• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03F
審判 全部無効 2項進歩性  G03F
管理番号 1181878
審判番号 無効2007-800242  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-31 
確定日 2008-07-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第3754065号発明「光重合性組成物及びこれを用いたカラーフィルター」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3754065号の請求項1ないし請求項6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成17年 8月17日 特許出願:特願2005-236675
(特願2004-113380号の一部を新た に特許出願としたもの)
[優先日;平成15年6月10日、平成15年 10月1日]
平成17年12月 2日 特許査定
平成17年12月22日 設定登録(特許第3754065号)
平成19年11月 1日 特許無効審判請求(無効2007-80024 2号)
平成20年 1月28日 答弁書提出(被請求人)

第2.本件発明
本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」、「本件発明5」、「本件発明6」という。)は、願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(a)黒色色材、(b)有機結合材、(c)光重合開始剤及び(e)塩基性官能基を有する高分子分散剤を含有する光重合性組成物であって、(b)有機結合材がカルボキシル基を有するエポキシアクリレート樹脂であり、(c)光重合開始剤が一般式(6)で示されるオキシムエステル系化合物であることを特徴とする光重合性組成物。
【化1】

(式中、R^(1)は、置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基であり、R^(2)は、それぞれ置換されていてもよい炭素数2?10のアルカノイル基、炭素数7?20のベンゾイル基であり、R^(10)は、互いに独立して、水素原子、それぞれ置換されていてもよい炭素数1?12のアルキル基、炭素数2?4のヒドロキシアルキル基、炭素数3?5のアルケニル基又は炭素数6?20のフェニル基を示し、R^(10)は、R^(10)が結合している窒素原子を介して結合する芳香族環の双方又は一方の更なる置換基又は芳香族環の炭素原子の一つと結合して環構造を形成してもよく、R^(12)、R^(13)、R^(14)及びR^(15)は、互いに独立して、水素原子、それぞれ置換されていてもよい炭素数6?20のフェニル基、炭素数1?10のアルキル基、炭素数5?8のシクロアルキル基、炭素数2?20のアルカノイル基、炭素数7?20のベンゾイル基、炭素数2?12のアルコキシカルボニル基、炭素数7?20のフェノキシカルボニル基、炭素数1?20のアミド基又はニトロ基を示す。)
【請求項2】
光重合性組成物が、更に(d)光重合性単量体を含有することを特徴とする請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項3】
(b)有機結合材が、エポキシ樹脂にα,β-不飽和モノカルボン酸又はエステル部分にカルボキシル基を有するα,β-不飽和モノカルボン酸エステルを付加させ、さらに、多塩基酸無水物を反応させることにより合成されるエポキシアクリレート樹脂である請求項1又は2に記載の光重合性組成物。
【請求項4】
(b)有機結合材が、ノボラック型エポキシ樹脂及び/又は下記式(7)で示されるエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるエポキシアクリレート樹脂である請求項1?3のいずれか1項に記載の光重合性組成物。
【化2】

【請求項5】
透明基板上に、請求項1?4のいずれか1項に記載の光重合性組成物により形成されたブラックマトリックスを有することを特徴とするカラーフィルター。
【請求項6】
請求項5に記載のカラーフィルターを用いて形成された液晶表示装置。」

第3.請求人の主張の概要、及び、請求人が提出した証拠
1.請求人の主張の概要
(1)無効理由1
本件特許明細書の請求項1ないし請求項6に記載された発明は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件特許明細書の実施例2の説明と表1の記載とは整合しておらず、本件特許明細書に記載された実施例2は、本件発明の技術的手段を具体的に示すものとは言えないし、仮に実施例2が本件発明の実施例に該当するものと解したとしても、本件特許明細書には、僅か2種の光重合性組成物が記載されているだけであるから、本件特許明細書は、実施例によって支持される範囲以外の発明態様について、同様に本件発明の作用効果が得られることが明らかにされておらず、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

2.証拠方法
(1)甲第1号証: 国際公開パンフレットWO02/100903A1
(公開日:平成14年12月19日)
なお、甲第1号証の訳文として特表2004-534 797号公報(甲第1号証の2)も提出されている。
(2)甲第2号証: THE IP.com Journal;June 2003,Volume 3 Number 6,
pp101-109(IPCOM000012462D)
公開日:平成15年5月8日
(3)甲第3号証: 特開平11-84126号公報
(4)甲第4号証: 特開平8-278629号公報
(5)甲第5号証: 特開平10-213898号公報
(6)甲第6号証: 特開平10-300923号公報
(7)甲第7号証: 特開平10-82908号公報
(8)甲第8号証: 特開平11-323144号公報
(9)甲第9号証: 特開2002-220408号公報
(10)甲第10号証: 特願2005-236675号について提出され た平成17年8月22日付け早期審査に関する事 情説明書

