴とする請求項1記載の能動型間接探査装置。」

第3 請求人の主張の概要
請求人は、証拠方法として下記甲第1号証?甲第8号証の6を提出し、審判請求書で、以下の無効理由を主張している。

(無効理由1)
本特許は、発明者でないものであって、その発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第6号の規定により無効とされるべきものである。

(無効理由2)
本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件発明1及び本件発明2は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項に該当するものであり、よって、本特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:日本地震学会講演予稿集 1994年度秋季大会、第158頁
(B66),第159頁(B67),第160頁(B68)
甲第2号証:地球惑星科学関連学会 1995年合同大会予稿集、第372
頁(F31-10,F31-11),第373頁(F31-1
2,F31-13),第374頁(F31-14,F31-1
5)
甲第3号証:物理探査学会 第92回(平成七年度春季)学術講演会講演論
文集、第277?281頁(63),第282?284頁(6
4)
甲第4号証:日本地震学会講演予稿集 1995年度 秋季大会、A11?
A20
甲第5号証:地球惑星科学関連学会 1996年度合同大会予稿集、第17
8頁(C22-11,C22-12),第319頁(E21-
02,E21-03)
甲第6号証:日本地震学会講演予稿集 1996年度 秋季大会、P46
甲第7号証:アクロスに関する既発表・報告文献一覧(?平成11年7月ま
で)
甲第8号証の1:発明者である熊澤峰夫の宣誓書
甲第8号証の2:発明者である小屋口康子(旧姓;武井康子)の宣誓書
甲第8号証の3:発明者である鈴木和司の宣誓書
甲第8号証の4:発明者である山岡耕春の宣誓書
甲第8号証の5:発明者である国友孝洋の宣誓書
甲第8号証の6:発明者である小川克郎の宣誓書

なお、請求人は、平成19年10月10日付けで甲第8号証の1?甲第8号証の6を差し替える内容の上申書を提出している。そして、この差し替えは、審判請求書に添付した甲第8号証の1?甲第8号証の6の宣誓書中における特許出願人「日本熱水株式会社」の表記を、「日本熱水開発株式会社」に訂正する内容のものである。
本件特許第3406539号の特許出願人は「日本熱水開発株式会社」であり、審判請求書に添付した甲第8号証の1?甲第8号証の6の宣誓書中に記載された特許出願人「日本熱水株式会社」は「日本熱水開発株式会社」の明らかな誤記と認められるから、該上申書を採用し、甲第8号証の1?甲第8号証の6については、該上申書に添付された甲第8号証の1?甲第8号証の6に差し替えるものとする。

第4 被請求人(株式会社アースリソース)の対応
請求人の提出した審判請求書副本を送達して答弁ないし訂正請求の機会を与えたが、被請求人は、答弁書も訂正請求書も提出していない。

第5 無効理由1についての検討
請求人の提出した甲第8号証の1の宣誓書において、「熊澤 峰夫」は、日本熱水開発株式会社を特許出願人として、平成11年7月15日に特許出願され(特願平11-201666号)、平成15年2月12日に特許査定を受けて、平成15年3月7日付けにて特許第3406539号として登録された、「能動型間接探査装置」に係る発明につき、その発明者である熊澤 峰夫は、当該発明により生じた特許を受ける権利を、日本熱水開発株式会社に譲渡した事実がないことを宣誓している。
そして、甲第8号証の2?甲第8号証の6の宣誓書において、「小屋口 康子(旧姓:武井 康子)」,「鈴木 和司」,「山岡 耕春」,「国友 孝洋」,「小川 克郎」も同様の事項を宣誓している。
本件特許出願の願書を見ると、その【発明者】の欄には、「熊澤 峰夫」,「武井 康子」,「鈴木 和司」,「山岡 耕春」,「国友 孝洋」,「小川 克郎」の6名の記載があり、他の発明者の記載はない。そして、これら6名は、請求人の提出した甲第8号証の1?甲第8号証の6の宣誓書において上記宣誓をした6名と同一人であると推認できる。また、願書の【特許出願人】の欄には、「日本熱水開発株式会社」との記載があり、他に共同出願人の記載はない。
また、本件特許の特許出願書類を精査しても、上記6名以外の者から本件の特許出願人が特許を受ける権利を承継した事実を示す手続書類は見いだせない。
そうすると、本件特許出願に係る発明につき、その発明者である熊澤峰夫外5名が、該発明により生じた特許を受ける権利を、本件特許出願人である日本熱水開発株式会社に譲渡した事実がないことを宣誓している以上、本件特許出願人である日本熱水開発株式会社が、本件特許出願に係る発明について特許を受ける権利を承継していないことは明らかである。
よって、本件特許は、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第6号に該当し、無効とすべきものである。

