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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1176894
審判番号 不服2004-13315  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-28 
確定日 2008-04-08 
事件の表示 平成 7年特許願第520650号「配向多層干渉薄片を有する重合体シート」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 8月10日国際公開、WO95/21057、平成 9年 9月 2日国内公表、特表平 9-508593〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1995年1月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年2月4日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成16年3月22日付けで拒絶査定がされ、同年6月28日に拒絶査定に対する審判請求がされ、同年7月28日付けで手続補正がされ、同年9月15日付けで審判請求書についての手続補正がされたものである。

2.平成16年7月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年7月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「第1及び第2の平行表面を有する重合体材料の第1層を含有し、複数の多層干渉薄片が上記重合体材料の第1層に配置されている二軸配向された重合体シートであって、
上記薄片が第1及び第2の平行表面と、幅及び厚みとを有し、かつ厚みに対する幅のアスペクト比が少なくとも2:1であり、更に、上記薄片が二軸配向方向の平面中に存在し、かつ該薄片の第1及び第2の平行表面が重合体材料の第1層の第1及び第2の平行表面と平行となるように、配向されていることを特徴とする重合体シート。」
とする補正を含むものである。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「重合体シート」について「二軸配向された」との限定を付加し、同じく「平面」について「二軸配向方向の」との限定を付加し、同じく「実質的に平行となるように」から、「実質的に」を削除するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-8342号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「微薄片状の雲母の表面に二酸化チタンを被覆した層を有するチタン被覆マイカであって、該二酸化チタン被覆層の厚みが異なるチタン被覆マイカを二種以上透明プラスチックに分散させたことを特徴とする意匠性シート。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
(1-2)「チタン被覆マイカの二酸化チタン被覆層が二酸化チタンのみの層(チタンマイカ)、二酸化チタンの表面を還元して低次酸化チタンとした層(還元チタンマイカ)、又は、二酸化チタンの表面を還元し、低次酸化チタンとした後再度その表面に二酸化チタンを再被覆した層(チタン被覆還元チタンマイカ)であることを特徴とし、特定の色の光線を反射させ、かつ、該特定色の補色の光線を透過させることを特徴とする意匠性シートである。」(段落【0005】)
(1-3)「この樹脂をベヒクルとし、チタン被覆マイカを分散させる。ここで言う二酸化チタンはルチル型でもアナターゼ型でも良く、被覆層の厚みは、好ましくは、30?500mμである。
鱗片雲母は、最も無色透明に近い白雲母で、表面が平滑なものが得られる湿式法によって得られたものが好ましいが、本発明で規定するものではなく、又その厚みは0.05?2.0μmが、大きさは10?20μmが好ましい。二酸化チタンの被覆手法については、ここでは規定しないが、一般には、二酸化チタン水和物で被覆を行ない、800?900℃で焙焼し、結晶化させ、チタンマイカを得る(図2-A)。」(段落【0007】?【0008】)
(1-4)「チタン被覆マイカを分散させたプラスチックシートが各種の色相を発色する原因としてはシート内に、入ってくる光線のうち、チタン被覆マイカにおいて、ベヒクルもしくは低次酸化チタンと二酸化チタンの境界で反射する光と、二酸化チタンと雲母との境界で反射する光とが干渉して発現する。その為、二酸化チタン層、もしくは、低次酸化チタン層の膜厚により、その発色する色が決まる(表2)とともに、シートを透過する光については、チタン被覆マイカで反射されずに透過してくる波長の光についてのみ見える。このため、シートを反射光で見る場合の色相と透過光で見る場合の色相がそれぞれ互いに補色の関係を持つことになる。この発色の強さ、即ち、色の濃度についてはチタン被覆マイカのベヒクルに対する添加量がきいてくるとともに、ベヒクル中のチタン被覆マイカの並び方についても変化する。添加量はベヒクル100重量部に対し、フィルムの厚み、用途によって種々に変えることができるが、全体として、0.03?3.0重量部が好ましい。並び方については重要で、図1に示すように、鱗片状雲母の板状面の向きが、それぞれの粒子に於いて、一定方向に配列していることが好ましい。配列していなくとも色相は示すが、色の強さとしては、弱いものとなる。」(段落【0011】)
(1-5)「プラスチックシートの製造方法としては、押出し法、プレス法、カレンダーロール法、延伸法等が掲げられるが、この場合、どのような手法を用いても良い。但し、チタン被覆マイカ粒子を製造工程中にこなごなに細かく砕いてしまったり、成膜工程中に該粒子の配向、分散が不均一であると発色しなかったり、あるいはしても弱かったりするので注意が必要である。」(段落【0013】)
(1-6)「上記のような組成で、カレンダーロールを用いて、厚み0.3mmでシートを作成したところ、実施例1?6のものはチタン被覆マイカの特徴である光輝性或いは干渉色を損なうことなく、比較例1?3とは異なる色調をもち、かつ、見る角度により、その色調が変化するシートが得られた。」(段落【0016】)

