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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C11C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C11C
管理番号 1179488
審判番号 無効2006-80036  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-03-03 
確定日 2008-05-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3527242号発明「食用の非水素化カノラ油」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3527242号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 6年 4月26日 出願(優先権主張 1993年4月27日 、1994年1月21日 米国(US))
平成16年 2月27日 特許権の設定登録(特許第3527242 号)
平成18年 3月 3日 請求人 :特許無効審判請求書・
甲第1?22号証提出
平成18年 7月26日 被請求人:答弁書・訂正請求書・
乙第1?20号証提出
平成18年 8月21日 被請求人:手続補正書・乙第21号証提出
平成18年11月 9日 被請求人:上申書・乙第22、23号証提 出)
平成18年12月11日 請求人 :弁駁書・甲第23?31号証提 出
平成19年 1月16日 被請求人:上申書・乙第14号証の原文第 942頁提出
平成19年 5月11日 請求人 :上申書・甲第32、33号証提 出
平成19年 5月25日 請求人 :口頭審理陳述要領書
被請求人:口頭審理陳述要領書・乙第24 ?31号証提出及び上申書・乙第32号証 提出
平成19年 5月25日 口頭審理(特許庁審判廷)
平成19年 6月21日 請求人 :上申書・甲第3号証の全訳文及 び甲第34?37号証提出
平成19年 7月13日 被請求人:上申書・乙第33号証提出

第2 平成18年7月26日付けの訂正請求の適否について
被請求人は、平成18年7月26日付けの訂正請求書を提出しているので、同訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の適否について検討する。

1 訂正請求の時期的要件についての検討
本件訂正請求は、特許法第134条第1項の規定に基いて指定期間内の平成18年7月26日に提出されたものであるから、本件訂正請求は、同法第134条の2第1項本文に規定されている時期的要件を満たすものである。

2 訂正請求の内容
被請求人は、前記訂正請求により、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を前記訂正請求書に添付した訂正明細書に記載したとおりの次の内容の訂正を請求するものである。
(1)訂正事項a
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1が「酸化防止剤無添加状態で35?40AOM時間の酸化安定性を有する非水素化カノラ油。」とあるを「酸化防止剤無添加状態で35?40AOM時間の酸化安定性を有する、商業的処理を行った非水素化カノラ油。」と訂正する。
(2)訂正事項b
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項16?41を削除する。

3 訂正請求の目的の適否についての検討
訂正事項aの訂正は、請求項1において、非水素化カノラ油につき、「商業的処理を行った」ものに限定するものであり、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正事項aは、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。
なお、訂正事項aについて、被請求人は、当該訂正の目的を「本件特許の請求項1に記載された発明を明確にしようとするものである。この訂正は、本件特許明細書の実施例5の記載を根拠とするものであり、前記訂正は、特許法第134条第2項1号及び3号の特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当する」(訂正請求書第3頁19行?22行)(審決注:「特許法第134条第2項1号及び3号」は、「特許法第134条の2第1項第1号及び第3号」の誤記と認める。)とし、「油の性質は、これらの精製処理の工程によって粗製油の状態から変化する。発明1は、本来、精製処理すなわち商業的処理をし、商品として販売される食用油を対象とするものであったが、請求項の記載上必ずしも明確でなかったので、この点に関する審判請求人の主張を考慮し、『商業的処理を行った』油であることを請求項に明記する訂正を行った。」(答弁書第3頁21行?23行)との釈明をしているが、本件訂正前の請求項1記載の発明、すなわち、「商業的処理を行った」との構成要件がない非水素化カノラ油の発明について、明りょうでない記載があるとすることはできないから、訂正事項aは、特許法第134条の2第1項第1号で規定する特許請求の範囲の減縮のみを目的とするものと認める。
訂正事項bの訂正は、請求項16?請求項41を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正事項bは、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

4 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものであるから、本件訂正を認める。

第3 本件特許の請求項1?15に係る発明
以上のとおり、本件訂正は容認されたから、本件特許に係る発明は、平成18年7月26日付け訂正請求書に添付した明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の請求項1?請求項15に記載される次のとおりのものと認める(以下、これらを、「本件請求項1に係る発明」?「本件請求項15に係る発明」という。)。
「1. 酸化防止剤無添加状態で35?40AOM時間の酸化安定性を有する、商業的処理を行った非水素化カノラ油。
2. ポリ不飽和脂肪酸含量が7%?17%であり、オレイン酸含量が74%?80%である、請求項1に記載の油。
3. 総極性物質の増加百分率が揚げ物に32時間使用した後で約6.7%、64時間使用した後で約17.3%である、請求項1に記載の油。
4. 遊離脂肪酸の増加百分率が揚げ物に32時間使用した後で約0.28%、64時間使用した後で約0.73%である、請求項1に記載の油。
5. ロビボンドカラーの増加が揚げ物に32時間使用した後で約2.4赤、64時間使用した後で約6.4赤である、請求項1に記載の油。
6. p-アニシジン価の増加が揚げ物に32時間使用した後で約112吸光度/g、64時間使用した後で約125吸光度/gである、請求項1に記載の油。
7. 過酸化物価が15日間の促進老化後に最高で約24.5Meq/Kgまで増加する、請求項1に記載の油。
8. p-アニシジン価が15日間の促進老化後に最高で約6.9吸光度/gまで増加する、請求項1に記載の油。
9. 請求項1に記載の油を産生するブラシカ・ナプス(Brassica napus)カノラ変種の種子。
10. 請求項9に記載の種子の子孫。
11. アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されて受託番号75446を有する、請求項9に記載の種子。
12. 請求項1に記載の種子油を産生するカノラ変種からなるブラシカ・ナプス(Brassica napus)の植物系統。
13. 請求項12に記載の系統の植物。
14. リノール酸含量が5%?12%である、請求項1に記載の油。
15. α-リノレン酸含量が2%?5%である、請求項14に記載の油。」

第4 当事者の主張
1 審判請求人の主張する特許を無効とすべき理由の要点
審判請求人が提出した審判請求書、口頭審理陳述要領書、上申書及び甲第1?37号証、その他によれば、審判請求人は、次に示すところの(1)?(3)の主張をするものと認められる。
(1)無効理由ア 本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項及び同条第5項に規定する要件を満たさないものであるため、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由イ 本件請求項1?2、9?10及び12?13に係る発明は、甲第6号証に記載されているから、本件特許は特許法第29条第1項第3号に該当する。したがって、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由ウ 本件請求項1?15に係る発明は、甲第6号証?甲第20号証、甲第23号証?甲第25号証、甲第27号証、甲第28号証記載の発明に基づき当業者が容易に発明できたものであるから特許法第29条第2項に該当する。したがって、本件請求項1?15に係る発明は、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。
上記主張(1)について「訂正後の「商業的処理を行った非水素化カノラ油」の記載は不明瞭であり、結果として請求項1に係る発明を不明確とすること」及び「請求項1に記載されたカノラ油は、発明の詳細な説明に開示された発明に比して過度に広範であること」についての具体的主張は、以下のとおりである。
(1-1)無効理由ア-1 訂正後の「商業的処理を行った非水素化カノラ油」の記載は不明瞭であり、結果として請求項1に係る発明を不明確とすること
「特許明細書の発明の詳細な説明には、『商業的処理』に関しては、実施例5において、『1993年の商業的方法』が一例として記載されているのみであり、『商業的処理』がどのような処理であるのかについての定義については全く説明されていない。
また、当業者の技術常識に照らしても、『商業的処理』がどのような処理を意味するのか一義的に確定することはできない。『商業的処理』という文言自体、その意味するところが曖昧であり、当該文言のみをもって処理の内容、程度を定義づけることはできないのである。・・・従って、訂正後の請求項1?15の記載は、特許法第36条第5項第2号の要件を満たさないものである。」(口頭審理陳述要領書3頁7行?5頁2行)
(1-2)無効理由ア-2 請求項1に記載されたカノラ油は、発明の詳細な説明に開示された発明に比して過度に広範であること
「請求項1に記載の発明は、実質的に、35?40のAOM時間の酸化安定性のみで定義され、それゆえ、たとえどのように産生され、任意の脂肪酸組成を有する非水素化カノラ油を広く包含する。また、本件特許明細書は、構成成分とクレームされた油の優れているとされる機能との関係について何ら記載していない。このような広い範囲で特許が認められるためには、少なくとも、明細書中に、そのようなカノラ油を当業者が容易に実施できる程度(具体的には、製造できる程度)に記載されていなければならない(第36条4項)。・・・
本件明細書は、IMC129(油に含まれるオレイン酸含量が高いスプリングカノラ品種)と、IMC01(油に含まれるα-リノレン酸含量が低いスプリングカノラ品種)とを交配させること以外に、クレームされた性状及び/又は組成を有するカノラ油を製造する方法を記載していない。
したがって、請求項11に記載された発明(寄託された材料の使用)を除いて、当業者に容易に実施できる程度に記載されていない。」(審判請求書27頁6行?28頁2行)
「本件発明の詳細な説明には、本件発明が当業者が実施しうるように記載されておらず、特許請求の範囲に記載される特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明によって説明されたものでないから、本件特許は、特許法第36条第5項第1号及び特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものである。
なお、審判請求書においては、『特許請求の範囲に記載される発明が、発明の詳細な説明に記載される発明に比して過度に広い』という無効理由の根拠条文として特許法第36条第5項第1号を明記していなかったが、審判請求書においても、特許法第36条第5項第1号に基づく記載不備の主張自体は行っており、また、『請求項1は過度に広範である』(審判請求書第27頁)と述べていたのであるから、当該法文の追加は、審判請求書の要旨を変更するものではない。」(弁駁書18頁14行?25行)

2 被請求人の主張
(1)被請求人が提出した答弁書、口頭審理陳述要領書、上申書、乙第1号証?乙第33号証、その他によれば、被請求人は、審判請求人の上記無効理由は、理由がなく、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項及び同条第5項に規定する要件を満たしているものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものではなく、本件請求項1?2、9?10及び12?13に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものではなく、また、本件請求項1?15に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものではない、と主張すると認められる。
そして、審判請求人の主張(1)における具体的主張(1-1)及び(1-2)についての具体的反論の概要は、以下のとおりである。
(1-1)訂正後の「商業的処理を行った非水素化カノラ油」の記載は不明瞭であり、結果として請求項1に係る発明を不明確とすることについて
「技術常識及び本件明細書の記載によれば、商業的処理のなされた食用油であるか否かの判断は、明確になし得る。詳細は後述するが、カノラ油(他の植物油でも同じ)の商業的処理においては、精製(脱ガム及び遊離脂肪酸の除去/同時に微量の各種不純物も減少する)、脱色、脱臭工程をこの順序に必ず実行する(付随的な前処理や中間の工程もあり得るが、それは本質に影響しない)。脱臭工程を終了した油が商品として販売可能な品質を有するのであり、商業的処理をした油である。
したがって、ある非水素化カノラ油が『商業的処理を行った』油であるか否かに不明確性はない。」(口頭審理陳述要領書第3頁16行?23行)

