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審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服200418401 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1177331
審判番号 不服2007-17860  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-27 
確定日 2008-05-09 
事件の表示 特願2000-596937「(E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル)アミノ]ピリミジン-5-イル](3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプツ-6-エン酸と、P450アイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤又は基質を含んでなる薬物の組み合わせ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月10日国際公開、WO00/45817、平成14年10月29日国内公表、特表2002-536331〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯
本願は、平成12年2月1日(優先権主張 1999年9月8日 イギリス 1999年2月6日 イギリス)を出願日とする国際出願であって、平成19年3月23日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年6月27日付に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、平成19年7月27日付で手続補正がされたものである。

2.平成19年7月27日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年7月27日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正は、補正前特許請求の範囲の請求項12の
「【請求項12】(E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル)アミノ]ピリミジン-5-イル](3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプツ-6-エン酸又はその製剤的に許容される塩、P450アイソザイム3A4の誘導剤、阻害剤又は基質である薬物、及び製剤的に許容される希釈剤、単体又はアジュバントを含んでなる、医薬製剤。」

「【請求項12】(E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル)アミノ]ピリミジン-5-イル](3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプツ-6-エン酸又はその製剤的に許容される塩、P450アイソザイム3A4の誘導剤、阻害剤又は基質である薬物、及び製剤的に許容される希釈剤、単体又はアジュバントとを含んでなる、医薬製剤であって、当該P450アイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤又は基質が、ベザフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、ジェムフィブロジル、ナイアシン、ジギトキシン、ジルチアゼム、ロサルタン、ニフェジピン、キニジン、ベラパミル、ワルファリン、シクロスポリン、タクロリムス、コルチコステロイド、アセトアミノフェン、アルドリン、アフレンタニル、アミオドラン、アステミゾール、ベンズフェタミン、ブデノシド、カルバマゼピン、シクロホスファミド、ダプソーン、ジアゼパム、エリスロマイシン、エトポシド、フルタミド、ヒドロキシアルギニン、イホスファミド、イミプラミン、ランソプラゾール、リドカイン、ロバチジン、ロバスタチン、ミドラゾラム、オメプラゾール、ラパマイシン、レチノイン酸、ステロイド類、テニポシド、テオフィリン、トレミフェン、トリアゾラム、トロレアンドマイシン、ザトセトロン、ゾニサミド、クロトリマゾール、エチニルエストラジオール、ゲストデン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナリンゲニン、トリアセチルオレアンドマイシン、デキサメサゾン、フェノバルビタール、フェニトイン、リファンピン、スルファジミジン、及びスルフィニピラゾンから選択されるものである、医薬製剤。」
とする補正を含むものである。

この補正は、請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項である「P450アイソザイム3A4の誘導剤、阻害剤又は基質である薬物」を「ベザフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、・・・・・・・リファンピン、スルファジミジン、及びスルフィニピラゾンから選択されるもの」に限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項12に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)本願明細書の記載について

(E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル)アミノ]ピリミジン-5-イル](3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプツ-6-エン酸(以下、この化合物を「作用薬」という。)はHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であり、高コレステロール血症の治療に使用される薬剤である。本願補正発明は、この作用薬とP450アイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤又は基質である特定の薬物とを配合した点を特徴とする医薬製剤にかかる発明である。
特許法第36条4項には、「・・発明の詳細な説明は、通商産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術分野に於ける通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定し、特許法施行規則第24条の2には「特許法第36条第4項の通商産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載するところによりしなければならない。」と規定している。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明に、作動薬と特定の薬剤を配合して使用することの技術上の意義を理解するために必要な事項が明確かつ十分に記載されているかにつき検討する。

