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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01N
管理番号 1177133
審判番号 不服2005-5831  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-04 
確定日 2008-04-28 
事件の表示 平成11年特許願第178120号「空燃比制御装置及び空燃比制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月16日出願公開、特開2001- 12237〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年6月24日の出願であって、平成16年5月11日付けで拒絶理由が通知され、平成16年7月8日付けで手続補正がなされると共に意見書が提出され、平成17年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年4月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において平成19年12月12日付けで拒絶理由が通知され、平成20年2月12日付けで手続補正がなされると共に意見書が提出されたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記平成20年2月12日付けの手続補正によって補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、次のとおりである。

「【請求項1】 ハニカム触媒、該ハニカム触媒を収納するケーシング及び両者間に介在されて該ハニカム触媒を該ケーシングに対して保持する触媒保持部材を有し、排気系に組み付けられる触媒コンバータと、該触媒コンバータより排ガス上流側及び下流側の該排気系に配設される入側O_(2)センサ及び出側O_(2)センサとを備え、該出側O_(2)センサの出力に応じて基準電圧を変化させ、変化後の基準電圧と該入側O_(2)センサの出力とを比較することにより、空燃比をフィードバック制御する空燃比制御装置であって、
前記触媒保持部材は、アルミナ繊維と、有機バインダとから構成されるアルミナ繊維マットよりなり、該アルミナ繊維マットの全体を100wt%としたとき、該有機バインダの含有率が8wt%以下であり、
前記有機バインダはアクリル酸エステルポリマーよりなることを特徴とする空燃比制御装置。」

2.引用文献記載の発明
(1)当審における平成19年12月12日付け拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-184427号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関(エンジン)において、吸入空気量に応じて適量の燃料を供給することにより、空気と燃料との混合比(空燃比:A/F)を所望の値に制御する装置である空燃比制御装置に関し、より詳細には、ダブルO_(2) センサシステムを採用して空燃比フィードバック補正を行う空燃比制御装置に関する。」

イ.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】さて、触媒は、担体、活性成分、及び添加成分より構成される。担体の形状としては、ペレット型とモノリス(ハニカムともいう)型とがあるが、現在では耐久性等の観点からモノリス型が主流となっている。そして、モノリス型担体の材料としては、セラミックやメタル(金属)が使用されているが、コストの観点からセラミックの方が有利である。
【0007】かかるセラミック触媒をケース内に保持するために、有機成分を含むシール材が使用されている。そのため、触媒が新品の場合、高温になると、その有機成分が留出し、H_(2) 及びHCが排気ガス中に排出される。下流側O_(2) センサに到達する排気ガス中にH_(2) が存在することは、次に示されるように、下流側O_(2) センサの出力特性に影響を及ぼす。」

ウ.「【0011】かかる実情に鑑み、本発明の目的は、セラミック触媒のシール材からの有機成分留出に伴うH_(2) 発生に起因する空燃比制御精度の低下を防止することが可能な空燃比制御装置を提供することにより、内燃機関の排出ガス浄化性能の向上を図り、ひいては大気汚染防止に寄与することにある。」

エ.「【0012】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成すべく案出された、本発明に係る、内燃機関の空燃比制御装置は、排気系にセラミック触媒を設けるとともに、該セラミック触媒の上流側及び下流側にそれぞれO_(2) センサを配設し、該O_(2) センサの出力電圧と基準電圧との比較結果に基づいて空燃比をフィードバック制御する内燃機関の空燃比制御装置において、該セラミック触媒のシール材に使用されている有機成分がH_(2) を発生する条件にあるか否かを判別する判別手段と、該有機成分がH_(2) を発生する条件にあると前記判別手段によって判別された場合に、該触媒下流側O_(2) センサの出力電圧と比較されるべき基準電圧をより高い値に変更する変更手段と、を具備することを特徴とする。」

