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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01L |
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管理番号 | 1179595 |
審判番号 | 不服2006-10035 |
総通号数 | 104 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-05-17 |
確定日 | 2008-06-12 |
事件の表示 | 平成11年特許願第224170号「ハブユニットの軸力測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月23日出願公開、特開2001- 50832〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成11年8月6日付の出願であって、平成18年4月11日付(発送日平成18年4月18日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年5月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年6月16日付で手続補正がなされたものである。 第2 平成18年6月16日付手続補正書による補正(以下、「本願補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本願補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 本願補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、補正前の、 「【請求項1】 軸方向一端側に径方向外方へ突出する環状板部を有し、軸方向他端側を自由端とし、その両端部間の外周面に単一軌道を有する軸体を有するハブホイールを、このハブホイールの他端側に外嵌されかつ外周面に単一軌道を有する内輪と、前記両軌道に対向する二列の軌道溝を有する外輪と、前記対向する内外軌道間に転動可能に配設される複数の転動体とを有する転がり軸受に嵌入し、 前記ハブホイールの自由端側をかしめにより径方向外向きに膨出変形させて、この膨出変形したかしめ部を転がり軸受の内輪の軸方向外端面に対して押し付けることによってハブホイールに転がり軸受を抜け止め固定するハブユニットの軸力測定方法であって、 かしめ前の前記軸体の環状板部の軸方向での外面から前記内輪の軸方向での外端面までの長さ寸法である初期組幅寸法と、前記軸体に軸力を付与してかしめた後の前記長さ寸法との偏差である組幅寸法変化量を求め、前記軸力と組幅寸法変化量との相関データを予め作成しておき、かしめ後のハブユニットの組幅寸法変化量を前記相関データに対して照合して軸力を認識することを特徴とするハブユニットの軸力測定方法。」 から、 「【請求項1】 軸方向一端側に径方向外方へ突出する環状板部を有し、軸方向他端側を自由端とし、その両端部間の外周面に単一軌道を有する軸体を有するハブホイールを、このハブホイールの他端側に外嵌されかつ外周面に単一軌道を有する内輪と、前記両軌道に対向する二列の軌道溝を有する外輪と、前記対向する内外軌道間に転動可能に配設される複数の転動体とを有する転がり軸受に嵌入し、 前記ハブホイールの自由端側をかしめにより径方向外向きに膨出変形させて、この膨出変形したかしめ部を転がり軸受の内輪の軸方向外端面に対して押し付けることによってハブホイールに転がり軸受を抜け止め固定するハブユニットの軸力測定方法であって、 かしめ前の前記軸体の環状板部の軸方向外面から前記内輪の軸方向外端面までの長さ寸法である初期組幅寸法を直接測定し、前記軸体に軸力を付与してかしめた後の前記長さ寸法を直接測定し、これらの偏差である組幅寸法変化量を求め、前記軸力と組幅寸法変化量との相関データを予め作成しておき、かしめ後のハブユニットの組幅寸法変化量を前記相関データと照合して軸力を認識することを特徴とするハブユニットの軸力測定方法。」 と補正する補正事項を含むものである。(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。) 2.補正の適否 上記の補正内容は、請求項1に係る発明特定事項である「組幅寸法変化量を求め」る際に、「かしめ前の前記軸体の環状板部の軸方向での外面から前記内輪の軸方向での外端面までの長さ寸法である初期組幅寸法」、及び、「かしめた後の前記長さ寸法」について、「直接測定」するとの限定を付加したものである。 