第4.被請求人の主張の概要、及び、被請求人が提出した証拠
1.被請求人の主張の概要
(1)無効理由1について
(1-1)本件特許明細書の請求項1ないし請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、又は甲第2号証に記載された発明と甲第3号証ないし甲第9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(1-2)本件特許明細書の請求項1ないし請求項6に係る発明は、甲第3号証ないし甲第8号証に記載された発明に、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)無効理由2について
本件特許発明に係る光重合性組成物の代表的な実施例として、実施例1及び実施例2が記載されており、このような光重合性組成物によれば、「薄膜において高遮光性でありながら感度、解像性に優れるため、低コストで高品質の樹脂BMを形成することができる」という本件特許発明の効果が得られることを当業者において認識できる程度の具体例の開示がなされているので、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。

2.被請求人が提出した証拠
(1)乙第1号証: 特開2003-107230号公報
(2)乙第2号証: 特開平9-166869号公報
(3)乙第3号証: 実験成績証明書

第5.当審の判断
1.無効理由1について
(1)甲第3号証に記載された事項(下線は当審で付与。)
(1-a)「【請求項1】 (a)黒色色材、(b)カルボキシル基を有するノボラックエポキシアクリレート、(c)光重合開始剤及び(d)エチレン性不飽和基を一個以上有する化合物、を含有することを特徴とするカラーフィルター用光重合性組成物。
【請求項2】 (a)黒色色材がカーボンブラックである請求項1に記載のカラーフィルタ用光重合性組成物。
【請求項3】 (a)黒色色材の含有量が全固形分の35?70wt%である請求項1又は2記載のカラーフィルタ用光重合性組成物。
【請求項4】 (c)光重合開始剤がビイミダゾール誘導体を含有することを特徴とする請求項1?3記載のカラーフィルタ用光重合性組成物。
【請求項5】 (c)光重合開始剤が更に多官能チオールを含有することを特徴とする請求項4記載のカラーフィルタ用光重合性組成物。
【請求項6】 更に塩基性官能基を有する高分子分散剤を含有することを特徴とする請求項1?5記載のカラーフィルタ用光重合性組成物。
【請求項7】 基板上に請求項1?6のいずれかに記載の光重合性組成物により形成されてなるブラックマトリックスを有することを特徴とするカラーフィルタ。」

(1-b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はカラーテレビ、液晶表示素子、固体撮像素子、カメラ等に使用される光学的カラーフィルターの製造で使用されるカラーフィルター用光重合性組成物及び該組成物より得られるカラーフィルタに係り、詳しくは、高遮光性でありながら高感度で現像性に優れたブラックマトリックス製造に適したカラーフィルター用光重合性組成物及び高精度、高遮光性の樹脂ブラックマトリックスを有するカラーフィルタに関する。」

(1-c)「【0011】樹脂ブラックマトリックスのように光全波長領域において遮光能力が要求される場合では、1)露光部分と未露光部分における架橋密度の差をつけるのが著しく困難なこと、2)露光された部分でも膜厚方向に対する架橋密度の差が発生すること、つまり、光照射面で十分硬化しても、基底面では硬化しないこと、3)現像液に不溶な多量な黒色色材を配合するため現像性の低下が著しいこと等、著しく感光特性を付与する上で障害となっている。」

(1-d)「【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述の問題点を解決し薄膜、高遮光性を有するパターンをフォトリソグラフィー法で容易に形成でき、十分な感度、解像性、現像性、耐久性をもつレジスト材料を提供するものであり、カラーフィルターの樹脂ブラックマトリックスを高精度、低コストで製造可能とするものである。また、ブラックマトリックスを樹脂化することによりカラーフィルターの高画質化、無公害化をはかるものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意研究を進めた結果、バインダー樹脂としてカルボキシル基を有するノボラックエポキシアクリレートを含有する光重合組成物がかかる目的を解決しえることを見出し発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は、(a)黒色色材、(b)カルボキシル基を有するノボラックエポキシアクリレート、(c)光重合開始剤及び(d)エチレン性不飽和基を一個以上有する化合物、を含有することを特徴とするカラーフィルター用光重合性組成物及びそれを用いたカラーフィルターに存する。」

(1-e)「【0020】本発明に於て、カルボキシル基を有するノボラックエポキシアクリレート樹脂はノボラックエポキシ樹脂に不飽和モノカルボン酸を付加させ、さらに、多塩基酸無水物を反応させることにより得られる樹脂である。ノボラックエポキシ樹脂は(o,m,p-)クレゾールノボラックエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、ナフトール変性ノボラックエポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラックエポキシ樹脂等を好適に用いることができる。好ましい分子量は、GPCで測定した重量平均分子量で300?100000の範囲である。分子量が上記範囲未満であると皮膜形成性に問題を生じる場合が多く、逆に、上記範囲を越えた樹脂では不飽和モノカルボン酸付加反応時にゲル化が起こりやすく製造が困難となるおそれがある。
【0021】不飽和モノカルボン酸としてはイタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸2-サクシノロイルオキシエチル、メタクリル酸2-マレイノロイルオキシエチル、メタクリル酸2-フタロイルオキシエチル、メタクリル酸2-ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル等を挙げることができる。これらの中では特にアクリル酸が反応性に富むため好ましい。
【0022】不飽和モノカルボン酸のノボラックエポキシ樹脂への付加反応は公知の手法を用いることができ、例えば、エステル化触媒存在下、50?150℃の温度で反応させることができる。エステル化触媒としてはトリエチルアミン、トリメチルアミン、ベンジルジメチルアミン、ベンジルジエチルアミン等の3級アミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩等を用いることができる。
【0023】不飽和モノカルボン酸の付加量はノボラックエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対し0.5?1.2当量の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.7?1.1当量の範囲である。不飽和モノカルボン酸の付加量が上記範囲からずれると硬化特性が悪化する傾向が認められる。不飽和カルボン酸が付加したノボラックエポキシ樹脂に付加させる多塩基酸無水物としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等がある。多塩基酸無水物の付加反応に関しても公知の手法を用いることができ、不飽和モノカルボン酸の付加反応と同様な条件下で継続反応させることにより得ることができる。多塩基酸無水物の付加量は樹脂酸価が10?150mgKOH/gの範囲となるのが好ましく、更に20?140mgKOH/gが特に好ましい。樹脂酸価が上記範囲以下であるとアルカリ現像性に乏しくなり、また、上記範囲を越えると硬化性能に劣る傾向が認められる。」

