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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1178928
審判番号 不服2006-12442  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-15 
確定日 2008-06-06 
事件の表示 特願2001- 19983「指紋照合システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 9日出願公開、特開2002-222424〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成13年1月29日の出願であって、平成18年5月26日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年6月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成18年6月15日付けの手続補正の却下について
1 補正却下の決定の結論
平成18年6月15日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1) 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項11は次のとおり補正された。(請求項の数は全部で17項である。)
「【請求項11】 入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データに基づいて、該第1の指紋画像の指紋照合を行う指紋照合装置であり、
1つの指に対して複数回採取された前記第1の指紋画像から、画像品質の情報に基づいて選択された複数の前記第1の指紋画像を指紋照合端末から入力し、入力された前記第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つ又は複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことを特徴とする指紋照合装置。」

(2) 補正前の本願発明
本件補正前である拒絶査定時の特許請求の範囲(平成18年2月16日付け手続補正書)に記載された発明は、次のとおりである。
「【請求項1】 第1の指紋画像を入力し、この第1の指紋画像またはこの指紋画像から指紋の特徴を抽出した第1の特徴量データを指紋照合装置へ送信する指紋照合端末と、
前記第1の特徴量データに基づいて、第1の指紋画像の指紋照合を行う指紋照合装置とを具備し、
前記指紋照合端末が1つの指に対して複数回採取された第1の指紋画像各々を入力し、該第1の指紋画像の画像品質を計算し、該画像品質に基づいて、複数の第1の指紋画像を選択し、該選択された複数の第1の指紋画像を指紋照合装置へ送信し、
前記指紋照合装置が、入力される選択された前記第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つ又は複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことを特徴とする指紋照合システム。
【請求項2】 前記指紋照合端末が前記画像品質の情報に基づいて、画像品質の良い方から第1の指紋画像を選択し、前記指紋照合装置が選択された第1の指紋画像各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つ又は複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の指紋照合システム。
【請求項3】 前記指紋照合端末と、指紋照合装置とを有する複数の指紋画像を用いた指紋照合システムにおいて、
前記指紋照合端末が外部の指紋スキャナ装置から1指あたり複数の第1の指紋画像を入力する機能をそなえたスキャナインターフェイス部,前記複数の第1の指紋画像を保持する主メモリ,前記主メモリに保持した複数の第1の指紋画像のそれぞれについて画像品質を計算し、前記品質に応じて前記主メモリ内の複数の第1の指紋画像を高品質のものから順に順序づけを行い、あらかじめ設定した数の高品質画像を選択する機能および第1の指紋画像から指紋の第1の特徴量データを計算する機能を備えた主制御部と、
前記選択された第1の指紋画像もしくはその第1の特徴量データを前記指紋照合装置に送出する機能と、前記指紋照合装置から返信される照合結果データの受信機能をもった通信入出力制御部とを具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の指紋照合システム。
【請求項4】 前記指紋照合端末と、前記指紋照合装置とを有する複数の第1の指紋画像を用いた指紋照合システムの指紋照合端末において、
前記主メモリ内に格納された複数の第1の指紋画像の確認表示、処理状態表示、指紋照合処理結果表示のいずれかもしくはそれらの任意の組み合わせを表示できるコンソール表示部と、