(1-2)請求項1に記載されたカノラ油は、発明の詳細な説明に開示された発明に比して過度に広範であることについて
「請求人は、本件発明の具体例として本件特許明細書に具体的に記載された例がIMC 130油だけであることをもって、特許法36条違反があると主張している。
しかし、請求人は、特許法36条の解釈を誤っている。
本件発明は、非水素化カノラ油として、35?40 AOM時間という従来技術に対して顕著に高い酸化安定性を有する食用油がカノラ種の品種改良によって生産可能であることを初めて見出した発明である。高い酸化安定性を有する非水素化カノラ油は、高い不飽和度の油が有する健康への好ましい影響を保持したまま、揚げ特性の顕著な向上など食用油としての大きな特性の改良をもたらすものである。優れた揚げ特性など高い酸化安定性に基づく実用特性を有する本件発明の新規な非水素化カノラ油は、AOM時間の範囲によって明確に特定できる。非水素化カノラ油であって、35?40 AOM時間を有する油が、明細書に記載の好ましい作用効果を有することは、当業者が疑問の余地なく認識できることである。
したがって、請求項1の物の発明が、明細書に記載された発明であることは明らかである。」(口頭審理陳述要領書第16頁19行?17頁7行)

第5 当審の判断
特許法第29条第1項及び第2項で規定する発明の新規性及び進歩性の判断にあたっては、本件特許明細書の発明の詳細な説明が平成6年改正前特許法第36条(以下、「特許法第36条」という。)第4項で規定する要件を満足し、特許請求の範囲の記載が同条第5項各号に規定する要件を満足するものでなければならないから、まず、請求人が主張する無効理由ア-1及びア-2について検討する。

1 無効理由ア-1について
1.1 本件請求項1の記載について
1.1.1 本件請求項1に記載の「商業的処理」の解釈について
本件請求項1には、非水素化カノラ油について、「商業的処理を行った非水素化カノラ油」と記載されている。「商業的処理」という発明の構成は、技術的には一義的に明確ではなく、小規模の実験的処理やパイロットプラントによる処理等、商業的処理ではない処理が除かれたものとも解されるし、また、被請求人の主張するように、特定の処理工程を指すとも解されるので、これらの二つの解釈について、順次検討する。

1.1.2 本件明細書に記載された事項
本件特許明細書には、以下の(a-1)?(a-4)の記載がある。
(a-1) 本件特許明細書には、実施例1として、IMC130種子のパイロットプラントにより製造された非水素化カノラ油について、次の記載がある。
「POS Pilot Plant社,118 Veterinary Road,Saskatoon,Saskatchewan,Canadaのパイロットプラントを使用してIMC 130種子を粉砕し、生じた油を加工処理した。最初の種子重量は700kgであった。ここにデータを提供するすべての油は、以下に記述する同一の条件下で調製した。油の良好な抽出を確実にするため、種子に水をスプレーして水分を8.5%まで上げることにより種子を柔らかくした。種子と水を混合し、平衡にさせた。平衡なローラーを用いて種子を薄片(flake)にした。薄片の厚さを0.23から0.27mmとするために、最小のギャップ設定を用いた。油細胞(oil cell)をさらに破壊し、2トレークッカー(two tray cooker)で加熱して酵素を不活性化した。乾性熱を用いて上部トレーを65?75℃に、下部トレーを91?95℃に加熱した。材料を攪拌するためにスウィーピングアーム(sweeping arm)を使用した。
直径9.5cm長さ94cmのSimon-Rosedownsスクリュープレスを用いて、スクリュースピード17rpmで操作して、薄片化した種子より油を絞り出した。さらに加工するときまで、この粗製油を窒素下に保存した。搾りかすからオイルを取り出すためにヘキサン抽出を用いた。全滞留時間を90分とし、また溶剤対固形物の比を2.4:1として、絞りかすを抽出にかけた。この溶剤抽出した粗製油を集め、さらに加工するときまで窒素下に保存した。
絞り出した、および溶剤抽出した粗製油を乾燥させ、脱ガム化に先立って固形物を除去するために濾過した。油を真空下で泡立ちが停止するまで100℃に加熱した。油を65?75℃に冷却し、0.8%の濾過助剤を添加して濾過した。油からホスファチド類を除去するため、油を水により脱ガム化した。混合した絞り出しおよび溶剤抽出油を60?70℃に加熱し、0.2%の80?100℃の水を加え、15分間混合した。次に、ガム除去のため油を遠心にかけた。
遊離脂肪酸を除去するため、アルカリ精製を使用した。リン酸(85%)を、60?70%に保たれた上記の水脱ガム化油の0.25%に加え、30分間混合した。この酸で処理した油に、遊離脂肪酸を中和するため水酸化ナトリウムを添加した。15分の保持時間後、油を75?80℃に加熱し、遠心した。
さらに洗剤を除去するため水洗浄を行なった。15%の90?95℃の水を油に加え15分間混合することにより、精製油を洗浄した。油を75?80℃に維持し、遠心した。洗浄した油を60?65℃に加熱し、Englehardの“グレード160漂白クレーを使用して漂白した。油を105?110℃に加熱し、30分間真空下に保った。油を60?65℃に冷却し、クレー重量の20%を濾過助剤として添加した。
漂白した油をJohnson-Loftの充填塔連続デオドライザーを用いて脱臭した。油脱臭温度は265℃で供給速度は200kg/hrであった。蒸気速度は供給速度の1%で、系圧は0.16?0.18kPaであった。脱気容器に送る前にあらかじめ油を68?72℃に加熱した。真空除去に先立って油を41?42℃に冷却した。油を窒素下で-20℃で保存した。」(本件特許明細書13欄19行?14欄39行)
(a-2) 表4にパイロットプラント加工を施したカノラ油のAOM時間として、IMC 130から得られたものが37-40時間であることが示されている。(本件特許明細書15?16欄32行?43行)
(a-3) 実施例5には、IMC130種子から製造された非水素化カノラ油について、次の記載がある。
「IMC130のカノラの種子は、米国北西部の1993年の生育シーズンに実った種子である。収穫したIMC130のカノラ種子は、市販の種子洗浄装置で洗浄し、雑草の種子、カノラの植物体、未成熟なカノラの種などのカノラ種子以外の異物を除去した。
洗浄したIMC130のカノラ種子を、米国モンタナ州カルバートソン、ワンマイル・イーストのSVOスペシャルティー・プロダクツ社(SVO Specialty Products,Inc.,One Mile East,Culbertson,Montana)で粉砕し、得られた油を加工処理した。約361トンのIMC130のカノラ種子を、以下に略述する条件下で粉砕した。
カノラの種子全体を、米国、38118、テネシー州メンフィスのバウアーマイスター社(Bauermeister Inc.,Memphis,Tennessee 38118)から市販されている平滑面ロールを有するダブルロールバウアーマイスター薄片製造用ロール機に通過させた。ロール間の距離を調整して、厚さ0.225-0.30mmのカノラの薄片が生じるようにした。薄片化したカノラの種子を、米国、55440、ミネソタ州ミネアポリスのクラウン・アイアン・ワークス(Crown Iron Works,Minneapolis,Minesota 55440)製の直径8フィートの5段積層釜まで運搬した。薄片化した種子の水分を、積層釜中で5.5-6.0%に調整した。蒸気加熱釜のトレイからの間接的な熱を使用して、種子薄片の温度を徐々に80-90℃まで上昇させ、約20-30分間その温度に保持した。積層釜の機械掃引アームを使用して、種子薄片が確実に均一に加熱されるようにした。薄片に熱を加えることによって酵素を失活させ、細胞の破砕を進行させ、油の液滴が集まり、タンパク質粒子が凝集するようにして、抽出過程を容易にした。
加熱したカノラ薄片を、米国、44015、オハイオ州クリーブランドのアンダーソン・インターナショナル社(Anderson International Corp.,Cleveland Ohio 44105)から入手した、適当なスクリューウォームアセンブリを備えたスクリュープレス機まで運搬し、IMC130のカノラ薄片から約70%の油分を搾出した。得られた圧搾ケーキには、15.0-19.0%の残留油分が含まれていた。
圧搾操作によって精製した粗製油を、頂部に格子状のすのこを有する沈降槽を経由させることにより、スクリュープレスでの圧搾時に油とともに搾出された固形分を除去した。得られた清澄な油を板枠型濾過器に通し、残存している微細な固形カノラ粒子を除去した。濾過した油を、圧搾過程で回収された油と一緒にしてから、油の精製を行った。
スクリュー圧搾操作で生じたカノラの圧搾ケーキを、米国、45356、オハイオ州ピクアのフレンチ・オイル・ミル・アンド・マシナリー社(French Oil Mill and Machinery Co.,Piqua,Ohio 45356)から市販されているFOMMバスケット型抽出装置に移し、この装置で、ケーキ中に残っている油を、55℃の市販のn-ヘキサンを用いて抽出した。圧搾ケーキ中に残存している油を実質的に除去すべく、向流のヘキサンによる洗浄を複数回行ったところ、抽出済みのケーキ中に1.2-2.3重量%の残留油分を含有する圧搾ケーキが得られた。抽出過程で生じた油とヘキサンの混合物(ミセラ)を、2段式膜上昇管型の蒸留カラムに通すことにより、油からヘキサンを留去した。油からのヘキサンの最終的な除去は、ディスクならびにドーナツ型の内部部材を有するストリッピングカラムに、オイルを、23-26インチHgの減圧下で107-115℃にて通過させることによって行った。少量のストリッピング用の蒸気を使用して、ヘキサンの除去を促進した。抽出過程で回収されたカノラ油を、スクリュー圧搾操作で得られた濾過済みの油と一緒にしてブレンド粗製油を調製し、この粗製油を油の加工処理工程に移した。
油の加工処理工程では、85%リン酸としての食品等級のリン酸0.15%を加えたバッチ式の精製槽で、粗製油を66℃に加熱した。酸は、粗製油中に存在している非水和性のホスファチドを水和性の形態に転化し、少量のキレート金属も転化する役目を果たす。ホスファチドと金属塩は、石けん原料とともに除去する。66℃で60分間かきまぜてから、油と酸の混合物を十分な水酸化ナトリウム溶液(12゜Be)で処理し、油と酸の混合物中の遊離脂肪酸とリン酸を中和した。混合物を71℃に加熱し、35分間かきまぜた。撹拌を停止し、中和した遊離脂肪酸、ホスファチド等(石けん原料)を、6時間かけて精製槽の円錐型容器の底部に沈降させた。沈降期間の後、中和した油から石けん原料を排出した。
油を82℃に加熱し、12%の熱湯を加えることによって水洗を行い、油の石けん含量を減らした。混合物を10分間撹拌しつづけた。混合物を4時間にわたって静置し、その時点で、精製容器の底部から水を排出した。
水洗した油を、24-26インチHgの減圧下に保持した真空漂白容器中で104-110℃に加熱した。IMC130のカノラ油のスラリーと、米国、10004、イリノイ州アーリントン・ハイツのアメリカン・コロイド社、リファイニング・ケミカル部(American Colloid Company,Refining Chemicals Division,Arlington Heights,Illinois 10004)から入手可能なクラリオン(Clarion)470漂白用クレーとを、真空漂白装置に入った油に加えた。この混合物を20分間かきまぜてから、漂白用クレーを濾別した。クレースラリーの添加量は、油を大気圧で288℃に加熱した場合に、ロビボンド色についてのAOCSの公式測定法Cc136-4が1.0赤単位未満となるように調整した。濾過を行った漂白済みの油に窒素を注入し、油の脱臭を行うまで窒素雰囲気中に保持した。
精製し漂白したIMC130のカノラ油を、半連続式Votatorデオドライザーで、約7,000ポンド/時の速度で脱臭した。脱臭温度は265-268℃に、装置の圧力は0.3-0.5mmHgの絶対圧力に保った。約1-1.5%の蒸気を吹き込んで、遊離脂肪酸、着色成分、臭気成分を放散させた。デオドライザー中の滞留時間は50-70分とした。脱臭済みの油を45-50℃に冷却し、窒素を注入してから減圧状態を解除した。脱臭済みの油は、窒素雰囲気中で保存した。
得られた脱臭済みのIMC130の油を、ガスクロマトグラフィーで、脂肪酸の組成について分析した。脂肪酸のパーセントは、C16:0が3.6%、C18:0が2.2%、C18:1が74.3%、C18:2が11.9%、C18:3が4.8%、そしてポリ不飽和成分の総量が16.7%であった。これらのデータは、表3に示すIMC144、IMC129、および銘柄Aについての値と比較することができる。このデータから、IMC130は、代表的な一般カノラ油であるIMC144ならび銘柄Aと比較して、リノレン酸(C18:2)、α-リノレン酸(C18:3)、ならびにポリ不飽和脂肪酸の総量が低レベルに保たれていることが例証された。
表11に、上述の方法(1993年の商業的方法)で処理を行ったIMC130の油についてのAOM時間のデータを、市販のカノラ油、IMC129(オレイン酸高含量)、IMC144(代表的な一般カノラ油)、ならびにIMC01(α-リノレン酸低含量)との比較で示す。」(25欄48行?30欄3行)
(a-4) 表11に商業的処理を行ったカノラ油のAOM時間として、IMC 130から得られたものが37.5時間であることが記載されている。(本件特許明細書29?30欄12行?17行)