(1-f)「【0024】光重合開始剤は、活性光線照射によりエチレン性不飽和二重結合を重合させる活性ラジカルを生じる化合物である。・・・。
【0025】これらの化合物の中でビイミダゾール誘導体、チタノセン誘導体、トリアジン誘導体、オキサジアゾール誘導体が特に感度、解像性、現像性、密着性に優れた性能を示すため好ましい。これらの中でも特にビイミダゾール誘導体が優れた性能を示すため好ましい。」

(1-g)「【0028】さらに、上記光重合開始剤に多官能チオールを開始系の一部として使用することにより高遮光下においても均一な光硬化反応を起こすことができるため添加するのは好ましい。・・・。
【0029】エチレン性不飽和基を一個以上有する化合物(以下、エチレン性化合物という)としては、脂肪族(ポリ)ヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル、芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル、不飽和カルボン酸と多価カルボン酸と脂肪族ポリヒドロキシ化合物により得られるエステル、芳香族ポリヒドロキシ化合物のエチレンオキシド、プロピレンオキシド付加物と不飽和カルボン酸とのエステル化反応、脂肪族ポリヒドロキシ化合物のエチレンオキシド、プロピレンオキシド付加物と不飽和カルボン酸とのエステル化反応、カプロラクトン変性多価アルコールと不飽和カルボン酸とのエステル、多価アルコールと多価イソシアナートと不飽和カルボン酸との反応物、スチリル末端化合物、含リン酸不飽和化合物、ポリエポキシと不飽和カルボン酸との付加物等が挙げられる。
【0030】これらのうち、脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステルとしては具体的には、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、グリセロールアクリレート等のアクリル酸エステル、これら例示化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたメタクリル酸エステル、同様にイタコネートに代えたイタコン酸エステル、クロトネートに代えたクロトン酸エステルもしくはマレエートに代えたマレイン酸エステル等が挙げられる。」(本件特許明細書に記載のものには下線を付した。)

(1-h)「【0034】以上、挙げた本発明組成物の好ましい配合量はカルボキシル基を有するノボラックエポキシアクリレート樹脂100重量部に対して光重合開始剤は0.1?50重量部、好ましくは1?45重量部、エチレン性化合物は10?200重量部、好ましくは20?180重量部である。また、黒色色材は溶剤を除いた全固形分中の35?70wt%、より好ましくは40?65%の範囲である。」

(1-i)「【0039】本発明ではこれら必須成分以外に顔料分散剤、密着向上剤、塗布性向上剤、現像改良剤等を好適に添加することができる。特に、本組成物では黒色色材を微細に分散し、且つ、その分散状態を安定化させることが品質安定上重要なため顔料分散剤を配合するのが望ましい。
【0040】顔料分散剤は顔料及びバインダー樹脂双方に親和性を有するものであり、ノニオン、カチオン、アニオン等の界面活性剤、高分子分散剤等が挙げられるが、なかでも、高分子分散剤が好ましく、特に一級、二級、若しくは三級アミノ基、ピリジン、ピリミジン、ピラジン等の含窒素ヘテロ環等の塩基性官能基を有する高分子分散剤が有利に使用される。」

(1-j)「【0059】次に上記分散処理により得られた黒色インキとレジスト成分として必要な上記の他の成分を添加、混合し均一な溶液とする。製造工程においては微細なゴミが感光液に混じることが多いため、得られたレジスト感光液はフィルター等により濾過処理するのが望ましい。続いて、本発明のカラーフィルター用光重合性組成物を用いたカラーフィルターの製造方法について説明する。
【0060】まず、透明基板上に、本発明の遮光膜用光重合性組成物をスピナー,ワイヤーバー,フローコーター,ダイコーター,ロールコーター,スプレー等の塗布装置により塗布して乾燥した後、該試料の上にフォトマスクを置き、該フォトマスクを介して画像露光,現像,必要に応じて熱硬化或いは光硬化により遮光用ブラックマトリクス画像を形成させ、さらにこの操作をRGB3色について各々繰り返し、カラーフィルター画像を形成させる。
【0061】なお、本発明の光重合性組成物を用いてカラーフィルターの画素を形成する場合には、非常に高感度、高解像力であるため、ポリビニルアルコール等の酸素遮断層を設けることなしに露光、現像して画像を形成することが可能である。ここで用いる透明基板は、カラーフィルター用の透明基板であり、その材質は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルやポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン等、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホンの熱可塑性プラスチックシート、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂等の熱硬化性プラスチックシート、或いは各種ガラス板等を挙げることができる。特に、耐熱性の点からガラス板、耐熱性プラスチックが好ましく用いられる。」

