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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800174 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23D
管理番号 1178858
審判番号 無効2007-800205  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-09-25 
確定日 2008-06-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3790949号発明「円盤状工具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1. 手続の経緯
平成10年12月15日 本件出願
(優先権主張、平成9年12月16日)
平成18年 4月14日 設定登録(特許第3790949号)
平成19年 9月25日 無効審判請求
平成19年12月10日 答弁書、訂正請求書
平成20年 2月 5日 請求人・口頭審理陳述要領書
平成20年 2月22日 請求人・上申書
被請求人・口頭審理陳述要領書
口頭審理
被請求人・訂正請求取り下げ

第2.本件特許
本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下「本件特許1ないし2」という。)は、特許明細書によれば、以下のとおりと認められる。

【請求項1】
鋼製の円盤状基板に超硬合金・サーメット・耐摩耗鋳造合金等の耐摩耗性チップが鑞付けされ、該基板の間に間座を同軸的に介装して、これら複数の基板の間に間隙を確保すると共に、該基板の前記間座外側となる外周に物理蒸着法による耐摩耗性膜のコーティングを施してなる円盤状工具において、
前記円盤状基板の直径をD(mm)とし、該基板の厚みをt(mm)とした場合に、t/D^(2)は3.7×(1/10^(5))以下に収まっており、
前記円盤状基板の外周に前記コーティングが施される範囲を、該基板の直径(D)の0.75倍以上となるように設定したことを特徴とする円盤状工具。
【請求項2】
前記コーティングを施す範囲を、直径(D)の0.85倍以上の大きい範囲となるよう設定した請求項1記載の円盤状工具。

なお、無効2007-800174号において、平成20年3月13日付けで、本件特許に対し、訂正の請求がなされたが、同事件の審決は、確定していない。

第3.請求人の主張
請求人は、本件特許1ないし2を無効とするとの審決を求めている。
その理由の概要は、本件特許1ないし2は、以下の証拠により、本件優先日前に製造・納入された甲第1号証に代表される「ハードメタルソー」なる工具と同一であって、公然知られ、もしくは公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項の規定により、又は、かかる製品をもとに容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというものである。(審判請求書第3ページ第6?16行)
甲第1号証工具の外周部の金色部分が、コーティングによるものであることは技術常識である。(口頭審理陳述要領書第2ページ第27行?第3ページ第26行)
製品が製造・販売され、顧客が工具をいかに扱うかは自由である以上、公知・公用であることは明らかである。(口頭審理陳述要領書第7ページ第8?20行、第8ページ第8?18行)
間座を介して円盤状工具の外周にコーティングを行うことは、周知・慣用技術である。(上申書第1ページ下から2行?第2ページ第1行)
以下の証拠のうち、甲第1ないし4号証は、審判請求書に添付され、甲第5ないし18号証は、その後提出されたものである。
なお、ローマ数字、丸囲み数字は置き換えて表記した。

甲第1号証:本件請求人の平成3年版の会社案内
甲第2号証:本審判請求人の製品広告を掲載した新聞
甲第3号証の1:本審判請求人のコーティング指示書
甲第3号証の2の1:本審判請求人が製造販売したチップソーの製作図
甲第3号証の2の2:本審判請求人が製造販売したチップソーの製作図
甲第3号証の2の3:本審判請求人が行ったチップソーのテスト結果報告 書
甲第4号証の1:本審判請求人に対するコーティング加工の見積書
甲第4号証の2:本審判請求人に対するコーティング加工の見積書
甲第4号証の3:本審判請求人の顧客への実機テスト依頼書
甲第4号証の4:本審判請求人が製造販売したチップソーの製作図
甲第5号証:本件請求人の平成6年版の会社案内
甲第6号証:イオンプレーティング皮膜の特徴を示す表
甲第7号証:本件請求人のメタルソーカタログ
甲第8号証:JFE鋼管株式会社の証言書
甲第9号証:池内精工株式会社の証言書
甲第10号証:池内精工株式会社の注文書
甲第11号証:本件請求人の作成した親板の営業図
甲第12号証:本件請求人の平成10年版の会社案内
甲第13号証:本件請求人の平成18年版の会社案内
甲第14号証:本件請求人のメタルソーのカタログ
甲第15号証:日本コーティングセンター(株)のカタログ
甲第16号証:NKK精密株式会社のカタログ
甲第17号証:NKK精密株式会社のカタログ
甲第18号証:作業指示書

