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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1180735
審判番号 不服2005-22816  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-25 
確定日 2008-07-11 
事件の表示 特願2001-188087「メタクリル系重合体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 8日出願公開、特開2003- 2912〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1].手続の経緯
本願は、平成13年6月21日にした特許出願であり、平成17年6月2日付けで拒絶理由通知がなされ、同年8月8日に意見書が提出されたが、同年10月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年11月25日に審判請求がなされ、同年12月22日に明細書の手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成18年3月2日付けで前置報告がなされ、当審において平成19年6月20日付けで審尋がなされ、同年8月27日に回答書が提出され、更に同年11月2日付けで審尋がなされたところ、審判請求人からは何らの応答もなされなかったものである。

[2].補正却下の決定
[結 論]
平成17年12月22日付けの手続補正を却下する。
[理 由]
(1)補正の内容
平成17年12月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求の日から30日以内にされた補正であり、その内容は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1を以下のようにする補正を含むものである。
「完全混合型反応器(A)と、それに引き続き配置された反応器(B)とを使用して、メチルメタクリレートの重合体または共重合体を製造する方法であって、(i)メチルメタクリレートを含むモノマー組成物に、ラジカル重合開始剤と、連鎖移動剤としてメルカプタン化合物とを添加し、この反応液組成物を完全混合型反応器(A)に導入し、完全混合型反応器(A)において、重合温度110?170℃で反応液組成物を攪拌混合し、この反応域における重合体含有率が35?65質量%となるようにモノマー組成物の重合を行う第1の工程と、(ii)完全混合型反応器(A)から抜き出された反応液組成物を反応器(B)に導入し、反応器(B)に導入する前、あるいは、反応器(B)において、反応液組成物にさらにラジカル重合開始剤を添加し、反応器(B)において、さらに重合反応を進め、この重合反応に伴う重合発熱により反応液組成物の温度を上昇させ、この重合反応の平衡状態を利用して下記(1)、(2)式を満たす範囲で重合反応を停止させる第2の工程と、
-0.75×(T-200)+50≦ φ ≦-0.75×(T-200)+70 (1)
180≦ T≦200 (2)
φ:到達した重合体含有率[質量%]
T:到達最高温度[℃]
(iii)反応器(B)から抜き出された反応液組成物を揮発物除去工程に送り、揮発物を分離除去する第3の工程とを有することを特徴とするメタクリル系重合体の製造方法。」を
「完全混合型反応器(A)と、それに引き続き配置された反応器(B)とを使用して、メチルメタクリレートの重合体または共重合体を製造する方法であって、(i)メチルメタクリレートを含むモノマー組成物に、ラジカル重合開始剤と、連鎖移動剤としてメルカプタン化合物とを添加し、この反応液組成物を完全混合型反応器(A)に導入し、完全混合型反応器(A)において、重合温度110?170℃で反応液組成物を攪拌混合し、この反応域における重合体含有率が35?65質量%となるようにモノマー組成物の重合を行う第1の工程と、(ii)完全混合型反応器(A)から抜き出された反応液組成物を反応器(B)に導入し、反応器(B)に導入する前、あるいは、反応器(B)において、反応液組成物にさらに該反応液組成物の温度における半減期が10秒以上のラジカル重合開始剤を、完全混合型反応器(A)に供給した、重合前の反応液組成物中のモノマー1モルに対して5.0×10^(-6)モル以上添加し、反応器(B)において、さらに重合反応を進め、この重合反応に伴う重合発熱により反応液組成物の温度を上昇させ、この重合反応の平衡状態を利用して下記(1)、(2)式を満たす範囲で重合反応を停止させる第2の工程と、
-0.75×(T-200)+50≦ φ ≦-0.75×(T-200)+70 (1)
180≦ T≦200 (2)
φ:到達した重合体含有率[質量%]
T:到達最高温度[℃]
(iii)反応器(B)から抜き出された反応液組成物を揮発物除去工程に送り、揮発物を分離除去する第3の工程とを有することを特徴とするメタクリル系重合体の製造方法。」と補正する。

