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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1179993
審判番号 不服2006-10963  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-29 
確定日 2008-06-19 
事件の表示 特願2002-326825「耐熱性マグネシウム合金製鋳物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日出願公開、特開2004-162090〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月11日の出願であって、平成18年4月7日付けで手続補正がされたが、同年4月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月29日に審判が請求されるとともに同年6月22日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成18年6月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成18年6月22日付けの手続補正を却下する。

【決定の理由】
[1]手続補正の内容
本件手続補正の内容は、特許請求の範囲を次の(1)から(2)にする補正事項を含むものである。
(1)「【請求項1】全体を100質量%としたときに、
アルミニウム(Al)を1?6質量%と、
カルシウム(Ca)をAlに対する質量比(Ca/Al)で1?3となる量と、
マンガン(Mn)を0.2?1質量%含み、
残部がマグネシウム(Mg)と不可避不純物とからなる耐熱性マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に流し込んで凝固させたことを特徴とする耐熱マグネシウム合金製鋳物。
【請求項2】前記金型に流し込んだ溶湯を大気雰囲気中で凝固させた請求項1に記載の耐熱マグネシウム合金製鋳物。
【請求項3】全体を100質量%としたときに、
アルミニウム(Al)を1?6質量%と、
カルシウム(Ca)をAlに対する質量比(Ca/Al)で1?3となる量と、
マンガン(Mn)を0.2?1質量%含み、
残部がマグネシウム(Mg)と不可避不純物とからなる耐熱性マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に流し込み凝固させて耐熱マグネシウム合金製鋳物を得ることを特徴とする耐熱マグネシウム合金製鋳物の製造方法。
【請求項4】前記耐熱マグネシウム合金製鋳物は、前記金型に流し込んだ溶湯を大気雰囲気中で凝固させて得られたものである請求項3に記載の耐熱マグネシウム合金製鋳物の製造方法。」

(2)「【請求項1】全体を100質量%としたときに、
アルミニウム(Al)を1?6質量%と、
カルシウム(Ca)をAlに対する質量比(Ca/Al)で1?3となる量と、
マンガン(Mn)を0.2?0.7質量%含み、
残部がマグネシウム(Mg)と不可避不純物とからなる耐熱性マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に流し込んで凝固させたことを特徴とする耐熱マグネシウム合金製鋳物。
【請求項2】前記金型に流し込んだ溶湯を大気雰囲気中で凝固させた請求項1に記載の耐熱マグネシウム合金製鋳物。
【請求項3】全体を100質量%としたときに、
アルミニウム(Al)を1?6質量%と、
カルシウム(Ca)をAlに対する質量比(Ca/Al)で1?3となる量と、
マンガン(Mn)を0.2?0.7質量%含み、
残部がマグネシウム(Mg)と不可避不純物とからなる耐熱性マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に流し込み凝固させて耐熱マグネシウム合金製鋳物を得ることを特徴とする耐熱マグネシウム合金製鋳物の製造方法。
【請求項4】前記耐熱マグネシウム合金製鋳物は、前記金型に流し込んだ溶湯を大気雰囲気中で凝固させて得られたものである請求項3に記載の耐熱マグネシウム合金製鋳物の製造方法。」(審決注:下線部は、審判請求人が示した補正部分。)

[2]本件手続補正の適否
特許請求の範囲を(1)から(2)にする補正事項は、請求項1及び3に記載されたマンガン(Mn)の含有量を、補正前の「0.2?1質量%」から補正後の「0.2?0.7質量%」に限定するものであり、特許請求の範囲を減縮するものであって、本件手続補正の前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

〈独立特許要件について〉
[2-1]本願補正発明
本件手続補正後の発明は、補正後の明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「全体を100質量%としたときに、
アルミニウム(Al)を1?6質量%と、
カルシウム(Ca)をAlに対する質量比(Ca/Al)で1?3となる量と、
マンガン(Mn)を0.2?0.7質量%含み、
残部がマグネシウム(Mg)と不可避不純物とからなる耐熱性マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に流し込んで凝固させたことを特徴とする耐熱マグネシウム合金製鋳物。」(以下、「本願補正発明1」という。)

[2-2]引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-25790号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「【請求項2】 アルミニウム2?10重量%及びカルシウム1.4?10重量%を含有し、Ca/Alの比が0.7以上であり、更にそれぞれ2重量%以下の亜鉛、マンガン、ジルコニウム及びケイ素、及び4重量%以下の希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、残部がマグネシウムと不可避の不純物からなることを特徴とする室温及び高温強度に優れたマグネシウム合金。」(第2頁の特許請求の範囲)

(b)「【0005】本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、耐熱性と室温強度の両方が要求される自動車エンジン部品用材料に適した新規な高強度マグネシウム合金を提供することにある。」