(1-k)「【0066】
【実施例】以下実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】合成例-1(分散樹脂溶液の調製)
トリレンジイソシアネートの三量体(三菱化学(株)製マイテックGP750A、樹脂固形分50wt%、酢酸ブチル溶液)32gと触媒としてジブチルチンジラウレート0.02gをPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)47gで希釈溶解した。攪拌下に、これに、片末端がメトキシ基となっている数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(日本油脂(株)製、ユニオックスM-1000)14.4gと数平均分子量1,000のポリプロピレングリコール(三洋化成工業(株)製、サンニックスPP-1000)9.6gとの混合物を滴下した後、70℃でさらに3時間反応させた。次に、N,N-ジメチルアミノ-1,3-プロパンジアミン1gを加え、40℃でさらに1時間反応させた。このようにして得られた分散樹脂を含有する溶液のアミン価を中和滴定によりもとめたところ14mgKOH/gであった。また樹脂含有量をドライアップ法(150℃で30分間、ホットプレート上で溶剤を除去し重量変化量により樹脂濃度を算出)により求めたところ樹脂含有量は40wt%であった。
【0068】合成例-2
エポキシ当量200g/eq、軟化点65℃のo-クレゾールノボラックエポキシ樹脂200g、アクリル酸72g、p-メトキシフェノール0.2g、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド0.2g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート272gをフラスコに仕込み100℃の温度で8時間反応させた(エポキシ基1当量に対し、アクリル酸1当量が反応)。さらに、テトラヒドロ無水フタル酸42gを加え80℃で3時間反応させた。この反応液を水に再沈殿、真空乾燥させてカルボキシル基を有するノボラックエポキシアクリレート樹脂を得た。KOHによる中和滴定を行ったところ樹脂の酸価は50mgKOH/gであった。
【0069】合成例-3
テトラヒドロ無水フタル酸の添加量を63gとした以外は合成例-2と同様にして反応を行った。得られた樹脂酸価は70mgKOH/gであった。
合成例-4
テトラヒドロ無水フタル酸の添加量を101gとした以外は合成例-2と同様にして反応を行った。得られた樹脂酸価は100mgKOH/gであった。
【0070】(カーボンブラックの分散)カーボンブラックMA-220(三菱化学(株)製)50重量部、合成例-1に示した分散樹脂を固形分として5重量部の割合で、かつ固形分濃度が50wt%となるようにカーボンブラック、分散樹脂溶液、PGMEAを加えた。分散液の重量は50gであった。これを攪拌機によりよく攪拌しプレミキシングを行った。次に、ペイントシェーカーにより25?45℃の範囲で6時間分散処理を行った。ビーズは0.5mmφのジルコニアビーズを用い、分散液と同じ重量を加えた。分散終了後、フィルターによりビーズと分散液を分離した。
【0071】実施例1?3及び比較例1
レジスト液の調合
上述したカーボンブラック分散インキを用いて固形分として下記の配合割合となるように各成分を加えスターラーにより攪拌、溶解させ、ブラックレジスト感光液を調整した。
1)レジストの組成
【0072】
【表1】
顔料
カーボンブラック MA-220(三菱化学(株)製) 50g
バインダー樹脂
(表-1に記載) 25g
アクリルモノマー;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 15g
光重合開始剤
・2-(2′-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体 2g
・4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン 1g
・ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート 1g
溶剤
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 300g
高分子分散剤(合成例-1) 5g
界面活性剤 FC-430(住友3M社製) 100ppm
【0073】2)レジストの評価
ブラックレジスト感光液をスピンコーターにてガラス基板(7059、コーニング社製)に塗布し、ホットプレートで80℃、1分間乾燥した。乾燥後のレジストの膜厚を触針式膜厚計(α-ステップ、テンコール社製)で測定したところ1μであった。次に、このサンプルをマスクを通して高圧水銀灯で露光量を変えて像露光した。温度25℃、濃度0.05%の水酸化カリウム水溶液に1分間浸漬現像しレジストパターンを得た。
【0074】1.感度
20μのマスクパターンを寸法通り形成できる露光量(適正露光量)をもって感度とした。すなわち、露光量の少ないレジストは低露光量で画像形成が可能であるため高感度であることを示す。
【0075】2.解像力
20μのマスクパターンを忠実に再現する露光量における解像可能なレジスト最小パターン寸法を200倍の倍率で顕微鏡観察した。最小パターン寸法が10μ以下を解像力○、10μを超えるものを×とした。
【0076】3.遮光性
画線部の光学濃度(OD)をマクベス反射濃度計 TR927(コルモルグン社製)で測定した。なお、OD値は遮光能力を示す数値であり数値が大きい程高遮光性であることを示す。
【0077】4.密着性
セロテープ試験(セロテープをレジストパターン上に貼り付けた後セロテープを引き剥がす)により密着性を評価した。レジストパターンが剥離しないものを○、剥離のみられるものを×とした。
【0078】5.光沢値
光沢計(ビックケミー社)にて乾燥後のブラックレジスト表面の20度光沢値を測定した。尚、実施例1?3のブラックレジスト感光液を使用してガラス基板上にブラックマトリックスを形成し、次いで赤、緑、青の各画素を形成することにより遮光性に優れたブラックマトリックスを有するカラーフィルターを製造できた。
【0079】
【表2】
表-1
┌────┬───────┬───┬───┬───┬───┬───┐
│ │バインダー樹脂│感 度│解像力│遮光性│密着性│光沢値│
├────┼───────┼───┼───┼───┼───┼───┤
│実施例-1│合成例-2 │100mj │ ○ │ 3.5 │ ○ │ 130 │
├────┼───────┼───┼───┼───┼───┼───┤
│実施例-2│合成例-3 │100mj │ ○ │ 3.5 │ ○ │ 130 │
├────┼───────┼───┼───┼───┼───┼───┤
│実施例-3│合成例-4 │100mj │ ○ │ 3.5 │ ○ │ 130 │
├────┼───────┼───┼───┼───┼───┼───┤
│ スチレン・アクリル │
│比較例-1 酸樹脂 × *1 × - - 130 │
│ (Mw=5000、酸化220) │
└────┴───────┴───┴───┴───┴───┴───┘
*1:20μの画像形成不可 」