1.1.3 無効理由ア-1についての当審の判断
(1)実施例5に記載されたカノラ油について
実施例5の「上述の方法(1993年の商業的方法)で処理を行ったIMC130の油」(記載(a-3))との記載からみて、この実施例により製造された非水素化カノラ油は、「商業的処理を行った非水素化カノラ油」であると認められる。
同実施例には、カノラ油の粗製油をリン酸及び続いて水酸化ナトリウム溶液で処理し、中和した遊離脂肪酸、ホスファチド等を沈降除去させた後、クラリオン(Clarion)470漂白用クレーを油に加え、かきまぜてから、漂白用クレーを濾別して漂白処理し、漂白済みの油に窒素を注入し、油の脱臭を行うまで窒素雰囲気中に保持することが記載されている(記載(a-3))。
「カノラ油の粗製油をリン酸及び続いて水酸化ナトリウム溶液で処理し、中和した遊離脂肪酸、ホスファチド等を沈降除去させ」る工程は、脱ガム及び遊離脂肪酸の除去/同時に微量のホスファチド等、各種不純物を減少する精製工程であり、「クラリオン(Clarion)470漂白用クレーを油に加え、かきまぜてから、漂白用クレーを濾別して漂白処理」する工程は、漂白用クレーに着色物質を吸着させ、脱色させる工程である。そして、上記工程は精製、脱色、脱臭の順に行われるものである。
したがって、本件特許明細書の実施例5には、
「精製(脱ガム及び遊離脂肪酸の除去/同時に微量の各種不純物も減少する)、脱色、脱臭工程の順で製造された商業的処理を行った非水素化カノラ油」
が記載されているものと認められる。
(2)実施例1に記載されたカノラ油について
本件特許明細書の実施例1には、IMC130種子から絞り出し及びヘキサン抽出して得られた油を脱ガム化した後、遊離脂肪酸を除去するためにアルカリ精製し、さらに洗剤を除去するため水洗浄を行なった後、漂白クレーを使用して漂白し、漂白した油をデオドライザーを用いて脱臭して得られたIMC130油が記載されている(記載(a-1))。このIMC130油は、パイロットプラントにより製造された非水素化カノラ油である。
上記工程において、「遊離脂肪酸を除去するためにアルカリ精製し、さらに洗剤を除去するため水洗浄を行な」う工程は、精製工程であって、遊離脂肪酸の除去/同時に微量の各種不純物も除去されるものであり、「漂白クレーを使用して漂白」する工程は、漂白用クレーに着色物質を吸着させ、脱色させる工程である。そして、上記工程は精製、脱色、脱臭の順に行われるものである。
してみれば、実施例1において製造されたカノラ油も、
「精製(脱ガム及び遊離脂肪酸の除去/同時に微量の各種不純物も減少する)、脱色、脱臭工程の順で製造された非水素化カノラ油」
であるから、「パイロットプラント、すなわち、精製工程において非商業的処理を行った非水素化カノラ油」も、「商業的処理を行った非水素化カノラ油」と処理方法としては同一である。
(3)商業的処理を行った非水素化カノラ油の処理工程について
被請求人が提出した答弁書には、「商業的処理の一例は、本件特許明細書28欄9行?48行(実施例5)に示されており、1(注:○中1)最初にリン酸を加え、さらに水酸化ナトリウムを加えることによって、ホスファチド、キレート金属、遊離脂肪酸などを除去する、2(注:○中2)熱湯で洗い、石けん含量を減らす、3(注:○中3)真空漂白容器中で、漂白用クレーと加熱し、漂白(脱色)する、4(注:○中4)高温、低圧下に蒸気を吹き込んで脱臭する、の4工程からなっている。商業的処理がこの方法に限られるものでないことはいうまでもないが、基本的に、遊離脂肪酸など不純物の除去、脱色、脱臭を行うのであり、それぞれの工程は周知の手段が適宜選択して適用される。」(答弁書3頁11行?18行)と記載されており、商業的処理が精製、脱色、脱臭工程の順に限られるものではないとしており、また、商業的処理を行った非水素化カノラ油として、脱色又は脱臭が必ず行われたものでなければならないとすることもできないから、同カノラ油が脱色工程や脱臭工程を経たものでなければならないとも認め難い。
被請求人は、口頭審理陳述要領書において、乙第24号証?乙第26号証並びに乙第28号証及び請求人の提出した甲第23号証、甲第24号証の1、甲第24号証の2、甲第25号証の1並びに甲第25号証の2を挙げて、商業的処理が「精製(脱ガム及び遊離脂肪酸の除去/同時に微量の各種不純物も減少する)、脱色、脱臭工程」の順で行われるとの主張をしているが、上記各証拠には、商業的処理によって得られたカノラ油の例が記載されているに留まるものであり、全ての商業的処理をされた非水素化カノラ油について、被請求人の主張する手順に添って処理がなされなければならないことを示すものではない。
したがって、商業的処理を行った非水素化カノラ油が精製(脱ガム及び遊離脂肪酸の除去/同時に微量の各種不純物も減少する)、脱色、脱臭工程の順で製造されるものに限られるとすることはできない。
(4)「商業的処理」の明確性について
訂正事項a、すなわち、「商業的処理を行った」を構成要件として付加する訂正は、小規模の実験的処理やパイロットプラントによる処理等、商業的処理以外の処理方法によって得られた非水素化カノラ油が除かれるという意味で及び特定の処理がされたものに限定されるという意味で特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正であると認められる。しかしながら、上記のように、「商業的処理を行った非水素化カノラ油」が「精製(脱ガム及び遊離脂肪酸の除去/同時に微量の各種不純物も減少する)、脱色、脱臭工程」の順で処理されて製造されるものに限られない一方で、商業的ではない場合、例えば、パイロットプラントでも「精製(脱ガム及び遊離脂肪酸の除去/同時に微量の各種不純物も減少する)、脱色、脱臭工程」の順で処理されて非水素化カノラ油が製造されているのであるから、「商業的処理を行った」については、これを技術的には一義的に特定できるものではなく、発明の構成として不明瞭であるといわざるを得ない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではなく、特許法第36条第5項第2号で規定する要件を満たさないものである。

1.2 本件請求項2?15の記載について
本件請求項2?15は、本件請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件請求項1が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないのであるから、本件請求項2?15についても、同様の理由で特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではなく、特許法第36条第5項第2号で規定する要件を満たさないものである。

2 無効理由ア-2について
特許法第36条第4項には、「前項第三号の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」と規定されている。そして、「物の発明」については、当業者がそのものを製造することができるように記載しなければならず、物の有する機能・特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野においては、機能・特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物(及びその具体的な物から技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物について、当業者が、技術常識を考慮してもどのように作るか理解できない場合(例えば、そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)は、実施可能要件違反となる。
また、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第5項第1号所定の、明細書のサポート要件を満たしているためには、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか又はその記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである必要がある。

