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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1179952
審判番号 不服2005-12284  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-30 
確定日 2008-06-19 
事件の表示 特願2004-140098「電子機器用貼付シート材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-336061〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年5月19日に出願した特願2000-148821号の一部を、平成13年5月11日に新たな特許出願とした特願2001-142290号について、その一部を、さらに平成16年5月10日に新たな特許出願としたものであって、平成17年1月13日付で手続補正がされた後、同年5月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月30日付けで審判請求がされるとともに、同年7月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年7月26日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成17年7月26日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、
「情報表示記号が付された操作ボタンが筐体表面に配設された電子機器に貼り付けられる電子機器用貼付シート材の製造方法であって、樹脂材よりなるシート材本体の裏面に接着層が予め一体化された市販のマーキングフィルムの表面に、前記操作ボタンに付された前記記号が外部から視認可能な程度の透過性を有するインクによる模様を塗布して柄層を形成し、この柄層の表面に透明又は着色透明のコート層を施すことを特徴とする電子機器用貼付シート材の製造方法。」とあるのを、
「情報表示記号が付された操作ボタンが筐体表面に配設された電子機器に貼り付けられる電子機器用貼付シート材の製造方法であって、樹脂材よりなるシート材本体の裏面に接着層が予め一体化された袋状ではない一枚物のシート状を呈する市販のマーキングフィルムの表面に、前記操作ボタンに付された前記記号が外部から視認可能な程度の透過性を有するインクによる模様を塗布して柄層を形成し、この柄層の表面に透明又は着色透明のコート層を施すことを特徴とする電子機器用貼付シート材の製造方法。」とする補正事項を有するものである。

(2)判断
本件補正は、補正前の請求項1に記載の「市販のマーキングフィルム」について、「袋状ではない一枚物のシート状を呈する」との特定を付加するものであるが、この「一枚物」とは具体的にどのようなものか不明である。すなわち、この「一枚物」は、貼り付けられる電子機器の部分毎にマーキングフィルムが分離されていないという意味にも、積層体からなるマーキングフィルムの一部が厚さ方向に剥離除去されることはないという意味にも解釈できる。
そうすると、本件補正は、「市販のマーキングフィルム」について、不明瞭な特定を付加したものといえるから、本件補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当しないし、請求項の削除、誤記の訂正、又は、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものに該当しないことも、明らかである。

(3)まとめ
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成17年7月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されるので、本願発明は、平成17年1月13日付けで手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「情報表示記号が付された操作ボタンが筐体表面に配設された電子機器に貼り付けられる電子機器用貼付シート材の製造方法であって、樹脂材よりなるシート材本体の裏面に接着層が予め一体化された市販のマーキングフィルムの表面に、前記操作ボタンに付された前記記号が外部から視認可能な程度の透過性を有するインクによる模様を塗布して柄層を形成し、この柄層の表面に透明又は着色透明のコート層を施すことを特徴とする電子機器用貼付シート材の製造方法。」(以下、「本願発明1」という。)

4.原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、次のとおりのものである。
「本件出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2000-138738号公報
刊行物2:特開平11-43173号公報
刊行物3:実願昭61-105812号(実開昭63-11595号)のマイクロフィルム」

5.引用刊行物とその記載事項
刊行物1である特開2000-138738号公報には、次の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】 携帯可能なケーシングに、液晶表示部と、ケーシングの操作パネル部に配設した複数のプッシュボタンとを備え、該ボタンは、操作パネル部の表面とほぼ面一に設けられている携帯電子機器の表面装飾材であって、
内部に前記携帯電子機器を収容可能な袋状を呈する可撓性のフィルムを有し、該袋状フィルムは、加熱により熱収縮して前記ケーシング表面に密着させ得る熱収縮性プラスチックからなるとともに、少なくとも一方向側に携帯電子機器を収容するための開口部が設けられ、熱収縮してケーシングに密着される所望の部分に図柄が施されていることを特徴とする携帯電子機器の表面装飾材。」(特許請求の範囲の請求項1)

(b)「【0009】かかる本発明の表面装飾材によれば、袋状フィルムを携帯電子機器の周囲を覆うように被せて、ドライヤーなどで加熱することにより、熱収縮してケーシング表面に密着され、所望の部位に施された図柄によりケーシングを装飾し得る。かかる図柄は、ケーシングに密着されるフィルムに施されているので、シールや塗装の場合に比して落ちにくく、剥がれにくい。好ましくは、図柄は、フィルムを構成する樹脂に着色剤を混入することにより形成するか、若しくは、フィルムの内面側(裏面側)に転写若しくは印刷しておくことにより、より一層図柄の擦れを防止し得る。また、フィルムの光沢により全体的に高級感を醸し出すことも可能である。」