第4.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
その理由の概要は、以下のとおりである。
甲第2号証以外の証拠は、特許法第29条第1項の頒布された刊行物には該当しない。
いずれの証拠にも、間座を介装してコーティングを行う点、コーティング範囲については、記載されていない。
また、これら証拠の関連性、製品の同一性は不明であり、実際に製造・販売されたとは認められない。製造・販売されたとしても、秘密保持契約の可能性もあるから、かかる製品が、公知公用であることは証明されていない。(答弁書第3ページ第3行?第4ページ末行、口頭審理陳述要領書第2ページ第15行?第3ページ第1行、第8ページ第18行?第10ページ第3行、第11ページ第23?27行)

第5.当審の判断
1.本件特許
本件特許1ないし2は、上記第2.のとおりと認められる。

2.証拠について
(1)甲第1号証
甲第1号証(本件請求人の平成3年版の会社案内)には、以下の記載がある。

ア.表紙
「株式会社谷テックのごあんない」と記載されている。

イ.第6?7ページ
「すみずみに匠の心が息づく先進のプロダクト・システム」、「主なブランド紹介」と題して、メタルソー、ハードメタルソー、フリクションソー、チップソー等が紹介されている。
「ハードメタルソー」は「合金工具鋼を素材とした親板に、切刃としての超硬チップをロー付けし・・・重切削丸鋸刃。」と記載され、その写真から、超硬チップを含む外周部分が金色であることが看取できる。

ウ.第8?9ページ
「谷テック全国主要ユーザーの一例」として、全国の主要ユーザー名が記載されている。

エ.第10ページ
「沿革」として、会社の年表が記載され、新しい部分は、平成元年、平成2年、平成3年である。

甲第1号証は、「株式会社谷テックのごあんない」として、製品の紹介、営業所名が記載されていることから、営業を目的として作成され、上記ウ.から製品が多くユーザーに販売されたものと認められる。
販売の時期については、上記エ.「沿革」が平成3年までであり、甲第1号証同様な会社案内である甲第5号証の「沿革」が平成6年までであることから、甲第1号証は、平成3から6年に作成されたものであり、掲載製品についても、平成3から6年に販売されたものと認められる。
なお、甲第1号証は、その体裁、内容からみて、特許法第29条第1項の「頒布された刊行物」にも該当すると認められる。

甲第1号証の技術的記載事項については、上記イ.のとおりである。
ところで、かかる切削工具においては、物理蒸着法によるチタンセラミックコーティングを行うことが珍しくなく、チタンセラミックコーティングを行った場合、コーティング部分が金色となることは、甲第6?7号証にもみられるごとく技術常識である。
なお、請求人は、外周部を別部材とすることで金色となる可能性がある旨、主張するが、技術常識に照らし、無理があると言わざるを得ない。
そして、チタンセラミックコーティングの範囲は、写真の実測によれば、基板の直径(D)に対し、約0.85倍である。
「間座」、基板の「直径と厚み」については、他の証拠の工具との同一性は、証明されていないことから、不明である。

したがって、甲第1号証に掲載され、平成3から6年に販売された「ハードメタルソー」は、以下のとおりと認められる。
「合金工具鋼の円盤状基板に超硬チップが鑞付けされた円盤状工具であり、直径の約0.85倍の外周部に、物理蒸着法によるチタンセラミックコーティングされたもの。」(以下「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証
頒布された刊行物である甲第2号証の新聞広告によれば、以下のものが看取できる。
「合金工具鋼の円板状基板に超硬チップが鑞付けされた円板状工具であり、直径の約0.85倍の外周部の色彩が内周部と異なるもの」(平成5年5月17日広告)
「直径の約0.85倍の外周部の色彩が内周部と異なるハードメタルソー」(平成5年6月4日広告)
外周の色彩は、白黒のため、不明である。
「間座」、基板の「直径と厚み」については、不明である。