2.1 本件請求項1に係る発明について
2.1.1 本件特許明細書に記載された事項
本件特許明細書には、酸化安定性の高いカノラ油を生産する品種IMC130について、次の記載がある。
(a-5) 「高生産性のスプリング(Spring)カノラのバックグラウンドにおいて、減少したポリ不飽和脂肪酸、改良された風味安定性、揚げ安定性、酸化安定性、光酸化安定性および保存寿命安定性を有する本発明のカノラ油を生産するために、規定された生殖質を用いて遺伝的交配を行う。油に含まれるオレイン酸含量が高いスプリングカノラ品種IMC129と、油に含まれるα-リノレン酸含量が低いスプリングカノラ品種IMC01とを交配させる。小胞子培養のためにF1雑種のつぼみを集め、二ゲノム性半数体集団を得る。油に含まれるオレイン酸含量が高くかつリノール酸とα-リノレン酸含量が低い二ゲノム性半数体植物(遺伝子的にはホモ接合体)を選別し、そして脂肪酸の安定性および生産性についての現地試験を行う。
現地および温室における5世代の試験の後、多重環境において脂肪酸安定性を有する高生産性のものを選択する。選択した種子は分離して生育させ、収穫、油の抽出を行い、公知の技術を用いて加工処理して精製、漂白、脱臭された油を得る。生産された油は、同様の条件下で加工処理された商用タイプの一般カノラ油と比べて、酸化安定性および揚げ安定性の点で官能的に優れていることがわかった。この系統をIMC130と命名した。
IMC130から得られる本発明のカノラ油は、促進酸素法(AOM)で測定したとき約35?40時間の酸化安定性を有する。これは既知のどのようなパイロットプラントまたは商用の加工カノラ油よりも顕著に高い値である。そして、この値は商用タイプの一般カノラ油よりも45?60%上昇している。」(本件特許明細書9欄48行?11欄8行)
(a-6) 同明細書の実施例1には、IMC 129とIMC 01とを交配し、IMC130が得られたことが具体的に次のように記載されている。
「実施例1
IMC 129×IMC 01の交配を実施して、スプリングカノラ(Spring canola)の二ゲノム性半数体品種であるA13.3008を取得した。IMC 129(U.S.PVP証明書第9100151号)は、種子油中にオレイン酸を多く(〉75%)を含むスプリングカノラブラシカ・ナプス(Brassica napus)の一品種である。IMC 01は、種子油中にα-リノレン酸を少量(〈2.5%)含むスプリングカノラブラシカ・ナプスの一品種である。α-リノレン酸が少ない特質とオレイン酸が多い特質を、商業生産のための高い生産性をあげる背景において組み合わせるため、1989年に遺伝子的交配を行なった。
F1植物(IMC 129×IMC 01)を12℃/6℃(昼/夜)の人工気象箱で照明時間を16時間として栽培した。小胞子単離のため、2?3.5mmのつぼみを選択した。Lichter,R.,Z.Pflanzenphysiol,105:427-434(1982)の方法にしたがって小胞子を単離し、培養した胚を生じさせた。小胞子から再生した植物を開花まで温室で栽培した。半数体植物は、染色体倍加を誘導するためにコルヒチンで処理した。二ゲノム性半数体植物は自家受粉させた。
選択された二ゲノム性半数体植物の種子(DH1)を1990年に収穫し、まとめてガスクロマトグラフィーにより脂肪酸組成を分析した。脂肪酸分析の次に、A13.30038と名付けた種子を高オレイン酸および低α-リノレン酸に関して同定した(表2参照)。DH1種子を温室にまき、自家受粉させた。収穫したDH2種子世代は選択された脂肪酸組成を保持していた。この系統の生産高を確認するため、1991年にDH2種子をアイダホ南東部にまいた。圃場の植物を自家受粉させ、脂肪酸安定性を測定した。DH3種子は圃場において選択された脂肪酸組成を保持していた。A13.30038のDH3種子を、1991年の冬の間南カリフォルニアで隔離テント内で増やした。DH4種子は選択された脂肪酸組成を保持しており、油の品質と生産高をさらに試験するため、1992年の間アイダホ南東部で隔離して(2マイル)増やした。
1992年夏の試行の後、A13.30038は改善された生産高と安定した脂肪酸組成を持つことが判明した。この系統は、IMC 130と改称された。5世代にわたるこの系統の脂肪酸組成を表2に示す。」(本件特許明細書12欄15行?14欄1行)

2.1.2 無効理由ア-2についての当審の判断
(1)本件請求項1に係る発明
本件請求項1に係る発明の課題は、本件特許明細書の記載事項、「本発明は、公知のカノラ油と比べて、安定した風味および性能属性の点で優れているカノラ(Brassica napus)油、種子、ひき割りおよび植物系統を提供する。」(本件特許明細書6欄18行?20行)にあるものと認められ、ここにいう「安定した風味および性能属性の点で優れているカノラ(Brassica napus)油」を規定したものが、本件請求項1に係る発明における「酸化防止剤無添加状態で35?40AOM時間の酸化安定性を有する非水素化カノラ油」に対応する。
(2)発明の詳細な説明の記載
上記の点を踏まえた上で本件特許明細書をみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件請求項1に係る発明の課題を解決するため、種子油中にオレイン酸を多くを含むスプリングカノラブラシカ・ナプス(Brassica napus)の一品種であるIMC 129と種子油中にα-リノレン酸を少量含むスプリングカノラブラシカ・ナプスの一品種であるIMC 01の交配を実施して、スプリングカノラ(Spring canola)の二ゲノム性半数体品種であるA13.3008を取得し、得られたF1植物(IMC 129×IMC 01)を栽培し、自家受粉を繰り返すことで改善された生産高と安定した脂肪酸組成を持つA13.30038を取得し、この系統をIMC 130と改称したことが記載されている(記載(a-5)及び(a-6))。
そして、発明の詳細な説明には、実施例5には、IMC130種子から商業的処理を行い製造された非水素化カノラ油のAOM時間が37.5時間であることが示されている。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「酸化防止剤無添加状態で35?40AOM時間の酸化安定性を有する非水素化カノラ油」が一例記載されていると認められる。その他の例はない。
(3)当審の判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記の酸化安定性を有する非水素化カノラ油としては、IMC 130種子から得られたもの一例が記載されているのみである。
性質の劣った種子を交配した場合に、目的とする優れた性質を有する種子が得られるか否か、本件請求項1に係る発明についていえば、酸化防止剤無添加状態で35AOM時間未満の酸化安定性を有する非水素化カノラ油を製造する種子から35?40AOM時間の酸化安定性を有する非水素化カノラ油を製造できる種子が得られるか否かは、偶然に影響されるものであって、必然的に目的としている種子が得られるものではない。
例えば、他の脂肪酸よりも早く酸化されるリノレン酸や食品において不快なにおいまたは風味を発生する前駆物質であるリノール酸とα-リノレン酸を低下させたカノラ種を品種改良により従来から行われていることであるところ、必ずしも満足する成果が得られなかったことは、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも、「α-リノレン酸は他の脂肪酸よりも速く酸化されることが報告されている。リノール酸とα-リノレン酸は食品において不快なにおいまたは風味を発生する前駆物質であると提唱されてきた。カノラ油の官能性を向上させるために、マニトバ(Manitoba)大学では、α-リノレン酸を低下させたカノラ品種“ステラー(Stellar)”を開発した(Scarthら,Can.J.Plant Sci.,68:509-511(1988))。この低α-リノレン酸油は空気中で加熱した際の臭気が少なくなったが、依然として風味評定での官能パネルには受け入れられないままである(Eskinら、J.Am.Oil Chem.Soc.66:1081-1084(1989))。ステラー油の酸化安定性は、促進酸素法(Accelerated Oxygen Method:AOM)において、商用品種ウェスター(Westar)よりも17.5%だけ増加した(Can.J.Plant Sci.(1988)Vol.68,pp.509-511)。
ヨーロッパ特許出願EP 0 323 753 A1には、オレイン酸含量を増加させて熱安定性や他の特性を向上させたカノラ油が記述されている。この出願には、さらに、α-リノレン酸を低下させて酸化安定性を向上させた揚げ油が記載されている。この油に関する風味および性能試験は何も報告されなかった。」(本件特許明細書第5欄13行?34行)と記載されているところである。
してみれば、特定の酸化安定性を有する非水素化カノラ油という「物の発明」において、その物が有する「酸化防止剤無添加状態で35?40AOM時間の酸化安定性」という特性からその物の構造を予測することは困難であるから、その特性で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が示された物以外の物、すなわち、IMC 130種子以外の種子から製造された非水素化カノラ油について、それが「酸化防止剤無添加状態で35?40AOM時間の酸化安定性」を有することが示されている必要があるが、そのような記載はない。してみれば、特定の酸化安定性を有する非水素化カノラ油を製造できる種子が得られるか否かは、偶然に影響されるものであるから、当業者がそのような物を作るためには、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を行う必要があり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がそのものを製造することができるように記載されたものではないから、実施可能要件を満たしていないものである。
また、これを特許法第36条第5項第1号所定の、明細書のサポート要件を満たしているか否かについてみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件請求項1に係る発明の課題を達成する手段として、IMC 130種子から得られた一例が記載されているだけであって、これ以外に本件請求項1に係る発明の課題を達成する手段は記載されていないものであるから、本件請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないものであり、また、出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された内容を本件請求項1に係る発明に拡張乃至一般化することはできないものであって、明細書のサポート要件を満たしているとすることはできない。

2.1.3 無効理由ア-2に対する被請求人の主張について
被請求人は、口頭審理陳述要領書において、下記の主張をしているので検討する。
「本件発明は、非水素化カノラ油において、適切な品種改良を行えば35?40 AOM時間という高い酸化安定性の油が得られることを初めて見出し教示した点にある。
本件発明は、遺伝子工学による遺伝子の操作は行っておらず、既存のカノラ種植物の交配によって目的を達成している。このことは、論理上、本件発明の高い酸化安定性をもたらす油の生産に関与するIMC 130という品種の遺伝子は、IMC 130の親のゲノムの中に既に内在していたことを示している(乙23/今村教授意見書参照)。
換言すれば、カノラ種の植物の交配による品種改良において、AOM時間を指標として選択を行えば、高酸化安定性をもたらす遺伝子の発現する品種に到達することができるという発見が、本件発明の技術思想に他ならない。
IMC 130は、この技術思想を具現化する一例に他ならない。
本件特許により、IMC 130という具体例が示されたのであるから、当業者は、例えば、IMC 130の親であるIMC 129とIMC 01とよく似た親を交配させ、AOM時間による選択を適用して、容易に高い酸化安定性を有する非水素化カノラ油を生産するであろう。高い酸化安定性を得るには、脂肪酸組成としてオレイン酸が多く、リノレン酸が少ないことは好ましい条件であるとして、そのような親を選んで交配することは、本件明細書の教示の内である。
乙第23号証に説明されているように、本件明細書に記載されている品種改良の方法は、理論上、両親の植物の遺伝子のあらゆる組合せを得て、所望の性質の植物を選択することを可能にする方法である。選択のために手数を要するとしても、それは品種改良技術において確立したルーチンワークに他ならない。
植物の品種改良の技術分野において、教示された特性を有する植物の再現に手数を要するとしても、発明の成立性を否定するものでないことは、最高裁平成12年2月29日判決・民集54巻2号709頁が明確に認めるところである。
事実、請求人は、IMC 130とは異なるカノラ種の植物を品種改良によって得て、本件発明のカノラ油を製造・販売しているのである。そのために米国で侵害訴訟が起きている。」(口頭審理陳述要領書16頁22行?18頁14行)