(2)補正の適否についての判断
(2-1)新規事項追加の有無及び補正の目的
請求項1についての上記補正は、補正前の明細書(当初明細書)の「また、ここで添加するラジカル重合開始剤は、ラジカル重合開始剤が反応液組成物中に均一に分散する前にはほとんど分解せず、十分高いラジカル重合開始剤の利用効率が得られるので、ラジカル重合開始剤を添加する前の反応液組成物の温度における半減期が10秒以上、特に60秒以上であることが好ましい。」(段落【0049】)及び「ここでのラジカル重合開始剤の添加量は、自己重合発熱により平衡反応に達せしめるために十分な重合発熱が得られるように、完全混合型反応器(A)に供給した、重合前の反応液組成物中のモノマー1モルに対して5.0×10^(-6)モル以上であることが好ましい。」(段落【0051】)との記載に基いて、「反応液組成物にさらにラジカル重合開始剤を添加し」を「反応液組成物にさらに該反応液組成物の温度における半減期が10秒以上のラジカル重合開始剤を、完全混合型反応器(A)に供給した、重合前の反応液組成物中のモノマー1モルに対して5.0×10^(-6)モル以上添加し」とする補正であり、これにより、発明を特定するために必要な事項である「ラジカル重合開始剤」が「反応液組成物の温度における半減期が10秒以上」のものに限定されるとともに、その添加量が、「完全混合型反応器(A)に供給した、重合前の反応液組成物中のモノマー1モルに対して5.0×10^(-6)モル以上」に限定されることとなるから、当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものであり、また、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(2-2)独立特許要件
請求項1についての上記のような補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められるので、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて、以下に検討する。

(a)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の明細書(以下、「本件補正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項により特定されるとおりの発明である。
「完全混合型反応器(A)と、それに引き続き配置された反応器(B)とを使用して、メチルメタクリレートの重合体または共重合体を製造する方法であって、(i)メチルメタクリレートを含むモノマー組成物に、ラジカル重合開始剤と、連鎖移動剤としてメルカプタン化合物とを添加し、この反応液組成物を完全混合型反応器(A)に導入し、完全混合型反応器(A)において、重合温度110?170℃で反応液組成物を攪拌混合し、この反応域における重合体含有率が35?65質量%となるようにモノマー組成物の重合を行う第1の工程と、(ii)完全混合型反応器(A)から抜き出された反応液組成物を反応器(B)に導入し、反応器(B)に導入する前、あるいは、反応器(B)において、反応液組成物にさらに該反応液組成物の温度における半減期が10秒以上のラジカル重合開始剤を、完全混合型反応器(A)に供給した、重合前の反応液組成物中のモノマー1モルに対して5.0×10^(-6)モル以上添加し、反応器(B)において、さらに重合反応を進め、この重合反応に伴う重合発熱により反応液組成物の温度を上昇させ、この重合反応の平衡状態を利用して下記(1)、(2)式を満たす範囲で重合反応を停止させる第2の工程と、
-0.75×(T-200)+50≦ φ ≦-0.75×(T-200)+70 (1)
180≦ T≦200 (2)
φ:到達した重合体含有率[質量%]
T:到達最高温度[℃]
(iii)反応器(B)から抜き出された反応液組成物を揮発物除去工程に送り、揮発物を分離除去する第3の工程とを有することを特徴とするメタクリル系重合体の製造方法。」

このように本件補正明細書の請求項1には、(ii)の工程(以下、「第2工程」という。)において「重合反応の平衡状態を利用して下記(1)、(2)式を満たす範囲で重合反応を停止させる」こと(以下、「反応停止要件」という。)が記載されており、反応停止要件が、「反応液組成物にさらに該反応液組成物の温度における半減期が10秒以上のラジカル重合開始剤を、完全混合型反応器(A)に供給した、重合前の反応液組成物中のモノマー1モルに対して5.0×10^(-6)モル以上添加し、反応器(B)において、さらに重合反応を進め、この重合反応に伴う重合発熱により反応液組成物の温度を上昇させ」ることによりもたらされることが、請求項1には規定されているものと認められる。