(c)「【0010】さらに、可撓性フィルムによりケーシングを覆うものであるから、操作パネル部に配設されたプッシュボタンの操作性を大きく阻害することがない。なお、液晶表示部をもフィルムで覆う場合は、少なくとも液晶表示部を覆う部分は透明乃至半透明として、表示される情報を視認できなくなることなく、ケーシング全体を覆うことができるようにする。」

(d)「【0023】本実施形態の表面装飾材2は、内部に上記携帯電話機1を収容可能な縦長の袋状を呈する可撓性のフィルム11から成る。この袋状フィルム11は、図2に示すように、下部側に携帯電話機1を収容するための開口部12が設けられ、所望の部分に適宜の手段によって図柄が施されたものである。なお、フィルム11の少なくとも液晶表示部4を覆う部分は透明乃至半透明としておく。また、好ましくは、ボタン6を覆う部分も透明乃至半透明としておくのが良い。また、袋状フィルム11の上下方向長さは、殆どの機種に対応し得るように、ケーシング3の上下方向長さよりも十分に大きくしておくことが好ましい。」

6.当審の判断
(1)引用発明
刊行物1の(a)には、「携帯可能なケーシングに、液晶表示部と、ケーシングの操作パネル部に配設した複数のプッシュボタンとを備え、該ボタンは、操作パネル部の表面とほぼ面一に設けられている携帯電子機器の表面装飾材であって、内部に前記携帯電子機器を収容可能な袋状を呈する可撓性のフィルムを有し、該袋状フィルムは、加熱により熱収縮して前記ケーシング表面に密着させ得る熱収縮性プラスチックからなるとともに、少なくとも一方向側に携帯電子機器を収容するための開口部が設けられ、熱収縮してケーシングに密着される所望の部分に図柄が施されていることを特徴とする携帯電子機器の表面装飾材。」が記載されており、この記載によれば、『液晶表示部と、操作パネル部に配設した複数のプッシュボタンを備えるケーシングを有する携帯電子機器の表面装飾材』について、この表面装飾材は、『熱収縮性プラスチックからなる袋状フィルム』を本体とするものであって、『加熱により熱収縮してケーシングに密着し、密着される所望の部分に図柄が施されている』ことが記載されているといえる。
そして、上記図柄に関して、(b)の「好ましくは、図柄は、フィルムを構成する樹脂に着色剤を混入することにより形成するか、若しくは、フィルムの内面側(裏面側)に転写若しくは印刷しておくことにより、より一層図柄の擦れを防止し得る」の記載によれば、この袋状フィルムに施される図柄は、樹脂に着色剤を混入することにより、フィルムの内部に施されているか、フィルムの内面側(裏側)に転写若しくは印刷されるものである。
また、この表面装飾材の実施形態について、(d)には「この袋状フィルム11は、・・・所望の部分に適宜の手段によって図柄が施されたものである。・・・好ましくは、ボタン6を覆う部分も透明乃至半透明としておくのが良い。」と記載されており、(c)の「液晶表示部をもフィルムで覆う場合は、少なくとも液晶表示部を覆う部分は透明乃至半透明として、表示される情報を視認できなくなることなく、ケーシング全体を覆うことができるようにする。」という記載を併せ読むと、前記ボタンを覆う部分を透明乃至半透明とするのは、この部分を、該ボタンに付された情報表示記号が視認可能な程度の透過性を有するものにするためであるのは明らかであるから、この表面装飾材は、『袋状フィルムの情報表示記号が付されたプッシュボタンを覆う部分に、該記号が外部から視認可能な程度の透過性を有する透明乃至半透明の図柄を施す工程』によって製造されるものといえる。

上記記載及び認定事項を本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。
『液晶表示部と、ケーシングの操作パネル部に配設され、情報表示記号が付された複数のプッシュボタンとを備える携帯電子機器に密着される携帯電子機器用の熱収縮性の表面装飾材の製造方法であって、加熱により熱収縮して前記ケーシング表面に密着させ得る熱収縮性プラスチックからなる袋状フィルムの内部又は内面側(裏面側)に、前記ボタンを覆う部分に前記記号が外部から視認可能な程度の透過性を有する透明乃至半透明の図柄を施す携帯電子機器用表面装飾材の製造方法。』(以下、「引用発明」という。)