(c)「【0011】本発明の室温及び高温強度に優れたマグネシウム合金においては、カルシウムは高温強度の向上に有効な元素である。しかしカルシウムの添加量が1.4重量%未満の場合及びCa/Alの比が0.7未満の場合にはその合金の高温強度が不十分である。またカルシウム添加量の増加に伴って高温強度は向上するが、コスト高になる。コスト面を考慮するとカルシウムを10重量%を越えて添加してもメリットがない。Ca/Alの比を0.7以上にするとマグネシウム合金中に晶出する析出物の組織形態が変化し、Mg-Ca化合物が晶出して優れた高温強度特性を示すようになる。従って、本発明の室温及び高温強度に優れたマグネシウム合金においてはカルシウム添加量を1.4?10重量%、好ましくは2?8重量%とし、Ca/Alの比を0.7以上、好ましくは0.75以上とする。」

(d)「【0013】Mg合金に一般に2重量%以下の量で添加されているジルコニウム及びマンガンは本発明のマグネシウム合金においても有効であり、組織を微細にし、強度を向上させる効果を有する。」

(e)「【0016】
【実施例】
実施例1?12及び比較例1?3
アルゴン雰囲気の真空溶解炉に、表1に示す組成の合金となるように原材料をを装入し、溶解させた。坩堝としてSUS304材を使用し、フラックス等は使用しなかった。その溶湯を25mm×50mm×300mmの金型中に鋳込んで試験用鋳物を作成した。このようにして得た試験用鋳物からJIS4号試験片を作成した。なお、熱処理はいずれも500K、10時間である。これらの試験片を用いて以下の試験を実施した:
引張試験:インストロン引張試験機によりクロスヘッド速度10mm/min、測定温度298K及び473K、引張強度の測定単位=MPa、破断時伸び=%で測定。
測定結果は表1に示す通りであった(表中の%は破断時伸びである)。」

(f)表1には、実施例1として、Al:3.0重量%、Ca:3.0重量%、残部がMgである合金組成、実施例2として、Al:3.0重量%、Ca:5.0重量%、残部がMgである合金組成、及び、実施例6として、Al:3.0重量%、Ca:3.0重量%、Mn:1.8重量%、残部がMgである合金組成が、それぞれ記載されている。

(g)「【0018】
【発明の効果】本発明のマグネシウム合金は、従来実用されている汎用のMg-Al-Zn-Mn系合金よりも室温及び高温強度に優れており、軽量且つ耐熱性が要求される自動車エンジン部品に適した汎用の耐熱性軽量マグネシウム合金である。」

[2-3]当審の判断
(1)引用発明
刊行物3の(a)には、「アルミニウム2?10重量%及びカルシウム1.4?10重量%を含有し、Ca/Alの比が0.7以上であり、更にそれぞれ2重量%以下の亜鉛、マンガン、ジルコニウム及びケイ素、及び4重量%以下の希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、残部がマグネシウムと不可避の不純物からなることを特徴とする室温及び高温強度に優れたマグネシウム合金」が記載されている。ここで、このマグネシウム合金は、「それぞれ2重量%以下の亜鉛、マンガン、ジルコニウム及びケイ素、及び4重量%以下の希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の元素」を含有するから、これらの元素のうち、マンガンを選択したものとして、刊行物1には、『アルミニウム2?10重量%及びカルシウム1.4?10重量%を含有し、Ca/Alの比が0.7以上であり、更に2重量%以下のマンガンを含有し、残部がマグネシウムと不可避の不純物からなることを特徴とする室温及び高温強度に優れたマグネシウム合金』が記載されている。
そして、(g)の「本発明のマグネシウム合金は、・・・室温及び高温強度に優れており、軽量且つ耐熱性が要求される自動車エンジン部品に適した汎用の耐熱性軽量マグネシウム合金である。」という記載によると、このマグネシウム合金は、耐熱性マグネシウム合金ともいえる。
一方、(e)の「アルゴン雰囲気の真空溶解炉に、表1に示す組成の合金となるように原材料をを装入し、溶解させた。・・・その溶湯を25mm×50mm×300mmの金型中に鋳込んで試験用鋳物を作成した。」という記載によると、このマグネシウム合金は、原材料を溶解させた溶湯を金型に鋳込んで鋳物として作成されるものであり、他方、この鋳物を作成する際には、通常、マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に鋳込むことは明らかであるから、上記マグネシウム合金は、『上記マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に鋳込んで作成した鋳物』であるといえる。

上記記載及び認定事項を本願補正発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物3には、次のとおりの発明が記載されているといえる。