被請求人の上記主張に対する当審の判断
被請求人は、カノラ種の植物の交配による品種改良において、AOM時間を指標として選択を行えば、高酸化安定性をもたらす遺伝子の発現する品種に到達することができるものであり、本件特許により、IMC 130という具体例が示されたのであるから、当業者は、例えば、IMC 130の親であるIMC 129とIMC 01とよく似た親を交配させ、AOM時間による選択を適用して、容易に高い酸化安定性を有する非水素化カノラ油を生産するであろうと主張しているが、交配による品種改良においては、親株よりも優れた品種に到達することができるか否かは偶然に支配されており、必ず目的とする品種が得られることが保証されているものではない。本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件請求項1に係る発明の課題を解決できると認識できる記載はIMC 130以外にはないのであるから、被請求人の主張が採用できないことは上述のとおりである。
乙第23号証は、玉川大学農学部生物資源学科、理学博士の今村順教授の意見書であって、同意見書には、「本発明により、酸化安定性を高める遺伝子の存在が認められたのであるから、本発明を再現するためには、脂肪酸組成による選択と同時に、当該遺伝子の発現する植物を見逃さない選択方法を採用すればよい。・・・カノーラ種の植物において酸化安定性を高める遺伝子が、本発明の実施例に記載された親の系統以外に存在しないとは考え難い。当該遺伝子自体はむしろ普遍的にカノーラ種に存在するが、その発現が妨げられていたり、好適な脂肪酸組成と同時に発言していなかったりしたため、本発明の特性を有するカノーラ油が従来品の中に存在しないと考えることは合理的である。他のカノーラ種の系統を親として、本発明の実施例と同じ操作を施し、AOM時間による選択を行うことにより、本発明と同レベルの酸化安定性を有するカノーラ油が得られる可能性を否定する根拠はない。」と記載されている。
しかしながら、同意見書についても、本発明の実施例と同じ操作を施せば、本発明と同レベルの酸化安定性を有するカノーラ油が得られるという可能性があるとするに留まるものであり、目的とする品種が得られたことが証明された訳ではない。また、「カノーラ種の植物において酸化安定性を高める遺伝子自体はむしろ普遍的にカノーラ種に存在する」という点についてもその根拠が示されているわけでなく、乙第23号証を基にした被請求人の主張を採用することはできない。
また、被請求人は、最高裁平成12年2月29日判決を挙げて、植物の品種改良の技術分野において、教示された特性を有する植物の再現に手数を要するとしても、発明の成立性を否定するものでないとの主張をしているが、当該判決は発明の成立性、すなわち、特許法第29条第1項柱書の規定を満たすか否かを判示したものであって、その発明についても特定品種の種子親と特定品種の花粉親とを交配させて、新品種を育成する方法に関するものであるから、本件請求項1に係る発明のサポート要件に対する判断とは異なるものであって、本件請求項1に係る発明とは関わりのないものである。
さらに、被請求人は、「請求人は、IMC 130とは異なるカノラ種の植物を品種改良によって得て、本件発明のカノラ油を製造・販売しているのである。」との主張をしているが、具体的な証拠はなく、当該主張も採用できないものである。

2.1.4 まとめ
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄は、「物の発明」について、当業者がそのものを製造することができるように記載されておらず、また、本件請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の欄に記載した範囲を超えて請求されたものである。

2.2 本件請求項2?10及び12?15に係る発明について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄は、「物の発明」について、当業者がそのものを製造することができるように記載されておらず、また、本件請求項1に係る発明及びこれを直接的又は間接的に引用する本件請求項2?10及び12?15に係る発明については、本件特許明細書の発明の詳細な説明にそれらの発明の効果を裏付ける記載がなく、それらの発明に顕著な効果は認められないから、本件請求項2?10及び12?15に係る発明についても、特許法第36条第5項第1号所定の、明細書のサポート要件に適合するということはできないものである。

3 まとめ
したがって、本件請求項1及びこれを直接的又は間接的に引用する請求項2?15の記載は特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許明細書は、同条第4項に規定する要件を満たしておらず、さらに、本件請求項1及びこれを直接的又は間接的に引用する請求項2?10及び12?15の記載は同条第5項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1?15に係る特許は、明細書の記載に不備があり、特許法第36条第4項又は第5項の規定を満たしていない出願に対してなされたものであるから、他の無効理由を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
食用の非水素化カノラ油
【発明の詳細な説明】
本発明は、風味および性能属性が改良されて、とりわけ食品に使用するのに適した非水素化カノラ油(canola oil)に関し、また、該油が得られるアブラナ属(Brassica)の種子、ひき割り(meal)、植物系統およびその子孫に関するものである。
技術背景
カノラ油はすべての植物油のなかで飽和脂肪酸の含量が最も低い油である。消費者は脂質の摂取が健康に及ぼす影響について以前よりも気にかけるようになってきているので、米国でのカノラ油の消費量は増えている。しかし、一般カノラ油は、その不安定性のために、食品加工産業の重要な部分であるディープフライ(油をたっぷり使って食品を揚げる)作業での使用に限られてきた。自然界のおよび商用のナタネ品種から抽出されたカノラ油は比較的高い(8?10%)α-リノレン酸(C_(18:3))(ALA)含量を有する。この油は不安定で、調理中に酸化されやすい。その結果、油の風味低下が生じ、このような油を使って調理した食品の官能特性を損なうこととなる。また、それは保存中に許容できない異臭や腐ったようなにおい(味)を発生する。
油に含まれるリノール酸とα-リノレン酸の量を低下させることにより油の性能属性を向上させるにあたって、水素化を採用することができる。この方法では、油の飽和およびトランス脂肪酸が増加し、これらは両方とも健康との関係を考慮する場合に望ましくない。α-リノレン酸含量を低下させて油の性能属性を高めるために、油のブレンドも採用し得る。カノラ油と他の植物油(例えば、綿実油)とのブレンドは飽和脂肪酸含量を上げるであろうが、カノラ油の健康によいという特質が失われる。
α-リノレン酸は他の脂肪酸よりも速く酸化されることが報告されている。リノール酸とα-リノレン酸は食品において不快なにおいまたは風味を発生する前駆物質であると提唱されてきた。カノラ油の官能性を向上させるために、マニトバ(Manitoba)大学では、α-リノレン酸を低下させたカノラ品種“ステラー(Stellar)”を開発した(Scarthら,Can.J.Plant Sci.,68:509-511(1988))。この低α-リノレン酸油は空気中で加熱した際の臭気が少なくなったが、依然として風味評定での官能パネルには受け入れられないままである(Eskinら、J.Am.Oil Chem.Soc.66:1081-1084(1989))。ステラー油の酸化安定性は、促進酸素法(Accelerated Oxygen Method:AOM)において、商用品種ウェスター(Westar)よりも17.5%だけ増加した(Can.J.Plant Sci.(1988)Vol.68,pp.509-511)。
ヨーロッパ特許出願EP 0 323 753 A1には、オレイン酸含量を増加させて熱安定性や他の特性を向上させたカノラ油が記述されている。この出願には、さらに、α-リノレン酸を低下させて酸化安定性を向上させた揚げ油が記載されている。この油に関する風味および性能試験は何も報告されなかった。
酸化安定性が脂肪酸の組成に無関係であることを示すデータ(下記参照)によると、脂肪酸の組成から安定性の増加を推測することはできないことが分かる。油に含まれるα-リノレン酸の量は、酸化安定性および風味安定性をコントロールする一要因であるにすぎない。こうして、食品産業において使用するための、風味および性能の点で安定性の向上したカノラ油が求められている。本発明はこのような油を提供するものである。
発明の概要
本発明は、酸化防止剤の不在下で約37?40AOM時間の酸化安定性を有する非水素化カノラを含む油を提供する。本発明の油はまた、少なくとも64時間までの揚げ安定性を有する。揚げ物に64時間使用した後で、本発明の油は、約23%に減少した総極性物質含量、約0.7%に減少した遊離脂肪酸含量、ロビボンド(Lovibond)カラー値6.7で示されるような赤色の低下、そして125吸光度/gに低下したp-アニシジン価を有する。揚げ物に32時間使用した後では、本発明の油は、約12%に減少した総極性物質含量、約0.3%に減少した遊離脂肪酸含量、ロビボンドカラー値2.7で示されるような赤色の低下、そして112吸光度/gに低下したp-アニシジン価を有する。
さらに、本発明は、上記のカノラ油を含むブラシカ・ナプス(Brassica napus)品種およびその子孫からなる種子を提供する。
本発明はまた、上記のカノラ油を産生するブラシカ・ナプスカノラ品種からなる植物系統、およびその個々の植物を提供する。
種子寄託の簡単な説明
以下に記述されるIMC130と称する種子は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)に寄託され、受託番号75446を指定された。
発明の詳細な説明
本発明は、公知のカノラ油と比べて、安定した風味および性能属性の点で優れているカノラ(Brassica napus)油、種子、ひき割りおよび植物系統を提供する。
比較安定性試験において、本発明のカノラ油(その系統番号IMC130で示される)は公知のカノラ油よりも酸化安定性および揚げ安定性の点で優れている。IMC130油の優れた官能性は、コントロールされた食品適用試験のもとでのその性能により決定された。この油の改良された特性は、その使用範囲を新たな食品へと拡大し、また、向上した風味安定性、酸化安定性、揚げ安定性および保存寿命安定性が望まれる場合の水素化の必要性に取って代わるだろう。
本明細書中では、多くの用語が用いられている。ここで用いる「官能性」または「性能属性」とはカノラ油の性質または特徴を意味し、風味安定性、揚げ安定性、酸化安定性、保存寿命安定性および光酸化安定性を含むものである。
酸化安定性は油の風味を損なう油の成分がいかにたやすく酸化されるかに関係し、促進酸素法(AOM)、脂肪安定性:活性酸素法のための米国油脂化学会公定法Cd12-57(1989年改訂)およびランシマット(Rancimat)(Laubli,M.W.& Bruttel,P.A.,JOACS 63:792-795(1986))またはJoyner,N.T.& J.E.McIntyre,Oil and Soap(1938)15:184に記載されるシャール(Schaal)オーブン試験の変法のような機器分析により測定される。酸化安定性の高い油は、食品の安定保存に用いるための、すなわち朝食用シリアル、クッキー、クラッカー、フレンチフライのような揚げた食品、ポテトチップのようなスナック食品などのスプレーコーティングのための優れた油であると考えられる。
揚げ安定性は揚げている間の油の耐変質性に関係する。揚げ安定性は酸化による変質を示す種々のパラメーター(例えば、総極性物質含量、遊離脂肪酸含量、着色、アルデヒドの生成)を用いて測定することができる。「フライ寿命(fry life)」は、油を使って揚げた製品の風味が官能試験において設定値にまで劣化するのに要する時間のことである。レストラン、病院、大きな施設用の油は主に食物を揚げるために使われており、揚げ安定性が要求される。
風味安定性は規定条件下で保持した油から定期的に取り出した油サンプルの官能試験により決定される。例えば、老化を促進させるために高温のオーブン内に油を貯蔵することが可能である。また、油を室温で保存してもよい。しかし、試験にかかる時間が長いため、この方法はあまり有用でない。風味安定性は、油の風味が確立された数値にまで劣化するのに要する時間によって測定される。官能パネルは油または食品を1(許容できない)から9(快い)までの等級で評価する。油または食品が劣化を示し始める廃棄点が選択される。びん入りの調理油やサラダドレッシングには高い風味安定性が要求される。
光酸化安定性は、規定された光線および温度の条件下で保存した油から定期的に取り出した油サンプルを分析することにより決定される。光酸化安定性は油の風味が設定値にまで劣化するのに要する持続時間に反映される。びん入りの調理油は高い光酸化安定性を必要とする。
保存寿命安定性は、油を使って調理し、包装し、その後老化を促進するために高温のオーブンに入れて貯蔵した食品サンプルを分析することにより決定される。「保存寿命」とは、食品の風味が設定値にまで劣化するのに要する時間のことである。揚げたスナック菓子用の油は保存寿命安定性を必要とする。
本明細書中でもちいる「系統(line)」とは、関心のある少なくとも1つの特性について個体間で属変異をほとんどまたは全く示さない植物の一グループのことである。こうした系統は、数世代の自家受粉および選択を行うか、あるいは組織または細胞の培養技術を使って1個の親からの栄養体生殖を行うことにより作り出すことが可能である。ここで用いる「品種」および「変種」は同義語であって、商業的生産に用いられる系統をさす。
「飽和脂肪酸」はパルミチン酸とステアリン酸を合わせた内容物を意味する。「ポリ不飽和脂肪酸」はリノール酸とα-リノレン酸を合わせた内容物を意味する。「部屋臭気(room odor)」とは、Mounts(J.Am.Oil Chem.Soc.,56:659-663,1979)に記載される部屋臭気判定法を用いて測定された、加熱油の特徴的な臭気のことである。
「集団」とは、共通の遺伝子プールを共有する任意の個体群をさす。ここで用いる「子孫」という用語は、特定の指定された世代から生じる全ての後続世代の植物ならびに種子を意味する。
ここで用いる「自殖」という用語は自家受粉を行ったことを意味する。
「一般カノラ油」は、現在知られているナタネの商用品種から抽出された油類の複合ブレンドをさし、これらの品種は一般的に最低で8?10%のα-リノレン酸含量、最高2%のエルカ酸および最高30μmol/gの総グルコシノレートレベルを示した。それぞれの生育地帯から集めた種子を大穀物倉庫で選別してブレンドし、均一な生産物を得る。次に、ブレンドした種子を圧搾し、精製する。得られる油は品種のブレンドであり、使用目的で販売される。播種されたカノラ品種の分布は、1990年に西カナダにおいて播種された全カノラのパーセントとして表1に示してある。カナダはカノラの種子および油の主要な生産および供給国である。