(2)本願発明1と引用発明の対比
本願発明1と引用発明を対比してみると、まず、引用発明の『プッシュボタン』、『ケーシング』、『携帯電子機器』及び『図柄』はそれぞれ、本願発明1の「操作ボタン」、「筐体」、「電子機器」及び「模様」に相当する。
そして、引用発明の『表面装飾材』は、『熱収縮性プラスチックからなる袋状フィルム』、すなわち『樹脂材よりなる袋状のシート材本体』を用いて携帯電子機器のケーシング表面に熱収縮により密着されるものであり、一方、本願発明1の「貼付シート材」は、「樹脂材よりなるシート材本体の裏面に接着層が予め一体化された市販のマーキングフィルム」を用いて電子機器に貼り付けられるものであって、この貼り付けによって「貼付シート材」は電子機器に密着することは明らかであるから、両者は、「電子機器に密着される樹脂材よりなるシート材本体を有する電子機器用シート材の製造方法」である点で一致するといえる。
そして、引用発明の「ケーシングの操作パネル部に配設され、情報表示記号が付された複数のプッシュボタン」は、ケーシングの操作パネル部表面がケーシング表面といえるから、本願発明1と引用発明は、「操作ボタンが筐体表面に配設された」点でも一致しているといえる。

そうすると、本願発明1と引用発明は、「情報表示記号が付された操作ボタンが筐体表面に配設された電子機器に密着される電子機器用シート材の製造方法であって、樹脂材よりなるシート材本体に、前記操作ボタンに付された前記記号が外部から視認可能な程度の透過性を有する模様を形成する電子機器用シート材の製造方法」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点イ:本願発明1は、貼付用シート材の製造方法であって、シート材本体の裏面に接着層が予め一体化された市販のマーキングフィルムの表面に、インクによる模様を塗布して柄層を形成するのに対して、引用発明は、熱収縮性のシート材の製造方法であって、加熱により熱収縮してケーシング表面に密着させ得る袋状フィルムの内部又は内面側(裏面側)に図柄を施す点。

相違点ロ:本願発明1では、柄層の表面に透明又は着色透明のコート層を施すのに対して、引用発明では、図柄の表面にコート層を施さない点。

(3)相違点についての判断
そこで、上記相違点イ及びロについて検討する。

(3-1)相違点イについて
携帯電話等の電子機器の表面を装飾するためのシート材の製造において、表面に印刷や転写等の手法により表面に模様を施すことにより、すなわちインクによる模様を塗布することによりシート本体の表面に柄層を形成し、裏面に接着層を設けて貼付用シート材を製造することは、登録実用新案第3058428号公報の【0007】、登録実用新案第3061052号公報の【0012】に記載されるように、本願出願前に周知の事項であり、一方、装飾用のシート材として、「裏面に接着材が予め一体化された樹脂材からなる市販のマーキングフィルム」も、本願出願前周知の事項である。
そして、引用発明も、携帯電子機器の表面装飾用のシート材の製造方法に関するものであるから、引用発明における熱収縮性の袋状フィルムの内部又は内面側に図柄を施す熱収縮性のシート材の製造に代えて、上記周知の、裏面に接着剤が予め一体化された市販のマーキングフィルムの表面に、インクによる模様を塗布して柄層を形成して貼付シートを製造することは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

(3-2)相違点ロについて
引用発明において、袋状フィルムの内部又は内面側(裏面側)に図柄を施すのは、刊行物1の(b)によれば、「図柄の擦れを防止」するためである。
そして、相違点イの検討により、図柄を有する熱収縮性の袋状フィルムを、表面に柄層が施された市販のマーキングフィルムに置き換えることは想到容易であって、その置き換えにより、図柄はシート材本体の表面に形成される柄層となり、この場合に、柄層を擦れから保護する必要が生じることは刊行物1の(b)に示唆されているといえるところ、装飾材の表面の柄層を保護する技術として、柄層の上に透明なコート層を施すことも、特開平3-62874号公報の第5頁左下欄8?14行に記載されるように、本願出願前に周知・慣用の事項である。
そうすると、引用発明において、熱収縮性のシート材を貼付シート材に置き換える際に、上記貼付シート材の柄層を保護するための透明コート層を、柄層の表面に施すことは、上記周知・慣用の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

(4)小括
したがって、上記相違点イ及びロは、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。

7.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-15 
結審通知日 2008-04-22 
審決日 2008-05-07 
出願番号 特願2004-140098(P2004-140098)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 成就  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山田 靖
近野 光知
発明の名称 電子機器用貼付シート材の製造方法  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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