このコンソール表示部の表示方法の変更、主制御部の処理であらかじめ設定しておく指紋照合に用いる条件データを変更するための入力を行うキーボードとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の指紋照合システム。
【請求項5】 前記指紋照合装置は、1つの指に対し複数の指紋画像のそれぞれの第1の特徴量データを入力し、この第1の特徴量データすべてに対して、第2の特徴量データとの1対Nの照合を行い、照合スコアの高い方からあらかじめ設定した条件を満たすものだけをそれぞれ選択し、選択された照合スコアについて、同一指同士での複数の特徴量データに対応する照合スコアの融合演算を行い融合スコアを算出し、この融合スコアがあらかじめ設定した照合条件を満たしているか否かに基づき照合結果を出力する機能を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の指紋照合システム。
【請求項6】 前記指紋照合装置は、1つの指に対し複数の第1の指紋画像各々の第1の特徴量データを入力し、前記第1の指紋画像毎に対応した指紋画像の品質順位に応じてあらかじめ定めた手順で、前記第1の指紋画像の第1の特徴量データと前記第2の特徴量データとの1対N照合を行い、この照合結果により、他の第1の指紋画像と前記第2の特徴量データとの1対N照合または1対1照合のいずれを行うかの選択を行い、選択された照合の処理を実行し、この照合結果ごとにあらかじめ設定された条件を満たしているか否かの判定から、照合に用いる第2の特徴量データと次に対象とする第1の指紋画像とを選択し、
次に対象とする第1の指紋画像の第1の特徴量データと選択された第2の特徴量データとに対する1対1の照合を行うことによって、複数の指紋画像に対する照合結果を出力する機能を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の指紋照合システム。
【請求項7】 前記指紋照合装置は、第1の指紋画像と1対Nの照合を行い、このN個の照合結果におけるトップスコアが上位しきい値を超えていた場合、前記他の第1の指紋画像の第1の特徴量データとトップスコアの第2の特徴量データとの1対1の照合を行い、該照合結果が下位しきい値より大きいか否かの判定を行い、下位しきい値より大きいと判定して場合、指紋照合ありと判断し、
前記第1の指紋画像が他の第1の指紋画像より高い品質であることを特徴とする請求項6に記載の指紋照合システム。
【請求項8】 前記指紋照合装置は、第1の指紋画像の第1の特徴量データと第2の特徴量データとの1対Nの照合を行い、このN個の照合結果におけるトップスコアが上位しきい値を超えない場合、または、このN個の照合結果におけるトップスコアが上位しきい値を超えており、かつ他の第1の指紋画像の特徴量データとトップスコアの第2の特徴量データとの1対1の照合を行い、該照合結果が下位しきい値を超えず、前記他の第1の指紋画像の画像の第1の特徴量データと第2の特徴量データとの1対Nの照合を行い、このN個の照合結果におけるトップスコアが上位しきい値を超えていた場合、 第1の指紋画像とトップスコアの第2の特徴量データとの1対1の照合を行い、該照合結果が下位しきい値より大きいか否かの判定を行い、大きい場合に照合と判断し、大きくない場合に照合なしと判断することを特徴とする請求項7に記載の指紋照合システム。
【請求項9】 前記指紋照合装置は、複数のそれぞれの指に対する複数の第1の指紋画像データの第1の特徴量データをそれぞれ入力し、前記指ごとの複数の第1の指紋画像の第1の特徴量データから算出される代表スコアに対し、各指の代表スコアがあらかじめ設定された条件を満たすか否かの結果を組み合わせて照合結果を出力する機能を備えたことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の指紋照合システム。
【請求項10】 前記指紋照合装置は、複数のそれぞれの指に対する複数の第1の指紋画像の第1の特徴量データをそれぞれ入力し、前記指ごとの複数の第1の指紋画像の第1の特徴量データから算出された代表スコアを求め、この各指ごとの代表スコアに基づき融合スコアを算出し、この融合スコアがあらかじめ設定した条件を満たすか否かの結果を照合結果として出力する機能を備えたことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の指紋照合システム。
【請求項11】 入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データに基づいて、該第1の指紋画像の指紋照合を行う指紋照合装置であり、
1つの指に対して採取された複数の第1の指紋画像を入力し、入力された前記第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つまたは複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことを特徴とする指紋照合装置。
