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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29B
管理番号 1181996
審判番号 不服2006-6451  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-06 
確定日 2008-07-24 
事件の表示 平成 8年特許願第535559号「スチレン系樹脂の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月28日国際公開、WO96/37353〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年(1996年)5月23日(優先権主張:平成7年(1995年)5月26日,日本)を国際出願日とする出願であって、平成17年11月10日付けで拒絶理由通知がなされ、平成18年1月16日に意見書が提出されたが、平成18年2月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年5月18日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、当審において平成20年3月7日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月10日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年4月10日付け手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項で特定される次のとおりのものである。
「シンジオタクチック構造を有し、重量平均分子量が10000以上3000000以下であるスチレン系重合体粉末を、ベント内圧力が0?760torrである一つ又は複数のベントを有する押出機を用い、成形温度が該重合体の融点乃至400℃の温度下で造粒し、下記の関係式を満足することを特徴とするスチレン系樹脂の製造方法。
Q/(D×H×V)=2.0×10^(4)?6.0×10^(5)(式中、Qは押出量(kg/h),Dはスクリュー径(m),Hはスクリュー溝深さ(m),Vはスクリュー周速(m/秒)である。)」

2.当審において通知した拒絶理由
当審における平成20年3月7日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1及び2は、概略、以下のとおりである。
「理由1:本願請求項1?8に係る発明の発明特定事項である「Q/(D×H×V)」の値を「2.0×10^(4)?6.0×10^(5)」に設定・調整する手段が、発明の詳細な説明に具体的に開示されているとはいえないから、本願請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認めることができない。
したがって、本件出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2:本願請求項1?8に係る発明における「Q/(D×H×V)」の値を「2.0×10^(4)?6.0×10^(5)」に設定・調整する手段に関して、発明の詳細な説明に、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるとはいえない。
したがって、本件出願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」

3.本願明細書の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載が認められる。
「次に、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明する。
実施例1
重量平均分子量330000,平均粒径160μm,残留モノマーとしてスチレンを湿潤基準で30重量%含むシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体パウダーを、日本製鋼所(株)製二軸押出機〔TEX44-XCT(L/D=38.5,D=47mm,H=9.0mm,ベント数=2)〕を用い、シリンダー温度290℃、成形温度300?320℃、第一ベント内圧力200torr、第二ベント内圧力20torr、スクリュー周速0.5m/s(同回転方向)、押出量=28kg/hの条件で脱揮・造粒を行った。Q/(D×H×V)は1.32×10^(5)であり、剪断応力は2×10^(4)Paであった。
ペレット状として回収されたポリマー中の残留モノマー量をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、900ppmのスチレンモノマーを含んでいた。
実施例2及び3
実施例1において、原料中の未反応モノマー量をそれぞれ、1.8重量%、1000ppmとし、押出量=55kg/hとした以外は同様にして脱揮・造粒を行った。得られたペレット中の残留モノマー量は第1表に示す通りであった。Q/(D×H×V)は2.60×10^(5)であり、剪断応力は3.5×10^(4)Paであった。
比較例1
実施例1において、原料中の未反応モノマー量を37重量%とし、押出量=200kg/hとした以外は同様にして脱揮・造粒を行った。得られたペレット中の残留モノマー量は第1表に示すとおりであった。Q/(D×H×V)は9.46×10^(5)であった。」(段落【0024】?【0026】)