(3)甲第3号証の1
谷テックが、ジャパン・アドコーティングに、直径と厚みの関係、コーティング範囲が、本件特許1の範囲に含まれる円盤状工具のコーティングを依頼したことが認められる。
しかし、甲第3号証の1には「ハードメタルソー」である旨の記載はなく、甲第1号証の工具との同一性は、証明されていない。
間座については、不明である。

(4)甲第3号証の2の1、2
谷テックが、日鉄建材、鋼管建材向けに、直径と厚みの関係が、本件特許1の範囲に含まれる円盤状工具を製造したことが推測される。
甲第3号証の2の1、2には「HM」と記載され、「ハードメタルソー」であることを伺わせる記載がある。
しかし、甲第3号証の2の1、2の工具と、甲第3号証の1の工具との同一性は、証明されていない。
コーティング、間座については、不明である。

(5)甲第3号証の2の3
谷テックが、鋼管建材向けに、直径と厚みの関係が、本件特許1の範囲に含まれ、コーティングを施した円盤状工具を試験したことが認められる。
しかし、他の証拠の工具との同一性は、証明されていない。
コーティング範囲、間座については、不明である。

(6)甲第4号証の1
泉商事が、谷製鋸向けに、直径と厚みの関係、コーティング範囲が、本件特許の範囲に含まれる円盤状工具のコーティングの見積もりをしたことが認められる。
しかし、他の証拠の工具との同一性は、証明されていない。
間座については、不明である。

(7)甲第4号証の2
日本コーティングセンターが、谷製鋸向けに、外径300、350、400の円盤状工具のコーティングの見積もりをしたことが認められる。
しかし、他の証拠の工具との同一性は、証明されていない。
工具の厚み、コーティング範囲、間座については、不明である。

(8)甲第4号証の3
谷製鋸が、池内精工に、コーティングした円盤状工具のテストを依頼したことが認められる。
工具直径、コーティング範囲、間座については不明である。

(9)甲第4号証の4
谷製鋸が、池内精工向けに、外径300、直径と厚みの関係が、本件特許1の範囲に含まれる円盤状工具を製造したことが認められる。
甲第4号証の4には「HM」と記載され、「ハードメタルソー」であることを伺わせる記載がある。
しかし、他の証拠の工具との同一性は、証明されていない。
コーティング範囲、間座については、不明である。

(10)甲第5、12?13号証
本件請求人の発行年の異なる会社案内であり、甲第1号証の発行時期を証明するためのものである。

(10)甲第6?7号証
チタンセラミックコーティングを行った場合、コーティング部分が金色となることが記載されている。
なお、甲第7号証は、その体裁、内容からみて、特許法第29条第1項の「頒布された刊行物」にも該当すると認められる。

(11)甲第8?9号証
甲第8?9号証は、関係各社による証言書である。
しかし、本件の場合、以下の理由により、これら証言書のみによる立証事項については、立証されたとは認められない。
(ア)証言者の経歴、業務内容が不明であり、本件優先日前に、証明しようとする事項と証言者の業務との関係が明らかでない。証言者が直接体験した事項なのか、伝聞によるかも明らかでない。
(イ)請求人の求めに応じて提出されたものであるから、曖昧な事項は、請求人の希望どおり証明した可能性を否定しえない。証人尋問と異なり、宣誓がなされた上での証明ではなく、反対尋問もない。

(12)甲第10?11号証
甲第10号証より、池内精工が谷製鋸に外径300の超硬ハードメタルソーを注文したことが認められる。
甲第11号証より、谷製鋸で池内精工向けに、外径300、厚さ3.5のハードメタルソーが製造されたことが認められる。
しかし、両証拠の工具の同一性、他の証拠の工具との同一性は、証明されていない。
コーティング範囲、間座については、不明である。

(13)甲第14号証
谷テックのメタルソーのカタログであり、外周部が金色で、直径と厚みの関係が、本件特許1の範囲に含まれる円盤状工具が記載されている。
コーティング範囲、間座については、不明である。

(14)甲第15?17号証
コーティングメーカー各社のカタログであり、円盤状工具にコーティングを行うことが記載されている。
直径と厚みの関係、コーティング範囲、間座については、不明である。