したがって、上記補正事項は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本願補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3.刊行物記載の発明・事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-44319号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに下記の事項が記載されている。 ア 「【0009】 【発明の実施の形態】本発明の軸受の予圧付与装置の実施の形態について説明する。 【0010】[第1の実施形態]図1は組合せ軸受の構造を示す図である。自動車用ホイール軸受として用いられる組合せ軸受10は、内周に複列の転走面11a、11bが形成された外輪11、外輪11の転走面11bに対向する転走面12aが外周に形成された第1内輪12、外輪11の転走面11aに対向する転走面13aが外周に形成され、かつ第1内輪12が圧入される圧入部13cを連設したホイール軸として一体に形成された第2内輪13、外輪11と第1内輪12および第2内輪13との間に設けられたボール14a、14bが組み合わされた構造を有する。 【0011】第2内輪13の軸端部13eには凹部13fが形成されており、後述する揺動型加締め装置21のかしめ型26aと対向している。また、外輪11および第2内輪13には、それぞれフランジ部11cおよびフランジ部13dが形成されている。 【0012】図2は揺動型加締め装置のワーク保持台に組合せ軸受が固定された状態を示す断面図である。揺動型加締め装置21は、フランジ部13dをボルト18で締め付けることにより組合せ軸受10を固定するワーク保持台23、ワーク保持台23に立設する部材24に取り付けられ、回転時に組合せ軸受10の振れ止めを行う振れ止め板25、かしめ型26aが取り付けられた押圧部26を有する。 【0013】このような揺動型加締め装置21では、押圧部26は組合せ軸受10の軸に対し僅かな傾きθを持って取り付けられており、揺動回転しながら軸端部13eに接近して凹部13fに収納されるかしめ型26aによって軸端部13eを内側から押圧する。 【0014】かしめ型26aによって押圧された軸端部13eは、第1内輪12によって外径側から拘束を受けた状態でかしめ型26aの形状を凹部13fの空間に充満させる形で徐々に変形する。軸端部13eの変形によって第1内輪12は軸方向に押し込まれて締め付けられる。これにより、第1内輪12の転走面12aと第2内輪13の転走面13aとが接近するので、外輪11と転動体14a、14bとの間に隙間がなくなり、第1、第2内輪12、13および外輪11間に介在する転動体14a、14b間に予圧が発生する。予圧量が予め設定された所定値に達すると、揺動型加締め装置21を後退させて加締め加工を終了する。図2では、加締め加工が終了した状態が示されている。」(段落【0009】?【0014】) イ 「【0016】予圧モニタ装置30では、モータ34を駆動し、歯車33、32を介して外輪11を回転させ、外輪11の回転トルクをトルク検出器35で検出し、検出された回転トルクに基づいて予圧を測定し、測定された予圧が予め設定された所定値、つまり組合せ軸受10に適した予圧に達した場合、揺動型加締め装置21を後退させる。 【0017】そして、揺動型加締め装置21による加締め加工を終了した後も回転トルクを監視して予圧量が適正であることを確認する。 【0018】図4は加締め加工時間tに対する揺動型加締め装置21の加締め型26aの位置および回転トルクTの変化を示すグラフである。揺動型加締め装置21の加締め型26aの位置Aを徐々に降下させて加締め加工を開始すると、ある時点t0から組合せ軸受10に予圧が加わり回転トルクTが変動し始める。その変動幅が予め設定された所定幅Δにまで達すると(時点t1)、組合せ軸受10に適した予圧が加わったと判断して加締め加工を終了する。これにより、加締め型26aの位置Aを原点に復帰させる。」(段落【0016】?【0018】) ウ 図面の図1には、第2内輪13の軸方向一端側に径方向外方へ突出するフランジ部13dが形成されている構成、第2内輪13のフランジ部13dと軸端部13eの間は軸形状であり、当該軸形状部分の外周面に転走面12aが形成されている構成、及び、第2内輪13のフランジ部13dを有する側とは反対側の軸方向他端側には圧入部13cが設けられている構成が記載されている。 