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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1182034
審判番号 不服2005-23048  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-30 
確定日 2008-07-31 
事件の表示 平成 8年特許願第248224号「反射防止性透明基板及びその用途」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月 7日出願公開、特開平10- 86286〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年9月19日の出願であって、平成17年3月10日付け及び平成17年6月20日付けで手続補正がなされたところ、平成17年10月20日付けで平成17年6月20日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年11月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成17年12月28日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年12月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年12月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
平成17年12月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲、
「【請求項1】透明基板(1)の片面に熱融着法によって接着したプラスチックフィルム層(2)を有し、そのプラスチックフィルムの表面に反射防止層(3)が形成されている反射防止性透明基板であって、
プラスチックフィルムは、表面に無機物質の蒸着により、あるいはフッ素系化合物またはシラン化合物の薄膜により、可視光波長と同じ厚さもしくはそれ以下の厚さの反射防止層を形成したものであり、
プラスチックフィルム層は、表面に反射防止層を形成したプラスチックフィルムが透明基板に、透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上であって、反射防止層に影響を及ぼさない温度、かつ透明基板の形状や光学特性に実質上障害になる変化を及ぼさない圧力における、加熱圧着ローラーによる熱融着により形成されたものである
ことを特徴とする反射防止性透明基板。
【請求項2】透明基板(1)の両面に熱融着法によって接着したプラスチックフィルム層(2)を有し、そのプラスチックフィルムの表面に反射防止層(3)が形成されている反射防止性透明基板であって、
プラスチックフィルムは、表面に無機物質の蒸着により、あるいはフッ素系化合物またはシラン化合物の薄膜により、可視光波長と同じ厚さもしくはそれ以下の厚さの反射防止層を形成したものであり、
プラスチックフィルム層は、表面に反射防止層を形成したプラスチックフィルムが透明基板に、透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上であって、反射防止層に影響を及ぼさない温度、かつ透明基板の形状や光学特性に実質上障害になる変化を及ぼさない圧力における、加熱圧着ローラーによる熱融着により形成されたものである
ことを特徴とする反射防止性透明基板。
【請求項3】請求項1または2に記載される反射防止性透明基板が前面に装着されていることを特徴とする画像表示装置。」
を、
「【請求項1】画像表示装置の画像表示面の前面に間隔を空けて配置される画像表示装置用反射防止性透明基板であって、
透明基板(1)の両面に熱融着法によって接着したプラスチックフィルム層(2)を有し、そのプラスチックフィルムの表面に反射防止層(3)が形成されている反射防止性透明基板であり、
プラスチックフィルムは、表面に多官能(メタ)アクリル系フッ素化合物を均一に塗布後、硬化して得られる薄膜により、可視光波長と同じ厚さもしくはそれ以下の厚さの反射防止層を形成したものであり、
プラスチックフィルム層は、透明基板の両面に、表面に反射防止層を形成したプラスチックフィルムが、反射防止層に影響を及ぼさず、かつ透明基板の形状や光学特性に障害になる変化を及ぼさない状態に、加熱圧着ローラーにより熱融着されることにより形成されたものである
ことを特徴とする画像表示装置用反射防止性透明基板。
【請求項2】請求項1に記載される反射防止性透明基板が画像表示面の前面に間隔を空けて装着されていることを特徴とする画像表示装置。」
と補正することを含むものである。

(2)補正の適否
ア 新規事項について
補正後の請求項1は、「多官能(メタ)アクリル系フッ素化合物を均一に塗布後、硬化して得られる薄膜」により反射防止層を形成したものであるところ、願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書」という。)には、反射防止層について、段落【0009】に「テトラ(メタ)アクリル酸-4,4,5,5,-テトラフルオロオクタン-1,2,7,8-テトラオール、・・・、ジ(メタ)アクリル酸-2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11-エイコサフルオロドデカンジオールなどのフッ素系化合物」と記載されるのみであって、「多官能(メタ)アクリル系フッ素化合物」は記載されておらず、当初明細書の他の箇所を参照しても、「多官能(メタ)アクリル系フッ素化合物」という概念の技術思想は何等示されていないものであり、また、このことは当初明細書の記載から自明でもない。
そうすると、この補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではないので、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。

