• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1181823
審判番号 不服2006-4388  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-09 
確定日 2008-07-24 
事件の表示 特願2003-136081号「低周波治療装置、低周波パルス出力方法、プログラム及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 2日出願公開、特開2004-337298号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年5月14日の出願であって、平成18年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。そして、当審において、平成20年2月29日付けで拒絶理由が通知され、同年4月25日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年4月25日付けの手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「身体の所定部位に電極を介して低周波パルス電圧を与えることにより
筋肉を収縮させて筋肉トレーニング又は筋肉マッサージを行うための治療を行う低周波治療装置において、
前記低周波パルスを出力して治療を行う治療回数及び治療時間を計測する計測手段と、
前記治療時間が設定され、当該治療時間のタイムアップを計測するタイマ手段と、
電源の遮断を検出する検出手段と、
施術者の設定した前記治療時間がタイムアップした場合であり、かつ前記電源がユーザにより遮断されずに前記治療時間が経過したとき、前記計測手段が計測した治療回数及び治療時間を取り込んで記憶する記憶手段と
を備えたことを特徴とする低周波治療装置。」

3.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-113115号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

ア.「【発明の属する技術分野】 本発明は、筋電図信号を測定したり、または電気的な刺激信号を身体の部位に伝達する電極を含む電気治療装置及び方法、及びそれを利用した筋電図バイオフィードバック装置及び方法に関し、より詳細には、尿失禁、性機能障害、骨盤筋肉痛、便泌及び便失禁などのような疾病を治療するために用いられる電極を含む電気治療装置及び電気治療装置が有する電気刺激機能及び筋電図バイオフィードバック機能を具現するために、バリアント方式を利用する電気治療装置及び方法に関する。」(段落【0001】)

イ.「【課題を解決するための手段】 前記目的を達成するため、本発明の一側面によれば、電気的な刺激信号を前記身体部位に伝達する電極を有する電気治療装置において、出力すべきエネルギー量に応じて選定される所定の印加電流/電圧の大きさと少なくとも一つの電気的パラメーターを変化させて生成される複数のプロトコル(信号波形仕様)及び前記複数のプロトコルを組み合わせて生成される複数のバリアント(variant)(異種組合せ波形仕様)の中、少なくとも一つを前記電極に選択的に割り当てるための中央制御手段と、前記割り当てられたプロトコルまたはバリアントを前記電極に出力するための出力手段とを有する電気治療装置が提供される。」(段落【0011】)

ウ.「本発明の電気治療装置400は、中央制御装置410、メモリ420、出力回路430、電極440及び表示及び入力部45(「表示及び入力部450」の誤り。)を有する。」(段落【0026】)

エ.「前記中央制御装置410では、電気信号の波形、周波数、パルス幅、デューティファクタ、印加電流/電圧の大きさ、通電期間、及び通電間の間隔が互いに異なるプロトコルライブラリを作る。前記可変される電気信号の波形、周波数、パルス幅、デューティー比、印加電流/電圧の大きさ、通電期間及び通電間の間隔は、治療の目的に応じてエネルギーで計算した後、適切に設定できる。
バリアント構成原理をさらに詳細に述べる。まず、ユーザが出力ポート412の出力可変装置を介してチャネル1とチャネル2の刺激強度を自分に適合するように調整し得るようにする。すなわち、表示部及び入力部450の中、入力装置を介して周波数、デューティー(「デューティー比」の誤り)、パルス幅、通電時間、通電間の間隔に対してユーザーが所望する値が入力され、表示及び入力部450の中、表示装置を介して確認された後、バリアント生成及び割当部411に伝送される。」(段落【0028】ないし【0029】)

オ.「前記一実施の形態でエネルギーは、1?20[mJ]まで変化し得るし、ユーザが決めた特定値における刺激強度は、1?30[Vm]、周波数は、1?1,000[Hz]、デューティ比は0?40[%]、パルス幅は10?1,000[usec]、通電時間は、0.1?30[sec]、波形は、二相波(Bi-phasic wave)、単相波(Mono-phasic wave)、矩形波(Square wave)、三角波(Triangular wave)から構成することができる。変数を組み合わせた多くのプロトコルの生成が可能である。通電期間間の間隔は、通電期間を含んで0?30[min]範囲にする。通電時間(Burst time)は、信号上昇時間(Ramp-Up)、信号最大時間(Plateau)、及び信号下降時間(Ramp-Down)を足した時間を意味する。」(段落【0036】)