出所:Ouality of Western Canadian Canola-1990 Crop Year.Bull.187,DeCleregら,Grain Research Laboratory,Canadian Grain Commission,1404 - 303 Main Street,Winnipeg,Manitoba,R3C 3G8.
「カノラ(canola)」は、種子の総脂肪酸含量に基づいて、多くても2重量%の、好ましくは多くても0.5重量%の、最も好ましくは本質的に0重量%のエルカ酸(C_(22:1))含量を有し、かつ粉砕後に30μmol/g未満の脱脂(油不含)ひき割りを含む自然乾燥ひき割りをもたらすナタネ(アブラナ属)を意味する。
ここで用いる「カノラ油」という用語は、総脂肪酸の2%未満のエルカ酸を含有するアブラナ属の種子から得られる油をさす。
高生産性のスプリング(Spring)カノラのバックグラウンドにおいて、減少したポリ不飽和脂肪酸、改良された風味安定性、揚げ安定性、酸化安定性、光酸化安定性および保存寿命安定性を有する本発明のカノラ油を生産するために、規定された生殖質を用いて遺伝的交配を行う。油に含まれるオレイン酸含量が高いスプリングカノラ品種IMC129と、油に含まれるα-リノレン酸含量が低いスプリングカノラ品種IMC01とを交配させる。小胞子培養のためにF_(1)雑種のつぼみを集め、二ゲノム性半数体集団を得る。油に含まれるオレイン酸含量が高くかつリノール酸とα-リノレン酸含量が低い二ゲノム性半数体植物(遺伝子的にはホモ接合体)を選別し、そして脂肪酸の安定性および生産性についての現地試験を行う。
現地および温室における5世代の試験の後、多重環境において脂肪酸安定性を有する高生産性のものを選択する。選択した種子は分離して生育させ、収穫、油の抽出を行い、公知の技術を用いて加工処理して精製、漂白、脱臭された油を得る。生産された油は、同様の条件下で加工処理された商用タイプの一般カノラ油と比べて、酸化安定性および揚げ安定性の点で官能的に優れていることがわかった。この系統をIMC130と命名した。
IMC130から得られる本発明のカノラ油は、促進酸素法(AOM)で測定したとき約35?40時間の酸化安定性を有する。これは既知のどのようなパイロットプラントまたは商用の加工カノラ油よりも顕著に高い値である。そして、この値は商用タイプの一般カノラ油よりも45?60%上昇している。
広範な揚げ条件下で、IMC130油は、総極性物質、遊離脂肪酸、着色およびp-アニシジン価についての酸化試験において、商用タイプの一般カノラ油よりも顕著に低い値を有する。IMC130油は、揚げ物に32時間および64時間使用した後に試験した酸化パラメーターの全てにおいて、依然として有意に低いままである。IMC130油は、32時間および64時間の使用後に、それぞれ約12%と約23%の総極性物質を含んでいる。これは商用タイプの一般カノラ油と比べて32時間では34%の減少、そして64時間では17%の減少に相当する。総極性物質は酸化および加水分解の結果としてトリアシルグリセロールから生成される二次副生成物の総量の尺度となり、それらの減少は改良された酸化安定性を示す。IMC130油は、32時間および64時間使用した後では、遊離脂肪酸含量がそれぞれ約0.3%および約0.7%に減少する。これは商用タイプの一般カノラ油と比べて32時間では37%の減少、そして64時間では23%の減少に相当する。遊離脂肪酸のレベルはトリアシルグリセロールの酸化および加水分解の尺度となり、それらの減少もまた改良された酸化安定性を示す。さらに、揚げ油に色がつくこともトリアシルグリセロール酸化の指標となる。本発明の油は着色レベルの低下を示した。ロビボンドカラーは、32時間および64時間使用した後で、それぞれ約2.7赤および約6.7赤となる。これは商用タイプの一般カノラ油と比べて32時間では38%の減少、そして64時間では47%の減少に相当する。揚げている間のアルデヒド生成の低下も改良された酸化安定性を示し、350nmでの吸光度/gとしてのp-アニシジン価により測定される。IMC130油は、32時間の使用後に約112吸光度/gのp-アニシジン価を有し、そして64時間の使用後に約125吸光度/gのp-アニシジン価を有する。これは商用タイプの一般カノラ油と比べて32時間では32%の減少、そして64時間では14%の減少に相当する。
さらに、IMC130油は、水素化を行ったり、酸化防止剤を添加したりしなくとも、改良された酸化安定性および揚げ安定性を有する。この油の風味安定性は改良された酸化安定性と揚げ安定性から生じる。この油への酸化防止剤の添加は酸化安定性をさらに増大させるだろう。
IMC130油はIMC130と称するブラシカ・ナプス(Brassica napus)植物体から得られる。この油は6.5%未満の低下した量の総C_(16:0)(パルミチン)およびC_(18:0)(ステアリン)飽和脂肪酸、74?80%のオレイン酸、5?12%のリノール酸、2.0?5.0%のα-リノレン酸および1%未満のエルカ酸を含有する。
本発明の油は食用に適しており、特にその優れた酸化安定性と揚げ安定性のために、食品を揚げるのに適している。この油は、水素化されていないので、とりわけ積極的なヒト健康との関係において望ましいものである。本発明の種子、植物系統および植物は本発明の非水素化カノラを生産するのに有用である。
実施例
本発明は以下の実施例においてさらに明確に示される。これらの実施例では、別途記載がないかぎり、すべての部およびパーセントは重量に基づくものであり、度は摂氏で表してある。これらの実施例は本発明の好ましい態様を示すものであるが、説明のためにのみ提供されていることが理解されねばならない。
実施例1
IMC 129×IMC 01の交配を実施して、スプリングカノラ(Spring canola)の二ゲノム性半数体品種であるA13.3008を取得した。IMC 129(U.S.PVP証明書第9100151号)は、種子油中にオレイン酸を多く(>75%)を含むスプリングカノラブラシカ・ナプス(Brassica napus)の一品種である。IMC 01は、種子油中にα-リノレン酸を少量(<2.5%)含むスプリングカノラブラシカ・ナプスの一品種である。α-リノレン酸が少ない特質とオレイン酸が多い特質を、商業生産のための高い生産性をあげる背景において組み合わせるため、1989年に遺伝子的交配を行なった。
F_(1)植物(IMC 129×IMC 01)を12℃/6℃(昼/夜)の人工気象箱で照明時間を16時間として栽培した。小胞子単離のため、2?3.5mmのつぼみを選択した。Lichter,R.,Z.Pflanzenphysiol,105:427-434(1982)の方法にしたがって小胞子を単離し、培養した胚を生じさせた。小胞子から再生した植物を開花まで温室で栽培した。半数体植物は、染色体倍加を誘導するためにコルヒチンで処理した。二ゲノム性半数体植物は自家受粉させた。
選択された二ゲノム性半数体植物の種子(DH_(1))を1990年に収穫し、まとめてガスクロマトグラフィーにより脂肪酸組成を分析した。脂肪酸分析の次に、A13.30038と名付けた種子を高オレイン酸および低α-リノレン酸に関して同定した(表2参照)。DH_(1)種子を温室にまき、自家受粉させた。収穫したDH_(2)種子世代は選択された脂肪酸組成を保持していた。この系統の生産高を確認するため、1991年にDH_(2)種子をアイダホ南東部にまいた。圃場の植物を自家受粉させ、脂肪酸安定性を測定した。DH_(3)種子は圃場において選択された脂肪酸組成を保持していた。A13.30038のDH_(3)種子を、1991年の冬の間南カリフォルニアで隔離テント内で増やした。DH_(4)種子は選択された脂肪酸組成を保持しており、油の品質と生産高をさらに試験するため、1992年の間アイダホ南東部で隔離して(2マイル)増やした。
1992年夏の試行の後、A13.30038は改善された生産高と安定した脂肪酸組成を持つことが判明した。この系統は、IMC 130と改称された。5世代にわたるこの系統の脂肪酸組成を表2に示す。