(1-l)「【0080】
【発明の効果】本発明のカラーフィルター用レジスト組成物は、薄膜において高遮光性でありながら感度、現像性、解像性、密着性、耐久性に優れるため、低コストで高品質の樹脂ブラックマトリックスを形成することができる。本発明の樹脂ブラックマトリクスを用いたカラーフィルターは精度、平坦性、耐久性において優れるため、従来以上に液晶素子の表示品位を向上させることができる。また、製造工程およびカラーフィルター自体にも有害な物質を含まないため、人体に対する危険性を低減し環境安全性を向上させるものである。」

以上の摘記事項を総合して勘案すると、甲第3号証には、以下の各発明が実質的に記載されている。

(1-1)甲第3号証第1発明
甲第3号証には以下の発明(以下、「甲第3号証第1発明」という。)が実質的に記載されている。
「(a)黒色色材、(b)有機結合材、(c)光重合開始剤及び(e)塩基性官能基を有する高分子分散剤を含有する光重合性組成物であって、(b)有機結合材がカルボキシル基を有するエポキシアクリレート樹脂であり、(c)光重合開始剤が感度、解像性、現像性、密着性に優れた性能を示すビイミダゾール誘導体を含有する光重合性組成物。」

(1-2)甲第3号証第2発明
上記(1-f)を参照すると、甲第3号証には光重合性組成物に光重合性単量体を含有させることも記載されているから、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲第3号証第2発明」という。)が実質的に記載されている。
「甲第3号証第1発明に係る光重合性組成物において、更に(d)光重合性単量体を有する光重合性組成物。」

(1-3)甲第3号証第3発明
上記(1-e)に、光重合性組成物における有機結合材が、エポキシアクリレート樹脂であって、ノボラックエポキシ樹脂に不飽和モノカルボン酸としてイタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、アクリル酸、メタクリル酸を付加させ、さらに、多塩基酸無水物を反応させることにより合成されることが記載されており、さらに本件特許明細書の段落【0034】に、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、アクリル酸、メタクリル酸はα,β-不飽和モノカルボン酸であると記載されているから、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲第3号証第3発明」という。」も実質的に記載されている。
「甲第3号証第1発明に係る有機結合材が、エポキシ樹脂にα,β-不飽和モノカルボン酸を付加させ、さらに、多塩基酸無水物を反応させることにより合成されるエポキシアクリレート樹脂である光重合性組成物。」

(1-4)甲第3号証第4発明
上記(1-a)等により、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲第3号証第4発明」という。)が実質的に記載されている。
「甲第3号証第1発明に係る有機結合材がノボラック型エポキシ樹脂である光重合性組成物。」

(1-5)甲第3号証第5発明
上記(1-j)等を参酌すると、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲第3号証第5発明」が実質的に記載されている。
「透明基板上に甲第3号証第1発明に係る光重合性組成物により形成されたブラックマトリックスを有するカラーフィルター。」

(1-6)甲第3号証第6発明
上記(1-a)に、液晶表示装置に適用されることが記載されていることを勘案すると、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲第3号証第6発明」という。)も実質的に記載されている。
「甲第3号証第1発明に係る光重合性組成物により形成されたブラックマトリックスを用いて形成された液晶表示装置。」