カ.「バリアント作用は、各々のチャネルに対して単独または同時に適用されることができ、このような各チャネルに作用するバリアント特性で約15?30分程度の総治療時間の間連続する刺激順に電気刺激が続く場合、患者が認知する感じは、絶対不快でなく、内部的に電気生理学的現象によって出産などの理由で損傷された骨盤底筋の神経を再生させる機能をする。このような現象は電気刺激特有の電気生理学的効果とリズミカルなマッサージ効果が結合された独特の感じが得られる。
この場合、前記バリアントを構成するプロトコルの場合、構成周波数が特定の周波数のみを繰り返して割り当てるのではなく、1?1000Hzが均一に分布するようにし、特に、1?200Hzの低周波数が分布するように割り当てる。これは人に応じて効果的な周波数が比較的低い周波数帯域に偏重したとしても、特定の周波数に固定されるのではないためである。すなわち、損傷された骨盤神経の再生及び骨盤底筋の収縮と弛緩を誘発する周波数は、1?1000Hz帯域、特に、1?200Hzの低帯域周波数であり、特定の周波数に限定されない。したがって、このような周波数で骨盤底筋を刺激する時、ほとんどの人に対する治療周波数を含むことができるので、一貫性があり安定した治療結果が得られる。」(段落【0058】ないし【0059】)

これらの記載事項を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「電気的な刺激信号を身体の部位に伝達する電極440を介して1?200Hzの低帯域周波数のパルス電圧により電気刺激特有の電気生理学的効果とリズミカルなマッサージ効果を奏することで、骨盤筋肉痛などのような疾病を治療する電気治療装置400において、
電気治療装置400は、中央制御装置410、メモリ420、出力回路430、及び表示及び入力部450を備え、表示部及び入力部450の入力装置を介して、ユーザ自ら周波数、デューティー比、パルス幅、通電時間、通電間の間隔、通電期間に対して所望する値を入力できる電気治療装置。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-079768号公報(以下、「引用例2」という)には、次の事項が記載されている。

キ.「図1において、1は、本発明の尿失禁防止用刺激装置の全体を示し、以下のように構成される。2は刺激出力部で、電極Ea、Ebが接続され、この電極を患者の所定部位に装着し、電極Ea、Ebに電気刺激信号を出力する。3は、例えば可変抵抗器で構成される刺激強度設定部で、刺激出力部2から出力される電気刺激信号の強さを患者自身が任意に調節を行うものである。電極Ea及びEbの数は2つに限らず、患者の症状に合わせて追加すればよい。」(段落【0019】)

ク.「5は刺激条件設定部で、例えば複数の入力キーを備えたキーパッド等で構成され、医師や医療従事者が患者自身の尿失禁状態に合わせて、刺激強度、刺激時間、刺激信号のパルス幅等の刺激条件を任意に設定できるようになっている。この刺激条件設定部5を設けることにより、外部機器に接続しなくても、刺激条件の設定や変更を行うことができ、利便性が高くなる。」(段落【0022】)

ケ.「6bは記憶部で、例えばEEPROM(電気的消去可能なROM )或いはバッテリーバックアップしたRAM から成り、イベント情報、刺激条件及びこの刺激条件により実際に刺激が行われた刺激履歴情報を記憶する。」(段落【0028】)

コ.「刺激コントロール部6eは、インタフェース6fからパーソナルコンピュータ等の外部機器を介して入力される刺激条件を記憶する、例えばバッテリーバックアップしたRAM 等のメモリを備えている。刺激条件は、外部機器からインターフェース6fを介して入力し、予め尿失禁の原因・重症度に応じて変化させ、患者毎に設定される。刺激条件の変更は、前述した刺激条件設定部5(図1)でも行える。」(段落【0031】)