【請求項12】 1つの指に対して複数回採取された第1の指紋画像から、画像品質の情報に基づいて、複数の第1の指紋画像を選択し、該選択された複数の第1の指紋画像を指紋照合端末から入力し、入力された第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つ又は複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことを特徴とする請求項11に記載の指紋照合装置。
【請求項13】 前記画像品質の情報に基づいて、画像品質の良い方から選択された第1の指紋画像が入力され、入力された各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つ又は複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことを特徴とする請求項12に記載の指紋照合装置。
【請求項14】 入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データに基づいて、該第1の指紋画像の指紋照合を行う請求項11または請求項12に記載の指紋照合装置に接続された指紋照合端末であり、
1つの指に対して複数回採取された第1の指紋画像から、画像品質の情報に基づいて、選択された複数の第1の指紋画像を入力し、この第1の指紋画像を指紋照合装置へ出力することを特徴とする指紋照合端末。
【請求項15】 指紋照合端末が入力される第1の指紋画像またはこの第1の指紋画像から指紋の特徴を抽出した第1の特徴量データを指紋照合装置へ送信する指紋画像入力過程と、
指紋照合装置が前記第1の特徴量データに基づいて、第1の指紋画像の指紋照合を行う指紋照合過程とを有し、
前記指紋画像入力過程において、前記指紋照合端末が1つの指に対して複数回採取された第1の指紋画像の各々を入力し、該第1の指紋画像の画像品質を計算し、該画像品質に基づいて、複数の第1の指紋画像を選択し、該選択された複数の第1の指紋画像を指紋照合装置へ送信し、
前記指紋照合過程において、前記指紋照合装置が入力される選択された前記第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つ又は複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことを特徴とする指紋照合方法。
【請求項16】 前記指紋照合過程において、前記指紋照合装置が前記画像品質の情報に基づいて、画像品質の良い方から第1の指紋画像を選択し、選択された第1の指紋画像各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つ又は複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことを特徴とする請求項15記載の指紋照合方法。
【請求項17】 指紋照合端末と、指紋照合装置とを用いて複数の指紋画像により指紋照合を行う請求項16に記載の指紋照合方法において、前記指紋照合端末がスキャナインターフェイス部により外部の指紋スキャナ装置から1指あたり複数の第1の指紋画像を入力し、主メモリに前記複数の第1の指紋画像を保持させ、主制御部により前記主メモリに保持した複数の第1の指紋画像のそれぞれについて画像品質を計算し、前記品質に応じて前記主メモリ内の複数の第1の指紋画像を高品質のものから順に順序づけを行い、あらかじめ設定した数の高品質画像を選択し、第1の指紋画像から指紋の第1の特徴量データを計算させ、通信入出力制御部により前記選択された第1の指紋画像もしくはそ第1の徴量データを前記指紋照合装置に送出し、前記指紋照合装置から返信される照合結果データを受信することを特徴とする指紋照合方法。
【請求項18】 請求項1?請求項10のいずれかに記載の指紋照合システムを用いて、指紋照合を行う指紋照合プログラムであって、
第1の指紋画像を入力する第1の処理と、
この第1の指紋画像から指紋の特徴である第1の特徴量データを抽出する第2の処理と、
前記第1の指紋データまたは第1の特徴量データを指紋照合装置へ送信する第3の処理と、
前記第1の特徴量データに基づいて、第1の指紋画像の指紋照合を行う第4の処理と
を有し、
前記第2の処理において、前記指紋照合端末が1つの指に対して複数回採取された第1の指紋画像の各々を入力し、該第1の指紋画像の画像品質を計算する処理と、
前記第3の処理において、前記指紋照合装置が前記画像品質の情報に基づいて、複数の第1の指紋画像を選択する処理と、前記選択された第1の指紋画像各々を前記指紋照合装置へ送信する処理と、
前記第4の処理において、前記指紋照合装置が入力される選択された第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つ又は複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合する処理と、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行う処理と
をコンピュータに行わせることを特徴とする指紋照合プログラム。」