(2)甲第1号証に記載された事項(なお、摘記箇所に対応する特表2004-534797号公報[公表日:平成16年11月18日]の対応箇所を参考のために併記しておく。)
(2-a)「The invention pertains to new oxime ester compounds having a combined structure with alkyl aryl ketone, diaryl ketone or ketocoumarin, and their use as photoinitiators in photopolymerizable compositions.」(公報第1頁第2行ないし第4行)[本発明は、アルキルアリールケトン、ジアリールケトンまたはケトクマリンと組み合わされた構造を有する新規なオキシムエステル化合物、および光重合性組成物中の光開始剤としてのその用途に関する。]

(2-b)「Since in either case, no gap is formed between the picture elements which are formed formerly and those which are formed later, the composition of the present invention is suitable for, for example, forming material for a color filter. To be concrete, the coloring matters, dyes and pigments of red, green and blue colors are added to the light-sensitive resin composition of the present invention, and the processes for forming an image are repeated to form the picture elements of red, green and blue colors. Then, the light-sensitive resin composition to which, for example, the black coloring materials, dyes and pigments are added is provided on an overall face. An overall exposure(or a partial exposure via a light-shielding mask) can be provided thereon to form the picture elements of a black color all over the spaces(or all but a partial region of the light-shielding mask) between the picture elements of red, green and blue colors.」(公報第41頁第7行ないし第17行)[いずれの場合も、先に形成される画素と、後に形成されるそれとの間に間隙が全く形成されないことから、本発明の組成物は、例えば、カラーフィルタの形成材料に適する。具体的には、赤、緑、青色の着色物質、染料および顔料を、本発明の感光性樹脂組成物に添加し、画像を形成する工程を反復して、赤、緑および青色の画素を形成する。そうして、例えば黒色の着色材料、染料および顔料を加えた、感光性樹脂組成物を全体的な表面に付与する。全体的な露光(または遮光マスクを介しての部分露光)をその上に施して、黒色の画像を、赤、緑および青色の画粗の間の空間全体(又は遮光マスクの部分的領域以外の全体)に形成することができる。]

(2-c)「Oxime esters of formulae I, II and III are prepared by methods described in the literature, for example by reaction of the corresponding oximes with an acyl chioride or an anhydride in an inert solvent such as for example t-Butyl methyl ether, tetrahydrofuran(THF) or dimethylformamide in the presence of a base,for exampkle triethylamine or pyridine, or in a basic solvent such as pyridine.

O-H Cl-R_(1) O-R_(1)
│ or │
N R_(1)-O-R_(1) N ? ? Ar_(1)-C-R_(2) ───────→ Ar_(1)-C-R_(2) base (I)

Such reactions are well known to those skilled in the art, and are generally carried out at temperatures of -15 to +60℃, prefarably 0 to 25℃.」(公報第20頁第21行?末行)[式I、IIおよびIIIのオキシムエステルは、文献に記載された方法によって、例えば、塩基、例えばトリエチルアミンまたはピリジンの存在下での、例えばtert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)もしくはジメチルホルムアミドのような不活性溶媒中でか、或いはピリジンのような塩基性溶媒中での、対応するオキシムとアシル塩化物または無水物との反応によって製造される。・・・(中略)・・・
そのような反応は、当業者には周知であり、一般的には、-15?+50℃、好ましくは0?25℃の温度で実施される。]

(2-d)甲第1号証の第73頁ないし第75頁にかけて記載されている、実施例25ないし実施例31は、いずれも上記(2-c)において下線を付したAr_(1)がベンゾカルバゾール環であるオキシムエステル系化合物であって、本件発明1で規定している一般式(6)に含まれるものである。
そして、実施例29は、以下に示すものであって、本件特許明細書に記載の本件発明の実施例において、使用されている光重合開始剤(チバ・スペシャルティーケミカル社製 CGI-242)である。(ただし、下図におけるベンゾカルバゾール環のNにC_(2)H_(5)が結合しているものとして記載されている。)

上記のことから、甲第1号証には、カラーフィルタのブラックマトリックスを形成するのに用いられる光重合性組成物における光重合開始剤として、ベンゾカルバゾール環を有するオキシムエステル系化合物を好適に使用できることが記載されている。
また、本件特許明細書に記載の本件発明の実施例において使用されている光重合開始剤も記載されている。

(3)甲第2号証に記載されている事項(下線は当審で付与。)
(3-a)「This article relates to photosensitive compositions comprising a ketoxime-ester as radical generating compound upon irradiation to UV and /or visible radiation for manufacturing of color filters.
The subject compositions contain a)ketoxime-ester selected from the compounds shown in formula(I), b)one or more radically polymerizable ethylenically unsaturated compound(s), c)colorant(s),and a binder resin.
Color filters are usually employed in the manufacturing of flat panel displays such as liquid crystal display, plasma display panel and electroluminescence display, and image sensors such as CCD (Charge Coupled Device) and CMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor) sensors for scanner, digital camera and video camera.
The color filters are usually prepared by forming red, green and blue pixels and a black matrix on a glass substrate. ・・・. Thus by subsequently applying red, green and blue pixels and a black matrix, in any desired order, on top of each other with this process a color filter layer with red, green and blue color pixels and black matrix can be produced.
Strong demands for photosensitive compositions with higher performance for manufacturing of color filters are still existing to improve productivity and to improve the performance of final devices.
The subject compositions exhibit high sensitivity, low oxygen inhibition, high resolution, high thermal stability and high reproducibility of desired pattern shape. Therefore, the compositions are highly suitable for manufacturing color filters.」(甲第2号証プリント頁1)