POS Pilot Plant社,118 Veterinary Road,Saskatoon,Saskatchewan,Canadaのパイロットプラントを使用してIMC 130種子を粉砕し、生じた油を加工処理した。最初の種子重量は700kgであった。ここにデータを提供するすべての油は、以下に記述する同一の条件下で調製した。油の良好な抽出を確実にするため、種子に水をスプレーして水分を8.5%まで上げることにより種子を柔らかくした。種子と水を混合し、平衡にさせた。平衡なローラーを用いて種子を薄片(flake)にした。薄片の厚さを0.23から0.27mmとするために、最小のギャップ設定を用いた。油細胞(oil cell)をさらに破壊し、2トレークッカー(two tray cooker)で加熱して酵素を不活性化した。乾性熱を用いて上部トレーを65?75℃に、下部トレーを91?95℃に加熱した。材料を攪拌するためにスウィーピングアーム(sweeping arm)を使用した。
直径9.5cm長さ94cmのSimon-Rosedownsスクリュープレスを用いて、スクリュースピード17rpmで操作して、薄片化した種子より油を絞り出した。さらに加工するときまで、この粗製油を窒素下に保存した。搾りかすからオイルを取り出すためにヘキサン抽出を用いた。全滞留時間を90分とし、また溶剤対固形物の比を2.4:1として、絞りかすを抽出にかけた。この溶剤抽出した粗製油を集め、さらに加工するときまで窒素下に保存した。
絞り出した、および溶剤抽出した粗製油を乾燥させ、脱ガム化に先立って固形物を除去するために濾過した。油を真空下で泡立ちが停止するまで100℃に加熱した。油を65?75℃に冷却し、0.8%の濾過助剤を添加して濾過した。油からホスファチド類を除去するため、油を水により脱ガム化した。混合した絞り出しおよび溶剤抽出油を60?70℃に加熱し、0.2%の80?100℃の水を加え、15分間混合した。次に、ガム除去のため油を遠心にかけた。
遊離脂肪酸を除去するため、アルカリ精製を使用した。リン酸(85%)を、60?70%に保たれた上記の水脱ガム化油の0.25%に加え、30分間混合した。この酸で処理した油に、遊離脂肪酸を中和するため水酸化ナトリウムを添加した。15分の保持時間後、油を75?80℃に加熱し、遠心した。
さらに洗剤を除去するため水洗浄を行なった。15%の90?95℃の水を油に加え15分間混合することにより、精製油を洗浄した。油を75?80℃に維持し、遠心した。洗浄した油を60?65℃に加熱し、Englehardの“グレード160”漂白クレーを使用して漂白した。油を105?110℃に加熱し、30分間真空下に保った。油を60?65℃に冷却し、クレー重量の20%を濾過助剤として添加した。
漂白した油をJohnson-Loftの充填塔連続デオドライザーを用いて脱臭した。油脱臭温度は265℃で供給速度は200kg/hrであった。蒸気速度は供給速度の1%で、系圧は0.16?0.18kPaであった。脱気容器に送る前にあらかじめ油を68?72℃に加熱した。真空除去に先立って油を41?42℃に冷却した。油を窒素下で-20℃で保存した。
IMC 130油を市販のカノラ油とともにガスクロマトグラフィーにより脂肪酸組成について分析した。表3は市販のカノラ油、すなわちIMC 129(高オレイン酸油)、IMC 144(典型的な一般カノラ油)および銘柄A(典型的な一般カノラ油)と比較したIMC 130油の脂肪酸プロフィールに関するデータを提供する。これらのデータは、IMC 130についてはリノール酸(C_(18:2))、α-リノレン酸(C_(18:3))および総ポリ不飽和脂肪酸のレベルが低下していることを示している。

脂肪安定性:活性酸素法についての米国油脂化学会(American Oil Chemists’Society:AOCS)公定測定法Cd 12-57(1989年改定)に概説されている方法にしたがって油をAOM時間に関して評価した。酸化安定性の度合いを、過酸化物価100に到達するまでの時間数として評価した。各油サンプルは2通りずつ調製した。
IMC 130油は、類似のパイロットプラント加工を経た後、試験した他の油(すなわちIMC 144、IMC 01およびIMC 129)より有意に高いAOM時間を持つことが判明した。IMC 144、IMC 01およびIMC 129油は現在InterMountainConola,Cinnaminson,N.J.より市販されている(表4参照)。IMC 129(高オレイン酸品種)およびIMC 01(低α-リノレン酸品種)はIMC 130を創り出すために交配した親系統であった。IMC 144は典型的な一般カノラ油である。IMC 130油は最小でも37AOM時間を有し、これは市販されている一般カノラの22AOM時間より有意に大きい。典型的には、油のパイロットプラント加工はAOM時間を減らす傾向がある。これはパイロットプラント加工が、商業的加工よりも油にとって過酷だからである。IMC 130のより大きい酸化安定性は、IMC 144油または典型的な一般カノラ油よりも低いそのポリ不飽和脂肪酸含量に帰することが出来る(表3参照)。脂肪酸組成がIMC 130油に類似している高オレイン酸IMC 129の酸化安定性よりも大きいIMC 130の酸化安定性は、酸化安定性が脂肪酸含有量だけに関連しているのではないことを示している。

実施例2
実施例1の油および一般カノラ油であるIMC 144を、揚げ物をしている間の酸化分解により測定される揚げ安定性を確認するため、さらに試験に付した。
各試験油1900gを清潔な、容量6クォート、110ボルトの市販の揚げ物鍋(Tefal Super Cool Safety Fryers 3617型)に入れた。毎日8時間油の温度を190℃に維持した。温度はCole-Palmer温度制御器を用いて、目標温度±5℃に制御した。
市販の冷凍フレンチフライ(100g)を4分間、1日8時間につき3回、各試験油を用いて揚げた。毎日50mlの油を化学分析用に取り出し、酸化分解の量を測定した。新鮮な油を毎日揚げ物鍋に加えて、試料として取り出した量または揚げ物に吸収されたり工程装置に付いて失われた量を鍋に返した。
揚げ物に用いた後の油の酸化パラメーターは、AOCS(Official Methods and Recommended Practices of the American Oil Chemists’Society,第4版(1989)D.Firestone編、American Oil Chemists’Society発行,Champaign,IL)によって確立された手順を用いて測定した。これらの酸化パラメーターは揚げ安定性の指標となる。
揚げ物に使用した後、油を総極性物質(%TPM)、遊離脂肪酸(%FFA)、着色およびp-アニシジン価(P-AV)について分析した。揚げ物に0、32および64時間使用した後に得たデータを表5に報告する。表5に報告されているIMC 130の数値は、IMC 144の数値よりも95%の確実度で有意に低い。これは市販のIMC 144カノラ油よりも改善されたIMC 130油の揚げ安定性を示している。
総極性物質のパーセントはAOCS公定測定法Cd 20-91を用いて測定した。総極性物質は、酸化および加水分解の結果トリアシルグリセロールより生じる二次副産物の総量の尺度である。ある油における総極性物質蓄積の減少は、改善された酸化安定性を示すものである。IMC 130は揚げ物に32時間および64時間使用した後の総極性物質が市販のカノラ油に較べ有意に減少していた。
遊離脂肪酸のパーセントはAOCS公定測定法Ca 5a0-40を用いて測定した。揚げ物をしている間に油中に生成される遊離脂肪酸は、トリアシルグリセロールの酸化および加水分解の尺度である。ある油における揚げ物中の遊離脂肪酸の減少は、改善された酸化安定性を示すものである。市販のカノラ油に較べ、IMC 130油は揚げ物に32時間および64時間使用した後の遊離脂肪酸が有意に減少していた。
着色は、AOCS公定測定法Cc 13b-45を使用してロビボンド比色計を用いて測定し、赤色と報告された。揚げている間の油の赤色への着色はトリアシルグリセロール酸化を示す。赤色への着色が減少した油は改善された酸化安定性を有する。IMC 130油は揚げ物に32時間および64時間使用した後に、市販の油より有意に少ない赤色を示した。
p-アニシジン価はAOCS公定測定法Cd 18-90を用いて測定した。揚げ物をしている間にトリアシルグリセロールの酸化により生成されるアルデヒドは、p-アニシジン価により測定される。p-アニシジン価は、溶剤および試薬の混合物100mL中に油1.00gを含有する溶液を収めた1cmのセル中で350nmで上記の方法にしたがって測定される光学濃度の100倍であり、吸光度/gを単位として表される。揚げ物中のアルデヒド生成の減少は、その油の改善された酸化安定性を示す。IMC 130は揚げ物に32時間および64時間使用した後に、典型的な市販の一般カノラ油であるIMC 144油に較べ、有意に少ないアルデヒド含有量を示した。

実施例3
実施例5の油ならびに以下の油について、さらに試験を行った。
IMC129-高オレイン酸含量カノラ油
各油の品質の分析結果については、表6を参照されたい。

シャールオーブン試験を改変した試験を用いて促進老化条件下で過酸化物価とp-アニシジン価の増大を測定したところ、実施例5の油が酸化安定性を有することが例証された。試験対象の油(200g)を、4.3cmの開口部を有する500ml入りの蓋なしの褐色瓶にいれ、60℃の対流オーブンに入れた。評価を行う各油ごとに、瓶1本を調製した。結果を、表7および表8に示す。
過酸化物価は、AOCSの公式測定法Cd 8d-90を使用することによって測定した。トリアシルグリセロールの酸化によって生じたヒドロペルオキシドを、過酸化物価によって測定した。過酸化物価は、試料1000g当たりのヒドロペルオキシドのミリ当量(meq/kg)として表した。保存期間中のヒドロペルオキシドの発生量が低減することを、酸化安定性の指標とした。
p-アニシジン価は、AOCSの公式測定法Cd 18-90を使用することによって測定した。トリアシルグリセロールの酸化によって生じたアルデヒドを、p-アニシジン価によって測定した。p-アニシジン価は、溶剤と上記で言及した方法で用いる試薬との100mlの混合物への1.00gの油の溶液の入った1cmのセル中で350nmで測定した光学濃度の100倍であり、吸光度/gとして表した。貯蔵期間中のアルデヒドの発生量が低減することを、油の酸化安定性が改善されたことの指標とした。


実施例4
実施例5の油ならびに以下の油について、さらに酸化安定性についての試験を行った。
銘柄T-市販の高オレイン酸含量ヒマワリ油
銘柄A-市販の一般カノラ油
各油の品質の分析結果については、表9を参照されたい。
表9に記載した各油の酸化安定性を、酸化を促進するシャールオーブン試験を改変した試験を用いて、促進老化条件下で測定した。試験期間中に過酸化物価が増大したことによって、酸化安定性が例証された。シャールオーブン試験では、60℃で酸化を促進させた1日が、周囲保存条件下での1カ月の酸化に相当することが示された。この相関関係を使用すると、老化を促進させた3日が、周囲環境での3カ月の保存に相当することになる。試験対象の油(200g)を、4.3cmの開口部を有する500ml入りの蓋なしの褐色瓶にいれ、60℃の対流オーブンに入れた。評価を行う各油ごとに、瓶1本を調製した。試験は6日間にわたって行い、6カ月の実際の製品保存寿命のシミュレーションを行った。結果を、表10に示す。
過酸化物価は、AOCSの公式測定法Cd 8d-90を使用することによって測定した。トリアシルグリセロールの酸化によって生じたヒドロペルオキシドを、過酸化物価によって測定した。過酸化物価は、試料1000g当たりのヒドロペルオキシドのミリ当量(meq/kg)として表した。保存期間中のヒドロペルオキシド発生量の低減は、酸化安定性の指標となる。シャールオ酸化物の発生は、オレイン酸含量が高くポリ不飽和成分(C_(18:2)+C_(18:3))の含量が低いヒマワリ油である銘柄Tや、典型的な一般カノラ油である銘柄Aより有意に少なかった。