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭62-260875号公報(以下、「引用例2」という。本願明細書において、引用されている米国特許第5,135,812号のパテントファミリーに相当する公報である。)には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「(1)入射光の第1および第2の角度で2つの異なる色の間の色ずれが得られる光学可変性インキにおいて、インキビヒクル並びに、インキビヒクル中に置かれた光学可変性フレークであって各光学可変性フレークが第1および第2の平らな表面、および薄膜構造の層に垂直な方向で測定した厚さを有する多層薄膜構造からなり、薄膜構造の層の平面に平行な第1および第2の平らな表面および層の平面に垂直な表面に対しそれぞれ、少くとも2対1のアスペクト比を有する光学可変性ビヒクル、並びに望ましくない色をブロックするためにインクビヒクル中に分散した実質上透明なブロッキング顔料を含む光学可変性インキ。」(特許請求の範囲第1項)
(2-2)「アスペクト比は、それが、フレークが上面および底面で着地しその端部でないことを保証するのを助長する点で重要である。フレークがその端部で落ちるならばフレークからの色ずれ(color shift)がないことを理解することができる。光学可変性デバイスが対称であって、フレークがどの側面で着地してもなおそれが色ずれを与えることが重要である。換言すれば色が維持される。従って、l対lのアスペクト比を有さないで、むしろ少くとも2対1または3対1であることが明らかに望ましい。光学可変性薄膜の全厚みが約0.9ミクロンであるので、2ミクロンの大きさが近似的にフレークに望ましい最小大きさである。少くとも2対1およびより大きい、好ましくは5?10対lのアスペクト比の利用により、薄膜コーティングが対称的であってこれらの表面が大きい次元を有するので、フレークの大部分がインキビヒクル中にフレークの色を与える表面が上向きになるような配置で着地する保証を与える。」(第5頁右上欄下から第2行?同頁左下欄第17行)