イ 目的要件について
補正前の請求項1は「透明基板の片面に熱融着法によって接着したプラスチックフィルム層を有するもの」であり、同請求項2は「透明基板の両面に熱融着法によって接着したプラスチックフィルム層を有するもの」であるところ、補正後の請求項1は「透明基板の両面に熱融着法によって接着したプラスチックフィルム層を有するもの」であるから、本件補正により、補正前の請求項1は削除され、補正前の請求項2及び3は、それぞれ、請求項1及び2に補正されたものと認める。
イ-1 補正前の請求項2の「反射防止性透明基板」を、補正後の請求項1の「画像表示装置の画像表示面の前面に間隔を空けて配置される画像表示装置用反射防止性透明基板」と補正する点について検討する。
補正前の請求項2には、画像表示面にどのように反射防止性透明基板を配置するかについては何等特定されていないので、「画像表示面の前面に間隔を空けて配置される」とする補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定することを目的とするものではない。
また、この補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反する。
イ-2 補正前の請求項2の「透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上であって、反射防止層に影響を及ぼさない温度、かつ透明基板の形状や光学特性に実質上障害になる変化を及ぼさない圧力における、加熱圧着ローラーによる熱融着により」を、補正後の請求項1の「反射防止層に影響を及ぼさず、かつ透明基板の形状や光学特性に障害になる変化を及ぼさない状態に、加熱圧着ローラーにより熱融着されることにより」と補正する点について検討する。
この補正により明りょうでない記載が明りょうになったものともいうことができないうえ、補正前の熱融着条件から「透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上であって、」なる条件を削除することは、特許請求の範囲の拡張であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正を目的とするものでもない。
したがって、この補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反する。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び平成18年改正前特許法第4項の規定に違反するから、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成17年12月28日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成17年3月10日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「透明基板(1)の片面に熱融着法によって接着したプラスチックフィルム層(2)を有し、そのプラスチックフィルムの表面に反射防止層(3)が形成されている反射防止性透明基板であって、
プラスチックフィルムは、表面に無機物質の蒸着により、あるいはフッ素系化合物またはシラン化合物の薄膜により、可視光波長と同じ厚さもしくはそれ以下の厚さの反射防止層を形成したものであり、
プラスチックフィルム層は、表面に反射防止層を形成したプラスチックフィルムが透明基板に、透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上であって、反射防止層に影響を及ぼさない温度、かつ透明基板の形状や光学特性に実質上障害になる変化を及ぼさない圧力における、加熱圧着ローラーによる熱融着により形成されたものである
ことを特徴とする反射防止性透明基板。」

4.原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は、
(1)この出願は、発明の詳細な説明の記載が不備のため特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(以下、「理由1」という。)、
(2)本願発明1は、その出願前国内において頒布された下記刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下、「理由2」という。)、
という理由を含むものである。

刊行物1:特開平6-270366号公報
刊行物2:特開平8-12250号公報

5.理由1について
本願発明1においては、「プラスチックフィルムが透明基板に、透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上」である加熱圧着ローラーにより熱融着されたものであることが特定されている。
ところで、当業者がその発明を実施できる程度に発明の詳細な説明の項の記載が明確かつ十分に記載されているというためには、実施例としては、少なくとも発明を特定している条件が満たされていることを具体的に示すことが必要であるが、本願明細書の実施例1-1?1-3(段落【0013】?【0015】)においては、加熱圧着ローラーの温度は150℃と記載されているものの、透明基板及びプラスチックフィルムについては、「アクリル板」、「アクリルフィルム」、「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム」と記載されているだけであって、アクリル板及びアクリルフィルムについては、それらの素材であるアクリル樹脂の融点や、融点を推定させるアクリル樹脂の商品名や組成や分子量等も記載されておらず、また、アクリル樹脂には広範囲のものが含まれるので、「透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上」である加熱圧着ローラーにより熱融着されているかどうか不明であり、実施例の記載は当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
また、【表1】(段落【0017】)には、実施例1-1のフィルム素材として「ポリメチルメタクリレート」が記載されており、この「ポリメチルメタクリレート」がメタクリル酸メチルのホモポリマーを意味しているのか、コポリマーを意味しているのか明らかではないが、代表的なポリメチルメタクリレートは、非晶性であって、融点を有しないので、実施例1-1においては、プラスチックフィルムが融点を有しないため、加熱圧着ローラーの温度がプラスチックフィルムの融点以上という特定条件を満たしていないと解されるので、実施例1-1は本願発明1の実施例ではない。
さらに、実施例1-2及び1-3で用いられているプラスチックフィルムである「ポリエチレンテレフタレート」の融点は、250?260℃位であり、加熱圧着ローラーの温度の150℃より高いので、加熱圧着ローラーの温度がプラスチックフィルムの融点以上という特定条件を満たしていないことは明らかである。したがって、その意味でも、本願発明1の実施例は記載されていないことになり、実施例の記載は当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確、かつ十分に記載されていない。
したがって、いずれにしても、この出願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