(b)実施例の記載
本件補正明細書の実施例1及び2には、以下のとおり記載されている。
「[実施例1]精製されたメチルメタクリレート98質量%とメチルアクリレート2質量%とからなるモノマー組成物に窒素を導入し、溶存酸素0.5質量ppmとした後、モノマー混合物に対してn-オクチルメルカプタン0.171モル%(0.25質量%)と、ラジカル重合開始剤として1,1?ビス(tert-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン1.0×10^(-5)モル/モノマー1モル(0.003質量%)とを添加し、混合した。
そして、この反応液組成物を、重合温度135℃の攪拌混合されている完全混合型反応器(A)に連続的に供給し、反応域での平均滞在時間を3.0hrとして重合を実施した。用いたラジカル重合開始剤の重合温度(135℃)における半減期は230秒である。
そして、反応液組成物を連続的に完全混合型反応器(A)から抜き出し、窒素ガスで1.0MPaに加圧した別の攪拌機のついた槽型反応器(B)中にホールドし、135℃にある反応液組成物に重合開始剤としてジ-t-ブチルパーオキサイドを1.37×10^(-5)モル/モノマー1モル(0.002質量%)となるように添加し、攪拌しながらさらに重合を進めた。反応槽(B)のジャケット温度(壁温)は170℃とした。また、反応槽(B)の壁温(170℃)における重合開始剤の半減期は250秒である。
重合開始剤を添加する前の反応液組成物の温度は135℃であり、重合開始剤を添加した後、重合が開始されて30分後には187℃に達し、その後温度の上昇はなかった。
反応液組成物の温度が185℃となった時点(平均滞在時間30分)で反応槽(B)から反応液組成物を定量的に抜き出し、連続的にリアベント1個、フォアベント2個の多段ベント式単軸押し出し機に供給して未反応モノマーを主成分とする揮発物を分離除去し、重合体を得た。押し出し機入り口での反応液組成物の温度は185℃、リアベントの圧力は0.05MPa、フォアベントは共に0.01MPaとした。
各工程での重合体の重合率を調べたところ、1段目の完全混合型反応器(A)出口の反応液組成物の重合体含有率は47質量%であり、2段目の槽型反応器(B)出口の反応液組成物の重合体含有率は65質量%であった。また、揮発分を分離した後に得た重合体中の残存モノマー含有量は0.025質量%であり、二量体含有量は0.03質量%であり、残存メルカプタン化合物の含有量は2質量ppmであった。
2段目の反応槽(B)を2個用意し、切り換えながら、仕込み、重合、排出の工程を3バッチづつを行った後、運転を停止し、反応槽(B)を冷却して槽内を観察したところ、重合体スケールの生成は認められなかった。」(段落【0068】?【0074】)
「[実施例2]実施例1と同様にして、完全混合型反応器(A)においてメチルメタクリレート98質量%とメチルアクリレート2質量%とからなるモノマー組成物の重合を実施した。
そして、反応液組成物を連続的に完全混合型反応器(A)から抜き出し、住友重機械工業(株)社製SMXスルーザミキサを内装した配管部で、135℃の反応液組成物に対して、重合開始剤としてジ-t-ブチルパーオキサイドを1.37×10^(-5)モル/モノマー1モル(0.002質量%)となるように添加し、混合した後、ノリタケカンパニー(株)社製スタティックミキサーを内装した管型反応器(プラグフロー型反応器)(B)に供給し、さらに重合を進めた。管型反応器(B)のジャケット温度(壁温)は170℃とした。また、管型反応器(B)の壁温(170℃)における重合開始剤の半減期は250秒である。また、管型反応器(B)内の圧力は1.5MPaとした。反応液組成物の平均通過時間は30分であった。
管型反応器(B)入口の反応液組成物の温度は135℃であり、管型反応器(B)出口の反応液組成物の温度は189℃であった。
そして、管型反応器(B)から抜き出した反応液組成物を、引き続き、連続的に多段ベント式単軸押し出し機に供給し、実施例1と同様にして未反応モノマーを主成分とする揮発物を分離除去し、重合体を得た。押し出し機入り口での反応液組成物の温度は189℃、リアベントの圧力は0.05MPa、フォアベントは共に0.01MPaとした。
各工程での重合体の重合率を調べたところ、1段目の完全混合型反応器(A)出口の反応液組成物の重合体含有率は47質量%であり、2段目の管型反応器(B)出口の反応液組成物の重合体含有率は68質量%であった。また、揮発分を分離した後に得た重合体中の残存モノマー含有量は0.025質量%であり、二量体含有量は0.03質量%であり、残存メルカプタン化合物の含有量は2質量ppmであった。
このようにして10日間連続運転したところ、重合の制御には問題がなかった。
さらに、引き続いて、ジ-t-ブチルパーオキサイドを2.74×10^(-5)モル/モノマー1モル(0.004質量%)となるように、管型反応器(B)に供給する前のSMXスルーザミキサを内装した配管部での重合開始剤の添加量を増加して運転を継続した。このときの管型反応器(B)出口の反応液組成物の温度は189℃、管型反応器(B)出口の反応液組成物の重合体含有率は68質量%であり、重合開始剤の添加量を増加する前と変わらなかった。このことより、重合反応が平衡に達していることが確認できる。
さらに10日間連続運転したところ、重合の制御には問題がなかった。また、運転終了後に反応器(B)内を観察したところ、装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。」(段落【0075】?【0082】)