(3)引用例1に記載された発明
引用例1には「微薄片状の雲母の表面に二酸化チタンを被覆した層を有するチタン被覆マイカであって、該二酸化チタン被覆層の厚みが異なるチタン被覆マイカを二種以上透明プラスチックに分散させた意匠性シート。」(摘示(1-1))が記載されており、マイカと雲母は同じであるところ、雲母が層状の結晶構造を有し、へき開性を有していること、すなわち、薄片状の雲母が第1及び第2の平行表面を有していることは技術常識といえるから、その表面に酸化チタンを被覆したチタン被覆マイカも、第1及び第2の平行表面を有しているものということができ、チタン被覆マイカは、その二酸化チタン被覆層が(1-2)に摘示したように数種類のものを包含するが、少なくとも雲母層と二酸化チタン被覆層を有するので、多層構造を有するものである。
また、「チタン被覆マイカを分散させたプラスチックシートが各種の色相を発色する原因としてはシート内に、入ってくる光線のうち、チタン被覆マイカにおいて、ベヒクルもしくは低次酸化チタンと二酸化チタンの境界で反射する光と、二酸化チタンと雲母との境界で反射する光とが干渉して発現する。」(摘示(1-4))及び「実施例1?6のものはチタン被覆マイカの特徴である光輝性或いは干渉色を損なうことなく、比較例1?3とは異なる色調をもち、かつ、見る角度により、その色調が変化するシートが得られた。」(摘示(1-6))との記載から、チタン被覆マイカは、光の干渉によって発色するものと認められ、上記微薄片状の雲母の表面に二酸化チタンを被覆した層を有するチタン被覆マイカは、多層干渉薄片であるといえる。
そして、引用例1中の「透明なプラスチック」は、重合体材料であり、「シート」は第1及び第2の平行表面を有するものであり、該薄片は特定範囲の厚みを有している(摘示(1-3))から、引用例1には、
「第1及び第2の平行表面を有する重合体材料の第1層を含有し、複数の多層干渉薄片が上記第1層に配置されている重合体シートであって、上記薄片が第1及び第2の平行表面と、特定範囲の厚みを有するものである重合体シート。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)本願補正発明1と引用発明との対比
本願補正発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
「第1及び第2の平行表面を有する重合体材料の第1層を含有し、複数の多層干渉薄片が上記重合体材料の第1層に配置されている重合体シートであって、上記薄片が第1及び第2の平行表面と、特定範囲の厚みを有するものである重合体シート」の点で一致し、以下の点で相違する。
ア 重合体シートが、本願補正発明1においては、二軸配向されたものであるのに対し、引用発明においては、配向状態が規定されていない点、
イ 薄片の特定範囲の厚みが、本願補正発明1においては、厚みに対する幅のアスペクト比が少なくとも2:1であると規定されているのに対し、引用発明においては、このようなアスペクト比が規定されていない点、及び
ウ 薄片の配置が、本願補正発明1においては、二軸配向方向の平面中に存在し、かつ該薄片の第1及び第2の平行表面が重合体材料の第1層の第1及び第2の平行表面と平行となるように、配向されているのに対し、引用発明においては、そのような規定がない点。

(5)判断
上記相違点について検討する。
(5-1)相違点ア
引用発明における重合体シートの配向状態について検討するに、引用例1には、「成膜工程中に該粒子の配向、分散が不均一であると発色しなかったり、あるいはしても弱かったりするので注意が必要である」(摘示(1-5))及び「鱗片状雲母の板状面の向きが、それぞれの粒子に於いて、一定方向に配列していることが好ましい。配列していなくとも色相は示すが、色の強さとしては、弱いものとなる。」(摘示(1-4))との記載があり、上記の「該粒子」も「鱗片状雲母」も薄片のことであるから、引用例1には、重合体シートに配置される薄片は、配向させることが好ましい旨、記載されているといえる。
また、摘示(1-5)によれば、引用発明のシートは延伸法などで製造しうるものであるところ、延伸法には、一軸延伸法と二軸延伸法とがあって、それぞれ、一軸配向、二軸配向されたものが得られること、合成繊維のような線状材料には一軸延伸が行われるが、フィルムやシートのような面状材料の場合は、二軸延伸が行われること、二軸延伸によって、面積は増大し、厚さは減少し、分子鎖軸はフィルム面に平行であるが、この面内にランダムに配向し、このような二軸配向フィルムが未配向のものに比して、強度が大きいこと、等は、本出願前より当業者に周知である(必要なら、筏義人外編、「高分子事典」、株式会社高分子刊行会、1971年2月20日第1版第1刷発行、第21?22頁、「延伸」の項、参照)から、引用発明がシートであることからすると、摘示(1-5)に記載の延伸法には、二軸延伸も包含されている、と解される。
そうしてみると、引用発明である、多層干渉薄片が配置されている重合体シートにおいて、薄片を配向させ、発色性の高いものとするために、引用例1に記載された延伸法の中でも、シートの延伸に適した二軸延伸を採用し、薄片を配向させ、重合体シートが二軸配向されたものとする点に、格別の創意を要したものとすることはできない。