サ.「次に、前述した図1及び図2の実施例の構成の作用について説明する。電極Ea及びEbを患者の所定部位に装着し、電源スイッチ8をオンにする。中央制御部6内の刺激コントロール部6eには、患者に応じた刺激条件をインターフェース6fを介して外部機器により設定し、予め記憶しておく。刺激治療を行う場合には、タイミングコントロール部6aにより刺激信号のタイミングが制御され、刺激出力部2及び電極Ea、Ebを介して患者の所定部位に刺激が行われる。」(段落【0034】)

シ.「記憶されたイベント情報、刺激条件及び刺激履歴情報は、表示装置7に送出されて表示されるが、この内イベント情報と刺激履歴情報を組み合わせることにより、例えば治療効果を表すグラフが表示できる。このグラフを観測することにより、治療効果があったか否か容易に判定が可能となる。」(段落【0038】)

ス.「更に、図4Dは、例えば色別による毎日の刺激強度の適性状態を示すグラフの表示例である。例えば、指定の刺激強度で刺激が行われていた場合には、青色で表示し、指定の刺激強度以下で行われていた場合には、黄色(図中、斜線で示す)で表示する。また、図中、バーの中の数字は刺激時間を表し、バー上部の数字は刺激回数を表している。また、バーの各時間との境界部は、例えば黒い太線で表示して判別を容易にする。前述したように、指定刺激強度(許容最大刺激強度)に設定してこれを越えないように制限できるため、刺激強度の適性状態は2種類の表示で十分である。このように、刺激強度を色分け表示し、刺激時間をバーの内部に且つ刺激回数をバーの上部に表示することにより、刺激状態が適性か否か一目で判定できる。
図3及び図4のグラフの使用法として、例えば最初に図3A,3B及び図4Cの各グラフの表示例を観測する。これにより刺激の効果が判るので、有効である場合にはそのまま刺激による治療を継続する。図3A,3B及び図4Cのグラフにより効果が得られないと判断された場合、図4Dのグラフを表示させることより、指示通りの刺激強度、刺激時間及び刺激回数が行われていたか判る。・・・(後略)」(段落【0042】乃至【0043】)

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者における「電極440」は、その構成・機能からみて、前者の「電極」に相当し、同様に「1?200Hzの低帯域周波数のパルス電圧」は「低周波パルス電圧」に、「電気刺激特有の電気生理学的効果とリズミカルなマッサージ効果を奏する」は「筋肉を収縮させて」、「筋肉マッサージを行う」に、「骨盤筋肉痛などのような疾病を治療する」は「治療を行う」に、「電気治療装置400」は「治療装置」に、「メモリ420」は「記憶手段」に、「ユーザ」は「ユーザー」にそれぞれ相当する。
また、引用発明は、「電極440」を介して、「1?200Hzの低帯域周波数のパルス電圧」を「電気的な刺激信号」として「身体の部位に伝達」しているから、本願発明の「身体の所定部位に電極を介して低周波パルス電圧を与える」構成を備えているといえる。
また、引用発明の「電気治療装置400」は、「ユーザ自ら」「通電時間、通電間の間隔に対して所望する値を入力できる」ものであり、また、「通電期間間の間隔は、通電期間を含んで0?30[min]範囲」(記載事項「オ.」参照。)であるから、引用発明は、一回の治療時間が設定され、設定された時間内において身体の所定部位に電極を介して低周波パルス電圧を供給している。よって、引用発明も本願発明の「治療時間が設定され、当該治療時間のタイムアップを計測するタイマ手段」を備えているといえる。

したがって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
「身体の所定部位に電極を介して低周波パルス電圧を与えることにより筋肉を収縮させて筋肉マッサージを行うための治療を行う低周波治療装置において、
治療時間が設定され、当該治療時間のタイムアップを計測するタイマ手段と、記憶手段と
を備えた低周波治療装置。」