(c)合議体の判断
以上の記載からみて、実施例1では、請求項1の(1)、(2)式におけるφが65質量%、Tが187℃であり、実施例2では、φが68質量%、Tが189℃であって、いずれも、請求項1の(1)式及び(2)式を満たすものと認められる。
また、実施例1では「(反応槽(B)において)重合が開始されて30分後には187℃に達し、その後温度の上昇はなかった」とされ、実施例2では「管型反応器(B)出口の反応液組成物の温度は189℃であった」及び「管型反応器(B)に供給する前のSMXスルーザミキサを内装した配管部での重合開始剤の添加量を増加して運転を継続した。このときの管型反応器(B)出口の反応液組成物の温度は189℃、管型反応器(B)出口の反応液組成物の重合体含有率は68質量%であり、重合開始剤の添加量を増加する前と変わらなかった」とされているところから、いずれの実施例においても重合反応が平衡に達しており、請求項1に記載された反応停止要件を充足するものと認められる。
そして、反応停止要件に関して請求項1に記載された、
(イ)「反応液組成物の温度における半減期が10秒以上のラジカル重合開始剤」を
(ロ)「完全混合型反応器(A)に供給した、重合前の反応液組成物中のモノマー1モルに対して5.0×10^(-6)モル以上添加」し、
(ハ)「反応器(B)において、さらに重合反応を進め、この重合反応に伴う重合発熱により反応液組成物の温度を上昇させ」る、
との各処理条件(以下、これらの条件を上記のとおり(イ)?(ハ)と表記する。)についてみると、実施例1及び2のいずれも、(イ)重合開始剤としてジ-t-ブチルパーオキサイド(反応槽(B)の壁温(170℃)における重合開始剤の半減期250秒)を用い、(ロ)1.37×10^(-5)モル/モノマー1モル(0.002質量%)となるように添加(実施例2では、更に10日間連続運転したのち、ジ-t-ブチルパーオキサイドの添加量を2.74×10^(-5)モル/モノマー1モル(0.004質量%)に増加)しており、(ハ)反応液組成物の温度については、実施例1では135℃から187℃に、実施例2では135℃から189℃にそれぞれ上昇した、とされている。
これに対して、本件補正明細書の比較例3には、
「管型反応器(B)のジャケット温度を135℃にした以外は、実施例2と同様にして重合体を製造した。その結果、運転開始30分後に、管型反応器(B)出口の反応液組成物の温度は165℃、重合体含有率は78質量%になったが、運転開始1時間後にはポンプ圧が急上昇し、管型反応器が閉塞して運転継続が不可能になった」(段落【0092】)と記載されており、(イ)及び(ロ)については実施例1及び2と同じで、(ハ)については135℃から165℃という低い温度上昇に留まるものが、反応停止要件を充足しない「比較例」とされているのである。
実施例1、2及び比較例3の記載からみて、この(ハ)の反応液組成物の温度上昇の相違をもたらす要因としては、管型反応器(B)のジャケット温度しか見当たらず、これを170℃とした実施例1及び2においては反応液組成物の十分な温度上昇が得られ、135℃である比較例3おいては温度上昇が不十分である、という結果がもたらされたものと解するのが相当である。
これらの実施例及び比較例においては、第2工程でいずれもただ一種の重合開始剤を用いており、第2工程における当初の重合開始剤添加量も同一であるが、このような単純な実験系においてすら、請求項1に規定する反応停止要件を満たすためには管型反応器(B)のジャケット温度をどの程度に設定すべきかについて、当業者は幾多の試験を繰り返さなければならない。まして、請求項1に半減期の下限値のみが規定された重合開始剤に該当する重合開始剤は数多く存在し、これらを、請求項1に下限値のみが規定された様々な添加量で第2工程で用いた場合、それぞれの組み合わせについて、管型反応器(B)のジャケット温度をその都度調整し、反応停止要件を満たすことができるか否かを模索しなければならず、そのような試行錯誤は当業者に多大の負担を強いるものというべきである。
そして、請求項1に規定された上記(イ)?(ハ)の処理条件を満たせば、常に反応停止要件がもたらされることを、本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載からは確認することができない。
審判請求人はこの点について、「本願発明1のメタクリル系重合体の製造方法においては、上記条件(c)外部との熱の授受については、従来のメタクリル系重合体の製造方法においては、ジャケット温度を調整することにより重合体含有率及び到達最高温度を調整し設定していたところ、外部から熱の授受を積極的に行わず、自己重合発熱により平衡状態に達せしめることができるものです」(審判請求書の手続補正書第5頁第4?8行)と主張している。
しかしながら、本件補正明細書の実施例1には「反応液組成物を連続的に完全混合型反応器(A)から抜き出し、窒素ガスで1.0MPaに加圧した別の攪拌機のついた槽型反応器(B)中にホールドし、135℃にある反応液組成物に重合開始剤としてジ-t-ブチルパーオキサイドを1.37×10^(-5)モル/モノマー1モル(0.002質量%)となるように添加し、攪拌しながらさらに重合を進めた。反応槽(B)のジャケット温度(壁温)は170℃とした」(段落【0070】)及び「重合開始剤を添加する前の反応液組成物の温度は135℃であり、重合開始剤を添加した後、重合が開始されて30分後には187℃に達し、その後温度の上昇はなかった」(段落【0071】)と記載されており、この実施例に即してみれば、反応槽(B)において、導入時に135℃であった反応液組成物に対して170℃のジャケットから熱が供給されることになり、また、反応液組成物の温度が170℃に達した後、到達最高温度の187℃に至る間は、逆に170℃に設定されたジャケットにより反応液組成物は冷却され熱が奪われることになり、「本願発明1においては外部から熱の授受を積極的に行わず、自己重合発熱により平衡状態に達せしめることができる」との審判請求人の主張とは矛盾しているものといわざるを得ない。
結局、「自己重合発熱により平衡状態に達せしめる」ための、ジャケットからの熱の授受以外の手段は、本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載全体からみても具体的に開示されているものということはできず、審判請求人の主張は採用できない。
よって、本件補正明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
(d)小括
したがって、本件補正明細書の記載は不備であり、本件補正後の本願は特許法第36条第4項の規定を満たしていないから、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2-3)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3].本願発明
上記のとおり、平成17年12月22日付けの手続補正が却下された。
当該補正前の当初明細書の記載からみて、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)はその特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「完全混合型反応器(A)と、それに引き続き配置された反応器(B)とを使用して、メチルメタクリレートの重合体または共重合体を製造する方法であって、(i)メチルメタクリレートを含むモノマー組成物に、ラジカル重合開始剤と、連鎖移動剤としてメルカプタン化合物とを添加し、この反応液組成物を完全混合型反応器(A)に導入し、完全混合型反応器(A)において、重合温度110?170℃で反応液組成物を攪拌混合し、この反応域における重合体含有率が35?65質量%となるようにモノマー組成物の重合を行う第1の工程と、(ii)完全混合型反応器(A)から抜き出された反応液組成物を反応器(B)に導入し、反応器(B)に導入する前、あるいは、反応器(B)において、反応液組成物にさらにラジカル重合開始剤を添加し、反応器(B)において、さらに重合反応を進め、この重合反応に伴う重合発熱により反応液組成物の温度を上昇させ、この重合反応の平衡状態を利用して下記(1)、(2)式を満たす範囲で重合反応を停止させる第2の工程と、
-0.75×(T-200)+50≦ φ ≦-0.75×(T-200)+70 (1)
180≦ T≦200 (2)
φ:到達した重合体含有率[質量%]
T:到達最高温度[℃]
(iii)反応器(B)から抜き出された反応液組成物を揮発物除去工程に送り、揮発物を分離除去する第3の工程とを有することを特徴とするメタクリル系重合体の製造方法。」