実施例5
IMC130のカノラの種子は、米国北西部の1993年の生育シーズンに実った種子である。収穫したIMC130のカノラ種子は、市販の種子洗浄装置で洗浄し、雑草の種子、カノラの植物体、未成熟なカノラの種などのカノラ種子以外の異物を除去した。
洗浄したIMC130のカノラ種子を、米国モンタナ州カルバートソン、ワンマイル・イーストのSVOスペシャルティー・プロダクツ社(SVO Specialty Products,Inc.,One Mile East,Culbertson,Montana)で粉砕し、得られた油を加工処理した。約361トンのIMC130のカノラ種子を、以下に略述する条件下で粉砕した。
カノラの種子全体を、米国、38118、テネシー州メンフィスのバウアーマイスター社(Bauermeister Inc.,Memphis,Tennessee 38118)から市販されている平滑面ロールを有するダブルロールバウアーマイスター薄片製造用ロール機に通過させた。ロール間の距離を調整して、厚さ0.25-0.30mmのカノラの薄片が生じるようにした。薄片化したカノラの種子を、米国、55440、ミネソタ州ミネアポリスのクラウン・アイアン・ワークス(Crown Iron Works,Minneapolis,Minesota 55440)製の直径8フィートの5段積層釜まで運搬した。薄片化した種子の水分を、積層釜中で5.5-6.0%に調整した。蒸気加熱釜のトレイからの間接的な熱を使用して、種子薄片の温度を徐々に80-90℃まで上昇させ、約20-30分間その温度に保持した。積層釜の機械掃引アームを使用して、種子薄片が確実に均一に加熱されるようにした。薄片に熱を加えることによって酵素を失活させ、細胞の破砕を進行させ、油の液滴が集まり、タンパク質粒子が凝集するようにして、抽出過程を容易にした。
加熱したカノラ薄片を、米国、44015、オハイオ州クリーブランドのアンダーソン・インターナショナル社(Anderson International Corp.,Cleveland Ohio 44105)から入手した、適当なスクリューウォームアセンブリを備えたスクリュープレス機まで運搬し、IMC130のカノラ薄片から約70%の油分を搾出した。得られた圧搾ケーキには、15.0-19.0%の残留油分が含まれていた。
圧搾操作によって精製した粗製油を、頂部に格子状のすのこを有する沈降槽を経由させることにより、スクリュープレスでの圧搾時に油とともに搾出された固形分を除去した。得られた清澄な油を板枠型濾過器に通し、残存している微細な固形カノラ粒子を除去した。濾過した油を、圧搾過程で回収された油と一緒にしてから、油の精製を行った。
スクリュー圧搾操作で生じたカノラの圧搾ケーキを、米国、45356、オハイオ州ピクアのフレンチ・オイル・ミル・アンド・マシナリー社(French Oil Mill and Machinery Co.,Piqua,Ohio 45356)から市販されているFOMMバスケット型抽出装置に移し、この装置で、ケーキ中に残っている油を、55℃の市販のn-ヘキサンを用いて抽出した。圧搾ケーキ中に残存している油を実質的に除去すべく、向流のヘキサンによる洗浄を複数回行ったところ、抽出済みのケーキ中に1.2-2.3重量%の残留油分を含有する圧搾ケーキが得られた。抽出過程で生じた油とヘキサンの混合物(ミセラ)を、2段式膜上昇管型の蒸留カラムに通すことにより、油からヘキサンを留去した。油からのヘキサンの最終的な除去は、ディスクならびにドーナツ型の内部部材を有するストリッピングカラムに、オイルを、23-26インチHgの減圧下で107-115℃にて通過させることによって行った。少量のストリッピング用の蒸気を使用して、ヘキサンの除去を促進した。抽出過程で回収されたカノラ油を、スクリュー圧搾操作で得られた濾過済みの油と一緒にしてブレンド粗製油を調製し、この粗製油を油の加工処理工程に移した。
油の加工処理工程では、85%リン酸としての食品等級のリン酸0.15%を加えたバッチ式の精製槽で、粗製油を66℃に加熱した。酸は、粗製油中に存在している非水和性のホスファチドを水和性の形態に転化し、少量のキレート金属も転化する役目を果たす。ホスファチドと金属塩は、石けん原料とともに除去する。66℃で60分間かきまぜてから、油と酸の混合物を十分な水酸化ナトリウム溶液(12°Be)で処理し、油と酸の混合物中の遊離脂肪酸とリン酸を中和した。混合物を71℃に加熱し、35分間かきまぜた。撹拌を停止し、中和した遊離脂肪酸、ホスファチド等(石けん原料)を、6時間かけて精製槽の円錐型容器の底部に沈降させた。沈降期間の後、中和した油から石けん原料を排出した。
油を82℃に加熱し、12%の熱湯を加えることによって水洗を行い、油の石けん含量を減らした。混合物を10分間撹拌しつづけた。混合物を4時間にわたって静置し、その時点で、精製容器の底部から水を排出した。
水洗した油を、24-26インチHgの減圧下に保持した真空漂白容器中で104-110℃に加熱した。IMC130のカノラ油のスラリーと、米国、10004、イリノイ州アーリントン・ハイツのアメリカン・コロイド社、リファイニング・ケミカル部(American Colloid Company,Refining Chemicals Division,Arlington Heights,Illinois 10004)から入手可能なクラリオン(Clarion)470漂白用クレーとを、真空漂白装置に入った油に加えた。この混合物を20分間かきまぜてから、漂白用クレーを濾別した。クレースラリーの添加量は、油を大気圧で288℃に加熱した場合に、ロビボンド色についてのAOCSの公式測定法Cc136-4が1.0赤単位未満となるように調整した。濾過を行った漂白済みの油に窒素を注入し、油の脱臭を行うまで窒素雰囲気中に保持した。
精製し漂白したIMC130のカノラ油を、半連続式Votatorデオドライザーで、約7,000ポンド/時の速度で脱臭した。脱臭温度は265-268℃に、装置の圧力は0.3-0.5mmHgの絶対圧力に保った。約1-1.5%の蒸気を吹き込んで、遊離脂肪酸、着色成分、臭気成分を放散させた。デオドライザー中の滞留時間は50-70分とした。脱臭済みの油を45-50℃に冷却し、窒素を注入してから減圧状態を解除した。脱臭済みの油は、窒素雰囲気中で保存した。
得られた脱臭済みのIMC130の油を、ガスクロマトグラフィーで、脂肪酸の組成について分析した。脂肪酸のパーセントは、C_(16:0)が3.6%、C_(18:0)が2.2%、C_(18:1)が74.3%、C_(18:2)が11.9%、C_(18:3)が4.8%、そしてポリ不飽和成分の総量が16.7%であった。これらのデータは、表3に示すIMC144、IMC129、および銘柄Aについての値と比較することができる。このデータから、IMC130は、代表的な一般カノラ油であるIMC144ならび銘柄Aと比較して、リノレン酸(C_(18:2))、α-リノレン酸(C_(18:3))、ならびにポリ不飽和脂肪酸の総量が低レベルに保たれていることが例証された。
表11に、上述の方法(1993年の商業的方法)で処理を行ったIMC130の油についてのAOM時間のデータを、市販のカノラ油、IMC129(オレイン酸高含量)、IMC144(代表的な一般カノラ油)、ならびにIMC01(α-リノレン酸低含量)との比較で示す。米国油脂化学会(American Oil Chemists’Society(AOCS))の公式測定法Cd 12-57に脂肪の安定性について記載されている方法、すなわち活性酸素法(Active Oxygen Method、1989年改訂)で、IMC130の油のAOM時間を評価した。酸化安定性の程度を、過酸化物価が100に達するまでに要した時間数で等級づけた。IMC130のAOM時間が長いことは、その油の安定性が高いことを反映している。各油のサンプルは、2通りずつ用意した。


(57)【特許請求の範囲】
1.酸化防止剤無添加状態で35?40AOM時間の酸化安定性を有する、商業的処理を行った非水素化カノラ油。
2.ポリ不飽和脂肪酸含量が7%?17%であり、オレイン酸含量が74%?80%である、請求項1に記載の油。
3.総極性物質の増加百分率が揚げ物に32時間使用した後で約6.7%、64時間使用した後で約17.3%である、請求項1に記載の油。
4.遊離脂肪酸の増加百分率が揚げ物に32時間使用した後で約0.28%、64時間使用した後で約0.73%である、請求項1に記載の油。
5.ロビボンドカラーの増加が揚げ物に32時間使用した後で約2.4赤、64時間使用した後で約6.4赤である、請求項1に記載の油。
6.p-アニシジン価の増加が揚げ物に32時間使用した後で約112吸光度/g、64時間使用した後で約125吸光度/gである、請求項1に記載の油。
7.過酸化物価が15日間の促進老化後に最高で約24.5Meq/Kgまで増加する、請求項1に記載の油。
8.p-アニシジン価が15日間の促進老化後に最高で約6.9吸光度/gまで増加する、請求項1に記載の油。
9.請求項1に記載の油を産生するブラシカ・ナプス(Brassica napus)カノラ変種の種子。
10.請求項9に記載の種子の子孫。
11.アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されて受託番号75446を有する、請求項9に記載の種子。
12.請求項1に記載の種子油を産生するカノラ変種からなるブラシカ・ナプス(Brassica napus)の植物系統。
13.請求項12に記載の系統の植物。
14.リノール酸含量が5%?12%である、請求項1に記載の油。
15.α-リノレン酸含量が2%?5%である、請求項14に記載の油。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-12-03 
結審通知日 2007-12-06 
審決日 2007-12-20 
出願番号 特願平6-524375
審決分類 P 1 113・ 534- ZA (C11C)
P 1 113・ 531- ZA (C11C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 西川 和子
岩瀬 眞紀子
登録日 2004-02-27 
登録番号 特許第3527242号(P3527242)
発明の名称 食用の非水素化カノラ油  
代理人 北原 潤一  
代理人 増井 和夫  
代理人 服部 誠  
代理人 藤田 節  
代理人 大屋 憲一  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 増井 和夫  
代理人 大屋 憲一  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 石井 貞次  
代理人 平木 祐輔  
代理人 石井 貞次  
代理人 平木 祐輔  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 小林 浩  
代理人 藤田 節  
代理人 片山 英二  
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