第6 無効理由2についての検討
1.甲第1号証?甲第6号証の公知性
請求人の提出した甲第1号証?甲第6号証には、各刊行物の発行日を明示したページの写しは含まれておらず、各刊行物がいつ頒布されたものであるか明確ではない。しかしながら、甲第1号証?甲第6号証はいずれも学会講演会あるいは大会の予稿集であって、各甲号証には学会講演会ないし大会の開催日が記載されたページの写しが含まれており、それらの開催日は次のとおりである。

甲第1号証:平成6年10月21?23日
甲第2号証:平成7年3月27?30日
甲第3号証:平成7年6月14?16日
甲第4号証:平成7年9月27?29日
甲第5号証:平成8年3月26?29日
甲第6号証:平成8年9月26?28日

これに対して、本件特許出願の出願日は平成11年7月15日であり、甲第1号証?甲第6号証は、本件特許出願の出願日より2年以上前の学会講演会ないし大会の予稿集である。そして、学会講演会ないし大会の予稿集は、少なくとも学会講演会ないし大会の初日には頒布されるものであるから、甲第1号証?甲第6号証は、本件特許出願前に頒布された刊行物であるものと認められる。

2.甲号証の記載事項
(2-1)甲第3号証
甲第3号証の「精密制御定常震源システムの開発(1)全体概念と物理探査への応用可能性」(第277?281頁(63)),「精密制御定常震源システムの開発(2)システム」(第282?284頁(64))という一連の論文には、「精密制御定常震源システム」に関して図面とともに次の事項が記載されている。