(3) 補正の目的の適否
請求人は平成18年6月15日付け審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】の欄で「原請求項11を削除致しました。」と主張しているが、補正前の特許請求の範囲のいずれの請求項にも補正後の請求項11と同一の発明は記載されていないから、本件補正が請求項の削除を目的とした補正とはいえない。
一方、本件補正は、補正前の請求項11に記載された発明に対して、「1つの指に対して複数回採取された前記第1の指紋画像から、画像品質の情報に基づいて」選択を行う「指紋照合端末」という新たな発明を特定するために必要な事項を付加する補正であり、また、補正前の請求項12に記載された発明から、補正前の請求項12により引用される補正前の請求項11に記載された発明を特定するために必要な事項である「1つの指に対して採取された複数の第1の指紋画像を入力し、入力された前記第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つまたは複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行う」事項を省く補正であるから、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当する補正とはいえず、かつ、本件補正が、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明のいずれを目的としたものではないことは明らかである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

なお、本件補正が、本件補正前の発明を特定するために必要な事項を限定する補正であり、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項11に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(4) 特許法29条2項に関する当審の判断
(4-1) 引用例
平成16年12月6日付け拒絶理由通知書、及び平成17年12月15日付け拒絶理由通知書で引用された特開平10-124668号公報(以下、「引用例1」という。)には次の事項が図面と共に開示されている。(記載箇所は段落番号等で表示)
ア 「【請求項1】指紋登録照合装置と指紋照合システム端末からなり、前記指紋照合システム端末は、利用者の指紋画像を採取する指紋画像採取手段と、利用者情報を入力する情報入力手段と、採取した指紋画像を記憶する指紋画像記憶部と、採取指紋画像から位置合わせ用指紋基準点を検出する指紋基準点検出手段と、前記指紋登録照合装置から指示された切り出し位置を基に、採取指紋画像から部分画像を切り出す画像切り出し部を備え、
前記指紋登録照合装置は、予め登録された指紋情報を記憶する登録指紋情報記憶部と、指紋照合に必要な部分画像の切り出し位置を決定する切り出し位置決定部と、採取指紋画像から切り出された部分画像を記憶する部分画像記憶部と、指紋画像の特徴点の照合を行う特徴点照合部を備えると共に、
前記指紋照合システム端末及び指紋登録照合装置は、位置合わせ用指紋基準点、指紋照合に必要な部分画像の切り出し位置、及び採取指紋画像から切り出した部分画像の各データを、データ通信により交換することで指紋照合を行うことを特徴とした指紋照合方式。」
前記アの記載によると、引用例1には、「予め登録された指紋情報を記憶する登録指紋情報記憶部と、指紋照合に必要な部分画像の切り出し位置を決定する切り出し位置決定部と、採取指紋画像から切り出された部分画像を記憶する部分画像記憶部と、指紋画像の特徴点の照合を行う特徴点照合部を備え、 指紋照合システム端末と、採取指紋画像から切り出した部分画像を、データ通信により交換することで指紋照合を行う指紋登録照合装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

平成17年4月22日付け拒絶理由通知書で引用された特開平3-108076号公報(以下、「引用例2」という。)には次の事項が図面と共に開示されている。
イ 「2.特許請求の範囲
(1)被認証者の身体的特徴情報を入力する入力手段と、
この入力手段で入力された身体的特徴情報から特徴パターンを抽出する抽出手段と、
あらかじめ登録されている個人の特徴パターンが格納された格納手段と、
この格納手段に格納された特徴パターンと前記被認証者から求められた特徴パターンとを照合する照合手段と、
この照合手段の照合結果により前記被認証者から求められた特徴パターンが前記格納された特徴パターンと一致したか否かを判断する判断手段とを具備し、
前記入力手段により前記被認証者の身体的特徴情報が入力されているときに、前記抽出手段、照合手段および判断手段による一連の処理を複数回繰り返し、前記被認証者から求めた特徴パターンと前記格納された特徴パターンとの一致が、あらかじめ定めておいた回数以上連続して判断されたときに前記被認証者を登録されている個人であると判別することを特徴とする個人認証装置。
(2)前記身体的特徴情報として、指全体の画像、指紋、手形、網膜パターンのうちのいずれかを用いることを特徴とする請求項(1)記載の個人認証装置。」(1ページ左下欄4行ないし右下欄9行))
ウ 「上記したように、あらかじめ定められた回数以上連続して同一指と認められない限り、被認証者が登録されている個人とは判別されないようにしている。」(4ページ左下欄15ないし18行)