オ.「【0018】排気マニホールド11より下流の排気系には、排気ガス中の3つの有害成分HC,CO,NOx を同時に浄化する三元触媒を収容する触媒コンバータ12が設けられている。この三元触媒の担体は、セラミックを材料としたモノリス型形状のものである。排気マニホールド11には、すなわち触媒コンバータ12の上流側には、第1のO_(2) センサ13が設けられ、触媒コンバータ12の下流側の排気管14には第2のO_(2) センサ15が設けられている。O_(2) センサ13,15は、排気ガス中の酸素成分濃度に応じた電気信号を発生する。すなわち、O_(2) センサ13,15は、空燃比が理論空燃比に対してリーン側かリッチ側かに応じて、異なる出力電圧を制御回路10のA/D変換器101に供給する。」

カ.「【0045】また、上述の実施形態においては、上流側O_(2) センサによる空燃比フィードバック制御における制御定数としての遅延時間を下流O_(2) センサの出力により補正するダブルO_(2) センサシステムを示したが、本発明は、他の制御定数、例えば積分制御定数、スキップ制御定数、上流側O_(2) センサの基準電圧等を下流側O_(2) センサの出力により補正するダブルO_(2) センサシステムにも適用し得る。さらに、制御定数を固定する一方、2つの空燃比補正係数FAF1,FAF2を導入して、それぞれを上流側O_(2) センサ、下流側O_(2) センサの両出力に応じて演算するダブルO_(2) センサシステムにも本発明は適用し得る。」

キ.「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る空燃比制御装置を備えた電子制御式内燃機関の全体概要図である。
【図2】空気過剰率λ(すなわち空燃比A/F)とO_(2) センサ出力電圧との関係を示す特性図である。
【図3】走行距離DISTに応じて基準電圧V_(R2)を設定するためのマップを示す図である。
【図4】基準電圧V_(R2)設定ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図5】メイン空燃比フィードバック制御ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図6】メイン空燃比フィードバック制御の処理に関する補足説明をするためのタイミング図である。
【図7】サブ空燃比フィードバック制御ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図8】燃料噴射量演算ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図9】遅延時間TDRおよびTDLのタイミング図である。
【符号の説明】
1…機関本体
2…吸気通路
3…エアフローメータ
4…点火ディストリビュータ
5…第1のクランク角センサ
6…第2のクランク角センサ
7…燃料噴射弁
8…ウォータジャケット
9…水温センサ
10…制御回路
101…A/D変換器
102…入出力インタフェース
103…CPU
104…ROM
105…RAM
106…バックアップRAM
107…クロック発生回路
108…ダウンカウンタ
109…フリップフロップ
110…駆動回路
11…排気マニホールド
12…触媒コンバータ
13…上流側(第1の)O_(2) センサ
15…下流側(第2の)O_(2) センサ
17…車速センサ」

(2)ここで、上記(1)記載事項ア.ないしキ.及び図面から、次のことが分かる。

上記ア.の記載より、ダブルO_(2)センサシステムを採用して空燃比フィードバック補正を行う空燃比制御装置に関するものであることが分かる。

上記イ.、ウ.の記載より、触媒を保持するシール材に含まれる有機成分が、下流側O_(2)センサの出力特性に影響を及ぼすことよる空燃比制御精度の低下防止を目的としていることが分かる。

上記イ.、オ.、キ.及び第1図の記載より、排気系には、触媒コンバータ12が設けられており、該触媒コンバータ12の担体はモノリス(ハニカム)型セラミック触媒であることが分かる。また、該セラミック触媒はシール材を介してケースに保持されていることが分かり、該シール材には少なくとも有機成分が含まれていることが分かる。

上記オ.、キ.及び第1図の記載より、触媒コンバータ12の上流側には、第1のO_(2) センサ13が設けられ、触媒コンバータ12の下流側の排気管14には第2のO_(2) センサ15が設けられていることが分かる。

上記エ.の記載から、O_(2) センサの出力電圧と基準電圧との比較結果に基づいて空燃比をフィードバック制御する内燃機関の空燃比制御装置であることが分かり、また、上記カ.の記載から、上流側O_(2) センサの基準電圧等を下流側O_(2 )センサの出力により補正する周知のダブルO_(2) センサシステムにも適用可能であることが分かる。