(15)甲第18号証
「作業指示書」と題する平成2年7月5日の文書である。
複数の工具をまとめてコーティングする際、各工具両側にマスキングプレートと思われるフランジを設け、フランジ間にスペーサと思われる円筒状部材を配しているものが記載されている。
コーティング範囲は、本件特許1に含まれる。
直径と厚みの関係については、不明である。
甲第18号証は、その内容から、社内文書としての性格を有すると認められるから、「頒布された刊行物」には該当しない。
また、かかるコーティングが、公知・公用であったことを認めうる証拠はない。

3.本件特許と各証拠との対比・判断
(1)甲1発明
甲1発明は、上記2.(1)のとおり、「合金工具鋼の円盤状基板に超硬チップが鑞付けされた円盤状工具であり、直径の約0.85倍の外周部に、物理蒸着法によるチタンセラミックコーティングされたもの。」である。

ア.公知・公用について
甲1発明の公知性、公然実施性について検討する。
甲1発明は、甲第1?2号証によれば、不特定の者に対し、広く営業、販売が行われたものと認められる。
そして、円板状工具は、工具の劣化により交換される、いわば消耗品であり、汎用性の高いものである。
してみると、甲1発明の工具の販売にあたっては、特段の秘密保持契約なく、販売されたと解することが自然である。この点は、甲第8?9号証からも裏付けられる。
よって、甲1発明は、公然実施されたものと認められる。
なお、上記2.(1)のとおり、甲第1号証は、「頒布された刊行物」と認められることから、甲1発明は、刊行物に記載された発明と認めることもできる。
公知性については、証拠がなく、認めることができない。

本件特許1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「合金工具鋼」、「超硬チップ」、「チタンセラミックコーティング」、「約0.85倍」は、本件特許1の「鋼製」、「超硬合金・サーメット・耐摩耗鋳造合金等の耐摩耗性チップ」、「耐摩耗性膜のコーティング」、「0.75倍以上」に相当する、又は含まれる。
よって、両者は、以下の一致点、相違点を有すると認める。

一致点:
「鋼製の円盤状基板に超硬合金・サーメット・耐摩耗鋳造合金等の耐摩耗性チップが鑞付けされ、該基板の外周に耐摩耗性膜のコーティングを施してなる円盤状工具において、
前記円盤状基板の外周に前記コーティングが施される範囲を、該基板の直径(D)の0.75倍以上となるように設定した円盤状工具。」

相違点1:
本件特許1は、「基板の間に間座を同軸的に介装して、これら複数の基板の間に間隙を確保すると共に、該基板の前記間座外側となる外周に」コーティングを行うものであるが、甲1発明は不明である点。
相違点2:
本件特許1は、「円盤状基板の直径をD(mm)とし、該基板の厚みをt(mm)とした場合に、t/D^(2)は3.7×(1/10^(5))以下に収まって」いるが、甲1発明は不明である点。

したがって、本件特許1を甲1発明と同一とすることはできない。

イ.進歩性について
相違点1について検討する。
甲第1?17号証には、「間座」に関し、何ら証明されていない。
甲第18号証には、「間座」に相当すると認められる「フランジ」が記載されている。
しかし、前記2.(15)のとおり、甲第18号証は、「頒布された刊行物」には該当しない。
また、かかるコーティングが、公知・公用であったことを認めうる証拠はない。
そして、本件特許1は、「間座」の利用により、歪みの発生防止という効果が生じると認められる。

ウ.まとめ
したがって、相違点2について、検討するまでもなく、本件特許1は、請求人の提出した証拠方法に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。

(2)本件特許2
本件特許2は、本件特許1に従属し、本件特許1をさらに特定したものであるから、本件特許2についても、同様の理由により、請求人の提出した証拠方法に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。

第6.むすび
以上、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許1ないし2を無効とすることはできない。
また、他に本件特許1ないし2を無効とする理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-03 
結審通知日 2008-04-08 
審決日 2008-04-21 
出願番号 特願平10-356614
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B23D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高田 元樹  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 豊原 邦雄
槻木澤 昌司
登録日 2006-04-14 
登録番号 特許第3790949号(P3790949)
発明の名称 円盤状工具  
代理人 河野 修  
代理人 赤尾 直人  

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