(4-2) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「採取指紋画像」は「入力される第1の指紋画像」といえ、その「特徴点」は「入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データ」といえるから、採取指紋画像の特徴点に基づく照合処理を行う引用発明の「指紋登録照合装置」は、本願補正発明と同じく「入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データに基づいて、該第1の指紋画像の指紋照合を行う指紋照合装置」に関するものといえる。
そして、引用発明は照合判定を行うものであり、引用発明の「指紋照合システム端末」は「指紋照合端末」といえ、また、引用発明の「予め登録された指紋情報」は、予め指紋データベースに登録されている1つの第2の指紋画像といえ、その「特徴量」は「第2の特徴量データ」といえるから、採取指紋画像から切り出した部分画像を、指紋照合システム端末とデータ通信により交換し、予め登録された指紋情報と特徴点の照合を行う引用発明が、「第1の指紋画像を指紋照合端末から入力し」、入力された第1の指紋画像の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つの第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行うことは明らかである。

以上を踏まえると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
【一致点】
入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データに基づいて、該第1の指紋画像の指紋照合を行う指紋照合装置であり、
第1の指紋画像を指紋照合端末から入力し、入力された前記第1の指紋画像の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つの第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行う指紋照合装置。
【相違点】
相違点1: 本願補正発明が、「1つの指に対して複数回採取された第1の指紋画像から、画像品質の情報に基づいて選択された複数の」前記第1の指紋画像を指紋照合端末から入力し、入力された「第1の指紋画像のうち複数の」第1の指紋画像の「各々の」第1の特徴量データと、第2の特徴量データとを照合しているのに対し、引用発明の指紋照合装置に入力される第1の指紋画像が、指紋照合端末で「画像品質の情報に情報に基づいて選択された複数の」第1の指紋画像ではなく、また、引用発明の指紋照合装置が、照合処理に、入力された「第1の指紋画像のうち複数の」第1の指紋画像の「各々の」第1の特徴量データを用いていない点。
相違点2: 本願補正発明が、予め指紋データベースに登録されている1つ「又は複数」の第2の指紋画像の第2の特徴量データを照合に用いているのに対し、引用発明が1つの第2の指紋画像の第2の特徴量データのみを照合に用いている点。