「アルミニウム(Al)を2?10重量%と、カルシウム(Ca)1.4?10重量%を含有し、Ca/Alの比が0.7以上であり、更にマンガン(Mn)を2重量%以下含み、残部がマグネシウム(Mg)と不可避の不純物からなる耐熱性マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に鋳込んだ耐熱性マグネシウム合金製鋳物」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願補正発明1と引用発明との対比
引用発明の「重量%」、「不可避の不純物」及び「耐熱性」は、それぞれ、本願補正発明1の「質量%」、「不可避不純物」及び「耐熱」に相当する。また、引用発明の「鋳込んだ」とは、溶湯を金型に流し込んで凝固させたことを意味することは明らかであるから、本願補正発明1の「流し込んで凝固させた」と言い換えることができる。
そして、引用発明は、優れた高温強度、すなわち耐熱性を得るために「Ca/Alの比が0.7以上」とするものであり(刊行物3の(c)及び(b)を参照。)、また、引用発明は、「アルミニウム(Al)を2?10重量%」と「カルシウム(Ca)1.4?10重量%」を含むから、Ca/Alの比の範囲を算出すると、その上限値は5となる。一方、本願補正発明1も、耐熱性を向上するために、「カルシウム(Ca)をAlに対する質量比(Ca/Al)で1?3となる量」を含むものであるから、両者のカルシウム(Ca)のAlに対する質量比(Ca/Al)は、1?3の範囲で重複しているし、しかも、刊行物3の(f)には、Ca/Alの比が1.0以上となる例が具体的に記載されているのであるから、両者のカルシウム(Ca)のAlに対する質量比(Ca/Al)は、1?3の範囲で一致するということができる。

したがって、両者は、「全体を100質量%としたときに、アルミニウム(Al)を2?6質量%と、カルシウム(Ca)をAlに対する質量比(Ca/Al)で1?3となる量と、マンガン(Mn)を含み、残部がマグネシウム(Mg)と不可避不純物とからなる耐熱性マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に流し込んで凝固させた耐熱マグネシウム合金製鋳物。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:本願補正発明1は、Mnを0.2?0.7質量%含むものであるのに対して、引用発明は、Mnを2重量%以下含むものであるものの、刊行物3には0.2?0.7質量%に含まれる数値の具体的開示がなく、0.2?0.7質量%の範囲を含むものであるか否かが不明である点。

(3)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
刊行物3の(d)には、Mg合金に、2重量%以下のMnを添加することにより、強度を向上できることが記載されている。
一方、Al、Ca及びMnを含有する引用発明と同種の耐熱マグネシウム合金製鋳物において、Mnの含有量を0.1?1.0質量%程度の量とすることにより、耐熱性を向上させることは、特開平8-269609号公報の【0026】、特開2002-129272号公報の【0013】、特開2001-316752号公報の【0016】、【0029】及び表3?4に記載されるように、本願出願前に当業者に周知の事項であるといえる。
してみると、Al、Ca及びMnを含有し、Mn含有量が2質量%以下の耐熱性マグネシウム合金鋳物である引用発明において、製造する部材に応じた適切な強度と耐熱性を得られるようにMnの含有量を再検討することにより、Mn含有量を0.2?0.7質量%含むものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

(4)小活
したがって、上記相違点は当業者が容易に想到し得たことであるといえるから、本願補正発明1は、引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[2-4]むすび
以上のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明についての審決
[1]本願発明
平成18年6月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、同年4月7日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりでのものである。

「全体を100質量%としたときに、
アルミニウム(Al)を1?6質量%と、
カルシウム(Ca)をAlに対する質量比(Ca/Al)で1?3となる量と、
マンガン(Mn)を0.2?1質量%含み、
残部がマグネシウム(Mg)と不可避不純物とからなる耐熱性マグネシウム合金を完全に溶解させた溶湯を金型に流し込んで凝固させたことを特徴とする耐熱マグネシウム合金製鋳物。」(以下、「本願発明1」という。)

[2]原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりのものである。
「本願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物3:特開平6-25790号公報」

[3]引用刊行物とその記載事項
原査定に引用された刊行物3の主な記載事項は、上記第2の[2-2]に記載したとおりである。

[4]当審の判断
刊行物3に記載された発明は、上記第2の[2-3](1)に記載されたとおりのもの(上記「引用発明」)である。
そして、上記第2の[2-1]の本願補正発明1は、本願発明1の「マンガン(Mn)を0.2?1質量%含み」を、「マンガン(Mn)を0.2?0.7質量%含み」のように、より狭い範囲に定めることによって、発明を特定するために必要な事項を限定したものである。
このように発明を特定するために必要な事項をより狭い範囲に限定した本願補正発明1が、引用発明、及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められるから、本願発明1も、上記第2の[2-3]に記載したものと同様の理由により、引用発明、及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[5]むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-17 
結審通知日 2008-04-22 
審決日 2008-05-08 
出願番号 特願2002-326825(P2002-326825)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C22C)
P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 平塚 義三
近野 光知
発明の名称 耐熱性マグネシウム合金製鋳物およびその製造方法  
代理人 大川 宏  

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