[4].原査定の理由
原査定の理由とされた平成17年6月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由3の概要は以下のとおりである。
「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」

[5].合議体の判断
上記(2)の(2-2)で述べたとおり、本件補正明細書の発明の詳細な説明には、請求項1に記載された発明(本件補正発明)について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
そして、本件補正発明は、本願発明における「反応液組成物にさらにラジカル重合開始剤を添加し」を「反応液組成物にさらに該反応液組成物の温度における半減期が10秒以上のラジカル重合開始剤を、完全混合型反応器(A)に供給した、重合前の反応液組成物中のモノマー1モルに対して5.0×10^(-6)モル以上添加し」と限定したものであり、本件補正により、明細書の実施例及び比較例については補正されていない。
そうすると、上記(2)の(2-2)に示したものと同様の理由により、本件補正による限定前の広範な本願発明及びこれを引用する請求項2?8に記載された発明について、当初明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることはできない。

[6].むすび
以上のとおりであるから、本願は特許法第36条第4項の規定を満たしていない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-08 
結審通知日 2008-05-14 
審決日 2008-05-27 
出願番号 特願2001-188087(P2001-188087)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 山本 昌広
一色 由美子
発明の名称 メタクリル系重合体の製造方法  
復代理人 岡 晴子  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  
代理人 岩田 慎一  
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