(5-2)相違点イ
引用発明における薄片のアスペクト比について検討するに、薄片という以上、厚みに対する幅のアスペクト比は、1対1より大きいものであることは明らかであるうえに、引用発明においても、チタン被覆マイカの被覆層の厚みは好ましくは30?500mμで、鱗片状雲母の厚みは0.05?2.0μmで、大きさは10?20μmが好ましい(摘示(1-3))のであるから、引用発明における好ましい範囲の薄片は「アスペクト比が少なくとも2:1」の範囲内に入るものであるといえる。
さらに、引用例2はインキの発明に関するものではあるものの、入射光の2つの角度で2つの異なる色の色ずれが得られる光学可変性インキに関する発明であって、インキビヒクル中に置かれた光学変性フレークが第1および第2の平らな表面、および薄膜構造の層に垂直な方向で測定した厚さを有する多層薄膜構造から成り、薄膜構造の層の平面に平行な第1および第2の平らな表面および層の平面に垂直な表面にそれぞれ、少なくとも2対1のアスペクト比を有する光学変性ビヒクルを含む光学可変性インキが記載されており(摘示(2-1)参照)、該光学可変性フレークの「アスペクト比は、それが、フレークが上面および底面で着地しその端部でないことを保証するのを助長する点で重要である」こと(摘示(2-2))、「少なくとも2対1およびより大きい、好ましくは5?10対1のアスペクト比の利用により、薄膜コーティングが対称的であってこれらの表面が大きい次元を有するので、フレークの大部分がインキビヒクル中にフレークの色を与える表面が上向きになるような配置で着地する保証を与える。」(摘示(2-2))と記載されていることから、多層薄層構造を有する光学可変性フレークにおいては、フレークの広い面積の側の表面が印刷面に着地することが必要であって、そのためには、アスペクト比が少なくとも2:1を有することが必要であると解される。
そうしてみると、多層干渉薄片においても、このような薄片の形状、すなわち、薄片の平行な広い表面が重合体シートの平行な第1および第2表面と配向しやすいように、アスペクト比を少なくとも2:1とすることは当業者が容易に決定し得ることである。

(5-3)相違点ウ
引用発明における薄片の配置について検討するに、引用例1に記載された事項として、二軸延伸による延伸法も含まれていると解されることは、上記(5-1)に示したとおりであるところ、二軸延伸法を用いれば、分子鎖軸はフィルム面に平行であってその面内にランダムに配向することは当業者に周知であり(必要なら、前述の「高分子事典」の指摘箇所参照)、また、そのような周知技術に関する記述を離れて考えても、内部に配置された薄片を有するシートを二軸延伸すれば、重合体分子が二軸配向し、重合体分子の配向につれて、重合体分子の間に存在する薄片も配向し、フィルムの面積は増大し、厚さは減少し、薄片がその角度を徐々に変え、延伸方向と平行となっていくであろうことは、当業者が普通に理解するところである。
そうしてみると、薄片が二軸配向方向の平面中に存在し、かつ該薄片の第1及び第2の平行表面が重合体材料の第1層の第1及び第2の平行表面と平行となるように、配向されている、というのは、二軸延伸法で製造することによる当然の結果といえ、二軸延伸法により製造したものの形を示したものであって、当業者が要すれば適宜行う程度のものである。

