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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61N
管理番号 1181743
審判番号 不服2006-7489  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-20 
確定日 2008-07-23 
事件の表示 特願2000- 23633号「低周波治療器」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月 7日出願公開、特開2001-212249号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年2月1日の出願であって、平成18年3月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年4月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされたところ、平成20年2月4日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで当審の拒絶理由通知(最後)がなされ、これに対して、平成20年3月11日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成20年3月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年3月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「低周波電流を発生する治療器本体と、該治療器本体にケーブルを介して接続された導子とを備えた、患部に低周波の電流を流して治療する低周波治療器において、
前記導子は、0.1?0.2mmの厚みの先細薄板状でポリエステル製の非導電性可撓性材料にカラー印刷することによって形成された絶縁面を一方の板面に、前記非導電性可撓性材料にステンレス製の導体を取り付けその外面に導電性のカーボンを印刷することによって形成された導電面を他方の板面に有し前記絶縁面を前記患部の側に向けた状態で前記患部と該患部に貼着される導電性を有する粘着剤を着けたシートとの間に挿入されるような可撓性を有する電極部と、該電極部の基端側外周に設けられた厚みのある把持部とを有することを特徴とする低周波治療器。」(下線部は補正個所を示す)

2.補正の目的、特許請求の範囲の拡張、変更及び新規事項の追加の有無
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「先細薄板状」の「電極部」について、「0.1?0.2mmの厚み」であり「ポリエステル製の非導電性可撓性材料」からなる旨の限定を付加し、その「絶縁面」について、「ポリエステル製の非導電性可撓性材料にカラー印刷することによって形成された」とし、その「導電面」について、「前記非導電性可撓性材料にステンレス製の導体を取り付けその外面に導電性のカーボンを印刷することによって形成された」とする限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そして、本件補正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1.引用例の記載事項
A.当審の拒絶の理由に引用された、特開平10-295827号公報(以下、「引用例1」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a.「そこで、本発明者は、衛生的で清潔感があり、何人も簡便に使用できる低周波治療器用粘着性シートについて検討を重ねたところ、支持体とパップ層とからなるパップシートを用い、パップ層には水分が15?75重量%含有されていると、このパップシートにおけるパップ層を、低周波治療器の電極に押圧、接触させるだけで、つまりパップシートに何ら電極を設けることなく、通電が可能であり、しかも使用による汚れに応じて任意に且つ簡便に交換できるから、衛生的で清潔感がある結果、何人もその使用には何等抵抗感がないなどの知見を得た。」(【0009】段落)
b.「そして、このパップ層には水分が15?75重量%含有されていることを要し、この水分量が、15重量%未満では低周波治療器の電極に押圧、接触させ、電圧をかけても抵抗が大で通電性が不充分となる結果、所要の低周波治療効果が得られない虞れがあり、・・・(後略)・・・」(【0021】段落)
c.「実施例1のパップシート1を用い、図2に示すように、市販されている低周波治療器2における1対の電極3、3のうちその1つの電極3毎に当該パップシート1のパップ層1b側をそれぞれ押圧、接触させ、次いで、図4に示すように、この各パップシート1のパップ層1b側を肩凝りの患部に貼着した後、通電した。」(【0038】段落)
d.「なお、図2及び図4更に図7及び図8において、符号5は電極3を低周波発生装置2に接続するリード線である。」(【0051】段落)

上記記載a.には、導電性を有するパップシートのパップ層に低周波治療器の電極を押圧、接触させ、パップ層を介して患部に通電することが記載されている。なお、このことより、電極の少なくともパップ層側は導電面を有することは明らかである。
また、上記記載c.には、パップシートの、電極を押圧、接触させたパップ層側を肩凝りの患部に貼着することが記載されており、図4,7,8の図示内容を参酌すると、電極はパップシートと患部との間に挟持されているといえる。
上記記載d.及び、図面特に図2,8より、電極3は、リード線5を介して低周波治療器(低周波発生装置)2に接続していることが明らかである。
これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理するすると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

「低周波発生装置2と、該低周波発生装置2にリード線5を介して接続された電極3とを備えた、患部に低周波の電流を流して治療する低周波治療器において、前記電極3は、導電面を有し、患部と該患部に貼着される導電性を有するパップシートとの間に挟持される電極部分を有する低周波治療器。」

B.同じく当審の拒絶の理由に引用された、実願昭63-72125号(実開平1-176449号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という)には、「低周波治療器用電極」(考案の名称)について、図面と共に概略、電気ケーブルに接続された導電板12を内面に埋設して設けた柔軟性かつ絶縁性を有する材料で形成されたパッド部10と、その一面に導電板に接触するように設けられた導電性粘着パッドとを有する電極が記載されている(明細書4ページ15行?5ページ7行参照)。第1?3図より、この電極が薄い円板状をしており、その一面が導電性粘着パッドからなる面、他面が絶縁性のパッド部10からなる面となっていることが明らかである。また、引用例2には、この電極が柔軟な材料で形成されているので、治療ポイントが曲面であっても、治療ポイントに電極を貼り付け固定することができる旨記載されている(明細書13ページ1?7行)。