(4-3) 当審の判断
a 相違点1について
引用例2には、身体的特徴情報として指紋を用い、あらかじめ定められた回数以上連続して同一指と認められない限り、被認証者が登録されている個人とは判別されないように、入力手段により被認証者の指紋が入力されているときに、入力された指紋から特徴パターンを抽出する抽出手段、あらかじめ登録されている個人の特徴パターンと前記被認証者から求められた特徴パターンとを照合する照合手段および判断手段による一連の処理を複数回繰り返し、被認証者から求めた特徴パターンと格納された特徴パターンとの一致が、あらかじめ定めておいた回数以上連続して判断されたときに前記被認証者を登録されている個人であると判別する個人認証装置(以下、「引用例2記載の発明」という)が記載されている。
そして、引用例2記載の発明の入力された指紋から抽出される「特徴パターン」は「第1の指紋画像の第1の特徴量データ」といえ、引用例2記載の発明の「登録されている個人の特徴パターン」は「第2の特徴量データ」といえ、同一指を認定するために、被認証者の指紋が入力されているときに、抽出手段、照合手段および判断手段による一連の処理を複数回繰り返す引用例2記載の発明が、1つの指に対して第1の指紋画像を複数回採取し、「複数の」第1の指紋画像の「各々の」第1の特徴量データと、第2の特徴量データとを照合することは明らかな事項である。
してみると、指紋照合という引用発明と共通する技術分野に属する引用例2記載の発明を引用発明に適用し、1つの指に対して第1の指紋画像を複数回採取し、複数の第1の指紋画像を指紋照合端末から入力し、入力された「複数の」第1の指紋画像の「各々の」第1の特徴量データと、第2の特徴量データとを照合することは当業者が容易に想到し得ることといえる。
そして、採取された画像から、画像品質の情報に基づいて選択した画像を照合処理に使うことは、特開2000-222556号公報に示されるように指紋照合の技術分野で周知技術であるから、引用発明に引用例2記載の発明を適用する際に前記周知技術を採用し、「1つの指に対して複数回採取された第1の指紋画像から、画像品質の情報に基づいて選択された複数の」前記第1の指紋画像を指紋照合端末から入力し、入力された「第1の指紋画像のうち複数の」第1の指紋画像の「各々の」第1の特徴量データを照合することは当業者が適宜なし得る事項といえる。
前記特開2000-222556号公報には、「【請求項4】所定の指載置位置に載置された指より指紋の画像を繰り返し取得する指紋画像取得手段と、前記指紋の画像の品質を判定する品質判定手段と、前記品質判定手段の判定結果に基づいて、前記指紋の画像を選択的に取り込んで指紋照合する指紋照合手段と、前記品質判定手段の判定結果に応じて表示を切り換える表示手段とを備えることを特徴とする指紋照合装置。」が記載されている。

b 相違点2について
予め指紋データベースに複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データを登録し、複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データと照合を行うことは、特開平11-110541号公報に示されるように指紋照合の技術分野における慣用技術であるから、引用発明に当該慣用技術を採用し、予め指紋データベースに登録されている1つ「又は複数」の第2の指紋画像の第2の特徴量データを照合に用いることは当業者が容易に想到し得たことといえる。
前記特開平11-110541号公報には、指紋等の個人の身体的特徴を利用して個人を判別する装置として「【請求項1】 入力された個人情報と、登録された個人識別データとを照合して両者が一致するかを判別する装置において、上記識別データを個人番号に対応して複数種類個人データベースに登録し、第1個人情報が入力されるとこれを上記個人データベース内に登録されている全識別データと照合して候補データを抽出し、この候補データと第2個人情報とを照合して一致データを検索するデータ照合手段を備えたことを特徴とする個人判別装置。」が記載され、照合に用いられる「個人データベース内に登録されている全識別データ」は、「複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データ」といえる。