(3)引用文献記載の発明
上記記載事項(1)、(2)より、引用文献には次の発明が記載されていると認められる。
「モノリス型セラミック触媒、該モノリス型セラミック触媒を収納するケース及び両者間に介在されて該モノリス型セラミック触媒を該ケースに対して保持するシール材を有し、排気系に設けられる触媒コンバータ12と、該触媒コンバータ12より排ガス上流側及び下流側の該排気系に配設される第1のO_(2)センサ13及び第2のO_(2)センサ13とを備え、該第2のO_(2)センサ13の出力に応じて基準電圧を補正させ、補正後の基準電圧と該第1のO_(2)センサ13の出力とを比較することにより、空燃比をフィードバック制御する空燃比制御装置であって、
前記シール材は、少なくとも有機成分から構成される空燃比制御装置。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

3.対比
本願発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「モノリス型セラミック触媒」、「ケース」、「シール材」、「設けられる」、「触媒コンバータ12」、「第1のO_(2)センサ13」、「第2のO_(2)センサ13」、及び「補正」は、それぞれの有する機能に照らして、本願発明における「ハニカム触媒」、「ケーシング」、「触媒保持部材」、「組み付けられる」、「触媒コンバータ」、「入側O_(2)センサ」、「出側O_(2)センサ」及び「変化」に相当する。
また、本願発明における「触媒保持部材は、アルミナ繊維と、有機バインダとから構成される」と、引用文献記載の発明における「シール材は、少なくとも有機成分から構成される」とは、いずれも「触媒保持部材」が「有機成分」を含んで構成されていることから、両者は「触媒保持部材は、少なくとも有機成分から構成される」である限りにおいて相当する。

してみると、両者は、
「ハニカム触媒、該ハニカム触媒を収納するケーシング及び両者間に介在されて該ハニカム触媒を該ケーシングに対して保持する触媒保持部材を有し、排気系に組み付けられる触媒コンバータと、該触媒コンバータより排ガス上流側及び下流側の該排気系に配設される入側O_(2)センサ及び出側O_(2)センサとを備え、該出側O_(2)センサの出力に応じて基準電圧を変化させ、変化後の基準電圧と該入側O_(2)センサの出力とを比較することにより、空燃比をフィードバック制御する空燃比制御装置であって、
前記触媒保持部材は、少なくとも有機成分から構成される空燃比制御装置。」で一致し、次の点において相違している。

[相違点]
「触媒保持部材」に関して、本願発明においては、「アルミナ繊維と、有機バインダとから構成されるアルミナ繊維マットよりなり、該アルミナ繊維マットの全体を100wt%としたとき、該有機バインダの含有率が8wt%以下であり、前記有機バインダはアクリル酸エステルポリマーよりな」っているのに対し、引用文献記載の発明においては、「少なくとも有機成分から構成され」てはいるものの、有機成分以外の成分並びに有機バインダの含有量及び材質が明らかでない点。

4.当審の判断
上記[相違点]について検討する。
「アルミナ繊維と、有機バインダとから構成されるアルミナ繊維マット」よりなる「触媒保持部材」は従来周知の技術(例えば、特開平10-337480号公報のモノリス保持材3、特開平1-240715号公報の装着マット30、特開平3-7333号公報のセラミックファイバ層26等参照されたい。)にすぎず、また、有機バインダとして公知のアクリル酸エステルポリマーを選択することは、当業者が適宜設計し得る事項である(例えば、上掲特開平10-337480号公報の【0022】の記載等参照されたい。)。
更に、「有機バインダ」の含有率を、触媒保持部材全体の「8wt%以下」とすることも、当業者が適宜設定し得る程度の数値範囲(例えば、特開昭59-519号公報の第2頁右下欄の記載、上掲特開平3-7333号公報の第6頁右下欄?同第7頁左上欄の記載等参照。)である。
なお、該「8wt%以下」なる数値限定については、従前知られた値と比べ、その数値限定の内と外とで作用効果において顕著な差異は見出せず、また、実験的に数値範囲を最適化又は好適化しているにすぎないといえることから、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。

したがって、引用文献記載の発明における「触媒保持部材」に、上記各従来周知の技術を適用し、上記[相違点]に係る本願発明の構成とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。

また、本願発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明及び上記各従来周知の技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用文献記載の発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-28 
結審通知日 2008-03-04 
審決日 2008-03-17 
出願番号 特願平11-178120
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 小谷 一郎
西本 浩司
発明の名称 空燃比制御装置及び空燃比制御方法  
代理人 大川 宏  

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