1a)「1 はじめに
精密制御定常震源システムとは精密制御定常震源(ACROSS:Accurately Controlled Routine-Operated Seismic Source)、時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)及び存否ケプストラム(Sompi Cepstrum)データ解析システムの三点を合わせて地下構造解析を人工地震によって行う一つの技術体系である(第1図)。現在,名古屋大学においてこのシステムを開発中であるのでその概要を報告する。」(第277頁第1?6行)
1b)「また、データのスタッキングが有効にはたらいてS/N比を格段に向上させるために、周波数を極めて精密に制御して長時間連続運転できるようにする点がもう一つの大きな特長である。」(第279頁最下行?第280頁第2行)
1c)「3 時間区間蓄積型記録計(TSーStacker)
Time Segment Stackerは放射される正弦波形を時間軸上で重合(Stack)し、重合結果を記録するディジタル型多チャンネルの記録計である(第3図)。重ね合わせる時間区間の中に整数個の波がはいる周波数の振動だけが重合加算され、他の周波数の振動とノイズは自ら相殺されるので、結果的に離散フーリエの成分だけを記録する。S/Nの向上は重合回数の平方根に比例し、各離散周波数のバンド巾は、全重合時間の逆数と等しい。」(第280頁第3?9行)
1d)「後で述べるように、複数の周波数で発震された正弦波から走時を求めるには震源波形と受源波形の相対位相差を極めて精密に測っておく必要がある。このため、ACROSSでは1マイクロ秒の絶対精度を有するGPSの時刻信号を利用する。」(第280頁第14?16行)
1e)「4 存否ケプストラム解析
第4図はACROSSの存否ケプストラムデータ処理解析法を従来の爆発型震源の処理解析法と比較したの概念図である。ACROSSにおける直接の受震波形は離散周波数上のフーリエスペクトルであり、爆破型震源における直接の受震波形が時間領域であることと大きく異なる。しかしながら,時間領域と周波数領域には等価互換性(対象性)があるので本質的には同じである。即ち,周波軸上で十分なスペクトルが得られている場合には前者をフーリエ逆変換することにより容易に後者が得られる。また、この条件下では発震波形と受震波形の位相のケプストラム解析から走時が計算される。しかしながら、周波数軸上で多数のスペクトル成分を得ることは観測上明らかに得策ではない。そこでスペクトル成分の数が十分でなくても,これから精度のよいフーリエ逆変換とケプストラム解析を行うことが可能な“存否(Sompi)”法の解析システムを開発し採用する。」(第280頁第17行?第281頁第2行)
1f)「5 物理探査/地殻探査への応用
周波数領域で観測を行うACROSSは
・・・・・・
三) 非破壊震源であり定常的モニタリングに使えること
・・・・・・
1)構造探査
物理探査で日常的に行われている人工地震による浅層反射から地殻深部反射までの様々なレベルの地下構造探査へ適用できる。
2)地下変動現象モニタリング
地下の何らかの微小な変動現象のモニタリングに適用できる。例えば,火山体下部のマグマの動きやこれに伴う地震波速度や減衰の変動(火山噴火予知),震源核形成に伴う地震波速度変化(地震予知:第5図),火攻法等の石油二次回収における地震波速度変化(資源探査)などである。」(第281頁第7?23行)
1g)第1図(第277頁)には、ACROSSシステムの構成が記載され、「GPS」から「震源装置ACROSS」と「記録計TS-Stacker」それぞれに向かう矢印が描かれている。