(3-b)「Specific examples of compounds of the formula(I), which are especially useful in the above-described formulations are:
(1)1-{9-Ethyl-6-(2-methyl-benzoyl)-9.H.-carbazol-3-yl}-ethanone-O-acetyl-oxime:
(2)・・・
In particular suitable is compound (1): [図面省略]」(甲第2号証プリント頁3)
甲第2号証に記載されている上記「compound(1)」は、その図面を参照すると、甲第1号証の実施例29、及び、本件特許明細書中における本件発明の実施例において使用されている光重合開始剤(チバ・スペシャルティーケミカル社製 CGI-242)と全く同じものであることがわかる。

上記摘記事項を勘案すると、甲第2号証には、カラーフィルタのブラックマトリックスを形成するために用いられる光重合性組成物に含有させる光重合開始剤として、「感度」、「解像性」などの点において、本件特許明細書中の本件発明の実施例1、実施例2において使用されているもの(チバ・スペシャルティーケミカル社製 CGI-242)が特に適していることが記載されている。

(4)光重合性組成物中の光重合開始剤についての周知の技術的事項
カラーフィルターのブラックマトリックスを形成するために用いられる、「黒色色材、有機結合材、光重合開始剤及び塩基性官能基を有する高分子分散剤を含有する光重合性組成物」に含有させる光重合開始剤として、「感度」、「解像性」、「現像性」、「密着性」等の性能が良いものを選択して使用する必要があることは、甲第3号証(段落【0025】)や、甲第5号証(段落【0018】)、甲第6号証(段落【0026】)、甲第8号証(段落【0044】)の他に、例えば特開平11-305425号公報(段落【0013】)、特開平11-327127号公報(段落【0013】)に記載されているように、本件出願前に周知の技術的事項である。

1.1 本件発明1について
(1)本件発明1(前者)と甲第3号証第1発明(後者)の対比
両者は、
「(a)黒色色材、(b)有機結合材、(c)光重合開始剤及び(e)塩基性官能基を有する高分子分散剤を含有する光重合性組成物であって、(b)有機結合材がカルボキシル基を有するエポキシアクリレート樹脂である光重合性組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(1-1)相違点
前者が含有する光重合開始剤は一般式(6)で示されるオキシムエステル系化合物であるのに対して、後者が含有する光重合開始剤は、感度、解像性、現像性、密着性に優れた性能を示すビイミダール誘導体である点。

(2)相違点についての判断
前記「1.(2)」で指摘したように、甲第1号証には、「(a)黒色色材、(b)有機結合材、(c)光重合開始剤」を含む光重合性組成物における光重合開始剤として、一般式(6)で示されるベンゾカルバゾール環を有するオキシムエステル系化合物に属するものを含有するものが好適に使用できることが複数の実施例とともに記載されているのみならず、本件特許明細書における本件発明の実施例1と実施例2において使用されている光重合開始剤(チバ・スペシャルティーケミカル社製 CGI-242)が、実施例29として記載されている。
また、前記「1.(3)」で指摘したように、甲第2号証には、カラーフィルタのブラックマトリックスを形成するために用いられる光重合性組成物に含有させる光重合開始剤として、甲第1号証における実施例29と全く同じであり、本件発明の実施例において使用されている光重合開始剤(チバ・スペシャルティーケミカル社製 CGI-242)を使用することが特に好適であることが記載されている。
そしてまた、前記「1.(4)」で指摘したように、カラーフィルターのブラックマトリックスを形成するために用いられる、「黒色色材、有機結合材、光重合開始剤及び塩基性官能基を有する高分子分散剤を含有する光重合性組成物」に含有させる光重合開始剤として、「感度」などの性能が特に良いものを選択して使用する必要があることは、本件出願前に周知の技術的事項である。
ところで、本件発明1の一般式(6)は、広範なベンゾカルバゾール環を有するオキシムエステル系化合物を包含するものであるが、本件特許明細書には、本件発明の実施例としては特定の光重合開始剤(チバ・スペシャルティーケミカル社製 CGI-242)を用いた唯一の実験例しか記載されておらず、一般式(6)で表される他のベンゾカルバゾール環を有するオキシムエステル系化合物を用いた場合にも同様の効果を奏することについて示されていないし、一般式(6)を用いて光重合開始剤を広範に規定したことに格別の技術的意義を認めることもできない。
してみると、甲第3号証第1発明の光重合性組成物における光重合開始剤として、感度、解像性、現像性、密着性に優れた性能を示すビイミダゾール誘導体を含有させる代わりに、ブラックマトリックスを形成する場合に光重合開始剤として性能が優れたものとされる甲第1号証に記載された発明に係るベンゾカルバゾール環を有するオキシムエステル化合物、または、甲第2号証に記載された発明に係るベンゾカルバゾール環を有するオキシムエステル化合物を含む、一般式(6)で規定される光重合開始剤を含有させることとして、相違点に係る構成を有する光重合性組成物を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、甲第3号証発明に係る光重合性組成物における光重合開始剤として、ビイミダゾール誘導体を含有させる代わりに、従来例と対比して性能が優れたものとされる甲第1号証に記載された発明または甲第2号証に記載された発明に係る特定の光重合開始剤が含まれる一般式(6)で表されるベンゾカルバゾール環を有するオキシムエステル系化合物を含有させることにより、優れた特性を有する光重合性組成物が得られることは、当業者が容易に予測することができることである。