そして、両者は次の相違点で相違している。

(相違点)
本願発明は、低周波パルスによる治療回数及び治療時間を計測する計測手段と、電源の遮断を検出する検出手段とを備え、施術者の設定した治療時間がタイムアップした場合であり、かつ、電源がユーザにより遮断されずに前記治療時間が経過したとき、前記計測手段が計測した治療回数及び治療時間を取り込んで記憶手段に記憶しているのに対し、引用発明は、電源の遮断を検出する検出手段を備えておらず、記憶手段を備えているが、施術者の設定した治療時間がタイムアップした場合であり、かつ、電源がユーザにより遮断されずに前記治療時間が経過したとき、計測した治療回数及び治療時間を取り込んで記憶するものではない点。

以下、上記相違点について検討する。
上記記載事項「キ.」ないし「ス.」からみて引用例2に記載の発明は、患者の所定部位に電極Ea及びEbを装着し、複数の入力キーを備えた刺激条件設定部5において、医師や医療従事者が患者の状態に合わせて予め刺激強度、刺激時間、刺激信号のパルス幅等の刺激条件を任意に設定し、刺激条件設定部5で設定された刺激条件に従い、刺激出力部2及び電極Ea、Ebを介して、患者の所定部位に電気刺激を行う電気刺激装置において、治療効果を測定するために、前記医師や医療従事者が設定した条件で電気刺激を行った際の治療時間、及び、治療回数を刺激履歴情報として記憶部6bに記憶する点が記載されている。
また、引用例2の上記記載事項「キ.」の「3は、例えば可変抵抗器で構成される刺激強度設定部で、刺激出力部2から出力される電気刺激信号の強さを患者自身が任意に調節を行うものである。」の記載、上記記載事項「ス.」の「更に、図4Dは、例えば色別による毎日の刺激強度の適性状態を示すグラフの表示例である。例えば、指定の刺激強度で刺激が行われていた場合には、青色で表示し、指定の刺激強度以下で行われていた場合には、黄色(図中、斜線で示す)で表示する。」、および、「図3及び図4のグラフの使用法として、例えば最初に図3A,3B及び図4Cの各グラフの表示例を観測する。これにより刺激の効果が判るので、有効である場合にはそのまま刺激による治療を継続する。図3A,3B及び図4Cのグラフにより効果が得られないと判断された場合、図4Dのグラフを表示させることより、指示通りの刺激強度、刺激時間及び刺激回数が行われていたか判る。」の記載から、引用例2に記載の発明は、医師や医療従事者が設定した刺激条件により、患者が指示通りの刺激を実行した際の刺激履歴情報と、患者自身が任意に調節した刺激条件により刺激を実行した際の刺激履歴情報を区別して記憶しているから、医師や医療従事者が設定した刺激条件で患者自身が刺激を実行したか否かが判別できることが明らかである。
また、引用発明も引用例2に記載され発明も、患者の所定部位に電気パルスによる電気刺激を与え、患者の治療を行うものであるから、引用例2の治療効果を測定するために、患者が実行した刺激条件を刺激履歴情報として記憶部に記憶する点を、引用発明の記憶手段に採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえ、その際、患者が医師や医療従事者が設定した刺激条件で患者自身が刺激を実行したか否かの確認を容易にするために、医師や医療従事者が設定した刺激条件で患者が刺激を実行した刺激履歴情報だけを記憶手段に記憶する構成とすることも、当業者であれば適宜になし得た程度のことである。

よって、引用例2に記載された発明の上記の事項を引用発明に適用し、上記相違点に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、本願発明の効果も、引用発明、および、引用例2に記載の発明に基いて当業者が予測し得る範囲内のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明、および、引用例2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-23 
結審通知日 2008-05-27 
審決日 2008-06-10 
出願番号 特願2003-136081(P2003-136081)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 智宏  
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 仲村 靖
蓮井 雅之
発明の名称 低周波治療装置、低周波パルス出力方法、プログラム及び記録媒体  
代理人 青山 正和  
代理人 高橋 詔男  
代理人 鈴木 三義  
代理人 西 和哉  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 西 和哉  
代理人 鈴木 三義  
代理人 青山 正和  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  
代理人 村山 靖彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