C.同じく当審の拒絶の理由に引用された、実願昭54-17491号(実開昭55-116646号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という)には、「低周波治療器用極板挿入式導電体」(考案の名称)について、図面と共に概略、吸湿性材料2と防湿性材料1とを重ね合わせた消耗部品に板状の極板4を挿入可能とし、消耗部品を介して人体に通電するようにしたものが記載されている。

D.同じく当審の拒絶の理由に引用された、特開平5-15606号公報(以下、「引用例4」という)には、「電気治療器用導子」(発明の名称)について、図面と共に概略、治療部位に密着される、伸縮性多孔質性基材1に含水性導電性材料3を包含させてなるポケット部2に着脱自在に挿入される、板状の電極6をリード線7で電気治療器本体に接続し、ポケット部2を介して人体に通電するようにしたものが記載されている(特に【0006】?【0008】段落、【0010】段落参照)。

E.同じく当審の拒絶の理由に引用された、実用新案登録2518882号公報(以下、「引用例5」という)には、「低周波治療器用導子及びその装着固定具」(考案の名称)について、図面と共に概略、含水機能を有する伸縮性素材を二層構造とし、含水した粘着剤層10を設けたた装着固定具7に、熱可塑性弾性体を主材料とした板状の電極1を挿入して着脱できるようにして、装着固定具を介して通電し、患部を治療できるようにしたものが記載されている(特に4欄8?38行参照)。また、この電極1と被覆リード線3との接続部分にはリード線導体の断線を防ぐための保護チューブ6が設けられることが記載されている。また、電極1はサーモプラスチックポリエステル等の熱可塑性弾性体でできていることから、可撓性を有するものであることは明らかである。(4欄47行?5欄23行参照)。

3-2.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、その構造または機能からみて、引用発明の「低周波発生装置2」は、本願補正発明の「治療器本体」に相当し、以下同様に、「リード線5」は「ケーブル」に、「電極3」は「導子」に、「導電面」は「導電面」に、「パップシート」は「導電性を有する粘着剤を着けたシート」に、「電極部分」は「電極部」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「挟持」と、本願補正発明の「挿入」とは、「保持」という概念で共通している。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「低周波電流を発生する治療器本体と、該治療器本体にケーブルを介して接続された導子とを備えた、患部に低周波の電流を流して治療する低周波治療器において、
前記導子は、導電面を有し、前記患部と該患部に貼着される導電性を有する粘着剤を着けたシートとの間に保持されるような電極部を有する低周波治療器。」

そして、両者は次の点で相違する(対応する引用例記載の用語を( )内に示す)。
(相違点1)
本願補正発明の導子は、先細薄板状で、患部と該患部に貼着される導電性を有する粘着剤を着けたシートとの間に挿入されるような可撓性を有する電極部を有するのに対し、引用発明の導子(電極3)は、患部と該患部に貼着される導電性を有する粘着剤を着けたシート(パップシート)との間に挟持されるような電極部(電極部分)を有するが、挿入されるものではなく、またその形状と可撓性については明かでない点。

(相違点2)
本願補正発明の導子は、電極部の基端側外周に設けられた厚みのある把持部を有するのに対し、引用発明の導子(電極3)は、その点について明かでない点。

(相違点3)
本願補正発明の導子の電極部は、その一方の板面に絶縁面を他方の板面に導電面を有するのに対し、引用発明の導子(電極3)の電極部(電極部分)は、導電面を有するが、絶縁面については明かでない点。

(相違点4)
本願発明の電極部は、0.1?0.2mmの厚みの薄板状でポリエステル製の非導電性可撓性材料にカラー印刷することによって形成された絶縁面を一方の板面に、前記非導電性可撓性材料にステンレス製の導体を取り付けその外面に導電性のカーボンを印刷することによって形成された導電面を他方の板面に有するのに対し、引用発明の電極部(電極部分)は、導電面を有するが、かかる構成については明かでない点。

3-3.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
低周波治療器の電極を、導電性シート等に挿入可能な板状の電極部を持つものとし、導電性シートを介して人体に通電するようにしたものは、例えば、引用例3?5に示すように周知である。
そこで、引用発明に、該周知技術を適用して、引用発明の導子(電極3)の電極部(電極部分)を、患部と該患部に貼着される導電性を有する粘着剤を着けたシート(パップシート)との間に挿入可能な板状のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、また、挿入可能な板状のものとするにあたり、例えば引用例5に記載されたものに倣って、体にフィットしやすいようにこれを可撓性とすること、及び挿入しやすい形状として先細薄板状の形状を選択することは、当業者が必要に応じ適宜なし得た事項である。