6.理由2について
(1)引用された刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開平6-270366号公報
(1-1)「上面に表面処理が施された樹脂フィルムを、該樹脂と同じ樹脂からなる樹脂板上に重ね合わせ、熱圧着して貼合することを特徴とする表面処理層を有する樹脂板の製造方法。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
(1-2)「ハードコート、ノングレアハードコート、防曇コート等の表面処理が施された樹脂板は、窓、カウンタ-で使用される防犯板、ディスプレイの反射防止用フィルタ-等として広く用いられている。」(段落【0002】)
(1-3)「樹脂フィルムとしては、例えば、アクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、ポスチレン樹脂フィルム、ABS樹脂フィルム等の透明な熱可塑性樹脂からなるフィルムが挙げられる。樹脂板としては、上記に対応する熱可塑性樹脂からなる樹脂板、即ち、アクリル樹脂板、ポリカーボネート樹脂板、ポスチレン樹脂板、ABS樹脂板等が挙げられる。」(段落【0004】)
(1-4)「樹脂フィルムの上面に施される表面処理のタイプとしては、ハードコート、ノングレアハードコート、帯電防止ハードコート、防曇コート、汚染防止コート及び反射防止コート等が挙げられ、用途に応じて適宜選択される。処理を施すにあたっては公知の方法を用いることができる。」(段落【0008】)
(1-5)「上面に表面処理が施された樹脂フィルムを、樹脂板上に重ね合わせ、熱圧着することにより樹脂フィルムと樹脂板は貼合される。上面に表面処理が施された樹脂フィルムと樹脂板を熱圧着し貼合する方法としては、
・加熱加圧プレスにより圧着貼合する方法、
・加熱ロールにより圧着貼合する方法、
・押出機より押し出された予熱を有する樹脂板に樹脂フィルムを重ね、これをロールに挟み込むことにより連続して圧着貼合する方法
等が挙げられる。」(段落【0009】)
(1-6)「【発明の効果】本発明によれば、樹脂板へ処理剤を塗布する工程や樹脂板を処理剤に浸漬する工程が不要であり、大がかりな設備を用いることなく、品質が良好な表面処理層を有する樹脂板を工業的に生産することができる。」(段落【0010】)

また、周知技術を示すために、次の参考文献1?4を挙げる。
参考文献1:特開昭62-148902号公報
「基材上に設けられた表層膜が無機物からなる単層または多層の反射防止膜で形成され、さらにその表面に有機物含有硬化性物質が形成され、該光学物品の表面反射率が3パーセント以下、かつ水に対する静止接触角が60度以上であることを特徴とする反射防止性を有する光学物品」(特許請求の範囲第1項)
「また、表層膜の膜厚は反射防止効果以外の要求性能によってそれぞれ決められるべきものであるが、とくに反射防止効果を最大限に発揮させる目的には表層膜の光学的膜厚を対象とする光波長の1/4ないしはその奇数倍に選択することが極小の反射率すなわち極大の透過率を与えるという点から好ましい。ここで光学的膜厚とは被膜形成材料の屈折率と該被膜の膜厚の積で与えられるものである。」(第6頁右下欄第1?9行)
「(3)反射防止膜の作製 前記(2)によって得られたコーティング樹脂の上に無機物質のZrO_(2)/TiO_(2)/Y_(2)O_(3) 、Ta_(2)O_(5) 、SiO_(2)を真空蒸着法でこの順序にそれぞれ光学的膜厚をλ/4(λは540nm)に設定して、レンズの両面に多層被覆させた。」(第11頁左上欄第14?19行)

参考文献2:特開昭61-120743号公報
「透明なアクリル樹脂層の少なくとも片表面にフッ化ビニリデンを主体とする重合体の反射防止膜が積層されており、反射防止層がアクリル樹脂層と共に延伸された透明な層であることを特徴とするシート状成形品。」(特許請求の範囲第1項)
「反射防止層2の厚さtは、やはり良好な反射防止効果を得る上で1μ以下、特に0.07?0.50μであることが好ましく、反射防止膜として機能させるために理想的にはt=λ/(4・η2)(λは可視光線の波長、η2は反射防止層2を構成するVdF系重合体の屈折率)を満たすことが好ましい。」(第4頁左下欄第16行?同頁右下欄第1行)