(5-4)本願補正発明1の効果
本願補正発明1の奏する効果について、効果という見出しでは明細書中に記載されていないものの、明細書全体の記載をみるに、請求人が、平成16年9月15日付け手続補正書(審判請求書の補正)で主張するとおりといえるので、それについて検討する。
請求人は、該手続補正書第2頁第31?34行において、
「この構成により、
1.多層干渉薄片による最大の光学的効果が得られる、この事によって、
2.必要な薄片の量を最少にすることができる、
と言う顕著な作用効果を奏する発明です(明細書第14頁下から7行?第15頁2行)。」
と述べ、そのより具体的な内容として、同書第2頁第35行?第3頁第1行において、
「多層干渉薄片による最大の光学的効果とは、高い輝度と高い彩度(色の飽和度)であり、光学的に変化する薄片の場合、高い輝度は、重合体シート中で全ての薄片が同じ配向を持つ時に、つまり、薄片が、二軸延伸によって二軸方向に配向された重合体シートの二軸配向方向の平面中に存在し且つ薄片の第1及び第2の平行表面が重合体シートの第1及び第2の平行表面と平行となるように配列される時に得られます。一方、全ての薄片の平行表面が重合体シートの表面と平行ではないと、光の単一光線で照射された時に光があらゆる方向に拡散して目視の角度での全反射が低下します。即ち、輝度が低下するばかりでなく彩度もまた低下します。更に、シートの二軸延伸によって平滑な重合体シートの表面が作られます(明細書第5頁下から7行?第6頁14行)。平滑な表面は、光の分散をなくし、輝度及び/又は彩度の低下を防ぎ、多層干渉薄片に最良の光学的効果を付与します。」
と述べ、さらに、同書第5頁第11?16行において、
「本願発明は、「薄片が、二軸延伸によって二軸方向に配向された重合体シートの二軸配向方向の平面中に存在し且つ薄片の第1及び第2の平行表面が重合体シートの第1及び第2の平行表面と平行となるように配列される」事によって、
1.多層干渉薄片による最大の光学的効果が得られる、この事によって、
2.必要な薄片の量を最少にすることができる、
と言う顕著な作用効果を奏する発明です。」
と述べている。

しかしながら、「二軸延伸によって、二軸方向に配向された重合体シートの二軸配向方向の平面中に存在し且つ薄片の第1及び第2の平行表面が重合体シートの第1及び第2の平行表面と平行となるように配列される」のは、上記(5-3)に示したように二軸延伸を行ったことからくる当然の結果であり、多層干渉薄片が配置された重合体シートにおいて、薄片が配向している方が発色性が高いことは引用例1に記載される(摘示(1-4))ところであるから、薄片を重合体シート内部に配向させることで高い光学的効果が得られ、必要な薄片の量を少なくできることは、当業者の予測の範囲内である。
さらに、例えば一軸延伸でも、延伸倍率が高くなれば、言い換えると、重合体シートが非常に薄くなるまで延伸されれば、全ての薄片の平行表面は重合体シートの上下二つの面に平行になり、高い光学的効果が得られ、必要な薄片の量を少なくできると考えられるので、延伸倍率等を規定しない本願補正発明1において、二軸延伸法を採用したことにより、格別顕著な効果を奏し得たものということはできない。
かつ、本願明細書には、本願補正発明1と他の比較例とを対応させた実験データは何ら示されておらず、この点からも、本願補正発明1の奏する効果が格別のものであるとすることはできない。

(5-5)まとめ
したがって、本願補正発明1が、予期以上の格別顕著な効果を奏し得たものとは認められず、本願補正発明1は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、その余のことを検討するまでもなく、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成16年7月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?34に係る発明は、平成15年6月17日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?34に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「第1及び第2の平行表面を有する重合体材料の第1層を含有し、複数の多層干渉薄片が上記重合体材料の第1層に配置されている重合体シートであって、
上記薄片が第1および第2の平行表面と、幅及び厚みとを有し、かつ厚みに対する幅のアスペクト比が少なくとも2:1であり、更に、上記薄片が平面中に存在し、かつ該薄片の第1及び第2の平行表面が重合体材料の第1層の第1及び第2の平行表面と実質的に平行となるように、配向されていることを特徴とする重合体シート。」

(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)引用発明
引用発明は、前記「2.(3)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)」に示した本願補正発明1から、「二軸配向された」と「二軸配向方向の」を付加した限定、及び「実質的に」を削除するという限定を解除したものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記「2.(5-5)」に示したとおり、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-07 
結審通知日 2007-11-12 
審決日 2007-11-27 
出願番号 特願平7-520650
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
P 1 8・ 575- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史細井 龍史  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鴨野 研一
鈴木 紀子
発明の名称 配向多層干渉薄片を有する重合体シート  
代理人 大塚 文昭  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 浅井 賢治  
代理人 村社 厚夫  
代理人 中村 稔  
代理人 今城 俊夫  
代理人 小川 信夫  

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