(相違点2について)
一般に、ケーブルに電極端子が接続されたプラグ等の着脱にあたって、ケーブルを把持してプラグ等を引き抜くことは、断線等を生じるので好ましくないとされており、例えば、引用例1の図2や、引用例2の第1図、3図に示すプラグ30のように、ケーブルと電極端子との間に絶縁性の把持部を設けることが周知である。
そこで、引用発明においても、電極部分の基端側に把持部を設け、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(相違点3について)
引用例1には、パップ層の抵抗が大で導電性が不充分な場合、所要の低周波治療効果が得られない虞れがある旨記載されている(記載b.参照)ことからみて、引用発明は、導電性のパップ層を介して患部に通電することを前提とし、導子(電極3)から直接人体に通電することを前提とするものではないといえるから、導子(電極3)の人体側を絶縁面とし、相違点3に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者がなんら困難なく想到し得たことである。
なお、板状で、その一面に導電面を有し、他面に絶縁面を有する電極は、例えば、引用例2、実公平6-14758号公報、特開平9-206384号公報に示すように、それ自体周知である。

(相違点4について)
低周波治療器に用いられる薄板状の電極において、ポリエステル等からなる支持体の一面に金属層を設け、この上にカーボン層を印刷あるいは塗布して導電面を形成したものは、例えば上記(相違点3について)で示した、実公平6-14758号公報(特に、4欄20?24行参照)や、特開平9-206384号公報(特に【0018】、【0020】?【0022】段落参照)に示すように周知である。
そこで、引用発明にかかる周知技術を適用し、導子(電極3)を、ポリエステル製の薄板の一面に金属層を設け、この上にカーボン層を印刷あるいは塗布して導電面を形成したものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、金属層としてステンレス製の導体を適用することは、当業者が適宜選択し得た設計的事項にすぎない。
ここで、例えば、上記特開平9-206384号公報の【0018】段落にも、「基材シート1としては、厚さ20?200μm程度の軟質合成樹脂シート」とあるように、かかる薄板状のポリエステルシートの厚さを0.1?0.2mm程度のものとすることは、支持体の可撓性等を勘案して当業者が必要に応じ適宜選定し得た設計的事項にすぎない。
また、ポリエステル製の薄板は非導電性可撓性材料でできた薄板であるといえるから、導電面を形成していない側の面は、それ自体絶縁性の面であるといえ、この面に「カラー印刷すること」は、その絶縁性になんら寄与しない事項であるといえるところ、このようにすることも、当業者が必要に応じ適宜なし得た設計的事項にすぎないといえる。
以上のとおり、引用発明に上記周知技術を適用し、相違点4に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明ないし引用例2?5に記載されたもの及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明ないし引用例2?5に記載されたもの及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下され、また、平成18年1月11日付け手続補正及び平成18年4月20日付け手続補正も、夫々原審及び当審で却下されているので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という)は、平成17年7月14日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「低周波電流を発生する治療器本体と、該治療器本体にケーブルを介して接続された導子とを備えた、患部に低周波の電流を流して治療する低周波治療器において、
前記導子は、先細薄板状で絶縁面と導電面とを有し前記絶縁面を前記患部の側に向けた状態で前記患部と該患部に貼着される導電性を有する粘着剤を着けたシートとの間に挿入されるような可撓性を有する電極部と、該電極部の基端側外周に設けられた厚みのある把持部とを有することを特徴とする低周波治療器。」

IV.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。

V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、「先細薄板状」の「電極部」についての、「0.1?0.2mmの厚み」であり「ポリエステル製の非導電性可撓性材料」からなる旨の限定事項と、「絶縁面」についての、「ポリエステル製の非導電性可撓性材料にカラー印刷することによって形成された」との限定事項と、「導電面」についての、「前記非導電性可撓性材料にステンレス製の導体を取り付けその外面に導電性のカーボンを印刷することによって形成された」との限定事項とを省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-3に記載したとおり、引用発明ないし引用例2?5に記載されたもの及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明ないし引用例2?5に記載されたもの及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明ないし引用例2?5に記載されたもの及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-22 
結審通知日 2008-05-26 
審決日 2008-06-06 
出願番号 特願2000-23633(P2000-23633)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61N)
P 1 8・ 575- WZ (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 蓮井 雅之
仲村 靖
発明の名称 低周波治療器  
代理人 小川 信夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 中村 稔  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 箱田 篤  
代理人 西島 孝喜  
代理人 大塚 文昭  

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