上記摘記事項アないしウからみて、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 <刊行物1記載の発明> 「軸方向一端側に径方向外方へ突出するフランジ部13dを有し、フランジ部13dと軸端部13eの間の軸形状部分の外周面に転走面13aが形成された第2内輪13と、この第2内輪13の他端側の圧入部13cに圧入され、外周には転走面12aが形成された第1内輪12と、これら転走面13a、転走面12aに対向する転走面11a、11bが外周に形成された外輪11と、対向する転走面11aと転走面13a、11bと転走面12aの間に設けられたボール14a、14bとを有し、 第2内輪13の軸端部13eを揺動型加締め装置21を用いてかしめ型26aによって内側から押圧して変形させ、この軸端部13eの変形によって第1内輪12は軸方向に押し込まれて締め付けられることによって、第1、第2内輪12、13および外輪11間に介在する転動体14a、14b間に予圧が発生する組合せ軸受10の予圧を測定する方法であって、 かしめ型26aによる加締め加工を行いながら外輪11の回転トルクをトルク検出器35で検出し、加締め加工を開始すると、ある時点から組合せ軸受10に予圧が加わり回転トルクTが変動し始め、その変動幅が予め設定された所定幅Δにまで達すると、組合せ軸受10に適した予圧が加わったと判断する組合せ軸受10の予圧を測定する方法。」 (2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-185717号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに下記の事項が記載されている。 エ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、転動体が軸方向に複数列設けられた複列転がり軸受において、付与された予圧を測定する方法に関する。」(段落【0001】) オ 「【0011】 【発明の実施の形態】図1は、本発明の第1の実施形態による複列転がり軸受の予圧測定方法に基づいて、ハブユニット1の予圧隙間を測定する手順を示す断面図である。本実施形態においては、付与された予圧と予圧隙間との一定の関係に基づいて、予圧隙間を測定することにより等価的に予圧を測定する。ここで、予圧隙間とは、予圧が付与されていない状態から予圧が付与された状態に転じたとき、軸受の転動体及びこれに関連した各部材の弾性変形により形成される負の「隙間」をいう。また、予圧が付与されていない状態を正隙間の状態という。図1において、ハブユニット1は図5に示す構成と同一であるので、前述の従来の技術における図5に関する説明を適用して、ここでは説明を省略する。以下、ハブユニット1について、予圧隙間を測定する手順について説明する。 【0012】まず、図1の(a)において、内輪5を仮組みした状態(正隙間の状態となるように内輪5をハブ3の円柱部3bに浅く圧入し、ナット6も緊締していない状態)で、外側転動体4e及び外輪2に予圧をかけない程度の軸方向外側(図1における下方)への荷重Fを、外輪2のフランジ部2aにかける。そして、このときの外輪2のフランジ部2aの軸方向内側(図1における上方)の面2a1とハブ3のフランジ部3dの軸方向外側の面3d1との距離Aを測定する。 【0013】次に、(b)に示すように、内側転動体4i及び内輪5に予圧をかけない程度の軸方向内側への荷重Fを、外輪2のフランジ部2aにかける。そして、このときの外輪2のフランジ部2aの軸方向内側の面2a1と内輪5の内側端面5aとの距離Bを測定する。 【0014】次に、(c)に示すように、ナット6を緊締して内輪5をハブ3の円柱部3bに完全に外嵌し且つ圧入した状態、すなわち所定の予圧が付与された状態で、外輪2のフランジ部2aの軸方向内側の面2a1とハブ3のフランジ部3dの軸方向外側の面3d1との距離A’、並びに、外輪2のフランジ部2aの軸方向内側の面2a1と内輪5の内側端面5aとの距離B’を測定する。 【0015】・・・ 【0016】上記のようにして求めた距離A、A’、B及びB’から予圧隙間dは、 d=(A-A’)+(B-B’) ・・・(1) として得ることができる。すなわち、外側転動体4e及び内側転動体4iの各列についての予圧隙間(A-A’)及び(B-B’)を合計することにより、軸受全体の予圧隙間dが求められる。」(段落【0011】?【0016】) カ 「【0023】上記のような予圧隙間測定方法は、エンジンからの駆動軸が取り付けられる駆動輪用のハブユニットにも適用できる。図3は駆動輪用のハブユニットを示す断面図である。図3において、ハブ32の中心部には、内周面にスプライン33が形成されたスプライン孔32aが形成されている。図示しないエンジンからの駆動力を伝える駆動軸が、このスプライン孔32aに嵌合される。このようなハブユニットの場合、予圧隙間dは第1の実施形態の場合と同様にして求めることができる。