参考文献3:特開昭64-1527号公報
「屈折率が1.52以上のハードコート被膜を有するプラスチック製透明基材の表面に膜厚が10?500nm、屈折率が該被膜より少なくとも0.02以上低いフッ素含有有機ポリシロキサン系薄膜を有することを特徴とする反射防止性物品。」(特許請求の範囲第1項)
「フッ素含有有機ポリシロキサン系薄膜が下記一般式(I)で表されるフッ素含有有機ケイ素化合物および/またはその加水分解物の重合体であることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載の反射防止物品。
(R^(1)Q)SiX_(a)Y_(3-a) (I)
(ここで、R^(1)は炭素数1?20個のフッ素含有アルキル基であってエーテル結合あるいはエステル結合を1個以上含んでいてもよい。Qは二価の有機基、Xは低級アルキル基、Yはハロゲン、アルコキシ基、又はRCOO-基(ただし、Rは水素原子又は低級アルキル基、aは0または1の整数を表す。)(特許請求の範囲第2項)

参考文献4:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 2」第375頁「可視光線」の項(1993年6月1日 縮刷版第34刷、共立出版株式会社発行)
「電磁波のうち人間の目に色彩を感じさせるものが可視光線で,通常7800?3800Åの波長をもつ光線をいうが,この色感を感じる範囲は人によって多少異なる.」

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「上面に表面処理が施された樹脂フィルムを、該樹脂と同じ樹脂からなる樹脂板上に重ね合わせ、熱圧着して貼合することを特徴とする表面処理層を有する樹脂板の製造方法」(摘示(1-1))が記載され、「表面処理」には「反射防止コート」等が含まれ(摘示(1-2)、(1-4))、「樹脂フィルム」として「透明な熱可塑性樹脂からなるフィルム」が挙げられ(摘示(1-3))、「樹脂フィルムと樹脂板を熱圧着し貼合する方法」としては、「加熱ロールにより圧着貼合する方法」があり(摘示(1-5))、刊行物1には、刊行物1に記載された製造方法により製造された樹脂板についても記載されているから、刊行物1には、
「上面に反射防止コートがされた透明な熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムを、該樹脂と同じ樹脂からなる透明な熱可塑性樹脂からなる樹脂板上に重ね合わせ、加熱ロールにより熱圧着して貼合した反射防止層を有する樹脂板」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3)対比
両者ともに、「透明板の片面に、フィルム層を有し、該フィルムの表面に反射防止層が形成されている反射防止透明板」であって、引用発明における「熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルム」は、本願発明1における「プラスチックフィルム」と同じものであり、引用発明においても「透明板」は「基板」として用いるものであり(摘示(1-2))、引用発明における「加熱ロール」は、「熱圧着」に用いられるから、「加熱圧着ロール」といえ、「ロール」と「ローラー」は同義であり、本願発明1においても、加熱圧着ローラーを用いて接着しており、プラスチックフィルムと透明基板は熱圧着により接着されているといえるから、本願発明1と引用発明とは
「透明基板の片面に熱圧着法によって接着したプラスチックフィルム層を有し、そのプラスチックフィルムの表面に反射防止層が形成されている反射防止性透明基板であって、
プラスチックフィルムは、表面に反射防止層を形成したものであり、
プラスチックフィルム層は、表面に反射防止層を形成したプラスチックフィルムが透明基板に、加熱圧着ローラーによる熱圧着により形成されたものである
反射防止性透明基板」
の点で一致し、
(ア)透明基板とプラスチックフィルムの素材について、本願発明1においては、その素材が特定されていないのに対し、引用発明においては、その素材が「同じ樹脂からなるもの」と特定されている点、
(イ)反射防止層について、本願発明1においては、「無機物質の蒸着により、あるいはフッ素系化合物またはシラン化合物の薄膜により、可視光波長と同じ厚さもしくはそれ以下の厚さに形成したもの」であるのに対し、引用発明においては、反射防止層の材質や厚さについて特定されていない点、
(ウ)加熱圧着ローラーによる熱圧着が、本願発明1においては、透明基板とプラスチックフィルムとが「透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上であって、反射防止層に影響を及ぼさない温度、かつ透明基板の形状や光学特性に実質上障害になる変化を及ぼさない圧力」における、「熱融着」であるのに対し、引用発明においては、加熱圧着ローラーの温度・圧力条件、熱融着の有無について特定はされていない点、
で相違する。

(4)判断
相違点(ア)について
本願明細書の段落【0007】に、本発明に使用される透明基板の材質について、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレン等が例示され、段落【0008】に、本発明で使用されるプラスチックフィルムの材質として、ポリアクリル、ポリオレフィン、ポリカーボネート等が例示されており、また、段落【0013】には、透明基板及びプラスチックフィルムとして同じ樹脂からなる、アクリル板及びアクリルフィルムが用いられる旨、記載されているので、本願発明1においても、透明基板とプラスチックフィルムの素材として同じ樹脂からなるものを用いる態様を含んでいる。
したがって、この点は実質的な相違点ではない。