1h)「1 ハードウエア
正弦波単力震源は小型のプロトタイプの作成が完了し現在性能試験を実施している。写真1はその外観及び偏心回転体が収まった内部の写真である。第1図に示すように重心が半径Rに位置する偏心質量Mの物体がサーボモーターにより回転周波数fで回転すると,地面に単力Fが作用する。その大きさはF=MR(2πf)^(2)である。現在,実用ACROSS第1号機を試作中である。第2図にその概念を示す。
第1図の試作機が一個の回転体をもつ「シングルユニット」であったのに対して,これは二個の逆位相同期回転ユニットからなる「リニアユニット」である。リニアユニットは一定方向に振幅が正弦的に変化する波を発震する。偏心モーメントMRは10kg・m程度であり,f=50Hzの場合には力の大きさFは10^(6)N程度となる。当面の運転周波数10-50Hzを考えると,位相揺らぎをモーターの位置検出分解能の10倍程度の0.5度以内におさえることにより,時間区間蓄積型記録計の出力として0.1m秒の位相制御精度の確保は容易となる。」(第282頁第1行?第283頁第9行)
1i)「時間区間蓄積型記録計はACROSSの波形を時間領域で重合してその結果を記録する。」(第283頁第10?11行)
1j)「なお,走時決定には震源波形と記録波形の相対時間差を知っておく必要があるので,GPSの時計を用いてマイクロ秒の精度でデータ取得を同期させておく。」(第283頁第15?17行)
1k)「2 ソフトウエア
多数の周波数についてACROSS震源から正弦波を発震させれば時間区間蓄積型記録計で多数のフーリエスペクトルが記録される。少数のフーリエスペクトル成分でも存否ケプストラムで解析すれば孤立波の走時が得られることは熊沢・武井により既に報告されている(熊沢峰夫・武井康子,1994,1995)。ACROSSデータ解析に必要な基本的な理論についてはこの二つの文献に記述されているので,ここではACROSSのフーリエスペクトルから走時が解析できることの説明だけを簡単に述べておくに止める。
震源波形f(t)のフーリエ変換をF(ω)とする。
F(ω)=Re(ω)+iIm(ω)=B(ω)e^(iθ(ω))
ここで,f(t)が時間局在のパルス的であればB(ω)はωに対して滑らかな関数である。なお,
|B(ω)|=SQRT((Re(ω))^(2)+(Im(ω))^(2))
θ(ω)=tan^(-1)(Im(ω)/Re(ω))
この波形に減衰がなく,走時t_(0)だけ遅れた場合の波形f(t-t_(0))のフーリエ変換G(ω)は
G(ω)=F(ω)e^(-iωt)_(0)=B(ω)e^(i(θ(ω)-ωt)_(0)^())
で与えられる。
つまり元の波形の位相がt_(0)ωだけシフトした波である。これは,G(ω)の実部および虚部の周波数軸上の振動の波数がt_(0)の増加とともに高い方向にシフトしてゆくことを意味している(ちなみに,パワーは不変である)。このことを利用すれば,ACROSSのフーリエスペクトルの位相(の傾き)或いは実部や虚部の周波数軸上での波数を解析(ケプストラム解析)することによりt_(0)を算出できる。
第3図はパルス波形の場合の実部,虚部及びパワーとt_(0)との関係を計算した一例である。先に述べたt_(0)とフーリエスペクトルの実部及び虚部の周波数軸上での振動の波数との関係が読み取れる。」(第283頁第18行?第284頁第8行)
1l)ACROSS試作機の概念図である第1図(第282頁)と、その写真1(第282頁)の記載からみて、ACROSS試作機は、地面に固定される円筒体の軸を回転軸として、偏心質量Mの物体がサーボモータにより回転するものであることが解る。