図3に示すように、外輪2の軸方向内側の一端面2bとハブ32のフランジ部32dの軸方向外側の一端面32d1との間で、内輪5の圧入前及び圧入後の距離J及びJ’を測定し、かつ、外輪2の軸方向内側の一端面2bと内輪5の内側端面5aとの間で、内輪5の圧入前及び圧入後の距離K及びK’を測定する。そして、 d=(J-J’)+(K’-K) ・・・(3) の式によって予圧隙間dを求めることが可能である。」(段落【0023】) 4.対比 本願補正発明1(前者)と刊行物1記載の発明(後者)とを対比する。 ・後者の「フランジ部13d」、「第2内輪13」、「第1内輪12」、「転走面11a、11bが外周に形成された外輪11」、「ボール14a、14b」、「第2内輪13の軸端部13e」、「組合せ軸受10の予圧」は、それぞれ、前者の「環状板部」、「ハブホイール」、「内輪」、「二列の軌道溝を有する外輪」、「複数の転動体」、「ハブホイールの自由端」、「ハブユニットの軸力」に相当する。 ・後者の「フランジ部13dと軸端部13eの間の軸形状部分の外周面に転走面13aが形成された第2内輪13」は、前者の「両端部間の外周面に単一軌道を有する軸体を有するハブホイール」に相当する。 ・後者の「第2内輪13の他端側の圧入部13cに圧入され、外周には転走面12aが形成された第1内輪12」は、前者の「ハブホイールの他端側に外嵌されかつ外周面に単一軌道を有する内輪」に相当する。 ・後者において、「第2内輪13の他端側の圧入部13cに」「第1内輪12」を「圧入」し、これら第2内輪13、第1内輪12、及び、外輪11、ボール14a、14bにより組合せ軸受10を構成することは、前者において、「ハブホイールを、」内輪と外輪と複数の転動体とを有する「転がり軸受に嵌入」することに相当する。 ・後者において、「第2内輪13の軸端部13eを揺動型加締め装置21を用いてかしめ型26aによって内側から押圧して変形させ、この軸端部13eの変形によって第1内輪12は軸方向に押し込まれて締め付けられる」ことは、前者において、「ハブホイールの自由端側をかしめにより径方向外向きに膨出変形させて、この膨出変形したかしめ部を転がり軸受の内輪の軸方向外端面に対して押し付ける」ことに相当する。また、後者において、「軸端部13eの変形によって第1内輪12は軸方向に押し込まれて締め付けられることによって、第1、第2内輪12、13および外輪11間に介在する転動体14a、14b間に予圧が発生する」ことは、前者において、「ハブホイールに転がり軸受を抜け止め固定する」ことに相当する。 ・後者において「組合せ軸受10の予圧を測定」するのに「回転トルクを検出」することと、前者において「ハブユニットの軸力測定」をするのに、かしめ前及びかしめた後の「組幅寸法を直接測定」することとは、「ハブユニットの軸力測定」をするのに「軸力に関連する物理量を測定」する限りで一致する。 ・後者において「ある時点から予圧が加わり回転トルクTが変動し始め、その変動幅が予め設定された所定幅Δにまで達すると、組合せ軸受10に適した予圧が加わったと判断する」ことは、回転トルクの値と軸受の予圧とが相関関係を有することに基づいて予圧の判断を行っていることを意味するものである。また、上記の回転トルクの「変動幅」は、予圧が加わる前後における回転トルク値の変化量となることは明らかである。 そうすると、後者において「ある時点から予圧が加わり回転トルクTが変動し始め、その変動幅が予め設定された所定幅Δにまで達すると、組合せ軸受10に適した予圧が加わったと判断する」ことと、前者において「前記軸力と組幅寸法変化量との相関データを予め作成しておき、かしめ後のハブユニットの組幅寸法変化量を前記相関データと照合して軸力を認識する」こととは、「軸力と、軸力に関連する物理量の軸力が加わる前後における変化量との相関関係に基づいて、前記変化量から軸力を認識する」限りで一致する。 以上のことからみて、両者は次の一致点、及び、相違点1ないし2を有している。 <一致点> 「軸方向一端側に環状板部を有し、軸方向他端側を自由端とし、その両端部間の外周面に単一軌道を有する軸体を有するハブホイールを、このハブホイールの他端側に外嵌されかつ外周面に単一軌道を有する内輪と、前記両軌道に対向する二列の軌道溝を有する外輪と、前記対向する内外軌道間に転動可能に配設される複数の転動体とを有する転がり軸受に嵌入し、 前記ハブホイールの自由端側をかしめにより径方向外向きに膨出変形させて、この膨出変形したかしめ部を転がり軸受の内輪の軸方向外端面に対して押し付けることによってハブホイールに転がり軸受を抜け止め固定するハブユニットの軸力測定方法であって、 軸力に関連する物理量を測定し、軸力と、軸力に関連する物理量の軸力が加わる前後における変化量との相関関係に基づいて、前記変化量から軸力を認識するハブユニットの軸力測定方法。」 <相違点1> 本願補正発明1においては、ハブユニットの軸力に関連する物理量として、かしめ前の前記軸体の環状板部の軸方向外面から前記内輪の軸方向外端面までの長さ寸法である「初期組幅寸法」を「直接測定」し、前記軸体に軸力を付与して「かしめた後の前記長さ寸法を直接測定」し、これらの偏差である「組幅寸法変化量」を求め、この「組幅寸法変化量」によって軸力を認識しているのに対し、刊行物1記載の発明においては、当該物理量として、「回転トルク」を測定しており、また、予圧が加わる前の時点で「回転トルク」を測定しているか否か不明である点。 <相違点2> 本願補正発明1においては、軸力を認識するのに、軸力と組幅寸法変化量との「相関データを予め作成」しておき、かしめ後のハブユニットの組幅寸法変化量を「前記相関データと照合して軸力を認識する」のに対し、刊行物1記載の発明においては、組合せ軸受10に適した予圧の判断を、予圧と軸力に関連する物理量との相関関係についての相関データを予め作成しておき、相関データと照合して行うか否かについて明らかでない点。 5.判断 上記各相違点1ないし2について検討する。 <相違点1について> 上記刊行物2には、 「ハブユニットの予圧を測定するに際し、予圧をかけない状態での外輪2のフランジ部2aの軸方向内側(図1における上方)の面2a1とハブ3のフランジ部3dの軸方向外側の面3d1との距離A、外輪2のフランジ部2aの軸方向内側の面2a1と内輪5の内側端面5aとの距離Bを測定し、次に、予圧が付与された状態で、外輪2のフランジ部2aの軸方向内側の面2a1とハブ3のフランジ部3dの軸方向外側の面3d1との距離A’、並びに、外輪2のフランジ部2aの軸方向内側の面2a1と内輪5の内側端面5aとの距離B’を測定する。」こと、 及び、 「予圧と予圧隙間との一定の関係に基づく予圧隙間dは、 d=(A-A’)+(B-B’) ・・・(1) として得ることができる。」ことが記載されている(上記「3.刊行物記載の発明・事項(2)」の【0012】?【0014】、【0016】を参照)。 ここで、上記予圧隙間dについての式(1)は、 d=(A+B)-(A’+B’) と変形できることからわかるように、当該予圧隙間dを得ることは、予圧をかけない状態とかけた状態とにおける、ハブ3のフランジ部3dの軸方向外側の面3d1から内輪5の内側端面5aまでの長さ寸法の変化量を求めていることに他ならない。そして、当該「ハブ3のフランジ部3dの軸方向外側の面3d1から内輪5の内側端面5aまでの長さ寸法」は、本願補正発明1における「軸体の環状板部の軸方向外面から前記内輪の軸方向外端面までの長さ寸法」に相当する。 また、上記刊行物2において、距離Aの測定は、「外側転動体4e及び外輪2に予圧をかけない程度の軸方向外側(図1における下方)への荷重Fを、外輪2のフランジ部2aにかける。」状態で行い、距離Bの測定は、「内側転動体4i及び内輪5に予圧をかけない程度の軸方向内側への荷重Fを、外輪2のフランジ部2aにかける。」状態で行っており(同【0012】?【0013】を参照)、距離A+Bについては「直接測定」していないのであるが、これは、荷重がかかっていない場合の外輪2とハブ3との間、外輪2と内輪5との間の軸方向ガタによる測定誤差を避けるためと考えられ、このガタをなくす程度で、予圧をかけない程度の荷重がナット6によって付与されるのであれば、距離A+Bを「直接測定」してもよいことは当業者であれば容易に予測し得るところである。 更に、上記の刊行物2に記載の事項によれば、ハブユニットの予圧の測定は、予圧をかけない状態での距離A、Bの測定と、予圧が付与された状態での距離A’、B’の測定との差を求めることによって行われていることは明らかである。 そして、同刊行物2の【0023】には、その図1に示すようなナット6によって予圧を付与する軸受における予圧隙間測定方法は、図3に示すようなナット6を用いることなく転がり軸受を抜け止め固定する構造のハブユニットにも適用できることが記載されていることからすれば、同刊行物2に記載の予圧隙間測定方法を、ナットを用いることなく、かしめによってハブホイールに転がり軸受を抜け止め固定する軸受に適用することを阻害する特段の要因もない。 してみれば、刊行物1記載の発明に対し、刊行物2記載の事項を適用して上記相違点1に係る特定事項を得ることは当業者が容易に成し得たものである。 <相違点2について> 刊行物1記載の発明において、組合せ軸受10に適した予圧が加わったとの判断は、検出された回転トルクが「加締め加工を開始すると、ある時点から組合せ軸受10に予圧が加わり回転トルクTが変動し始め、その変動幅が予め設定された所定幅Δにまで達する」ことで行っているのである。