本願明細書には、シトクロムP450・3A4により代謝されるかまたはそれと相互作用する薬剤と、同じくシトクロムP450・3A4により代謝されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤とを共投与することにより、生体中のHMG-CoAレダクターゼ阻害剤の代謝が阻害され、その生体内レベルが上昇し、生体組織が多量の当該阻害剤に曝露された結果、臨床的に深刻な毒性、例えばミオパシーという有害事象がもたらされることを説明(段落【0006】)した上で、「作用薬」はシトクロムP450・3A4により代謝されないので、市販の「スーパースタチン」、即ちアトロバスタチン、又は、他の市販スタチンのいずれとも共通する薬物相互作用の同じ潜在可能性を有さないこと(段落【0011】)、本発明の特徴として、「作用薬」であるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤とシトクロムP450、特にアイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤又は基質である薬物を含んでなる非相互作用性の薬物組合せを提示(段落【0012】)し、これらの記載により、高コレステロール血症の治療に有効である本願補正発明の作用薬は、シトクロムP450・3A4により臨床上意義がある程度の代謝を受けないことを見出し、これに基づいて、シトクロムP450・3A4により代謝されるかまたはそれと相互作用する薬剤との共投与により上記の臨床的な毒性を回避しようとするものであるとされている。
そして、「作用薬」の代謝に関わるアイソザイムを決定する実験法を記載すると共に(段落【0037】?【0042】)、「・・(c)上記 in vitro データを使用して、既知のP450酵素阻害剤/誘導剤と同時投与するときに、集団における「作用薬」の薬物動態の変動性と「作用薬」の薬物動態に及ぼす可能な効果を予測し得る。」とし、続いて段落【0043】において、「「作用薬」が肝細胞全体によっては有意に代謝されないこと、及びこのことがスルファフェナゾール及びオメプラゾールにより阻害されることが見出された。」と記載している。ただし、「作用薬」や特定の薬物についての具体的な実験結果は示されていない。
また、本願明細書に本願補正発明に対応する実施例としては、「「作用薬」又はプラバスタチンの12ヶ月投与後に、心臓移植後の冠動脈アテローム負荷の変化をIVUS測定で評価する二重盲検、平行群間試験」を表題とするプロトコール(段落【0058】?【0064】)、有害現象、身体所見、及び検査データにより判定される安全性の評価の治験デザイン(段落【0065】?【0067】)及び、健常男性ボランテイアを用いて「作用薬」及びフェノフィブラートの同時投与が各化合物の薬物動態に及ぼす効果を評価する、無作為化、非コントロール、単一施設、オープンラベルの3回交差試験と題される臨床治験や治験デザイン(段落【0088】?【0104】)の記載があるが、これらは「作用薬」とプラバスタチンの比較、あるいはフェノフィブラートとの組合せの評価に関する治験であって、しかもその実施の要領が詳述されているのみであり、実際にその治験を行って得た結果は示されていない。
「作用薬」がアイソザイム3A4により代謝されないこと自体、具体的な実験結果が示されていないことは措くとしても、「作用薬」を他の各種の特定の薬物と組合せて使用した場合の生体内における薬物動態に及ぼす影響は代謝酵素が相違するというだけでは相互作用の発現を否定するには足りず、以下の理由により、最終的には臨床試験によらなければ明らかになるものではない。

すなわち、医薬品の生物薬剤学的相互作用は、薬剤の生体内動態の段階で認められる相互作用で、ある薬物を服用することにより、同時に服用した他の薬物の生体内動態が変化する現象をいうが、体内動態における薬物相互作用には、薬物代謝酵素が関与する相互作用以外に消化管吸収、蛋白結合、排泄など代謝酵素が関与する相互作用以外のものも存在することが知られている(佐藤公道 外1名著「薬理学のまとめ」1988年3月1日発行 株式会社金芳堂 第86-87頁)。
したがって、「作用薬」がP450アイソザイム3A4で代謝されず、それと組み合わされる各種薬物がP450アイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤、基質であるというだけでは、少なくともP450アイソザイム3A4の代謝過程における相互作用のリスクの回避が可能という予測はできても、それ以外の要素(消化管吸収、蛋白結合、排泄の関与)による相互作用の可能性を否定することはできない。
原審において示された文献である「Prog.Med,1998,18,の第56(972)頁においても「薬物動態変化に起因する相互作用は作用点の特定が容易でなく、中でも薬物代謝酵素の活性を阻害或いは促進することによって発現する相互作用の定量的予測は難しいのが現状である」とされ、「薬物を代謝する生体内酵素、トランスポーターの異同を知ることで、相互作用の発現の可能性を予知することが可能となってきている。」のように、薬物代謝酵素の異同はあくまで相互作用の発現の可能性の予知をその限度とするにすぎず、相互作用の危険がないことを裏付けるに足りるものではない。
薬物代謝酵素以外の要素により相互作用が起こりうることは、本願明細書においても「非相互作用性の薬物組み合わせ」という用語は、シトクロムP450による薬物代謝の機序を介した患者への有害な影響がその投与により起こらない薬物の組み合わせを意味する。それでも、組み合わせたときに、薬物吸収に影響するような、薬物代謝には関係しない、完全に異なる機序を介するような2つの薬物間での薬物相互作用がある事例で起こり得ることは認められている。」(段落【0019】)と言及されているとおりである。