ここで、

ア)甲第3号証には、波形を受震する手段の明記はないものの、甲第3号証記載の精密制御定常震源システムは、時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)で受震波形を記録するものであるから、記録に先立って地下構造を伝播した波形を受震する手段を備えていることは明らかである。
イ)甲第3号証には、「精密制御定常震源(ACROSS)」を制御する手段の明記はないものの、該震源の名称は“精密制御定常”震源であり、さらに、上記摘記1b)には、精密制御定常震源に関して、「周波数を極めて精密に制御して長時間連続運転できるようにする点がもう一つの大きな特長である。」と記載されており、該記載における「周波数」が上記摘記1h)に記載された「偏心質量Mの物体」の「回転周波数f」を意味することは明らかであるから、「精密制御定常震源(ACROSS)」が、「偏心質量Mの物体の回転を精密に制御する手段」を備えていることは明らかである。
また、ACROSSシステムの構成が記載された第1図(第277頁)に、「GPS」から「震源装置ACROSS」と「記録計TS-Stacker」それぞれに向かう「矢印」が描かれているが(上記摘記1g))、上記摘記1d),1j)の記載によると、甲第3号証に記載された精密制御定常震源システムは、GPSの時刻信号を利用するものであるから、第1図における上記両「矢印」が「GPS」から「震源装置ACROSS」及び「記録計TS-Stacker」それぞれにGPSの時刻信号が送信されることを意味していることは明らかであり、「震源装置ACROSS」及び「記録計TS-Stacker」それぞれにおいてGPSの時刻信号を利用した制御が行われていることも明らかである。
そして、上記摘記1d)の「複数の周波数で発震された正弦波から走時を求めるには震源波形と受源波形の相対位相差を極めて精密に測っておく必要がある。このため、ACROSSでは1マイクロ秒の絶対精度を有するGPSの時刻信号を利用する。」という記載、上記摘記1j)の「なお,走時決定には震源波形と記録波形の相対時間差を知っておく必要があるので,GPSの時計を用いてマイクロ秒の精度でデータ取得を同期させておく。」という記載における「震源波形」及び「記録波形」は、それぞれ、偏心質量Mの物体の回転によって精密制御定常震源(ACROSS)から発震される波形及び時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)によって記録される波形を意味するものと解されるが、「走時」とは「地震波が、震源から或る地点まで到達するのに要した時間。」(広辞苑第五版図版付き、株式会社岩波書店)であって、「走時決定」には、精密制御定常震源(ACROSS)により発震された震源波形の発震時刻と、地下構造を伝播してきた波形を受震し時間区間蓄積型記録計で記録する時刻との相対時間差を求める必要があることは明らかであって、精密制御定常震源(ACROSS)による震源波形の発震時刻は偏心質量Mの物体の回転位相によって決まるものであるから、上記摘記1j)の「GPSの時計を用いてマイクロ秒の精度でデータ取得を同期させておく」という記載が、精密制御定常震源(ACROSS)の偏心質量Mの物体の回転動作と、時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)の記録動作とを、GPS時刻信号によって同期させることを意味していることは明らかであり、甲第3号証記載の精密制御定常震源システムが、そのための同期手段を備えていることも明らかである。
ウ)地震波とは「地震の際、震源から発して四方に伝わる弾性波。」(広辞苑第五版図版付き、株式会社岩波書店)であって、制御震源を使用した人工地震による地下構造解析における、震源から発震され地下構造を伝播する波も「弾性波」であることは技術常識である(甲第1号証第158頁左欄第1?4行、第159頁左欄第1?4行参照。)。