4.合議体の判断
本願発明における、「Q/(D×H×V)=2.0×10^(4)?6.0×10^(5)」との式(以下、「式1」という。)についての発明の詳細な説明の記載をみると、上記のように、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例1には、「Q/(D×H×V)」の値がそれぞれ、1.32×10^(5)、2.60×10^(5)、2.60×10^(5)及び9.46×10^(5)であり、「Q:押出量(kg/h)」がそれぞれ、28、55、55及び200であるとのデータが示されている。
これらのデータからみて、「Q/(D×H×V)」と「Q」との間には、ほぼ比例関係が認められ、「D×H×V」の値はほぼ一定といえるから、「D:スクリュー径(m)」及び「H:スクリュー溝深さ(m)」の値が用いる押出機において固定値であることを考慮すれば、各実施例及び比較例の「V:スクリュー周速(m/秒)」は、互いに実質上、相違がないものというほかはない。
そうすると、上記各実施例及び比較例における「Q:押出量(kg/h)」の相違は、「V:スクリュー周速(m/秒)」以外の要素によってもたらされたものということになるが、発明の詳細な説明の記載からみても、その要素が如何なる操作条件又は手段であるのか、一切不明である。
この点について請求人は、平成20年4月10日に提出した意見書において、以下のとおり主張している。
ア.「(拒絶理由通知書には)本願発明には「Q/(D×H×V)」が上記範囲に設定・調整する手段が具体的には提示されていないと述べられており、例えは(註:「例えば」の誤記と解される。)実施例1?3および比較例において原料の未反応モノマー量を変化させたのみで、押出量Qが、28,55,55,200と変化していますが、これは、未反応モノマー量の異なる原料を選択して使用したことによるものです。」(第2頁24?28行)
イ.「押出量は、任意に変えることが可能であり、それぞれ28,55などに設定した数値です。」(第2頁28?29行)
そこで、これらの主張について検討すると、上記主張ア.は、「V:スクリュー周速(m/秒)」が一定であっても、「未反応モノマー量の異なる原料を選択して使用」すると、「原料の未反応モノマー量」に応じて、押出機の「押出量Q」の値が変化して定まるとの趣旨であると解される。
しかしながら、請求人は、「原料の未反応モノマー量」の変化に応じて式1の関係を満足するように「押出量Q」が自動的に定まるというのか、又は、「押出量Q」について未反応モノマー量に対応した何らかの設定・調整を行うのかについて、具体的には何も説明していないので、上記主張ア.の趣旨を理解することができない。
しかも、実施例2及び3は、原料の未反応モノマー量を「1.8重量%」及び「1000ppm」という異なった値に設定した例であるが、いずれも「押出量=55kg/hとした」ものであり、つまり、「押出量」に何ら相違がないことから、請求人の上記主張ア.は、上記「実施例1」ないし「比較例1」の記載により具体的に裏付けられているものではない。
更に、本願発明は、請求項1に記載のとおりに、諸条件を設定し式1の関係を満足することにより、「シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体粉末中に残留するモノマー等の揮発成分を、造粒時に経済的にかつ効率よく低減させ、残留揮発成分が少なく、造粒・成形時の悪臭等を防止し、良好な形状の成形用材料を効率よく安定して製造することが出来る方法」(本願明細書、段落【0007】)であると解されるのであり、「原料の未反応モノマー量」自体をその発明特定事項としているものではないから、本願発明の実施に際し、「原料の未反応モノマー量」に依存して、諸条件を変更する旨の上記主張ア.は、特許請求の範囲の記載に基かないものである。
次に、上記主張イ.は、「原料の未反応モノマー量」に関係なく、「押出量」を任意に変更・設定することができるとの趣旨と解されるから、該主張イ.と上記主張ア.とは互いに矛盾しており、論理的にみて破綻している。そして、具体的にはどのようにして「押出量」を任意に変更・設定することができるものかについては、何も説明されていない。
したがって、請求人の上記主張を検討しても、発明の詳細な説明の実施例1?3及び比較例1における、「Q:押出量(kg/h)」の相違が、「V:スクリュー周速(m/秒)」の設定によらず、何の条件・手段を変更した結果によるものであるのかは、依然として明らかではない。
なお、請求人は、平成18年1月16日に提出した意見書において、「シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体粉末は、上記のように圧縮変動性に富む粉末ですので、単に押出機の回転数を制御すれば押出量が決定されるものではなく、たとえば押出機の下流側にギアポンプを設置するなどして、時間当たりの実質押出量Q(kg/h)や理論押出量(D×H×V)が制御されます。」(第2頁末行?第3頁4行)と述べているが、ギアポンプを使用していない実施例1?3及び比較例1においても「Q:押出量(kg/h)」に相違が生じており、本願明細書には、「たとえば」とされるギアポンプ以外のものは何ら具体的に示されていない以上、このような説明によっても、Qを変化させる手段は明らかでない。

よって、本願発明の発明特定事項である式1の「Q/(D×H×V)」が「2.0×10^(4)?6.0×10^(5)」の範囲となるようにQ値を設定、調整する手段が、発明の詳細な説明に具体的に開示されているとはいえないから、本願明細書の発明の詳細な説明が、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。

5.むすび
以上のとおりであるので、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-23 
結審通知日 2008-05-27 
審決日 2008-06-09 
出願番号 特願平8-535559
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B29B)
P 1 8・ 537- WZ (B29B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 晋也  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 宮坂 初男
山本 昌広
発明の名称 スチレン系樹脂の製造方法  
代理人 大谷 保  

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