相違点(イ)について
引用発明において、摘示(1-4)に、反射防止コート等の「処理を施すにあたっては公知の方法を用いることができる」と記載されるところ、反射防止コートとして、無機物質の蒸着により形成すること、フッ素系化合物により形成すること、シラン化合物により形成すること等は周知であり(必要なら、参考文献1?3等参照)、かつ、反射防止層の厚さを可視光波長と同じ厚さもしくはそれ以下の厚さとすることも、普通に行われるところである(必要なら、参考文献2?4等参照)から、反射防止層の材質や厚みを本願発明1の範囲とすることに格別の創意を要したものとすることはできない。

相違点(ウ)について
物と物を熱圧着により接着するに際し、少なくとも一方が熱可塑性樹脂の場合、その少なくとも一方の樹脂が流動する条件下で圧着することが必要であるから、引用発明において、透明基板及びプラスチックフィルムの素材が融点を有する樹脂である場合、加熱圧着ローラーの温度を両者の融点以上とし、両者を溶融により流動させて圧着する、すなわち、融着により確実に接着することは当業者が普通に行うことといえる。
また、引用発明の樹脂板が、光学的物品に係るものであることからして、反射防止層に影響を及ぼさない温度、かつ透明基板の形状や光学特性に実質上障害になる変化を及ぼさない圧力において、加熱圧着を行うことは当業者が当然なすべきことである。
そうしてみると、透明基板とプラスチックフィルムとを確実に張り合わせるために、透明基板およびプラスチックフィルムの素材の融点以上になるようにして、加熱圧着ローラーにより熱融着し、かつ、反射防止層に影響を及ぼさない温度と透明基板の形状や光学特性に実質上障害になる変化を及ぼさない圧力でこれを行う程度のことは、製造される基板の性状を考慮すれば、当業者なら、当然に導く範囲のものである。
したがって、相違点(ウ)も、当業者の適宜なし得るところである。

本願発明1の効果について
本願発明1の奏する効果は、明細書の段落【0019】に記載されるように、「製造が容易であり、かつ高い反射防止能を有している。更に本発明の反射防止性透明基板をCRT、LCD、PDPなどの電子画像表示装置の前面に装着することにより、簡便に反射防止能を付与した電子画像表示装置を得ることができる。」というものであるところ、引用発明においても、本願発明1と同様に、「大がかりな設備を用いることなく、品質が良好な表面処理層を有する樹脂板を工業的に生産することができる」(摘示(1-6))のであるから、本願発明1の奏する効果が、引用発明の奏する効果に比して、格別顕著であるということはできない。

(5)請求人の主張
請求人は、本願発明1につき、平成17年3月10日付けの意見書において、「基材上の反射防止フィルムは3次元架橋した薄膜であり、加熱する温度があまり高いと基材の伸びに対して、架橋膜の伸びが追従できずにクラックが発生しやすくなります。その結果、白化や割れが起こりやすくなります。また、層間剥離の原因にもなります。逆に接着力が高く基材の伸びに架橋薄膜が追従した場合は、膜厚が変化して反射防止能が低下します。
本発明では、上記のように、プラスチックフィルムの表面に形成する反射防止層の材質、厚さ、形成方法等を特定のものに限定し、このように表面に反射防止層を形成したプラスチックフィルム層を透明基板の片面または両面に熱融着することにより、反射防止層付きプラスチックフィルムと透明基板が一体化した反射防止性透明基板とする際、反射防止層に影響を及ぼさない温度、かつ透明基板の形状や光学特性に実質上障害になる変化を及ぼさない圧力における、加熱圧着ローラーによる熱融着により一体化するため、製造が容易で優れた光学特性と高い反射防止能を有し、CRT、LCD、PDPなどの電子画像表示装置の前面に装着することにより、簡便に反射防止能を付与した電子画像表示装置を得ることができるなどの効果があります。このような効果は引用例1からは予測できない特別な効果であります。」(〔3〕本発明の特許性)と主張する。
しかしながら、反射防止フィルムが3次元架橋した薄膜であることは、本願発明1を特定するために必要な事項ではないため、この主張は採用できない。

(6)まとめ
本願発明1は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、この出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余のことを検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-28 
結審通知日 2008-06-03 
審決日 2008-06-18 
出願番号 特願平8-248224
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
P 1 8・ 572- Z (B32B)
P 1 8・ 561- Z (B32B)
P 1 8・ 536- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 康之平井 裕彰  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 安藤 達也
唐木 以知良
発明の名称 反射防止性透明基板及びその用途  
代理人 柳原 成  

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