そうすると、生体内での薬物相互作用の有無は消化管吸収、蛋白結合、排泄の面での検討も必要であり、それらが未知の場合には、動物実験や臨床試験などで、薬剤の併用投与が安全であること、すなわち有害現象の発生が無いことの確認がなければ、抗コレステロール血症治療薬である「作用薬」と免疫抑制剤、抗生物質などを含む種々の特定の薬物とを医薬製剤とし、同時に投与することが、臨床的に重要な副作用の問題を回避する手段であるといえるのかを客観的に理解することができない。
したがって、これらの記載のない本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願補正発明の技術上の意義を理解することができる程度に明確かつ十分に記載されていると言うことはできない。
なお、請求人は
「本発明者は、驚くべきことに、本願発明の作用薬が、高コレステロール血症の治療に極めて有効であること、及びその作用薬がP450・3A4により臨床上意義がある程度の代謝を受けないことを見出し、本発明を完成いたしました。この代謝を確認するための実験手法及び結果は、例えば、本願明細書段落[0034]?「0043」に、結果に関しては、特に段落[0043]の第1?2行に記載されております
このような知見により、これまでは安全性の面で問題のあった、強力なコレステロール低下作用を有するスタチンとP450アイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤又は基質である薬物とを組み合わせた、安全な薬剤を提供することが可能となったのです。例えば、本願明細書段落[0045]に記載されているように、免疫抑制薬と本願発明の作用薬を組み合わせて投与することにより、従来から問題とされてきた免疫抑制薬との併用投与に関連した臨床的に重要な副作用の問題を回避することができます。また、そのような組合せ投与は、これまで用いられてきたプラバスタチンによって達成されるレベルよりずっと高いレベルでコレステロールを低下させることを可能とします。さらに、本願明細書段落[0070]?[0071]に記載されているように、本願発明は、米国や欧州において市販されている全てのスタチンのラベルで配合禁忌とされているフィブラート薬との併用も可能とします。」
と主張するが、作用薬がP450・3A4により臨床上意義がある程度の代謝を受けないことのみによって直ちに他の薬物との併用が安全になるものではないことは上記のとおりであって、本願明細書には、本願補正発明の作用薬と特定の薬物の配合剤が安全であり、副作用の問題を回避できることについて当業者がそれを理解できる程度に明確かつ十分な記載もされていないのであるから、かかる主張を採用することはできない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願について

平成19年7月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成18年12月21日付手続補正書の特許請求の範囲に記載された請求項1?24に記載された事項により特定されるものである。

(1)原査定の理由
本願については、原審において、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、及び特許請求の範囲の記載(請求項1-24)が同法第6項第2号に規定する要件を満たしていないとする拒絶の理由が示されている。

(2)当審の判断
2-1 特許法第36条第4項について
平成18年12月21日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項13?15に記載された事項により特定される発明は、本願補正発明と重複している。また、他の請求項により特定される発明も「(E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル)アミノ]ピリミジン-5-イル](3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプツ-6-エン酸又はその製剤的に許容される塩」と「P450アイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤又は基質である薬物」との組合せをその技術的特徴とするものである。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明の内容は、却下された補正の前後において変更はない。そうすると、上記2.(2)に記載したと同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明は、これらの薬剤の併用の技術上の意義を理解するに必要な事項の記載を欠くものであって、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないということができる。
したがって、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

2-2 特許法第36条第6項2号について
請求項1-4,7,9,11,12,16,17,19,24における「P450アイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤又は基質である薬物」という記載は、薬物のP450アイソザイム3A4に対する作用によって薬物を特定しているが、出願時の技術常識を勘案しても、どのような手法を用い、どのような評価基準によって阻害剤、誘導剤あるいは基質であることを判別するのか明らかでなく、上記薬物の範囲が明確ではない。
したがって、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件も満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-07 
結審通知日 2007-12-10 
審決日 2007-12-21 
出願番号 特願2000-596937(P2000-596937)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大宅 郁治飯室 加奈荒木 英則  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 谷口 博
穴吹 智子
発明の名称 (E)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メチル(メチルスルホニル)アミノ]ピリミジン-5-イル](3R,5S)-3,5-ジヒドロキシヘプツ-6-エン酸と、P450アイソザイム3A4の阻害剤、誘導剤又は基質を含んでなる薬物の組み合わせ  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 松本 謙  
代理人 増井 忠弐  
代理人 千葉 昭男  
代理人 社本 一夫  
代理人 社本 一夫  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 小林 泰  
代理人 松本 謙  
代理人 増井 忠弐  

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