ことを考慮すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「人工地震によって地下構造解析を非破壊的に行う精密制御定常震源システムであって、
回転軸の周りを回転する偏心質量Mの物体と、該偏心質量Mの物体の回転を精密に制御する手段とを備え、地面に複数周波数の弾性波を正弦波として発震する精密制御定常震源(ACROSS)と、
地下構造を伝播した弾性波を受震する手段と、
受震された弾性波の正弦波形を時間軸上で重合し、重合する時間区間の中に整数個の波がはいる周波数の振動だけが重合加算され、他の周波数の振動とノイズは自ら相殺され、結果的に離散フーリエの成分だけを記録する時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)と、
記録された離散フーリエの成分からフーリエ逆変換とケプストラム解析を行う存否ケプストラム(Sompi Cepstrum)データ解析システムと、
前記精密制御定常震源の偏心質量Mの物体の回転動作と、前記時間区間蓄積型記録計の記録動作とを、GPS時刻信号によって同期させる手段と、
を備えた精密制御定常震源システム。」

(2-2)甲第1号証
甲第1号証の「精密制御音波放射による能動的地下構造常時モニター手法の研究」「その1 目的と原理」(第158頁(B66)),「その2 精密制御回転震源の設計試作とその評価」(第159頁(B67)),「その3 波の到達時刻を少数のフーリエ成分から決定する理論」(第160頁(B68))という一連の論文には、「精密制御音波放射による能動的地下構造常時モニター手法」に関して図面とともに次の事項が記載されている。

2a)「地下の地震学的構造の解明は内部を伝播する弾性波の観測とそのデータ解析に基づく。そのための弾性波源として、精密制御回転震源を提案し、その原理と開発研究の現状を報告する。」(第158頁左欄第1?4行)
2b)「この要求を満たす一つの方法が、精密に制御した定常的な単色震源を組み合わせたアレイとそのネットワークから多チャンネルの弾性波を放射し、その振動を時間区間蓄積型地震記録方式によって観測するものである。この方法は、常時観測の継続によるデータの蓄積が、(1)地震学的地下構造の解明とその精密化に直接役立つ、および(2)構造の時間的(相対的)変動モニターになる、という実用的な特徴を持っている。」(第158頁左欄第16?24行)
2c)「3-1、送信側:精密制御回転震源(ACROSS)」(第158頁左欄第39行)
2d)「3-2、受信側:スタッキングによるS/Nの改善」(第158頁右欄第11行)
2e)「日本列島の地下の状態を観測するための弾性波源で、非破壊的で常時何処でも使用できる音波送信源として精密制御回転震源装置(ACROSS)を設計制作しそのテストを行なった結果を報告する。
1、基本原理 一定の周波数を持ったシングルフォース源として原理的に最も単純明快容易な方法は、一定の軸の周りに質量Mを回転させるものである。この時、発生するシングルフォースの大きさは、
F=MRω^(2) (1)
で与えられる(Rは回転半径、ωは回転周波数)。小型なら普通のモーターの軸におもりを非軸対称に取付ければよい。」(第159頁左欄第1?13行)