このことは、組合せ軸受10に適した予圧となったことを判断するための変動幅の所定値「所定幅Δ」が、回転トルクの検出に先立って予めデータとして準備されており、この「所定幅Δ」と測定値とを照合していることを意味していることは明らかである。そして、上記のごとき、測定値と予め準備されたデータとの照合により被測定物の物理量が所定のものとなったことの判断を行う技術は、測定する物理量に関係することなく適用できるものであることは当業者であれば充分に予測し得るものである。 してみれば、上記技術事項に基づき、刊行物1に記載の発明において、相関関係についての相関データを予め作成しておき、相関データと照合して行うよう構成することは当業者が容易に成し得たものである。 <本願補正発明1の作用効果について> そして、本願補正発明1の作用効果は、刊行物1に記載の発明及び刊行物2に記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものではない。 したがって、本願補正発明1は刊行物1に記載の発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 6.むすび 以上のとおり、本願補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1.本願発明 平成18年6月16日付手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、願書に最初に添付された明細書及び平成18年2月13日付手続補正書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。 <本願発明1> 「【請求項1】 軸方向一端側に径方向外方へ突出する環状板部を有し、軸方向他端側を自由端とし、その両端部間の外周面に単一軌道を有する軸体を有するハブホイールを、このハブホイールの他端側に外嵌されかつ外周面に単一軌道を有する内輪と、前記両軌道に対向する二列の軌道溝を有する外輪と、前記対向する内外軌道間に転動可能に配設される複数の転動体とを有する転がり軸受に嵌入し、 前記ハブホイールの自由端側をかしめにより径方向外向きに膨出変形させて、この膨出変形したかしめ部を転がり軸受の内輪の軸方向外端面に対して押し付けることによってハブホイールに転がり軸受を抜け止め固定するハブユニットの軸力測定方法であって、 かしめ前の前記軸体の環状板部の軸方向での外面から前記内輪の軸方向での外端面までの長さ寸法である初期組幅寸法と、前記軸体に軸力を付与してかしめた後の前記長さ寸法との偏差である組幅寸法変化量を求め、前記軸力と組幅寸法変化量との相関データを予め作成しておき、かしめ後のハブユニットの組幅寸法変化量を前記相関データに対して照合して軸力を認識することを特徴とするハブユニットの軸力測定方法。」 2.刊行物記載の発明・事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び同刊行物に記載された発明・事項は、前記「第2 3.刊行物記載の発明・事項」の(1)ないし(2)に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明1は、本願補正発明1の発明特定事項から、その発明特定事項である「組幅寸法変化量を求め」る際に、「かしめ前の前記軸体の環状板部の軸方向での外面から前記内輪の軸方向での外端面までの長さ寸法である初期組幅寸法」、及び、「かしめた後の前記長さ寸法」について、「直接測定」するとの限定を省いたものである。 そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明1が前記「第2 5.判断」に記載したとおり、前記刊行物1に記載の発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明1も同様の理由により、刊行物1に記載の発明及び刊行物2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2ないし3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-04-11 |
結審通知日 | 2008-04-15 |
審決日 | 2008-04-30 |
出願番号 | 特願平11-224170 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G01L)
P 1 8・ 121- Z (G01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松浦 久夫 |
特許庁審判長 |
杉野 裕幸 |
特許庁審判官 |
上原 徹 堀部 修平 |
発明の名称 | ハブユニットの軸力測定方法 |
代理人 | 岡田 和秀 |