そして、これらの相違点を総合的に考慮しても当業者が容易になし得ることといえ、一方、本願補正発明の奏する効果は、引用例1、2に記載された発明、前記周知技術、及び前記慣用技術から想定できる程度のものにすぎず、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明、前記周知技術、及び前記慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5) むすび
前記(4)で検討したとおり、本件補正が、本件補正前の発明を特定するために必要な事項を限定する補正であり、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、特許法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 平成18年6月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項11に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2 2(2)」に記載した平成18年2月16日付けで補正された特許請求の範囲の請求項11に記載されたとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された特開平3-108076号公報の記載事項は、引用例2として前記「第2 2(4-1)」のイ及びウに記載したとおりである。
前記イ及びウの記載によると、引用例2には、
「被認証者の身体的特徴情報を入力する入力手段と、
この入力手段で入力された身体的特徴情報から特徴パターンを抽出する抽出手段と、
あらかじめ登録されている個人の特徴パターンが格納された格納手段と、
この格納手段に格納された特徴パターンと前記被認証者から求められた特徴パターンとを照合する照合手段と、
この照合手段の照合結果により前記被認証者から求められた特徴パターンが前記格納された特徴パターンと一致したか否かを判断する判断手段とを具備し、
前記入力手段により前記被認証者の身体的特徴情報が入力されているときに、前記抽出手段、照合手段および判断手段による一連の処理を複数回繰り返し、前記被認証者から求めた特徴パターンと前記格納された特徴パターンとの一致が、あらかじめ定めておいた回数以上連続して判断されたときに前記被認証者を登録されている個人であると判別し、
前記身体的特徴情報として指紋を用い、
あらかじめ定められた回数以上連続して同一指と認められない限り、被認証者が登録されている個人とは判別されないようにしている個人認証装置。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2は、指紋を身体的特徴情報として用いるものであり、引用発明2の入力手段により入力される被認証者の「身体的特徴情報」は、「入力される第1の指紋画像」といえ、また、引用発明の身体的特徴情報から抽出される「特徴パターン」は、「入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データ」といえるから、特徴パターンに基づく個人認証装置である引用発明2は、本願発明と同じ「入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データに基づいて、該第1の指紋画像の指紋照合を行う指紋照合装置」に関するものといえる。
そして、格納された特徴パターンと被認証者から求められた特徴パターンとを照合し、あらかじめ定められた回数以上連続して同一指と認められない限り、被認証者が登録されている個人とは判別されないようにしている引用発明2が、1つの指に対して複数の身体的特徴情報を採取、入力し、入力された前記身体的特徴情報のうち複数の前記身体的特徴情報の各々の特徴パターンと、格納された特徴パターンとを照合し、その照合結果に基づいて身体的特徴情報の照合判定を行うことは明らかであり、また、引用発明2のあらかじめ登録されている個人の特徴パターンである「格納された特徴パターン」は、「予め指紋データベースに登録されている1つの第2の指紋画像の第2の特徴量データ」といえるから、引用発明2は、「1つの指に対して採取された複数の第1の指紋画像を入力し、入力された前記第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つの第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行う」処理を行っているといえる。

以上を踏まえると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
【一致点】
入力される第1の指紋画像の特徴を抽出した第1の特徴量データに基づいて、該第1の指紋画像の指紋照合を行う指紋照合装置であり、
1つの指に対して採取された複数の第1の指紋画像を入力し、入力された前記第1の指紋画像のうち複数の前記第1の指紋画像の各々の第1の特徴量データと、予め指紋データベースに登録されている1つの第2の指紋画像の第2の特徴量データとを照合し、その照合結果に基づいて第1の指紋画像の照合判定を行う指紋照合装置。
【相違点】
本願発明が、予め指紋データベースに登録されている1つ「または複数」の第2の指紋画像の第2の特徴量データを照合に用いるのに対し、引用発明が1つの第2の指紋画像の第2の特徴量データのみを照合に用いている点。

4 当審の判断
予め指紋データベースに複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データを登録し、複数の第2の指紋画像の第2の特徴量データと照合を行うことは、前記特開平11-110541号に示されるように指紋照合の技術分野における慣用技術であるから、引用発明2に当該慣用技術を採用し、予め指紋データベースに登録されている1つ「または複数」の第2の指紋画像の第2の特徴量データを照合に用いることは当業者が容易に想到し得たことといえる。

一方、本願発明の奏する効果は、引用例2に記載された発明及び前記慣用技術から想定できる程度のものにすぎず、格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用例2に記載された発明及び前記慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例2に記載された発明及び前記慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-26 
結審通知日 2008-04-01 
審決日 2008-04-21 
出願番号 特願2001-19983(P2001-19983)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G06T)
P 1 8・ 575- Z (G06T)
P 1 8・ 121- Z (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小池 正彦飯田 清司梅本 達雄  
特許庁審判長 西山 昇
特許庁審判官 脇岡 剛
松永 稔
発明の名称 指紋照合システム  
代理人 谷澤 靖久  
代理人 机 昌彦  
代理人 下坂 直樹  

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