(3)まとめ
したがって、本件発明1は、甲第3号証第1発明、甲第1号証に記載された発明または甲第2号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1.2 本件発明2について
本件発明2と甲第3号証第2発明とを対比すると、上記(1-1)の相違点と同様の点のみにおいて相違する。
してみると、本件発明2は、上記「1.1」で指摘したのと同様の理由により、甲第3号証第2発明、甲第1号証に記載された発明または甲第2号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1.3 本件発明3について
本件発明3と甲第3号証第3発明とを対比すると、上記(1-1)の相違点と同様の点のみにおいて相違する。
してみると、本件発明3は、上記「1.1」で指摘したのと同様の理由により、甲第3号証第3発明、甲第1号証に記載された発明または甲第2号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1.4 本件発明4について
本件発明4と甲第3号証第4発明とを対比すると、上記(1-1)の相違点と同様の点のみにおいて相違する。
してみると、本件発明4は、上記「1.1」で指摘したのと同様の理由により、甲第3号証第4発明、甲第1号証に記載された発明または甲第2号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1.5 本件発明5について
本件発明5と甲第3号証第5発明とを対比すると、上記(1-1)の相違点と同様の点のみにおいて相違する。
してみると、本件発明5は、上記「1.1」で指摘したのと同様の理由により、甲第3号証第5発明、甲第1号証に記載された発明または甲第2号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1.6 本件発明6について
本件発明6と甲第3号証第6発明とを対比すると、上記(1-1)の相違点と同様の点のみにおいて相違する。
してみると、本件発明6は、上記「1.1」で指摘したのと同様の理由により、甲第3号証第6発明、甲第1号証に記載された発明または甲第2号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1.7 小括
上述した理由により、本件の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に係る本件発明1ないし本件発明6は、甲第3号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明またはは甲第2号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求人が主張する無効理由1には理由がある。

2.無効理由2について
(2-1)実施例2の説明と表1の記載との整合性について
請求人は、本件特許明細書における実施例2の説明と表1の記載とが整合していない旨主張しているが、表1には、実施例2は有機結合剤として合成例2を用いたことが示されており、被請求人のいうように、合成例2は、実施例1における合成例3の無水フタル酸の含有量が63gであるのを42gとしたものであることは、本件特許明細書の段落【0096】、【0097】の記載から明らかであるから、実施例2の説明と表1の記載とが整合していないとすることはできない。

(2-2)効果について
上記「1.(3)」で指摘したように、カラーフィルターのブラックマトリックスを形成するために用いられる、「黒色色材、有機結合材、光重合開始剤及び塩基性官能基を有する高分子分散剤を含有する光重合性組成物」において、光重合開始剤として「感度」、「解像性」、「現像性」、「密着性」等の性能が良いものが求められていることは、本件出願前に周知の技術的事項である。
そして、甲第1号証または甲第2号証には、上記「1.(2)」や「1.(3)」で示したように、カラーフィルターのブラックマトリックスを形成するために用いられる光重合性組成物において、ベンゾカルバゾール環を有するオキシムエステル系化合物がとりわけ有利であることが記載されているのである。
してみると、本件特許明細書の特許請求の範囲における一般式(6)を満たす全ての光重合開始剤が本件特許発明の実施例として記載されているのと同様の優れた特性を有するかどうかが示されていないとしても、従来技術に対し、ある程度の効果を有するものとすることはできないことではない。
したがって、本件特許明細書に実施例として記載されているのが、実施例1と実施例2だけであって、本件特許発明の効果が得られることを当業者において認識できる程度の具体例の開示がなされていないので、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとすることはできない。

(2-3)小括
以上述べた理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないという理由により、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものとすることはできない。
したがって、請求人が主張する無効理由2には理由がない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし本件発明6は、請求人の主張する無効理由1のとおり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
したがって、本件発明1ないし本件発明6に係る特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第162条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-28 
結審通知日 2008-05-30 
審決日 2008-06-13 
出願番号 特願2005-236675(P2005-236675)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (G03F)
P 1 113・ 536- Z (G03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中澤 俊彦  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 伏見 隆夫
淺野 美奈
登録日 2005-12-22 
登録番号 特許第3754065号(P3754065)
発明の名称 光重合性組成物及びこれを用いたカラーフィルター  
代理人 大野 聖二  
代理人 萼 経夫  
代理人 田上 明夫  
代理人 片山 健一  
代理人 中村 壽夫  
代理人 舘石 光雄  
代理人 森 則雄  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 高 昌宏  
代理人 小野塚 薫  
代理人 加藤 勉  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