(2-3)甲第5号証
甲第5号証の「アクロスシステム開発研究の現状報告」(第319頁(E21-03))という論文には、「アクロスシステム」に関して次の事項が記載されている。

3a)「アクロスシステムとは、周波数を精密に制御した単力定常サイン波源から放射される弾性波の観測によって、周波数領域の伝達関数を直接取得して、地下構造とこの経時変化をマッピングする新しい方法である(地震学会、H6秋,H7春秋)。その実用化には多くの基礎研究を必要とするものの、これまでの方法と比べて刷新的に高いポテンシャルをもつと予想される。そこで、上記のメンバーがそれぞれの役割を分担して、装置開発やデータ解析法の基礎から、プロトタイプと実用試験装置による実験へ、さらに地下構造の経時変化検出の実証実験へと組織的研究を着々と進めている。今回はその現状を報告する。」(第319頁左下欄第1?8行)

3.本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
i)引用発明の(a)「地下構造」、(b)「精密制御定常震源(ACROSS)」が、それぞれ本件発明1の(a')「探査対象」、(b')「波動発信装置」に相当することは明らかであるから、引用発明の(c)「精密制御定常震源(ACROSS)」から「発震」される「弾性波の正弦波」は、本件発明1の(c')「波動発信装置から発信された波動」に相当する。
また、引用発明の(d)「地下構造を伝播した弾性波を受震する手段」は、精密制御定常震源から発震され、地下構造を伝播した弾性波を受震するものであるから、該手段で「受震された弾性波」は、本件発明1の「受信した波動信号」、「受信された波動の受信信号」に相当し、該手段は本件発明1の(d')「波動発信装置から発信された波動を探査対象を介して」「受信」する「受信手段」及び「探査対象を介してこの波動発信装置から発信された弾性波を受信する受信手段」に相当する。
そして、引用発明の「精密制御定常震源システム」は、「人工地震によって地下構造解析を非破壊的に行う精密制御定常震源システムであって」、「受震された弾性波の正弦波形を時間軸上で重合し、重合する時間区間の中に整数個の波がはいる周波数の振動だけが重合加算され、他の周波数の振動とノイズは自ら相殺され、結果的に離散フーリエの成分だけを記録する時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)と、記録された離散フーリエの成分からフーリエ逆変換とケプストラム解析を行う存否ケプストラム(Sompi Cepstrum)データ解析システム」を備えており、受震された弾性波を基にデータ解析を行い、地下構造解析を非破壊的に行うものであるから、引用発明と本件発明1は、「波動発信装置から発信された波動を探査対象を介して受信手段により受信し、かつ受信した波動信号を解析することにより探査対象を非破壊的に探査する」「能動型間接探査装置」である点で一致する。
ii)引用発明の(e)「精密制御定常震源」が「回転軸の周りを回転する偏心質量Mの物体」を備え、「地面に複数周波数の弾性波を正弦波として発震する」ことは、本件発明1の(e')「波動発信装置」が「回転軸を中心として回転するおもりの回転動作により一つ若しくは複数の周波数を有する弾性波を正弦波として励起するように構成され」たことに相当する。
また、「GPS」とは、「(global positioning system)全地球測位システム。人工衛星の発する電波によって、地球上の現在位置を正確に測定するシステム。」(広辞苑第五版図版付き、株式会社岩波書店)であって、引用発明における「GPS時刻信号」が、GPSを司る人工衛星から発信される時刻信号であることは明らかであるとともに、「前記精密制御定常震源の偏心質量Mの物体の回転動作と、前記時間区間蓄積型記録計の記録動作とを、GPS時刻信号によって同期させる」ためには、それぞれの動作を「GPS時刻信号」により制御する必要があることは明らかであるから、引用発明の(f)「偏心質量Mの物体の回転を精密に制御する手段」と「GPS時刻信号によって同期させる手段」は、本件発明1の(f')「当該おもりの回転をGPS衛星から発信される時刻データ(GPS時計)により精密に制御する手段」に対応する。
iii)引用発明において、精密制御定常震源から発震される「弾性波の正弦波」は、偏心質量Mの物体の回転動作によって発震されるものであり、時間区間蓄積型記録計の記録動作で記録される波形は、「地下構造を伝播した弾性波を受震する手段」で「受震された弾性波の正弦波形」であるから、引用発明の(g)「前記精密制御定常震源の偏心質量Mの物体の回転動作と、前記時間区間蓄積型記録計の記録動作とを、GPS時刻信号によって同期させる手段」は、本件発明1の(g')「波動発信装置から発信された波動と受信手段で受信された波動とを前記GPS時計を用いて同期させる精密時刻合わせ手段」に相当する。
iv)引用発明の(h)「時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)」において「受震された弾性波の正弦波形を時間軸上で重合し、重合する時間区間の中に整数個の波がはいる周波数の振動だけが重合加算され、他の周波数の振動とノイズは自ら相殺され、結果的に」「記録」される「離散フーリエの成分」は、本件発明1の(h')「連続して受信された波動の受信信号を蓄積することによりノイズを低減した波動信号」に相当する。そして、引用発明の(i)「存否ケプストラム(Sompi Cepstrum)データ解析システム」において、「記録された離散フーリエの成分からフーリエ逆変換とケプストラム解析を行う」ことは、本件発明1の(i')「ノイズを低減した波動信号をフーリエ解析して探査対象の状態を解析する」ことに相当するので、引用発明の(j)「時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)」と「存否ケプストラム(Sompi Cepstrum)データ解析システム」は、本件発明の(j')「受信手段により連続して受信された波動の受信信号を蓄積することによりノイズを低減した波動信号をフーリエ解析して探査対象の状態を解析する手段」に対応する。

そうすると、本件発明1と引用発明は、
(一致点)
「波動発信装置から発信された波動を探査対象を介して受信手段により受信し、かつ受信した波動信号を解析することにより探査対象を非破壊的に探査するものにおいて、回転軸を中心として回転するおもりの回転動作により複数の周波数を有する弾性波を正弦波として励起するよう構成され、かつ当該おもりの回転をGPS衛星から発信される時刻データ(GPS時計)により精密に制御する手段を有する波動発信装置と、探査対象を介してこの波動発信装置から発信された弾性波を受信する受信手段と、波動発信装置から発信された波動と受信手段で受信された波動とを前記GPS時計を用いて同期させる精密時刻合わせ手段と、受信手段により連続して受信された波動の受信信号を蓄積することによりノイズを低減した波動信号をフーリエ解析して探査対象の状態を解析する手段とを有する能動型間接探査装置。」
である点で一致し、本件発明1の発明特定事項は、全て甲第3号証に示されているものである。
したがって、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものである。

4.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に、「探査対象は自然地盤或いは人工的な構造物であり、受信信号は処理装置において解析されるよう構成され、当該探査対象の構造解析を行う他、長時間受信された信号の解析データと初期解析データとを比較することにより探査対象の状態の変化を監視するよう構成した」限定を付加したものである。
本件発明2と引用発明とを対比するに、引用発明の(k)「地下構造」は、本件発明2の(k')「自然地盤」に相当する。そして、引用発明は(l)「人工地震によって地下構造解析を非破壊的に行う」ものであり、これは本件発明2において(l')「当該探査対象の構造解析を行う」ことに相当する。また、引用発明において、時間区間蓄積型記録計(TS-Stacker)で記録され、存否ケプストラム(Sompi Cepstrum)データ解析システムにおいて解析が行われることとなる(m)「受震された弾性波」は、本件発明2の(m')「受信信号」に相当し、この(n)「受震された弾性波」の「存否ケプストラム(Sompi Cepstrum)データ解析システム」における「解析」は、本件発明2の(n')「処理装置」における「受信信号」の「解析」に相当するものである。
そうすると、本件発明2と引用発明とは、上記本件発明1と引用発明との(一致点)に加えて、「探査対象は自然地盤であり、受信信号は処理装置において解析されるよう構成され、当該探査対象の構造解析を行う」点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本件発明2は、長時間受信された信号の解析データと初期解析データとを比較することにより探査対象の状態の変化を監視するよう構成したのに対し、引用発明は、このように構成されていない点。

上記相違点について検討する。
甲第3号証には、物理探査/地殻探査への応用として、周波数領域で観測を行うACROSSが、「非破壊震源であり定常的モニタリングに使えること」が記載されており(上記「第6 2.(2-1)」の摘記1f)、第281頁第12行)、引用発明の精密制御定常震源システムを、定常的な監視に使用することが示唆されている。
さらに、上記「第6 2.(2-2)」ないし「第6 2.(2-3)」の摘記からみて、甲第1号証に記載された「精密制御音波放射による能動的地下構造常時モニター手法」と、甲第5号証に記載された「アクロスシステム」は、いずれも引用発明と同じく精密制御定常震源(ACROSS(アクロス))を使用した地下構造解析に係るものであって、甲第1号証には、「この方法は、常時観測の継続によるデータの蓄積が、(1)地震学的地下構造の解明とその精密化に直接役立つ、および(2)構造の時間的(相対的)変動モニターになる、という実用的な特徴を持っている。」と記載され(上記「第6 2.(2-2)」の摘記2b)、第158頁左欄第20?24行)、甲第5号証には、「アクロスシステムとは、周波数を精密に制御した単力定常サイン波源から放射される弾性波の観測によって、周波数領域の伝達関数を直接取得して、地下構造とこの経時変化をマッピングする新しい方法である(地震学会、H6秋,H7春秋)。」(上記「第6 2.(2-3)」の摘記3a)、第319頁左下欄第1?3行)と記載され、甲第1号証及び甲第5号証には、精密制御定常震源(ACROSS)を使用した地下構造解析において、地下構造の経時的な変化を監視する構成が記載されている。
そして、地下構造の状態の変化周期は長く、その状態の変化の監視に長時間に渡る測定が必要であることは明らかであるし、一般に、監視対象の経時的な変化を監視する際に、その時点での測定結果と初期状態とを比較することによって監視対象の変化を監視することは常套手段である。
よって、引用発明において、甲第1号証及び甲第5号証に記載された地下構造の経時的な変化を監視する構成を採用し、長時間受信された信号の解析データと初期解析データとを比較することにより探査対象である地下構造の状態の変化を監視するように構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、本件発明2の作用効果も、引用発明ならびに甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明から、当業者であれば予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明2は、甲第3号証ならびに甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に該当するものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第6号に該当し、無効とすべきものである。
また、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、本件発明2は、甲第3号証ならびに甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。よって、本件発明1及び2は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-22 
結審通知日 2008-02-26 
審決日 2008-03-10 
出願番号 特願平11-201666
審決分類 P 1 113・ 113- Z (G01V)
P 1 113・ 152- Z (G01V)
P 1 113・ 121- Z (G01V)
最終処分 成立  
前審関与審査官 本郷 徹  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 後藤 時男
門田 宏
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3406539号(P3406539)
発明の名称 能動型間接探査装置  
代理人 清水 千春  

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